2025年現在、最強ゲーミングCPUと名高い、AMD Ryzen 7 9800X3DはメモリOCによってさらにゲーム性能が強くなるのか検証してみました。
OCプロファイルの適用だけで一発安定する6000MHz/CL28、CPUのメモコンOC耐性次第ですが1:1同期も可能な6400MHz/CL30、1:2同期になるもののさらにハイクロックな7200MHz/CL34の3種類のメモリOCによって、定格動作の5600MHz/CL46に対してどれくらい性能が上がるのか、また9800X3Dを真に最強にするメモリOCはどれなのか、4K解像度の実ゲームベンチマークで比較していきます。
*記事中ではメモリOCによるスループットやレイテンシの向上で緩和されるGPU性能制限についても便宜上、CPUボトルネックと呼びます。
検証機材とテストタイトルや設定について
ベンチマーク比較に使用する検証機材やテスト設定について説明しておきます。
ベンチマークの検証機材について
CPUは2025年現在最強ゲーミングCPUと名高いRyzen 7 9800X3D、グラフィックボードはGeForce RTX 4090に統一して、メモリOCによるCPUボトルネック(ゲーム性能)を比較していきます。
検証に使用するテストベンチ機の詳細は下記テーブルの通りです。
テストベンチ機の構成 | |
CPU | AMD Ryzen 7 9800X3D (レビュー) |
メインメモリ | 【OC: 6000MHz CL28】 G.Skill Trident Z5 Royal Neo F5-6000J2836G16GX2-TR5NS DDR5 16GB×2=32GB (レビュー) 【OC: 6400MHz CL30】 【OC: 7200MHz CL34】 |
マザーボード | ASUS ROG CROSSHAIR X870E HERO (レビュー) |
CPUクーラー | Fractal Design Celsius S36 (レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM x3 (レビュー) |
ビデオカード | PNY GeForce RTX 4090 24GB XLR8 Gaming VERTO EPIC-X RGB OC 3FAN (レビュー) |
システムストレージ | Samsung SSD 990 PRO 1TB (レビュー) |
ゲームストレージ | Nextorage NE1N 8TB (レビュー) |
OS | Windows 11 Home 64bit |
電源ユニット | Corsair HX1500i 2022 (レビュー) |
ベンチ板 | STREACOM BC1 (レビュー) |
ゲーミング性能を測定するため統一検証機材として、ウルトラハイエンドGPUを搭載したグラフィックボード「PNYGeForce RTX 4090 24GB XLR8 Gaming VERTO EPIC-X RGB OC 3FAN」を使用しています。
PNY GeForce RTX 4090 24GB XLR8は、ベイパーチャンバー構造のベースコアや、厚みのあるファンブレードをバリヤーリングで結合した重厚な冷却ファンを採用する4スロット占有大型GPUクーラーにより、各社AIBモデルの中でもトップクラスの静音性を実現しています。
メーカーのPNYは2022年に株式会社アスクが販売代理店契約を結んだばかりの新参なので国内での知名度は高くありませんが、北米など海外市場では30年以上に渡りコンシューマーならびにビジネス向けで電子機器の製造・販売を行う大手メーカーです。
国内正規品なら代理店を介してPNY公式のグローバル保証と同じ3年間の長期保証が受けられるところも魅力です。
・「PNY GeForce RTX 4090 24GB XLR8」をレビュー
メモリOCの検証機材として、肝心のOCメモリにはG.Skill Trident Z5 Royal NeoやG.Skill Trident Z5 Neoを使用しています。
「F5-6000J2836G16GX2-TR5NS」、「F5-6400J3039G16GX2-TZ5NR」、「F5-7200J3445G16GX2-TZ5NR」については既に公開しているレビュー記事の通り主要4メーカーのマザーボード環境でOCプロファイルを適用するだけで安定動作を確認しています。
いずれもハイパフォーマンスなOC設定ですが、一発芸的なピーキーな設定ではなく、メモリストレステストもクリアして余裕で常用できる設定なので、一般的なゲーミングマザーボードなら問題なく安定動作するはずです。
多くのAMD 800シリーズチップセット搭載マザーボードではメモリ周波数 6400MHzのメモリOCを適用すると、MCLK/UCLKが自動設定のままだと2:1同期になってしまいます。
今回、「F5-6400J3039G16GX2-TZ5NR」を使用するメモリOCについては6400MHz/CL30のOCプロファイル適用に加えて、MCLK/UCLKの同期設定を1:1同期に指定し、またSOC電圧も1.280Vに昇圧しています。
7200MHz OCの「F5-7200J3445G16GX2-TZ5NR」はMCLK/UCLKの1:1同期は難しいので、自動設定で1:2同期のままです。
検証タイトルやグラフィック設定について
メモリOC別ゲーミング性能の比較には近年の高画質PCゲームやE-Sports系ゲームから以下の13タイトルを使用しています。
CPUやメモリのゲーム性能への影響を確認しやすいタイトル(なおかつテストシーン)を抜粋していますが、見ての通り、メジャータイトルばかりです。
- Assassin’s Creed Mirage (アサシン クリード ミラージュ)
- Baldur’s Gate 3 (バルダーズゲート 3)
- Black Myth: Wukong / 黒神話:悟空
- Cyberpunk 2077
- Hogwarts Legacy (ホグワーツレガシー)
- Horizon Forbidden West
- Marvel’s Spider-Man 2 (スパイダーマン 2)
- Microsoft Flight Simulator (2020)
- Shadow of the Tomb Raider
- Starfield
- STAR WARS Jedi: Survivor
- 【FHDのみ】 Counter-Strike 2
- 【FHDのみ】 Overwatch 2
今回の検証では下に掲載している詳細設定の通り、e-Sports系タイトル以外は基本的に4KもしくはWQHDの高解像度とし、グラフィック設定も高画質設定プリセット以上、対応しているタイトルについてはレイトレーシングも使用しています。
CPUボトルネックについて
今回の検証では筆者が独自に調査をしてCPUボトルネックが生じやすいタイトルでCPUバウンドなシーンを抜粋していますが、同じゲームでもシーンによってGPU負荷が変わりフレームレートが上下するように、CPUバウンドかどうかもシーンによって変わります。
タイトル毎に全てのシーンを解析できない以上(現実的に)、『CPUボトルネックが生じないと言われているタイトルが本当にそうである保証はない』という点も注意が必要です。
実ゲームの例を挙げると、Shadow of the Tomb Raiderのクワク・ヤク、Hogwarts Legacyはホグズミードのように、序盤はほぼGPUバウンドだけど、ゲームを進めていくとCPUバウンドなシーンが現れるというケースもあります。
シーンだけでなく特定のグラフィック設定、例えばSTAR WARS Jedi: Survivorのようにレイトレーシングを有効にすると60FPS前後でもCPUバウンドになることもあります。
またGPUバウンドについては単純にGPU負荷に応じて平均フレームレートが下がるので分かり易い(検証し易い)のですが、同様にフレームレートが頭打ちになるだけでなく、CPUバウンドは瞬間的にスタッター(カクツキ)が生じるような形でも現れます。
平均フレームレートやGPU Busy等のメトリックで該当シーンを探すのが難しいので、スタッターとして現れるCPUボトルネックは、さらに発見・検証の難易度が上がります。
下グラフはStarfieldの例ですが、Core i7 14700とCore i5 13400の平均フレームレートはほぼ同じですが、Core i7 14700のほうがフレームタイムは安定し、瞬間的に生じる大きいスタッターもありません。
CPUボトルネックについてまとめると次の通り、
- 同じゲームでも、CPUバウンドかどうかはシーンで変わる
- 単純な平均FPSの低下としては現れないこともある
ケース1: 瞬間的に大きなスタッターが発生(カクツキ)
ケース2: マイクロスタッターによるフレームペースの乱れ - 実は多数のメジャータイトルでCPUボトルネックを確認できる
となると、GPU性能がドンドン上がっていてグラフィックも豪華になっている現状においては、多少強引でな論調ですが、『CPUボトルネックはほぼ全てのゲームにあるものとしてCPUを選ぶべき』というのが筆者の考えです。
ちなみに、CPU(やシステムメモリのメモリ周波数)がボトルネックかどうかを確認するのに便利な指標として、Intelが自社GPUのドライバの評価のため導入した”GPU Busy”というメトリックがあります。
Intel PresentMonというソフトウェアをベースに開発されたフレーム解析ソフト CapFrameXを使用することで、GPU Busyを含め様々なゲーミング性能指標を簡単に確認できます。
9800X3DのメモリOCでゲーム性能を比較
早速、Ryzen 7 9800X3D環境におけるメモリOC別のゲーム性能について検証結果を見ていきます。
いきなりほぼ結論ですが、Ryzen 7 9800X3Dの定格メモリスペックである5600MHz/CL46を基準に、各メモリOC設定のゲーム相対性能をまとめました。
具体的には、各タイトルで平均FPSと最小FPS(1% Low)について5600MHz/CL46を基準に相対値をそれぞれ取り、さらに平均値にしています。
今回の検証ではRyzen 7 9800X3D環境において、6000MHz+の低レイテンシなメモリOCを行うことで、今回テストした11タイトルだと平均FPSで4%~5%程度、最小FPSで9%~10%程度のゲーム性能向上となりました。
個別タイトルを見ると最大では平均FPSで10%程度、最小FPSで20%程度も性能が向上するタイトルもあります。
一方で今回使用した3種類のメモリOC、6000MHz/CL28(G1)、6400MHz/CL30(G1)、7200MHz/CL34(G2)の3種類については、一応、『6400MHz(G1) > 6000MHz(G1) > 7200MHz(G2)』っぽい傾向になりました。ただ、正直なところ測定誤差に埋もれる程度の差です。
3種類のメモリOCについては、AIDA64のキャッシュ&メモリ ベンチマークで見ても、定格5600MHzとの差と比べて、誤差レベルの違いしかありません。IO系ベンチなのでそれ自体は再現性のある差ですが。
IO系ベンチでこのレベルの差だと、やはり実ゲームを使って信頼性高く序列を決めるのは難しいです。
メモリOC 3種類の違いについては予想外に差がなかったのですが、定格メモリスペックの5600MHz/CL46と、6000MHz+の低レイテンシなメモリOCには、4K解像度でもしっかりと差があります。
代表して6000MHz/CL28の検証結果を5600MHz/CL46と比較していますが、各ゲームタイトルで平均FPSと最小FPSについて性能比率をまとめました。
4K解像度やレイトレを含む高画質設定ではGPUバウンドな状況の占める割合が大きいので平均FPSの差は小さくなりがちですが、CPU性能やメモリのスループットやレイテンシといったオーバーヘッド、所謂、CPUボトルネックが瞬間的に影響するので、6000MHz+の低レイテンシなメモリOCによって最小FPSの差が大きく出ます。
平均FPSが低ければそれだけ高価なグラフィックボードが本領を発揮できていないことになるので分かり易く”もったいない”です。
一方、平均FPSよりも分かり難く、検証も難しいですが最小FPSも体感する滑らかさや快適さには重要です。
平均FPSが同程度でも最小FPSに差がある場合、瞬間的な大きいスタッター(カクツキ)やマイクロスタッターによる不安定なフレームペーシングといった現象が発生していて、平均FPSの数値ほど体感的に滑らかでない、快適でないということがあり得ます。
個別タイトルの比較結果についても簡単に説明・補足しておきます。
9800X3Dの4KゲーミングにもメモリOCはオススメ
ベンチマーク結果の通り、Ryzen 7 9800X3D環境における4Kゲーミング性能でも6000MHz+の低レイテンシなメモリOCを行うことで平均FPSで最大10%程度、最小FPSで最大20%程度のゲーム性能向上が期待できます。
なお今回は基準となる比較対象としてRyzen 9000シリーズCPUの定格メモリスペックである5600MHz/CL46としていますが、安価なBTOゲーミングPCの場合、4800MHzや5200MHzのDDR5メモリが採用されていることもあるので、そういった環境からのアップグレードならさらに性能は伸びます。
一方で、6000MHz/CL28(G1)、6400MHz/CL30(G1)、7200MHz/CL34(G2)などメモリOCスペックの違いについてはAIDA64 メモリ&キャッシュベンチマークのようなIOベンチでも定格5600MHzとの違いに比べると、ほとんど差がないので、ゲーム性能に有意に差があるかというと正直なところ誤差に埋もれるレベルです。
理屈としてはMCLK/UCLK同期を1:1同期にした6400MHz/CL30(G1)が最速、そこから6000MHzでCLの数値順となります。
7000MHz+のハイクロックについては7200MHz程度だと1:2同期による遅延増の影響も大きく、8000MHz以上でないと1:1同期組を超えることはないように思います。8000MHz以上となるとマザーボードOC耐性もかなり重要になるのでメモリOCのハードルはかなり上がります。
6400MHzの1:1同期はSOC電圧の昇圧などOCプロファイル適用以外の設定が必要ですし(難しくはないものの)、8000MHz以上のハイクロック対応OCメモリは非常に高価かつOC動作を安定させること自体も難しくなるので、6000MHzでCL30~CL36のOCメモリが導入し易さでもコスパでも強い選択肢だと思います。
CPUやグラフィックボードのスペックが最優先であり、それらを動かせる電源ユニットやCPUクーラー、ゲームを十分にインストールできる容量のSSDストレージといったPCシステムを組んで、やっとOCメモリを検討するという順番なので、OCメモリの優先順位は決して高くありません。
とはいえ、大容量キャッシュメモリによって非常に高いゲーム性能を発揮するRyzen 7 9800X3D環境であっても、GeForce RTX 4090、最新モデルならGeForce RTX 5080やRTX5090といった高性能GPUを組み合わせると、4KやWQHDの高解像度でもメモリ性能(CPU性能)を原因としたボトルネックは発生します。
定格5600MHz、16GB×2のメモリは2025年4月現在、だいたい1.2~1.3万円程度に対して、今回検証に使用したF5-6000J2836G16GX2-TR5NS等はかなり高選別なモデルなので+1万円を超えてしまいますが、一般的なOCスペックのOCメモリ(6000MHzでCL30~CL36)はせいぜい2.0万円以下で購入できます。
追加で予算は必要になりますが、+1万円未満で10万円を軽く超える高価なGPUの本来の性能(平均FPSで最大10%程度、最小FPSで最大20%程度)を引き出せる対価ということなら、意外と悪くないコスパです。
OCメモリの優先順位は高くないと書きましたが、10万円を軽く超える高価なグラフィックボードでゲーミングPCを組む、新調する時にあえて無視するほどでもないと思います。
以上、『9800X3DのメモリOCでゲーム性能を検証。4K/WQHDでもさらに強くなる』でした。
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最強ゲーミングCPUと名高いRyzen 7 9800X3Dは6000MHz+の低レイテンシなメモリOCで、4K解像度やWQHD解像度でもさらにゲーム性能が強くなるのか検証。
+1万円以下で10万円越えグラボが本領を発揮できるなら意外と高コスパじゃない?https://t.co/4gItV8pDVE pic.twitter.com/r5ZogTR50m— 自作とゲームと趣味の日々 (@jisakuhibi) April 24, 2025
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