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7nmプロセスを採用した世界初の次世代GPU「AMD Radeon VII」を搭載したリファレンスグラフィックボードをレビューしていきます。AMDの次世代ハイエンドGPU「AMD Radeon VII」が、同社の前世代最上位Radeon RX Vega 64や、NVIDIAの競合ハイエンドGPUであるGeForce RTX 2080、前世代最上位のGeForce GTX 1080 Tiに対して、どの程度のグラフィック性能を発揮するのか実ゲームベンチマークで徹底比較します。
製品公式ページ:https://www.amd.com/en/products/graphics/radeon-vii
ドライバ:https://www.amd.com/en/support/graphics/amd-radeon-2nd-generation-vega/amd-radeon-2nd-generation-vega/amd-radeon-vii
AMD Radeon VII レビュー目次
1.AMD Radeon VIIの外観
2.AMD Radeon VIIの検証機材セットアップ
3.AMD Radeon VIIのゲーム性能
4.AMD Radeon VIIの温度・消費電力・ファンノイズ
5.倍速補完機能「AMD Fluid Motion」の効果と使い方
6.AMD Radeon VIIのレビューまとめ
AMD Radeon VIIの外観
早速、「AMD Radeon VII」を開封していきます。キャラメルボックス型の外スリーブから取り出した茶色段ボールの内パッケージを開くと、スポンジ蓋の上に簡易マニュアルがあり、その下にはスポンジスペーサー&静電防止ビニールという一般的な梱包でグラフィックボード本体が鎮座していました。
梱包や付属品のチェックは簡単に済ませて、「AMD Radeon VII」のグラフィックボード本体を見ていきます。
「AMD Radeon VII」の外観はシルバーの外装、赤色アクリルのアクセサリなど基本的なデザインはRadeon RX Vega 64のLimited EditionやLiquid Cooled Editionから引き継がれていますが、Radeon RX Vega 64がヘアライン仕上げのシルバーアルミニウム外装だったのに対して、カラーこそ同じシルバーですが表面加工はサンドブラスト仕上げになっています。
「AMD Radeon VII」のリファレンスモデルはシンプルにカッコよく、それでいてGPUクーラー側面のRADEONの刻印や右端のRキューブがRadeon VIIとしてのオリジナリティーも主張しています。
AMD Radeon Vegaシリーズの空冷リファレンスモデルは外排気クーラーが採用されていましたが、AMD Radeon VIIのリファレンスモデルは3連ファンの内排気クーラーになっています。ファンの径は全て75mmと、比較的小さいサイズです。
AMD Radeon VIIのリファレンスモデルは全長268mmです。
「AMD Radeon VII」のリファレンスモデルはサンプルイメージだけを見ると、3連ファンGPUクーラーということもあって全長300mm前後のかなり大きいサイズに感じますが、実際はAMD Radeon Vegaシリーズや、競合NVIDIAのGeForce RTX 2080/2080 Tiと同じく270mm前後です。
AMD Radeon VIIはリファレンスモデルとしては珍しく、基板とGPUクーラーがPCIブラケットよりも15mmほどはみ出す、背の高いデザインです。
今回レビューするAMD Radeon VIIはリファレンスモデルということもあって、グラフィックボードの厚みは2スロット占有です。AMD Radeon VIIはTDPの大きいハイエンドGPUなので、AIBパートナーからオリファンモデルが発売されたら3スロット占有モデルが主流になりそうです。
下の写真は別のグラフィックボードのヒートシンクですが、AMD Radeon VII リファレンスモデルのGPUクーラーヒートシンクの構造は下のような感じです。AMD Radeon VII リファレンスモデルのGPUクーラーは、GPUコアとHBM2メモリを冷やす銅製ベイパーチャンバーとVRM電源など基板上の発熱部位を冷やす金属製フレームで構成されています。
AMD Radeon VIIはTDP300Wと消費電力の大きいGPUなのでリファレンスモデルでも補助電源として8PIN*2を要求します。
AMD Radeon VIIのビデオ出力はHDMI2.0×1、DisplayPort1.4×3の4基が実装されています。
AMD Radeon VIIのリファレンスモデルには背面に金属製バックプレートが搭載されています。バックプレートはGPUクーラー外装と同様にサンドブラスト表面処理のシルバーカラーです。AMD Radeon VII リファレンスモデルのバックプレートはサーマルパッドを介してVRM電源等と接しておらず、単純な基板の補強と保護のみで冷却には寄与しません。
なおグラフィックボードの重量はRadeon RX Vega 64 Limited Editionが1046g、GeForce RTX 2080 Founders Editionが1278gに対して、AMD Radeon VIIは1283gとなっており、Radeon RX Vega 64よりは重量が大きくなっていますが、ハイエンドGPUを搭載したグラフィックボードとしては標準的です。
バックプレート等で基板の反りは防止されていますが、重量は1kg超と重いのでPCI-Eスロットへの負荷を考えるとVGAサポートステイなどを追加で設置して、垂れ下がりを防止したほうがいいかもしれません。
AMD Radeon VIIの検証機材セットアップ
外観やハードのチェックはこのあたりにして早速、AMD Radeon VIIを検証用の機材に組み込みました。テストベンチ機の構成は次のようになっています。テストベンチ機の構成 | ||
ベンチ機1 |
ベンチ機2 |
|
OS | Windows10 Home 64bit | |
CPU |
Intel Core i9 9900K(レビュー) Core/Cache:5.1/4.7GHz, 1.300V 殻割り&クマメタル化(レビュー) |
Intel Core i7 7700K (レビュー) |
CPUクーラー |
Fractal Design Celsius S36(レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM (レビュー) |
ASUS ROG RYUO 120 (レビュー) |
M/B | ASUS WS Z390 PRO (レビュー) |
ASUS ROG MAXIMUS IX FORMULA (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill Trident Z Black F4-4400C19D-16GTZKK DDR4 8GB*2=16GB (レビュー) 4000MHz, CL17-17-17-37-CR2 |
G.Skill Trident Z F4-3600C15D-16GTZ DDR4 8GB*2=16B (レビュー) |
システム ストレージ |
Samsung SSD 860 EVO M.2 1TB (レビュー) |
Samsung 860 PRO 256GB (レビュー) |
データストレージ |
SanDisk SSD Ultra 3D SATA SSD 2TB (レビュー) | |
電源ユニット |
Corsair HX1200i (レビュー) Corsair RM650i |
Thermaltake Toughpower iRGB PLUS 1250W Titanium (レビュー) |
PCケース/ ベンチ板 |
STREACOM BC1 (レビュー) |
Cooler Master MASTERCASE MAKER 5t (レビュー) NZXT Aer F 140 3基(レビュー) |
ベンチ機のシステムストレージにはSamsung製3bit-MLC型64層V-NANDのメモリチップを採用するメインストリーム向け最新SATA接続M.2 SSD「Samsung SSD 860 EVO M.2 1TB」を使用しています。「Samsung SSD 860 EVO M.2」は2.5インチSATA SSDと同等のパフォーマンスをケーブルレスで発揮できる手軽さが魅力です。Samsung SSD 860 EVOシリーズの容量1TB以上のモデルは大容量データの連続書き込みにおける書き込み速度の低下というTLC型SSDの欠点も解消されているので、大容量ファイルをまとめて入れても余裕のあるメインストレージとしてお勧めのSSDです。
・「Samsung SSD 860 EVO M.2 1TB」をレビュー
「AMD Radeon VII」のGPUクーラー外装側面のRADEONロゴと、グラフィックボード右端の”R”の字が描かれた赤色のアクリルキューブにLEDイルミネーションが内蔵されており、赤色に発光します。
Radeon設定のWattmanからは前世代同様にコアクロックやメモリクロックに関する設定が可能です。今回入手した「Radeon VII」のコアクロック/コア電圧カーブの最大値は1801MHzで1077mVでした。
「Radeon VII」に搭載されたHBM2メモリの定格動作クロックは1000MHzですが、手動オーバークロックでは最大1200MHzに設定が可能です。RX Vega 64/56と違ってメモリ電圧の設定項目はありません。
ファン制御カーブの手動設定も可能です。「Radeon VII」にはGPU温度とジャンクション温度の2種類の温度があり(温度関連の章で詳しく説明します)、ファン制御カーブはジャンクション温度を参照します。電力制限のスライダーからはTDP300Wを基準にして、プラスマイナス20%の範囲内で指定できます。
AMD Radeon VIIのゲーム性能
「Radeon VII」の性能を測るべく各種ベンチマークを実行しました。性能比較には「GeForce RTX 2080 Founders Edition」、「GeForce RTX 2070 Founders Edition」、「GeForce GTX 1080 Ti Founders Edition」、「EVGA GeForce GTX 1080 SC2 Gaming iCX」、「Radeon RX Vega 64 Limited Edition」を使用しています。「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードについて、3DMarkで現在主流なDirectX11のベンチマーク「FireStrike」による比較になります。
FireStrike | Extreme | Ultra | |
Radeon VII |
27488 | 13410 | 6838 |
RTX 2080 FE |
27296 | 13208 | 6408 |
RTX 2070 FE |
22944 | 10946 | 5383 |
GTX 1080 Ti FE |
27344 | 13617 | 6781 |
GTX 1080 11Gbps | 22517 | 10881 | 5404 |
RX Vega 64(B1, BL) | 23023 | 10776 | 5442 |
「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードについて、3DMarkのDirectX12ベンチマーク「TimeSpy」による性能比較となります。
TimeSpy | Async Off |
Extreme | |
Radeon VII |
8829 | 8213 | 4249 |
RTX 2080 FE |
11081 | 10307 | 5129 |
RTX 2070 FE |
9042 | 8390 | 4202 |
GTX 1080 Ti FE | 9542 |
8831 | 4425 |
GTX 1080 11Gbps | 7704 | 7267 | 3503 |
RX Vega 64(B1, BL) | 7168 |
6697 | 3430 |
「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードについて、17年中頃から普及しつつあるHTC VIVEやOculus RiftなどVR HMDを使用したVRゲームに関する性能を測定する最新ベンチマーク「VRMark」による性能比較となります。
Orange Room |
Cyan Room |
Blue Room |
|
Radeon VII |
11580 | 11183 | 3580 |
RTX 2080 FE |
12983 | 11183 | 3580 |
RTX 2070 FE |
12557 | 9146 | 2844 |
GTX 1080 Ti FE | 13084 | 8409 | 3028 |
GTX 1080 11Gbps | 12239 | 6974 | 2345 |
RX Vega 64(B1, BL) | 11619 | 8319 | 2197 |
続いて実ゲームを用いたベンチマークになります。解像度はフルHD、WQHD、4K(3840*2160)の3種類について行っており、同一のグラフィック設定で同一のシーンについて平均FPSを比較しました。
ベンチマーク測定を行ったゲームタイトルは、Assassin's Creed Origins(最高設定プリセット)、Battlefield 1(最高設定プリセット)、Destiny2(最高設定プリセット)、The Division(グラフィック設定)、Far Cry 5(最高設定プリセット&TAA)、Final Fantasy XV(最高設定プリセット、NVIDIA GameWorks無効)、Ghost Recon Wildlands(グラフィック設定)、Mirrors Edge Catalyst(ハイパー設定プリセット)、MONSTER HUNTER: WORLD(最高設定プリセット)、Rise of the Tomb Raider(グラフィック設定)、Middle-Earth: Shadow of War(ウルトラ設定プリセット)、Titanfall 2(グラフィック設定)、WatchDogs_2(最高設定プリセット)、The Witcher3(最高設定)、Gears of War 4(最高設定プリセット)以上の15タイトルです。
Assassin's Creed Origins(最高設定プリセット)に関する「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Battlefield 1(最高設定プリセット)に関する「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Destiny2(最高設定プリセット)に関する「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
The Division(グラフィック設定)に関する「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Far Cry 5(最高設定プリセット&TAA)に関する「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Final Fantasy XV(最高設定プリセット、NVIDIA GameWorks無効)に関する「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Ghost Recon Wildlands(グラフィック設定、ウルトラ設定から以下を変更、ターフエフェクト:オフ/ゴッドレイ:オン/ロングレンジシャドウ:オン)に関する「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Mirrors Edge Catalyst(ハイパー設定プリセット)に関する「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
MONSTER HUNTER: WORLD(最高設定プリセット)に関する「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Rise of the Tomb Raider(グラフィック設定)に関する「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Middle-Earth: Shadow of War(ウルトラ設定プリセット)に関する「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Titanfall 2(グラフィック設定)に関する「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
WatchDogs_2(最高設定プリセット)に関する「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
The Witcher3(最高設定)に関する「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Gears of War 4(最高設定プリセット)に関する「AMD Radeon VII」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
上記のベンチマーク結果を元に、Radeon VII、GeForce RTX 2080 Founders Edition、GeForce RTX 2070 Founders Edition、GeForce GTX 1080 Ti Founders Edition、GeForce GTX 1080 11Gbps OC、Radeon RX Vega 64 Limited Editionの6種類について実ゲーム性能の比率の平均を出してみました。
Radeon VIIは、AMD公式プレスリリースの通り、前世代ハイエンドGPUのRadeon RX Vega 64よりも20~30%程度も高速という結果になりました。ただしRX Vega 64を基準に比較した場合、Radeon VIIは残る4種のGPUよりもフルHDから4Kにおける性能比の差が開いており、フレームレートの大きくなるフルHD解像度で性能の伸びが小さいことから、ドライバのオーバーヘッドが大きいため、ハイフレームレートへの適応が不十分なようです。
Radeon VIIを2枚使用したマルチGPUの性能についても個別のレビュー記事を公開中です。
・AMD Radeon VIIのCrossFire Xをレビュー
AMD Radeon VIIの温度・消費電力・ファンノイズ
AMD Radeon VIIの負荷時のGPU温度やファンノイズや消費電力についてチェックしていきます。「AMD Radeon VII」のGPU温度とファンノイズの検証負荷としては20分間に渡たり連続してGPUに100%近い負荷をかける3DMark TimeSpy Stress Testを使用しています。
AMD Radeon VIIのテスト終盤におけるGPU温度は最大73度、ファン回転数は最大2900RPM程度でした。GPU温度はハイエンドグラフィックボードとしてはさほど高くありませんが、ファン回転数は非常に高い値を示しています。またランダムにファン回転数が2600RPMまで乱高下する様子も確認できます。
Radeon VIIには従来一般に用いられてきたGPUコア温度に加えて、ジャンクション温度(Junction Temperature)という温度が追加されています。ジャンクション温度はGPUダイ上に分散して設置された64個の温度センサーによってリアルタイムにモニタリングされた最大温度であり、これを元にコアクロック/電力制御を行い、ファン制御もジャンクション温度が参照されます。
「AMD Radeon VII」のファン制御について、下のようなファンカーブのマニュアル設定を適用してみました。ファンカーブ上ではジャンクション温度95度に対してファン速度デューティ比は75%となっており、それ以上の温度については設定できません。
この設定で同様に負荷テストを実行した時の最初200秒間の様子が次のようになっています。95度を閾値にしてファン速度が最大値の3600RPMに跳ね上がる様子が確認でき、95度をある程度の期間下回ると、3000RPM前後(おそらくデューティ比75%)に下がる様子も確認できます。
ファン制御を標準設定とした場合について、ジャンクション温度とファン回転数の様子をグラフ化すると次のようになります。ジャンクション温度が100度に達すると、最大回転数の3000RPM前後に達する様子が確認できます。
ファン回転数が乱高下する区間を抜粋すると、ジャンクション温度105度を閾値にして乱高下している様子がわかります。一方で上のグラフのように最初にファン回転数が3000RPMに達するのはジャンクション温度が100度の時だったので、おそらく標準設定では、ジャンクション温度が100度に達するまでと、100度を超過して以降の2つのファン制御ステートに分かれているのだと思います。
GPUコアクロックについて「AMD Radeon VII」の仕様値ではブースト1750MHzとなっていましたが、負荷テスト中の実動平均は1772MHzとなりました。前世代のRX Vega 64は1489MHz、RX Vega 56は1354MHzでした。
またベンチ機2のPCケースに「AMD Radeon VII」を組み込んでFire Strike Extreme グラフィックテスト1を1時間に渡ってループさせて実用の冷却性能を確認してみました。
検証機材のPCケースには「Cooler Master MASTERCASE MAKER 5t」を使用しており、ケースファンにはNZXT製のエアフロー重視でPCケースの吸気・排気ファンに最適なケースファン「NZXT Aer F 140」をPCケースのフロントに吸気ファンとして2基、リアに排気ファンとして1基設置してファン回転数1000RPM固定で運用しています。
PCケースに入れて長時間負荷をかけたところ最大温度はGPU温度が75度、ジャンクション温度が113度、コアロックの平均値は1707MHzでした。フロント2/リア1で140mmファンを設置して1000RPMで回していますが、「AMD Radeon VII」のファン回転数は2900RPMに達しており、ベンチ機での測定以上に煩くなることはありませんでしたが、PCケースに入れていてもはっきりとファンノイズが聞こえ、やはり煩いです。
1時間のストレステスト終盤にスマホで使用できるサーモグラフィカメラ「FLIR ONE Pro」(レビュー)を使用してゲーム負荷時のグラフィックボード上の各所の温度をチェックしました。
「AMD Radeon VII」ではGPUコアにVRAMのHBM2が集積されているので、コア周辺が最も熱くなる部分となっており、サーモグラフィーから確認できる最大温度は80度前後でした。Radeon VIIについてはVRM電源の発熱は大きくないようです。
「AMD Radeon VII」を含めていくつかのグラフィックボードについてサウンドレベルメーターを利用してゲーム負荷時のノイズレベルを測定・比較しました。ノイズレベルの測定には「サンワダイレクト 400-TST901A」を使用しています。
電源OFF時の騒音値は33~35dBです。目安として40dBを超えたあたりからファンノイズがはっきりと聞こえるようになり、45dB前後で煩く感じます。50dBを超えてくるとヘッドホンをしていても煩く感じます。同じ騒音値でも周波数(ファン回転数)が高いほど体感としては大きな音に感じやすく、また不快に感じたり感じなかったりは音の性質にもよるので注意してください。
ノイズレベルの測定結果は次のようになっています。
AMD Radeon VIIのファンノイズは、前世代最上位RX Vega 64よりは静かではあるものの、最大2900RPMというかなり高めな回転数がそのまま反映されて56.2dBとかなり高い数値を示しています。またノイズレベル自体の高さも気になるところですが、ジャンクション温度105度を閾値としてファン回転数がランダムに乱高下するので、52.5dB~56.2dBの間でノイズレベルが乱れるのが煩わしく感じました。
AMD Radeon VIIの消費電力と瞬間的な最大電源負荷を測定しました。
測定負荷には上で行った温度検証と同様に3DMark TimeSpy ストレステストを使用しています。テスト全体から1秒間隔でモニタリングを行い、平均値を”消費電力”、最大値を”瞬間的な最大電源負荷”とします。なお電源ユニットに対する実際の最大瞬間負荷は測定値より50~100W上回る場合があるので、電源ユニットの電源容量選択の参考にする場合は注意してください。
消費電力の測定は電源ユニット「Corsair HX1200i」のCorsair Linkによる電力ログ機能を用いてコンセントからの入力ではなく変換ロスを差し引いたシステムへの出力電力をチェックしています。また電力測定の際は上記の主電源ユニットに加えて、CPUへの電力供給を行うEPS端子へ接続するために別の副電源ユニットを使用しています。
この方法であれば、CPU(後述のiGPUも)に負荷をかけても、CPUによる消費電力の変動はメイン電源ユニットCorsair HX 1200iの測定値には影響しません。しかしながら、測定値にはまだATX24PIN経由で供給されるマザーボードやDDR4メモリの電力が含まれるので、iGPUを使用した時の3DMark TimeSpy ストレステスト中の消費電力と最大電源負荷を同様に測定し、各種グラフィックボード使用時と差分を取る形でグラフィックボード単体の消費電力と最大電源負荷を算出します。
AMD Radeon VIIの消費電力は250W、最大瞬間負荷は337Wでした。AMD Radeon VIIのTDP(AMD公式にはTypical Board Power)として300Wが公称値になっていますが、実際の平均消費電力はそれよりも低い値を示しています。
AMD Radeon VIIは性能で競合するRTX 2080と比較すると30W程度高い消費電力ですが、GTX 1080と競合したRX Vega 64が100W以上も高い消費電力であったことを考えると、競合製品比でのワットパフォーマンスはかなり改善されています。 一方でAMD Radeon VIIは性能がほぼ一致するNVIDIAの前世代最上位GTX 1080 Tiと消費電力においてもほぼ一致しており、1世代遅れてやっと追いついた感があることも否めません。
倍速補完機能「AMD Fluid Motion」の効果と使い方
AMD Radeon VIIなど一部のAMD製GPUで使用可能な動画フレーム倍速補完機能「AMD Fluid Motion」を実際に試してみました。「AMD Fluid Motion」は映画やアニメなどの各種動画で幅広く採用されている24FPSや30FPSの動画を60FPSに補完する機能で、高性能TVに搭載される”倍速機能”と同じことをグラフィックボードで行っています。サンプルにFluid Motionで倍速補完した動画を2つ用意しました。
1つ目の動画はわかりにくいですが、Fluid Motionによって若干動画がヌルヌルになっています。
2つ目ではFluid Motionの効果が顕著です。アニメや映画でよく見られるような同じ背景や景色が大きくスクロールしていくシーンでは倍速補完の効果は絶大になっています。カクカク感が気にならない動画よりもオリジナルで気になる動画でより効果を発揮するようです。
ちなみに下はAMD Ryzen 5 2400G(Radeon RX Vega 11 Graphics)の環境において、Fluid Motion使用時と非使用時の消費電力(システム全体)比較ですが、Fluid Motionを使用せずに24FPSのフルHD動画を再生した場合で約16W、24FPSのフルHD動画をFluid Motionで60FPSに倍速補完した場合で22W程度でした。Fluid Motionを使用しても消費電力は微増なので、Fluid Motion使用による発熱に伴うファン速度の上昇等の心配はありません。またGPU性能が比較的低いエントリー帯GPUでFluid Motionを使用しても動作がカクつくといったデメリットもありません。
AMD Fluid Motionの利用に際してAMD公式からは対応ソフトウェアは公開されておらず、同機能に対応したビデオ(DVD、BD、動画ファイル)プレイヤーが必要になります。
市販のソフトウェアで正式に対応しているプレーヤーは「PowerDVD」となっています。ただし2019年最新版の「PowerDVD 18」でFluid Motionを使用できるコンテンツはブルーレイディスクの動画のみです。
市販ソフトウェアでなくても「Media Player Classic - Homecinema(以下、MPC HC)」というフリーソフトの動画プレイヤーと、同じくフリーで公開されているプラグインを使用することでAMD Fluid Motionを利用可能なので実際に試してみました。
AMD Fluid Motionを使うのに必要なフリーソフトは「Media Player Classic - Homecinema」、「Bluesky Frame Rate Converter」の2つになります。各ソフトをリンク先からダウンロードしてください。管理人はいずれも圧縮ファイル版を使用しました。
「Bluesky Frame Rate Converter」の解凍フォルダは「Media Player Classic - Homecinema」の解凍フォルダの中に入れておけば間違って削除することもないのでわかりやすいと思います。
各種ソフトのインストールや解凍が完了したら、まず「Bluesky Frame Rate Converter」の設定を行います。
Bluesky Frame Rate Converterを起動し、ウィンドウ右下のアイコンからメニューを開いて「AFMを有効にする」を選択します。「AFMを有効にする」を選択すると1度再起動し、再度「Bluesky Frame Rate Converter」を開くと、「AFMを有効にする」にチェックが入ります。AMD Fluid Motionを有効化したら「AFMモード」のプルダウンメニューからモード1もしくはモード2を選択してください。
続いて「MPC HC」の設定を行います。メニューバーの「表示」から最下部にあるオプションを選択します。
オプション画面が表示されるので、左側メニューから「外部フィルタ」を選択して、右側のフィルタ追加を選び、リストから「Bluesky Frame Rate Converter」を登録します。
「Bluesky Frame Rate Converter」のインストーラー版を使用した場合は外部フィルタ一覧にそのまま表示されますが、圧縮ファイル版の場合は「参照」から「BlueskyFRC64.dll」を選択します。
追加した後は「フィルタを追加」の下の部分で「優先する」選択してください。
最後にRadeon設定から「AMD Fluid Motion」を有効化すれば設定完了です。
以上でAMD Fluid Motionを利用する準備は完了です。「MPC HC」で動画ファイルやDVD、BDを再生すると24FPSや30FPSの動画が60FPS化されると思います。60FPS化の確認には「MPC HC」メニューの「表示-統計情報」でボトムに詳細情報が各種表示できてフレームレートも書かれているのでここで確認可能です。
60FPS化が上手くいかない場合はMPC HCを再起動したり、上で書いたように「Bluesky Frame Rate Converter」から「AFMを有効にする」を選んで再起動すると正常に動作するかもしれないので試してみてください。
あと動画ファイルについては対応できるものとできないものがあるようで管理人が試しただけでもFraps取ったaviファイルが60FPS化できず、そのファイルを「つんでれんこ」というソフトでエンコードしたファイルは24FPS化できました。
AMD Fluid Motionによる倍速補完機能自体は非常に有用だと思うのですが、使用準備がやや面倒だったりと若干ハードルが高いのでAMDにはぜひ純正のAMD Fluid Motion対応プレーヤーを公開してもらいたいです。
AMD Radeon VII レビューまとめ
最後に「AMD Radeon VII」を検証してみた結果のまとめを行います。簡単に箇条書きで以下、管理人のレビュー後の所感となります。良いところ
- 最新PCゲームを4KやUWQHDの超高解像度かつ高画質設定でプレイ可能なグラフィック性能
- RX Vega 64よりも30%の高速化を果たし、消費電力も低下
- NVIDIAの最新ハイエンドRTX 2080や前世代最上位GTX 1080 Tiに競合する性能
- シンプルながらRadeonらしいカッコいいGPUクーラー
- 動画の倍速補完機能「AMD Fluid Motion」が利用できる
- ハイフレームレートで性能の伸びがやや悪い(ドライバのオーバーヘッドが大きい?)
- リファレンスGPUクーラーのファンノイズが大きい
- 19年2月現在、流通が非常に少ない
Radeon VIIは前世代最上位のRadeon RX Vega 64を公式発表の通り30%程度上回るという優れたグラフィック性能を実現しています。それでいて消費電力も低減しワットパフォーマンスも向上しており、4K/60FPSゲーミングに対応可能な2019年のハイエンドGPUに相応しい性能です。
一方で競合NVIDIAの最新ハイエンドGPUであるGeForce RTX 2080と比較すると、Radeon VIIを基準にして、平均で10%程度及ばぬ結果でした。消費電力を見てもRTX 2080より30W程度大きく、ワットパフォーマンスでも及びませんが、RX Vega 64対GTX 1080に比べれば、各段に改善されており、RTX 2080に競合できるGPUと称しても問題ない性能だと思います。
また4Kのような高解像度よりも、フルHDなどの低解像度ゆえに高フレームレートなゲームシーンで性能差が広がっており、高フレームレートゲーミングへの適応の遅れが確認されるので、この点については今後のドライバ最適化に期待したいところです。
グラフィック性能でこそ競合RTX 2080に一歩及びませんでしたが、動画の倍速補完機能「AMD Fluid Motion」、低負荷なプレイ動画の録画・配信機能「ReLive」、スマートフォンへのストリーミングゲームプレイ、VR HMDとのワイヤレス接続「ReLive For VR」などソフトウェア周りは充実しています。またハード面でも可変リフレッシュレート型同期機能「AMD FreeSync」に対応したモニタはG-Sync対応製品よりも安価かつ多数モデルが流通しています(2019年にはNVIDIA製GPUもAdaptive-Syncに対応しましたが)。そういった部分も含めて考えれば、Radeon VIIにグラフィック性能以外の付加価値を見出せます。
「AMD Radeon VII」のリファレンスモデルについて、前世代Radeon RX Vega 64のLimited EditionやLiquid Cooled Editionを踏襲したシルバーの外装とアクセントの赤色アクリルキューブを組み合わせたクールなデザインは評価のポイントですが、静音性や冷却性能には難があります。内排気3連ファンのGPUクーラーはお世辞にも静音性が良くない、というか悪い部類であり、AIBパートナー各社がリリースするであろうオリファンの繋ぎになるファングッズ感が否めません。RX Vega 64は消費電力それ自体の高さに目をつぶればリファレンス簡易水冷が鉄板モデルと言えたので、AMD Radeon VII Liquid Cooled Editionもリリースして欲しかったです。
以上、「AMD Radeon VII」のレビューでした。
・Radeon VII 販売ページ:
<Amazon><PCショップアーク><パソコン工房>
<TSUKUMO><ドスパラ><PCワンズ><ソフマップ>
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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
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