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第2世代Ryzen Threadripper最上位モデルで32コア64スレッドの「Ryzen Threadripper 2990WX」を管理人も購入したので、全コア4.0GHzへの手動オーバークロックや第2世代Ryzen&Ryzen Threadripperの最新機能「Precision Boost Overdrive」を使用したパフォーマンスアップについて紹介がてら簡単にレビューしておきます。
AMD Ryzen Threadripper 2990WXの梱包・付属品
「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」の手動OCや「Precision Boost Overdrive」適用について解説する前に簡単に、梱包や付属品についてチェックしておきます。「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」のパッケージは第1世代の立方体に近いやや縦長(背が高い)のパッケージから、薄くて横長(幅の広い)パッケージに変わりました。輸送コストや店舗での陳列的に第2世代のパッケージの方が優秀とのこと。
第1世代ではパッケージからCPUを取り出すのも一苦労でしたが、「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」など第2世代Ryzen Threadripperでは、1.天面の紙製スリーブをカット、2.プラスチック窓のロックを外して開く、3.CPU本体収納の取り出し、の3ステップと簡単化されました。
CPU本体が収められた収納ケースも「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」はCPU本体よりも少し大きい程度のスリムなケースに変わって、使い勝手が良くなっています。
CPU本体については製品名など刻印が若干違うことを除けば外形やオレンジ色のプラスチック製ガイドなどほぼ同じ仕様です。
マザーボードへの設置手順も当然ですが従来通りです。同じTR4ソケット、というか第1世代と同時に発売されたX399マザーボードもBIOSアップデートで対応しているので。
AMD Ryzen Threadripper 2990WXの検証機材
AMD Ryzen Threadripper 2990WXの検証機材は次のようになっています。
テストベンチ機の構成 | |
CPU | AMD Ryzen Threadripper 2990WX 32コア64スレッド |
メインメモリ | G.Skill FLARE X for AMD RYZEN TR F4-3200C14Q-32GFX DDR4 8GB*4=32GB (レビュー) |
CPUクーラー &冷却ファン |
ENERMAX
LIQTECH TR4 ELC-LTTR360-TBP 360サイズ簡易水冷 (レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM x3 (レビュー) |
マザーボード |
・ASRock Fatal1ty X399 Professional Gaming(レビュー) ・MSI MEG X399 CREATION(レビュー) |
CPUベンチ用 ビデオカード |
MSI GeForce GT 1030 2GH LP OC ファンレス (レビュー) |
システムストレージ |
Samsung 860 PRO 256GB (レビュー) |
OS | Windows10 Home 64bit |
電源ユニット | Corsair HX1200i (レビュー) |
ベンチ板 | STREACOM BC1 (レビュー) |
ベンチ機のシステムストレージにはSamsung製MLCタイプ64層V-NANDのメモリチップを採用する18年最速のプロフェッショナル向け2.5インチSATA SSD「Samsung SSD 860 PRO 256GB」を使用しています。Samsung SSD 860 PROシリーズは容量単価が高価ではあるものの、システムストレージに最適な256GBや512GBモデルは製品価格としては手を伸ばしやすい範囲に収まっており、Ryzen Threadripper&X399のようなエンスー環境のシステムストレージ用に一押しのSSDです。
・「Samsung SSD 860 PRO 256GB」をレビュー
レビュー記事後半ではRyzen Threadripper 2990WXを使用したオーバークロックも実践するので検証機材CPUクーラーにはAMD Ryzen ThreadripperのTR4 Socketに完全対応となる大型ベースプレートと360サイズラジエーター採用で最高クラスの冷却性能を誇る簡易水冷CPUクーラー「ENERMAX LIQTECH TR4 ELC-LTTR360-TBP」を使用しています。
ENERMAX LIQTECH TR4シリーズにはラジエーターサイズ別で240サイズ/280サイズ/360サイズの3モデルがラインナップされていますが、当サイトでは全モデルについて詳細なレビュー記事を公開中です。
・ENERMAX LIQTECH TR4シリーズのレビュー記事一覧へ
360サイズや240サイズなど120mmファンを複数搭載できるマルチファンラジエーター採用の簡易水冷CPUクーラーを使用するのであれば、超硬質かつ軽量な新素材「Sterrox LCP」の採用によってフレーム-ブレード間0.5mmの限界を実現させた次世代汎用120mm口径ファン「Noctua NF-A12x25 PWM」への換装もおすすめです。1基あたり4000円ほどと高価ですが、標準ファンよりも静音性と冷却性能を向上させることができます。
・「Noctua NF-A12x25 PWM」を360サイズ簡易水冷に組み込む
CPUとCPUクーラー間の熱伝導グリスには当サイト推奨で管理人も愛用しているお馴染みのクマさんグリス(Thermal Grizzly Kryonaut)を塗りました。使い切りの小容量から何度も塗りなおせる大容量までバリエーションも豊富で、性能面でも熱伝導効率が高く、塗布しやすい柔らかいグリスなのでおすすめです。
グリスを塗る量はてきとうでOKです。管理人はヘラとかも使わず中央山盛りで対角線だけ若干伸ばして塗っています。特にThermal Grizzly Kryonautは柔らかいグリスでCPUクーラー固定時の圧着で伸びるので塗り方を気にする必要もありません。
普段は熱伝導グリスを上のようにてきとうに塗っているのですが、Ryzen Threadripperはヒートスプレッダが大きいため、『最初に等間隔に9カ所小さめに熱伝導グリスを落として、さらにその間の4か所に少し大きめに熱伝導グリスを塗る』というNoctua式の塗り方が良い感じだったので今回はNoctua式を採用しました。
この塗り方をするとRyzen Threadripperの大型ヒートスプレッダでもCPUクーラーの圧着でヒートスプレッダ全体へ熱伝導グリスが綺麗に伸びます。ただしグリスをかなり大量に使うので注意。
以上で検証機材のセットアップが完了となります。
AMD Ryzen Threadripper 2990WXの定格動作について
AMD Ryzen Threadripper 2990WXの検証機材のセットアップ(紹介)も完了したので、手動OCやPBO適用の検証結果について解説しようと思いますが、その前にAMD Ryzen Threadripper 2990WXの定格動作についても簡単に説明しておきます。「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」の動作周波数について仕様値をおさらいしておくと、ベースクロック3.0GHz、ブーストクロック4.2GHz、TDP250Wという値が与えられています。
「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」のブーストクロック4.2GHzとは、TDP250Wの範囲内で動作している時に32コアあるうちの1コアだけが動作可能な最大動作クロックです。
では32コア全体に負荷がかかってTDP250Wを満たすようなCPU負荷が発生するとどうなるかというと(CPUパッケージパワーが250Wに達する)、まずTDP250Wを超えないように電力制限がかかり、TDP250Wの範囲内で最大の動作クロックを実現するように調整されます。これがThreadripperを含めRyzen CPUに共通したフィードバック型の動作クロック制御機能「Pure Power」と「Precision Boost(2)」です。Ryzen CPUの動作クロックに関する予備知識については下の記事で概要を解説しているので参考にしてください。
・第2世代Ryzenの新機能「Precision Boost Overdrive」を徹底解説
「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」の場合は、CPU冷却条件が十分に満たされていれば「Precision Boost 2」と「XFR 2 (Extended Frequency Range 2)」が機能して、各CPUコアが3.0GHz~3.4GHzの範囲内で変動して実動平均3.2GHz前後で動作します。
なお各種レビューで「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」の定格動作時の性能としてよく言及される5200程度のCinebenchスコアは全コアがほぼ3.4GHz(3.35GHzくらい)で動作している時の数値となります。Cinebenchのように短時間の負荷に対しては上で適用される長時間電力制限よりも制限の緩い短時間電力制限が適用されてパフォーマンスが高く見えるので注意が必要です。
Aviutl&x264で動画のエンコードを行った時のコアクロック当たりのエンコード速度比率は次のようになりました。CPU名の横には動作周波数、エンコード時間(分)、並列実行数を併記しています。
Aviutl&x264のエンコードではシングルスレッド性能が高い(動作クロックが高い)と若干有利になる傾向はあるものの、Ryzen 7 2700Xが8.0になるように正規化して性能比率を比較してみたところ、Ryzen Threadripper 2990WXのコアクロック当たりの性能は理想的には36前後になると良かったのですが27.3でした。
動画のエンコードについては32コア64スレッドという圧倒的なリソースに対して分散がまだ上手くいっていない感じです。このあたりはWindows OSやアプリケーションの今後の最適化に期待したいところです。大手メディアによる公式サンプルを使用した先行レビューを見ても、8月末に発売予定の2950Xを選択する方が一般ユーザー向けハイエンドデスクトップとしては安定しているようです。
・クリエイティブ作業がこなせるHEDTには2990WXより2950Xが最適か
「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」が実動平均3.2GHzで動作している時の消費電力は300~330W程度となり(システム全体ですがほぼCPUの消費電力)、TDP250Wから考えると30~50Wほど高い値となっています。Ryzen CPUではCPU冷却条件が十分なら自動でTDP値を引き上げる「XFR 2 (Extended Frequency Range 2)」という機能があるのでそれが動作しているのだと思います。
先ほど”CPU冷却条件が十分に満たされていれば”と注釈しましたが、「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」には実際のCPU温度である「T die」というパラメーターに加えて、この温度に+27度したコントロール温度「T ctl」というパラメーターがあり、「T ctl」を監視することでCPUの冷却が十分かどうかが判断されています。
「T ctl」が95度に達しているかどうかを閾値として、「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」における「Precision Boost 2」と「XFR 2 (Extended Frequency Range 2)」は動作しており、「T ctl」が95度に達するにつれて各機能による動作クロックの上昇は弱まり、最終的に「T ctl」が95度で安定するようになると、動作クロックも「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」の仕様値でベースクロックとして表記されている3.0GHzで安定するようになります。
この時の消費電力は上で紹介した数値より若干下がるので、ベースクロック3.0GHz/TDP250Wという仕様値を満たした動作になります。冷却性能が多少不足していてもコントロール温度「T ctl」を参照して25MHz刻みで各コアの動作クロックを最適化してくれるので、「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」は定格動作なら空冷環境であっても安心して運用できます。
スマホで使用できるサーモグラフィカメラ「FLIR ONE Pro」(レビュー)を使用して「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」への全コア負荷を長時間かけた場合のVRM電源温度をチェックしてみました。
Ryzen Threadripper 1950Xを使用したOCテストにおいては第1世代Threadripperと同時期に発売されたX399マザーボードの中でも1,2を争う優秀さだった「ASRock Fatal1ty X399 Professional Gaming」を使用しても、「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」の定格で300W以上という負荷の前にパッシブ空冷ではVRM電源温度が100度前後に達しました。
100度を超えたらすぐに壊れるというわけではありませんが、「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」を運用する場合は、基本的にVRM電源へ直接風が当たるようにスポットクーラーの仕様を推奨します。120mmファンを1200RPM程度で回して風を当てるだけでも20度以上の温度低下が期待できます。
VRM電源の冷却にスポットクーラーを使用するのであれば、可変アルミニウム製ファンフレームによってリアやトップのファンマウントに装着してVRM電源へ直接風を当てることができる「IN WIN MARS」がおすすめです。
・可変アルミフレーム搭載ファン「IN WIN MARS」をレビュー
AMD Ryzen Threadripper 2990WXにPrecision Boost Overdriveを適用してみる
「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」の定格動作について簡単に説明も済んだので、「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」のオーバークロックのうちPrecision Boost Overdriveを適用する例について解説していきます。「Precision Boost Overdrive」は「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」だけでなくRyzen 7 2700Xなど第2世代Ryzen CPUから追加された新機能です。
Ryzen CPUにはCPU温度や電力に関して安定動作可能な相関関係を記したテーブルが内部に用意されており、それに則した形で「Pure Power」や「Precision Boost(2)」といった諸機能により動作クロックや電力が制御されていますが、その制御が行われる領域と実際に安定動作可能な領域にはマージン(Headroom)が確保されており、「Precision Boost Overdrive」はテーブルで既定された安定動作の限界近い動作領域まで制御の限界を引き上げる機能となっています。
「Precision Boost Overdrive」はマザーボードのBIOS(UEFI)とRyzen CPUの純正オーバークロックツールである「Ryzen Master(公式DLページ)」の2方面から設定を行うことができるので、今回は「Ryzen Master」に合わせて「Precision Boost Overdrive」の使い方や実際の動作について紹介します。
第2世代Threadripper対応のバージョンアップでUIのレイアウトが若干変わっていますが、基本的な使い方についてはこちらの記事をまず参考にしてください。
・AMD Ryzen専用純正OCツール「AMD Ryzen Masterユーティリティ」の使い方
「Ryzen Master」の設定ウィンドウの中央には「Control Mode」というせって項目があり、標準ではAutoになっていますが、「Precision Boost Overdrive」と「Manual」の2種類に切り替えることができます。
「Control Mode」から「Precision Boost Overdrive」を選択すると小項目として「PPT Limit」「TDC Limit」「EDC Limit」の3つを設定できるようになります。
BIOSから設定する場合も同様の設定項目が表示されます。(マザーボードによって設定項目が表示されないばあいもありますが)
「PPT Limit」(おそらくPackage Power Target Limitの略)は、電力[W]単位の設定値となっており、Precision Boost Overdriveの有効時にCPU全体が消費可能な電力を指定しています。「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」の定格動作では250Wです。
「TDC Limit」(Thermal Design Current Limitの略)は、電流[A]単位の設定値となっており、AMD公式のRyzen CPU OCマニュアルでは下のように表現されています。Intel CPUで言うところの長時間電力制限にあたる設定項目で、「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」の定格動作では215Aです。
Thermal Design Current (TDC) is presented for the CPU and SOC power domains,「EDC Limit」(Electrical Design CurrentLimitの略)は、電流[A]単位の設定値となっており、AMD公式のRyzen CPU OCマニュアルでは下のように表現されています。Intel CPUで言うところの短時間電力制限にあたる設定項目で、「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」の定格動作では300Aです。
respectively, expressed as a % of motherboard capacity. This can best be
understood as sustained amperage vs. motherboard capacity for a thermallysignificant
workload.
Electrical Design Current (EDC) is presented for the CPU and SOC power
domains, expressed as a % of motherboard capacity. This can best be understood as
the peak amperage for a short period of time.
「Precision Boost Overdrive」に関する3つの設定項目「PPT Limit」「TDC Limit」「EDC Limit」については字面だけを眺めると、「PPT Limit」はともかく「TDC Limit」と「EDC Limit」の具体的な設定方法(設定の目安)がわかりにくいですが、「PPT Limit」と「TDC(EDC) Limit」の2つとして考えると実は非常に簡単です。
「TDC(EDC) Limit」は使用解説では電流値として説明されていますが、実はCPU動作クロックの上限値に直結したパラメーターとなっています。簡単のために電力制限がかかっていない(PPTが十分大きい)、および「TDC Limit = EDC Limit」とすると、例えば定格のTDC Limit = 300Aでは最大動作クロックが3.4GHz
ですが、TDC Limit = 400Aとすると最大動作クロックが3.8GHzになります。
そして「TDC(EDC) Limit」で既定された最大動作クロックを上限として、「PPT Limit」で設定されたCPU消費電力の範囲内に収まるように定格動作同様に「Pure Power」と「Precision Boost(2)」によって動作クロックが25MHz刻みで制御されます。
グラフィックボードのオーバークロックをAfterBurnerを使用して行ったことのあるユーザーならピンとくるかもしれませんが、「PPT Limit」はPowerLimit、「TDC(EDC) Limit」がCoreClockの設定値と相似しており、Precision Boost Overdriveはグラフィックボードと同じ感覚で簡単にRyzen CPUをOCできる機能となっています。
グラフィックボードに比べるとCPUのOCは若干難しいという現状に対して、最大動作クロックと電力制限の2値を設定するだけであとは25MHz刻みで最適化してくれるPrecision Boost OverdriveはOC機能としてはかなり革新的な機能です。
Precision Boost Overdriveはメインストリーム向けの第2世代Ryzenでも使用できた機能でしたが、第2世代Ryzenで特に人気の高いRyzen 7 2700Xが定格(XFR有効)において実動平均が全コア3.9GHzに対して、Precision Boost Overdriveを有効にしても実動平均が全コア4.0GHz~4.1GHzまでしか上がらず、標準設定で既に動作クロックが限界近くまでチューニングされていたこともあり、性能上昇は微小で消費電力が増えてワッパが下がるという微妙な機能でした。
しかしながら「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」は定格で最大動作クロック3.4GHzかつTDP250Wの電力制限があるので実動平均で全コア3.2GHz動作と控えめな動作クロックに抑え込まれていますが、Ryzen 7 2700Xと同じCPUダイのうち電気特性的に優れた上位5%が選別されているだけあって、電圧を盛って電力制限を解除さえすれば全コアが4GHzで動作できるポテンシャルを備えているので、Precision Boost Overdriveがかなり有用な機能となります。
例えば「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」でPrecision Boost Overdriveを有効にして『PPT = 350W、TDC(EDC) = 350A』に設定すると全コア同時3.6GHz動作となり、Cinebenchスコアはさらに5500に達します
さらに『PPT = 740W、TDC(EDC) = 480A』に設定すると全コア4.0GHz程度で動作可能となり、Cinebenchスコアは6000前後に達します。
Precision Boost Overdriveを有効化して『PPT = 500W、TDC(EDC) = 430A』に設定すると全コア負荷時の動作クロックが3.85GHzに上昇しますが、常時動作クロックが設定値になるマニュアル設定OCと違ってPrecision Boost Overdriveでは低負荷時は定格同様に単コアが最大4.2GHzで動作するブーストクロックも併用できるというメリットがあります。
ただしPrecision Boost Overdriveには注意事項が1点だけあって、同機能は定格動作における最大動作クロックと電力制限を解除する機能なので、上の章で解説したようにCPU温度+27度のコントロール温度「T ctl」による電力・温度制限は依然として機能します。
そのためCPU温度が68度に達した時点で電力制限によって動作クロックが下がるので、CPUクーラーにRyzen Threadripper対応CPUクーラーとしては最高性能の「ENERMAX LIQTECH TR4 ELC-LTTR360-TBP」を使用していても、長期的には実動平均で全コア3.6GHz~3.7GHz程度での動作が限界となります。
「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」における「PPT Limit」と「TDC(EDC) Limit」の設定値の目安についてですが、「PPT Limit」は極端な話として設定可能な値の上限値に設定しても、「TDC(EDC) Limit」で既定される最大動作クロックで消費できる電力を上回ることはなく、またCPU温度が68度を超えないようにも制御されるのであまり気にする必要はありません。
設定値に注意が必要になるのは「TDC(EDC) Limit」で、「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」では480A前後に設定すると全コア同時4.0GHz程度で動作しますが、500Aを超える数値を設定してCinebenchを回してみるとブラックアウトしたので、500A以下に設定するのがおすすめです。
なおPrecision Boost Overdriveで動作クロックを上げると消費電力も大きくなり、当然VRM電源への負荷も大きくなります。Precision Boost Overdriveによって400~500W前後の負荷になるとスポットクーラーでVRM電源に風を当てていても「ASRock Fatal1ty X399 Professional Gaming」ですらVRM電源温度は100度を超えました。初期のX399マザーボードユーザーはCPU温度よりもVRM電源温度に注意が必要です。
AMD Ryzen Threadripper 2990WXを全コア4.0GHzに手動OCしてみる
最後に「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」のマニュアルオーバークロックによる全コア4.0GHz OCについて紹介します。「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」を全コア4.0GHzにオーバークロックすると消費電力は500Wを超えてVRM電源への負荷も非常に大きくなりVRM電源温度が高くなるので、マザーボードには第2世代Ryzen ThreadripperのTDP250Wモデルに対応すべく開発された「MSI MEG X399 CREATION」を使用して検証を行いました。
マニュアルオーバークロックは上で紹介したPrecision Boost Overdriveと同様に純正OCツールRyzen Masterからも設定が可能ですが、今回はBIOS(UEFI)から設定を行いました。「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」は第1世代と同様にOC設定ができます。CPU動作クロックを手動設定する場合は全コア動作倍率とコア電圧(あとマザーボードによってはロードラインキャリブレーション)を設定します。
具体的な設定値としてはCPU動作倍率は40倍、CPUコア電圧は1.250V、CPUロードラインキャリブレーションはLevel3に設定しました。あとメモリについてはG.Skill FLARE X F4-3200C14Q-32GFXのOCプロファイルでメモリ周波数3200MHz&メモリタイミング14-14-14-34-CR1にしています。
このOC設定でCinebenchを回してみたところベンチマークスコアは6200程度となりました。
このOC設定でCinebench(左)やAviutl&x264による動画のエンコード(右)を行うと、システム全体の消費電力は550W前後に達しました。
続いてこのOC設定が安定動作するかストレステストを実行しました。
検証方法については、FF14ベンチマークの動画(再生時間8分、WQHD解像度、60FPS、容量4.7GB)でAviutl+x264を使ってエンコードを行いました。エンコード時間はThreadripper 2990WXの場合5分ほどなので同じ動画のエンコードを4つ並列して2周実行しています。テスト中のファン回転数は一定値に固定しています。
注:CPUのストレステストについてはOCCTなど専用負荷ソフトを使用する検証が多いですが、当サイトではPCゲームや動画のエンコードなど一般的なユースで安定動作すればOKとういう観点から管理人の経験的に上の検証方法をストレステストとして採用しています。
上の方法で検証したところ、「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」は全コア4.0GHz OCで、CPU温度は最大72.4度、平均68.3度となり安定動作が確認できました。ENERMAX LIQTECH TR4 360に搭載する冷却ファンをNoctua NF-A12x25 PWMに換装していますが、ファン回転数は1500RPMに固定しています。
エンコード時間については定格(全コア3.2GHz前後)では37~38分程度かかっていましたが、全コア4.0GHz OCでは32~38分程度に短縮できています。理想的な20%減とはなりませんでしたが15%程度は減っているので、エンコード速度的にもコアクロック比で若干遅いものの一応スケーリングできています。Cinebenchとエンコード中で消費電力もほぼ一致しているので、コアクロック比のスケーリングの悪さについてもOSかアプリケーションの最適化待ちだと思います。
VRM電源温度についても「MSI MEG X399 CREATION」であれば、120mmファンを1500RPMで回してスポットクーラーとして風を当てれば80~90度程度に収まるので、アクティブ空冷で十分に実用水準をクリアしています。やはり19フェーズVRM電源の実力は圧倒的です。
簡易水冷CPUクーラーを使用する一般的な「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」環境では、「Precision Boost Overdrive」を使用した場合に単コアブーストクロック4.2GHzを併用できるメリットはあるものの、コントロール温度による制限が効くので全コア3.6GHz~3.7GHzが実用可能な限界値になるというデメリット?があります。PBOでコントロール温度のオフセット値を変更できる設定項目があればよかったのですが。
一方で、マニュアル設定のオーバークロックでは全コア3.8GHz~4.0GHzでも運用できるものの、単コアブーストが効かなくなるので、どちらを選択するかは悩ましいところです。
以上、『「AMD Ryzen Threadripper 2990WX」を全コア4.0GHzにOCレビュー』でした。
X399 TR4 Socketマザーボード販売ページ
<Amazon><TSUKUMO><PCショップアーク>
<PCワンズ><ドスパラ><パソコン工房>
G.Skill Flare X F4-3200C14Q-32GFX Threadripper対応
G.Skill Trident Z RGB F4-3200C14Q-32GTZRX Threadripper対応
G.Skill
<PCショップアーク><PCワンズ><OCworks>
Ryzen Threadripperは従来のCPUに比べて非常に大きいヒートスプレッダが採用されているので、大型ベースコアを採用するThreadripper専用CPUクーラーもおすすめです。
Noctua NF-A12x25 PWM 120mmファン 定格2000RPM PWM対応
Noctua NF-A12x25 ULN 120mmファン 定格1200RPM PWM対応
Noctua NF-A12x25 FLX 120mmファン 定格2000RPM
Noctua
<米尼:PWM/FLX/ULN><TSUKUMO>
<PCショップアーク><オリオスペック>
Noctua NH-U14S TR4-SP3 - 140mm [Noctua正規代理店]
Noctua NH-U12S TR4-SP3 - 120mm [Noctua正規代理店]
Noctua NH-U9 TR4-SP3 - 92mm [Noctua正規代理店]
Noctua
<TSUKUMO:U14S/U12S/U9><PCワンズ>
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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
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