PCIE5.0x4接続で連続読み出し14GB/sを上回り、4Kランダム読み書きも2,000K IOPS超えでAIなど複雑な並列アクセスで高速応答が求められるワークロードにも強いハイエンドNVMe M.2 SSD「Crucial T710 PCIe Gen5 NVMe 2280 M.2 SSD」をレビューします。
PCIE5.0x4接続 NVMe M.2 SSD
製品スペックや保証条件
「Crucial T710 PCIe Gen5 NVMe 2280 M.2 SSD」の製品スペック概要について簡単にまとめました。
製品スペックについて
「Crucial T710」は、TSMC 6nmプロセスで製造される最新メモリコントローラー Silicon Motion SM2508、Micron製 TLC型 276層3D NAND BiCS8メモリチップが採用された、NVMe(PCIE5.0x4)接続でM.2 2280フォームファクタのM.2 SSDです。
「Crucial T710」にはSSD容量として1TBと2TBと4TBの3モデルがラインナップされています。いずれも片面実装です。
リジナルヒートシンクを標準搭載したバリエーションモデルも3種類の容量でそれぞれラインナップされています。ヒートシンク搭載モデルは2025年秋に発売予定です。

「Crucial T710」のアクセススピードは容量によって若干異なりますが、最大でシーケンシャル読出 14,900MB/s、シーケンシャル書込 13,800MB/s、ランダム読出 2,200,000IOPS、ランダム書込 2,300,000IOPSの超高速アクセスを実現しています。
製品データシート/表
「Crucial T710 PCIe Gen5 NVMe 2280 M.2 SSD」のデータシート/スペック一覧は次の通りです。
Crucial T710 スペック一覧 | |||
---|---|---|---|
容量 | 型番:CT1000T710SSD8 | 1 TB型番:CT2000T710SSD8 | 2 TB型番:CT4000T710SSD8 | 4 TB
ヒートシンク搭載 | 型番:- | 型番:- | 型番:- |
インターフェース | NVMe(PCIE5.0x4) | ||
メモリコントローラー | Silicon Motion SM2508 (非公式、サンプル機より) | ||
メモリー | Micron製 TLC型 276層3D NAND (非公式、サンプル機より) | ||
キャッシュ | 1GB LPDDR4 | 2GB LPDDR4 | 4GB LPDDR4 |
連続読出 | 14,900 MB/s | 14,500 MB/s | |
連続書込 | 13,700 MB/s | 13,800 MB/s | |
4Kランダム読出 | 1,800,000 IOPS | 2,200,000 IOPS | |
4Kランダム書込 | 2,200,000 IOPS | 2,300,000 IOPS | |
動作温度範囲 | – ℃ | ||
消費電力 (avg read/write) | – W | – W | – W |
MTTF / MTBF | – 万時間 | ||
書込耐性 (保証TBW:Total Byte Written) | 600 TB | 1200 TB | 2400 TB |
保証期間 | メーカー5年 |
*非公表かつ不明なスペックは”-(ハイフン)”を記載しています。
耐久性や製品保証について
「Crucial T710」の書込耐性*保証TBW:Total Byte Writtenは1TBが600TB、2TBが1200TB、4TBが2400TBとなっており、メーカーによる製品保証期間は5年間です。
Crucial T710 の保証条件 | |||
---|---|---|---|
容量 | 1 TB | 2 TB | 4 TB |
書込耐性 (保証TBW:Total Byte Written) | 600 TB | 1200 TB | 2400 TB |
保証期間 | メーカー5年 | ||
平均書込上限/1日 | 保証期間内の328 GB | 656 GB | 1312 GB |
SSD保証条件についてクリックで展開
自作PC向けSSD製品の保証は一般に”限定保証(制限付き保証)”と呼ばれ、
- 保証期間(年数)
- 書き込み耐性(総書き込み容量)
のいずれか一方をオーバーした時点で保証対象外になります。(下はCrucialの保証ページの記載例です)

個別製品によっても異なりますが、2025年現在、TLC型SSDの一般的な保証条件は『 容量1TB当たり600TBW程度 or 5年 』です。
書き込み耐性:600TBW、保証期間:5年のSSD製品の場合、601TBを書き込んだ時点で購入から3年でも保証対象外になりますし、総書き込み容量が300TB程度でも購入から5年を1日でも過ぎればやはり保証対象外になります。
この保証条件を超過する書き込み利用について計算すると次の通りです。
- 5年で保証値TBWを使い切るには → 毎日 328GBの書き込み
- 全域書き → 600回で保証外 → 1日1回で 1年8カ月弱
- 半域書き → 1200回で保証外 → 1日1回で 3年4カ月弱
常識的な使い方なら、メーカー仕様値のTBWを使い切ることはまずありません。
保証値TBWの注意点についてクリックで展開
SSD保証条件で説明した通り、”製品仕様の書き込み耐性”はあくまでメーカー製品保証の条件の1つです。
Corsair、Nextrage、Seagateなど自社でSSD主要部品を製造していないSSDメーカーの場合、PHISONやSiliconMotionのメモリコントローラーに、MicronやWD(SanDisk)のメモリチップを組み合わせてリファレンス基板通りにSSDを組み上げ、あとは自社シールを貼り替えただけ、という製品もちらほら見かけます。(メモリチップにもランクがあるので一概には同じとも言えませんが)
そういう製品でもメーカーによって書き込み耐性のTBW値が100TB単位や倍数で異なることもあり、製品スペックの書き込み耐性をそのまま製品寿命や耐久性の良し悪しと認識するのは危ういというのが正直なところです。
Crucial(Micron)、WD、Samsungなど自社でメモリチップを製造しているSSDメーカーや、Seagate、Nextorageなど実績のあるストレージメーカーの公表するスペックなら実際に”これくらいなら書き込んでも壊れないだろう”期待値として信用してもいいと思います。
一方で、スペック値は高めにしておいて壊れたら交換対応すればいい、というメーカーがないとも限りません。
個人的には新興の中国SSDメーカー・メモリチップメーカー、聞き馴染みのないマイナーメーカーの安価製品に注意が必要なのもこの点だと思っています。
TLC型SSDはQLC型SSDよりも多く書き込みができる、というように実際の耐久性が全く反映されていないわけではありませんが、”製品仕様の書き込み耐性”はあくまでメーカー製品保証の条件の1つと考えるのが無難です。
”製品仕様の書込耐性”はあくまでメーカー製品保証の条件の1つに過ぎません。
外観・梱包や実装チップ
最初に「Crucial T710」の外観や実装を簡単にチェックしておきます。
従来、グレー&スカイブルーのツートンカラーでシンプルな装いでしたが、「Crucial T710」のパッケージは黒を基調にしたハイエンド製品感のあるデザインにリニューアルされています。
紙製のパッケージを開くとSSD本体はプラスチックのスペーサーに収められていました。
「Crucial T710」のSSD本体デザインについては普通にM.2 2280サイズ、M-Key型のM.2 SSDです。PCB基板は黒色になっています。
表面は共通の製品ロゴシールが全体を覆っているので、表面からはどの容量モデルかは分かりません。裏面には容量やシリアルナンバーが記載されたシールがあります。
前モデル T705/T700は表面の製品ロゴシールが、サーマルパッドを介して社外製ヒートシンクを装着しても適切に放熱が可能な銅箔シールになっていましたが、「Crucial T710」は消費電力が大幅に低減していることもあって、そういったギミックのない単純なロゴシールです。

コントローラー、メモリについて
「Crucial T710」の表面にはM.2端子側の端にメモリコントローラー、その隣にDRAMキャッシュ、左半分のスペースに2枚のメモリチップが実装されています。
1TBと2TBと4TBの3種類の容量モデルがラインナップされていますが、SSD基板表面の実装レイアウトは同じで、いずれも片面実装です。
「Crucial T710」のメモリコントローラーは公表されていませんが、実機を確認すると、TSMC 6nmプロセスで製造される8チャンネル、3600MT/sのメモリコントローラー Silicon Motion SM2508が採用されていました。
PCIE5.0対応ながら最新の製造プロセス&設計により省電力化(低発熱)も実現している最新メモリコントローラーです。

データ保存領域となるNANDメモリについても公式情報では”TLC 3D NAND”とだけ記載されていますが、実機を確認したところ、Micron製メモリの最新 第9世代であるTLC型 276層 3D NANDが採用されています。
1TBモデルは型番:5DE2D NY306、2TBモデルは型番:5EE2D NY307、4TBモデルは型番:5CE2D NY330です。
Micron製3D NANDで最新となる第9世代の最大の特長は最大データ転送速度を1.5倍に、2024年頃のハイエンドSSD搭載メモリで主流だった2400MT/sから3600MT/sに高速化したところです。
またコストパフォーマンス(容量単価)に影響する記憶密度も前世代比で40%程度増加しています。
第9世代の積総数は276層なので、前世代の232層と比較して高層化は19%に留まっていますが、ページバッファの削減など水平方向に縮小することで密度を高めています。
最後にDRAMキャッシュについて、Crucial製SSDなのでDRAMキャッシュも当然、Micron製です。
今回入手した個体は1TBモデルがMicron製 4YB77 D8CSG(1GB LPDDR4-4266)、2TBモデルがMicron製 4JB77 D8CSG(2GB LPDDR4-4266)、4TBモデルがMicron製 4QB77 D8CJB(4GB DDR4-4266)でした。
PC内蔵ストレージの検証機材
「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」の各種検証を行うテスト環境を紹介します。
テストベンチ機の詳細
PCIE4.0/5.0に対応するAMD Ryzen 9 7950X&GIGABYTE X670E AORUS MASTERなどで構成されているベンチ機を使用しました。構成の詳細は下記テーブルの通りです。
SSDテストベンチ機の構成 | ||
---|---|---|
CPU | AMD Ryzen 9 7950X | レビュー |
CPUクーラー | Fractal Design Celsius S36 | レビュー |
Noctua NF-A12x25 PWM | レビュー | |
システムメモリ | G.Skill Trident Z5 Neo F5-6000J3038F16GX2-TZ5N DDR5 16GB×2=32GB | レビュー |
マザーボード | GIGABYTE X670E AORUS MASTER | レビュー |
ビデオカード | PNY GeForce RTX 4090 24GB XLR8 Gaming VERTO EPIC-X RGB OC 3FAN | レビュー |
システムストレージ | Samsung SSD 990 PRO 1TB | レビュー |
OS | Windows 11 Pro 64bit 22H2 | |
電源ユニット | Corsair HX1500i 2022 | レビュー |
ベンチ板 | STREACOM BC1 | レビュー |
G.Skill Trident Z5 Neo RGB 【PR】
システムメモリの検証機材には、Ryzen 9000シリーズでも引き続きOCメモリのスイートスポットとアピールされている、メモリ周波数6000MHz/CL30の低レイテンシなメモリOCに対応した「G.Skill Trident Z5 Neo(型番:F5-6000J3038F16GX2-TZ5N)」を使用しています。
G.Skill Trident Z5 NeoシリーズはAMD EXPOのOCプロファイルに対応した製品なので、AMD Ryzen 9000/7000シリーズCPUで高性能なPCを構築するお供としてオススメのOCメモリです。
ARGB LEDイルミネーションを搭載したTrident Z5 Neo RGB、ラグジュアリーな外観のTrident Z5 Royal Neoといったバリエーションモデルもラインナップされています。

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最新のSSDレビューでは高度に圧縮されたゲームデータをグラフィックボードのVRAMへ直接取り込んで、GPUによって高速に展開するDirectX 12のDirectStorageのようなAPIに対応したPCゲームも検証しています。
DirectStorageでもSSDの理想的な性能を検証できるように、ウルトラハイエンドGPUを搭載したグラフィックボード「PNY GeForce RTX 4090 24GB XLR8 Gaming VERTO EPIC-X RGB OC 3FAN」を使用しています。
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国内正規品なら代理店を介してPNY公式のグローバル保証と同じ3年間の長期保証が受けられるところも魅力です。

検証SSDの設置や接続帯域
検証する各種NVMe M.2 SSDはマザーボード上のCPUソケット直下に配置されているM.2スロットに設置し、Ryzen 7000シリーズCPUから伸びているNVMe SSD向けのCPU直結PCIE5.0x4レーンに接続しています。
GIGABYTE X670E AORUS MASTERにM.2 SSDを設置する場合、M.2-PCIE変換ボードも使用するなら、計5つの候補があり、どこに接続するかでベンチマーク結果が大きく変わります。
グラフィックボード用PCIE5.0x16レーンを分割するPCIEスロットに変換アダプタ経由でSSDを増設する方がベンチマークスコアが高くなる可能性もあるのですが、NVMe SSD用レーンに接続するのが実用に則しているので、このような設定にしています。
またサーマルスロットリングによる性能低下の可能性を排除するため、JIUSHARK M2-THREEという60mm角ファンでアクティブ冷却できるM.2 SSDヒートシンクを組み合わせた状態で設置しています。

基本仕様と専用ソフト
「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」のWindowsボリューム容量や付属ソフトなど基本仕様について紹介します。
Windowsボリュームの容量
「Crucial T710 1TB」のボリュームをWindows 11上で作成したところ、空き容量は931GBでした。

「Crucial T710 2TB」のボリュームをWindows 11上で作成したところ、空き容量は1.81TBでした。

「Crucial T710 4TB」のボリュームをWindows 11上で作成したところ、空き容量は3.63TBでした。

専用ソフトの機能
「Crucial T710」は同社製SSD向けクライアントソフト Crucial Storage Executiveに対応しています。
公式サポートページから無料でダウンロードできるソフトウェアです。

Crucial Storage Executiveは、
- SSDのS.M.A.R.T情報の確認
- セキュアイレース(専用ドライバのインストールが必要)
- SSDファームウェア更新
- オーバープロビジョニングの設定
- SSD正常動作のセルフチェック
等をWindows OS上で簡単に行うことができます。
基礎ベンチマーク比較
ストレージに関する基本的なベンチマークソフトを使用して、「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」の性能を検証しました。
CrystalDiskMark
まずはストレージベンチマークを代表する1つ、CrystalDiskMarkで「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」の性能を検証しました。
CrystalDiskMarkのバージョンは8.0.4、設定はデータサイズ 1GiB、プロファイル +Mixです。
「Crucial T710」の1TBモデルは、CDMベンチマークススコアで連続読み出し 14,900 MB/s、連続書き込み 13,400 MB/sになりました。
2TBモデルと4TBモデルも若干下がりますが、連続読み出し 14,500MB/sです。
テスト環境との相性か、書き込みがメーカー公式スペックよりも若干伸びませんが、PCIE5.0x4帯域としては理想的なスコアです。
100MB/sを超えるSSDも出てきていますが、後述の実用性能系ベンチではあまり差が出なかったりなので、今のところ90MB/sを超えていたらほぼ上限と考えていいと思います。
CDMベンチマークスコアの比較に関する注意
Intel/AMDプラットフォームの違いや、グラフィックボード向けPCIEレーン(帯域分割のM.2スロット)を使用するかなど、検証環境によってCDMベンチマークスコアは結構差が出ます。
以下、各種比較対象SSDのCrystalDiskMark8 ベンチマークスコアです。
ブロックサイズ別の読み書き性能
ATTO Disk Benchmarkを使用して、「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」のブロックサイズ別読み書き性能を検証しました。
ATTO Disk Benchmarkのバージョンは4.00.0f2、設定はデータサイズ 1GB、QD1とQD4です。
ATTO Disk Benchmarkはブロックサイズ別の性能を主にチェックするベンチマークなので、「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」と各種比較対象ストレージについて、4KB~1MBを抜粋して読み出し/書き込みの性能をグラフで比較しました。
その他のSSDベンチマーク
AS SSD Benchmark、Anvil’s Storage UtilitiesなどSSDレビューでよく使用されるベンチマークソフトの検証結果も載せておきます。
SLCキャッシュ / 連続書き込み
「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」に連続書き込みを行った時の動作、SLCキャッシュの挙動について検証しました。
さらに詳しく
TLC型やQLC型と呼ばれる3bit以上のマルチレベルセルで動作するNANDメモリチップが採用されているSSDでは、マルチレベルセル化によって遅くなる書き込み速度の底上げのため、記憶領域の一部を高速キャッシュ領域とする機能が実装されています。
TLCやQLCの記憶領域を動的にSLC化するので、この高速キャッシュ領域はSLCキャッシュと呼ばれています。*現在はSLC化が主流ですが、将来的な可能性としてMLCで高速キャッシュを構築することもありうる。
このようなSLCキャッシュ機能を採用するSSDでは、短いスパンで連続した大容量の書き込みが発生し、書き込み総量がSLCキャッシュを超過した場合、書き込み速度がステップ状にガクッと下がります。
例えばPCIE4.0x4接続に対応するNVMe M.2 SSDは5~7GB/s程度の連続書き込み速度が製品仕様として公表され、実際にテストデータサイズが数GBに収まるCrystalDiskMarkなどベンチマークソフトでは仕様値通りの高速書き込みが可能です。
しかしながら、高速書き込み速度を維持できるのはSLCキャッシュ内に収まる場合であって、SLCキャッシュ容量を超過すると書き込み速度がTLC型SSDで500~2000MB/s程度、QLC型SSDでは100~200MB/s程度へと大幅に低下します。

一度使用されたSLCキャッシュはアイドル状態になると自動的に開放されます。
SLCキャッシュ容量や超過後の書き込み速度だけでなく、使用済みSLCキャッシュの開放トリガーや開放の速さも個別製品で異なります。
SLCキャッシュ容量や書込速度を検証
「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」のSLCキャッシュの挙動について検証しました。
「Crucial T710 1TB」は空き容量が200GB以上あり、SLCキャッシュが十分に開放された状態であれば、100GBの書き込みを行っても、製品仕様でも紹介されているように書き込み開始から一貫して10GB/sを超える書き込み速度を発揮できました。

実用的に使用できるSLCキャッシュ容量は?
実用的にどれくらいのSLCキャッシュ容量が使用できるのか検証しました。
空き容量が200~300GBになるまでデータを書き込み*10GBの動画ファイルを複数書き込んで空き容量を埋める、SLCキャッシュが解放されるまで十分に時間が経過してから100GBのデータを書き込んでいます。
「Crucial T710 1TB」はフォーマット直後の未使用状態における190GB程度を最大値として、空き容量に依存してSLCキャッシュ容量が変化します。空き容量200GB以上なら100GB以上をSLCキャッシュとして使用できます。
TLC型ですが、空き容量200GBでも100GBを超えるSLCキャッシュを利用できたので、Windows上でボリュームとして認識される容量(空き容量に比例して確保されるSLCキャッシュ)とは別に、30GB以上は空き容量として表示されないSLCキャッシュ用領域がありそうです。

短期・中期的にもアイドル状態になるとすぐに使用済みSLCキャッシュの開放が始まって、10分もあれば元通りに数十GB以上のSLCキャッシュを使用できます。
超過後の書き込み速度も2000MB/sを超えていて近年のTLC型NVMe M.2 SSDの中ではトップクラスに高速です。
- 100GB程度は安定してSLCキャッシュ容量として使用できる
- SLCキャッシュ領域は使用後の開放も高速
- 超過後の書き込み速度も2GB/s以上と高速
というSLCキャッシュの実用性面でベストな挙動です。
フォーマット直後のSLCキャッシュ容量がTLC型SSDとして理想的な1/3容量でないことくらいしか弱点がありません。
ただ、これも強いて言えばというレベルで、ネガティブな要素として当てはまるのは、SSDを1,2年で使い潰す(保証値TBWを超過する)ガチの映像プロくらいです。
SLCキャッシュの最大容量と超過時の書込速度
フォーマット直後の状態からボリューム全域に書き込みを行った時の書込速度の推移を検証しました。*実用的にはあまり意味のない評価方法ですが、SLCキャッシュの挙動を把握する上で役立つこともあるので参考までに。
「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」のSLCキャッシュの最大容量と超過時の書込速度は次の通りです。
SLCキャッシュの最大容量と超過時の書込速度 | ||
---|---|---|
容量 | 最大容量 | 書込速度 |
1TB | 190 GB | 2037 MB/s (500GB程度) → 1218 MB/s |
2TB | 380 GB | 3885 MB/s (960GB程度) → 1899 MB/s |
4TB | 760 GB | → 1906 MB/s | 3936 MB/s (1960GB程度)
「Crucial T710」はフォーマット直後なら約1/4容量をSLCキャッシュとして利用できます。
「Crucial T710 4TB」は10GB/sを超える書き込み速度を発揮する高速なSLCキャッシュとして、空き容量が100%の状態なら約760GBを使用できます。TLC型SSDとして理想的な1/3容量そのままではありませんが、十分に大容量です。
超過後は書き込み速度が3936MB/sと1906MB/sで2段階に分けて低下します。
SLCキャッシュを評価する上で重要なことは?
SLCキャッシュを評価する上で重要なことは次の2つです。
- 使用済みデータがある状態で50~100GB程度のSLCキャッシュを使用できるかどうか
- 書込後のSLCキャッシュの開放はどれくらい速いか (使用済みキャッシュの開放条件)
一方、SSDレビューでしばしば検証される次の項目は実用的にはほとんど意味がありません。
- フォーマット直後、使用済みデータなしの状態のSLCキャッシュ容量
- SLCキャッシュ超過後の書き込み速度 (特に全域書き込みの検証)
SLCキャッシュ容量は空き容量依存で可変、使用済みデータがある状態で50~100GBを確保する製品が大半という現状にマッチしていない検証、評価が多いので注意が必要です。
SSDを1~2年程度で使い潰す(保証値TBWを上回る)ような使い方でもない限り、50~100GBのSLCキャッシュを超過するような書き込みは日常的に発生することはないので、SLCキャッシュ超過後の書き込み速度もそれほど重要ではありません。
補足1: 最新SSDのSLCキャッシュは空き容量に応じた可変容量
TLC型NANDが導入された初期(2.5インチSATA SSDが主流だった時代)や、NVMe M.2 SSDもPCIE3.0x4接続だった5年程前に遡るとSLCキャッシュ容量は10GB程度の固定容量でした。
またSLCキャッシュ外で低下した時の書き込み速度は製品仕様として一般的に公表されておらず、同じTLC型SSDでも個別製品に依って異なります。
昔はすぐにSLCキャッシュを超過してしまうので、SLCキャッシュ外の書き込み速度も重要でした。

しかし最新のSSDはSLCキャッシュを空き容量に応じた可変容量で確保します。*最新といっても2022年頃の時点ですでに
なおかつ、1TB容量で空き容量が300~400GB以上もあれば、SLCキャッシュとして50~100GB程度を確保できる製品が大半です。
キャッシュ外の書き込み速度は高いに越したことはありませんが、今と昔ではSLCキャッシュ容量や確保の仕方がそもそも違うので、SSD性能の評価としてそれほど重要ではありません。
むしろ、『書き込み処理が完了してアイドル状態になったらすぐにSLCキャッシュを開放し、数分後には10~30GB程度はすぐに再利用できるようになる』等、SLCキャッシュ開放の速さ、開放条件といった挙動のほうが実用的な快適さには重要になります。
補足2: 一般的なデータ利用からSLCキャッシュを考える
SSDの保証条件から考えてみる
自作PC向けSSD製品の保証は一般に”限定保証(制限付き保証)”と呼ばれ、
- 保証期間(年数)
- 書き込み耐性(総書き込み容量)
のいずれか一方をオーバーした時点で保証対象外になります。(下はCrucialの保証ページの記載例です)

個別製品によっても異なりますが、2025年現在、TLC型SSDの一般的な保証条件は『 容量1TB当たり600TBW程度 or 5年 』です。
書き込み耐性:600TBW、保証期間:5年のSSD製品の場合、601TBを書き込んだ時点で購入から3年でも保証対象外になりますし、総書き込み容量が300TB程度でも購入から5年を1日でも過ぎればやはり保証対象外になります。
この保証条件を超過する書き込み利用について計算すると次の通りです。
- 5年で保証値TBWを使い切るには → 毎日 328GBの書き込み
- 全域書き → 600回で保証外 → 1日1回で 1年8カ月弱
- 半域書き → 1200回で保証外 → 1日1回で 3年4カ月弱
一般的なデータ量から考えてみる
一方、SSDへ頻繁に書き込みを行うことが想定される写真や動画のデータ量については次の通りです。
- 20MbpsのFHD動画 → 2時間で25GB
- 100Mbpsの4K動画 → 2時間で約100GB
- 20MB(メガピクセル)のミラーレス一眼写真 → 1000枚で20GB
繰り返しになりますが、近年のTLC/QLC型SSDではSLCキャッシュ機能によって確保されるSLCキャッシュ容量は空き容量に対する可変容量が主流で、一般的に50~100GB程度を使用できます。
常識的に考えて、短いスパンの中で50GB程度のSLCキャッシュが使えれば、SLCキャッシュの容量超過やキャッシュ外の速度なんて気にする必要がないのは算数で分かる話です。
当サイトでは一応、連続書き込みのサイズとして100GBを基準にしていますが、それも大分マージン取ってるというか、正直、過剰な性能(容量)要求です。
消費電力と温度
「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」の消費電力について検証しました。
NVMe M.2 SSDの消費電力測定には、当サイトの検証に使用するためワンオフで特注した測定ツール「GPU Power Tester」を使用しています。


現在はM.2延長ライザーカードを改造し、よりダイレクトにNVMe M.2 SSDの消費電力を測定できるようにアップデートしていて、PCIE5.0x4でもマザーボードのM.2スロットにSSDを直結した時と同等の性能、安定性で消費電力を測定できます。
さらに詳しく
グラフィックボードの消費電力測定に使用するようなPCIEライザーケーブル/ライザーカードから、さらにM.2-PCIE変換ボードを中継すると、PCIE4.0x4帯域では製品次第で、PCIE5.0x4帯域ではほぼ確実にSSDの動作が不安定になります。
起動時のポストプロセスで弾かれてWindows OSから認識されなかったり、CDM等で高速アクセスをかけるとハングしたりします。
初期バージョンは上の写真のようにPCIE-M.2変換カードを改造した測定モジュールを使用していましたが、それも2025年最新、PCIE5.0x4の高速帯域になると動作安定性が怪しくなりました。
NVMe M.2 SSDの接続先として最も一般的な、グラフィックボード用PCIEx16にプラスαでCPUから直接伸びるNVMe M.2 SSD用のPCIEレーンに接続して検証できないところもネックでした。
あと副次的に嬉しいポイントとして、現在のバージョンはM.2スロットを直接延長するので、PS5に増設したM.2 SSDの消費電力も測定できます。
検証記事も公開しているので気になる人は参照してみてください。

アクセスタイプ別のSSD消費電力
まずはSSD消費電力の傾向を簡単に把握するため、CrystalDiskMarkを測定負荷としてアクセスタイプ別に消費電力がどうなるのか検証しました。
検証設定についてクリックで展開
CrystalDiskMarkはバージョン8.0.4、基本設定としてデータサイズ 1GiB、プロファイル +Mixにしています。
CrystalDiskMarkの設定は各アクセスタイプで測定時間20秒/測定回数1回、測定インターバル10秒に変更しています。12種類のアクセスタイプの負荷に加えて、テスト終了後のアイドル状態の消費電力も測定しています。
CrystalDiskMarkを測定負荷とした時に連続読み出し/連続書き込みのアクセスタイプは、消費電力が最も大きくなる、ワーストケースに近い負荷となります。

CrystalDiskMarkで負荷をかけた時の「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」の消費電力の推移は次のようになっています。
大容量になるほど消費電力は若干増加しますが、4TBモデルでも連続読み出しで8.1W程度、連続書き込みで8.4W程度に収まっています。
前モデル T705などメモリコントローラーにPHISON PS5026-E26を採用する初期のPCIE5.0対応SSDは消費電力が非常に大きく、ファンによるアクティブ冷却が推奨されるくらいでした。
「Crucial T710」はそういった初期のPCIE5.0対応SSDからすると大幅に低電力化を果たしていますが、それでも現在主流なPCIE4.0対応SSDと比較すると大きめです。
ただ、4Kランダムの消費電力は2.5~2.8W程度に収まるので、4Wを軽く超えて省電力なPCIE4.0対応SSDくらいの発熱だった初期のPCIE5.0SSDに比べれば、「Crucial T710」はパッシブ空冷でも問題なく運用できるレベルです。
トップクラスの電力効率

「Crucial T710」は前モデル T705の同容量モデル(2TB)と比較して、30%以上も電力効率が向上しています。
連続読み書きのワットパフォーマンスについては、やはり競合 KIOXIA/SanDisk製BiCS8メモリチップを採用する各種製品が強いですが、他社製品との比較においても「Crucial T710」も文句なしにトップクラスです。*IO系ベンチのスコアとその時の消費電力なので現実のワッパとは少々意味合いが異なりますが
アクセスタイプ別のSSD消費電力を比較
連続読み出し/連続書き込み(SEQ 1M Q8T1)について、「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」と各種ストレージを比較しました。
ゲーム中のSSD消費電力
続いて、実用シーンのSSD消費電力として当サイト的に重要なPCゲームのプレイシーンを検証しました。
検証に使用しているタイトルは、DirectStorageに対応するPCゲームとしてラチェット&クランク パラレル・トラブル(Ratchet & Clank: Rift Apart)とFORSPOKEN、ストレージへのAPIが従来式の高画質PCゲームとしてMarvel’s Spider-Man RemasteredとForza Horizon 5です。
いずれも4K解像度でグラフィック設定は基本的に各設定項目が最高設定です。
以上4種類のゲームを使用して5つのシーン、各120秒間についてSSDの消費電力を測定しました。具体的には次の動画の通りです。

「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」のDirectStorage対応を含む4種類のPCゲーム、5つのシーンにおけるSSD消費電力の推移をグラフにまとめました。*CrystalDiskMarkによる消費電力測定の結果のうち、連続読み出し(SEQ 1M Q8T1)、ランダム読み出し(RND 4K Q1T1)、アイドルの3種類の消費電力も横線で併記しています。
DirectStorage対応PCゲーム、ラチェット&クランクのワープやFORSPOKENのロード・ファストトラベルでは連続アクセス的な大きい消費電力も発生しますが、いずれも1~2秒あるかどうかという瞬間的なものです。
ゲーム中のSSD消費電力を比較
「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」を含めた各種ストレージについてゲームシーンの平均消費電力を比較グラフにまとめました。*最大値も併記していますが、上の推移グラフを見ての通り瞬間的なピーク値となっており、測定毎に振れ幅があるので参考程度です。
現状ではPCゲームプレイ中のSSD消費電力は、データの読み出しが多いタイトルでもCDMの4Kランダム読み出しと同程度、そうでなければアイドル状態をベースにして推移し、4Kランダム読み出し的な消費電力のアクセスがぽつぽつと発生する感じです。
SSDの温度検証について
「Crucial T710」の温度についての検証は省略します。
近年ではマザーボードM.2スロットに十分な性能のM.2 SSDヒートシンク搭載が標準化しており、市販M.2 SSDヒートシンクも安価で高性能なものが簡単に見つかります。
アクティブ冷却タイプのオススメ製品について
PCIE5.0対応NVMe M.2 SSDなど一部の消費電力が大きいSSDは万全を期すならアクティブ冷却ファンを搭載したM.2 SSDクーラーを用意するのがオススメです。*消費電力の目安として、
・連続読み書きが8~10W以上
・4Kランダム読み書きが4W以上
など
空冷CPUクーラーで周辺にエアフローがあるとか、大型ヒートシンクならパッシブ空冷でも問題ないかもしれませんが、アクティブ冷却の方が安心感はあると思います。
干渉し難いコンパクトサイズなら「ElecGear EL-80X」、CPUソケット直下M.2スロットでもCPUクーラー・リアIOカバー等と干渉しやすいので注意が必要ですが「JIUSHARK M2-THREE」は、冷却ファンがPWM速度調整に対応しているのでオススメです。
PCIE4.0/5.0対応でドンドン高速化していく中、NVMe M.2 SSDをヒートシンクなしで温度測定や耐久テストを行うのは時勢に合わない、上記の通りヒートシンクも多様化しているので一例を示してもあまり参考にならない、と思ったというのも理由です。
なお、ゲームシーンの消費電力検証で見た通り、実用シーンでCrystalDiskMarkの連続アクセスのようなPCIE4.0なら7GB/s前後、PCIE5.0なら10GB/sを超える高速アクセスが長時間に渡って発生するのかは疑わしいです。
比較的に理想的な連続アクセスが生じる動画ファイルのコピーでも、100GBの読み書きは5GB/sなら20秒、長く見積もっても30秒前後で済むので、それ以上のストレステストに意味があるのか疑問です。*某大統領が喧伝したボンネットにボーリングの玉という感じ
またCrystalDiskMark自体はストレージベンチとして非常に有用ですが、SSDの温度検証という観点でいうと微妙です。
テストの3/4で連続アクセス的な消費電力が発生するCrystalDiskMarkを測定負荷に採用するのはあまり意味がないと感じています。

延長カード型でPCIE5.0にも対応するM.2 SSD消費電力測定モジュールも無事に完成したので、PCゲーム以外の実用シーンについてもSSD消費電力を調査しつつ、SSD温度検証の在り方について調べるのが今後の課題だと思っていますが、今回は省略ということで。
実用性能を比較
「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」の実用性能をPCMark10 Storage Benchmarkを使用して検証しました。
PCMark10 Storage BenchmarkはWindows OSの起動速度、PhotoshopやPremiere ProといったAdobeアプリの起動速度、PCゲームの起動速度、AdobeアプリやMicrosoft Officeの素材領域としての読み出し・書き込み速度など、SSDの実用性能について測定できるベンチマークソフトです。
PCMark10 Storage Benchmarkについて
PCMark10 Storage Benchmarkは、NVMe SSDなど最新の高速ストレージについて、再現性を確保しつつ実用的なストレージ性能を測定するために開発されたベンチマークソフトです。
Windows OSの起動、OfficeやAdobe系ソフトなどアプリケーションの起動、PCゲームの起動、OfficeやAdobe系ソフトで使用する素材データ領域としての読み出し・書き込み性能を検証するため、”Trace”と呼ばれる23種類のテストで構成されています。
当サイトでは同ベンチマークを使用した評価に当たって、ストレージの用途を、Windowsや各種アプリケーションをインストールする『システムストレージ』、PCゲームをインストールする『ゲームストレージ』、各種アプリケーションで使用する素材を保存しておく『データストレージ』の3種類に大別し、23種類のうち17種類のテストを下記のように振り分けています。

PCMark10 Storage Benchmarkを使用した検証についていくつか補足しておきます。
補足1: 比較グラフについて
PCMark10 Storage Benchmarkには上の概要で紹介したように23種類のテストがあるので、その中からシステム/ゲーム/データの3種類に大別された17種類のテストの結果を抜粋し、各テストにおいてSamsung SSD 980 PRO 1TBを基準として性能比率を算出、それらの平均値を取っています。
『システムストレージ』、『ゲームストレージ』、『データストレージ』など用途別の比較グラフも同様に該当するテストの結果を抜粋し、各テストにおいてSamsung SSD 980 PRO 1TBを基準として性能比率を算出、それらの平均値を取っています。
補足2: データコピー関連のTraceは除外している
PCMark10 Storage Benchmarkには単純なデータコピーに関するTraceも6種類含まれていますが、
- データコピー性能の検証は再現性確保も含め容易
- Windowsエクスプローラー上のコピーといまいち一致しない
等の理由もあって当サイトの評価では採用していません。
同様にコピー関連Traceが含まれるPCMark10 Storage Benchmarkの総合スコアも扱っていません。
補足3: 空き容量 50%の状態で測定している
PCMark10 Storage Benchmarkでは一部製品において使用済み容量が大きくなるとフォーマット直後の0%使用時に比べて性能が低下することがあります。
事前に空き容量が半分前後になるようにデータを書き込み、なおかつ使用済みSLCキャッシュが十分に開放された状態で測定を行っています。
補足4: PCM10による評価をどれくらい参考にすべきか?
なお、PCMark10 Storage Benchmarkや後述の3DMark Storage Benchmarkは、性能差が分かり難いSSDを差別化する、という意味合いが強いベンチマークです。
性能が高いに越したことはないのですが、多少スコアが低くても*例えば当サイトでCPU・GPU検証のデータストレージとして使用しているNextorage NE1N 8TB程度のスコアがあれば実用的には全く問題ない、というのが本音だったりします。

「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」など各種SSDに関して総合的なSSD実用性能の比較グラフ(パフォーマンスサマリー)を作成しました。

PCMark10 Storage Benchmarkの個別Traceについて前モデルや競合製品と比較してみました。
「Crucial T710」は前モデル T705と比較して消費電力が30%~60%と大幅に低減していますが、PCMark10による実用性能ベンチでは個別Traceで比較してみても大半で勝ち越しています。
競合するハイエンドPCIE5.0 SSDのSamsung 9100 PROとは消費電力も近かったですが、個別Traceでは得手不得手があるものの、ほぼ同等か、僅かに勝ち越す傾向です。
一方で1ヵ月ほど先に国内で発売されたWD_BLACK 8100には及ばず、最速奪還とはなりませんでした。とはいえ、現状では2番手につける高性能です。
『システムストレージ』、『ゲームストレージ』、『データストレージ』など用途別の実用性能についても比較グラフにまとめました。
データコピー性能を比較
「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」で大容量・多数データのコピー速度性能を検証しました。
PCMark10 Storage Benchmarkや後述の3DMark Storage Benchmarkの検証とは異なり、データコピーの検証はフォーマット直後の状態で測定を行っています
検証には、総容量が約50GBの動画フォルダ(10GBの動画ファイルが5つ)、総容量が約67GB/ファイル数:64のPCゲームフォルダ、総容量が約64GB/ファイル数:156KのPCゲームフォルダの3種類を使用しています。

近年のPCゲームはゲームデータを数百MB~数GBにまとめてパッケージ化していることも多いので、ファイル数が100以下のゲームフォルダと、ファイル数が15万程度のゲームフォルダの2種類でテストしています。

補足1: コピー検証の手順について
コピー検証の具体的な手順を説明します。
- 最初に検証ストレージへのコピー書き込みを行う
- 各テストデータの書き込み後、毎回、5分間のインターバルを置く
- 全てのテストデータを書き込んだら、コピー相手のSSDをフォーマット
- 同様に5分間のインターバルを置いてから、コピー読み出しを行う
空き容量依存のSLCキャッシュ容量やSLCキャッシュ開放速度といったSLCキャッシュ構造は製品によって異なるので、実用シーンでは容量の使用状況によって書き込み性能は今回の検証結果と変わる可能性があります。
コピー相手のSSDのCrucial T700 2TBは十分にSLCキャッシュ容量が大きく、開放も速いので読み出し、書き込み共に検証において注意事項はありません。
補足2: ファイル数の多いゲームフォルダのコピー検証について
コピーテストにはNodesoft Disk Benchというベンチマークソフトを使用しています。
上記の動画フォルダやファイル数が少ないゲームフォルダ、また過去にモバイルストレージ等の検証に使用していた3GB画像フォルダ(10,000枚)や7GB画像フォルダ(1,000枚)では実際にエクスプローラー上でコピーするのとほぼ同じコピー時間がベンチマーク結果として得られるので、同ソフトウェアを使用していました。
しかし、今回新たに検証に追加した約64GB/ファイル数:156Kのゲームフォルダについては、ベンチマークでは1分以内にコピーが完了するSSDでも、エクスプローラー上でコピーを行うと3分30秒以上かかりました。
検証ストレージのコピー相手、書き込み先/読み出し元となるストレージが必要なので、コピー相手にはPCIE5.0x4接続に対応したCrucial T700 2TBを使用しています。
コピー相手のストレージについて
データのコピーにおいては当然ですが、元データのあるストレージの読み出し性能とコピー先の書き込み性能の両方が重要になります。
Ryzen 9 7950XとGIGABYTE X670E AORUS MASTERの検証環境で、レビューストレージはCPU直下のM.2スロットに、コピー相手のCrucial T700 2TBはPCIEスロットを挟んで1つ下のM.2スロットに設置しています。
いずれも個別のCPU直結PCIE5.0x4レーンに接続されているので、PCIE接続帯域がコピー速度のボトルネックになることはありません。

動画フォルダのコピー(10GB×5)
「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」で50GBの動画フォルダのコピー速度を検証しました。
動画フォルダの中身は1つ10GBの大容量ファイルなので実際のコピーではベンチマークの連続読み出し・書き込み性能が重要になります。
Windows 11 21H2以前はエクスプローラーのファイルシステムがボトルネックになるためコピー速度は3GB/s程度で頭打ちでしたが、Windows 11 22H2とPCIE5.0に対応するRyzen 7000環境であれば実際のファイルコピーで最大6GB/sに迫る転送速度を発揮できます。
「Crucial T710」は読み出し速度が5,700~6,000MB/s程度、書き込み速度が6,100MB/s程度でした。
ゲームフォルダのコピー(67GB, Files:64)
「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」でパッケージ化されているゲームフォルダのコピー速度を検証しました。
近年のPCゲームでは各種ゲームデータが数百MB~数GBのファイルにパッケージ化されていて、ファイル数はせいぜい100~200なので、基本的には動画フォルダのコピー同様にベンチマークの連続読み出し・書き込み性能が重要になります。
「Crucial T710」はパッケージ化されているゲームフォルダのコピーにおいて、読み出しで5,400~5,800MB/s程度、書き込みで5,600~5,800MB/s程度という転送速度を発揮しました。
ゲームフォルダのコピー(64GB, Files:156K)
「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」でファイル数の多いゲームフォルダのコピー速度を検証しました。
最後は先ほどと同じくゲームフォルダのコピーですが、こちらはゲームデータが大きいファイルにパッケージ化されておらず、15万を超えるファイル数があるので、ランダム性能が重要になります。
ただしコピー元の読み出し速度がボトルネックになりやすく、コピー相手にはCrucial T700 2TBを使用しているので、書き込み性能はPCIE4.0x4接続の高性能SSDなら1300MB/s程度の速度で頭打ちになります。
ランダム性能が重要になる実際のファイルコピーにおいて、「Crucial T710」は読み書き共に1,300~1,400MB/sで理想的な性能を発揮しました。
ゲームロード性能を比較
「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」のゲーム性能を検証しました。
ストレージゲーム性能の検証には3DMark Storage Benchmarkを使用しています。
3DMark Storage Benchmarkについて
3DMark Storage Benchmarkは、PCゲームのロード時間やプレイ動画の保存といったゲーミングシーンにおける性能を再現性高く検証できるベンチマークソフトです。
3DMark Storage Benchmarkは各検証ストレージについて3回ずつ実行しています。
PCMark10 Storage Benchmarkと同様に、各ストレージは空き容量が半分前後になるようにデータを書き込んだ状態で測定を行っています。
総合スコア、ゲームロード速度(Battlefield V、Call of Duty Black Ops 4、Overwatch)、プレイ動画の録画(Overwatchのゲームプレイ中のデータアクセスとOSBによるフルHD/60FPSの録画)について平均値を比較しています。

3DMark Storage Benchmarkのトータルスコアについて、「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」やその他ストレージを比較しました。

3DMark Storage Benchmarkの総合スコアには、プレイデータのセーブ、PCゲームのインストール/移動など実用面で優先度が低いテストの結果も含まれるので、ここからはPCゲーム用ストレージとして優先度の高い個別テストを抜粋して見ていきます。
プレイ動画録画性能について、「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」やその他ストレージの比較は次のようになっています。

DirectStorageについて
DirectX 12のDirectStorageに代表されるPCゲーム向け高速ストレージアクセスAPIに対応したPCゲームにおけるロード性能については、実際の比較検証結果を元に解説しているので、こちらの記事を参照してください。
ゲーム向け高速ストレージAPIを使用しない従来式のゲームの傾向についても、2020年から2021年頃の検証ですが比較データを使って解説しています。

検証結果から結論だけ言ってしまうと、DirectStorageのサポートの有無によってNVMe SSDとSATA SSDでは大幅な性能差がありますが、PCIE3.0~5.0の帯域、TLC NANDとQLC NAND、DRAMキャッシュの有無による差はないと思います。
マイナーメーカーのそもそもSSD性能が怪しい製品とかになると保証もできませんが、Micron(Crucial)、Samsung、SK Hynix(Solidigm)、WD辺りの大手メーカー製品で、NVMe SSDであれば、DirectStorage対応ゲームのロード時間はほぼ同じになると思います。ブラインドで見分けられる差でないことは確かです。
ちなみに好評発売中のモンハンシリーズ最新作 モンハンワイルズもDirectStorageに対応したPCゲームです。

今回はPC環境における性能を検証しましたが、同じくNVMe M.2 SSDを使用するPlayStation 5の拡張スロットによるストレージ増設についてはこちらの記事で詳細を解説しています。気になる方は参照してみてください。

Crucial T710のレビューまとめ
最後に「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」を検証してみた結果のまとめです。
- 最大性能で連続読み出し14.9GB/s、連続書き込み13.8GB/s
- PCMark10や3DMarkの実用性能ベンチで最速クラスの性能
- SLCキャッシュは基本的に100GB以上を使用できる
- 使用後の開放も非常に高速で、実用的にベストな挙動
- フォーマット直後は約1/4容量をSLCキャッシュとして使用可能
- 4TBモデルのSLCキャッシュは最大760GB
- PCIE5.0の理想的な連続性能ながら7~8W台の消費電力
- 1TB~4TBまで片面実装のSSD基板
- メーカー正規保証期間は5年間
- 保証条件のTBWは容量1TBあたり600TB
- ヒートシンク搭載モデルもラインナップ(年内に発売予定)
- 消費電力はPCIE4.0 SSDに比べてまだ高い
- TLC型なのでSLCキャッシュ超過後に速度低下が発生する
- キャッシュ容量は空き容量依存(詳細)
「Crucial T710」を検証してみたところ、CrystalDiskMarkなど基礎的な各種ベンチマークでは仕様値通り、1TBモデルの連続読み出しが最大14.9GB/s、2TB/4TBモデルも連続書き込みが14.5GB/sという、PCIE5.0x4帯域で理想的な性能を発揮しました。
連続書き込み性能もCrystalDiskMarkによる実測値で1TB/2TB/4TBモデルのいずれも、13.4GB/sなのでほぼほぼ帯域理想値です。
「Crucial T710」は同社前モデル T705と比較して30%~60%も低電力化を果たしつつ、PCMark10や3DMark、ファイルコピーといった実用性能テストでは同等以上の性能を発揮しましました。
PCIE5.0対応のハイエンドSSDとして競合するSamsung 9100 PROとも並ぶ性能ですが、一方で、WD_BLACK SN8100には及ばず、最速奪還とはなりませんでした。
ベンチマーク的には最速とはなりませんでしたが、「Crucial T710」はSLCキャッシュ挙動が実用的にベストであり、逆にWD_BLACK SN8100はそこが微妙にネガティブでした。
数字になり難い部分ですが、SLCキャッシュの挙動が重要になる、大容量データの書き込みが頻発する用途だとCrucial T710のほうが使い易いように思います。
10GB/s超の連続読み書きで10W以上、4Kランダムで4W以上、アイドル状態で2W以上という、同社前モデル T705を含めPHISON PS5026-E26を採用する初期PCIE5.0対応SSDの消費電力の大きさは、アクティブ冷却が強く推奨される感じで導入ハードルを引き上げていました。
「Crucial T710」は、PCIE5.0対応SSDとして理想的な13~14GB/sの連続読み書きでも消費電力は7~8W台に収まります。加えて、4Kランダムが2.5~2.8W程度、アイドルが1.5~1.6W程度に低減しています。
近年のPCIE4.0対応SSDと比較するとまだ消費電力は大きいですが、一般的な使い方で連続読み書きの負荷が1分も続くことはないので、4Kランダムとアイドルの消費電力がこれくらい低ければ、一般的なパッシブ式のMBヒートシンクでも十分に常用できると思います。(連続読み書きが頻繁に発生する用途では流石にアクティブ冷却が推奨ですが)
「Crucial T710」のSLCキャッシュについては、
- 100GB程度は安定してSLCキャッシュ容量として使用できる
- SLCキャッシュ領域は使用後の開放も高速
- 超過後の書き込み速度も2GB/s以上と高速
というSLCキャッシュの実用性面でベストな挙動です。
あと当サイトではそもそも評価対象としないことが多い部分ですが、「Crucial T710」の4TBモデルはフォーマット直後なら760GBの大容量を10GB/s以上の超高速で書き込み可能なSSDとして使用することも可能です。(さらに+2TBの領域も3.9GB/sの高速書き込みが可能)
かなり特殊な用途になると思いますが、そういった高速書き込みを維持できる大容量ストレージが欲しい人には非常に刺さる製品だと思います。
以上、「Crucial T710 1TB / 2TB / 4TB」のレビューでした。
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PCIE5.0x4接続 NVMe M.2 SSD
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