precision-boost-overdrive


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2022年最新のRyzen 7000シリーズCPUを含め近年のAMD Ryzen CPUの大きな特長である、アウトボックス時点で最適化された高い単コア最大ブーストクロックを損なうことなく、V-Fカーブによる低電圧化と電力制限の解除によってシングルスレッド性能とマルチスレッド性能の両方を引き上げるクロックアップ機能「Precision Boost Overdrive 2」について解説します。


最初に少し補足しておくと、Ryzen 2000シリーズCPUの登場以前、CPU性能を向上させるチューニングというと全コアの動作クロックを一律で設定するマニュアルOCが主流でした。
例えばRyzen 7 1800Xであれば、定格の全コア最大ブーストクロック3.7GHzに対して、マニュアルOCで全コア一律で3.9~4.0GHzにOCが可能であり、シングルスレッド性能をほぼ損なうことなくマルチスレッド性能を引き上げることが可能でした。

しかしながらRyzen 2000シリーズCPU、Ryzen 7 2700Xでは定格のままでも全コア最大ブーストクロックが4.0~
4.1GHz前後へ、単コア最大ブーストクロックが4.3GHzへ引き上げられました。
CPUの冷却的にRyzen 7 2700XのマニュアルOCで常用可能なコアクロックは4.2GHz程度であり、マニュアルOCを行ってもマルチスレッド性能の向上幅は小さく、シングルスレッド性能は逆に下がるので、Cinebenchなどのベンチマークスコアを追求する以外の用途では常用に向かなくなる、という経緯がありました。

Ryzen 2000シリーズCPU以降、世代を重ねる毎に単コア最大ブーストクロックと全コア最大ブーストクロックの差はますます大きくなり、またアウトボックス時点で全コア最大ブーストクロックは冷却可能な限界近くまでチューニングされるようになっています。
2022年現在、Ryzen CPUの常用性能を向上させるチューニングとしては従来のマニュアルOCではなく、十分に高性能なCPUクーラーを組み合わせ、Precision Boost Overdrive 2による電力制限の解除やV-Fカーブの低電圧化を行うのが主流です。

単コア最大ブーストクロックを損なわないように、”電力制限を解除”して発熱をトレードオフにマルチスレッド性能の向上を図ったのがPrecision Boost Overdrive。
それだけだとシングル性能が向上せず、発熱が大きくなって扱いが難しくなるので、”V-Fカーブによる低電圧化”に対応したのがPrecision Boost Overdrive 2、という流れです。


Precision Boost 2やXFR 2について

「Precision Boost Overdrive 2」について解説するにあたって、一定電力内でコアクロックを上昇させてパフォーマンス向上を図る「Precision Boost 2」や、自動OCが行われる「XFR 2 (Extended Frequency Range 2)」など諸機能について予備知識として簡単に紹介しておきます。

まず「Precision Boost」や「XFR (Extended Frequency Range)」などRyzen CPUの高性能を支える諸機能はまとめて「SenseMI Technology(SenseMI)」と呼ばれています。
SenseMIの概要は、『数百個に及ぶ電圧、電流、温度などの各種センサーをプロセッサ内に実装し、そのデータをリアルタイムに参照しながら、適応型の内部操作処理を行う』というものです。。
つまりモニタリングしたデータをRyzen独自のインターコネクタ「Infinity Fabric」を介してフィードバックし、「Pure Power」や「Precision Boost」でパフォーマンス向上を図る、というループ制御をリアルタイムで行っています。
SenseMI Technology_1_Cotrol
「Pure Power」はパフォーマンスを維持しつつ消費電力を最小限に抑える機能です。下のグラフのように同じ性能を低消費電力で実現する機能になっています。
SenseMI Technology_2_Pure Power
一方で「Precision Boost」はPure Powerと相互連携して動作しており、同じ電力内で最大のパフォーマンスを発揮できるように、25MHz単位でCPU動作クロックを上下させる機能になっています。
SenseMI Technology_3_Precision Boost
さらにRyzen CPUには自動OC機能「XFR (Extended Frequency Range)」も用意されています。
Precision Boostは予め決められた最大コアクロック(Precision Boost Fmax)の範囲内で動作クロックを最大化しますが、XFRはCPUの冷却が十分であれば(CPU温度が十分低ければ)、この上限、Precision Boost Fmaxをさらに引き上げます。
SenseMI Technology_4_XFR (Extended Frequency Range)
例えば、Ryzen 7 1800Xの単コア最大ブーストクロックは製品仕様では4.0GHzとなっており、Precision Boostでは4.0GHzを実現するようにコアクロックを最大化しますが、CPU温度が十分に低ければXFRによってこの上限が引き上げられ、最大4.1GHzで動作します。
Ryzen 7 1800X

このような基本設計から始まり、Ryzen 2000シリーズCPUではPrecision BoostとXFRが、「Precision Boost 2」と「XFR 2 (Extended Frequency Range 2)」にバージョンアップしました。
SenseMI Technology_Ryzen+
「Precision Boost 2」の特徴は、負荷のかかっているコアスレッド数に応じてPrecision Boost Fmaxをリニアに設定したことです。2022年最新のRyzen 7000シリーズも同じように制御されています。
例えばRyzen 7 1800Xでは1コアの負荷では負荷のかかっているコアの動作クロックが4.0GHz上限ですが、2~8コアの負荷ではステップ状に3.7GHz上限へPrecision Boost Fmaxが下がりました。
Precision Boost 2が初めて採用されたRyzen 7 2700Xでは負荷がかかっているコアスレッド数に応じた動作クロックの上限がリニアになりました。
Precision Boost 2
さらに「XFR 2 (Extended Frequency Range 2)」によって、Precision Boost 2が参照する最大動作倍率とアクティブスレッドのカーブに対して、従来なら1コアまでしか適用されなかったクロックアップ(自動OC)が1コアから全コアまで適用されるようになりました。
AMD製CPUでは、上記カーブがCPU個体差で異なり(電圧特性に応じて最適化されたテーブルを備えている)、また全コア最大動作倍率に限定しても仕様としては公表されていないので、効果を確認するのが難しいのですが。
XFR2 (Extended Frequency Range 2)


Precision Boost Overdriveについて

以上の予備知識を踏まえて、「Precision Boost Overdrive」とは一体どんな機能なのかというと、『Precision Boost 2およびXFR 2による自動OC機能に設けられている電力制限等の上限を取り払って、さらに動作クロックを上昇させる機能』です。
precision-boost-overdrive
Ryzen 2000シリーズ以降、Ryzen CPUには動作クロック、電圧、電力に関して電圧特性に応じて最適化された、安定動作可能なテーブルが用意されており。このテーブルに従ってCPUを動作させた時、XFR2による自動OCを含めてもまた余裕が残されています。
Precision Boost Overdriveは、Headroomと呼ばれる、その残された余力を最大限まで発揮する機能です。
AMD Ryzen Threadripper 2Gen_PBO table


Precision Boost Overdriveに関するBIOS設定いくつかありますが、特に重要なのが『PPT/TDC/EDC Limit』と『Max CPU Boost Clock Override』の2つです。
簡単に言うと、PPT/TDC/EDC Limitは電力制限の解除、Max CPU Boost Clock OverrideはXFR2による自動OCの上昇幅の設定です。

Precision Boost Overdrive_settings

Ryzen CPUは電力制限に関して「PPT Limit」「TDC Limit」「EDC Limit」の3つのパラーメーターがあります。
「PPT Limit」(おそらくPackage Power Target Limitの略)は、電力[W]単位の設定値となっており、Precision Boost Overdriveの有効時にCPU全体が消費可能な電力を指定しています。
AMD Precision Boost Overdrive_parameter

「TDC Limit」(Thermal Design Current Limitの略)は、電流[A]単位の設定値となっており、AMD公式のRyzen CPU OCマニュアルでは下のように表現されています。おそらくIntel CPUで言うところの長時間電力制限にあたる設定項目と思われます。
Thermal Design Current (TDC) is presented for the CPU and SOC power domains,
respectively, expressed as a % of motherboard capacity. This can best be
understood as sustained amperage vs. motherboard capacity for a thermallysignificant
workload.
「EDC Limit」(Electrical Design CurrentLimitの略)は、電流[A]単位の設定値となっており、AMD公式のRyzen CPU OCマニュアルでは下のように表現されています。おそらくIntel CPUで言うところの短時間電力制限にあたる設定項目と思われます。
Electrical Design Current (EDC) is presented for the CPU and SOC power
domains, expressed as a % of motherboard capacity. This can best be understood as
the peak amperage for a short period of time.

Max CPU Boost Clock OverrideはXFR2による自動OCの上昇幅の設定です。
例えばRyzen 9 7950Xの単コア最大ブーストクロックの仕様値は5.70GHzですが、定格でもXFR2による100MHzのクロックアップが適用されており、Precision Boost Fmaxは5.80GHzです。(Ryzen MasterでCCX Max Speedとして確認できる)
Max CPU Boost Clock Override_default
BIOS上でMax CPU Boost Clock Overrideを有効にすると、標準の100MHzに加えて50MHz、さらに設定値分だけPrecision Boost Fmaxが上昇します。つまり100MHzに設定するとRyzen 9 7950XのPrecision Boost Fmaxは5.95GHzとなります。
電力制限や温度制限が支配的になるので、多スレッド負荷時は効果を実感しにくいのですが、多スレッドも含めて一律で上限が引き上げられるはずです。
Max CPU Boost Clock Override_+100MHz

その他の設定として、Precision Boost Overdriveで限界まで自動OCが実行される際に、最大電圧やその電圧を維持できる時間を指定する設定項目として「Precision Boost Overdrive Scaler」があり、手動設定の場合はx2~x10の値を設定できます。


Precision Boost Overdrive 2について

上で紹介したように電力制限の解除によるクロックアップがPrecision Boost Overdriveの主要な機能でしたが、さらにV-Fカーブによる低電圧化に対応したのがアップデート版の「Precision Boost Overdrive 2」です。
Precision Boost Overdrive 2はRyzen 5000シリーズCPUからサポートが始まり、2022年最新のRyzen 7000シリーズCPUも対応しています。

電力制限の解除など基本機能は従来のPBOと共通ですが、Precision Boost Overdrive 2で新たに盛り込まれた大きな特長は『シングルスレッド性能の向上も可能であること』、『V-Fカーブの調整による低電圧化に対応したこと』の2つです。(正確には低電圧化によってシングル性能も向上する)
PBOではPPTなどの電力制限を解除することで発熱とトレードオフにマルチスレッド性能を向上させていました。しかしながら、シングルスレッドなど少コア負荷においてXFR2によるクロックアップのボトルネックになっていたのは電力制限とは別の要因だったので、PBOではシングルスレッド性能は基本的に向上しません。
AMD Precision Boost Overdrive 2_feature (2)

Precision Boost Overdrive 2はCurve Optimizerと呼ばれるV-Fカーブの調整機能に対応しています。
一般的なオフセット電圧設定が負荷に依らず、また全コアへ一律に電圧を下げるのと異なり、Curve OptimizerはCPUコア毎の電圧特性や負荷に応じた柔軟な低電圧化が可能です。
AMD Precision Boost Overdrive 2_v-f-curve (2)
またCurve Optimizerは全コア一律だけでなく、各コアに対して個別に低電圧化設定を行うことが可能です。Curve Optimizerによる設定は電圧値ではなく、”count”という1~30の整数値の独自単位を使用します。(1count = 30~50mV程度とのこと)
AMD Precision Boost Overdrive 2_Curve Optimizer_per-core
特性の悪いコアに足を引っ張られることなく、電圧特性に優れたファースト・セカンドコアに大きい低電圧化を施すことが可能なので、マルチスレッド性能だけでなく、シングルスレッド性能も向上します。
AMD Precision Boost Overdrive 2_performance-gain_single



以上、『Precision Boost Overdrive 2を徹底解説』でした。
precision-boost-overdrive




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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)



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