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第3世代Ryzenと同じZen2 CPUコアと、7nmプロセスで改良・製造されるRadeon Graphicsを組み合わせた、RenoirことAMD第4世代Ryzen APUのビジネスユーザー向けPROシリーズから、4コア8スレッドのエントリーモデル「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」をレビューします。
4コア8スレッドAPUの「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」が、前世代最上位にして同クラスのRyzen 5 3400Gからどれほどの飛躍を果たしたのか、さらに同社のRyzen 3 3300Xや競合Intelのメインストリーム向け4コア8スレッドCPUのCore i3 10100と比較して、クリエイティブタスクやPCゲーミングでどれくらいの性能を発揮するのか検証していきます。
製品公式ページ:https://www.amd.com/ja/products/apu/amd-ryzen-3-pro-4350g
AMD Ryzen 3 PRO 4350G レビュー目次
1.AMD Ryzen 3 PRO 4350Gの外観・付属品・概要
2.AMD Ryzen 3 PRO 4350Gの検証機材・動作設定
3.AMD Ryzen 3 PRO 4350Gの動作クロック・消費電力・温度
・AMD Ryzen 3 PRO 4350GのOC耐性について
4.AMD Ryzen 3 PRO 4350Gのクリエイティブタスク性能
5.AMD Ryzen 3 PRO 4350Gのグラフィック性能とメモリOC
6.AMD Ryzen 3 PRO 4350Gのレビューまとめ
【機材協力:AMD Japan】
AMD Ryzen 3 PRO 4350Gの外観・付属品・概要
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」の外観や付属品について簡単にチェックしておきます。またこの章では「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」の仕様等について簡単に触れておきたい概要もあれば紹介します。以下、販売形態やCPU外観は共通なのでRyzen 7 PRO 4750Gの写真を流用します。
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」は2020年8月現在、『プラスチック製トレイパッケージに封入されたバルク品のみ、かつ多くの通販サイトではマザーボードとのセット購入が必須』という形式のみの販売となっており、第3世代Ryzen通常モデルのようなボックス版については未定です。
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」を含めて第3世代Ryzenは第1/2世代Ryzenと同じAM4ソケットに対応するCPUなので、第1世代から第3世代までCPUの形状には変化はありません。裏面のCPUソケット側はLGAタイプのCPUソケットを採用するIntel製CPUと違って剣山状の金属端子が生えています。
AMD公式に発表されている基本スペックを確認すると、「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」のCPUに関する基本スペックは通常モデルRyzen 3 4300Gと共通で、メインストリーム向けCPUながら4コア8スレッドのメニーコア、ベースクロック3.8GHz、単コア最大ブーストクロック4.0GHzで、TDPはiGPU非搭載のRyzen 3 3300Xと同じくTDP65Wに設定されています。
注意点としてRyzen PROシリーズに属する「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」はCPUおよびGPUの動作倍率(コアクロック)はロックされており、ユーザーによる手動オーバークロックは不可能です。Ryzen用の純正OCツールRyzen Masterにも対応していませんが、メモリについてはマザーボードBIOSから設定すれば定格の3200MHz以上にオーバークロックが可能です。
AMD Ryzen 3 PRO 4350Gに加えて、従来モデルAMD Ryzen 3 3300X、競合製品のIntel Core i3 10320やIntel Core i3 10100のスペックを早見表にまとめて比較すると次のようになっています。
AMD Ryzen 3 PRO 4350G スペック簡易比較 | ||||
Ryzen 3 PRO 4350G |
Ryzen 3 3300X |
Core i3 10320 |
Core i3 10100 |
|
コアスレッド | 4コア8スレッド |
|||
ベースクロック | 3.8GHz | 3.8GHz | 3.8GHz | 3.6GHz |
全コア最大ブースト | ~4.0GHz | ~4.3GHz | 4.4GHz | 4.1GHz |
単コア最大ブースト | 4.0GHz | 4.3GHz | 4.6GHz | 4.3GHz |
オーバークロック |
コア:X メモリ:O |
O | X (Z490環境ならメモリはOC可能) |
|
L3キャッシュ | 4MB | 16MB | 9MB | |
TDP | 65W | |||
CPUクーラー | X | 付属 (Wraith Stealth) |
O | |
iGPU |
O | X | O | |
メモリ ch / pcs |
2 / 4 | |||
CPU直結PCIEレーン |
PCIE3.0 16 + 4 |
PCIE4.0 16 + 4 |
PCIE3.0 16 |
|
おおよその国内価格 (北米希望小売価格) |
22,000円 (149ドル) |
15,000円 (120ドル) |
20,700円 (154ドル) |
16,000円 (122ドル) |
8コア16スレッドの最上位モデルAMD Ryzen 7 PRO 4750Gや、6コア12スレッドのAMD Ryzen 5 PRO 4650Gについても個別の詳細レビューを公開しています。
・「AMD Ryzen 7 PRO 4750G」をレビュー。Core i7 10700と徹底比較
「Ryzen 3 PRO 4350G」に搭載されたiGPUのRadeon GraphicsはCompute Unit数6(ストリームプロセッサ数384)となっており、アーキテクチャは従来のVega Graphicsを踏襲していますが、7nmプロセスで改良されたことによって定格コアクロックは1700MHzと従来モデル比で20%も高速化しています。
第3世代Ryzen APUの最上位モデルであるRyzen 5 3400Gに搭載されていたVega11はCompute Unit数11、定格コアクロック1400MHzだったので、単純計算では30%強の性能減となりますが、上位モデルの性能から算出すると、定格システムメモリ周波数の向上や7nmプロセスによる改良によって実性能では10%程度の差に収まるようです。
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」など第4世代Ryzen APUと前世代Ryzen APUに搭載されたiGPUのスペックを比較すると次のようになっています。
AMD第4世代Ryzen APU iGPUスペック一覧 | ||||||
APU | コア/ スレッド |
iGPU コア数 |
iGPU コアクロック |
定格メモリ周波数 (VRAM共有) |
||
Ryzen 7 4700G (PRO 4750G) |
8 / 16 | Radeon 8 (7nm) SP:512 | 2100MHz | 3200MHz | ||
Ryzen 5 4600G (PRO 4650G) |
6 / 12 | Radeon 7 (7nm) SP:448 |
1900MHz | 3200MHz | ||
Ryzen 5 3400G | 4 / 8 |
Vega 11 (12nm) SP:714 |
1400MHz | 2933MHz | ||
Ryzen 3 4300G (PRO 4350G) |
4 / 8 | Radeon 6 (7nm) SP:384 |
1700MHz | 3200MHz | ||
Ryzen 3 3200G | 4 / 4 |
Vega 8 (12nm) SP:512 |
1250MHz | 2933MHz |
今回レビューする「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」の基本スペックは第4世代Ryzen APUの通常モデルRyzen 3 4300Gと共通ですが、ビジネスユーザー向けRyzen PROシリーズに属する製品となっており、独自の特長としてセキュリティ機能「AMD PRO Technology」が利用できます。
AMD PRO Technologyは、一部のIntel製CPUがサポートするセキュリティ機能Intel vProに対する競合機能になっています。
ECCメモリやセキュリティ機能などビジネスユーザー向けのCPU機能についてAMD製CPUとIntel製CPUの対応状況を簡単にまとめると次のようになっています。()内には8コア16スレッドCPUの一部を例に挙げています。
ビジネスユーザー向け機能の対応比較 |
||||||
CPU | ECCメモリ対応 |
セキュリティ機能 |
||||
AMD | Ryzen PRO (Ryzen 7 PRO 4750G) |
O | AMD PRO Technology | |||
Ryzen 4000G, 3000 (Ryzen 7 4700G, 3700X) |
X |
|||||
Intel | Xeon-W 1200 (Xeon-W 1270/P) |
Intel vPro |
||||
Core 10th (Core i7 10700/K/F) |
X | Intel vPro (一部、非サポートのモデルも) |
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」などAMD Ryzen 4000Gシリーズについては2020年6月以降に新たに発売されたB550チップセットとA520チップセットを搭載したマザーボードがネイティブサポートするほか、昨年発売されたX570チップセットを搭載したマザーボードもBIOSアップデートで対応します。 B450やA300などの旧チップセットはAMDの公式サポートからは外れているので注意が必要です。
なおB550マザーボードに対してもAMD Ryzen 4000Gシリーズに最適化された新マイクロコードAMD AGESA ComboV2 1.0.0.2を含むBIOSアップデートがリリースされています。
300/400シリーズの旧チップセットについてはAMDの公式サポート外なので、AMD Ryzen 4000Gシリーズが完全に正常動作する保証はないのですが、マザーボードメーカーからは一部製品に対してベータBIOSという形で対応BIOSが提供される可能性があります。
・「ASRock DeskMini X300」をレビュー。Ryzen 4000Gに完全対応!
AMD Ryzen 3 PRO 4350Gの検証機材・動作設定
以下、「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」の各種検証を行うベンチ機、および比較対象となる各CPUのベンチ機の詳細となります。AMD AM4(X570/B550/X470)環境 テストベンチ機の構成 | |
CPU | 【第4世代Ryzen APU】 AMD Ryzen 7 PRO 4750G (レビュー) AMD Ryzen 5 PRO 4650G (レビュー) AMD Ryzen 3 PRO 4350G (レビュー) 【第3世代Ryzen】 AMD Ryzen 9 3900X (レビュー) AMD Ryzen 7 3700X (レビュー) AMD Ryzen 5 3400G (レビュー) |
マザーボード (4000G) |
MSI MPG B550I Gaming Edge WiFi (レビュー) |
マザーボード (3000) |
MSI MEG X570 ACE (レビュー) |
マザーボード (3000G) |
ASRock Fatal1ty X470 Gaming-ITX/ac (レビュー) |
CPUクーラー | Corsair H150i PRO RGB (レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM x3 (レビュー) |
メインメモリ (4000G/3000G) |
G.Skill Trident Z Black F4-3733C17D-32GTZKK DDR4 16GB*2=32GB (4000G) 3600MHz, CL16-16-16-36-CR1 (3000G) 3200MHz, CL16-16-16-36-CR1 |
メインメモリ (3000) |
G.Skill Trident Z Neo F4-3600C14Q-32GTZN DDR4 8GB*4=32GB (レビュー) 3600MHz, CL16-16-16-36-CR1 |
ビデオカード(共通) | ZOTAC RTX 2080Ti AMP Extreme Core (レビュー) |
システムストレージ(共通) | Samsung 860 PRO 256GB (レビュー) |
OS(共通) | Windows10 Home 64bit |
電源ユニット(共通) | Corsair HX1200i (レビュー) |
ベンチ板 | STREACOM BC1 (レビュー) |
AMD AM4(X570)環境では検証機材マザーボードとして「MSI MEG X570 ACE」を使用しています。「MSI MEG X570 ACE」でCPU動作設定を標準設定のAutoとした場合、各CPUは仕様通りの定格動作で問題なく動作するので、測定に当たってソフトウェア的には特に個別の設定は行っていません。
ただしAMD Ryzen CPUではCPUクーラーの冷却性能が十分であれば電力制限を解除して自動的に動作クロックを引き上げる機能「XFR (Extended Frequency Range)」が効くため、電力制限の閾値となるPPTが仕様値のTDPよりも高く設定されています。例えばRyzen 9 3900XではTDP105Wを上回って仕様上の上限値となるPPT 142W以下で動作します。
Ryzen CPUの仕様値TDPと標準PPT | ||
仕様値TDP | 標準PPT | |
Ryzen 9 3950X, Ryzen 9 3900XT, Ryzen 9 3900X, Ryzen 7 3800X, Ryzen 7 2700X |
105W | 142W |
Ryzen 5 3600X, Ryzen 5 2600X | 95W | 128W |
Ryzen 7 PRO 4750G, Ryzen 7 3700X, Ryzen 3 PRO 4350G, Ryzen 5 3600, Ryzen 5 3500X, Ryzen 3 PRO 4350G Ryzen 3 3300X, Ryzen 7 2700 |
65W | 88W |
CPU Package Power(CPU消費電力)がTDPを上回るPPTの範囲内で制限されるという動作は、CPU Package PowerがそもそもTDPの範囲内に収まるPCゲーム性能には基本的に影響しないものの、クリエイティブタスク性能には大きく影響し、また消費電力の測定にも当然影響します。そこでPCゲーム性能の測定を除いて、第3世代Ryzenの中でTDPを超えるCPU消費電力になるものについては、参考値としてPPTを仕様値TDPに一致させたケースについても測定を行います。
・Ryzen CPUの検証でPPT=TDPを参考値として測定する理由
Intel LGA1200(Z490)環境 テストベンチ機の構成 | |
CPU | Intel Core i9-10900K(レビュー) Intel Core i9-10900(レビュー) Intel Core i7-10700K(レビュー) Intel Core i7-10700F(レビュー) |
マザーボード | MSI MEG Z490I UNIFY (レビュー) |
CPUクーラー | Fractal Design Celsius S36 (レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM x3 (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill Ripjaws V F4-4000C15Q-32GVK DDR4 8GB*4=32GB (レビュー) 3600MHz, CL16-16-16-36-CR1 |
その他 |
レビュー対象CPUのベンチ機と共通 |
第3世代Ryzen検証環境のシステムメモリには、第3世代Ryzen&X570マザーボードのプラットフォームに最適化されたハイパフォーマンスOCメモリの最速モデル「G.Skill Trident Z Neo F4-3600C14Q-32GTZN」を使用しています。3600MHz/CL14の最速モデル、3200MHz/CL14や3600MHz/CL16といった定番スペックがラインナップされ、高級感のあるヒートシンクや8分割ARGB LEDを搭載してデザイン面でも優れる「G.Skill Trident Z Neo」シリーズは、第3世代Ryzenの自作PCで性能を追求するなら間違いのないオススメなOCメモリです。
・「G.Skill Trident Z Neo F4-3600C14Q-32GTZN」をレビュー
ベンチ機のシステムストレージにはSamsung製MLCタイプ64層V-NANDのメモリチップを採用する2019年最速のプロフェッショナル向け2.5インチSATA SSD「Samsung SSD 860 PRO 256GB」を使用しています。Samsung SSD 860 PROシリーズは容量単価が高価ではあるものの、システムストレージに最適な256GBや512GBモデルは製品価格としては手を伸ばしやすい範囲に収まっており、Intel Core-XやAMD Ryzen TRのようなハイエンドデスクトップ環境はもちろん、メインストリーム向けでもハイパフォーマンスな環境を目指すのであれば、システムストレージ用に一押しのSSDです。
・「Samsung SSD 860 PRO 256GB」をレビュー
CPUとCPUクーラー間の熱伝導グリスには当サイト推奨で管理人も愛用しているお馴染みのクマさんグリス(Thermal Grizzly Kryonaut)を塗りました。使い切りの小容量から何度も塗りなおせる大容量までバリエーションも豊富で、性能面でも熱伝導効率が高く、塗布しやすい柔らかいグリスなのでおすすめです。
グリスを塗る量はてきとうでOKです。管理人はヘラとかも使わず中央山盛りで対角線だけ若干伸ばして塗っています。Thermal Grizzly Kryonautは柔らかいグリスで適量が塗布されていれば、CPUクーラー固定時の圧着でヒートスプレッダ全体へ自然に伸びるので塗り方を気にする必要もありません。
サーマルグリスの代用品として、数年スパンの長期使用においても性能低下が基本的になく再利用も可能、グリスが零れてマザーボードが汚れたり壊れる心配もないので、炭素繊維サーマルシート「Thermal Grizzly Carbonaut」もオススメです。
・「Thermal Grizzly Carbonaut」はRyzen 9 3900Xを冷やせるか!?
AMD Ryzen 3 PRO 4350Gの動作クロック・消費電力・温度
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」に関する検証のはじめに、「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」の動作クロック、消費電力、温度など同CPUの基本的な動作についてチェックしていきます。「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」は4コア8スレッドのCPUで、AMD公式の仕様ではベースクロック3.8GHz、単コア最大ブーストクロック4.0GHzとなっています。
なお「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」のCPUスペックはRyzen 5 3600と同等ですが、L3キャッシュの容量が3300Xの16MBに対して、4MBしかありません。
HWiNFOから「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」のコアクロックの挙動を確認したところ、確かに負荷の軽い場面では最大4.0GHz程度で動作するコアがありました。
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」のAMD公称仕様値としてはTDP65WのCPUですが、実際の内部設定としては定格電力制限『PPT:88W、TDC:65A、EDC:90A』が許容されています。「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」はCPUクーラーによるCPUの冷却が十分であれば(CPU温度が閾値95度以下であれば)、PPT88Wの制限下で動作しXFRによって仕様値ベースクロック3.8GHzよりも高い動作クロックへ引き上げられます。
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」をB550マザーボード「MSI MPG B550I Gaming Edge WiFi(BIOS:112)」と組み合わせてCPU動作をBIOS標準設定とし、CinebenchやAviult&x264エンコードを実行したところ、いずれのケースにおいても全4コアへ同時に大きな負荷がかかった時の動作クロックは平均4.10GHz程度でした。この時にCPU Package Powerは、TDPの65Wよりも十分に低い、37W前後で推移しています。
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」は実際の動作としてTDP35Wのようなものなのであまり関係ありませんが、Ryzen PRO 4000GシリーズもマザーボードBIOSから電力制限の変更は可能です。
MSI MPG B550I Gaming Edge WiFi(BIOS:112)においては「System Configuration AM4」の名前で簡単に電力制限モードを変更できる設定値が用意されており、標準設定の”65W”に加えて、”45W”と”35W”の3種類から電力制限を選択できます。
45W設定における電力制限は『PPT:54W、TDC:45A、EDC:65A』、45W設定における電力制限は『PPT:42W、TDC:39A、EDC:55A』となっています。
上位モデルの「AMD Ryzen 5 PRO 4650G」について、MSI MPG B550I Gaming Edge WiFiのSystem Configuration AM4からTDP制御を行った時のCPU Package Powerやコアクロックの挙動について、動画エンコードを例にして簡単にチェックしてみると次のようになっています。
動画エンコードによってCPUにフル負荷をかけた時、TDP65Wの標準設定ではPPT:88Wが許容されていますが、全コア最大動作倍率の制限が先に効いてくるので、CPU Package Powerは平均68W程度とTDPに対して微増に収まっています。
一方で省電力モードの45Wや35WではPPTとして54Wと42Wが許容されているので、テスト開始から5分程度はそれに応じたCPU Package Powerが生じていますが、5分を経過した辺りでCPU Package Powerが45Wと35Wに制限される様子が確認できます。
各TDP設定においてテスト中のコアクロックは当然ながらCPU Package Powerに応じて変化します。
「AMD Ryzen 5 PRO 4650G」の場合、TDP65W(PPT:88W)において全コア4.27GHz程度で動作しますが、TDP45W設定ではPPT:54Wが許容される開始直後は4,10GHz程度、PPT:45Wに下がる後半では3.87GHz程度となります。さらにTDP35W設定ではPPT:42Wが許容される開始直後は3.80GHz程度、PPT:35Wに下がる後半では3.57GHz程度となります。
管理人が明確に確認できたのはRyzen 4000Gシリーズからなのですが、Ryzen CPUでもIntelのPL1/PL2/Tauのようなステップ型の電力制御として「SmartShift Control」が導入されたようです。
AMD製CPUのSmartShift Controlでは、ごく短期間の電力制限解除を行う「Fast PPT(Short PPT)」、数分程度の中期的な電力制限解除を行う「Slow PPT(Long PPT)」、そして最終的な長期間電力制限値となる「Sustained PPT」の3つのパラメーターが確認できています。BIOS上ではまだ存在を確認できていませんが、前者2つの許容時間を決めるパラメーターも存在するようです。
続いてCPU消費電力の検証結果をチェックしていきますが、当サイトのCPUレビューでは主として”CPU温度への影響要因”という意味においてCPU消費電力を評価しているので、動画のエンコードによって長期間電力制限が効いている状態の平均的な消費電力をCPU消費電力として比較します。
個人的な意見としては短期間電力制限は短期間かつCPU温度によっても制御されるのでCPU温度への影響要因として比重は小さく、また瞬間ピーク電力はせいぜいがTDP+100W程度なので、マザーボードVRM電源の破損を心配するほどではなく、その程度の電力超過は電源ユニットで十分吸収できるので、評価対象としてあまり意味がないと思っています。
またCPU製品仕様のTDPについては、定義がIntel/AMDで厳密には異なり、各社の具体的な測定・算出方法も不明なので、CPU動作クロックを含めて総合的に判断する必要があるものの、基本的には長期間電力制限時の消費電力がTDP仕様値とほぼ一致、もしくはTDP仕様値を下回れば正常であると評価します。
当レビュー記事では簡単のため割愛しますが、CPUの消費電力に関する評価基準の補足として下記の記事も参考にしてください。
・2019年最新CPUの消費電力・発熱・TDP・温度について - 爆熱評価のウソほんと
CPU消費電力の測定には電源ユニット「Corsair HX1200i」のCorsair Linkによる電力ログ機能を用いてコンセントからの出力ではなく変換ロスを差し引いたシステム全体への入力電力をチェックしています。なお電源ユニットに対する実際の最大瞬間負荷は測定値より50~100W上回る場合があるので電源ユニットの電源容量選択の参考にする場合は注意してください。
CPUの消費電力や温度の測定を行う負荷テストについては、FF14ベンチマークの動画(再生時間6分40秒、4K解像度、60FPS、容量5.7GB)を変換ソースとして、Aviutl&x264を使って動画のエンコードを行います。動画エンコードの同時実行数については4~6コアは並列なし、8~14コアは2並列実行、16コア以上は3並列実行としています。
注:CPUのストレステストについてはOCCTやPrimeなど専用負荷ソフトを使用しているレビューもありますが、管理人の私見としてはCPU負荷が非現実的なので、当サイトではPCゲームや動画のエンコードなど一般的なユースを想定した場合、ほぼ最大のCPU負荷となるx264による動画エンコードとストレステストに採用しています。
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」と比較対象の各CPUについて、上記負荷テスト中の”平均値を消費電力”、”最大値を瞬間的な最大電源負荷”と表記した場合、システム消費電力の測定結果は次のようになっています。
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」のCPUにフル負荷をかけた時の消費電力は60.9W、瞬間最大負荷は64Wでした。CPUだけの負荷であればCPU Package Powerは37W程度なので、TDP65WのCPUながらTDP35W相当の動作となっており、CPUとiGPUへ同時に負荷をかけても、CPU単体と比較して+10~20W程度なのでTDP65Wを十分に下回ると考えていい消費電力です。
6コア12スレッドのRyzen 5 PRO 4650Gや8コア16スレッドのRyzen 7 PRO 4750Gと比較してみても、「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」は際立って優秀な省電力性能です。
AMD Ryzen 3 PRO 4350GのOC耐性について
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」のOC耐性について簡単に紹介しておきます。「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」などRyzen PRO 4000Gシリーズは公式スペックとしては、コア倍率ロックでOCに非対応で、AMD公式のOCツールRyzen Masterも使用できませんが、2020年8月現在、MSI MPG B550I Gaming Edge WiFi(BIOS:120)など一部の環境ではBIOSからならCPUコア倍率の変更、つまりオーバークロックが可能です。
コア倍率とコア電圧のみを指定する非常に簡単なOC設定ですが「コア倍率:44倍、コア電圧1.350V」に固定することによって、「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」を全コア4.4GHzにオーバークロックして、安定動作が確認できました。
上位モデルではコア電圧を1.350~1.400V以上に昇圧すると消費電力とCPU温度が飛躍的に大きくなって冷やすことが困難になりますが、4コア8スレッドの「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」なら、全コア4.4GHz/コア電圧1.350VでもCPU Package Powerは50W程度なので十分に運用可能な範囲に収まります。システム消費電力の増加も定格と比較して+10W程度なので悪くありません。
なお全コア4.5GHzについては、Cinebenchの一発芸なら特に問題ないのですが、動画エンコード等の長期的な負荷に対して、CPUコア電圧1.400V以下では安定動作を確認することができませんでした。
1.400VでもCPU Package Powerの最大値は60W程度と低く余裕はありそうなのですが、1.400V以上に昇圧するのは純粋に電圧値として若干不安になるので避けました。
CPU個体差もあると思いますが、全コア4.4GHzまでなら特に問題なく、4.5GHz以上からは常用を目指すと手動オーバークロックが難しくなると思います。
AMD Ryzen 3 PRO 4350Gのクリエイティブタスク性能を比較
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」のクリエイティブタスク性能をRyzen 5 3600やCore i5 10400と比較してチェックしていきます。「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」は、4コア8スレッドのCPUであり、単コア最大動作クロックは4.0GHz、全コア最大動作クロックは4.0GHz程度です。3Dレンダリングや動画のエンコードなど全コアに対して大きく負荷がかかる時の実動クロックは4.10GHz程度となります。
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」は全コア4.10GHz程度で動作するので、CPUのマルチスレッド性能を測定するベンチマークで定番のCinebench R15のスコアは1000程度、Cinebench R20のスコアは2400程度でした。
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」は定格設定におけるCPUコアクロックが単コア/全コアともに最大4.1GHzと低く、実質的にTDP35Wに近い動作なので、今回は全コア4.4GHzに手動オーバークロックしたケースについてもチェックしてみました。
Cinebench R15のスコアは1100程度、Cinebench R20のスコアは2550程度となり、定格と比較して10%弱程度の性能向上が期待できます。またCinebench R15のシングルスレッドスコアも向上しています。
CPU性能の詳細な検証に用いるクリエイティブタスクについてはCPU使用率がフルロードになる3Dレンダリング、動画エンコード、RAW現像、ゲームビルドの4種類となっています。
具体的な測定内容は、3Dレンダリングはオープンソース3DCGソフト「Blender」の公式ベンチマークソフト、動画のエンコードは無料で利用できる動画編集ソフトとして国内外で多数のユーザーがいる「Aviutl」のx264エンコーダによるフルHD動画のエンコード、RAW現像はDxO PhotoLab(PRIMEあり、5472×3648解像度のRAW画像ファイル 100枚)、デモプロジェクト「Infiltrator」を使用したUnreal Engine 4によるゲームビルドです。
3DCGソフト「Blender」の公式ベンチマークソフトで測定する3Dレンダリング性能についてはレンダリング時間だけを見ても性能差が直感的にわかりにくいので、比較対象の中で最も遅いものを基準にして、「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」を含めた各種CPUのレンダリング速度を性能比としてグラフ化しました。
x264エンコーダによって1920×1080解像度の動画をH.264 (MPEG-4 AVC)の1920×1080解像度へエンコードした時のエンコード速度について「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。
DxO PhotoLabによるRAW現像速度について「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。
「Unreal Engine 4 - Infiltrator」のビルド性能については、ビルド時間だけを見ても性能差が直感的にわかりにくいので、比較対象の中で最も遅いものを基準にして、「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」を含めた各種CPUのビルド速度を性能比としてグラフ化しました。
4コア8スレッドCPU「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」のクリエイティブタスク性能を簡単にまとめると下のグラフのようになっています。()内にはクリエイティブタスクでCPUに100%負荷がかかった時の典型的なシステム消費電力を記載しています。いずれもiGPU使用時ですが、Ryzen 3 3300XだけはGPUにGeForce GT 1030を搭載した時の消費電力です。
Ryzen 3 PRO 4350Gは全コア4.10GHz程度で動作する定格設定の場合、Ryzenシリーズの中では上位クラスのRyzen 5で、前世代最上位だったRyzen 5 3400Gと比較すると、同じく4コア8スレッドながら消費電力は半分近く低減しているのに対し性能は10~20%程度の向上を果たします。
クリエイティブタスクで重要なマルチスレッド性能に直結するCPU部分が、3400GではRyzen 7 2700Xなど第2世代RyzenのZen+アーキテクチャに対し、Ryzen 3 PRO 4350Gは第3世代Ryzenと同じZen2アーキテクチャなので、ゲームビルドやx265エンコードなどZen+が苦手としたタスクでは30%を超える性能向上も期待できます。
一方で第3世代Ryzenのデスクトップ向け標準モデルRyzen 3 3300Xと比較すると性能はやや下回ります。またIntel第10世代Core i3については最もコアクロックの低いCore i3 10100よりも僅かながら高速ですが、2万円を少し超えて同価格帯となるCore i3 10300/10320であれば同程度の性能です。
ただしUnreal Engine 4だけは最新CPUと比較して相対的に大きくスコアを落としました。Intel製CPUのほうが若干優位になりやすいタスクではあるのですが、Ryzen 3 3300Xと比較して特に差が大きいので、3300Xの16MBに対して4MBと少ないキャッシュが影響しているのではないかと思います。
PCMark10の一部テストでもスコアを落とすものがある(こちらは実用上は体感できないケースだと思いますが)ので、小さいキャッシュ容量が足を引くタスクもあるようです。
またRyzen 3 PRO 4350Gを全コア4.4GHzにOCすると、4.1GHzから4.4GHzという数字の通り、定格と比較して10%弱程度の性能向上を果たします。ゲームビルド等のキャッシュ容量が効くタスクを除けば3300Xに並ぶ性能になります。消費電力の増加も10W程度、OC設定もコア倍率とコア電圧の2つを弄るだけと非常に簡単なので悪くない運用方法だと思います。
AMD Ryzen 3 PRO 4350Gのグラフィック性能とメモリOCについて
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」のグラフィック性能やメモリOCについてチェックしていきます。「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」などRyzen 4000Gシリーズも第3世代Ryzenと同様にインターコネクトInfinity Fabricの動作周波数はメモリ周波数と同期しており、加えてRyzen APUでは統合グラフィックスであるRadeonグラフィックスのビデオメモリはシステムメモリと共有されているので、メモリ周波数が総合的なパフォーマンス、特にグラフィック性能へ大きく影響します。
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」などRyzen PROシリーズはCPUコアクロックやGPUコアクロックのOCには非対応ですが、メモリはOCできるのでメモリOCによって大幅なパフォーマンス向上が狙えます。
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」は第3世代Ryzenと同じくZen2アーキテクチャが採用されているので、メモリ周波数は、シングル/デュアルランクのメモリ2枚組み構成において対応する定格最大が3200MHz、Infinity Fabricが1:1同期可能な一般的な常用OC限界が3600MHzとなっています。
なお前世代Ryzen 3000Gシリーズは3000番台ながらCPUアーキテクチャはRyzen 7 2700Xなど第2世代のZen+だったのでメモリ周波数は定格最大が2933MHz、一般的な常用OC限界が3200MHzでした。単純なiGPUスペックだけでなく、このメモリ周波数の違いもグラフィック性能の差に影響します。
メモリOCに対する挙動には大差ないので、上位モデル「AMD Ryzen 5 PRO 4750G」の環境でメモリOCを試してみた結果を紹介すると、
メモリ周波数3600MHzかつメモリタイミング14-15-15-35-CR1で実用最速クラスのOCプロファイルを収録する「G.Skill Trident Z Neo F4-3600C14D-16GTZN」や「Team T-FORCE Xtreem ARGB DDR4 TF10D416G3600HC14CDC01」は8GB×2=16GBで安定動作を確認できました。
他には大容量な16GB×2=32GBの「G.Skill Trident Z Black F4-3733C17D-32GTZKK」を使用したところ、メモリモジュールはデュアルランクですが、第3世代Ryzenにおいてスイートスポットと公式スライドでも紹介されている、メモリ周波数3600MHzかつメモリタイミング16-16-16-36-CR1が安定動作しました。
なおRyzen 3 PRO 4350GなどRyzen 4000Gではシステムメモリの一部がiGPUのビデオメモリとして共有されているため、メモリ周波数を3600MHz以上にOCすると上のRAM Testのようなメモリ安定性テストをクリアできても、PCゲームなどでiGPUに負荷がかかるとクラッシュする場合があります。
Ryzen 4000GなどAMD Ryzen APUでメモリOCを行う場合は、Night Raid Stress Testなどを使用してメモリOC時のiGPUの安定性もチェックしてください。
RAM Testなどメモリ安定性テストをクリアできるのに、iGPU負荷でクラッシュする場合は、SOC電圧を固定電圧で1.100~1.200V、もしくはオフセットで+0.050~0.100Vに昇圧するだけでiGPU負荷でも安定することが多いです。
iGPUとしてRadeon Graphicsを搭載しているとはいえ、CPUアーキテクチャは第3世代Ryzenと同じくZen2が採用されているので、3600MHz以上のプロファイルを収録したメーカー動作確認済みOCメモリであれば、「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」でも3600MHzのメモリOCはInfinity Fabricが1:1同期を含めて比較的簡単に安定動作を期待できると思います。
メモリOCに関するさらに詳しい情報やオススメOCメモリについてはこちらの記事を参照してください。
・【できる!メモリOC】 OCメモリの選び方から設定まで完全解説
グラフィック性能への影響が大きいメモリOCについて簡単に解説が済んだので、続いて本題となる「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」のグラフィック性能をチェックしていきます。
グラフィック性能比較で最もメジャーな3DMarkで現在主流なDirectX11のベンチマーク「FireStrike」のグラフィックスコアについて、「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。
3DMarkのCPU統合グラフィックス向けDirectX12ベンチマーク「NightRaid」のグラフィックスコアについて、「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。
国内最大手かつ大人気のMMO RPG「ファイナルファンタジーXIV」の2019年最新大型アップデート「FFXIV: 漆黒のヴィランズ」の公式ベンチマークソフトで、「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」のPCゲーミング性能を測定してみました。FFXIV: 漆黒のヴィランズの公式ベンチマークソフトでは総合スコアを1.5×100で割った値がちょうど平均FPSになっています。
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」は、グラフィック品質をデスクトップ向け標準にすると、1280×720のHD解像度まで下げてやっと平均60FPSの快適水準を上回ります。1600×900なら8000近くはマークできるのでグラフィック設定を多少下げれば平均60FPSを狙えそうです。1920×1080のフルHD解像度となると公式ベンチの評価は快適となっていますが、平均40FPSくらいなのでちょっと厳しいというのが正直な感想です。
また2020年最新PCゲームと比較しても高画質でグラフィック負荷が重いPCゲームに分類されるシングルプレイ用ロールプレイングゲーム「ファイナルファンタジーXV」の公式ベンチマークソフトで、「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」のPCゲーミング性能を測定してみました。
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」は、1280×720のHD解像度、グラフィック設定:軽量品質においてベンチマークスコアは3800程度、快適度評価は「普通」でした
最後にPCの総合的な性能を測定するためのベンチマークソフトPCMark10のクリエイティブ性能を測るテストグループ「Digital Content Creation」を使用して、iGPUのグラフィック性能がクリエイティブタスクへ与える影響をチェックしていきます。
クリエイティブ性能を測る「Digital Content Creation」は、写真に対するフィルタリング処理の性能をシミュレートする「Photo Editing」、レイトレーシングによる3Dグラフィクス制作(3Dレンダリング)をシミュレーションする「Rendering and Visualization」、動画編集の性能をシミュレートするワークロード「Video Editing」の3つのワークロードで構成されています。
PCMark10 Digital Content Creationの個別ワークロードについて、「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」を含めた各種CPUのベンチマークスコアを比較すると次のようになっています。
まず前提として3つのワークロードはいずれも、RTX2080TiとiGPUのCore i7 10700のスコアからGPUバウンドであり、また8コアでiGPUの弱いCore i7 10700と4コアでiGPUの強いCore i7 1065G7のスコアがほぼ並ぶことから、GPUだけでなくCPU性能も影響することがわかります。
つまりPCMark10 Digital Content Creationの3つの個別ワークロードは、前の章で検証した4つのクリエイティブタスク性能と違って単純にCPUマルチスレッド性能にスケーリングするのではなく、CPUとGPU(iGPU)の総合力・バランスが重要になってきます。
AMD Ryzen APUとIntel Core CPUを比較すると、単純なCPUマルチスレッド性能ではRyzen 7 PRO 4750Gと同等のCore i7 10700はiGPU性能の低さが足を引っ張るので、Photo EditingとRendering and Visualizationの2つのテストではRyzen 4000Gで最下位となるRyzen 3 PRO 4350Gが上回る性能を発揮し、上位2モデルはCPUとiGPUの性能にスケーリングして性能をさらに伸ばします。
Video Editingは前2つに比べてスコア変化が小さいのですが、Ryzen 3 PRO 4350GはCore i3 10100を、Ryzen 5 PRO 4650GがCore i7 10700を上回っています。
グラフィックボードを用意せずCPUの内蔵グラフィックスによって簡単な写真編集や動画編集を行うなら、Ryzen 4000Gシリーズを選ぶのが良いと分かります。
AMD Ryzen 3 PRO 4350Gのレビューまとめ
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」を検証してみた結果のまとめを行います。簡単に箇条書きで以下、管理人のレビュー後の所感となります。良いところ or 概要
- 4コア8スレッドAPU
- 定格でメモリ周波数3200MHzに対応
- 定格で全コアが実動平均4.1GHz程度
- 定格時のCPU Package Powerは37W程度なので、TDP35W相当
- 前世代最上位3400Gを10~30%も上回るクリエイティブタスク性能
- 3400G比で半分近い消費電力という非常に優れた省電力性能
- Intel第10世代Core i3よりもCPUの電力効率に優れ、iGPUの性能は2倍以上
- 4コア8レッドAPUながら税込み2.2万円程度(2020年8月現在)
- Ryzen PROシリーズなのでCPU・GPUのコアクロックは倍率ロックでOC非対応
(Ryzen Masterは非対応だが、BIOSからならOCできるかも) - Unreal Engine 4によるゲームビルドなど3300Xや10100と比較して性能の低いタスクもある
- AMD正式サポートのマザーボードはX570とB550など500シリーズのみ
- 通販は基本的にMBセット購入必須なバルク版のみの取り扱い(2020年8月現在)
4コア8スレッドAPU「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」は、前世代最上位Ryzen 5 3400Gの半分近い消費電力で10~30%も上回るクリエイティブタスク性能(CPUマルチスレッド性能)を発揮し、iGPUについても7nmプロセスで改良されたRadeonグラフィックスによって性能差10%程度をキープしています。仕様値TDPはスタンダードな65W設定ですが、実質的にはTDP35W相当の消費電力となっており、Ryzen 4000Gシリーズの中でも特に省電力性能の高さが際立つエントリーユーザー向けモデルです。
競合Intelの4コア8スレッドCPUである第10世代Core i3と比較すると、Core i7/i9の上位モデルと違ってCore i3はPL1:50Wもあればコアスレッド数相応の性能を発揮できるので、単純な性能面では伯仲していると言えると思います。
Ryzen 4000Gはキャッシュ容量が小さいせいか、第3世代Ryzenの標準モデルと比較して若干性能を落とす傾向もあるので、Ryzen 3 3300Xと第10世代Core i3を比較した時ほど一方的な感じはありません。
ただし、GPU性能に依存しない純粋なCPUマルチスレッド性能や、同等のグラフィックボードを搭載するという条件なら上のようになりますが、PCMark10のテストグループDigital Content Creationで見たように、iGPUにグラフィック性能を任せると、AMD Ryzen 4000GとIntel第10世代CoreのiGPU性能には大きな隔たりがあるので、GPUボトルネックが効くクリエイティブタスクであれば、「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」が8コア16スレッドのCore i7 10700を上回るケースさえあり得ます。
iGPUに目を向けると、Intelのデスクトップ向けCPUで一般に搭載されているUHD Graphics 630の2倍以上、一部モバイル向けにしか展開されていませんがIntel製iGPUでは現状最速のIris Plus Graphics(64EU)よりも30%も高い性能を「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」は発揮します。
前世代4コア8スレッドのRyzen 5 3400Gと比較すると実性能で10%程度の性能低下ではありますが、消費電力はCPUマルチスレッド性能の時と同様に、半分近く減っているので、やはり省電力性能の高さには目を見張るものがあります。
流石に最新高画質ゲームは難しいですが、オーバーウォッチやフォートナイトのような軽量なe-Sports系PCゲームなら十分対応が可能ですし、2Dイラストや動画編集などのクリエイティブタスクでCPUの足を引っ張らず作業をサクサク行えるだけのグラフィック性能は備えています。
価格を見ると、Core i3 10100は10%弱程度性能が下がるもののiGPUありで1.6万円と安価、CPUがほぼ同性能になるCore i3 10300/10320でも1,2千円安いという具合で、iGPU性能には大きく差がありますが、写真編集など一般的なクリエイティブタスクでどの程度影響するのかはベンチマーク等で紹介が難しいポイントだということもあり、iGPU搭載が前提になるとCore i3 10100の割安感が目立ちます。
上位モデルのRyzen 5 PRO 4650Gにも言えたことですが、Ryzen 3 PRO 4350Gは競合IntelのCore i3を考えると、標準モデルのRyzen 3 3300Xに+2,3千円程度の価格の販売を期待したかったというのが正直なところです。
「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」などRyzen 4000Gシリーズは2020年8月現在、『プラスチック製トレイパッケージに封入されたバルク品のみ、かつ多くの通販サイトではマザーボードとのセット購入が必須』となっており、対応マザーボードを購入済みのユーザーにとっては残念な形態です。せめて従来のバルク品CPUのようにCPUクーラーやメモリとのセット購入も可能にして欲しいところ。
4コアCPUでビデオカードを必要としない容積5L前後のコンパクトPCを組むのであれば、高電力効率かつ高グラフィック性能な4コア8スレッドAPUの「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」はベストバイと言い切って間違いない、オススメの製品です。
以上、「AMD Ryzen 3 PRO 4350G」のレビューでした。
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AMD Ryzen 3 PRO 4350G レビュー
— 自作とゲームと趣味の日々 (@jisakuhibi) August 30, 2020
✅定格時はTDP35W相当という優れた省電力性能
✅3400Gを10~30%も上回るクリエイティブ性能
✅iGPUの性能はCore i3(4C8T)の2倍以上
⛔UE4など3300Xや10300と比較して性能の低いタスクも
⛔X570/B550/A520のみ正式対応https://t.co/mGBvfaL5my
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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
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