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Intel第10世代Comet Lake-Sシリーズから10コア20スレッドで倍率アンロックなOC対応モデル「Intel Core i9 10850K」をレビューします。10コア20スレッドCPUの「Intel Core i9 10850K」が、上位モデルCore i9 10900Kや競合AMDのRyzen 9 3900XTと比較して、クリエイティブタスクやPCゲーミングでどれくらいの性能を発揮するのか検証していきます。
製品公式ページ:https://ark.intel.com/content/www/jp/ja/ark/products/205904/intel-core-i9-10850k-processor-20m-cache-up-to-5-20-ghz.html
Intel Core i9 10850K レビュー目次
1.Intel Core i9 10850Kの外観・付属品・概要
2.Intel Core i9 10850Kの検証機材・動作設定
3.Intel Core i9 10850Kの動作クロック・消費電力・温度
4.Intel Core i9 10850Kのクリエイティブ/ゲーム性能を比較
5.Intel Core i9 10850KのOC耐性や電圧特性について
6.Intel Core i9 10850Kのレビューまとめ
Intel Core i9 10850Kの外観・付属品・概要
「Intel Core i9 10850K」の外観や付属品について簡単にチェックしておきます。またこの章では「Intel Core i9 10850K」の仕様等について簡単に触れておきたい概要もあれば紹介します。「Intel Core i9 10850K」などIntel第10世代Comet Lake-SはCPUソケットがIntel LGA1200に更新されていますが、CPUのPCB基板サイズなど基本的な形状は従来とほぼ共通です。
以下、刻印を除いて同仕様なのでCore i9 10900Kの写真で説明していきます。
前世代となる第9世代CoffeeLake Refresh-Sではヒートスプレッダの形状がかなり昔のものに先祖返り?して、CPUクーラーと接する面積が小さくなっていましたが、Core i9 10850KなどIntel第10世代Comet Lake-Sはヒートスプレッダが僅かながら大きくなっているように見受けられます。
コンマミリ単位で僅かに薄くなっているようにも見えますが、Core i9 10850KとCore i9 9900KのPCB基板の厚みはほぼ同じです。
重量を比較するとCore i9 10850Kのほうが2g程度重く、ここからもヒートスプレッダの大型化が確認できます。同じ材質なら熱容量はヒートスプレッダの質量にほぼ直結するので、「Intel Core i9 10850K」などIntel第10世代Comet Lake-SではCPUの発熱に対するヒートスプレッダのバッファ性能も高まっているはずです。
第9世代CoffeeLake Refresh-SではCPUダイの厚みが従来よりも増しており、ダイ研磨によって冷却性能が上がるとプロOCerが検証を行ったり、ダイ研磨の専用ツールが発売されるなど話題になりましたが、Intel第10世代Comet Lake-SではCPUダイを薄くすることで温度が下がっているとアピールされています。TIMは前世代に引き続きソルダリング寄りな性能のSTIMが採用されているとのこと。
・Core i9 10900Kの殻割りクマメタル化&銅製IHSの冷却性能を検証
「Intel Core i9 10850K」は10コア20スレッドのCPUで、ベースクロックは3.6GHz、最大シングルブーストクロックは5.2GHz、最大全コアブーストクロックは4.8GHzとなっています。倍率アンロックなK付きCPUは従来TDP95Wでしたが、「Intel Core i9 10850K」ではTDP125Wへ引き上げられています。
新機能の「Thermal Velocity Boost」はCPU温度を閾値とした追加ブースト機能となっており、CPU温度が一定以下であれば全コア最大動作倍率、TBM3の単コア最大動作倍率の設定値を超えるコアクロックのブーストを可能にし、Core i9 10850Kでは最大シングルブーストクロック5.2GHz/最大全コアブーストクロック4.8GHzの高速動作を実現します。
またIntel第10世代Comet Lake-SのCoreシリーズは、Intel製エンスージアスト向けCPUのCore-Xでいち早く採用された「Turbo Boost Max 3.0 Technology」に対応しています。TBM3.0は、CPUダイ上で最も電圧特性の良いコア(CPU個体ごとに異なる)を自動で選別し、非常に高い単コア最大ブーストクロックで動作させ、アクティブタスクへ優先的に割り当ててくれる機能です。
「Intel Core i9 10850K」を、上位モデルのCore i9 10900K、Core i9 10900や、競合AMDのRyzen 9 3900XTと比較すると次のようになっています。
Intel Core i9 10850K スペック簡易比較 | ||||
Core i9 10850K |
Core i9 10900K | Core i9 10900 | Ryzen 9 3900XT | |
コアスレッド | 10コア20スレッド | 12コア24スレッド | ||
ベースクロック | 3.6GHz | 3.7GHz | 3.6GHz | 3.8GHz |
全コア最大ブースト | 4.8GHz | 4.9GHz | 4.6GHz | ~4.3GHz |
単コア最大ブースト | 5.2GHz | 5.3GHz | 5.2GHz | 4.7GHz |
コア倍率OC |
O | X | O | |
メモリOC |
O (Z490のみ) |
O | ||
L3キャッシュ | 20MB | 20MB | 20MB | 64MB |
TDP | 125W | 65W | 105W | |
CPUクーラー | X | O | X | |
iGPU |
O | X | ||
メモリ ch / pcs |
2 / 4 | |||
CPU直結PCIEレーン |
16 | 16 + 4 | ||
おおよその国内価格 (北米希望小売価格) |
6.3万円 (453ドル) |
7.2万円 (488ドル) |
5.9万円 (439ドル) |
6.4万円 (499ドル) |
Intel第10世代Comet Lake-Sのプラットフォーム関連について、まずCore i9とCore i7は定格メモリ周波数が従来の2666MHzから2933MHzへと引き上げられています。Core i5以下の定格メモリ周波数は2666MHzとなり、Core i5は据え置き、Core i3以下は従来モデルから引き上げという形です。
ネットワーク関連では、CPUにIntel AX201というWiFi6対応無線LANコントローラーがチップセットに統合されています。160MHz幅で通信可能にするGig+にも対応し、最大2400Mbpsで通信可能です。またオプショナルな要素として、Intel製2.5Gb LANコントローラー I225-V(Foxville)やThunderbolt3も増設IOとしてサポートします。
Intel第10世代Comet Lake-Sの対応マザーボードチップセットは新しい400シリーズチップセットとなり、CPUソケットもLGA1200に変わるので、Z390やH370など300シリーズチップセットを搭載するLGA1151ソケットの旧世代マザーボードとは非互換です。
400シリーズチップセットには、すでにマザーボード製品が各社から発表されている最上位「Intel Z490」に加えて、安価な「Intel H470」、「Intel B460」、「Intel H410」などもラインナップされています。
・主要4社Z490マザーボードを徹底比較!第10世代Core-Sにイチオシはどれか?
Intel Core i9 10850Kの検証機材・動作設定
以下、「Intel Core i9 10850K」の各種検証を行うベンチ機、および比較対象となる各CPUのベンチ機の詳細となります。Intel LGA1200(Z490)環境 テストベンチ機の構成 | |
CPU | Intel Core i9-10900K(レビュー) Intel Core i9-10900(レビュー) Intel Core i9-10850K(レビュー) |
マザーボード | ASUS ROG MAXIMUS XII EXTREME (レビュー) |
CPUクーラー | Fractal Design Celsius S36 (レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM x3 (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill Ripjaws V F4-4000C15Q-32GVK DDR4 8GB*4=32GB (レビュー) 3600MHz, CL16-16-16-36-CR1 |
ビデオカード(共通) | ZOTAC RTX 2080Ti AMP Extreme Core (レビュー) |
システムストレージ(共通) | Samsung 860 PRO 256GB (レビュー) |
OS(共通) | Windows10 Home 64bit |
電源ユニット(共通) | Corsair HX1200i (レビュー) |
ベンチ板 | STREACOM BC1 (レビュー) |
Intel LGA1200(Z490)環境では検証機材マザーボードとして「ASUS ROG MAXIMUS XII EXTREME」を使用しています。「ASUS ROG MAXIMUS XII EXTREME」でCPU動作設定を標準設定のAutoとした場合、同環境で検証する各CPUのBy Core Usage動作倍率は単コア/全コアは仕様通りで、長時間電力制限PL1による電力制限も正常に適用されます。短時間電力制限PL2や短期間電力制限時間Tauについても以下のテーブルで示すIntel公式仕様の通り設定されていました。
Intel第10世代CPUの電力制限仕様値 | ||||
TDP | PL1 | PL2 | Tau | |
Core i9 | 125W | 125W | 250W | 56s |
65W | 65W | 224W | 28s | |
35W | 35W | 123W | 28s | |
Core i7 | 125W | 125W | 229W | 56s |
65W | 65W | 224W | 28s | |
35W | 35W | 123W | 28s | |
Core i5 | 125W | 125W | 182W | 56s |
65W | 65W | 134W | 28s | |
35W | 35W | 92W | 28s | |
Core i3 | 65W | 65W | 90W | 28s |
35W | 35W | 55W | 28s |
長時間負荷をかけた時のCPU消費電力(CPU Package Power)がTDPの範囲内に収まるCPUについては特に追加の設定を設けていませんが、Core i9-10900Kのように全コア最大動作倍率においてTDPを大きく上回るCPUに関してはBy Core Usage動作倍率は定格のまま、『PL1=TDP、PL2=(テーブルの仕様値)、Tau=56s(125W) or 28s(65W)』のIntel公式仕様および『PL1/PL2無効化』の2つのケースで測定を行います。
「ASUS ROG MAXIMUS XII EXTREME」の場合、By Core Usage動作倍率および電力制限は下記のような形でBIOS上から設定が可能です。
上の設定はASUS製マザーボードのBIOSメニューから設定した例ですが、ASRock、GIGABYTE、MSIなど主要4社のマザーボードであれば同種の設定項目が用意されているはずなので、同じように電力制限を課すことができます。再起動等で初期化されることもあるので、確実性の高いBIOSからの設定が推奨なのですが、「Intel Extreme Tuning Utility」からも設定が可能です。
AMD AM4(X570)環境 テストベンチ機の構成 | |
CPU | 【第3世代Ryzen】 AMD Ryzen 9 3900XT (レビュー) AMD Ryzen 9 3900X (レビュー) AMD Ryzen 7 3700X (レビュー) |
マザーボード | MSI MEG X570 ACE (レビュー) |
CPUクーラー | Corsair H150i PRO RGB (レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM x3 (レビュー) |
メインメモリ (第3世代Ryzen) |
G.Skill Trident Z Neo F4-3600C14Q-32GTZN DDR4 8GB*4=32GB (レビュー) 3600MHz, CL16-16-16-36-CR1 |
その他 |
レビュー対象CPUのベンチ機と共通 |
ベンチ機のシステムストレージにはSamsung製MLCタイプ64層V-NANDのメモリチップを採用する2019年最速のプロフェッショナル向け2.5インチSATA SSD「Samsung SSD 860 PRO 256GB」を使用しています。Samsung SSD 860 PROシリーズは容量単価が高価ではあるものの、システムストレージに最適な256GBや512GBモデルは製品価格としては手を伸ばしやすい範囲に収まっており、Intel Core-XやAMD Ryzen TRのようなハイエンドデスクトップ環境はもちろん、メインストリーム向けでもハイパフォーマンスな環境を目指すのであれば、システムストレージ用に一押しのSSDです。
・「Samsung SSD 860 PRO 256GB」をレビュー
CPUとCPUクーラー間の熱伝導グリスには当サイト推奨で管理人も愛用しているお馴染みのクマさんグリス(Thermal Grizzly Kryonaut)を塗りました。使い切りの小容量から何度も塗りなおせる大容量までバリエーションも豊富で、性能面でも熱伝導効率が高く、塗布しやすい柔らかいグリスなのでおすすめです。
グリスを塗る量はてきとうでOKです。管理人はヘラとかも使わず中央山盛りで対角線だけ若干伸ばして塗っています。Thermal Grizzly Kryonautは柔らかいグリスで適量が塗布されていれば、CPUクーラー固定時の圧着でヒートスプレッダ全体へ自然に伸びるので塗り方を気にする必要もありません。
サーマルグリスの代用品として、数年スパンの長期使用においても性能低下が基本的になく再利用も可能、グリスが零れてマザーボードが汚れたり壊れる心配もないので、炭素繊維サーマルシート「Thermal Grizzly Carbonaut」もオススメです。
・「Thermal Grizzly Carbonaut」はCore i9 9900Kを冷やせるか!?
Intel Core i9 10850Kの動作クロック・消費電力・温度
「Intel Core i9 10850K」に関する検証のはじめに、「Intel Core i9 10850K」の動作クロック、消費電力、温度など同CPUの基本的な動作についてチェックしていきます。Core i9 10850Kは10コア20スレッドのCPUであり、定格動作において1コア~10コアまで同時に負荷がかかった時の最大動作倍率はコア数1~10に対して順番に[52, 52, 50, 49, 49, 48, 48, 48, 48, 48]です。By Core Usage倍率1つ1つを見てもCore i9 10900Kよりちょうど1つ低く設定されています。全10コアへ同時に負荷がかかっても最大で4.8GHz動作が可能となっています。
HWiNFOから「Intel Core i9 10850K」のコアクロックの挙動を確認したところ、確かに負荷の軽い場面では最大5.2GHz程度で動作するコアがありました。
またIntel第10世代Core-S CPUの製品仕様によると、Intel Core i9 10850Kの電力制限は、「Turbo Boost Power Max(長期間電力制限/Power Limit 1)」が125W(=TDP)、「Turbo Boost Short Power Max(短期間電力制限/Power Limit 2)」が250W、「Turbo Boost Power Time Window(短期間電力制限時間/Tau)」が56sになっているはずです。
「Intel Core i9 10850K」をZ490マザーボード「ASUS ROG MAXIMUS XII EXTREME(BIOS:0604)」と組み合わせてCPU動作をBIOS標準設定とすると、PL1:125W、PL2:250W、Tau:56sの電力制限で動作するので、Cinebenchのような短時間のベンチマークや、Aviult&x264エンコードの最初の1分弱など、全10コアへ同時に大きな負荷がかかった時の動作クロックは全コア4.8GHzに張り付きました。このときCPU Package PowerはTDP=PL1=125Wを大幅に超過し200W~220W程度を示します。
仮にマザーボードの標準設定において電力制限が無効化されている場合、コアクロックは全コア4.8GHzに張り付いて変動せず、負荷開始からTauが経過しても、この消費電力が発生し続けます。
一方で「Intel Core i9 10850K」を仕様通り電力制御(PL1:125W、PL2:250W、Tau:56s)で動作させると、負荷開始からTauで指定される短期間電力制限の期間内ではTDPを大きく上回る消費電力が発生しますが、Tau経過後はTDP(PL1:長時間電力制限)と同じ125WへCPU Package Powerが抑制されます。
「Intel Core i9 10850K」はPL1:125Wの電力制限下において、全コアの実動平均コアクロックは4.3~4.4GHz程度となります。
続いてCPU消費電力の検証結果をチェックしていきますが、当サイトのCPUレビューでは主として”CPU温度への影響要因”という意味においてCPU消費電力を評価しているので、動画のエンコードによって長期間電力制限が効いている状態の平均的な消費電力をCPU消費電力として比較します。
個人的な意見としては短期間電力制限は短期間かつCPU温度によっても制御されるのでCPU温度への影響要因として比重は小さく、また瞬間ピーク電力はせいぜいがTDP+100W程度なので、マザーボードVRM電源の破損を心配するほどではなく、その程度の電力超過は電源ユニットで十分吸収できるので、評価対象としてあまり意味がないと思っています。
またCPU製品仕様のTDPについては、定義がIntel/AMDで厳密には異なり、各社の具体的な測定・算出方法も不明なので、CPU動作クロックを含めて総合的に判断する必要があるものの、基本的には長期間電力制限時の消費電力がTDP仕様値とほぼ一致、もしくはTDP仕様値を下回れば正常であると評価します。
当レビュー記事では簡単のため割愛しますが、CPUの消費電力に関する評価基準の補足として下記の記事も参考にしてください。
・2019年最新CPUの消費電力・発熱・TDP・温度について - 爆熱評価のウソほんと
CPU消費電力の測定には電源ユニット「Corsair HX1200i」のCorsair Linkによる電力ログ機能を用いてコンセントからの出力ではなく変換ロスを差し引いた入力電力をチェックしています。
また電力測定の際は上記の主電源ユニットに加えて、CPUへの電力供給を行うEPS端子を除いた、各種電源端子へ接続するために別の副電源ユニットを使用しています。そのため測定値にはEPS電源端子を経由して供給されるCPU消費電力以外の消費電力は含まれません。なお電源ユニットに対する実際の最大瞬間負荷は測定値より50~100W上回る場合があるので電源ユニットの電源容量選択の参考にする場合は注意してください。
CPUの消費電力や温度の測定を行う負荷テストについては、FF14ベンチマークの動画(再生時間6分40秒、4K解像度、60FPS、容量5.7GB)を変換ソースとして、Aviutl&x264を使って動画のエンコードを行います。動画エンコードの同時実行数については4~6コアは並列なし、8~14コアは2並列実行、16コア以上は3並列実行としています。
注:CPUのストレステストについてはOCCTやPrimeなど専用負荷ソフトを使用しているレビューもありますが、管理人の私見としてはCPU負荷が非現実的なので、当サイトではPCゲームや動画のエンコードなど一般的なユースを想定した場合、ほぼ最大のCPU負荷となるx264による動画エンコードとストレステストに採用しています。
「Intel Core i9 10850K」と比較対象の各CPUについて、上記負荷テスト中の”平均値を消費電力”、”最大値を瞬間的な最大電源負荷”と表記した場合、消費電力測定結果は次のようになっています。 【全CPU比較データ】
PL:125W-250Wの添え字があるケースについては『PL1:125W、PL2:250W、Tau:56s』と電力制限を課しているので当然ですが、「Intel Core i9 10850K」のCPU消費電力は158W程度となり、同電力制限を課しているCore i9 10900Kと同等の結果です。
一方、電力制限を解除すると全コア4.8GHz動作となりEPS電源経由の消費電力は250W前後で推移します。Core i9 10900Kの電力制限無効による全コア4.9GHz動作よりも消費電力が大きいので、定格V-Fカーブを見る限りはCore i9 10900Kの選別落ちがCore i9 10850Kになったという印象です。
Core i9 10900は定格よりもCPUコア動作倍率を引き上げられないので、Core i9 10900のBy Core Usage設定に揃え、かつ電力制限を無効化して、V-Fカーブの特性(定格V-Fカーブで全コア4.6GHz動作になった時の消費電力)を比較してみたところ、上のグラフの紫色バーのようになりました。
Core i9 10900Kが最も低電圧な良い特性(定格設定)であるのは予想通り当然として、Core i9 10850KがCore i9 10900よりも悪い特性(高い電圧に設定されている)で消費電力が大きいというのは意外でした。
Core i9 10850Kは、Core i9 10900相当の個体に対して、電力制限を10900Kと同じ『PL1:125W、PL2:250W、Tau:56s』に変え、全コア最大動作倍率を4.8GHzに引き上げ、ついで倍率アンロックしただけ、と予想していたので。
この結果が必ずしもCore i9 10850Kの電圧特性が悪いことに直結するわけではないので、詳しくは後半のOC検証の章でチェックしていきますが、1つの事実として(個体差の影響も考慮する必要はあるものの)、Core i9 10850Kの定格V-Fカーブは、Core i9 10900KはもとよりCore i9 10900よりも高い電圧設定になっているようです。電力制限解除によるカジュアルな性能向上を狙う場合、冷やすのは10900Kや10900よりも若干難しくなるので注意が必要です。
続いて「Intel Core i9 10850K」は一般的な120サイズ冷却ファン搭載のサイドフロー型空冷CPUクーラーで運用できるかどうかの参考として、上位モデルのCore i9 10900Kのレビュー記事からの抜粋となりますが、120サイズ空冷CPUクーラーで冷やしてみたケースについて紹介します。
検証負荷には消費電力測定と同様に動画のエンコードを実行しています。空冷CPUクーラー使用時のCPU温度検証の検証機材CPUクーラーには、Noctua製サイドフロー型CPUクーラーのスタンダードモデル「Noctua NH-U12S」を使用しており、冷却ファンは次世代120mmファン「Noctua NF-A12x25 PWM」に交換しています。
Intel Core i9 10900Kを120サイズ空冷CPUクーラーで冷やしてみると、電力制限無効化の全コア4.9GHzではベンチ板上での測定でもCPU温度が90度に達しました。一方で定格動作の通りにPL1=TDP=125Wの電力制限を適用するとCPU温度は60度前後に収まっています。
電力制限無効化で200W超の発熱になる全コア4.9GHz張り付きの状態では240サイズ以上のマルチファン簡易水冷CPUクーラーが推奨ですが、仕様値通りにTDP125Wの電力制限が適用されていれば、Intel Core i9 10900Kは一般的な120サイズ冷却ファンの空冷CPUクーラーでも問題なく運用できます。
定格電力制限適用時はCPU消費電力が同等の「Intel Core i9 10850K」も当然、一般的な120サイズ冷却ファンの空冷CPUクーラーで問題なく運用が可能です。
なおCore i9 10900Kの電力制限無効化による全コア4.9GHzについては240サイズラジエーターの簡易水冷CPUクーラーなら十分な静音性を維持したままで運用が可能でした。
「Intel Core i9 10850K」については、単純に電力制限を解除するとCore i9 10900Kの時よりCPU消費電力は20W程度大きいですが、それでも240サイズ以上の簡易水冷CPUクーラーなら電力制限無効化による全コア4.8GHzを問題なく運用できるはずです。
Intel Core i9 10850Kのクリエイティブ/ゲーム性能を比較
「Intel Core i9 10850K」のクリエイティブタスク性能やゲーム性能をCore i9 10900KやCore i9 10900と比較してチェックしていきます。「Intel Core i9 10850K」は、10コア20スレッドのCPUであり、単コア最大動作クロックは5.2GHz、全コア最大動作クロックは4.8GHzです。PL1:125Wの電力制限が仕様通り適用されている場合、3Dレンダリングや動画のエンコードなど長期的に全コアに対して大きく負荷がかかる時の実動クロックは4.3~4.4GHz程度となります。
「Intel Core i9 10850K」は短期的には全コア4.8GHz程度で動作するので、CPUのマルチスレッド性能を測定するベンチマークで定番のCinebench R15のスコアは2600程度、Cinebench R20のスコアは6300程度でした。
上位モデルのCore i9 10900Kと比較すると、全コア最大動作倍率、単コア最大動作倍率ともに1倍しか違わないので、その差に応じてベンチマークスコアは僅かに下回る程度です。
10コア20スレッドCPU「Intel Core i9 10850K」のクリエイティブタスク性能を簡単にまとめると下のグラフのようになっています。()内にはクリエイティブタスクでCPUに100%負荷がかかった時の典型的なEPS電源端子経由のCPU消費電力を記載しています。
Core i9 10850KはPL1:125Wの電力制限により全コア4.3GHzt程度で動作する定格設定の場合、10コア20スレッドというコアスレッド数相応の性能を発揮し、8コア16スレッドのCPUに対して20~25&高い性能を発揮できます。
Core i9 10900Kと比較するとV-Fカーブ特性の差で同電力制限における実動コアクロックが低いため性能は微減となりますが、誤差程度です。
また、公式設定の通りPL1:65Wに電力制限を課したCore i9 10900を見ての通りですが、同社製8コア16スレッドCPUと比較して電力効率は高いものの(多コアをゆっくりの法則の通り)、PL1:65Wではコアスレッド数相応の性能を発揮できないので、10コアなIntel第10世代Core i9はPL1:125W以上での運用を当サイトでは推奨しています。PL1:125Wであれば上の章で紹介した通り、一般的な120サイズ空冷CPUクーラーで十分に運用が可能です。
電力制限の解除についても、全コア4.8GHzのCore i9 10850K、全コア4.9GHzのCore i9 10900K、全コア4.6GHzのCore i9 10900という製品スペック通りの性能スケーリングです。
競合AMDのメインストリーム向けCPUである第3世代Ryzenと比較すると、希望小売価格で競合するRyzen 9 3900X(T)は12コア24スレッドCPUなので、消費電力が140~150Wで一致するTDP125W制限ではコアスレッド数に比例して20%程度の性能差があり、電力制限無効化の全コア4.9GHzでもCore i9 10900KはRyzen 9 3900Xに及びません。
続いてゲーム性能についてですが、まず予備知識として、ゲームタイトルにもよりますがPCゲームにおけるCPU負荷は基本的にTDP内に収まることが多く、CPUコアクロックは全コア最大動作倍率に張り付きます。
フレームレートに対するCPUボトルネックの緩和においては、この全コア最大動作倍率の高さが重要になり、クリエイティブタスクと違って電力制限は支配的ではなくなります。(PCゲームではIntel製CPUのPL1、AMD製CPUのPPTは影響をほとんど及ぼさなくなる)
「Intel Core i9 10850K」は全コア最大動作倍率の4.8GHzに対して電力制限がPL1:125Wと十分に高いので、240FPSオーバーのハイフレームレートでも基本的に全コア4.8GHzへ張り付きます。
Assassin's Creed Odysseyのように一部の高画質PCゲームをハイフレームレートで動作させるとCPU Package Powerが125W前後になり、瞬間的に超過することもあります。とはいえ実用上はPL1:125W以内に収まるケースが大半で、超過したとしても短期間電力制限PL2のリセットが効く範囲内でしか超過が持続することはないはずです。
ただし一例として、下位モデルのIntel Core i9 10900の場合はゲーム負荷時のコアクロックとPL1の関係に注意が必要です。
「Intel Core i9 10900」は10コア/4.6GHzという多コア高クロックに対してTDP65WとPL1の値が小さいため、ハイフレームレートなPCゲーミングなど一部のCPU負荷の高いゲーミングシーンにおいて、PL1以上のCPU負荷がTauを超過する長時間に渡って発生する可能性があります。
一例としてAssassin's Creed Odysseyでは100FPSを超えるハイフレームレートでCPU負荷をかけるとCPU Package Powerが100~120Wで推移します。
上のようにPL1を超えるCPU負荷が発生すると、Tauの時間内であれば(リセットが効く限りは繰り返しも可)、全コア4.6GHzで動作しますが、連続してTauの制限時間を超過すると、PL1:65Wの電力制限が発生し、コアクロックが低下します。こうなると当然CPUボトルネックが強まって、全コア4.6GHz動作の時よりもフレームレートが低下する可能性が高くなります。
ゲーム中にPL1:65Wの電力制限が発生した時の実動クロックは、上の章で紹介したクリエイティブタスクで100%負荷がかかった時のように全コア3.3GHzまで下がることは基本的になく、その時のCPU負荷によって前後しますが、現実的には4.0~4.6GHzの範囲内で変動すると思います。
「Intel Core i9 10850K」のゲーム性能(ハイフレームレートなPCゲームのCPUボトルネック緩和)については上位モデルでゲーマー向け最速CPUのCore i9 10900Kとほぼ同等です。
PL1:125WよりCPU Package Powerが小さい時の全コア最大動作倍率は、Core i9 10850Kが4.8GHz、Core i9 10900Kが4.9GHzで両者にはほとんど差がないので、僅かにCore i9 10900Kが上回る傾向はあるものの平均・最小FPSの違いは誤差レベルです。
Intel Core i9 10850KのOC耐性や電圧特性について
「Intel Core i9 10850K」のOC耐性や、Core i9 10900/10900Kと比較した時の電圧特性をチェックしていきます。まず端的に「Intel Core i9 10850K」の手動OCで常用可能なコア電圧は1.300V前後、個体差があるかもしれませんが全コア5.1GHz程度がこの電圧において安定動作する限界です。コア電圧が1.350Vを超えると市販のCPUクーラーで最高性能な360サイズ簡易水冷でもCPU温度が80~90度を大幅に超えてくるのでDIY水冷の領域になります。
コア電圧を盛ればコアクロック自体は伸びていくのでCinebenchの1発芸なら全コア5.4GHz以上も狙えます。とはいえ素性の良い個体でも常用限界はやはり全コア5.1GHz、当たり石なCore i9 10900Kでも5.2GHzではないかと。
ちなみに「Intel Core i9 10850K」の全コア5.1GHz OCで動画エンコードによる負荷をかけた時のシステム消費電力は300~320W程度となっており、EPS電源経由の消費電力は280W前後に達します。
「Intel Core i9 10850K」が全コア5.1GHz動作時にaviutl&x264エンコードが30分以上安定する下限コア電圧を調べたところ、今回管理人が入手した個体については、ASUS ROG MAXIMUS XII EXTREMEでBIOS設定値は1.300V、HWiNFOのソフトウェア読みで1.279V前後でした。
Core i9 10900Kであれば全コア5.1GHz OCならBIOS設定値1.250V程度で安定したので、5GHzオーバーのコアクロックにおいて要求される電圧値がCore i9 10850KはCore i9 10900Kよりも0.050V程度高いように感じました。10850Kが10900Kに成れなかった理由はこの辺りにありそうです。
続いて「Intel Core i9 10850K」の電圧特性をCore i9 10900やCore i9 10900Kと比較しながらチェックしていきます。
まず消費電力の章のおさらいですが、3種類についてCore i9 10900のBy Core Usage設定に揃え、かつ電力制限を無効化して、V-Fカーブの特性(定格V-Fカーブで全コア4.6GHz動作になった時の消費電力)を比較してみたところ、グラフ紫色バーのように『Core i9 10850KのほうががCore i9 10900よりも消費電力が大きい』という意外な結果になっていました。
第10世代CPUからサポートされるようになったV-Fカーブのオフセット(K付きCPUのみサポート)から標準V-Fカーブの一部を参照できますが、4.3GHz以下ではCore i9 10850KとCore i9 10900Kの電圧設定は似たような数値になっていますが、4.8GHzでは0.060Vと大きく差があり、全コア4.6GHz時のCPU消費電力の差はこれが反映されていると見てよさそうです。
果たして本当に『Core i9 10850Kの電圧特性はCore i9 10900よりも悪いのか』、そこが非常に気になったので、3種類についてコアクロックを全コア4.6GHzに固定して安定動作可能な下限電圧を探ってみました。
調べてみた結果はBIOS設定値で、Core i9 10850KとCore i9 10900Kが1.060V前後で安定、Core i9 10900が1.100V前後で安定しました。標準V-Fカーブによる全コア4.6GHz動作の消費電力に反して、安定動作可能な下限電圧はCore i9 10850KとCore i9 10900Kが同程度、Core i9 10900が劣るという結果でした。
OC耐性や電圧特性の話なので同じCore i9 10850Kであっても個体差で多少変わるかもしれませんが、傾向として、箇条書きで次のようになっていると思います。
- Core i9 10850Kは常用可能な全コア最大コアクロックは5.1GHz程度
- Core i9 10850Kは4.6GHz以下でCore i9 10900Kに近い電圧特性
- Core i9 10850KはCore i9 10900よりも電圧特性が良い
- Core i9 10850Kは5.0GHz以上で10900Kと比較して+0.050Vほど電圧特性が悪い
- 標準V-Fカーブの電圧値が高いので、定格ではCore i9 10900より消費電力が大きい
Intel Core i9 10850Kの電圧特性をさらに簡単にまとめると、『4.6GHz以下では10900Kと同等』、『5.0GHz以上では10900Kに劣る』、『4.6GHz以上では10900よりもV-Fカーブの電圧設定値が高い』の3点です。
良いところとしては4.6GHz以下では10900Kと同等の電圧特性(Core i9 10900よりも優れている)で、4.3GHz以下のV-Fカーブも同等なので、PL1:125Wの定格設定においてはほぼ同等の性能かつ電力での動作が期待できます。この辺りは上の章の性能検証で見た通りです。
「Intel Core i9 10850K」はCore i9 10900相当の個体の動作設定を変えて倍率アンロックしただけ、と勝手に予想していたので、この点は嬉しい誤算でした。
一方で、5.0GHz以上では電圧特性が劣るのでCore i9 10900Kよりも冷やしにくくなっており、倍率アンロックではあるものの手動OCには不向きというのが正直な感想です。手動OCするなら素直にCore i9 10900Kを買う方が良いでしょう。
また電力制限解除によるカジュアルなパフォーマンスアップについても、4.6GHz以上でV-Fカーブの電圧設定値が高いという点が足を引っ張ります。第10世代CPUではV-Fカーブの電圧オフセット設定が解禁されているので、これを併用すれば、発熱を抑えて性能を引き上げることも可能ですが、単純な電力制限解除と違って電圧を下げた状態で安定しているのか検証が必要になるため、”カジュアル”ではなくなってしまいます。この点は今回、Core i9 10850Kを検証していて感じた最大の欠点かもしれません。
Intel Core i9 10850Kのレビューまとめ
「Intel Core i9 10850K」を検証してみた結果のまとめを行います。簡単に箇条書きで以下、管理人のレビュー後の所感となります。良いところ or 概要
- メインストリーム向け10コア20スレッドCPU
- 定格でメモリ周波数2933MHzに対応
- PL1:125W制限下において全コアが実動平均で4.3~4.4GHz程度
- PL1:125Wなら空冷CPUクーラーでも問題なく運用可能
- Core i9 9900Kよりも20%程度高いクリエイティブタスク性能
- 144FPS~240FPSのハイフレームレートなPCゲーミングで最速クラス
- Core i9 10900Kよりも1万円も安価な6.2万円程度(2020年9月現在)
- 標準V-Fカーブの電圧値が10900Kや10900と比較して高い
- 電力制限無効化の場合はマルチファン簡易水冷CPUクーラーを推奨
- ピーク負荷が大きいのでVRM電源が強力なZ490マザーボードを推奨
- 同価格帯のRyzen 9 3900X(T)と比較して高価で、クリエイティブタスク性能で劣る
「Intel Core i9 10850K」は、単コア/全コアで最大動作倍率が1しか違わず、PL1:125W制限下で運用する限りにおいてはV-F特性的にも同等なので、”ほぼCore i9 10900K”と呼んで差し支えない性能を発揮します。またCore i9 10900とは同価格なので、定格設定の時点で10コアとして適切な電力制限下で動作できる「Intel Core i9 10850K」は、ほぼCore i9 10900Kであると同時に”完全体Core i9 10900”とも感じる製品です。
ゲーム性能は競合AMDのRyzen 7/9を抑えて最速クラスのパフォーマンスを発揮し、クリエイティブタスクにおいてもPL1:125Wが許容されているので10コア20スレッドCPU相応の性能をシッカリと発揮してくれます。PL1:125Wなら一般的な120サイズ空冷CPUクーラーでも運用できるので取り扱いも難しくありません。
10コアCore i9として定格設定でも適切な電力制限で運用でき、TDP125W動作では最上位モデルCore i9 10900Kとほぼ同等の性能ながら、1万円安価な「Intel Core i9 10850K」は、倍率アンロックなK付きCPUではあるものの、10コアCore i9を定格運用でゲーミングPCに搭載したいユーザーに最適な製品だと思います。特に第10世代Core i9の中でBTO PCに搭載するCPUとしてオススメしたいモデルです。
以上、「Intel Core i9 10850K」のレビューでした。
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Intel Core i9 10850K レビュー
— 自作とゲームと趣味の日々 (@jisakuhibi) August 25, 2020
✅PL1:125Wの定格動作では"ほぼ10900K"
✅10900より低電圧な選別ダイっぽい
✅Core i9 10900Kよりも1万円も安価
✅定格運用に最適なモデル(特にBTO PCでオススメ)
⛔標準V-Fカーブが10900よりも高電圧
⛔5GHz超では10900Kより電圧特性が悪いhttps://t.co/T9ufCdxLGr
検証機材として使用している以下のパーツもおすすめです。
Noctua NF-A12x25 PWM 120mmファン 定格2000RPM PWM対応
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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
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