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NVMe M.2 SSDを4枚使用したRAID構築ではシーケンシャルリードで14GB/sも実現可能なRyzen ThreadripperがネイティブサポートするNVMe RAIDを使用したRAIDストレージについて、最大で8枚のNVMe M.2 SSDを使用してベンチマークや実用テストにおいてどの程度の性能が発揮できるのかレビューしていきます。
「ASUS HYPER M.2 X16 CARD」のレビューに当たって日本サムスン社より検証機材として最新NVMe M.2 SSDの「Samsung 960 PRO 512GB」を7枚と「Samsung 960 EVO 250GB」を4枚お借りしました。
製品公式ページ:http://www.samsung.com/semiconductor/minisite/jp/
Ryzen Threadripper NVMe RAID レビュー目次
1.Ryzen Threadripper NVMe RAIDについて
2.Ryzen Threadripper NVMe RAIDの検証機材
3.Ryzen Threadripper NVMe RAIDの基本的な使い方
4.Windowsアプリ版「RAIDXpart2」の使い方
5.Ryzen Threadripper環境のRAIDモードについて
6.Ryzen Threadripper NVMe RAIDによる性能のスケーリングについて
7.Ryzen Threadripper NVMe RAIDとTLC SSDのキャッシュ容量について
8.Ryzen Threadripper NVMe RAIDによるRAIDストレージの実性能比較
9.Ryzen Threadripper NVMe RAIDのレビューまとめ
Ryzen Threadripper NVMe RAIDについて
AMD Ryzen Threadripper環境でサポートされるNVMe RAIDについて簡単に紹介しておきます。17年10月からRAIDドライバ&RAIDアレイマネージャの公式無料配布が開始されたAMD Ryzen Threadripper NVMe RAIDは全ての機能が無料でサポートされています。
AMDはSSDをリリースしていないので必然的にサードパーティ製になりますが、Samsung 960 PROなどサードパーティ製のSSDによるRAID構築をサポート、RAID 0だけでなくRAID 1とRAID 10も使用可能、NVMe RAIDのブータブルデバイス化も対応などNVMe SSDによるRAID機能として要求されるものを全て網羅しています。当然、「ASUS HYPER M.2 X16 CARD」や「MSI M.2 XPENDER-Z」を使用した複数ボリューム利用も問題ありません。DMI3.0に制限されないCPU直結PCI-Eレーン数もSkylake-X&X299プラットフォームが最大44レーンに対して、Ryzen Threadripper&X399プラットフォームでは64レーンが用意されており、NVMeストレージの拡張性に関してはRyzen Threadripper&X399の方が遥かに自由度が高くなっています。
一方、Intel X299プラットフォームでサポートされる「Intel VROC(Virtual RAID on CPU)」と呼ばれる仮想RAID機能はAMD Ryzen Threadripper NVMe RAIDと比べてかなり制限が多い機能になっています。複数ストレージを単一ストレージとして使用してリード・ライト速度を向上させるRAID 0についてはX299マザーボードで標準サポートとなっておりそのまま使用可能ですが、冗長性を確保するためのRAID 1を利用するためには「Standard Key」、RAID 1やRAID 5を利用するためには「Premium Key」という物理キーを購入してマザーボード上の端子に装着する必要があります。
加えて標準サポートでIntel VROC可能なNVMe SSDはIntel 600pやIntel 6000pなどIntel純正品に限定されており、Samsung 960 PROなどサードパーティ製のNVMe SSDでVROCを使ったRAIDを構築するには最安でも1.2万円程の「Intel VROC Upgrade Key VROCSTANMOD Standard」を追加で購入する必要があります。
Ryzen Threadripper NVMe RAIDの検証機材
Ryzen Threadripper NVMe RAIDの検証機材として、Ryzen Threadripper 1950XとASUS ROG ZENITH EXTREMEなどで構成される検証機を使用しました。検証用ストレージには冒頭でも紹介したように日本サムスン社より検証機材としてお借りした最新NVMe M.2 SSDの「Samsung 960 PRO 512GB」と「Samsung 960 EVO 250GB」を使用しています。詳細は下のテーブルのようになっています。テストベンチ機の構成 | |
CPU | AMD Ryzen Threadripper 1950X 16コア32スレッド 定格全コア同時3.7GHz (レビュー) |
CPUクーラー | ENERMAX LIQTECH TR4 ELC-LTTR360-TBP (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill FLARE X F4-3200C14D-16GFX ×2セット DDR4 8GB*4=32GB (レビュー) OC設定:3200MHz, 14-14-14-34-CR1 |
マザーボード |
ASUS ROG ZENITH EXTREME (レビュー) |
ビデオカード | 【基礎性能検証用】 MSI GeForce GT 1030 2GH LP OC (レビュー) 【PCゲームロード時間検証用】 EVGA GTX 1080 Ti SC2 iCX (レビュー) |
システムストレージ |
Samsung 850 PRO 256GB (レビュー) |
検証用ストレージ1 |
Samsung 960 PRO 512GB *8 (レビュー) |
検証用ストレージ2 |
Samsung 960 EVO 250GB *4 (レビュー) |
OS | Windows10 Home 64bit |
電源ユニット | Corsair HX1200i (レビュー) |
NVMe M.2 SSDを複数枚搭載可能なPCI-E拡張ボードとして「ASUS HYPER M.2 X16 CARD」を使用しています。ASUS HYPER M.2 X16 CARDの基本的な仕様や使い方については予備知識ということで、わからない人はこちらの記事を先に参照してください。
・「ASUS HYPER M.2 X16 CARD」をレビュー
Ryzen Threadripper NVMe RAIDの基本的な使い方
AMD Ryzen Threadripper環境におけるNVMe RAIDの基本的な使い方について紹介します。NVMe RAIDを使用するにはストレージモードをAHCIモードからRAIDモードへ変更する必要があります。AHCIモードで作成したブートデバイスはRAIDモードでは使用できません。NVMe RAIDをデータストレージとして使用する場合でも、AHCIモードでRyzen Threadripper環境を使用しているユーザーはRAIDモードで作成したシングルボリュームアレイかRAIDアレイにOSをインストールし直す必要があります。
Ryzen Threadripper環境でRAIDアレイを構築するにはBIOS内に設置されたRAIDアレイ構築ツールである「RAIDXpert2」を使用します。「RAIDXpert2」をBIOSメニューに表示しNVMe RAIDを構築するためには以下の3つの設定を行ってください。
1.SATA Modeを「RAID」に変更する
2.CSMを無効化する
3.NVMe RAIDを有効化する
注意点として当然ですがCMOSクリアを行うと下記の設定は初期化されてしまいます。OC設定の変更などでCMOSクリアする場合は忘れずに下記の設定を再度行ってください。設定し忘れるとブートデバイスが見つからずOSが起動しません。
RAIDモードで使用するブータブルディスクの作成方法(Windows OSのインストール方法)について詳しくは下の記事でまとめているのでこちらを参照してください。記事中ではRAID0ストレージにインストールする例を紹介していますが、アレイ構築でシングルボリュームを選べば、SATA SSDのシングルボリュームへのOSインストールも同様の手順で行えます。
・Threadripper環境でNVMe RAIDにOSをインストールする方法
Ryzen Threadripper環境をRAIDモードで使用する方法(OSインストールなど)については上の記事に任せる形で割愛するとして、複数のNVMe M.2 SSDを使用したRAIDストレージの構築について紹介します。
まず何はともあれ複数枚のNVMe M.2 SSDをASUS HYPER M.2 X16 CARDに装着します。下写真では「Samsung 960 PRO 512GB」を全4スロットに装着していますが、PCI-E端子に近い順に第1スロット、第2スロット、…となっているので1~3枚しか使用しない場合は、PCI-E端子に近いスロットから順番に埋めてください。
「ASUS HYPER M.2 X16 CARD」をPCI-Eスロットに装着します。ASUS ROG ZENITH EXTREMEではプライマリグラフィックボード用の1段目以外では、5段目がPCI-E3.0x16のスロットなのでここにASUS HYPER M.2 X16 CARDを装着しました (写真ではわかりやすくヒートシンクを外しています。)
「ASUS HYPER M.2 X16 CARD」を複数枚のNVMe M.2 SSDが接続可能な拡張ボードとして使用するには、ASUS HYPER M.2 X16 CARDの仕組みで説明したようにまず、BIOSから帯域分割の設定をする必要があります。設定を行わない場合は、「ASUS HYPER M.2 X16 CARD」上の1番目のM.2スロットだけしか認識されないので、複数枚のM.2 SSDを使用する場合は最初に必ずBIOS設定を行ってください。
ASUS ROG ZENITH EXTREMEでは「Advanced ーオンボードデバイス設定」の中に「PCIEX〇_〇 Bandwidthという項目があり「X〇 Mode」ではx〇サイズの単一スロットとして動作し、「PCIe RAID Mode」では各スロットを複数のPCI-E3.0x4に分割します。
以上の手順で「ASUS HYPER M.2 X16 CARD」に装着されたSamsung 960 PROが正常に認識出来たら、トップメニュータブAdvancedの一番下の項目「RAIDXpart2 Configuration Utility」からRAIDアレイの構築を行います。
「RAIDXpart2 Configuration Utility」を選択すると3つほどメニューが表示されますが、そのうち真ん中の「Array Management」を選択します。
RAIDアレイ構築に使用するストレージをシステムやデータストレージとしてAHCIモードなどWindows上で使用していた場合は別システムで構築された単独のアレイとして認識されるため最初にアレイの削除を行う必要があります。別システムや過去に構築したアレイの削除には「Array Management」を選択して表示される「Delete Array」を選択します。
「Delete Array」からRAIDアレイ構築に使用するストレージのアレイを削除してください。OSをインストールしたシンプルボリュームやRAIDボリュームのアレイを間違って削除しないように十分注意してください。誤ってRAID構築に使用しないアレイを削除してしまう(初期化してしまう)のを避けるためRAIDアレイ構築に使用するストレージ以外はマザーボードから物理的に外しておくのを推奨します。
RAIDアレイ構築に使用するストレージのアレイ削除が完了したら「Array Management」をに戻って、次は「Create Array」を選択します。
「Create Array」メニューではRAIDタイプの選択やRAIDアレイ構築に使用するストレージの選択が可能なので、使用する設定に合わせて各自で選択してください。
以上でNVMe RAIDストレージの構築は完了です。
Windowsアプリ版「RAIDXpart2」の使い方
上で紹介したBIOS上の機能とは別にWindows上のアプリケーションとしてAMD公式からRAIDアレイの構築・管理ソフト「RAIDXpart2」が公開されているのでそちらの使い方も簡単に紹介しておきます。サポートページ:https://www.amd.com/ja/support
公式ページからインストーラーをダウンロードしたらポチポチクリックして「RAIDXpart2」をインストールします。Radeonドライバのインストーラーを流用しているところにそこはかとない哀愁が。
インストールが完了するとデスクトップにショートカットアイコンが作成されるので、ショートカットから「RAIDXpart2」を起動します。起動するとIEをUIとして専用アプリが起動します。最初にユーザー名とパスワードが聞かれますが、初期設定ではいずれも『admin』となっているので入力してください。言語については初期設定は英語ですが、左下のプルダウンメニューから日本語を選択できます。
ログイン画面で日本語を選択していると下のように日本語UIで管理画面が表示されます。言語設定についてはログインするごとに毎回、日本語を選択する必要があるのでそこが少し面倒です。
新しくRAIDアレイを作成する場合は左上のアレイタブを選択すると、各種メニューが展開されるので作成ボタンを選択します。
アレイ作成を選択すると下のようにRAIDアレイ作成画面が表示されます。右上のストレージ一覧からRAIDアレイの構築に使用するストレージを選択します。右下のプルダウンメニューからRAIDアレイタイプを選択できます。
右下には使用するキャッシュモードやRAIDアレイ作成時のゼロフィルの有無など細かい設定を行えます。各種設定が完了したら左下の完了ボタンを選択してRAIDアレイの作成完了です。
作成済みのアレイについて設定を行いたい場合は、トップメニュー左側のRAIDアレイ一覧から変更を行いたいアレイを選択します。
RAIDアレイを選択した状態でタブメニューのアレイを選択すると、キャッシュモードの変更やRAIDアレイの削除などの項目が表示されます。
Ryzen Threadripper環境のRAIDモードについて
AMD Ryzen Threadriper環境でNVMe RAID機能を使用するには一般的なAHCIモードではなくRAIDモードを使用する必要があるので、ベンチマーク比較などでRAIDモードとAHCIモードの違いをチェックしておきます。まずRAIDモードとAHCIモードの違いとして実際に動作テストを行っていて一番気になったのは起動時間の違いでした。AHCIモードでは30秒程度の起動時間がRAIDモードでは1分以上になっており、特にPOSTの時間が30秒以上伸びています。
今回は検証機材にASUS ROG ZENITH EXTREMEを使用しており、別のマザーボードでは時間が変わると思いますが、RAIDモードを選択するとAHCIモード時に比べてPOSTの待ち時間がかなり長くなる可能性があります。PCを起動しっぱなしの環境であれば特に問題ないと思いますが、頻繁にシャットダウンと起動を繰り返すユーザーは注意が必要です。
続いてRAIDモードとAHCIモードの各種ベンチマーク測定の比較です。比較にはASUS HYPER M.2 X16 CARDに装着したSamsung 960 PRO 512GBのシングルボリュームを使用しています。
まずはCrystalDiskMark(QD32, 8GiB)のベンチマーク結果です。
ATTO Disk Benchmark(512B-64MB, 256MB, QD4)の結果は次のようになっています。
AS SSD Benchmark(5GB)の結果は次のようになっています。
PCMark8 ストレージテストのベンチマーク結果は次のようになっています
以上のようにASUS HYPER M.2 X16 CARDに装着したSamsung 960 PRO 512GBのシングルボリュームで揃えてRAIDモードとAHCIモードででストレージの性能を基本的なベンチマークソフトで比較してみたところ、シーケンシャル性能はほぼ同等ですが、RAIDモードではランダム性能が若干下がる傾向がみられます。とはいえPCMark8 ストレージテストのスコアがほぼ同じなので実用上の影響はないと思います。
Ryzen Threadripper NVMe RAIDによる性能のスケーリングについて
続いてRyzen Threadripper NVMe RAIDから作成したRAID0アレイの性能のスケーリング具合についてSamsung 960 PRO 512GBを1/2/4/6/8枚使用して各種ベンチマークソフトでチェックしていきます。なお以降の検証ではAMD公式ブログの検証設定と揃えて各種キャッシュ機能については「RAID Read Cache (BIOS): DISABLED」「Writeback Cache (BIOS): ENABLED」「Write Cache Buffer Flush (デバイスマネージャー): DISABLED」の設定を採用しています。
AMD公式ブログ:https://community.amd.com/community/gaming/blog/2017/10/02/now-available-free-nvme-raid-upgrade-for-amd-x399-chipset
まず最初に上のAMD公式ブログ同様にIometorを使用してRAIDアレイの性能のスケーリングをチェックし見ました。設定は下のようにQD32、1MB、シーケンシャルリードとなっています。
IometorではWindowsのパーティション作成を行っていない状態でもアクセススピードの測定が行えるので、パーティションを作成していない「RAW FS」、パーティション作成を行っている「WIN FS」、2n個のストレージでn個のRAID0アレイを2つ作成してパーティション作成も行っている「WIN FS x2」の3種類について測定しました。
Iometorを使用した測定結果は次のようになりました。
Windows上でパーティションを作成すると4枚のRAIO0までは枚数に対して連続リードも綺麗にスケーリングしていくのですが、4枚を超えると16~18GB/sに収束していきました。同じ枚数のRAID0を2つずつ作成して同時に負荷をかけていったのですが、こちらでも計6枚と計8枚のRAID0では綺麗にスケーリングしないのでWindowsのファイルシステムだけがボトルネックというわけではないようです。現状ではNVMe SSDでRAID0アレイを作成する場合は4枚までに収めるのが良さそうです。
なおWindowsでパーティションを作成せず、4枚RAID0 2セットへシーケンシャルリードの測定を行っても25GB/s程度となりました。パーティション作成時ほどではありませんが、理想値の28GB/sは達成できていないのでハード的にもボトルネックがありそうです。
まずはCrystalDiskMark(QD32, 8GiB)のベンチマーク結果です。
【追記】--------------------------
CrystalDiskMarkで速度が低く出る、もしくは枚数によって安定しない理由についてですが、CrystalDiskMark開発者のひよひよ様よりご連絡があり、恐らくブロックサイズが 128KiB と小さいためではないかとのことです。ブロックサイズが2MiBに拡張されたCrystalDisk
公式ページ:https://crystalmark.info/
参考:https://twitter.com/NuCode/
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ATTO Disk Benchmark(512B-64MB, 256MB, QD4)の結果は次のようになっています。ブロックサイズ別のランダム性能を主にチェックするベンチマークなので4KB~2MBを抜粋してリード/ライト性能をグラフにして比較しました。
Ryzen Threadripper NVMe RAIDはハードウェアRAIDなのでブロックサイズの小さい4KB~32KBでも非RAIO0と比較してランダム性能が同程度の数値を維持できており、ブロックサイズが大きくなるにつれて枚数毎にスケーリングされています。
AS SSD Benchmark(5GB)の結果は次のようになっています
PCMark8 ストレージテストのベンチマーク結果は次のようになっています。1回の測定で1時間ほどかかってしまうので、シングルボリュームとx8 RAID0の2つのみで測定を行いました。
Ryzen Threadripper NVMe RAIDを使用したSamsung 960 PRO 512GB 2~8枚によるRAID0ストレージはSamsung 960 PRO 512GB単独と比較すると、RAID0に使用する枚数に比例してシーケンシャルのリード・ライト性能はスケーリングされています。
一方でランダム性能については先日レビューした「HighPoint SSD7101A-1」ではソフトウェアRAIDなのでランダムのベンチマークスコアが大幅に下がったのに対し、最大8枚のRAID0でも目立ったスコアの低下がみられないあたりにハードウェアRAIDの特徴が出ています。ただし前章ではAHCIモードに比べてRAIDモードはシングルボリュームでランダム性能が若干低いことが確認できたのでその辺りも考えると少し微妙になってきます。
実アプリに関するストレージベンチマークであるPCMark8 Strage TestでもRAID構築によって性能は改善されないものの性能低下自体も起きてはいないので実用上のデメリットが発生する心配はなさそうです。
Ryzen Threadripper NVMe RAIDとTLC SSDのキャッシュ容量について
17年で主流となっている安価なTLC NANDでは一部に高速なSLCキャッシュを使用することで書き込み性能を改善する機能が採用されており、そういった所謂TLC型SSDでRyzen Threadripper NVMe RAIDを用いた場合のRAIDアレイの動作についても簡単にチェックしてみました。検証機材として使用するSamsung 960 EVOは3bit-MLC NANDの一部を高速なSLC NANDとして用いて書き込み時にそこを優先的に使用する高速化技術「Intelligent TurboWrite」が使用されているので、SLCキャッシュ容量を超える書き込みが発生するとライト速度が低下します。960 EVOのデータシートによるとSLCキャッシュ容量が埋まった後のライト速度は300MB/s(250GB)、600MB/s(500GB)、1,200MB/s(1TB)となっています。
この検証ではHD Tune Proというベンチマークソフトを使用して、数十GBの大型連続書き込みによる書き込み速度の低下をチェックしていきます。
Samsung 960 EVO 250GBへ20GBサイズの連続書き込みを行った結果が次のようになっています。書き込みサイズが13GBに達すると書き込み速度が1500MB/sから300MB/sへと階段的に下がっているのが確認できます。
ちなみにSamsung 960 PRO 512GBでは50GBサイズの連続書き込みを行っても2GB/s程度のライト速度を安定して発揮することが可能です。
本題となるSamsung 960 EVO 250GBを4枚使用したRAID構築でこのキャッシュ機能がどうなるかについてですが、100GBサイズの連続書き込みを行ったところ書き込み性能は1枚の時と比較して約4倍にスケーリングされているのに加えて、SLCキャッシュの容量も4倍の50GB超に増加しているような動作になっていることがわかります。
Samsung 960 EVO 250GBを4枚使用したRAID0ストレージの各種ベンチマーク結果は次のようになっています。960 PROの4枚RAID0と比較しても遜色のないスコアになっており、安価なTLC型の弱点であるキャッシュによる連続書き込み性能の底上げが改善されるので大容量で安価なNVMeストレージの構築としてはRyzen Threadripper NVMe RAIDによるTLC型SSDのRAIDアレイ構築は意外とありな手ではないかと思います。
Ryzen Threadripper NVMe RAIDによるRAIDストレージの実性能比較
Ryzen Threadripper NVMe RAIDによってSamsung 960 PRO 512GBやSamsung 960 EVO 250GBを複数枚を使用したRAIDストレージを構築し、大容量・多数データのコピーやPCゲームのロード時間など実際の使用について性能比較をしてみました。まずはファイルのコピーに関する実性能比較となります。検証に使用するデータとしては次のような80GBで多数のファイルが入ったゲームのフォルダ(The Witcher 3とRise of the tomb Raiderなどのゲームフォルダ)と50GBの動画ファイルの2種類を使用しています。
データのコピーにおいては当然ですが、元データのあるストレージの読み出し性能とコピー先の書き込み性能の両方が重要になります。AMD Ryzen Threadripper環境ではCPU直結PCI-Eレーンが64レーンと非常に多いのが特徴なので、この大量のPCI-Eレーンを活かす意味で、Samsung 960 PRO 512GBを複数枚使用して、シングルボリューム同士、x2 RAID0同士、x3 RAID0同士、x4 RAID0同士の4つのパターンでコピー速度の検証を行いました。
上記のような条件で「Samsung 960 PRO 512GB x1同士(960 PRO x1)」、「Samsung 960 PRO 512GB x2 RAID0 同士(960 PRO x2)」「Samsung 960 PRO 512GB x3 RAID0 同士(960 PRO x3)」「Samsung 960 PRO 512GB x4 RAID0 同士(960 PRO x4)」の4種類について比較を行いました。
各種検証ストレージ間の50GB動画ファイルおよび80GBのゲームフォルダのコピー時間の比較結果は次のようになりました。同数のRAID0ストレージ間のデータコピー、特にシーケンシャル性能が効いてくる単一ファイルのコピーであればRAID0に使用するストレージ数に比例してコピー時間も短くなるかと思ったのですが、シングルボリュームと比べてx2 RAID0は10~20%程度高速化が期待できそうな結果になったものの、x3やx4はいまいち振るわない結果でした。取り扱うデータにもよると思いますが、現状ではコピーの高速化目的であればx2 RAIDが最適なようです。
続いて実際にPCゲームのロード時間も比較してみました。
The Witcher 3ではグラフィック設定をフルHD解像度・最高設定としてノヴィグラドの広場からトゥサンのコルヴォ・ビアンコブドウ園までのファストトラベル時のロード時間を比較しています。
Rise of the Tomb RaiderではフルHD解像度においてグラフィック設定をDirectX12で個別に最高設定として製鋼所の空き地までのファストトラベル時のロード時間を比較しています。
以上の条件で「Samsung 960 PRO 512GB x1」、「Samsung 960 PRO 512GB x2」「Samsung 960 PRO 512GB x4」「Samsung 960 PRO 512GB x8」の4種類についてゲームのロード時間比較を行いました。
ロード時間を測定して比較してみたところコンマ秒で差がある可能性はあるものの各ストレージで大きな差は確認できませんでした。やはりゲームのロード時間についてはランダム性能の大幅な向上(レイテンシの低下)が必要になるようです。
以上のように実際の用途においてはRyzen Threadripper NVMe RAIDでNVMe SSDを複数枚使用してRAID0を構築しても、ファイルのコピー時間については多少の削減が見込めるものの、基本的にシーケンシャル性能のスケーリングなのでその性能差をベンチマークソフトの結果同様に実用途で体感することは難しいようです。ただx4 RAID0同士のファイルコピーでコピー時間があまり削減できないという結果は残念な方向に意外でした。
Ryzen Threadripper NVMe RAIDのレビューまとめ
最後にSamsung 960 PROを最大8枚使用したRyzen Threadripper NVMe RAIDを検証してみた結果のまとめを行います。簡単に箇条書きで以下、管理人のレビュー後の所感となります。良いところ
- Ryzen Threadripper環境であれば無償で全機能を使用できるハードウェアRAID機能
- RAIDアレイのブータブルデバイス化に対応
- Samsung 960 PROなど市販のNVMe M.2 SSDで自由にRAIDアレイを構築できる
- RAIDタイプとしてはRAID 0, RAID 1, RAID 10に対応
- SLCキャッシュで書き込み高速化をしているTLC SSDではRAID構築でキャッシュ合計が可能
- RAIDモードは標準のAHCIモードよりも起動が遅くなる(POST時間が長くなる)
- ランダムアクセスは伸びないので実用上は速度向上が体感しにくい
ハードウェアRAID機能のRyzen Threadripper NVMe RAIDにおいても、前回の「HighPoint SSD7101A-1」のレビュー時同様に、RAID0の構築によってシーケンシャル性能は帯域の増加に伴って綺麗にスケーリングされ、単独で3500MB/sを実現するSamsung 960 PROや960EVOを使用すれば4枚で14GB/sに到達するものの、RAID0の特性としては既知な事実ですがランダム性能は改善しない(若干低下する)ので実用上はベンチスコア程の速度向上を体感することはできません。
また個人的には若干意外な結果として大型単一ファイルのコピーであってもx4 RAID感のデータコピーでコピー時間が削減されることもありませんでした。
Ryzen Threadripper NVMe RAIDで明確にデメリットを感じるとすればRAIDモードの起動の遅さでしょうか。マザーボードにもよると思いますが、AHCIモードと比較して30秒以上POSTが遅くなるようなので
AMD Ryzen Threadripper環境は一般ユーザー向け製品とはいえ、個人のワークステーションなどクリエイティブ作業に使用するパワーユーザー向け製品となっているのでNVMe RAIDはRAID1やRAID10を使用した冗長性の確保に使用するのが効果的なように感じます。
RAID0による速度向上は見られなかったものの大きく逆の結果が出ることもなく、一方で平均コピー速度に着目すると動画ファイルとゲームフォルダのコピー共に1GB/s以上出ているので、Samsung 960 PRO/EVOなどNVMe SSDを使用した環境は理論的に600MB/sが上限となる従来のSATA SSD環境と比較して高速なデータの取り扱いにおいて間違いなくメリットがあります。
そのため単純にSATA SSD環境よりも高速なNVMe SSD環境において、従来サポートされていなかった冗長性を確保するためのRAID1やRAID10が無償提供されることにRyzen Threadripper NVMe RAIDの意義があるのかなという感想です。
以上、『Samsung 960 PRO 512GB 8枚でRyzen TRのNVMe RAIDを試す』でした。
ASUS HYPER M.2 X16 CARD
ASUS
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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
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