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AMD Ryzen 9000シリーズCPUに対応するX870Eチップセット搭載AM5マザーボードとしてASUSからリリースされた、110A対応SPSで構成される20フェーズの超堅牢VRM電源や2基のUSB4対応Type-Cポートを搭載するゲーマー&OCer向けモデル「ROG CROSSHAIR X870E HERO」をレビューします。
ROG CROSSHAIR X870E HERO レビュー目次
1.ROG CROSSHAIR X870E HEROの外観・付属品
2.ROG CROSSHAIR X870E HEROの基板上コンポーネント詳細
・AMD 800/600シリーズ マザーボードの違いについて
3.ROG CROSSHAIR X870E HEROの検証機材
4.ROG CROSSHAIR X870E HEROのBIOSについて
5.ROG CROSSHAIR X870E HEROのOC設定について
・PBOによる低電圧化や電力制限について
・CPUコアクロックのマニュアルOCについて
・メモリのオーバークロックについて
6.ROG CROSSHAIR X870E HEROの動作検証・OC耐性
7.ROG CROSSHAIR X870E HEROのレビューまとめ
【2024年11月23日:初稿】
レビュー記事初稿を公開、BIOS:0606で検証
製品公式ページ:https://rog.asus.com/jp/motherboards/rog-crosshair/rog-crosshair-x870e-hero/
【機材協力:ASUS Japan】
ROG CROSSHAIR X870E HEROの外観・付属品
まず最初にROG CROSSHAIR X870E HEROの外観と付属品をチェックしていきます。ROG CROSSHAIR X870E HEROのパッケージはマザーボードの箱としては独特な上開き化粧箱になっていました。開閉しやすく高級感もあります。
外パッケージの蓋を開くと上段にはマザーボード本体が収められており、下段には各種付属品が収められています。
マニュアルなど冊子類で必要なものが一通り揃っています。その他にもビンキャップオープナーやステッカーセットなどファングッズが付属します。
ASUS製マザーボードというと詳細かつ上手く翻訳された日本語マニュアル冊子が付属しているところが特徴でしたが、最近のSDGsの流れで、冊子類はクイックスタートガイドのみで、詳細マニュアルはQRコードを読み込んで、公式サイトからダウンロードする形になっています。
またドライバメディアはCDではなく専用のUSBメモリになっています。最近では光学ドライブを搭載しない、USB外付けも持っていないという環境が主流なので、その他のマザーボード製品でもドライバはUSBメモリに移行して欲しいところ。
組み立て関連の付属品として、SATAケーブル4本、M.2 Q-LATCH、M.2 SSD用スペーサーラバーパッド、Q-Connector、アドレッサブルRGB対応VG-D型3PIN LED機器接続ケーブル、WiFiアンテナが付属します。
「Q-Connector」はパワースイッチやストレージLEDなど細かいPINをまとめてマザーボードに接続可能な便利なコネクタです。「Q-Connector」は組み立て時にあると便利ですがASUSマザーボードの中でも付属しないモデルもあるので事前にチェックがおすすめです。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」にはアドレッサブルRGB対応VG-D型汎用3PIN LEDヘッダーがマザーボード上に実装されていますが、それをロック付き3PINコネクタに変換する延長ケーブルが付属します。
マザーボード全体像は次のようになっています。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」はATXフォームファクタのマザーボードです。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」にはチップセットカバーとも一体化したM.2 SSDヒートシンクがマザーボード下側の表面を覆っています。
AMD 600世代ではサイバーパンク的な近未来感が漂うデザインでしたが、「ROG CROSSHAIR X870E HERO」では凸状に少し湾曲し、光の当たり具合でグラデーションする中央プレートと、フラットな上下プレートという割とシンプル、スマートなデザインに変わっています。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」はマザーボード備え付けのLEDイルミネーションやアドレッサブルRGB対応汎用3PINイルミネーション機器を操作可能なライティング制御機能「ASUS AURA Sync」に対応しています。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」のリアI/Oカバー上には”I/O ZONE Polimo Lighting II”と呼ばれる、PMMA(アクリル)製ネームプレートの微細構造を利用し、異なるパターンを表示できる新たなイルミネーションが搭載されています。
前世代ではひし形ドットで構成されていましたが、「ROG CROSSHAIR X870E HERO」では細い縦ラインに変わっています。
加えて「ROG CROSSHAIR X870E HERO」のマザーボード上にはライティング制御に対応したARGB対応VD-G型3PIN LEDヘッダーが3基実装されています。RGB対応汎用4PIN LEDヘッダーは非搭載です。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」に搭載されたイルミネーション機器はWindows 11 23H2以降でOS統合された”動的ライティング”というライティング制御機能にも対応しています。動的ライティングで制御したい場合はBIOSから設定を有効化してください。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」にはVRM電源クーラーとしてCPUソケットの上側と左側に大型のアルミニウム製ヒートシンクがあり、隠れていますが、2つはヒートパイプで連結されています。チョークコイルに覆い被さってCPUソケットに迫る勢いの非常に巨大なヒートシンクです。
左側ヒートシンクは、リアI/Oカバー天面を支える側面こそネジ止めの2ピース構造ですが、VRM電源ヒートシンクからリアI/Oカバーの天面まではモノブロック構造で超巨大なVRM電源クーラーとなっています。
マザーボード裏面には頑丈な金属製バックプレートが装着されています。各種素子のハンダの出っ張りで指を切ることがありますが、バックプレートがあればその心配もありません。
バックプレートはVRM電源回路背面とサーマルパッドを介して接しており、放熱プレートとしての役割も果たしています。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」はメインストリーム向けマザーボードながら、20フェーズの超堅牢なVRM電源回路が実装されています。
ハイサイド/ローサイドMOS-FETとドライバICをワンパッケージし、低発熱で定評のあるSmart Power Stage(Dr. MOSの名前で有名)をVRM電源回路に採用するのはハイエンドマザーボードでは定番ですが、「ROG CROSSHAIR X870E HERO」には20(18+2)フェーズ全てに110A対応SPSのViSHAY SIC850Aが使用されています。
その他のVRM電源回路を構成する素子についても、定格45Aを処理可能な高透磁率合金コアチョーク MicroFine alloy chokes、入出力フィルタリングに高い動作温度で数千時間持続する10K日本製ブラックメタルコンデンサなど厳選された高品質素子です。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」ではEPS電源端子は最大16コアに達するRyzen 9000シリーズのオーバークロックにも対応すべく、8PIN×2が設置されています。700W以下のメインストリーム電源ユニットではEPS端子が1つしかないものもあるので組み合わせて使用する電源ユニットには注意が必要です。
また「ProCool II」と呼ばれる設計のEPS電源コネクタは、低インピーダンスなソリッドピンによってホットスポットの発生を抑制し、金属アーマーはコネクタの補強とともに熱拡散も補助します。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」には一体型リアI/Oバックパネルも採用されています。PCケースにパネルを装着する作業は固くて装着し難かったり、忘れてしまうこともあるのでマザーボードに統合されているのは嬉しい機能です。
以下USB規格に関する説明がありますが『USB3.2 Gen2 = USB3.1 Gen2』、『USB3.2 Gen1 = USB3.1 Gen1 = USB3.0』と考えて基本的に問題ありません。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」のリアI/Oに実装された2基のUSB Type-Cポートは帯域40Gbpsの次世代規格USB4に対応しています。2基のUSB4ポートはいずれもDisplayPort 1.4相当の帯域でDisplayPort Alternate Modeによるビデオ出力に対応しています。(映像ソースはiGPU)
リアI/Oには最新のUSB3.2 Gen2規格に対応した6基のUSB Type-A端子と2基のUSB Type-C端子が設置されています。
USB3.Xは無線マウスと電波干渉を起こすことがあるので、欲を言えば追加でUSB2.0を少し離れた場所に設置しておいて欲しかったところ。
Ryzen 9000/7000シリーズCPUのRadeonグラフィックス向けにHDMI2.1×1、USB Type-C(DisplayPort1.4 Alternate Mode)×2の3つのビデオ出力端子が搭載されています。HDMIのバージョンはver2.1なので4K解像度で60~120FPSの出力に対応しています。
有線LANとして近年ではエントリー~ミドルクラスのMBでも普及しつつある2.5Gb LAN(Intel I226)に加えて、さらに2倍高速なRealtek製LANコントローラー(RTL8126)による5Gb LANも搭載されています。
さらにWi-Fi 7に対応したMediaTek MT7927コントローラーによる無線LANも搭載しています。
接続規格としてはWi-Fi 802.11 a/b/g/n/ac/ax/be、2.4/5GHz/6GHzトライバンド、最大通信速度6.5Gbps(6GHz帯の320MHz幅接続時)、Bluetooth 5.4に対応しています。リアI/Oには無線モジュールのアンテナ端子が設置されているので付属のアンテナを接続できます。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」のWi-FiアンテナにはQ-Antennaと呼ばれるワンタッチ装着機能も採用されています。従来のようなネジ巻き作業が必要なくなりました。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」に搭載されているネットワーク機器のうちWindows11(24H2 クリーンインストール)の標準ドライバで動作するのはRealtek製5Gb LANだけです。
Intel I226-Vの2.5Gb有線LANや、MediaTek MT7927コントローラーによるWi-Fi7無線LANはマザーボードサポートページからダウンロードして、手動でドライバのインストールが必要です。
条件次第では問題になることもあるので詳しくはこちらの記事を参照してください。
なお、Realtek製LANコントローラー(RTL8126)による5Gb LANを最大スペックの5Gbpsで使用するにはドライバの手動インストールが必要です。
Windows11(24H2 クリーンインストール)の標準ドライバでも有線LANとして動作しますが、2.5Gb LANのRTL8125扱いとなってしまうため、最大通信速度が2.5Gbpsに制限されます。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」はUSB BIOS FlashBackに対応しています。
所定のUSB端子にBIOSファイルの入ったUSBメモリを接続して、オンボードボタンを押すとUSB BIOS FlashBack機能によってCPUやメモリなしの状態でもBIOSの修復・アップデートが可能です。
ROG CROSSHAIR X870E HEROの基板上コンポーネント詳細
続いて「ROG CROSSHAIR X870E HERO」のマザーボード基板上の各種コンポーネントをチェックしていきます。AMD Ryzen 9000シリーズCPUではCPUソケットとして前世代のRyzen 7000シリーズと同じLGAソケットのAM5(LGA1718)が採用されています。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」はRyzen 9000シリーズCPUをネイティブサポートするマザーボードですが、AMD 600シリーズマザーボードがBIOSアップデートでRyzen 9000シリーズCPUをサポートするように、同製品も前世代 Ryzen 7000シリーズCPUで使用できます。
Ryzen 9000とRyzen 7000はCPUから伸びるPCIEレーン数や世代、USB、オーディオ機能などIO関連についてはほぼ共通仕様です。IO的にはフルスペックで活用できるのでM.2スロット等のIOを増強したい時に、CPUはRyzen 7000のままでB650やA620などエントリー~ミドルクラスのMBを最新のX870E/X870へ買い替えるというのも選択肢としてあり得ます。
AM5ソケットのCPUクーラーマウントについても簡単におさらいしておきます。
AM5ソケットに標準で装着されているCPUクーラー固定用フックはAM4マウント互換となっており、プラスチック製フックを取り外した下にあるネジ穴位置もAM4マウントと共通です。
ただしAM5マザーボードにおいてCPUクーラー固定用金具(ILM)とCPUクーラー固定用フックは共通の金属製バックプレートで固定されているため、マザーボードからバックプレートを取り外すことはできません。
AM5マザーボードはAM4マウントのCPUクーラーと基本的には互換であるものの、AM4環境で使用する時に標準付属のバックプレートを取り外す必要があったCPUクーラーは使用できないので注意してください。
ちなみに高性能AIO水冷CPUクーラーとして定評の高いAsetek OEMの製品については、AM4マウント用のソケット付きスタンドオフがAM5マザーボードでも問題なく使用できました。
AM4用の部品でも使用は可能ですが、スタンドオフの長さなど構造をAM5へ最適化した新しい固定部品もAsetekから発表されており、一部のメーカーからは新部品の無償提供もあるようです。(Ryzen 7000登場時なので無償提供はすでに終了しているかも)
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」はシステムメモリの最新規格DDR5に対応しています。従来規格のDDR4と下方互換はなく使用できないので注意してください。
システムメモリ用のDDR5メモリスロットはCPUソケット右側に4基のスロットが設置されています。固定時のツメは両側ラッチとなっています。片側ラッチよりも固定が少し面倒ですが、しっかりとDDR5メモリを固定できるので信頼性は高い構造です。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」など一部のASUS製ハイエンドマザーボードにはDDR5メモリスロットにNitroPath DRAMテクノロジーと呼ばれる独自の特許技術が採用されています。
メモリ端子と接する金属接点ピンを一般的なものよりも39%短くすることによって、メモリOCのヘッドルームを400MHzも引き上げることに成功しています。またメモリを頻繁に交換するOCerに嬉しい副次効果としてメモリスロットは垂直の力に対して、左右の力に対して57%も頑丈になっています。
ちなみに、NitroPath DRAMテクノロジーを採用するメモリスロットにDDR5メモリを装着すると一般的なメモリスロットよりもメモリの全高が1mmだけ低くなります。
グラフィックボードなどを設置するPCIEスロットは上から[N/A、x16、N/A、N/A、N/A、x16、N/A]サイズのスロットが設置されています。上段のプライマリグラフィックボードを2段目のスロットに配置することで、大型ハイエンド空冷CPUクーラーとグラフィックボードの干渉を回避しています。
2段目と6段目のx16サイズPCIEスロットはCPU直結PCIE5.0x16レーンを共有しており、[x16, N/A]、[x8, x8]で使用できます。
また下のテーブルの通り、マザーボード上に設置されている2基のM.2スロット(M.2_2、M.2_3)とも帯域を共有しており、M.2スロットの使用状況に応じて帯域や排他利用が変化します。
ROG CROSSHAIR X870E HEROにも最近のトレンドとして2段目と6段目のx16サイズスロットには1kgを超える重量級グラボの重さに耐えるように、従来のプラスチックスロットよりも垂直方向の力に対して1.6倍、水平方向の力に対して1.8倍も強靭になった補強用メタルアーマー搭載スロットが採用されています。
大型空冷CPUクーラーを組み合わせた場合など、グラフィックボードを取り外す際にPCIEスロットの固定ラッチを解除するのが難しい、という場面に遭遇したことのある自作erは多いと思いますが、「ROG CROSSHAIR X870E HERO」にはPCIEスロット固定ラッチの解除を簡単にする機能の最新版 PCIe Slot Q-Release Slimが搭載されています。
PCIe Slot Q-Releaseシリーズは今回のアップデートで3代目になります。見た目には外部スイッチもなく、普通のPCIEスロットに戻ったように見えますが、実は左端付近にロック解除機構が内蔵されています。
最新版のPCIe Slot Q-Release Slimではついにロック解除においてスイッチ等の手動操作が無くなり、グラフィックボードなどPCIEカードを外す流れでラッチ方向に傾けるだけで、自動的にロックが解除されるようになりました。
SATAストレージ用の端子はマザーボード右下に4基搭載されています。SATA6G_1~4の4基はいずれもチップセットのコントローラーによる接続で、RAID0/1/5/10のハードウェアRAID構築にも対応しています。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」には高速NVMe接続規格に対応したM.2スロットが、CPUソケット下やPCIEスロットと並んで計3基設置されています。
M.2_1はCPU直結PCIE5.0x4レーンに接続されており、PCIE5.0x4接続のNVMe接続M.2 SSDに対応しています。
M.2_2とM.2_3とCPU直結PCIE5.0x16レーンを共有する形でPCIE5.0x4のNVMe接続M.2 SSDに対応しています。M.2_2とM.2_3のいずれかを使用する場合、2段目/6段目のx16サイズPCIEスロットの帯域は制限されるのでグラフィックボードの性能を重視する場合は注意が必要です。
M.2_4とM.2_5はチップセット経由PCIEレーンに接続されており、NVMe(PCIE4.0x4)接続のM.2 SSD両方にのみ対応しています。いずれも排他利用はありません。
・PCIE4.0/5.0対応NVMe M.2 SSDのレビュー記事一覧へ
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」のM.2スロットにはM.2 SSD自体の固定にはネジを使用しない、最新版のM.2 Q-LATCHという独自の構造が採用されています。
従来版ではM.2 SSDが跳ね上がらないように抑えながらクリップを90度回す必要がありましたが、最新版のM.2 Q-LATCHでは上からSSDを押さえつけるだけで自動的にSSDがロックされます。外す時もラッチが開くように外に押すだけなので非常に簡単です。
CPUソケット直下のM.2スロットについてはM.2 SSDヒートシンクもネジ止めではなく、M.2 Q-Releaseと呼ばれるスイッチ式のロックになっていて完全にツールレスでM.2 SSDを着脱、交換できます。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」には5基のM.2スロットそれぞれに大型M.2 SSDヒートシンクが設置されています。
同ヒートシンクを使用することで、グラフィックボードなど発熱から保護し、M.2 SSDがむき出しの状態よりもサーマルスロットリングを抑制する効果が期待できます。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」のM.2 SSDヒートシンクのうち、CPU直結PCIEレーンに接続されているCPUソケット直下のM.2スロットについては、厚みが20mm以上もあり、特に巨大です。
高速な反面、発熱の大きいPCIE5.0対応NVMe M.2 SSDを頻繁にアクセスするシステムストレージに使っても安心して運用できます。
一般的なマザーボード備え付けM.2 SSDヒートシンクは表面のみに金属プレートが実装されていますが、同製品のPCIE5.0x4帯域に対応する3つのM.2スロットでは両面ヒートシンク設計を採用しており、背面金属プレートも表面同様にサーマルパッドを介してM.2 SSDと接します。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」は有線接続でNVMe SSDを拡張できるPCIE4.0x4帯域のSlimSAS(SFF-8654 4iに対応)が1基実装されています。PCH経由のPCIEレーンに接続されており、接続帯域はPCIE4.0x4で排他利用はありません。
SFF-8654 4iをU.2、SFF-8643、OcuLink(SFF-8611)といったNVMe SSDの有線接続でよく使用するものに変換する必要があり、実際に使おうと思うとハードルが高めです。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」のマザーボード右中央と右下には最新接続規格USB3.2 Gen2x2に対応する内部USB Type-Cヘッダー(正式名称はFront USB Type-E)が実装されています。
内部USB Type-Cヘッダーの隣に実装されているPCIE 8PIN 補助電源に互換形状の端子はPCIEスロットやUSB PD用の補助電源です。
この補助電源が使用されている場合、内部USB Type-Cヘッダー(U20G_C6)はQuick Charge 4.0やUSB Power Delivery 3.0の規格互換で60W(20V・3A)の給電が可能となります。なお未接続の場合は最大27Wの給電が可能です。
MiniSASポートの左隣と下端右側には2基の内部USB3.0ヘッダーがあり、一方はマザーボード基板と平行に実装されています。
マザーボード下側には2基の内部USB2.0ヘッダーが設置されています。
Corsair iCUEやNZXT CAM対応製品などUSB2.0内部ヘッダーを使用する機器も増えていますが、ROG CROSSHAIR X870E HEROであればそれらの機器も問題なく使用可能です。
内部USB2.0が2基でも不足する場合はUSB2.0ヘッダー増設ハブの「NZXT INTERNAL USB HUB (Gen3)」や「Thermaltake H200 PLUS」がおすすめです。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」はハイエンドなゲーミングマザーボードということで、ALC4082やESS ES9219 QUAD DACによって、高音質オンボードサウンド機能を従来機種よりもさらに強化したSupremeFXも採用されています。
ALC4082は従来のハイレゾオーディオ(HDA)インターフェイスの代わりにUSBインターフェイスを使用し、192〜384kHzのオーディオ解像度に対応します。ヘッドホンアンプにはステレオ再生出力のSN比 120dBに達する「ESS製QUAD DAC ES9219)」が採用され、低ノイズで微妙なニュアンスを再現します。
デジタル部とアナログ部の基板分離などヘッドホン・スピーカー出力の高音質化にも注力しており、光学デジタルによるデジタル音声出力もあるので高級なヘッドホンアンプユーザーにも満足のいく構成です。最近のゲーミングマザボはサウンドボード要らずです。
冷却ファンや簡易水冷クーラーのポンプの接続用の端子はマザーボード上の各場所に計8か所設置されています。これだけあれば360サイズなどの大型ラジエーターを複数基積んだハイエンド水冷構成を組んでもマザーボードのファン端子だけで余裕で運用可能です。
W_PUMP+ファン端子は最大36W(12V、3A)の出力にも対応しているので変換ケーブルを噛ませることで本格水冷向けのD5やDDCポンプの電源としても使用できます。
マザーボード上にはDIY水冷PCユーザーに嬉しい外部温度センサーの接続端子が水路IN/OUT用を含めて3基設置されています。ASUSのファンコントロール機能は外部センサーをソースにした水温依存のファンコントロールが可能なので以前から水冷ユーザーにオススメしています。
マザーボード基板上にはOCerのみならず一般自作erにとっても組み立て中の動作確認に便利なオンボードのスタートスイッチとリセットスイッチが実装されています。POSTエラーのチェックに便利なDebug LEDも設置されています。
リアI/OにはCMOSクリアのハードウェアスイッチも設置されているのでOC設定をミスっても簡単に初期化が可能です。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」のマザーボード上でスタートスイッチと並んで実装されているリセットスイッチは「Flexkey」と名付けられており、BIOS上から、「リセット」「AURA オン/オフ」、「DirectKey(起動してBIOSメニューを表示)」「セーフブート(起動して標準設定でBIOSメニューを表示)」など押下時の機能を切り替えることができます。
AMD 800/600シリーズ マザーボードの違いについて
Ryzen 9000シリーズCPUをネイティブサポートするAMD 800シリーズのうちX870EチップセットとX870チップセットについては個人的に思うところもあるので少し補足しておきます。簡単にまとめると次の2点です。- X870EにはPCIE5.0x4対応M.2スロットが実質1基しかない
- X870の拡張性はB650E相当なので、誤解を生むネーミング
AMD公式が指定するAM5チップセットファミリーのスペックとしてX870EはUSB4.0対応が必須となっており、AMD X870Eマザーボードでは一般的に(主要4社のほぼ全ての製品で)、CPUから伸びる2つのPCIE5.0x4レーンのうち一方を使用してUSB4コントローラーを接続しています。
そのためグラフィックボード用x16レーンを分割せずに使用できる、PCIE5.0x4接続のNVMe M.2スロットはAMD X870Eマザーボードには1基しか実装できず、されていません。
もう1点、AMD 600シリーズチップセットでは末尾”E”付きは同ナンバリングにおけるグラフィックボード用x16レーンのPCIE5.0対応の有無(非E付きでもメーカー判断のオプションで対応可)でしたが、AMD X870マザーボードは実質的に”USB4.0対応が必須になったB650Eマザーボード”です。前世代のAMD 670マザーボードよりも拡張性が低くなっているので注意してください。
X870マザーボードで主に使用されているASMedia ASM4242はPCIE4.0x4帯域によるUSB4コントローラーなので、単純に帯域だけ言えばPCIE5.0x4のレーンを下げて接続する意味はありません。
一応、合理的な理由を挙げるとすれば、CPU-PCH間の帯域はPCIE4.0x4しかなく、チップセットにはUSB4コントローラー以外に色々なコンポーネントがぶら下がっているので、それらとの兼ね合いでUSB4ポートがフルスペックを発揮できない状況が発生するのを避けるためだと思います。
AMD X670Eマザーボードでも各社ハイエンドモデルではUSB4.0に対応しているものはありましたが、基本的にチップセットから伸びるPCIE4.0x4レーンを使用していたので、AMD X670EマザーボードにはPCIE5.0x4接続のNVMe M.2スロットが2基実装されていました。
上のテーブルを見ての通り、X870EとX670Eの拡張性はほぼ同じで、X670Eの中にはUSB4対応マザーボードも存在するため、正規の新品を購入できるならRyzen 9000シリーズCPU用にX670Eマザーボードなど600シリーズを検討するのもアリだと思います。
ROG CROSSHAIR X870E HEROの検証機材
ROG CROSSHAIR X870E HEROを使用して検証機材と組み合わせてベンチ機を構築しました。ROG CROSSHAIR X870E HERO以外の検証機材は次のようになっています。
テストベンチ機の構成 | |
CPU | AMD Ryzen 7 9800X3D (レビュー) AMD Ryzen 9 7950X (レビュー) |
CPUクーラー | Corsair H150i PRO RGB (レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM x3 (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill Trident Z5 Neo F5-6000J3038F16GX2-TZ5N DDR5 16GB×2=32GB (レビュー) |
CPUベンチ用 ビデオカード |
MSI GeForce GT 1030 2GH LP OC ファンレス (レビュー) |
システムストレージ |
Samsung SSD 990 PRO 1TB (レビュー) |
OS | Windows 11 Home 64bit |
電源ユニット | Corsair HX1500i 2022 (レビュー) |
ベンチ板 | STREACOM BC1 (レビュー) |
AMD 800シリーズチップセット搭載AM5マザーボードの検証機ではシステムメモリとして、Ryzen 9000シリーズでも引き続きOCメモリのスイートスポットとアピールされている、メモリ周波数6000MHz/CL30の低レイテンシなメモリOCに対応した「G.Skill Trident Z5 Neo(型番:F5-6000J3038F16GX2-TZ5N)」を使用しています。
G.Skill Trident Z5 NeoシリーズはAMD EXPOのOCプロファイルに対応した製品なので、AMD Ryzen 9000/7000シリーズCPUで高性能なPCを構築するお供としてオススメのOCメモリです。ARGB LEDイルミネーションを搭載したバリエーションモデル G.Skill Trident Z5 Neo RGBもラインナップされています。
・「G.Skill Trident Z5 Neo」をレビュー。EXPOで6000MHz/CL30のOCを試す!
360サイズや240サイズなど120mmファンを複数搭載できるマルチファンラジエーターの簡易水冷CPUクーラーを使用するのであれば、「Noctua NF-A12x25 PWM」への換装もおすすめです。
「Noctua NF-A12x25 PWM」は、超硬質かつ軽量な新素材 Sterrox LCPの採用によってフレーム-ブレード間0.5mmの限界を実現させた次世代汎用120mm口径ファンとなっており、1基あたり3500円ほどと高価ですが、標準ファンよりも静音性と冷却性能を向上させることができます。
・Noctua NF-A12x25シリーズのレビュー記事一覧へ
ベンチ機のシステムストレージには「Samsung SSD 990 PRO 1TB」を使用しています。
Samsung SSD 990 PROは、PCIE4.0対応SSDで最速クラスの性能を発揮し、なおかつ電力効率は前モデル980 PRO比で最大50%も向上しており、7GB/s超の高速アクセスでも低発熱なところも魅力な高性能SSDです。 これからPCIE4.0対応プラットフォームの自作PCを組むなら、システム/データ用ストレージとして非常にオススメな製品です。
・「Samsung SSD 990 PRO 1TB」をレビュー。性能も電力効率もトップクラス!
CPUとCPUクーラー間の熱伝導グリスには当サイト推奨で筆者も愛用しているお馴染みのクマさんグリス(Thermal Grizzly Kryonaut)を塗りました。使い切りの小容量から何度も塗りなおせる大容量までバリエーションも豊富で、性能面でも熱伝導効率が高く、塗布しやすい柔らかいグリスなのでおすすめです。
グリスを塗る量はてきとうでOKです。筆者はヘラとかも使わず中央山盛りで対角線だけ若干伸ばして塗っています。特にThermal Grizzly Kryonautは柔らかいグリスでCPUクーラー固定時の圧着で伸びるので塗り方を気にする必要もありません。
あと独特な形状をしているAM5ヒートスプレッダの隙間から零れたグリスが基板や素子に付着するのが気になる人にはElecGearから発売されているサーマルグリスガード(正確には反り防止フレームは付属品)がオススメです。
以上で検証機材のセットアップが完了となります。
ROG CROSSHAIR X870E HEROのBIOSについて
ROG CROSSHAIR X870E HEROを使用した検証機の構築も完了したので動作検証とOC耐性のチェックの前にBIOSの紹介をします。(OSから日付調整する前にスクショを取っている場合、日付がおかしいですが無視してください。また内容的に差異のないものは過去の同社製マザーボードのBIOSスクリーンショットを流用しています。)
ROG CROSSHAIR X870E HEROのBIOSにアクセスすると「アドバンスドモード(Advanced Mode)」という従来通りの文字ベースのBIOSメニューが表示されます。
「Main」タブの「System language」-「English」と表記された項目のプルダウンメニューから言語設定が可能で日本語UIを選択できます。ASUSマザーボードは競合他社と比較してもBIOSメニューの日本語ローカライズの充実と正確さが魅力です。
一般的なBIOS画面は1024x800解像度で描画されることが多く、フルHD解像度以上のPCモニタではモニタ側でスケーリングされ文字等がボケ気味になりますが、「ROG CROSSHAIR X870E HERO」のBIOSメニューはFull HD Setupの項目を有効にすることで、フルHDネイティブ描画が可能です。
ROG CROSSHAIR X870E HEROのBIOSにおいて設定の保存とBIOSからの退出はトップメニュータブ最右端の「終了」から行えます。その他の設定を行っていても左右カーソルキーですぐに退出可能です。
特定のブートデバイスを指定してBIOSから退出するBoot Override機能は「起動」タブメニューの最下段「起動デバイス選択」に配置されています。
BIOSのアップデート方法は、まず下から最新のBIOSファイルをダウンロード、解凍してUSBメモリのルートに解凍フォルダを置きます。
サポート:https://rog.asus.com/jp/motherboards/rog-crosshair/rog-crosshair-x870e-hero/helpdesk_bios/
USBメモリを挿入したままBIOSを起動し、アドバンスドモードの「ツール-ASUS EZ Flash 3 Utility」でストレージデバイスからのアップデートでBIOSファイルを選択します。あとはガイドに従ってクリックしていけばOKです。
ブートとOSインストール周りについて紹介します。とはいってもROG CROSSHAIR X870E HEROのブート回りは下画像のように非常に簡潔にまとめられており初心者でも迷うことはないと思います。
OSのインストールも「Boot Option #1」に「UEFI:〇〇」というOSインストールメディアを設定して保存&退出でOKです。
「Boot Option #1」の下にスクロールしていくとブートデバイスを個別に指定して再起動できる「Boot override」もあるのでこちらから、同様に「UEFI:〇〇」というOSインストールメディアを選択してもOKです。
BIOSのアップデートやWindows OSのインストール方法を紹介したところで、ROG CROSSHAIR X870E HEROのBIOS機能で個人的に気になったものをいくつかチェックしていきます。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」のマザーボード上でスタートスイッチと並んで実装されているスイッチは「Flexkey」と名付けられており、BIOS上から、「リセット」「AURA オン/オフ」、「DirectKey(起動してBIOSメニューを表示)」「セーフブート(起動して標準設定でBIOSメニューを表示)」など押下時の機能を切り替えることができます。
最近、各社マザーボードに搭載されているOS起動後のドライバ自動ダウンロード機能についてはASUS製マザーボードではこれまでArmoury Crateという名前で設定が配置されていましたが、「ROG CROSSHAIR X870E HERO」ではより直感的に分かる”DriverHub”という名前に変わっています。
従来のASUS製マザーボードでは「モニタ(Monitor)」のタブページを開くと、温度・電圧モニタリングやファン制御設定が一気に列挙されていたのですが、「ROG CROSSHAIR X870E HERO」を含め最新のIntel 500シリーズマザーボードでは、温度モニター、ファン回転数モニター、電圧・電流モニター、Q-Fan設定の4つの小項目に分けられ、より扱いやすくなっています。
マザーボード上のコンポーネント詳細でも紹介した外部温度センサーについてはBIOS上からも温度をモニタリングできます。簡易水冷(AIO水冷)ポンプ専用の項目も用意されており、ROG CROSSHAIR X870E HEROであれば冷却機能周りは空冷・水冷ともにほぼ全てBIOS上でコントロール可能です。
モニタ - Q-Fan設定の順にアクセスするとファン制御設定ページが表示されます。
BIOS上のファンコントロール機能についてですが、CPUファン端子とCPU OPT端子はCPU温度依存のファンコントロールしかできませんが、その他のケースファン端子については、外部温度センサーなどの各種温度ソースからファンコントロールが可能です。
ファン制御モードはPWM速度調整とDC(電圧)速度調整の2種類が用意されていますが、DC速度調整の場合は制御プロファイルを手動にすると、下限温度以下で冷却ファンを停止させる所謂セミファンレス機能を実現する「ファンの停止許可」の設定が表示されます。
ASUSマザーボードにもグラフィカルUIによるファンコントールの設定機能「Q-Fan Control」があります。
機能的には上で紹介したコンソールのファンコンと同じですが、グラフィカルUIでわかりやすく設定できるよという機能になっています。
2024年後半に発売されたAMD 800シリーズ マザーボードでは、温度・ファン速度デューティ比の一覧ボックスや、制御ソース温度も一緒に表示されるようになり、かなり使い易くアップデートされています。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」など最新のASUS製マザーボードには”BIOS Q-Dashboard”というマザーボード上に実装された各種ポートの名前と位置を確認できる機能もあります。
ファン端子の添え字の数字を見てもマザーボード上の位置が分からず、マニュアルと見比べることも多いので、マザーボード内で完結できるのは地味に嬉しいです。
ROG CROSSHAIR X870E HEROのOC設定について
ROG CROSSHAIR X870E HEROを使用した場合のオーバークロックの方法を紹介します。なおオーバークロックはメーカー保証外の行為であり製品の破損やデータの消失もすべて自己責任となります。オーバークロック検証時は最小構成(CPU、マザーボード、メモリ、システムストレージ、グラフィックボード)以外は基本的にすべて外し、可能ならOC検証用のシステムストレージを用意するなど細心の注意を払ってください。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」のオーバークロック設定は「Extreme Tweaker」というトップメニューのタブページにCPUコアクロック、メモリ、電圧など各種設定項目が集約されています。
「Extreme Tweaker」ページをスクロールしていくとCPUコアクロック、メモリ、電圧などの各種設定項目が表示されるので設定しやすいUIです。設定値を直接入力する項目でデフォルトの「Auto」に戻す場合は「a」キーを入力すればOKです。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」のオーバークロック設定項目の最初にある「Ai Overclock Tuner」ではプルダウンメニューから「Auto(自動)/Default」「Manual(手動)」「EXPO (D.O.C.P)」の3つの設定モードが選択できます。
Autoモードは基本的な設定項目に関する自動or手動設定が可能な一般ユーザー向けの設定モードとなっています。
ManualモードはBCLK等の詳細なOC設定項目が解放される上級者向けの設定モードです。
EXPO(D.O.C.P.)モードはManualモードベースですが、OCメモリに収録されたXMPプロファイルを適用できる設定モードになっています。
Ryzen CPUは、CPU温度や電力に関して安定動作可能な相関関係を記したテーブルがCPU内部に用意されており、それに則した形でPure PowerやPrecision Boost 2いったRyzen CPUの独自機能により動作クロックや電力がリアルタイム制御されています。
例えばRyzen 9 7950XではCPUクーラー冷却性能の影響で若干前後しますが、単コア負荷の場合は最大で5.7GHz以上、全コア負荷の場合はTDPの範囲内で変動しますが、PCゲームのような軽いワークロードであればコア毎に5.5GHz程度で動作し、3Dレンダリングや動画のエンコードなどCPUがフルパワーを発揮する重いワークロードでは冷却性能が十分ならベースクロックを上回る平均5.0~5.2GHz程度で動作します。
Ryzen/Threadripper CPUの動作クロックに関する予備知識については下の記事で概要を解説しているので参考にしてください。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」はゲーム性能を引き上げる機能としてTurbo Game Modeに対応しています。
Turbo Game Modeを有効にすると、マルチスレッディングが無効化され、2xCCDモデルは低クロックコアや非X3Dコアを無効化するので、一部のゲームでは性能(フレームレート)が上がります。ただ逆に性能が下がるゲームもありますし、コアスレッド数を減らすのでCinebenchのような多コア高負荷なクリエイティブタスクは大きく性能が低下します。
PBOによる低電圧化や電力制限について
Precision Boost Overdrive 2によるクロックアップや低電圧化、PPT/EDC/TDCによる電力制限の解除といった近年のRyzen CPUのチューニングにオススメな設定について紹介します。「ROG CROSSHAIR X870E HERO」では単コアブーストクロックを維持したまま、電力制限を解除することで全コア最大動作倍率を引き上げることができる「Precision Boost Overdrive」もBIOSから設定が可能で、設定ページが「Extreme Tweaker」のわかりやすい場所に配置されています。
Precision Boost Overdriveを手動設定にすると、電力制限上限値を指定する「PPT Limit (W)」、最大動作クロックの制限値に影響する「TDC Limit / EDC Limit (A)」を設定できます。
その他にも、XFR2によるコアクロックの上昇幅を設定する「Max CPU Boost Clock Override」や、Precision Boost 2やXFR2によるクロックアップが効く温度閾値を引き上げる「Platform Thermal Throttle Limit」などのオプションも調整可能です。
さらに「ROG CROSSHAIR X870E HERO」ではASUS独自設定として、単コアや全コアではなく、中間コア数負荷時の性能を向上させる「Medium Load Boostit」という設定も用意されています。
「Max CPU Boost Clock Override」はXFR2による自動OCの上昇幅の設定です。
PBOでシングルスレッド性能や、軽負荷で全コアが稼働するゲーム性能を向上させたい時に後述のCurve OptimizerやCurve Shaperと組み合わせます。
例えばRyzen 7 9800X3Dの単コア最大ブーストクロックの公称仕様値は5.20GHzですが、定格でもXFR2による50MHzのクロックアップが適用されており、Precision Boost Fmaxは5.25GHzです。(Ryzen MasterでMax CPU Speedとして確認できる)
Max CPU Boost Clock Overrideを有効にすると、さらに設定値分だけPrecision Boost Fmaxが上昇します。つまり200MHzに設定するとRyzen 7 9800X3DのPrecision Boost Fmaxは5.45GHzとなります。
電力制限や温度制限が支配的になるので、多スレッド負荷時は効果を実感しにくいのですが、多スレッドも含めて一律で上限が引き上げられるはずです。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」など最新のAMD AM5マザーボードでは、Per-Core Boost Clock LimitというCPUコア別に最大ブーストクロックを指定する機能もあります。
Ryzen 9000/7000シリーズCPUは上記の電力制限解除に加えて、V-Fカーブ調整機能 Curve Optimizerによる低電圧化が可能です。
Curve Optimizerでは全コア一律orコア別で電圧オフセット設定ができます。
設定単位はmvではなくcountという独自単位(1count = 30~50mV程度とのこと)になっています。Positive(+)とNegative(-)で増減を、countは0~30の範囲内で指定できます。
全コア個別設定もできるので単コアブースト優先率や電圧特性に応じてオフセット値を変えることによって、上で紹介したMax CPU Boost Clock Overrideとの相乗効果で、マルチスレッド性能だけでなくシングルスレッド性能も向上させることが可能です。
またCinebench マルチスレッドのような全コアへ高負荷がかかるワークロードが発生した時にだけCurve Optimizerのcountを変更する「CO Load Guard」も利用できます。
AMD Ryzen 9000シリーズCPUと同時に、Curve Optimizerをさらに発展させた新機能「Curve Shaper」も導入されています。
Curve Optimizerはコアクロック帯やCPU温度帯に依らず一律で同じ補正を適用するので、単純なオフセットモード電圧制御に近い降圧・昇圧になりますが、新たなCurve Shaperでは『5種類のコアクロック帯(ワークロード)×3種類の温度帯』で計15種類に分けて”magnitude(countとほぼ同じ整数値)”という補正値を設定できます。
ちなみにCurve OptimizerとCurve Shaperは同時に設定でき、効果は重ね掛けされます。複雑になるのでどちらか片方だけで設定するのが推奨ですが。
Curve ShaperではMin Frequency、Low Frequency、Med Frequency、High Frequency、Max Frequencyの5種類のコアクロック帯を選択できます。使用するCPUモデルによって具体的な周波数レンジは異なりますが、Med Frequencyなら4200MHz~5000MHzのように一定のコアクロック範囲に対してmagnitudeによる降圧・昇圧が適用されます。
簡単にワークロードとして言い換えると次のようになります。
- Min Frequency: アイドル状態
- Low Frequency: バックグラウンドタスク
- Med Frequency: Cinebenchのような全コア稼働の高負荷
- High Frequency: ゲームのような全コア稼働の低~中負荷
- Max Frequency: 1~2スレッドのような少スレッドタスク
- Low temperature: 50度以下
- Medium temperature: 50~90度
- High temperature: 90度以上
ちなみにPrecision Boost Overdriveでクロックアップを行う場合、AMD CBS内の「Global C-State」は無効化しないでください。
特定の動作倍率で固定するマニュアルOCの場合はGlobal C-Stateを無効化した方が良いと言われますが、PBOの時は無効化すると単コア最大ブーストクロックが伸びず、シングルスレッド性能が下がってしまいます。
Ryzen 9 9950XなどRyzen 9000シリーズの上位モデルはPPT等の電力制限値も適用されているものの、実際の動作としてはCPUの臨界温度95度を上限として可能な限りCPUコアクロックを引き上げるような定格動作設定になっています。
高負荷時にCPU温度が95度に達するのが気になる人は、「Platform Thermal Throttle Limit」で定格95度の臨界温度を温度の整数値指定で変更できます。もしくはAMD CBS - SMU Common Option内の「Thermal Control」から。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」の場合は、Precision Boost Overdriveの設定内にある「Thermal Limit」から希望する上限温度によってより簡単に設定が可能です。
単純に電力制限だけを変更したいということであれば、Precision Boost Overdriveの「AMD ECO Mode」から代表的な電力制限を選択できます。もしくはAMD CBS - SMU Common Option内の「Package Power Limit(PPT)」から。
Ryzen 9 9900XやRyzen 9 9950Xのような定格TDP170WのメニーコアCPUを95Wなど低い消費電力に制限して運用することができます。
CPUコアクロックのマニュアルOCについて
近年のCPUでは高い単コア最大ブーストクロックを維持できるV-Fカーブの低電圧化が常用チューニングでは主流ですが、ここからはベンチマークスコアを追求するOC競技等に最適なCPUコアクロックを定格動作倍率よりも高く設定するマニュアルOCについて説明します。「ROG CROSSHAIR X870E HERO」のコアクロックのOC設定方法はベースクロック(BCLK):100MHzに対する倍率指定となっており、0.25倍単位でCPUコアクロックの倍率を設定できます。
「CPUクロック倍率(CPU Core Ratio): 40.00」と設定することでデフォルトのベースクロック100MHzの40倍で4.0GHzで動作します。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」でRyzen 9 9900XやRyzen 9 9950Xを使用している場合、全コア共通の動作倍率設定だけでなく、CCX単位(9900Xの場合は6コア1セット、9950Xの場合は8コア1セット)で個別に動作倍率を設定するPer CCXにも対応しています。
設定は少し面倒になりますが、CCX別にOC耐性には違いがあるので、共通のコア電圧に対して、OC耐性の良いCCXでは44倍に、OC耐性の悪いCCXは42倍に、のように細かく設定できます。Intel製CPUのBy Specific Core設定のようにコア電圧もCCX単位で調整できるとさらにOC設定の幅が広がるのですが、電圧については今のところ非対応です。
「Ai Overclock Tuner」から「Manual」モードもしくは「EXPO (D.O.C.P)」モードを選択するとベースクロック(BCLK)の設定項目が表示されます。
デフォルトのAutoでは100MHzに固定されていますが、設定値を直打ちすることで任意に設定が可能です。CPUコアクロックはBCLKに対する動作倍率で設定されるのでBCLK110MHz、動作倍率45倍の場合はコアクロック4.95GHz動作となります。ただしBCLKを使用したOCはかなり上級者向けなので通常はAutoか100MHzが推奨です。
BCLKの変更と合わせて「eCLK Mode」の変更に対応しているマザーボードの場合、同期モード(Synchronous)と非同期モード(Asynchronous)を選べます。
非同期モード(Asynchronous)ではPCIEコントローラー等、通常はBCLKに同期してしまうものが非同期になるので、CPUベースクロックだけを引き上げることでき、BCLKによるOC範囲が広がります。
続いてコア電圧の調整を行います。
AMD Ryzen CPUのオーバークロックで変更する電圧設定については、CPUコアクロックに影響する「CPUコア電圧」と、メモリクロックやRyzen APUに搭載される統合GPUの動作周波数に影響する「SOC電圧」の2種類のみと非常に簡単化されています。
CPUコアクロックの動作倍率を一律で指定するマニュアルOCを行う場合、ROG CROSSHAIR X870E HEROではCPUコア電圧(CPU Core Voltage / APU 電圧)の項目を変更します。
CPUコア電圧ではマニュアルの設定値を固定する「マニュアル」モード、CPUに設定された比例値にオフセットかける「オフセット」モードの2種類が使用できます。
ROG CROSSHAIR X870E HEROでCPUコアクロックのマニュアルOCを行うのであれば、分かりやすいので電圧値を固定するマニュアルモードを推奨します。マニュアルモードの場合は0.005V刻みでコア電圧の設定が可能です。
CPUコア電圧モードについて簡単に説明すると、マザーボードにより対応しているモードは異なりますが、コア電圧モードの概略図は次のようになっています。
負荷に依らず一定電圧をかけ続ける固定モードに対して、オフセットモードやアダプティブモードはCPU毎に異なるV-Fカーブを参照し、負荷に比例して電圧が変化します。
低負荷時は電圧が下がるので省電力に優れますが、マニュアルOCをする場合はマザーボードによって挙動に差があり安定する設定を見極めるのが難しいので、個人的にはオフセットやアダプティブは定格向け、OCには固定値適用の固定モードを推奨しています。
OCでオフセットやアダプティブを使う場合も最初はコアクロックに対して安定する電圧を見極める必要があるので、まずは固定モードを使用します。
またCPUのOCに関連する追加の電力設定としてROG CROSSHAIR X870E HEROでは、コアクロックと電圧の設定項目の中間あたりに「Digi+ VRM」が配置されています。
後述のロードラインキャリブレーション以外にもCPUのオーバークロック時にマザーボードVRMからの電力供給を安定させる設定項目が用意されています。
Digi+ VRMの中にはコアクロックを高く設定する時に追加で変更するといい項目として「ロードラインキャリブレーション」があります。
ロードラインキャリブレーションはCPU負荷時の電圧降下を補正してOCを安定させる機能となっており、補正の強度としてLevel 〇で何段階か用意されています。Levelの添え字の数字が大きくなるほど電圧降下の補正は強くなり、OCは安定しやすくなりますが発熱も大きくなります。真ん中あたりから始めて安定する設定値を模索していくのがおすすめです。
メモリのオーバークロックについて
メモリのオーバークロックについても簡単に紹介しておきます。メモリの性能について簡単に言うと「動作クロックが高く」「タイミングが小さい」ほど性能は高くなります。
そのためメモリOCを手動で行う手順を簡単にすると「電圧を上げて動作可能なクロックを探し」、「そのクロックにおいて正常に動作する最小のタイミングを探る」という2つの手順を繰り返すことになります。
なお、 メモリOCではPOSTすらクリアできずBIOSに到達できないことも少なくありません。メモリ設定を初期化できるようにCMOSクリアの手順を事前に確認しておいてください。
Intel XMPやAMD EXPOのOCプロファイルによるメモリOCは上の手順によるOC選別をメーカー側がすでに行い動作確認をしているので、メーカーが動作確認を行ったOCプロファイルを適用するだけで簡単にメモリをオーバークロックできます。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」はAMD環境に最適化されたEXPO対応メモリだけでなく、Intel XMP対応メモリのどちらでもOCプロファイルによるメモリOCが可能です。
メモリOCで有名なXMPプロファイルはIntelの策定した規格なのでAMD製CPU&マザーボード環境では厳密にいうと非対応ですが、ROG CROSSHAIR X870E HEROなどASUSマザーボードでは、メモリに収録されたXMPプロファイルからRyzen環境でも使用可能なメモリOCプロファイルを自動生成する機能 D.O.C.Pがあります。
「Ai Overclock Tuner」から「EXPO (D.O.C.P)」モードを選択することで、自動生成されたOCプロファイルによるメモリOC設定の適用が可能です。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」などASUS製AMD 600マザーボードではメモリOCプロファイルの適用に”EXPO (D.O.C.P) 1”と”EXPO (D.O.C.P) 2”の2つのモードがあります。
EXPO 1では30-38-38-90のような主要タイミングのみが適用され(その他は全てマザーボードによる自動設定を適用)、EXPO 2ではその他のサブタイミングもOCプロファイルの通りに適用されます。
AMD製CPUとAMD EXPO対応メモリ、Intel製CPUとIntel XMP対応メモリのような組み合わせであればサブタイミングまで適用される”EXPO/XMP 2”で問題ありませんが、異なる組み合わせの場合は”D.O.C.P 1”が安定しやすいようです。
メモリ周波数は「DRAM周波数(DRAM Frequency)」という項目のプルダウンメニューから動作クロック(倍率)を任意に設定可能です。メモリ周波数もBCLKに対する倍率で動作周波数が決まります。
EXPO/XMPを使用せず、「DRAM Frequency」の設定値が自動(Auto)になっている場合は、使用するメモリにSPD情報として収録されている動作クロック4800MHz、5200MHzなどのメモリ周波数およびタイミングによる定格動作となります。
メモリタイミングの個別打ち込み設定も可能です。
メモリタイミングを手動で設定する場合、基本的にはOCメモリ製品のスペックとして公表されることの多い、「CAS Latency (tCL)」、「RAS to CAS (tRCD)」、「RAS Precharge (tRP)」、「RAS Active Time (tRAS)」、「Active to Active Command Time (tRC)」の主要な5タイミングと、加えて「Command Rate:1 or 2」の6つ以外はAutoのままでいいと思います。
あとOCプロファイル適用後、メモリストレステストが数分から10分弱でエラーが出てしまう時は、「Write Recovery Time (tWR)」を2~6程度盛ると安定するかもしれません。
DDR5メモリの周波数OCを行う際はメモリ電圧を、メモリ周波数6000MHz以上の場合は1.300V~1.350V程度に上げる必要があります。
厳密に言うと、Ryzen 9000/7000シリーズCPU環境におけるメモリ電圧はDRAM VDD Voltage、DRAM VDDQ Voltage、CPU VDDIO/MC Voltageの3種類に分けられるのですが、簡略化して同じ設定値でOKです。
メモリ周波数をOCするとメモリコントローラーやInfinity Fabricの動作周波数も変化するので、DRAM電圧だけでなく「CPU SOC電圧(CPU NB/SOC Voltage)」も昇圧します。
メモリ周波数が6000MHz程度(UCLK 3000MHzとFCLK 2000MHz)であれば、CPU SOC電圧の目安は1.100V程度です。Auto設定だと1.300~1.350Vくらいに昇圧されることがあるので注意。
あとVDDG CCD/IOD Voltageは自動設定のままで試してみて安定しないようであれば、1.000~1.200Vの範囲内を0.050V刻みで試してみてください。
Ryzen 9000/7000シリーズCPUではメモリコントローラー周波数(UCLK)とメモリ周波数の同期として1:1対応と1:2対応の2つの動作モードがあります。CPU個体差(メモコンのOC耐性)にも依りますが、メモリ周波数6000MHzまでなら1:1同期で問題ないはずです。
BIOS:0606ではUCLKの同期設定である「UCLK DIV1 MODE」がExtreme Tweakerのトップページにはなく、メモリタイミング設定の一番下の方に配置されています。よく使う設定なのでトップに表示して欲しいところ。
Ryzen 5000シリーズCPU以前では性能を重視するなら、メモリ周波数とメモコン周波数、そしてInfinity Fabric周波数の3つを1:1:1で同期させるのが最も遅延が小さくので推奨されていました。(もしくは遅延が増えるのを許容して高メモリ周波数重視で、UCLKを1:2同期に下げ、FCLKは非同期モードに)
より高速なDDR5メモリに対応するRyzen 9000/7000シリーズCPUではInfinity Fabric周波数(FCLK)をメモリ周波数と1:1同期させるのは難しいので、FCLKはAuto設定の非同期モードとし、メモリ周波数6000MHzでUCLKを1:1同期にするのが性能のスイートスポットとして推奨されています。
Ryzen 9000/7000シリーズCPUのInfinity Fabric周波数(FCLK)はメモリ周波数とは無関係に設定することになります。
CPU個体差(IF周波数のOC耐性)にも依りますが、一般的に2000MHz程度なら安定動作するようです。メモリ周波数6000MHzでメモリOCを行った時にAuto設定になっていると2000MHzが適用されます。
CPUのIF周波数OC耐性に応じて2200MHzなどにOCすること性能向上を狙えます。上で紹介した通り、FCLK周波数に関連する電圧はCPU SOC電圧です。
ROG CROSSHAIR X870E HEROの動作検証・OC耐性
BIOS周りの気になるところやOC設定の基本についての紹介はこのあたりにして「ROG CROSSHAIR X870E HERO」を使用した検証機で具体的に動作検証とOC耐性をチェックしていきます。「ROG CROSSHAIR X870E HERO」を使用した場合のCPUおよびメモリのオーバークロック耐性をチェックしてみました。
なおオーバークロックはメーカー保証外の行為であり製品の破損やデータの消失もすべて自己責任となります。オーバークロック検証時は最小構成(CPU、マザーボード、メモリ、システムストレージ、グラフィックボード)以外は基本的にすべて外し、可能ならOC検証用のシステムストレージを用意するなど細心の注意を払ってください。
近年のRyzen CPUは非常に高い単コアブーストクロックが適用されていますが、Precision Boost Overdrive 2を使用すれば、シングルスレッド性能を損なうことなく、マルチスレッド性能を向上させられます。
PBOによって定格の電力制限を解除することで、CPUクーラーの冷却性能が許す限り(CPU温度が閾値を超えない限り)、Precision Boost2/XFR2で参照されるテーブルの限界近くまでクロックアップさせることが可能です。
Ryzen 9000シリーズCPUでも従来のRyzen CPU同様に、PBOで電力制限を解除、360サイズAIO水冷CPUクーラーのような高性能なCPUクーラーの冷却性能にまかせて自動OC機能によるクロックアップを狙うというのがベースになりますが、Ryzen 9 9950Xなど上位モデルで性能を追求するには、CPUの冷却的に限られた消費電力の中でコアクロックを上昇させる必要があるのでV-Fカーブの低電圧化が必要です。
V-Fカーブの低電圧化に役立つ機能として、AMD Ryzen 9000シリーズCPUと同時に、Curve Optimizerを発展させた新機能「Curve Shaper」も導入されています。
Curve Optimizerはコアクロック帯やCPU温度帯に依らず一律で同じ補正を適用するので、単純なオフセットモード電圧制御に近い低電圧化になりますが、新たなCurve Shaperでは『5種類のコアクロック帯(ワークロード)×3種類の温度帯』で計15種類に分けて”magnitude(countとほぼ同じ整数値)”という補正値を設定できます。
Curve ShaperではMin Frequency、Low Frequency、Med Frequency、High Frequency、Max Frequencyの5種類のコアクロック帯を選択できます。使用するCPUモデルによって具体的な周波数レンジは異なりますが、Med Frequencyなら4200MHz~5000MHzのように一定のコアクロック範囲に対してmagnitudeによる降圧・昇圧が適用されます。
簡単にワークロードとして言い換えると次のようになります。
- Min Frequency: アイドル状態
- Low Frequency: バックグラウンドタスク
- Med Frequency: Cinebenchのような全コア稼働の高負荷
- High Frequency: ゲームのような全コア稼働の低~中負荷
- Max Frequency: 1~2スレッドのような少スレッドタスク
- Low temperature: 50度以下
- Medium temperature: 50~90度
- High temperature: 90度以上
まずは「ROG CROSSHAIR X870E HERO」に16コア32スレッドCPUのRyzen 9 7950Xを組み合わせて長時間負荷をかけ続けた時に、VRM電源周辺温度はどれくらいなのか、サーモグラフィーカメラ搭載スマートフォン CAT S62 PROを使用してチェックします。
VRM電源の安定性やマザーボード備え付けクーラーの冷却性能に関するテスト機材のCPUには1世代前のRyzen 9 7950Xを使用しています。
多くのレビューで解説されているように定格ではRyzen 9 9950XよりもRyzen 9 7950Xの方がCPU消費電力は高いので、VRM電源に対する負荷もRyzen 9 7950Xの方が大きいです。Ryzen 9 7950Xが安定して運用できるマザーボードなら、Ryzen 9000シリーズCPUにも余裕で対応できます。
CPUを定格で運用もしくはOC設定を適用した際のCPU温度やVRM電源温度を検証するストレステストについては、下記の動画エンコードを使用しています。
4K動画ファイル(4K解像度、60FPS、5.7GB)をソースとしてHandBrake(x264)を使ってエンコードを行います。Ryzen 9 7950Xは16コア32スレッドのCPUなので、同じ動画のエンコードを4つ並列して実行し、30分程度負荷をかけ続けます。ストレステスト中のファン回転数は一定値に固定しています。
注:CPUのストレステストについてはOCCTなど専用負荷ソフトを使用する検証が多いですが、当サイトではPCゲームや動画のエンコードなど一般的なユースで安定動作すればOKとういう観点から筆者の経験的に上の検証方法をストレステストとして採用しています。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」の標準設定のままRyzen 9 7950Xを動作させています。
メモリOC設定については検証機材メモリ「G.Skill Trident Z5 Neo F5-6000J3038F16GX2-TZ5N」に収録されたOCプロファイルを適用し、メモリ周波数6000MHz、メモリタイミング30-38-38-96、メモリ電圧1.350Vです。
OCプロファイルを適用しただけの自動設定ですが、メモリコントローラー周波数UCLKは1:1同期、Infinity Fabric周波数FCLKは2100MHzです。
上記の動作設定においてストレステスト中のCPU温度やCPU使用率のログは次のようになりました。CPUクーラーにはCorsair H150i PRO RGBを使用し、冷却ファンNoctua NF-A12x25 PWのファン回転数は1500RPMで固定しています。
Ryzen 9 7950XはCPUにフル負荷がかかるシーンだと閾値温度95度もしくはPPT:230Wを上限として動作しますが、360サイズAIO水冷CPUクーラーを組み合わせても基本的にCPU温度がボトルネックとなります。
ともあれ、「ROG CROSSHAIR X870E HERO」のVRM電源温度などマザーボード原因でスロットリングが発生することはなく、Ryzen 9 7950Xを全コア5.0~5.1GHz程度の実動値で安定して動作させることができました。
この時にEPS電源経由の消費電力は230~240Wに達します。
少し補足すると、Ryzen 9000はダイ設計に加えてCPUヒートスプレッダの素材や設計も改良することで熱抵抗を15%改善し、AMD公式によると同TDPにおいてCPU温度を7度下げています。
Ryzen 7000シリーズでは市販のCPUクーラーを使用する限り、温度制御によって上記を超えるようなCPU消費電力が発生することはありませんが、より低温になっているRyzen 9 9950Xでは低電圧化・クロックアップと共に電力制限を解除するとRyzen 9 7950Xの定格よりもさらに大きい消費電力が発生することがあります。ただ、上記の数値に加えて、せいぜい+20~30W程度です。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」の標準設定(そのまま定格)でRyzen 9 7950Xに負荷をかけるとCPU消費電力は200W超に達しますが、VRM電源周りの温度をサーモグラフィーで確認したところ、70度以下に収まりました。
Ryzen 9 7950Xにフル負荷をかけ続けてVRM電源温度がこの程度に収まっているので、「ROG CROSSHAIR X870E HERO」なら、Ryzen 9000シリーズCPU各種で低電圧化・クロックアップを伴う電力制限解除を行っても、AIO水冷クーラーとの組み合わせでVRM電源周りがパッシブ空冷で全く問題ありません。
最後に「ROG CROSSHAIR X870E HERO」のメモリOC性能についてもチェックしておきます。
VRM電源の検証では定格に置いてRyzen 9 9950Xよりも負荷(消費電力)が大きくなるRyzen 9 7950Xを使用しましたが、メモリOCの検証については最新のRyzen 9000シリーズで高性能なゲーミングPCを組む時に本命視されることの多いRyzen 7 9800X3Dを使用しています。
ROG CROSSHAIR X870E HERO(BIOS:00606)のメモリOC検証では検証機材として、AMD EXPOのOCプロファイルに対応する16GB×2枚組み32GB容量のDDR5メモリキット「G.Skill Trident Z5 Neo(型番:F5-6000J3038F16GX2-TZ5N)」を使用しています。
AMD Ryzen 7000シリーズCPUの時に発売されたモデルですが、メモリ周波数 6000MHz、メモリタイミング CL30というAMD Ryzen 9000シリーズCPUでも引き続き、高性能を追求する上でスイートスポットとされるスペックです。
同メモリに収録されたOCプロファイルによって、メモリ周波数6000MHz、メモリタイミング30-38-38-96というRyzen 9000シリーズでも引き続き、高性能を求める上でスイートスポットなOC設定が安定動作しました。
OCプロファイルを適用しただけの自動設定ですが、メモリコントローラー周波数UCLKは1:1同期、Infinity Fabric周波数FCLKは2100MHzです。
ROG CROSSHAIR X870E HEROのレビューまとめ
最後に「ROG CROSSHAIR X870E HERO」を検証してみた結果のまとめを行います。簡単に箇条書きで以下、レビュー後の所感となります。良いところ
- ROG CROSSHAIRシリーズらしいブラック一色のクールなデザイン
- 110A対応SPSで構成された超堅牢な20フェーズVRM電源
- 200W超の負荷に対してパッシブ空冷のままVRM電源温度は70度以下
- 16GB×2枚組みでメモリ周波数6000MHz/CL30が安定動作
- 外部センサー搭載で水温ソースのファンコンも可能なので水冷PCにも最適
- 重量級グラボにも耐えるメタルアーマー採用PCIEスロット SAFESLOT
- PCIEスロットのロックが自動解除される新機能「PCIe Slot Q-Release Slim」
- NVMe接続M.2スロットをマザーボード上に5基設置、うち3基はPCIE5.0対応 (*注1)
- 全てのM.2スロットに大型SSDヒートシンクを装備
- USB4対応Type-C端子×2をリアI/Oに標準搭載(iGPU経由でビデオ出力も可能)
- Intel製2.5Gb有線LANとRealtek製5.0Gb有線LANを標準搭載
- Wi-Fi 7&Bluetooth5.4対応無線LAN(MediaTek MT7927)を標準搭載
- スタート・リセットスイッチなど動作検証に便利なオンボードスイッチ
- NICのうち無線LANはWindows 11 24H2の標準ドライバに非対応
- PCIE5.0x4対応M.2スロットのうち2基はGPU用のx16レーンと帯域共有 (*注1)
- x16レーンの分割でないPCIE5.0x4対応M.2スロットが1基のみ(X870Eマザーボード一般に)
- 製品価格が12万円ほどと高価
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」は、最大16コアのRyzen 9にも対応できる110A対応SPSで構成された20フェーズVRM電源回路を搭載することに始まり、リアIOに覆い被さる超巨大VRM電源クーラー、PCIE5.0対応を含む5基のNVMe SSD用M.2スロット、2基のUSB4対応USB Type-Cポート、高速な5.0GbイーサやWi-Fi 7対応無線LANなど次世代高速NIC、ALC4082&ESS製DACによるハイレゾ対応オンボードサウンドなど、ゲーマーからOCerまで満足すること間違いなしなハイエンドモデルに仕上がっています。
X870Eマザーボード一般の話としてCPU直結PCIE5.0x4帯域の使い方(USB4関連)には個人的にモヤッとする部分があるものの、それが気にならないなら、「ROG CROSSHAIR X870E HERO」はATXサイズでX870Eマザーボードとしてできることを限界まで詰め込んだ隙の無い構成です。
ASUS製マザーボードではお馴染みですがBIOSやマニュアルの日本語ローカライズ品質は主要4社の中でも随一となっており、BIOSのテキストベースUIの使い勝手も良好です。
ROGシリーズと言うとゲーマー&OCerに特化した高価で上級者向け製品のイメージが強いかもしれませんが、実は製品価格を除けば、「ROG CROSSHAIR X870E HERO」はハードウェア設計やソフトの使い勝手において初心者にも優しいマザーボードです。
マザーボードのOC耐性を評価する上で重要なファクターになるVRM電源について、「ROG CROSSHAIR X870E HERO」は非常に優秀な性能を発揮しました。
「ROG CROSSHAIR X870E HERO」であれば市販のAIO水冷クーラーやDIY水冷など環境を選ばず、VRM電源周りは標準装備のまま、Ryzen 9 9950Xも低電圧化・クロックアップ・電力制限解除で運用できます。
Ryzen 9 9950Xはアウトボックス時点で性能を限界近くまで追求したチューニングが施されており、標準でEPS電源経由のCPU消費電力が200Wを超えますが、その強烈なVRM電源負荷に対しても、110A対応SPSなどで構成される20(18+2)フェーズの超堅牢なVRM電源回路が適切に熱を分散します。
リアIOに覆い被さる超大型VRM電源ヒートシンク、CPUソケット上左のアルミニウム塊型ヒートシンクを連結するヒートパイプなどVRM電源クーラーの設計にこそ工夫が見られますが、あくまでパッシブ型という構造のまま、スポットクーラーの増設を必要とせずに、200W超の負荷に対してVRM電源温度を70度以下に収めることができました。
メモリOCについては、検証機材に使用しているG.Skill Trident Z5 Neo(型番:F5-6000J3038F16GX2-TZ5N)のOCプロファイルによって、Ryzen 9000環境でも引き続き性能重視な定番設定と言えるメモリ周波数6000MHz/メモリタイミングCL30が安定動作しました。
メモリ周波数6000MHzでCLが30台前半というスペックは前世代Ryzen 7000でも性能重視な定番設定だったこともあり、同スペックでAMD EXPOのOCプロファイルに対応したOCメモリも入手性が高いので、現状、メモリOC回りで不足を感じることはないはずです。
以上、「ASUS ROG CROSSHAIR X870E HERO」のレビューでした。
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110A対応SPSで構成される20フェーズの超堅牢VRM電源やUSB4対応Type-Cポートを搭載するハイエンドモデル「ROG CROSSHAIR X870E HERO」をレビュー。
— 自作とゲームと趣味の日々 (@jisakuhibi) November 24, 2024
PCIe Slot Q-Release Slimなど神機能を多数搭載、200W超CPU負荷や6000MHz低遅延メモリで徹底検証。https://t.co/4vw4QhAPpL pic.twitter.com/TrblJvrB51
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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
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