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Intelの最新エンスー向けCPUである第9世代Core-Xから18コア36スレッドの最上位モデル「Intel Core i9 9980XE(型番:BX80673I99980XE)」をレビューしていきます。Core i9 9980XEが、Intelの仕様値通りTDP165Wで運用できるのか、さらに同製品が後継にあたる前世代18コア36スレッドCPUのCore i9 7980XEや、競合製品で16コア32スレッドCPUのRyzen Threadripper 2950Xと比較してクリエイティブタスクやPCゲーミングにおいてどれくらい性能を発揮しているのか各種ベンチマーク比較によって徹底検証します。
製品公式ページ:https://www.intel.co.jp/content/www/jp/ja/products/processors/core/x-series/i9-9980xe.html
Intel Core i9 9980XE レビュー目次
1.Intel Core i9 9980XEの外観・付属品・概要
2.Intel Core i9 9980XEの検証機材・動作設定
3.補足:最新CPUの動作クロックと電力制御について
4.Intel Core i9 9980XEの動作クロック・消費電力・温度
5.Intel Core i9 9980XEの基礎ベンチマーク
6.Intel Core i9 9980XEのクリエイティブ性能
7.Intel Core i9 9980XEのゲーミング性能
8.CPUエンコーダとリアルタイム配信について
9.Intel Core i9 9980XEのレビューまとめ
Intel Core i9 9980XEの外観・付属品・概要
「Intel Core i9 9980XE」の外観や付属品について簡単にチェックしておきます。またこの章では「Intel Core i9 9980XE」の仕様等について簡単に触れておきたい概要もあれば紹介します。Core i9 9980XEのパッケージは12面体でサッカーボールなどと呼ばれて話題になったCore i9 9900Kと同様に、黒色のきんちゃく袋で保護されています。
前世代Core i9 7980XEのパッケージと比較するとパッケージ外装の質感やデザインは同じですが、Core i9 9980XEのほうが一回り大きくなっています。梱包の形態も変わっていました。
Core i9 9980XEとCore i9 7980XEはどちらもLGA2066ソケット対応CPUなので外観は表面と裏面ともにほぼ同じです。(以下CPU本体の外観については特に差異がないのでCore i9 9900XとCore i9 7900Xの写真を流用します。7900Xは1年以上検証で着脱を繰り返してきたのでヒートスプレッダが大分くたびれています。)
ヒートスプレッダの右上を見ると「Intel Core i9 9980XE」はCPUダイ-ヒートスプレッダ間のTIMがソルダリング風なSTIMに変わったので7900Xにはなかった穴が開いています。
PCB基板の厚さは同じですが、IHSは0.5mm~1.0mm程度高さが高くなったように感じました。
Core i9 9980XEとCore i9 7900Xの重量を比較すると3gほど重くなっているので、ヒートスプレッダが若干大きく(背が高く)なっている可能性はありそうです。
「Intel Core i9 9980XE」の動作倍率について、仕様値はベースクロック3.0GHz、TB2.0ブーストクロック4.4GHz(2コアまで)、TBM3.0ブーストクロック4.5GHz(2コアまで)と表記されているだけでそれ以上の詳細値は公式には発表されていません。実際に組み込んで確認したところ、「Intel Core i9 9980XE」の1コアから全18コアまで負荷がかかった時のコア数に対する動作倍率は『最大動作コア数 / 最大動作倍率』を1セットとして、[2/45, 4/42, 12/41, 16/39, 18/38]となっていました。
Core i9 9980XEと前世代Core i9 7980XE、競合AMDのエンスー向けCPURyzen Threadripper 2950Xを比較すると次の簡易比較表のようになっています。
Core i9 9980XE スペック簡易比較 | |||
Core i9 9980XE | Core i9 7980XE | Ryzen TR 2950X | |
コアスレッド | 18コア36スレッド | 16コア32スレッド | |
ベースクロック | 3.0GHz | 2.6GHz | 3.5GHz |
TB2.0 | 4.4GHz | 4.2GHz | - |
TB3.0(1/2コア最大) |
4.5GHz | 4.4GHz | 4.4GHz |
キャッシュ | 24.75MB | 32MB | |
TDP | 165W | 180W | |
CPU直結PCIE3.0レーン | 44 | 64 |
Core i9 9980XEと前世代Core i9 7980XEを比較すると、ベースクロックやブーストクロックが若干引く挙げられていますが、その他の主要なスペックはほぼ一致しています。TDPに変化がないままでベースクロックが1割以上引き上げられているところが少々気になりますが、詳しくは後段の性能検証でチェックします。
Core i9 9980XE: [2/45, 4/42, 12/41, 16/39, 18/38]
Core i9 7980XE: [2/44, 4/40, 12/39, 16/35, 18/34]
Core i9 9980XEとCore i9 7980XEの大きな違いとしては、Core i9 7980XEなど前世代のCore-XではCPUダイ-ヒートスプレッダ間のTIM(Thermal Interface Material)にはシリコングリスが使用されており冷え具合に難があると批判されていましたが、今回レビューするCore i9 9980XEなど第9世代Core-XのTIMは質の高いソルダリングに近い熱伝導効率を発揮できる「STIM」が採用されています。
Intel Core i9 9980XEの検証機材・動作設定
以下、「Intel Core i9 9980XE」の各種検証を行うベンチ機、および比較対象となる各CPUのベンチ機の詳細となります。Intel LGA2066(X299)環境 テストベンチ機の構成 | |
CPU | Intel Core i9-9980XE(レビュー) Intel Core i9-9900X(レビュー) Intel Core i9-7980XE(レビュー) Intel Core i9-7900X(レビュー) |
マザーボード | ASRock X299 OC Formula (レビュー) |
CPUクーラー | Fractal Design Celsius S36 (レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM x3 (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill Trident Z Black F4-4200C19Q2-64GTZKK DDR4 8GB*4=32GB (レビュー) 3600MHz, CL16-16-16-36-CR2 |
ビデオカード(共通) | GeForce RTX 2080 Ti Founders Edition (レビュー) |
システムストレージ(共通) | Samsung 860 PRO 256GB (レビュー) |
OS(共通) | Windows10 Home 64bit |
電源ユニット(共通) | Corsair HX1200i (レビュー) |
ベンチ板(共通) | STREACOM BC1 (レビュー) |
Intel LGA2066(X299)環境では検証機材マザーボードとして「ASRock X299 OC Formula」を使用しています。「ASRock X299 OC Formula」でCPU動作設定を標準設定のAutoとした場合、同環境で検証する各CPUのPerCore最大動作倍率は仕様のままですが、PL1/PL2が無効化されて仕様と異なった電力制御で動作してしまいます。
Core i9-9980XE、Core i9-9900X、Core i9-7900X、Core i9-7980XEはAuto設定のままでは消費電力が大幅にTDPから超過し、また一部ソフトウェアでは逆に十分にPackage Powerが上がらない現象も発生するため、下のようなBIOS設定(7900Xの例)によってIntelの仕様に合わせたPerCore最大動作倍率および電力制限を適用した”定格動作”を施し、各種測定を行っています。
Core-Xについては電力制限に関するIntel公式の仕様が公表されていないので第9世代Core-Sの設定を参考にしてPL1=TDP、PL2=TDP*1.25、Tau=8とします。
上の設定はASRock製マザーボードのBIOSメニューから設定した例ですが、ASRock、GIGABYTE、MSIなど主要4社のマザーボードであれば同種の設定項目が用意されているはずなので、同じように電力制限を課すことができます。再起動等で初期化されることもあるので、確実性の高いBIOSからの設定が推奨なのですが、「Intel Extreme Tuning Utility」からも設定が可能です。
Intel LGA1151(Z390)環境 テストベンチ機の構成 | |
CPU | Intel Core i9-9900K(レビュー) Intel Core i7-9700K(レビュー) Intel Core i5-9600K(レビュー) Intel Core i7-8700K(レビュー) Intel Core i5-8600K(レビュー) Intel Core i3-8350K(レビュー) |
マザーボード | ASUS ROG MAXIMUS XI HERO (WI-FI) (レビュー) |
CPUクーラー | Fractal Design Celsius S36 (レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM x3 (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill Trident Z Black F4-4400C19D-16GTZKK DDR4 8GB*2=16GB (レビュー) 3600MHz, CL16-16-16-36-CR2 |
その他 |
レビュー対象のベンチ機と共通 |
Intel LGA1151(Z390)環境では検証機材マザーボードとして「ASUS ROG MAXIMUS XI HERO (WI-FI)」を使用しています。「ASUS ROG MAXIMUS XI HERO (WI-FI)」でCPU動作設定を標準設定のAutoとした場合、同環境で検証する各CPUのPerCore最大動作倍率は単コア/全コアは仕様通りですが中間コア数で引き上げられる傾向があり、またPL1/PL2が無効化されます。
Core i9-9900KとCore i7-9700K以外についてはAuto設定でもIntel仕様値のTDP内に収まる動作となるのでAuto設定のまま検証を行っています。しかしながらCore i9-9900KとCore i7-9700KはAuto設定では消費電力が大幅にTDPから超過するため、標準設定のAuto設定に加えて、下のようなBIOS設定(9900Kの例)によってIntelの仕様に合わせたPerCore最大動作倍率および電力制限を適用した”定格動作”についても測定を行っています。
Intel LGA1151(Z270)環境 テストベンチ機の構成 | |
CPU | Intel Core i7 7700K(レビュー) Intel Core i5 7600K(レビュー) Intel Core i3 7350K(レビュー) |
マザーボード | ASRock Z270 SuperCarrier (レビュー) |
CPUクーラー | Intel TS15A (レビュー) |
メインメモリ | Corsair Dominator Platinum Special Edition DDR4 8GB*2=16GB (レビュー) 3200MHz, 14-16-16-36-CR2 |
その他 |
レビュー対象のベンチ機と共通 |
Intel LGA1151(Z270)環境では検証機材マザーボードとして「ASRock Z270 SuperCarrier」を使用しています。「ASRock Z270 SuperCarrier」における標準のCPU動作設定では単コア最大動作倍率を全コア最大動作倍率とするMulti Core Enhancementが有効になっていますが、いずれのCPUも同設定においてTDPに収まる消費電力で動作しているので、標準設定のまま測定を行っています。
AMD AM4(X470)環境 テストベンチ機の構成 | |
CPU | AMD Ryzen 7 2700X(レビュー) AMD Ryzen 7 2700(レビュー) AMD Ryzen 5 2600X(レビュー) |
マザーボード | ASUS ROG CROSSHAIR VII HERO (Wi-Fi) (レビュー) |
CPUクーラー | Corsair H150i PRO RGB (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill FLARE X F4-3200C14D-16GFX DDR4 8GB*2=16GB (レビュー) 3200MHz, CL14-14-14-34-CR1 |
その他 | レビュー対象のベンチ機と共通 |
AMD AM4(X470)環境では検証機材マザーボードとして「ASUS ROG CROSSHAIR VII HERO (Wi-Fi)」を使用しています。「ASUS ROG CROSSHAIR VII HERO (Wi-Fi)」でCPU動作設定を標準設定のAutoとした場合、各CPUは仕様通りの定格動作で問題なく動作するので、測定に当たって特に個別の設定は行っていません。
ただしAMD Ryzen CPUではCPUクーラーの冷却性能が十分であれば電力制限を解除して自動的に動作クロックを引き上げる機能「XFR (Extended Frequency Range)」が効くため、Ryzen 7 2700Xでは仕様上の上限値となるPPT 141W以下で動作します。
そこで、TDP105Wの定格動作としては若干の問題もある(短期的にもPPT105Wを超過しない)のですが、Ryzen 7 2700Xが仕様値のTDP105Wで動作した状態の参考値として、本来はOCのための機能である「Precision Boost Overdrive」を利用し、PPTを105Wに制限した状態についても合わせて測定を行いました。
AMD TR4(X399)環境 テストベンチ機の構成 | |||
CPU | AMD Ryzen Threadripper 2950X(レビュー) |
AMD Ryzen Threadripper 2990WX(レビュー) |
|
マザーボード | ASRock Fatal1ty X399 Professional Gaming (レビュー) |
MSI MEG X399 CREATION (レビュー) |
|
CPUクーラー | ENERMAX LIQTECH TR4 II ELC-LTTRO360-TBP 360サイズ簡易水冷 (レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM x3 (レビュー) |
||
メインメモリ | G.Skill Trident Z RGB F4-3200C14Q-32GTZRX DDR4 8GB*4=32GB (レビュー) 3200MHz, CL14-14-14-34-CR1 |
||
その他 | レビュー対象のベンチ機と共通 |
AMD TR4(X399)環境ではRyzen Threadripper 2950Xの検証機材マザーボードとして「ASRock Fatal1ty X399 Professional Gaming」、Ryzen Threadripper 2990WXの検証機材マザーボードとして「MSI MEG X399 CREATION」をそれぞれ使用しています。
AMD AM4(X470)環境のRyzen CPUと同様に、AMD TR4(X399)環境のRyzen Threadripperも冷却性能依存の自動OC機能「XFR (Extended Frequency Range)」には対応していますが、仕様値としていずれもPPTが180Wと250WでTDPと同じ値になっているので、XFRによってTDPを超過する動作になることはないため、測定に当たって特に個別の設定を行いません。
ベンチ機のシステムストレージにはSamsung製MLCタイプ64層V-NANDのメモリチップを採用する18年最速のプロフェッショナル向け2.5インチSATA SSD「Samsung SSD 860 PRO 256GB」を使用しています。Samsung SSD 860 PROシリーズは容量単価が高価ではあるものの、システムストレージに最適な256GBや512GBモデルは製品価格としては手を伸ばしやすい範囲に収まっており、Intel Core-XやAMD Ryzen TRのようなハイエンドデスクトップ環境はもちろん、メインストリーム向けでもハイパフォーマンスな環境を目指すのであれば、システムストレージ用に一押しのSSDです。
・「Samsung SSD 860 PRO 256GB」をレビュー
CPUとCPUクーラー間の熱伝導グリスには当サイト推奨で管理人も愛用しているお馴染みのクマさんグリス(Thermal Grizzly Kryonaut)を塗りました。使い切りの小容量から何度も塗りなおせる大容量までバリエーションも豊富で、性能面でも熱伝導効率が高く、塗布しやすい柔らかいグリスなのでおすすめです。
グリスを塗る量はてきとうでOKです。管理人はヘラとかも使わず中央山盛りで対角線だけ若干伸ばして塗っています。Thermal Grizzly Kryonautは柔らかいグリスで適量が塗布されていれば、CPUクーラー固定時の圧着でヒートスプレッダ全体へ自然に伸びるので塗り方を気にする必要もありません。
補足:最新CPUの動作クロックと電力制御について
「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUの検証結果から評価をする前に、最近のCPUの消費電力(CPU Package Power)やTDPに関する概要を簡単に解説しておきます。表題では補足と記載していますが、最新CPUの性能を正しく評価する上で大前提として重要な知識なので、記事末ではなく記事中に組み込んでいます。以下の解説ではIntel/AMD環境を統一して評価できるように概要を簡単化、独自に定義し直している部分もありますが、おおむね近年のCPU事情に即した内容になっていると思います。Intel第9世代CoffeeLake Refresh-S CPUのパワーマネジメント等の詳細な仕様が気になる人は公式データシート(英語)を参照してください。
https://www.intel.com/content/dam/www/public/us/en/documents/datasheets/8th-gen-core-family-datasheet-vol-1.pdf
まず大前提としてかなり大雑把な表現になりますが、1コアや2コアが主流だった昔のCPUは一定の動作クロックで動作しており、消費電力(発熱)は動作クロックに比例した一定値でした。CPUメーカーが決めた仕様(コア数や動作クロック)に対してその製品の消費電力(発熱)は決まるため、例えば消費電力(60W)のCPUを運用するには少なくとも60Wを放熱できるCPUクーラーが必要になります。そこで『CPUをオーバーヒートさせずに運用するために必要なCPUクーラーの放熱性能』を示す指標として「TDP(Thermal Design Power:熱電力設計)」という仕様値が生まれました。この時点では「CPU消費電力≒TDP」が成り立っていました。
しかしながら近年のCPUにおいては、下の概略図のように消費電力(発熱)はCPU負荷によって変動し、CPU温度もその時の発熱に応じて変動します。負荷によって消費電力が変動するのでパッと見では、CPU消費電力≒TDPが成り立たなくなっています。
上の概略図においてCPU消費電力(CPU負荷)は、CPU個別に設定された電力制限の範囲内で動作している青色のゾーンと、短期間/長期間電力制限が効いている赤色のゾーンの2種類に大別できます。
青色のゾーンでは基本的に電力制限の閾値よりも低い電力(CPU負荷)で変動しながら動作しており、CPU温度にも余裕があるので時折、高速(高消費電力)な動作をしています。オフィスワークやPCゲーミングのCPU負荷がこれに当たります。
赤色のゾーン(低)のうち消費電力の低い右側のゾーンは長期間にわたってCPUに90~100%の高い負荷がかかっており、長期間電力制限が機能していることを示しています。動画のエンコードや3Dレンダリングなど数十分から数時間以上の長期間に渡る高CPU負荷がこれにあたります。
赤色のゾーン(高)のうち消費電力の高い左側のゾーンは一定の短期間もしくは一定温度の閾値以下において、長期間電力制限よりも制限の緩い短期間電力制限の下で動作していることを示しています。Cinebenchなど十数秒以下のごく短期的な高CPU負荷がこれに当たります。Intel CPUであれば「Turbo Boost(2.0)」、AMD CPUであれば「Precision Boost&Pure Power」や「XFR (Extended Frequency Range)」によってこの動作が実現しています。
青色のゾーンはCPU負荷が変動しており平均的に見ても消費電力がそもそも低く、赤色のゾーン(高)は限られた短期間であり、かつ短期間電力制限はCPU温度によっても制御されているという前提もあるので、CPU温度が最も高くなる(冷却が難しい)のは赤色のゾーン(低)となります。
『CPUをオーバーヒートさせずに運用するために必要なCPUクーラーの放熱性能』という定義から考えれば最近のCPUにおいて「TDP」と同一視できる(すべきな)のは赤色のゾーン(低)の消費電力(長期間電力制限)になります。
TDPの要旨や消費電力の現実的な意味(CPU温度への影響)を考えれば、”発熱”という意味でCPU消費電力として評価すべきなのは長期間電力制限時の消費電力(の平均値)となります。しかしながらCPU温度に対する影響の小さい瞬間ピーク値や短期間電力制限値でCPUの消費電力を評価し、その数値とCPUの仕様値として公表されているTDPが大きく異なることを批判するレビューがかなり多いというのが現状です。瞬間的なピーク値で長期間動作するかのようなミスリーディングな内容で”爆熱”や”故障が心配”などと評価する記事も存在します。
続いてCPUコアクロックとの関連についても概要を簡単に紹介します。
簡単のため2コアCPUで考えますが、下は消費電力とCPU温度に加えてCPUコアクロックを追加した概略図になります。この例では単コアのブーストクロックは最大4.0GHz、短期間電力制限のゾーンでは全コアの動作クロックが3.8GHzになっています。
IntelとAMDの最新CPUではCPU消費電力(CPU Package Power)が低ければ短期間電力制限時の動作クロックよりも高い動作クロックで全コアは動作することができ、この動作によって、主に全コアが稼働するがCPU負荷自体は軽いワークロード、例えばPCゲームなどにおいてパフォーマンスが向上します。
最近のIntel CPUで顕著ですが(AMD CPUにも当てはまるケースがある)、ブーストクロックとして製品の仕様値に記載されている動作クロックが概略図における「a.単コアブースト:4.0GHz」、「b.最大全コアブースト:3.9GHz」、「c.短期間電力制限:3.8GHz」、「d.長期間電力制限:3.5GHz」のいずれを指しているのかが不明であるという問題があり、これがTDPや消費電力に関する評価や理解を大きく妨げています。
Intel第4世代Core CPUあたりまではd区間とb/c区間の差がそこまで大きくなかったので見逃されていましたが、Core i9 7900Xの登場辺りから、d区間とb/c区間の動作クロックの差が大きくなり(同時にTDPと消費電力の差も)、仕様と実動の差異が問題視されるようになりました。
さらに事態を複雑化させる要因としてCPU動作を決めるマザーボードBIOSの標準設定がマザーボードの各製品やBIOSバージョンで異なるという問題もあります。とくに最近のIntel CPUではマザーボードの選択がレビュアーに委ねられリファレンスとなる環境が実質存在しないので、”定格動作”というものがよくわからないことになっています。
そのせいでd区間の短期間電力制限が無効化(≒TDPが無視)され、長期間にわたってb区間やc区間の動作クロック(消費電力)で動作するような設定がデフォルトになっていて、長期間電力制限(≒TDP)を大幅に上回る消費電力や、その時のCPU温度がそのCPUの定格動作として評価されているケースも少なくありません。またCinebenchなど特定のワークロードを検出してその時だけ動作クロックが上がる(当然、消費電力も)、チートじみた動作をするケースもあります。
概要解説の最後に、近年のIntel CPUとAMD CPUの動作クロック制御の基本原理についても簡単に説明しておきます。
Intel CPUについては、近年発売されている製品における大前提として、各CPUには負荷のかかっているコア数に応じた最大動作倍率が設定されています。8コアCPUのCore i9-9900Kの場合は1~2コアまでなら5.0GHz、3~4コアまでなら4.8GHz、5~8コアまでなら4.7GHzが標準の最大動作倍率です。Intel CPUでは通常、これを超えることはなく、次に紹介する電力制限に従って最大動作倍率の範囲内で動作します。なお1コア最大動作倍率で全コアを動作させる「Multi Core Enhancement(MCE)」という機能もあり、Intel公式の仕様では当然、無効化されている機能ですが、一部マザーボードでは標準で有効になっていることがあります。
Intel CPUの実際の動作倍率は「Intel Turbo Boost Technology(TB)」によって電力・温度・時間など様々な要因によって制御されています。Turbo Boostにおいて最も主要な制御ファクターは電力と時間で、それぞれ長期間電力制限(PL1)、短期間電力制限(PL2)、短期間電力制限時間(Tau)の3つであり、Tauの時間内であれば、PL2というより閾値の高い制限電力内で高い動作クロックで動作できますが、その時間を超えるとPL1という制限電力内での動作を強制されます。Intel公式データシートではPL1 = TDPが推奨されていますが、実状としてはマザーボードによって標準設定はまちまちであり、無効化されていることが多いです。
Core i9-9900Kの仕様になっている『8コアで4.7GHzという最大動作倍率』に対して、動画のエンコードや3Dレンダリングなど全コアが稼働し、かつ重い負荷のかかるワークロードではTDP95Wの制限内では4.7GHzではとうてい動作しない、もしくはTDPを大幅に上回るので詐欺的ではないか勘違いがよくあります。
Intel CPUでは最大動作倍率をベースとして、それよりも優先される電力制限をさらに分けて設定することによって、PCゲームのようにTDP内で十分に収まるものの全コアが稼働するワークロードでは全コアが高速に動作するという高速化の恩恵が与えられ、同時にそのCPUを安定して運用できるサーマルソリューションがTDP(PL1)で明示されます。
AMD CPUでもベースクロックや単コア最大動作クロックなど代表的な数値は仕様として決まっていますが、主には「Precision Boost」「Pure Power」「XFR (Extended Frequency Range)」などRyzen CPUの独自機能によってIntel CPUよりも能動的な動作クロック制御が実現されています。
AMD CPUの動作クロック制御は、『数百個に及ぶ電圧、電流、温度などの各種センサーをプロセッサ内に実装し、そのデータをリアルタイムに参照しながら、適応型の内部操作処理を行う』というものになっています。つまりモニタリングしたデータをRyzen独自のインターコネクタ「Infinity Fabric」を介してフィードバックし、「Pure Power」や「Precision Boost」でパフォーマンス向上を図る、というループ制御をリアルタイムで行っています。
AMD CPUでは上のようにリアルタイムなフィードバック制御を行っているので、『冷却環境に応じて最大動作倍率で動作するように制御する』という能動的な動作クロック制御が可能になっており、第2世代Ryzenではリアルタイムに各コアが25MHz刻みで制御されます。Intel Turbo Boostとの大きな違いとしては、負荷のかかっている時間(Tau)には基本的に依存せず、主にCPU温度(Tctl)と電力(PPT)によって制御されます。
Intelの長期間電力制限(PL1 ≒ TDP)のような設定値としてAMD CPUにはPPTという数値があります。例えばTDP105WのRyzen 7 2700XではPPT 141Wが設定されており、CPUクーラーの性能がTDP105W以上であればそれに応じて電力制限を最大141Wまで解除し、自動でオーバークロックさせる「XFR (Extended Frequency Range)」という機能があります。
長くなりましたが、管理人は”CPU温度への影響要因”という意味においてCPU消費電力を評価しているので、当サイトのCPUレビューでは動画のエンコードによって長期間電力制限が効いている状態の平均的な消費電力をCPU消費電力とします。
個人的な意見としては短期間電力制限は短期間かつCPU温度によっても制御されるのでCPU温度への影響要因として比重は小さく、また瞬間ピーク電力はせいぜいがTDP+100W程度なので、マザーボードVRM電源の破損を心配するほどではなく、その程度の電力超過は電源ユニットで十分吸収できるので、評価対象としてあまり意味がないと思っています。
またCPU製品仕様のTDPについては、定義がIntel/AMDで厳密には異なり、各社の具体的な測定・算出方法も不明なので、CPU動作クロックを含めて総合的に判断する必要があるものの、基本的には長期間電力制限時の消費電力がTDP仕様値とほぼ一致、もしくはTDP仕様値を下回れば正常であると評価します。
Intel Core i9 9980XEの動作クロック・消費電力・温度
「Intel Core i9 9980XE」に関する検証のはじめに、「Intel Core i9 9980XE」の動作クロック、消費電力、温度など同CPUの基本的な動作についてチェックしていきます。「Intel Core i9 9980XE」は10コア20スレッドのCPUであり、定格動作において1コアから全18コアまで負荷がかかった時のコア数に対する動作倍率は『最大動作コア数 / 最大動作倍率』を1セットとして、[2/45, 4/42, 12/41, 16/39, 18/38]となっていました。
また「Turbo Boost Power Max(長期間電力制限/Power Limit 1)」と「Turbo Boost Short Power Max(短期間電力制限/Power Limit 2)」は検証機材マザーボードASRock X299 OC FormulaのBIOS標準設定ではいずれも無制限に変更されていました。
そのため検証に当たって手動で定格動作の電力制限を課しますが、Core-Xについては電力制限に関するIntel公式の仕様が公表されていないので第9世代Core-Sの設定を参考にしてPL1=TDP、PL2=TDP*1.25、Tau=8とします。
「Intel Core i9 9980XE」を仕様通りの電力制御で動作させると、Cinebenchの開始直後はCPU Package PowerがTDP*1.25を上限としてTDP以上に上昇しますが、短期間電力制限時間の8秒を超過するとTDP(長時間電力制限)と同じ165Wに抑制されます。
続いてCPU消費電力の検証結果をチェックしていきますが、補足の章で解説したように、管理人は”CPU温度への影響要因”という意味においてCPU消費電力を評価しているので、当サイトのCPUレビューでは動画のエンコードによって長期間電力制限が効いている状態の平均的な消費電力をCPU消費電力として比較します。個人的な意見としては短期間電力制限は短期間かつCPU温度によっても制御されるのでCPU温度への影響要因として比重は小さく、また瞬間ピーク電力はせいぜいがTDP+100W程度なので、マザーボードVRM電源の破損を心配するほどではなく、その程度の電力超過は電源ユニットで十分吸収できるので、評価対象としてあまり意味がないと思っています。
またCPU製品仕様のTDPについては、定義がIntel/AMDで厳密には異なり、各社の具体的な測定・算出方法も不明なので、CPU動作クロックを含めて総合的に判断する必要があるものの、基本的には長期間電力制限時の消費電力がTDP仕様値とほぼ一致、もしくはTDP仕様値を下回れば正常であると評価します。
CPU消費電力の測定には電源ユニット「Corsair HX1200i」のCorsair Linkによる電力ログ機能を用いてコンセントからの出力ではなく変換ロスを差し引いた入力電力をチェックしています。また電力測定の際は上記の主電源ユニットに加えて、CPUへの電力供給を行うEPS端子を除いた、各種電源端子へ接続するために別の副電源ユニットを使用しています。そのため測定値にはEPS電源端子を経由して供給されるCPU消費電力以外の消費電力は含まれません。
CPUの消費電力や温度の測定を行う負荷テストについては、FF14ベンチマークの動画(再生時間6分40秒、4K解像度、60FPS、容量5.7GB)を変換ソースとして、Aviutl&x264を使って動画のエンコードを行います。動画エンコードの同時実行数については4~6コアは並列なし、8~10コアは2並列実行、12~18コアは3並列実行、20コア以上は4並列実行としています。
注:CPUのストレステストについてはOCCTやPrimeなど専用負荷ソフトを使用しているレビューもありますが、管理人の私見としてはCPU負荷が非現実的なので、当サイトではPCゲームや動画のエンコードなど一般的なユースを想定した場合、ほぼ最大のCPU負荷となるx264による動画エンコードとストレステストに採用しています。
「Intel Core i9 9980XE」と比較対象CPUの消費電力測定結果が次のようになっています。上記負荷テスト中の”平均値を消費電力”、”最大値を瞬間的な最大電源負荷”と表記しています。Intel CPUを定格で動作させている(添え字TDP〇〇W)ものは短期間電力制限が瞬間最大負荷になるので平均との差が大きめに出ています。なお電源ユニットに対する実際の最大瞬間負荷は測定値より50~100W上回る場合があるので電源ユニットの電源容量選択の参考にする場合は注意してください。
今回はIntel仕様値のTDP165Wとなるように電力制限を課しているので当然ですが、「Intel Core i9 9980XE」のCPU消費電力は186Wとなりました。他CPUと消費電力のスケーリングをみてもIntel仕様を満たす消費電力であり、問題ないことが確認できます。ピーク電力負荷は244Wをマークしていますが、これは短期間電力制限によるターボブーストが効くテスト序盤での電力負荷を示しています。 【全CPU比較データ】
続いて「Intel Core i9 9980XE」が一般的な120サイズ冷却ファン搭載のサイドフロー型空冷CPUクーラーで運用できるかどうかを検証してみました。
検証負荷には消費電力測定と同様に動画のエンコードを実行しています。空冷CPUクーラー使用時のCPU温度検証の検証機材CPUクーラーには、Noctua製サイドフロー型CPUクーラーのスタンダードモデル「Noctua NH-U12S」を使用しており、冷却ファンは次世代120mmファン「Noctua NF-A12x25 PWM」に交換しています。また120サイズ簡易水冷CPUクーラーの環境を想定して、ラジエーターは360サイズですが120mmファンを1基だけ動作させた状態についても同様に測定を行いました。
「Intel Core i9 9980XE」を空冷CPUクーラーや120サイズ簡易水冷CPUクーラーで冷やしてみた場合、Intel公式の仕様値であるTDP165Wの定格動作の通りに電力制限を行うとCPU温度は60度前後に収まっており、一般的な120サイズ冷却ファンの空冷/簡易水冷CPUクーラーでも問題なく運用できることがわかります。またTDP165W動作時のIntel Core i9 9980XEの全コア動作クロックは実動平均で2.8GHz程度となりました。
また参考までに下のグラフは8コア16スレッドのメインストリーム向けCPUであるCore i9 9900Kを上と同じ空冷CPUクーラーで冷やした時の様子です。Core i9 9900Kを全コア4.7GHzで動作させるとCPU消費電力150W程度に対して、Core i9 9980XEの定格消費電力180Wより低いにもかかわらず、空冷CPUクーラーの冷却が追いつかず、CPU温度が80度を軽くオーバーしています。
Core i9 9980XEなどCore-X CPUのほうがCPUダイが倍以上大きく、またヒートスプレッダも大きいので、上のように長時間負荷時の消費電力とCPU温度の逆転が発生しています。
Core-Xシリーズは消費電力だけを見て冷やすのが難しいと評価されることがありますが、接触面積の大きさ(熱交換効率の高さ)で有利なので、消費電力150WのCore i9 9900Kに比べて消費電力180WのCore i9 9980XEのほうが大きな消費電力(発熱)でも冷やしやすくなっています。
国内外の多くのレビューにおいては、検証機材として使用されているマザーボードの標準設定がTDP165Wを満たす定格動作を無視したものになっているので、Intel Core i9 9980XEはしばしば消費電力(発熱)が非常に大きく、CPU温度が高温になるためハイエンド空冷や簡易水冷のCPUクーラーが必要である、と評価されることが多いですが、仕様値通りにTDP165Wの動作設定であれば当然ながら消費電力は抑制され、120サイズ冷却ファンの一般的な空冷/簡易水冷CPUクーラーによって問題なく運用できます。
当サイトでは1年以上前のCore i9 7900Xのレビューから指摘していたことですが、『IntelはES品等の検証において定格動作設定を使用するガイドラインを示す』、『マザーボードベンダーはBIOS標準設定に定格動作を満たす設定を採用する』の2点を徹底してもらいたいというのが管理人の意見です。
Intelの仕様値ではCore i9 9980XEをTDP165Wで動作させた場合、ベースクロック3.0GHzで運用できると表記されているのに対して、上の検証においてコアクロックの実動平均値がその値を下回る2.8GHzになってしまった件についてですが、メモリ周波数を3600MHzにOCしていたことが原因でした。
CPUに関する設定はそのままでメモリ周波数だけIntelの仕様値通りに2666MHzに下げたところ、ベースクロックの仕様値を概ね満たし、全コアが実動平均3.0GHz程度で動作しました。
ここ数年のIntel CPU環境では選別されたメモリモジュールを使えば4000MHz前後のメモリ周波数も難しくないにもかかわらず、3200MHzですらなく、2666MHzというかなり低めなメモリ周波数が定格値として設定されていました。これについては個人的に長らく疑問だったのですが、一定の電力を上限値として(TDPの範囲内で動作させて)ワットパフォーマンスを評価した場合に、メモリ周波数2666MHzが最適解となるため、2666MHzが最近のIntel CPUにおけるメモリ周波数の定格値として設定されていたようです。
Ryzen CPUではInfinity Fabricというチップ内外のインターコネクトがメモリ周波数と同期する構造になっており、メモリ周波数がクリエイティブタスクやPCゲーミングを含めた総合的なパフォーマンスに大きく影響するので、Ryzen CPUでハイパフォーマンスな環境を構築する上ではメモリ周波数3200MHzでの安定動作が1つの指標になっています。
そのためRyzen環境ではメモリ周波数3200MHz/メモリタイミングCL14をCPU検証の統一設定としていたので、Intel環境については、AMD環境よりも高いメモリ周波数を実現しやすい現状を考慮し、メモリ周波数3600MHzを設定していました。しかしながらメモリ周波数がワットパフォーマンスに比較的大きく影響するというのは誤算でした。
具体的にはCore i9 9980XEのコアクロック動作倍率と電力制限を定格として、メモリ周波数3600MHzとメモリ周波数2666MHzでCinebenchスコア比較した場合、スコアはともに3500程度で100程度の差となりました。
Core i9 9980XEをTDP165W制限下でメモリ周波数3600MHzとするとコアクロックが下がるためパフォーマンスが若干下がってしまいますが、性能低下の程度としては1桁パーセントに収まるようなので、今回はこれまでの検証設定に合わせてメモリ周波数3600MHzのままで検証しました。メモリ周波数の扱いについては今後の課題になりそうです。
Intel Core i9 9980XEの基礎ベンチマーク
Intel Core i9 9980XEの基本的なCPU性能を専用ベンチマークソフトで検証しました。この章ではPCMark 8とPCMark 10という総合ベンチマークソフトを使用していますが、デスクトップ向けの高性能CPUの性能比較ベンチマークとしては頭打ちな傾向があり、シングルスレッド性能(動作クロックの高さ)が重要になるのでIntel Core CPUに比べてAMD Ryzen CPUでは低めのスコアになります。レビュー項目の1つとして参考までにスコア比較していますが、実用的なCPU性能については後半の個別性能比較を参考にしてください。
まずは「PCMark 8 Creative Test (Run Accelerated)」のベンチマーク結果をチェックしていきます。「PCMark 8」は動画再生能力、DirectX9のグラフィック性能、Webブラウジング、ビデオチャットなど一般ユースにおけるPCの総合的な性能を測定するためのベンチマークソフトです。
「Intel Core i9 9980XE」を含めた各CPU環境のPCMark 8ベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ】
「PCMark 10 Extended」のベンチマーク結果をチェックしていきます。「PCMark 10」はPCMark 8と同様にPCの総合的な性能を測定するためのベンチマークソフトですが、DirectX11に対応するなどPCMark 8よりも最近のPCの性能測定に最適化されています。
「Intel Core i9 9980XE」を含めた各CPU環境のPCMark 10ベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ】
「PCMark 10 Extended」にはPCの基本性能を測る「Essentials」、ビジネスアプリケーション性能を測る「Productivity」、クリエイティブ性能を測る Digital Content Creation」、ゲーム性能を測る「Gaming」の大きく分けて4つのテストグループがあるので、個別にベンチマークスコアを比較してみました。
PCの基本性能を測る「Essentials」は、アプリケーションの起動に要する時間を測る「App Start-up」、 ウェブブラウジングの性能を測る「Web Browsing」、1対1または多対多のビデオ会議をシミュレートする「Video Conferencing」の3つのワークロードで構成されています。
「Essentials」について「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ】
ビジネスアプリケーション性能を測る「Productivity」は、ワープロソフト(マイクロソフトWordなど)の処理性能をシミュレートする「Writing」、表計算ソフト(マイクロソフトExcelなど)の処理性能をシミュレートする「Spreadsheets」の2つのワークロードで構成されています。
「Productivity」について「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ】
クリエイティブ性能を測る「Digital Content Creation」は、写真に対するフィルタリング処理の性能をシミュレートする「Photo Editing」、動画編集の性能をシミュレートするワークロード「Video Editing」、レイトレーシングによる3Dグラフィクス制作(3Dレンダリング)をシミュレーションする「Rendering and Visualization」の3つのワークロードで構成されています。
「Digital Content Creation」について「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ】
ゲーム性能を測る「Gaming」は、グラフィックボードの性能測定で幅広く活用されているベンチマークソフト「3DMark」に収録された「Fire Strike」と同じベンチマークテストを実行するワークロードです。
「Gaming」について「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ】
Intel Core i9 9980XEのクリエイティブ性能
Intel Core i9 9980XEの3Dレンダリング、動画エンコード、RAW現像などクリエイティブ作業に関する性能を各種ベンチマークソフトで検証しました。CPUのマルチスレッド性能を比較するベンチマークソフトとして国内外で最も知られている「Cinebench」をはじめとして、オープンソース3DCGソフト「Blender」の公式ベンチマークソフト、3Dレンダラー「Corona Renderer」の公式ベンチマークソフト、3Dレンダラー「V-Ray」の公式ベンチマークソフトの4種類を使用して、CPUの3Dレンダリング性能についてベンチマーク測定を行いました。
Cinebenchは3Dレンダリング性能を測定するベンチマークソフトになっており、マルチスレッド性能を測定するテストとシングルスレッド性能を測定するテストの2種類を実行しています。
Cinebench マルチスレッド性能テストについて「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ】
Cinebench シングルスレッド性能テストについて「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ】
3DCGソフト「Blender」の公式ベンチマークソフトについて「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ】
「Blender」の公式ベンチマークソフトのレンダリング時間だけを見ても性能差が直感的にわかりにくいので、Core i7 7700Kを基準にして、「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのレンダリング速度を性能比としてグラフ化してみました。 【全CPU比較データ】
3Dレンダラー「Corona Renderer」の公式ベンチマークソフトについて「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ】
3Dレンダラー「Corona Renderer」の公式ベンチマークソフトのレンダリング時間だけを見ても性能差が直感的にわかりにくいので、Core i7 7700Kを基準にして、「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのレンダリング速度を性能比としてグラフ化してみました。 【全CPU比較データ】
3Dレンダラー「V-Ray」の公式ベンチマークソフトについて「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ】
3Dレンダラー「V-Ray」の公式ベンチマークソフトのレンダリング時間だけを見ても性能差が直感的にわかりにくいので、Core i7 7700Kを基準にして、「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのレンダリング速度を性能比としてグラフ化してみました。 【全CPU比較データ】
続いて無料で利用できる動画編集ソフトとして国内外で多数のユーザーがいる「Aviutl」と、商用動画編集ソフト「TMPGEnc Video Mastering Works 7」を使用して、「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUの動画エンコード性能を比較していきます。
AviutlとTMPGEnc Video Mastering Works 7はいずれも、現在主流なH.264 (MPEG-4 AVC) ビデオストリームへエンコードを行う「x264」エンコーダ、そしてH.264より高圧縮・高画質で次世代規格として期待されているH.265(HEVC) ビデオストリームへエンコードを行う「x265」エンコーダが使用できるので、CPUをリソースとして各エンコーダで共通の動画ファイルのエンコードを行いました。
エンコードを行う動画ファイルについては、Tom Clancy's Ghost Recon Wildlandsのゲーム内ベンチマーク(60秒ほど)をNVIDIA ShadowPlayで録画したものを使用しています。1920×1080/60FPS/50Mbpsと3840×2160/60FPS/120Mbpsの2種類の動画ファイルを作成し、「1920×1080 to 1920×1080」、「3840×2160 to 1920×1080」、「3840×2160 to 3840×2160」の3種類のエンコードを行っています。
Aviutlのx264/x265のエンコード設定は次のスクリーンショットのようになっています。TMPGEnc Video Mastering Works 7については固定ビットレートで1920×1080へエンコードする場合は25Mbps、3840×2160へエンコードする場合は50Mbpsに設定しています。
なおエンコーダと解像度設定が同じであればaviutlとTMPGEncのCPU別エンコード速度の傾向はほぼ一致するので、aviutlのケースを抜粋してグラフを掲載します。aviutlとTMPGEncの全CPU比較データはリンクから各自で参照してください。各CPUの右に(x2)や(x3)と添え字のあるものは同種のエンコードを並列実行していることを示しています。
x264エンコーダによって1920×1080解像度の動画をH.264 (MPEG-4 AVC)の1920×1080解像度へエンコードした時のエンコード速度について「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ(Aviutl) / 全CPU比較データ(TMPGEnc)】
x264エンコーダによって3840×2160解像度の動画をH.264 (MPEG-4 AVC)の1920×1080解像度へエンコードした時のエンコード速度について「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ(Aviutl) / 全CPU比較データ(TMPGEnc)】
x264エンコーダによって3840×2160解像度の動画をH.264 (MPEG-4 AVC)の3840×2160解像度へエンコードした時のエンコード速度について「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ(Aviutl) / 全CPU比較データ(TMPGEnc)】
x265エンコーダによって1920×1080解像度の動画をH.265(HEVC)の1920×1080解像度へエンコードした時のエンコード速度について「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ(Aviutl) / 全CPU比較データ(TMPGEnc)】
x265エンコーダによって3840×2160解像度の動画をH.265(HEVC)の1920×1080解像度へエンコードした時のエンコード速度について「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ(Aviutl) / 全CPU比較データ(TMPGEnc)】
x265エンコーダによって3840×2160解像度の動画をH.265(HEVC)の3840×2160解像度へエンコードした時のエンコード速度について「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ(Aviutl) / 全CPU比較データ(TMPGEnc)】
最後にDxO PhotoLabによるRAW現像を行って「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUの性能を比較していきます。「SONY DSC-RX100M5」で撮影した5472×3648解像度のRAW画像ファイル 100枚に対して、DxO PhotoLabの画質プリセット「DxO 標準」をベースにノイズ除去を「PRIME」に変更したプリセットを適用し、RAW現像を行いました。なおDxO PhotoLabによるRAW現像は並列処理数を設定できますが、CPUコア数の半分もしくはそれより一つ少ないくらいの並列処理で最速になるようです。
DxO PhotoLabによるRAW現像速度について「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果を比較すると次のようになっています。 【全CPU比較データ】
Intel Core i9 9980XEのゲーミング性能
Intel Core i9 9980XEのPCゲームに関する性能を実ゲームを用いたベンチマーク測定で検証しました。なお章タイトルではゲーミング性能と表記してはいますが、Intel 7/8/9Gen Core-SやAMD Ryzen 3/5/7などここ1,2年で発売された4コア4スレッド以上のCPUであればフルHD~4K解像度の60FPSターゲットにおいてCPUボトルネックが発生するケースは少ないので、内容としては”高フレームレートにおけるCPUボトルネック比較”というのが実状に即しています。
ただし最新の超高画質で重いゲームの場合、ゲームプレイの裏で次のシーンのロード作業が動くとロードが遅くなったりスタッター(カクツキ)が発生することがあるので、ゲーミングPCに搭載するCPUとしては6コア6スレッド以上を個人的に推奨しています。
各CPUのゲーミング性能を測定するために組み合わせて使用するグラフィックボードは2018年後半にリリースされた最速GPU「NVIDIA GeForce RTX 2080 Ti」を搭載した準リファレンスグラフィックボード「GeForce RTX 2080 Ti Founders Edition」を使用しています。
・「GeForce RTX 2080 Ti Founders Edition」をレビュー
CPU別ゲーミング性能の比較には18年最新PCゲームから、Assassin's Creed Odyssey、Tom Clancy's Ghost Recon Wildlands、Shadow of the Tomb Raider、Middle-Earth: Shadow of War、PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(PUBG)の5種類を使用しています。60FPSの標準フレームレートをターゲットとした4K(3840×2160)解像度/高画質設定と、100FPS以上のハイフレームレートをターゲットとしたフルHD(1920×1080)解像度/中画質設定の2種類について、各ゲームで平均フレームレートと最小フレームレートを測定しました。
なおCPUボトルネック比較の性質上、最小FPSをある程度の精度で測定する必要があるためPUBG以外の4種についてはほぼ同一シーンで測定が可能なゲーム内ベンチマークを使用しています。
PUBGについてはゲーム内ベンチマークがないのでトレーニングモードで可能な限り他プレイヤーの影響を受けないように注意して測定しています。そのためPUBGベンチマークのフレームレートはRTX 2080 Tiで通常プレイを行った場合より高めです。(RTX 2080 TiでPUBGのプレイした時のフレームレート)
またPUBGのフルHD/中-画質プリセットについては最小フレームレートも記載していますが、他プレイヤーの位置によって変動が大きいのであくまで参考値に留めてください。
まずは60FPSの標準フレームレートをターゲットとした4K(3840×2160)解像度/高画質設定のゲーミング性能について「Intel Core i9 9980XE」や比較対象CPUのベンチマーク結果をチェックしていきます。
Assassin's Creed Odyssey(4K解像度、超高-画質プリセット)に関する「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果は次のようになっています。 【全CPU比較データ】
Tom Clancy's Ghost Recon Wildlands(4K解像度、非常に高い-画質プリセット)に関する「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果は次のようになっています。 【全CPU比較データ】
Shadow of the Tomb Raider(4K解像度、DirectX12、最高-画質プリセット)に関する「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果は次のようになっています。 【全CPU比較データ】
Middle-Earth: Shadow of War(4K解像度、ウルトラ-画質プリセット)に関する「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果は次のようになっています。 【全CPU比較データ】
PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(4K解像度、ウルトラ-画質プリセット)に関する「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果は次のようになっています。 【全CPU比較データ】
続いて100FPS以上のハイフレームレートをターゲットとしたフルHD(1920×1080)解像度/中画質設定のゲーミング性能について「Intel Core i9 9980XE」や比較対象CPUのベンチマーク結果をチェックしていきます。
Assassin's Creed Odyssey(フルHD解像度、中-画質プリセット)に関する「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果は次のようになっています。 【全CPU比較データ】
Tom Clancy's Ghost Recon Wildlands(フルHD解像度、中-画質プリセット)に関する「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果は次のようになっています。 【全CPU比較データ】
Shadow of the Tomb Raider(フルHD解像度、DirectX12、中-画質プリセット)に関する「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果は次のようになっています。 【全CPU比較データ】
Middle-Earth: Shadow of War(フルHD解像度、中-画質プリセット)に関する「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果は次のようになっています。 【全CPU比較データ】
PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(フルHD解像度、中-画質プリセット)に関する「Intel Core i9 9980XE」を含めた各種CPUのベンチマーク結果は次のようになっています。最小フレームレートは他プレイヤーの位置によって変動が大きいのであくまで参考値です。 【全CPU比較データ】
CPUエンコーダとリアルタイム配信について
CPUをエンコーダにしたPCゲームのリアルタイム配信について、現在ではNVIDIA GeForce GTX 1060やAMD Radeon RX 480などミドルクラスGPUをエンコーダとすることでフルHD解像度でも必要十分な画質が得られるようになっており、GPUエンコーダは動作自体も軽いので、これらGPUエンコーダの登場によってリアルタイム配信やプレイ動画の録画におけるCPUエンコーダの役目は終わったというのが私見です。一部レビューサイトではCPUエンコーダを使ったリアルタイム配信動画の滑らかさやプレイングフレームレートの維持が性能比較の1つの項目になっていたり、またそういった配信性能をCPU別にまとめた記事も存在したりして、管理人も検証項目の1つとして検討してみたのですが、実用的な意義があまり見いだせないというのが正直なところで、長らくCPUレビューテンプレの中でも保留していました。
ビデオキャプチャ業界の進歩も目覚ましく、18年に発売された「AVerMedia Live Gamer Ultra」は4K/60FPS/HDRやフルHD/240FPSの映像ソースを無遅延なパススルー表示しつつ、フルHD/60FPSのプレイ動画として録画・配信できるUSB接続外付け機器型ビデオキャプチャとなっており、プレイ動画の録画・配信に関する多様なニーズを網羅し得る名機です。
・4K/HDRや240FPSのパススルー対応「AVerMedia Live Gamer Ultra」をレビュー
前述の通りフルHD/60FPSの録画・配信であればGTX 1060程度の性能のGPUをエンコーダとすることで必要十分な画質が得られて動作も軽いので、録画配信のために高性能な反面、非常に高額なCPUに投資するよりも、多少コストがかかっても「AVerMedia Live Gamer Ultra」などのビデオキャプチャと組み合わせて録画・配信用サブ機を構築するほうが、録画・配信の手法としてはわかりやすくてハードルが低いと思います。
・AVerMedia製ビデオキャプチャの最新おすすめ機種を機能比較
「AVerMedia Live Gamer Ultra」などUSB接続外付け機器型ビデオキャプチャと組み合わせて録画・配信用サブ機を構築するのであれば、ASRock Deskmini GTX 1060ベアボーン採用BTO PCの「G-GEAR alpha」や「GALLERIA Mini 1060」がおすすめです。
PCサイズはコンパクトなのでサブ機としてもあまり余分にスペースを占有せず、GPUにはGTX 1060を搭載しておりフルHD/60FPSのGPUエンコードにも余裕で対応できて、CPUには最大で「G-GEAR alpha」ならCore i7 8700、「GALLERIA Mini 1060」ならCore i7 7700を選択可能、2基の2.5インチSATA SSDと3基のM.2 SSDを搭載可能なのでストレージ拡張性も十分です。ASRock Deskmini GTXシリーズについてはレビューも公開しているので参考にしてみてください。
・GTX 1060搭載で容積2.7LのスーパーコンパクトPC「GALLERIA Mini 1060」をレビュー
・G-GEAR alphaシリーズの販売ページへ
Intel Core i9 9980XEのレビューまとめ
「Intel Core i9 9980XE(型番:BX80673I99980XE)」を検証してみた結果のまとめを行います。簡単に箇条書きで以下、管理人のレビュー後の所感となります。良いところ or 概要
- Intelの18コア36スレッドCPU (メインストリーム向けは最大8コア16スレッドまで)
- TDP165W制限下で全コア同時2.8~3.0GHz動作が可能
- TDP165Wに制限すれば120mmファンの空冷/簡易水冷CPUクーラーでも運用可能
- エンスー向けメニーコアCPUながらハイフレームレートPCゲーミングにも強い
- 19年1月現在、税込み25万円と非常に高価
- MB標準設定では消費電力が非常に高くなる可能性あり
【温度・消費電力について】
補足の章で解説した通りIntel Core i9 7900Xの登場以降、Intel CPUは検証機材に使用するマザーボードに依るとはいえ基本的にIntelの仕様を満たす電力制限が無効化されているので、「Intel Core i9 9980XE」も例にもれずCPU温度と消費電力が非常に高いと評価されることが多いですが、当然ながら、電力制限をIntelの仕様に合わせて設定すれば問題なくTDP165WのCPUとして運用することができます。
あとCore i9 9900KなどIntelのメインストリーム向けCPUと比較してCore-XシリーズはCPUダイとCPUヒートスプレッダが大きいので、同じ消費電力で比較しても冷やしやすいというポイントもあります。
TDP165Wに制限した場合の性能については各章で紹介した検証結果の通りで、「Intel Core i9 9980XE」は18コア36スレッドCPUらしい性能を発揮しています。
ただしマザーボードが電力制限を無視している設定を標準設定に採用しているケースが多いので、電力制限自体は簡単な設定ではあるものの、一般ユーザーがそのまま使用するとほぼ確実にTDPを大きく超過した動作になることが予想されます。
各マザーボードがどんな設定になっているのかはレビューを漁るか蓋を開けるかしないとわからないので、「Intel Core i9 9980XE」で静音性を確保した自作PCを組むのであれば、240サイズ以上の簡易水冷CPUクーラーを使用するのが無難です。
また前世代のCore i9 7980XEではCPUダイとヒートスプレッダ間のTIMにシリコングリスが採用されていたため、倍率アンロックモデルながら定格を超える消費電力にOCするとTIMの熱移動効率がボトルネックになる可能性が高かったですが、Core i9 9980XEでは良質なソルダリングに近い性能のSTIMが採用されているので、ユーザーによるOCがしやすくなったところも魅力です。
【クリエイティブ性能について】
18年12月現在、Intelのメインストリーム向けCPUのコアスレッド数はCore i9 9900Kの8コア16スレッドが最大数で、今回レビューしている「Intel Core i9 9980XE」はそれを2倍以上も上回る18コア36スレッドのCPUなので、コアスレッド数(とコアクロックの積)に比例して、メインストリーム向けCPUよりも遥かに高いマルチスレッド性能を実現しており、それはクリエイティブタスクにおける性能に反映されています。
一方でCore i9 9980XEと前世代Core i9 7980XEとの比較については、今回の検証では動作クロック仕様値の差に反してCore i9 9980XEがCore i9 7980XEを僅かながら下回るケースが多いという結果でした。
その理由はCore i9 9980XEもCore i9 7980XEもTDP165W制限下で動作させているため、長期間負荷がかかった場合の実動コアクロックは”CPUの個体差(ストック電圧の低さ)”に依存するからであり、今回使用した個体を比較すると9980XEのほうがストック電圧が高いため、TDP165W制限下で僅かながら低いコアクロックで動作することになり、7980XEに及ばなかったようです。
一部のテストで9980XEが上回る理由は、ターボブーストによる短期間電力制限210Wの適用下では7980XEが全コア3.4GHzを上限にするのに対し、9980XEはストック電圧で動作クロックが全コア3.5~3.6GHz程度になるので、Cinebenchのマルチスレッドテストのように十分にテスト時間の短い検証では、全コア最大動作倍率の差で9980XEが7980XEを上回る、という具合です。
TDPとベースクロックの関係(算出方法)をIntelが公表していないので詳細はよくわからないのですが、動作倍率に対するストック電圧カーブは個体差こそあれ9980XEと7980XEという大きなくくりでは大差ないのではないかと思います。実際に同じ設定を適用すれば7980XEもベースクロック3.0GHzで動作が可能でした。
9980XEになって仕様値のベースクロックが0.4GHz増えたに理由ついては、Intelの非公表な算出方法ではTIM変更による温度低下が影響する、もしくは9980XEのリリースを見越してあえて7980XEのスペックを下げておいたのではないかなと。
9980XEと7980XEはいずれもOCに対応した倍率アンロックCPUなので定格よりもOCすると演算性能も当然伸びるのですが、この話についてはこちらの記事を参照してください。
・Intel Core i9 9980XEを4.4GHz OCで7980XEと比較レビュー
Intel Core i9 9980XEとAMDのハイエンドデスクトップ向けCPUで16コア32スレッドのAMD Ryzen Threadripper 2950Xと比較してみると、3DレンダリングとRAW現像の2種類のタスクでは、それぞれの定格動作において両者はほぼ同等のパフォーマンスを発揮しています。x264やx265による動画のエンコードはRyzen CPUが比較的に苦手とする分野ですが、特に苦手なx265はともかく、現在主流なx264ではRyzen Threadripper 2950Xが劣るとはいえ、Core i9 9980XEに迫る性能です。
7980XEは1950Xを絶対性能で上回るカウンターとしてリリースされましたが、第2世代で2950Xは着実に性能を伸ばしてきたので、9980XEとの性能差が埋まった形です。
こうして比較してみると、第2世代Ryzenシリーズは全コア4GHz程度が常用限界であり最大動作クロックの面でIntel CPUに及びませんが、3.0~4.0GHz帯におけるワットパフォーマンスの高さが浮き彫りになります。
販売価格を見てもRyzen Threadripper 2950XはCore i9 9980XEの半額で購入できるので、クリエイティブタスクにおけるRyzen Threadripper 2950Xのコストパフォーマンスの高さが光る結果でした。
【ゲーム性能について】
「Intel Core i9 9980XE」はPCゲームのように全コアが稼働するものの負荷的には余裕でTDP165Wに収まるワークロードでは全コアが最大3.8GHzで動作することができるようになっており、ハイフレームレート環境においても同社のメインストリーム向けCPUに近いパフォーマンスが発揮できます。
第6世代以前のIntelエンスー向けCPUでは全コア負荷時の最大動作倍率がTDPに合わせて引き下げられていたため、手動OCをしないとメインストリーム向けCPUよりもゲーム性能で大きく劣るというのが通説でしたが、第9世代Core-Xや前世代Core-Xには当てはまりません。
GeForce RTX 2080 Tiを使用したハイフレームレート環境において、最もCPUボトルネックの緩和が期待できるCPUはIntelのメインストリーム向けCPU最上位モデルのCore i9 9900KやCore i7 9700Kであることは間違いありませんが、長らくPCゲーミング界で鉄板モデルだった4コア8スレッドCPUの最後を飾ったCore i7 7700Kと比較して勝ったり負けたりという性能を発揮していることからも、「Intel Core i9 9980XE」がPCゲーミングにも余裕で通用することがわかると思います。
クリエイティブタスクではストック電圧の優劣という個体差の壁に阻まれましたが、ゲーム性能では7980XEが全コア最大3.4GHzであるのに対して9980XEは全コア最大3.8GHzと高いコアクロックで動作が可能なので、CPUボトルネックの緩和という観点ではしっかりと9980XEが7980XEを上回っています。(ただし7980XEも手動設定してしまえば同じ性能になるのですが……。)
一方で、第9世代Core-Xをクリエイティブタスクのコストパフォーマンスで圧倒した競合製品のAMD Ryzen Threadripper 2950Xと比較すると、「Intel Core i9 9980XE」はハイフレームレート環境においてこれを大幅に上回るゲーム性能を発揮しています。AMDのメインストリーム向けCPUの第2世代Ryzenに対しても同様に上回る結果でした。
ゲーム性能検証の冒頭でも述べたようにフルHD~4K解像度の60FPSターゲットであれば4コア4スレッド以上の最新CPUであればどれを使用しても大差はありません。ただし最新の超高画質で重いゲームの場合、ゲームプレイの裏で次のシーンのロード作業が動くとロードが遅くなったりスタッター(カクツキ)が発生することがあるので、ゲーミングPCに搭載するCPUとしては6コア6スレッド以上を個人的に推奨しています。
【総括-Core i9 9980XEをCore i9 7980XE等と比較すると】
Core i9 9980XEについて端的に述べると『TIMがシリコングリスからSTIMに変わったCore i9 7980XE』であるという評価で間違いないと思います。
TDP165W制限下であればシリコングリスでも十分に冷やせるので、実用の世界において長期的に負荷のかかるクリエイティブタスクではストック電圧の個体差が性能差に直結します。ま、9980XEが7980XEと比較して低電圧動作可能なのかというと疑問が残ります。(おそらく個体差の程度)
最大動作倍率の引き上げによってゲーム性能(CPUボトルネックの緩和)が向上していますが、そもそも9980XEも7980XEも倍率アンロックCPUなので同じ設定を適用してしまえば……、やはり魅力としては弱いです。
なのでCore i9 9980XEを7980XEと比較した時に明確な魅力は?というと、STIMの採用によって殻割りクマメタル化を要せずカジュアルに大幅なOCを施せるようになったことくらいというのが正直な感想でした。
競合AMDが送るHEDT向けCPUのAMD Ryzen Threadripper 2950Xと比較すると、クリエイティブタスクにおいては、動画のエンコードで優位はあるものの、ほぼ同性能なのに2倍以上という価格差でコストパフォーマンスはダブルスコアになるのが辛いです。ただメインストリーム向けCPUのIntel/AMDの関係同様に、「Intel Core i9 9980XE」はハイフレームレートなPCゲームシーンにも強いという特徴があるので、コスパを除けば隙が無いというところは魅力ですが、やはり価格差が大きいので評価は難しいところ。
240Hzモニタなどでオンライン対戦をガチで勝ちに行くならCore i9 9900K、クリエイティブタスクメインでコスパを考えるならAMD Ryzen Threadripper 2950Xとなりますが、”予算度外視で”PCゲーミングもクリエイティブタスクもと多方面で高パフォーマンスを発揮できるCPUが欲しいということであれば、「Intel Core i9 9980XE」など第9世代Core-Xシリーズを検討する価値はあると思います。
以上、「Intel Core i9 9980XE」のレビューでした。
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