スポンサードリンク
第3世代Ryzenにネイティブ対応となるX570マザーボードの一部について、チップセットクーラーに搭載された冷却ファンの吸気口の真上にグラフィックボードが被さるという、所謂、”窒息”なレイアウトが巷で話題になっているので、窒息レイアウトなPCHファンに実害はあるのか検証してみました。
この件についてツイッターでヒヤッとするやり取りのあった2社(一方は投稿削除済み)のマザーボードがちょうど手元にあるので、「ASRock X570 Taichi」と「MSI MEG X570 ACE」の2枚を使用してチップセットクーラー搭載冷却ファンのレイアウトによる差を比較してみます。ちなみにどちらも貸し出しサンプル機なので特定メーカーに対する忖度はない。
検証機材と検証方法
現実的に問題があるのかどうかが重要なので、今回はPCケースに組み込んで検証を行いました。検証機材のPCケースには「Cooler Master MASTERCASE MAKER 5t」を使用しており、ケースファンにはNZXT製のエアフロー重視でPCケースの吸気・排気ファンに最適なケースファン「NZXT Aer F 140」をPCケースのフロントに吸気ファンとして2基、リアに排気ファンとして1基設置してファン回転数1000RPM固定で運用しています。
マザーボード以外の機材は完全に一致させており、具体的な検証機材は次のテーブルの通りです。
テストベンチ機の構成 | ||
OS | Windows10 Home 64bit | |
CPU |
AMD Ryzen 9 3900X (レビュー) |
|
CPUクーラー |
ASUS ROG RYUO 120 (レビュー) | |
M/B | ASRock X570 Taichi (レビュー) |
MSI MEG X570 ACE (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill Trident Z RGB F4-3200C14Q-32GTZRX DDR4 8GB*4=32GB (レビュー) |
|
グラフィック ボード |
ZOTAC RTX 2080Ti AMP Extreme Core (レビュー) |
|
システム ストレージ |
Samsung 860 PRO 256GB (レビュー) |
|
データ ストレージ |
CFD PG3VNF 1TB (レビュー) |
|
電源ユニット |
Thermaltake Toughpower iRGB PLUS 1250W Titanium (レビュー) |
|
PCケース | Cooler Master MASTERCASE MAKER 5t (レビュー) NZXT Aer F 140 3基 (レビュー) |
今回の検証に当たって、マザーボード備え付けヒートシンクとの組み合わせがメーカーから想定され、ヒートシンクレスで販売されているPCIE4.0対応NVMe M.2 SSD「CFD PG3VNF 1TB(近日レビュー予定)」を、それぞれのマザーボードの最下段のM.2スロットに設置しました。
下の写真の通りマザーボード以外は完全に一致させています。なおチップセットクーラーのファン回転数制御についてはASRock X570 Taichiをサイレントモード、MSI MEG X570 ACEをバランスモードとしました。
具体的な検証方法についてですが、3DMark TimeSpy グラフィックテスト1をループ再生させながら、上で紹介したようにPCHのPCIEレーンに接続されているPCIE4.0対応NVMe M.2 SSDにCrystalDiskMark6.0.2(QD32, 8GiB)を5周実行し、約25分程度に渡って負荷をかけ続け、その間の各種温度やファン回転数をHWiNFOでロギングしました。
なお管理人が検証したわけではありませんが、海外のプロOCerによると、X570チップセットの発熱(消費電力)はX470チップセットの2倍以上ではあるものの、せいぜいが10W程度とのことです。
【追記】------------------------------
なおASRock X570 TaichiなどASRock製X570マザーボードの冷却構造について補足しておくと、
アーマー正面のエアスリットの前を塞ぐものがなく、このスペースの抵抗が小さい場合はここが吸気口になり、アーマー内部のPCHヒートシンクにファンからの風が吹きつける形で四方へ抜けていきます。
これについては、こよりを使った簡単な実験で確認が可能です。
一方でASRock公式が言うには、仮にこの正面のエアスリットが塞がれたとしても、下の写真のようにファン形状とスリット形状が理由だと思いますが、下側から吸気し、上と左に排気されるとのことです。
なお、形状に凹凸のあるグラフィックボード等が真上に配置された時に、正面のエアスリットが”気流を阻害されるほど”に塞がれることは基本的にあり得ないので、上のようなエアフローになることはなく、グラフィックボードという熱源の影響を受けた気流が流入するというのが、管理人の私見で、今回の検証ではその影響を確認したつもりでした。
極端な話、2つ目のエアフローが可能ならアーマーで分離されてGPUの影響は受けにくくなるはずなので、いっそ正面のスリットをテープで塞いだほうが冷えるのでは?とも思います。 気になる人は試してみてくださいな。
------------------------------
検証結果
まずはチップセット温度とチップセットクーラーのファン回転数をチェックします。チップセット温度については、MSI MEG X570 ACEが最大で約78度、ASRock X570 Taichiが最大で約81度となりました。チップセット温度に大きな差はないもののファン回転数にはかなりの差があります。
MSI MEG X570 ACEが2000RPM程度に収まるのに対して、ASRock X570 Taichiはチップセット温度が80度へと達した時点でファン制御が外れてフル回転になり、ファン回転数は6000RPMを超過します。
ファンサイズや形状でノイズレベルは変化するので必ずしもファン回転数の大小とノイズの大小は一致しませんが、流石にファン回転数に3倍もの差があるとASRock X570 Taichiのほうがファンノイズは大きく、小径とはいえ6000RPMで回転されると、PCケースの中からシャーという回転音が聞こえます。
グラフィックボードなど他のファンノイズに埋もれる程度の音量ではありますが、ASRock X570 Taichiのチップセットクーラー冷却ファンのファンノイズは、はっきりと聞き分けることができるので、これは実害と言えると思います。
続いてグラフィックボードのGPU温度とファン回転数をチェックします。
グラフィックボードについてはMSI MEG X570 ACEでもASRock X570 Taichiでも、マザーボードによる差は生まれませんでした。チップセットの消費電力がマザーボードによって変わるわけではないので、当然と言えば当然な結果です。
最後にSSD温度とアクセススピードについて結果をチェックします。
左下がASRock X570 Taichi、右下がMSI MEG X570 ACEの結果です。どちらも目立ったサーマルスロットリングは発生しておらず、RTX 2080 Tiのような発熱の大きいグラフィックボードにフル負荷がかかっていても温度的には特に問題はないようです。
このストレステスト終盤におけるチップセットクーラーやSSD周辺のサーモグラフィーも撮影しました。
やはりグラフィックボードに冷却ファンの吸気口が被さっているからか、チップセット付近の基板温度には10度程度の差があります。とはいえいずれも50~60度程度なので、これを実害というと流石に神経質が過ぎるかと思います。
まとめ
追記部分で解説していますが、ファン回転数の差はPCHファンのレイアウトの問題ではなく、単純なチップセットファンのファン速度制御の問題でした。
GPUストレステスト中にPCIE4.0 NVMeに対してCDMをループするという、かなり重い負荷に対する結果がこの程度なので、メーカーの主張通り故障等のハードウェア不具合に繋がるような心配はないと断言してよいと思います。
一方で「MSI MEG X570 ACE」のレイアウトが優秀なのは間違いないので、X570マザーボードメーカー各社の開発期間がどの程度あったのかはわかりませんが、意識的にこのレイアウトを製品へ採用してきたMSIの開発陣には素直に賛辞を贈りたいです。
以上、いろいろ忙しいので駆け足でお送りしましたが、
『窒息レイアウトなX570チップセットクーラーに実害はあるのか?』でした。
追加検証 - ASRock製M/BでPCHファンのファン速度を制御してみる
前回の検証で、「ASRock X570 Taichi」と「MSI MEG X570 ACE」の2枚を使用してチップセットクーラー搭載冷却ファンのレイアウトによる差を比較してみたところ、PCHファン回転数にだけ大きな差が出るという結果となり、「ASRock X570 Taichi」ではPCHファンのファン速度が最大回転数の6000PRMに達しました。「ASRock X570 Taichi」や、ほぼ共通レイアウトの「ASRock X570 Phantom Gaming X」ではファン速度をBIOSメニューからカスタム設定できます。
カスタマイズモードでは他のファン端子と同様に比例カーブを決める温度とファン速度を4つ指定できます。下限温度となる温度1に対するファン速度を0に設定すると、チップセット温度が温度1以下の時にチップセットファンは停止します。
また各種プリセットではチップセット温度が80度を上回るとファン制御が外れて、チップセットファンはフル回転になりますが、カスタマイズ設定ではチップセットファンがフル回転になる臨界温度を最大100度まで引き上げて設定できます。
そこで今回は「ASRock X570 Taichi」とほぼ共通レイアウトの「ASRock X570 Phantom Gaming X」を使用して、PCHファンを3000RPMと6000RPMに固定した2つのケースについて比較検証してみました。マザーボード以外の検証機材や検証方法は上の内容と完全に同じです。
測定に当たっては室温や空調の影響には可能な限り配慮していますが、室温の参考として最初にテスト中のCPU温度を比較しておきました。フロントに吸気ファンがあり簡易水冷CPUクーラーのラジエーターもPCケース前方上部に設置されているので、CPU温度を参考値として室温に大きな差がないと考えて問題ないと思います。正直、恒温室でも用意しないとこれ以上の精度を求めるのは無理です。
サクッと検証結果をチェックしています。
PCHファンが3000RPMでも6000RPMでもチップセット温度、SSD温度、GPU温度、GPUファン回転数のいずれも大きな差は確認できませんでした。
サーモグラフィを比較してみても、ほぼ差がありません。
一応、サウンドレベルメーターで騒音を確認しておくとテスト終盤において、3000RPM時が42.0dB、6000RPM時が42.9dBです。PCケースに入れており、かつGPUクーラーやケースファンが騒音の主音源になるので、サウンドレベルメーターの数値上は大した差はでません。ただし実際に聴覚としては3000RPMが完全にその他のファンノイズに埋もれPCケースの外装パネルに遮られてしまうのに対して、6000RPMはPCHファンの動作をはっきりと認識できます。この辺りは上で行った「ASRock X570 Taichi」と「MSI MEG X570 ACE」の比較の通りです。数値の差と実際の体感に差が出る部分なので注意してください。
以上の結果を踏まえると、ASRock製X570マザーボードでは、PCHファンのレイアウトに問題があって無理やり冷やすためにファン回転数が無茶苦茶高くなるのではなく、”チップセット温度をソースにしたファン制御カーブがただそうなっているだけ”ということのようです。
単純なファン制御の問題なので、煩いと感じる人は煩くないようにファン回転数を下げる手動設定に変更すればOKで、下げたからといって何かが壊れる心配はないと断言していい結果です。
チップセット周辺の基板温度には差が出ているので、MSIのようなPCHファンのレイアウトが賢く、このレイアウトにメリットがあることは間違いありませんが、GPUの影響を受けるとチップセット温度が80度前後に達するのはどのX570マザーボードも共通となっており、一方でGPUやSSDなどのパフォーマンスに影響する部位の温度には大差がでないことも検証の通りです。
”窒息”云々については、パッと見の外見で判断されただけの流言飛語の類でしたとさ、めでたしめでたし。
・X570チップセット搭載AM4マザーボード 販売ページ:
<Amazon><PCショップアーク><パソコン工房>
<TSUKUMO><ドスパラ><PCワンズ><ソフマップ>
関連記事
・AMD第3世代Ryzen CPUのレビュー記事一覧へ・次世代を担う第3世代Ryzenの魅力を徹底解説
・主要4社B450マザーボードを徹底比較!第3世代Ryzenにイチオシはどれか?
・第3世代Ryzen対応X570チップセット搭載AM4マザーボードのレビュー記事一覧
・X470チップセット搭載AM4マザーボードのレビュー記事一覧
・第3世代Ryzen自作PCにオススメなDDR4メモリの容量や速度を解説
・第3世代Ryzen搭載のオススメなBTO PCを解説
(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
スポンサードリンク