AMD Ryzen Threadripper 2950X


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第2世代Ryzen Threadripperのハイエンドデスクトップ向けXシリーズ最上位モデルで16コア32スレッドの「Ryzen Threadripper 2950X」を管理人も購入したので、全コア4.2GHzへの手動オーバークロックや第2世代Ryzen&Ryzen Threadripperの最新機能「Precision Boost Overdrive」を使用したパフォーマンスアップについて紹介がてら簡単にレビューしておきます。
AMD Ryzen Threadripper 2950X 4.0GHz OC review_01824_DxO



AMD Ryzen Threadripper 2950Xの梱包・付属品

「AMD Ryzen Threadripper 2950X」の手動OCや「Precision Boost Overdrive」適用について解説する前に簡単に、梱包や付属品についてチェックしておきます。
「AMD Ryzen Threadripper 2950X」のパッケージは第1世代の立方体に近いやや縦長(背が高い)のパッケージから、薄くて横長(幅の広い)パッケージに変わりました。輸送コストや店舗での陳列的に第2世代のパッケージの方が優秀とのこと。
AMD Ryzen Threadripper 2950X 4.0GHz OC review_01813_DxOAMD Ryzen Threadripper 2950X 4.0GHz OC review_01812_DxO
第1世代ではパッケージからCPUを取り出すのも一苦労でしたが、「AMD Ryzen Threadripper 2950X」など第2世代Ryzen Threadripperでは、1.天面の紙製スリーブをカット、2.プラスチック窓のロックを外して開く、3.CPU本体収納の取り出し、の3ステップと簡単化されました。
AMD Ryzen Threadripper 2950X 4.0GHz OC review_01822_DxOAMD Ryzen Threadripper 2950X 4.0GHz OC review_01823_DxO
CPU本体が収められた収納ケースも「AMD Ryzen Threadripper 2950X」はCPU本体よりも少し大きい程度のスリムなケースに変わって、使い勝手が良くなっています。
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CPU本体については製品名など刻印が若干違うことを除けば外形やオレンジ色のプラスチック製ガイドなどほぼ同じ仕様です。
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マザーボードへの設置手順も当然ですが従来通りです。同じTR4ソケット、というか第1世代と同時に発売されたX399マザーボードもBIOSアップデートで対応しているので。
AMD Ryzen Threadripper 2950X



AMD Ryzen Threadripper 2950Xの検証機材

AMD Ryzen Threadripper 2950Xの検証機材は次のようになっています。
テストベンチ機の構成
CPU AMD Ryzen Threadripper 2950X
16コア32スレッド
メインメモリ G.Skill FLARE X for AMD RYZEN TR
F4-3200C14Q-32GFX
DDR4 8GB*4=32GB (レビュー
CPUクーラー
&冷却ファン
ENERMAX LIQTECH TR4
ELC-LTTR360-TBP
360サイズ簡易水冷 (レビュー
Noctua NF-A12x25 PWM x3 (レビュー
マザーボード
ASRock Fatal1ty X399 Professional Gaming(レビュー
CPUベンチ用
ビデオカード
MSI GeForce GT 1030 2GH LP OC
ファンレス (レビュー
システムストレージ
Samsung 860 PRO 256GB (レビュー
OS Windows10 Home 64bit
電源ユニット Corsair HX1200i (レビュー
ベンチ板 STREACOM BC1 (レビュー

ベンチ機のシステムストレージにはSamsung製MLCタイプ64層V-NANDのメモリチップを採用する18年最速のプロフェッショナル向け2.5インチSATA SSD「Samsung SSD 860 PRO 256GB」を使用しています。Samsung SSD 860 PROシリーズは容量単価が高価ではあるものの、システムストレージに最適な256GBや512GBモデルは製品価格としては手を伸ばしやすい範囲に収まっており、Ryzen Threadripper&X399のようなエンスー環境のシステムストレージ用に一押しのSSDです。
「Samsung SSD 860 PRO 256GB」をレビュー
Samsung SSD 860 PRO 256GB


レビュー記事後半ではRyzen Threadripper 2950Xを使用したオーバークロックも実践するので検証機材CPUクーラーにはAMD Ryzen ThreadripperのTR4 Socketに完全対応となる大型ベースプレートと360サイズラジエーター採用で最高クラスの冷却性能を誇る簡易水冷CPUクーラー「ENERMAX LIQTECH TR4 ELC-LTTR360-TBP」を使用しています。
ENERMAX LIQTECH TR4 ELC-LTTR360-TBP
ENERMAX LIQTECH TR4シリーズにはラジエーターサイズ別で240サイズ/280サイズ/360サイズの3モデルがラインナップされていますが、当サイトでは全モデルについて詳細なレビュー記事を公開中です。
ENERMAX LIQTECH TR4シリーズのレビュー記事一覧へ
ENERMAX LIQTECH TR4シリーズ


360サイズや240サイズなど120mmファンを複数搭載できるマルチファンラジエーター採用の簡易水冷CPUクーラーを使用するのであれば、超硬質かつ軽量な新素材「Sterrox LCP」の採用によってフレーム-ブレード間0.5mmの限界を実現させた次世代汎用120mm口径ファン「Noctua NF-A12x25 PWM」への換装もおすすめです。1基あたり4000円ほどと高価ですが、標準ファンよりも静音性と冷却性能を向上させることができます。
「Noctua NF-A12x25 PWM」を360サイズ簡易水冷に組み込む
Noctua NF-A12x25 PWM x3


CPUとCPUクーラー間の熱伝導グリスには当サイト推奨で管理人も愛用しているお馴染みのクマさんグリス(Thermal Grizzly Kryonaut)を塗りました。使い切りの小容量から何度も塗りなおせる大容量までバリエーションも豊富で、性能面でも熱伝導効率が高く、塗布しやすい柔らかいグリスなのでおすすめです。
ASRock Fatal1ty X399 Professional Gaming review_09321


グリスを塗る量はてきとうでOKです。管理人はヘラとかも使わず中央山盛りで対角線だけ若干伸ばして塗っています。特にThermal Grizzly Kryonautは柔らかいグリスでCPUクーラー固定時の圧着で伸びるので塗り方を気にする必要もありません。
ASRock X399 Taichi review_09262
普段は熱伝導グリスを上のようにてきとうに塗っているのですが、Ryzen Threadripperはヒートスプレッダが大きいため、『最初に等間隔に9カ所小さめに熱伝導グリスを落として、さらにその間の4か所に少し大きめに熱伝導グリスを塗る』というNoctua式の塗り方が良い感じだったので今回はNoctua式を採用しました。
Noctua TR4_tp
この塗り方をするとRyzen Threadripperの大型ヒートスプレッダでもCPUクーラーの圧着でヒートスプレッダ全体へ熱伝導グリスが綺麗に伸びます。ただしグリスをかなり大量に使うので注意。
TR_T_1TR_T_2

以上で検証機材のセットアップが完了となります。
AMD Ryzen Threadripper 2950X 4.0GHz OC review_01808_DxO



AMD Ryzen Threadripper 2950Xの定格動作について

AMD Ryzen Threadripper 2950Xの検証機材のセットアップ(紹介)も完了したので、手動OCやPBO適用の検証結果について解説しようと思いますが、その前にAMD Ryzen Threadripper 2950Xの定格動作についても簡単に説明しておきます。
「AMD Ryzen Threadripper 2950X」の動作周波数について仕様値をおさらいしておくと、ベースクロック3.5GHz、ブーストクロック4.4GHz、TDP180Wという値が与えられています。
「AMD Ryzen Threadripper 2950X」のブーストクロック4.4GHzとは、TDP180Wの範囲内で動作している時に16コアあるうちの1コアだけが動作可能な最大動作クロックです。
AMD Ryzen Threadripper 2950X_def_boost

では16コア全体に負荷がかかってTDP180Wを満たすようなCPU負荷が発生するとどうなるかというと(CPUパッケージパワーが180Wに達する)、まずTDP180Wを超えないように電力制限がかかり、TDP180Wの範囲内で最大の動作クロックを実現するように調整されます。これがThreadripperを含めRyzen CPUに共通したフィードバック型の動作クロック制御機能「Pure Power」と「Precision Boost(2)」です。Ryzen CPUの動作クロックに関する予備知識については下の記事で概要を解説しているので参考にしてください。
第2世代Ryzenの新機能「Precision Boost Overdrive」を徹底解説
precision-boost-overdrive

「AMD Ryzen Threadripper 2950X」の場合は、CPU冷却条件が十分に満たされていれば「Precision Boost 2」と「XFR 2 (Extended Frequency Range 2)」が機能して、各CPUコアの動作クロックは25MHz刻みで逐次変動して実動平均3.6GHz前後で動作します。
AMD Ryzen Threadripper 2950X_def_avg
各種レビューで「AMD Ryzen Threadripper 2950X」の定格動作時の性能としてよく言及される3200程度のCinebenchスコアは「Precision Boost 2」と「XFR 2 (Extended Frequency Range 2)」が機能して、全コアが3.6GHz~3.7GHz前後で動作している時の数値となります。
AMD Ryzen Threadripper 2950X_def_cinebench
「AMD Ryzen Threadripper 2950X」が定格の実動平均3.6GHzで動作している時の消費電力は240W程度となり(システム全体ですがほぼCPUの消費電力)、TDP180Wから考えると30~50Wほど高い値となっています。Ryzen CPUではCPU冷却条件が十分なら自動でTDP値を引き上げる「XFR 2 (Extended Frequency Range 2)」という機能があるのでそれが動作しているのだと思います。
AMD Ryzen Threadripper 2950X_def_powet

スマホで使用できるサーモグラフィカメラ「FLIR ONE Pro」(レビュー)を使用して「AMD Ryzen Threadripper 2950X」の定格動作時に全コア負荷を長時間かけた場合のVRM電源温度をチェックしてみました。
「AMD Ryzen Threadripper 2950X」の定格における消費電力は前世代1950Xとほぼ同等なのでVRM電源への負荷は2990WXと違ってそこまで極端ではないので、第1世代Threadripperと同時にロンチされた「ASRock X399 Taichi」や「GIGABYTE X399 AORUS Gaming 7」など当サイトで評価の高いX399マザーボードであればパッシブ空冷のままでも問題なく運用できます。
AMD Ryzen Threadripper 2950X_def_FLIR (1)
AMD Ryzen Threadripper 2950X_def_FLIR (2)


AMD Ryzen Threadripper 2950Xを全コア4.0GHzに手動OCしてみる

「AMD Ryzen Threadripper 2950X」のマニュアルオーバークロックによる全コア4.2GHz OCについて紹介します。

マニュアルオーバークロックは純正OCツールRyzen Masterからも設定が可能ですが、BIOS(UEFI)からのほうが簡単なのでBIOS上で設定を行いました。「AMD Ryzen Threadripper 2950X」は第1世代と同様にOC設定ができます。CPU動作クロックを手動設定する場合は全コア動作倍率とコア電圧(あとマザーボードによってはロードラインキャリブレーション)を設定します。
具体的な設定値としてはCPU動作倍率は42倍、CPUコア電圧は1.33125V、CPUロードラインキャリブレーションはLevel2に設定しました。あとメモリについてはG.Skill FLARE X F4-3200C14Q-32GFXのOCプロファイルでメモリ周波数3200MHz&メモリタイミング14-14-14-34-CR1にしています。
AMD Ryzen Threadripper 2950X_manual OC_BIOS

このOC設定でCinebenchを回してみたところベンチマークスコアは3630程度となりました。
AMD Ryzen Threadripper 2950X_4.2GHz OC_cinebench

続いてこのOC設定が安定動作するかストレステストを実行しました。
検証方法については、FF14ベンチマークの動画(再生時間8分、WQHD解像度、60FPS、容量4.7GB)でAviutl+x264を使ってエンコードを行いました。エンコード時間はThreadripper 2950Xの場合8分ほどなので同じ動画のエンコードを3つ並列して2周実行しています。テスト中のファン回転数は一定値に固定しています。
注:CPUのストレステストについてはOCCTなど専用負荷ソフトを使用する検証が多いですが、当サイトではPCゲームや動画のエンコードなど一般的なユースで安定動作すればOKとういう観点から管理人の経験的に上の検証方法をストレステストとして採用しています。
Ryzen Threadripper 2950X_Stress

上の方法で検証したところ、「AMD Ryzen Threadripper 2950X」を全コア4.2GHz、コア電圧1.33VにOCすると、ENERMAX LIQTECH TR4 360で冷やしても負荷テスト開始5分程度でCPU温度が80度前後に達しました。なお管理人の個体ではコア電圧を1.300Vまで下げると負荷テスト中にブラックアウトしました。
「AMD Ryzen Threadripper 2950X」はRyzen 7 2700Xと同じ(さらに低電圧動作可能なものが選別されている)CPUダイを2つ組み合わせたCPUなので、2700X同様に4.2GHzを超えたあたりから発熱がかなり大きくなります。冷却環境次第ですが、「AMD Ryzen Threadripper 2950X」のマニュアル設定OCについては4.1GHz~4.2GHzあたりが常用限界になると思います。
Threadripper 2950X_4.2GHz_mem3200_stress
「AMD Ryzen Threadripper 2950X」を全コア4.2GHzにOCした時の消費電力は420W前後でした。
Threadripper 2950X_4.2GHz_mem3200_power


ちなみに「AMD Ryzen Threadripper 2950X」と前世代の「AMD Ryzen Threadripper 1950X」について、全コア4.0GHzでメモリ周波数も3200MHzに揃えてCinebenchを行ってみたところ、ベンチマークスコアは3450前後でほぼ同じでした。メインストリーム向けのRyzen 7 2700XとRyzen 7 1800Xではコア/メモリ周波数を揃えた場合のパフォーマンスに差があったので同コアクロックでも100~200程度はスコアに差が出ると思っていたので意外な結果です。
Threadripper 2950X_4GHz_mem3200_cine
Threadripper 1950X_4GHz_mem3200_cine
Cinebenchのベンチマークスコアは2950Xと1950Xでほぼ同じになりましたが、全コア4.0GHzにOCした時の消費電力は1950Xが390W前後に達するのに対して、2950Xは310W前後と大幅に消費電力が下がっています。
Threadripper 1950X_4.0GHz_mem3200_power
Threadripper 2950X_4.0GHz_mem3200_power



AMD Ryzen Threadripper 2950XにPrecision Boost Overdriveを適用してみる

「AMD Ryzen Threadripper 2950X」の定格動作やマニュアル設定オーバークロックについて簡単に説明も済んだので、「AMD Ryzen Threadripper 2950X」のオーバークロックのうち、管理人的に鉄板設定なPrecision Boost Overdriveを適用する例について解説していきます。

「Precision Boost Overdrive」は「AMD Ryzen Threadripper 2950X」だけでなくRyzen 7 2700Xなど第2世代Ryzen CPUから追加された新機能です。
Ryzen CPUにはCPU温度や電力に関して安定動作可能な相関関係を記したテーブルが内部に用意されており、それに則した形で「Pure Power」や「Precision Boost(2)」といった諸機能により動作クロックや電力が制御されていますが、その制御が行われる領域と実際に安定動作可能な領域にはマージン(Headroom)が確保されており、「Precision Boost Overdrive」はテーブルで既定された安定動作の限界近い動作領域まで制御の限界を引き上げる機能となっています。
AMD Ryzen Threadripper 2Gen_PBO table

「Precision Boost Overdrive」はマザーボードのBIOS(UEFI)とRyzen CPUの純正オーバークロックツールである「Ryzen Master(公式DLページ)」の2方面から設定を行うことができるので、今回は「Ryzen Master」に合わせて「Precision Boost Overdrive」の使い方や実際の動作について紹介します。
第2世代Threadripper対応のバージョンアップでUIのレイアウトが若干変わっていますが、基本的な使い方についてはこちらの記事をまず参考にしてください。
AMD Ryzen専用純正OCツール「AMD Ryzen Masterユーティリティ」の使い方
AMD Ryzen Masterユーティリティ

「Ryzen Master」の設定ウィンドウの中央には「Control Mode」という設定項目があり、標準ではAutoになっていますが、「Precision Boost Overdrive」と「Manual」の2種類に切り替えることができます。
Ryzen Master_Precision Boost Overdrive_1
「Control Mode」から「Precision Boost Overdrive」を選択すると小項目として「PPT Limit」「TDC Limit」「EDC Limit」の3つを設定できるようになります。
Ryzen Master_Precision Boost Overdrive_2
BIOSから設定する場合も同様の設定項目が表示されます。(マザーボードによって設定項目が表示されないばあいもありますが)
AMD Ryzen Threadripper 2950X_PBO_BIOS

「PPT Limit」(おそらくPackage Power Target Limitの略)は、電力[W]単位の設定値となっており、Precision Boost Overdriveの有効時にCPU全体が消費可能な電力を指定しています。「AMD Ryzen Threadripper 2950X」の定格動作では180Wです。

「TDC Limit」(Thermal Design Current Limitの略)は、電流[A]単位の設定値となっており、AMD公式のRyzen CPU OCマニュアルでは下のように表現されています。Intel CPUで言うところの長時間電力制限にあたる設定項目で、「AMD Ryzen Threadripper 2950X」の定格動作では180Aです。
Thermal Design Current (TDC) is presented for the CPU and SOC power domains,
respectively, expressed as a % of motherboard capacity. This can best be
understood as sustained amperage vs. motherboard capacity for a thermallysignificant
workload.
「EDC Limit」(Electrical Design CurrentLimitの略)は、電流[A]単位の設定値となっており、AMD公式のRyzen CPU OCマニュアルでは下のように表現されています。Intel CPUで言うところの短時間電力制限にあたる設定項目で、「AMD Ryzen Threadripper 2950X」の定格動作では240Aです。
Electrical Design Current (EDC) is presented for the CPU and SOC power
domains, expressed as a % of motherboard capacity. This can best be understood as
the peak amperage for a short period of time.

「Precision Boost Overdrive」に関する3つの設定項目「PPT Limit」「TDC Limit」「EDC Limit」については字面だけを眺めると、「PPT Limit」はともかく「TDC Limit」と「EDC Limit」の具体的な設定方法(設定の目安)がわかりにくいですが、「PPT Limit」と「TDC(EDC) Limit」の2つとして考えると実は非常に簡単です。

「TDC(EDC) Limit」は使用解説では電流値として説明されていますが、実はCPU動作クロックの上限値に直結したパラメーターとなっています。簡単のために電力制限がかかっていない(PPTが十分大きい)、および「TDC Limit = EDC Limit」とすると、例えば2950X定格のTDC Limit = 180Aでは最大動作クロックが3.70GHz
ですが、TDC Limit = 300Aとすると最大動作クロックが4.15GHzになります。
そして「TDC(EDC) Limit」で既定された最大動作クロックを上限として、「PPT Limit」で設定されたCPU消費電力の範囲内に収まるように定格動作同様に「Pure Power」と「Precision Boost(2)」によって動作クロックが25MHz刻みで制御されます。

一例として「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」でPrecision Boost Overdriveを有効にして『PPT = 350W、TDC(EDC) = 350A』に設定すると全コア同時3.6GHz動作となり、Cinebenchスコアは5500に達します
Ryzen Threadripper 2950X_PBO_1
さらに『PPT = 740W、TDC(EDC) = 480A』に設定すると全コア4.0GHz程度で動作可能となり、Cinebenchスコアは6000前後に達します。
Ryzen Threadripper 2950X_PBO_2

グラフィックボードのオーバークロックをAfterBurnerを使用して行ったことのあるユーザーならピンとくるかもしれませんが、「PPT Limit」はPowerLimit、「TDC(EDC) Limit」がCoreClockの設定値と相似しており、Precision Boost Overdriveはグラフィックボードと同じ感覚で簡単にRyzen CPUをOCできる機能となっています。
AfterBurner

グラフィックボードに比べるとCPUのOCは若干難しいという現状に対して、最大動作クロックと電力制限の2値を設定するだけであとは25MHz刻みで最適化してくれるPrecision Boost OverdriveはOC機能としてはかなり革新的な機能です。
Precision Boost Overdriveはメインストリーム向けの第2世代Ryzenでも使用できた機能でしたが、第2世代Ryzenで特に人気の高いRyzen 7 2700Xが定格(XFR有効)において実動平均が全コア3.9GHzに対して、Precision Boost Overdriveを有効にしても実動平均が全コア4.0GHz~4.1GHzまでしか上がらず、標準設定で既に動作クロックが限界近くまでチューニングされていたこともあり、性能上昇は微小で消費電力が増えてワッパが下がるという微妙な機能でした。

しかしながら「AMD Ryzen Threadripper 2950X」は定格で最大動作クロック3.7GHz程度かつTDP180Wの電力制限があるので実動平均で全コア3.6GHz動作と控えめな動作クロックに抑え込まれていますが、Ryzen 7 2700Xと同じCPUダイのうち電気特性的に優れた上位5%が選別されているだけあって、電圧を盛って電力制限を解除さえすれば全コアが4GHzで動作できるポテンシャルを備えているので、Precision Boost Overdriveがかなり有用な機能となります。

「AMD Ryzen Threadripper 2950X」でPrecision Boost Overdriveを有効化して『PPT = 400W、TDC(EDC) = 300A』に設定すると全コア負荷時の動作クロックが4.1GHz前後まで上昇するので、定格動作より1割程度高速なCinebenchスコア3500オーバーのマルチスレッド性能が発揮できます。
AMD Ryzen Threadripper 2950X_PBO_cinebench
常時動作クロックが設定値で固定されるマニュアル設定OCと違ってPrecision Boost Overdriveでは低負荷時は定格同様に単コアが最大4.4GHzで動作するブーストクロックも併用できるというメリットがあります。
AMD Ryzen Threadripper 2950X_PBO_boost

Precision Boost Overdriveには注意事項が1点だけあって、同機能は定格動作における最大動作クロックと電力制限を解除する機能なので、上の章で解説したようにCPU温度+27度のコントロール温度「T ctl」による電力・温度制限は依然として機能します。マザーボードによってはPBOと連動して使用できない場合がありますが、BIOS設定から動作が安定する範囲内でコア電圧にマイナスのオフセットをかけるとCPU温度が下がるので高クロックを維持しやすくなります。
AMD Ryzen Threadripper 2950X_PBO_Vcore Offset_BIOS

CPU温度が68度に達した時点で電力制限によって動作クロックが下がりますが、CPUクーラーにRyzen Threadripper対応CPUクーラーとしては最高性能の「ENERMAX LIQTECH TR4 ELC-LTTR360-TBP」を使用すれば、長期的にも「AMD Ryzen Threadripper 2950X」は実動平均で全コア4.0GHz前後での動作可能でした。
AMD Ryzen Threadripper 2950X_PBO_stress_temp
AMD Ryzen Threadripper 2950X_PBO_stress

この時の「AMD Ryzen Threadripper 2950X」の消費電力はテスト序盤はCPUの冷却に余裕があるので390W前後でしたが、CPU温度(T die)が68度に飽和すると350W前後に収まります。
AMD Ryzen Threadripper 2950X_PBO_power (1)AMD Ryzen Threadripper 2950X_PBO_power (2)

「AMD Ryzen Threadripper 2950X」における「PPT Limit」と「TDC(EDC) Limit」の設定値の目安についてですが、「PPT Limit」は極端な話として設定可能な値の上限値に設定しても、「TDC(EDC) Limit」で既定される最大動作クロックで消費できる電力を上回ることはなく、またCPU温度が68度を超えないようにも制御されるのであまり気にする必要はありません。
設定値に注意が必要になるのは「TDC(EDC) Limit」で、「AMD Ryzen Threadripper 2950X」では300A前後に設定すると全コア同時4.1GHz程度で動作しますが、400Aを超える数値を設定してCinebenchを回してみるとブラックアウトしたので、350A以下に設定するのがおすすめです。


スマホで使用できるサーモグラフィカメラ「FLIR ONE Pro」(レビュー)を使用して「AMD Ryzen Threadripper 2950X」のPBOによる全コア4.0GHz OC時に全コア負荷を長時間かけた場合のVRM電源温度をチェックしてみました。
Precision Boost Overdriveで動作クロックを上げると消費電力も大きくなり、当然VRM電源への負荷も大きくなります。Precision Boost OverdriveによってCPU消費電力が350W前後になると定格動作時よりもVRM電源温度が高くなるので流石にパッシブ空冷は非推奨ですが、それでも前世代1950Xを全コア4.0GHzにマニュアルOCした時によりは低消費電力なので、初期X399マザーボードでも120mmサイズ冷却ファンをスポットクーラーとして使用して冷やしてやるだけでVRM電源温度は80度未満に収まります。2950Xは2990WXと違ってVRM電源温度の管理的にも素直なCPUです。
AMD Ryzen Threadripper 2950X_PBO_FLIR (1)
AMD Ryzen Threadripper 2950X_PBO_FLIR (2)

VRM電源の冷却にスポットクーラーを使用するのであれば、可変アルミニウム製ファンフレームによってリアやトップのファンマウントに装着してVRM電源へ直接風を当てることができる「IN WIN MARS」がおすすめです。
可変アルミフレーム搭載ファン「IN WIN MARS」をレビュー
IN WIN MARS




簡易水冷CPUクーラーを使用する一般的な環境でWXシリーズの2990WXを「Precision Boost Overdrive」で使用すると単コアブーストクロック4.2GHzを併用できるメリットはあるものの、コントロール温度による制限が効くので全コア3.6GHz~3.7GHzが実用可能な限界値になるというデメリット?があり、PBOによるOCか手動OCによる全コア4.0GHz OCのどちらがいいのか悩ましい選択でした。
「AMD Ryzen Threadripper 2950X」ではPrecision Boost Overdriveを使用した場合、同じく単コアブーストクロック4.4GHzを併用しつつ、2990WXよりも消費電力が低いので市販の簡易水冷CPUクーラー「ENERMAX LIQTECH TR4 ELC-LTTR360-TBP」なら全コア3.9~4.0GHzは維持でき、固定倍率のマニュアル設定オーバークロックよりも小回りが利く良いOC設定になります。2950Xの手動OCについては1.33V前後で4.2GHz程度が冷却性能的に常用限界になるので、0.1~0.2MHz分のマルチスレッド性能を追求するより、PBOでシングル/マルチでバランスの良い動作にするのがおすすめです。
多コア過ぎて癖の強い(OSやアプリの最適化待ちな)2990WXと違って、「AMD Ryzen Threadripper 2950X」は16コア32スレッドのハイエンドデスクトップ向けCPUという額面通り素直に動いてくれるCPUなので、動画編集・3Dレンダリング・リアルタイム配信などCPUのマルチスレッド性能が要求されるパワーユーザー向けにおすすめなCPUです。

以上、『「AMD Ryzen Threadripper 2950X」をPBOで全コア4.0GHzにOCレビュー』でした。
AMD Ryzen Threadripper 2950X




X399 TR4 Socketマザーボード販売ページ
Amazon><TSUKUMO><PCショップアーク
PCワンズ><ドスパラ><パソコン工房


G.Skill Flare X F4-3200C14Q-32GFX Threadripper対応
G.Skill Trident Z RGB F4-3200C14Q-32GTZRX Threadripper対応
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PCショップアーク><PCワンズ><OCworks

Ryzen Threadripperは従来のCPUに比べて非常に大きいヒートスプレッダが採用されているので、大型ベースコアを採用するThreadripper専用CPUクーラーもおすすめです。

Noctua NF-A12x25 PWM 120mmファン 定格2000RPM PWM対応
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Noctua NF-A12x25 FLX 120mmファン 定格2000RPM
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<米尼:PWM/FLX/ULN><TSUKUMO
PCショップアーク><オリオスペック

Noctua NH-U14S TR4-SP3 - 140mm [Noctua正規代理店]
Noctua NH-U12S TR4-SP3 - 120mm [Noctua正規代理店]
Noctua NH-U9 TR4-SP3 - 92mm [Noctua正規代理店]
Noctua
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<TSUKUMO:U14S/U12S/U9><PCワンズ



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