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ゲーミングモニタを選ぶうえで重要な予備知識を紹介する、その名の通り『ゲーミングモニタの選び方』シリーズ第3弾では、NVIDIA G-Sync CompatibleやAMD FreeSyncの名前で知られる可変リフレッシュレート同期機能について解説します。
NVIDIA G-Syncモジュール版とG-Sync CompatibleやAMD FreeSyncの違い、VESA Adaptive-Syncや、HDMI2.1でサポートが始まったHDMI Variable Refresh Rate (VRR)との関係など、発展の経緯もあって少々込み入った諸事情を説明していきます。
【執筆:2019年3月2日、最終更新:2021年5月21日】
モニタ表示の更新と同期の基本について
まず可変リフレッシュレート同期機能に関する予備知識として、モニタ表示の更新と同期の基本を簡単に解説します。液晶モニタはGPUから連続して送られてくる映像(フレーム)を、リフレッシュレートに応じて一定間隔で更新しながら液晶パネル上に表示していきます。下はその理想的な様子の模式図です。
しかしながらGPUによる映像出力と液晶モニタのリフレッシュレートは、実際には上のような理想的な関係にはなりません。その理由は単純で、PCゲームのようにリアルタイムレンダリングによって描画を行う映像ソースは、その時々の描画負荷によって各フレームの描画(レンダリング)にかかる時間が異なる、可変フレームレートの映像だからです。
レンダリングにかかる時間が一定ではないPCゲームにおいては、60Hzという更新周期に合わせてGPU内のフレームバッファを取り出して表示を更新する「垂直同期(V-Sync)」が一般的です。
しかしながら垂直同期においては60Hzリフレッシュレートのモニタの場合、画面更新間隔の約16msを超えてしまうフレームが発生するとその更新タイミングでは1つ前と同じフレームを表示することになるので、この時に「Stutter(スタッター、日本語では”カクつき”など)」が発生して(を感じて)しまいます。
一方で垂直同期を使用しない「同期なし」ではどうかというと、画面の更新とGPU側フレームバッファの更新が重なることによって、1つの画面内の上下で前後するフレームが表示される「Tearing(テアリング、誤読ですがティアリングでも日本なら通じる)」が発生します。
液晶モニタにはピクセルが格子状に並んでいますが、画面更新ではパネル上のピクセルが同時一斉に更新されるのではなく、上の列から下の列へ順番に更新されていきます。
そのため同期なしにおいては、画面更新の途中でGPU側フレームバッファが更新されると上半分はn番目のフレーム、下半分はn+1番目のフレームが表示され、画面の中央に切れ目が表示されて見えたり、上下で全く違う絵が表示されるといった現象が発生し、これがテアリングと呼ばれています。
可変リフレッシュレート同期機能とはどういったものなのかまとめると、『GPUフレームバッファの更新に合わせて画面を更新する』ので、PCゲームのようにGPUフレームバッファの更新が一定しない可変フレームレートの映像であっても、モニタ表示において原理的にスタッターもテアリングも発生しない同期技術となっています。
AMD FreeSync (VESA Adaptive-Sync)について
AMD FreeSyncはAMD独自の技術というわけではなく、技術自体はPCディスプレイなどに関する業界団体VESAが当初DisplayPort1.2規格に含まれる機能として公開した可変リフレッシュレート同期機能 Adaptive-Syncをそのまま採用しています。AMD FreeSync対応モニタとは、Adaptive-Syncに対応したモニタ製品がAMD製GPUと組み合わせた場合に可変リフレッシュレート同期機能が正常に動作することをAMDが公式に確認し、ロゴを付与した製品のことです。
HDMIの最新規格であるHDMI2.1では映像伝送規格に可変リフレッシュレート同期機能「HDMI Variable Refresh Rate (VRR)」が内包されています。
エンドユーザー的にはVESA Adaptive-SyncとHDMI Variable Refresh Rateは同じものと考えてOKです。付け加えるならAMD FreeSyncとNVIDIA G-Sync Compatibleも。
そのため2023年現在、ほぼ全てのVRR対応機器はNVIDIA製GPUやAMD製GPUを搭載したゲーミングPCだけでなく、PlayStation 5やXbox Series X/Sなど一部のコンソールゲーム機も含めて汎用的にVRR機能を使用できます。
例えば、Xbox Series X/Sは可変リフレッシュレート同期機能とHDR表示最適化の両方を含むFreeSync Premium Proに対応しています。
VRR対応製品に関する注意事項として、可変リフレッシュレート同期が可能なフレームレートの範囲はモニタ製品ごとに異なります。
AMDはFreeSync対応製品について早期からVRR対応レンジを含めた製品仕様リストを公開しています。【FreeSync対応モニタリスト】
製品毎に異なるVRRレンジの下限や上限を外れるようなフレームレートの変化に対しては、モニタは画面更新が追従できず、テアリングやスタッターが生じてしまいます。
AMD FreeSyncでは垂直同期のON/OFFをユーザーが各自で設定する必要があります。
下のグラフはVRRレンジ上限が60Hzの例ですが、単純にFreeSyncを有効にしただけではテアリングの発生を完全には防止できず(同期なしよりは大幅に減るが)、テアリングを完全に無くすためには垂直同期も同時に有効化する必要があります。(厳密にはフレームレート制限)
一方でFreeSyncを有効にした状態で垂直同期を無効化すると、フレームレートがVRR上限を超えた時にテアリングが発生する可能性は残るものの、マウスの入力遅延を小さくすることができます。
AMD FreeSyncはVRR対応PCディスプレイの普及に一役買ったことは間違いないのですが、48Hz~75HzのようなVRRレンジが狭いモニタもVRR対応製品として販売されてしまう、という悪影響もありました。
上ではVRRレンジの上限を上回った時にテアリングが発生する(代わりにマウス遅延が減る)という例を上げましたが、VRRでより問題になるのはスタッターが発生してしまう下限を下回った時です。
そこで新たに登場したのが、AMD FreeSync PremiumとAMD FreeSync Proの上位認証です。
AMD FreeSync Premiumには、フレームレートがVRRレンジ下限を下回った時のカクツキを抑制する機能、低フレームレート補正(LFC: Low Framerate Compensation)の対応が必須となっており、実質的にリフレッシュレートが120Hz以上のVRR対応モニタにしか認証が付与されません。
なおAMD FreeSync ProについてはAMDがHDR対応モニタの認証として”FreeSync 2”と発表した名残りというか、VRR関連の要件はPremiumと共通で、HDR表示をVRRと併用できるとかHDRの広色域に対応しているとかHDR関連の要件を追加したバージョンです。
低フレームレート補正(LFC: Low Framerate Compensation)については別記事で解説しているので、詳しくはこちらを参照してください。
AMD FreeSyncとNVIDIA G-Syncの違い
可変リフレッシュレート同期機能にはAMD製GPUやコンソールゲーム機などで使用可能な「AMD FreeSync(VESA Adaptive-Sync、HDMI Variable Refresh Rate)」以外にも、NVIDIA製GPU搭載PC専用で使用可能な「NVIDIA G-Sync」も存在します。「NVIDIA G-Sync」はモニタ側に専用モジュールを搭載しているため高価ですが、「AMD FreeSync」とは違って可変リフレッシュレート同期機能を使用可能な映像ソースのフレームレートについて、モニタに依存した制限が基本的に存在しないというメリットがあります。
一方で「AMD FreeSync」はVESAが策定したAdaptive-Sync(アダプティブシンク/適応同期)機能に準拠した仕様に、AMDが動作確認を行って公式ロゴを付与したものなので専用モジュールが必要なく、安価で採用製品が多いというメリットがあります。
「NVIDIA G-Sync」と「AMD FreeSync」はいずれも可変リフレッシュレート同期機能というくくりで扱われますが、下にまとめた比較表を見てわかるように両者の仕様にはけっこう違いがあります。
可変フレームレート機能の簡易比較表 | ||
NVIDIA G-Sync(公式) | AMD FreeSync(公式) VESA Adaptive-Sync HDMI Variable Refresh Rate |
|
対応出力機器 | NVIDIA製GPU搭載PCのみ (最新モニタでは社外製品も一部対応) |
AMD製GPU搭載PC NVIDIA製GPU搭載PC PlayStation 5 Xbox Series X/S |
ビデオ入力 |
主にDisplayPortのみ (最新モニタではHDMIも一部対応) |
製品によるが、規格としてはDisplayPortとHDMIの両方に対応 |
垂直同期 |
NVコンパネのG-Sync設定を有効にすると、ゲーム内の垂直同期設定は、通常、ドライバによって自動で上書きされる (手動設定が必要な場合もある) |
FreeSync(Adaptive-Sync)とは別にゲーム内で設定が必要 垂直同期有効ではテアリングが発生しなくなる 垂直同期無効ではテアリングが発生する可能性あり |
対応FPS/Hz | リフレッシュレートを最大値として、1FPSまで下限値はなし 【G-Sync対応モニタリスト】 |
モニタ製品によって範囲は異なり、リフレッシュレートを最大値として、下限値がある フレームレートが下限を下回るとスタッターやテアリングが発生 【FreeSync対応モニタリスト】 |
オーバードライブ |
リフレッシュレートの変化に合わせて、補正強度が可変 |
モニタ設定で固定されるので、 オーバーシュートによる滲みが生じる可能性がある |
HDR対応 | G-SyncとHDRに対応したモニタなら併用可能 (製品による) HDR対応も含めた最上級認定の「G-Sync Ultimate」認証もある |
FreeSyncとHDRに対応したモニタなら併用可能 (製品による) 別途、HDR表示時に表示遅延や発色を最適化する「FreeSync Premium Pro」認証もある |
対応モニタ |
採用製品は少ない | 採用製品が多い |
製品価格 | 専用モジュール搭載なので高価 FreeSync対応の同スペック製品と比較して+2~3万円ほど |
VESAやHDMIの規格準拠なので安価 |
専用モジュールを搭載するNVIDIA G-Syncの大きな特長を1つ挙げると、「可変オーバードライブ」という機能があります。
オーバードライブと応答速度の基礎知識についてはまずこちらの記事を参照してください。
・ゲーミングモニタの選び方[1] 応答速度とオーバードライブについて
モニタには通常いくつかのオーバードライブ設定があるのですが、一般的なゲーミングモニタではリフレッシュレート毎に最適なオーバードライブ設定が異なります。
下は144Hzリフレッシュレートに対応する「LG 27GN950-B」の例ですが、100Hz前後のハイリフレッシュレートで最適な応答を見せるオーバードライブ設定は、60Hzなどの低いリフレッシュレートでは逆に補正が強すぎでオーバーシュートによる逆像の色滲みが生じてしまいます。
AMD FreeSyncやG-Sync Compatibleでは通常、モニタのオーバードライブ設定は可変リフレッシュレート同期によるリアルタイムのリフレッシュレート変化に依存せず固定されているため、144Hzで最適なオーバードライブ設定を適用している時にリフレッシュレートが60Hzなどに下がるとオーバーシュートによる滲みが生じてしまいます。
専用モジュールを搭載したNVIDIA G-Syncは「可変オーバードライブ」機能に対応しているので、可変リフレッシュレート同期によってリフレッシュレートが変動しても、リアルタイムのリフレッシュレートに合わせて最適なオーバードライブ設定が適用されるため、オーバーシュートによる滲みが発生し難い構造になっています。
NVIDIA G-Sync Compatibleについて
さらに2019年1月付けでNVIDIAからAdaptive-Sync対応モニタを独自に検証し、G-Syncと互換性のあるモニタとして認定する「G-Sync Compatible Monitors」プログラムがリリースされ、事実上、NVIDIA製GPUでVESA Adaptive-Syncを利用可能になりました。またGeForce RTX 30シリーズ以降のGPUと最新ドライバではHDMI2.1のHDMI Variable Refresh Rateもサポートしています。
G-Sync Compatibleについて簡単に説明すると、AMDが動作確認を行った上でモニタ製品にFreeSync認証を付与しているのと同様に、NVIDIAも要件を満たす製品へ400程度のテストで動作確認を行って、G-Sync Compatibleの認証を付与し、最新ドライバの更新に合わせて認証リストをアップデートしています。
市場に出回っているAMD FreeSync対応モニタは上述の通り機能自体はVESA Adaptive-Syncなので、NVIDIA製GPUとAMD FreeSync対応モニタを組み合わせて可変リフレッシュレート同期機能を利用可能になりました。
G-Sync Compatibleの認証付与にはLFC対応が要件として含まれているので、『
なおG-Sync Compatible Monitors認証のリストにないモニタであっても、VESA Adaptive-SyncやHDMI Variable Refresh Rateに対応しているモニタであればNVIDIAコントロールパネルから設定することで可変リフレッシュレート同期機能を有効にできます。
可変リフレッシュレート同期機能の関連事項は少々込み入っていますが、NVIDIA GeForceやAMD RadeonとVESA Adaptive-Sync、HDMI Variable Refresh Rateの関係を簡単にまとめると次のようになっています。
NVIDIA/AMD製GPUと Adaptive-Sync、HDMI VRRの関係 |
||
NVIDIA GeForce |
AMD Radeon |
|
認証 |
NVIDIAが正常動作を確認したモニタに「G-Sync Compatible」の認証を付与 |
AMDが正常動作を確認したモニタに「FreeSync」の認証を付与 |
認証のない モニタ |
上記の各社認証のないモニタでも機能の有効化は可能。 ただし安定した動作保証はない (たいてい問題はないが) |
|
対応ビデオ出力 | モニタ次第、最新グラフィックボードなら DisplayPortとHDMIの両方のビデオ出力が対応 |
|
垂直同期 |
Adaptive-Syncの有効化とは別にゲーム内で設定が必要 垂直同期有効ではテアリングが発生しなくなる 非同期ではマウス遅延が低減するがテアリングの可能性あり |
|
対応FPS/Hz | モニタ製品によって対応範囲は異なり、 リフレッシュレートを最大値として、下限値がある 【G-Sync Compatible対応リスト / FreeSync対応リスト】 下限をフレームレートが下回るとスタッターやテアリングが発生 |
|
HDR対応 | G-Sync CompatibleとHDRに対応したモニタなら併用可能 | FreeSyncとHDRに対応したモニタなら併用可能 別途、HDR表示時に表示遅延や発色を最適化する「FreeSync Premium Pro」認証も |
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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
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