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クマメタルの愛称で親しまれ当サイトでも推奨している液体金属グリス「Thermal Grizzly Conductonaut」が2016年に発売されてから早3年が経つ2019年、往年の液体金属グリスメーカーCoollaboratoryが王座奪還に向けて「Coollaboratory Liquid Extreme」を投入し、空冷CPUクーラー二強のThermalrightが唐突に「Thermalright SILVER KING」を発売するという珍事を経て、液体金属グリス界が三つ巴になりました。
そこで『結局のところ、どの液体金属が一番冷えるのか!?』という疑問に答えるべく、Core i9 9900KFのダイ直を使ってクマメタル VS リキエクス VS シルバーキングで冷却性能を比較してみました。
液体金属グリスはアルミニウムに対して侵食性があるものの、CPUのヒートスプレッダは銅製であり、CPUクーラーのベースプレートが銅製であれば、ヒートスプレッダ-ベースプレート間で使用できなくはありません。ただし液体金属グリスは導電性もあり、マザーボード等に零れるとショートによる破損の可能性もあり、当サイトではIHSで半密閉されて安全なので、液体金属グリスは基本的にCPUの殻割り時にCPUダイとIHSの間に塗る用途での使用を推奨しています。
しかしながら液体金属グリスの比較する際に各種液体金属グリスで都度、塗り直しとIHSの再固定を行うと、シール材の硬化時間で検証に時間差があきすぎ、環境温度の統一などで整合性の確保が難しくなるため、今回の液体金属グリスの比較検証ではCore i9 9900KFのダイ直環境を使用することにしました。
余談ですが今回検証のためにわざわざ購入したCore i9 9900KFは、ハズレ方向の当たり石でした。全コア5GHz回すのにコア電圧1.350Vを要求するという……。手持ちのたぶん当たり石な個体と比較して+0.1Vも全コア5GHzの要求電圧に差がありました。
液体金属グリスの簡易比較と紹介
「Coollaboratory Liquid Extreme」、「Thermal Grizzly Conductonaut」、「Thermalright SILVER KING」の3種類について仕様や価格を簡単に比較すると次のようになっています。なお熱伝導率はメーカー毎に測定方法が異なるので比較から除きました。塗りやすさは管理人が実際に使ってみた感想を元にしています。液体金属グリスの簡易比較 | |||
Coollaboratory Liquid Extreme |
Thermal Grizzly Conductonaut |
Thermalright SILVER KING |
|
パッケージ | ジップロック式で長期保管可能 |
開けにくい |
|
内容量 | 1g | 1g / 5g |
1g / 3g |
おおよその価格 | 1860円 | 2200円 / 4380円 |
1600円 / 3980円 |
容量単価 | 1860円 | 2200円 / 880円 |
1600円 / 1330円 |
入手性 |
Rockit Cool通販 Amazonマーケットプレイス |
Amazonで買える 在庫も豊富 |
Amazonで買える 在庫は少なめ |
塗りやすさ | 玉になり難く 非常に塗りやすい |
従来通り玉になりやすい |
|
導電性 | 金属なので導電性があり、 マザーボード等に零れるとショートして破損する可能性があります |
||
浸食性 | アルミニウムを侵食するので、 銅製ベースプレートのCPUクーラー必須 |
Coollaboratory Liquid Extreme
「Coollaboratory Liquid Extreme」は、リキプロの名前で親しまれ、特に”殻割りリキプロ化”の呼び名で長らく殻割りとはセットで扱われてきた液体金属グリスLiquid PROを輩出したCoollaboratoryが、新たにリリースしたその名の通り究極の液体金属グリスです。「Coollaboratory Liquid Extreme」の内容量は1g、メーカー毎に測定方法も違うのであまり比較はできない数値ですが、メーカー公称の熱伝導率は41W/mKです。液体金属グリスはその名の通り金属なので導電性があり、マザーボード等に零れるとショートして破損する可能性があります。代理店公式ページ:https://rockitcool.thebase.in/items/21656635
Thermal Grizzly Conductonaut
「Thermal Grizzly Conductonaut」は長らくリキプロの独壇場だった液体金属市場に国内外の著名OCerの推薦という後押しを受けて切り込みました。発売当初は”殻割りリキプロ化”が有名過ぎていまいち浸透していなかったのですが、当サイトの検証でもリキプロよりも冷えるという結果が得られ、ここ数年では殻割りの際に使う液体金属としては最も定番になり、当サイトでも推奨している製品です。「Thermal Grizzly Conductonaut」の内容量は1gと5gの2種類がラインナップされています。メーカー毎に測定方法も違うのであまり比較はできない数値ですが、メーカー公称の熱伝導率は73W/mKです。液体金属グリスはその名の通り金属なので導電性があり、マザーボード等に零れるとショートして破損する可能性があります。代理店公式ページ:https://www.shinwa-sangyo.co.jp/products/thermal-grease/tg-c-001-r
Thermalright SILVER KING
ThermalrightとNoctuaと言えば高性能な空冷CPUクーラーの2強的なメーカーですが、その片割れのThermalrightが液体金属グリス「Thermalright SILVER KING」をリリースしたのは2019年自作PC界隈でトップクラスの珍事です。(管理人の私見) ともあれ液体金属市場では新参ながら、SILVER KINGも性能的にはかなり優秀なようで各所で好評を得ています。「Thermalright SILVER KING」の内容量は1gと3gの2種類がラインナップされています。メーカー毎に測定方法も違うのであまり比較はできない数値ですが、メーカー公称の熱伝導率は79W/mKです。液体金属グリスはその名の通り金属なので導電性があり、マザーボード等に零れるとショートして破損する可能性があります。代理店公式ページ:http://www.dirac.co.jp/silver-king/
液体金属グリス比較の検証機材
3種類の液体金属グリスの冷却性能の比較検証に使用する機材について紹介しておきます。8コア16スレッドCPU「Intel Core i9 9900KF」とZ390マザーボード「ASUS ROG MAXIMUS XI APEX」などを含む検証機材を使用しました。テストベンチ機の詳細構成については下記テーブルの通りです。
テストベンチ機の構成 | |
CPU | Intel Core i9 9900KF 8コア16スレッド (レビュー) |
マザーボード |
ASUS ROG MAXIMUS XI APEX (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill Trident Z Black F4-4400C19D-16GTZKK DDR4 8GB*2=16GB (レビュー) 3600MHz, CL16-16-16-36-CR2 |
CPUクーラー | Fractal Design Celsius S36 (レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM x3 (レビュー) |
ビデオカード | MSI GeForce GT 1030 2GH LP OC ファンレス (レビュー) |
システムストレージ |
Samsung 860 PRO 256GB (レビュー) |
OS | Windows10 Home 64bit |
電源ユニット | Corsair HX1200i (レビュー) |
Core i9 9900KやCore i9 9900KFは手動OCすると発熱がかなり大きくなるので大型簡易水冷CPUクーラーが推奨されますが、360サイズや240サイズなど120mmファンを複数搭載できるマルチファンラジエーターの簡易水冷CPUクーラーを使用するのであれば、「Noctua NF-A12x25 PWM」への換装もおすすめです。
「Noctua NF-A12x25 PWM」は、超硬質かつ軽量な新素材「Sterrox LCP」の採用によってフレーム-ブレード間0.5mmの限界を実現させた次世代汎用120mm口径ファンとなっており、1基あたり3500円ほどと高価ですが、標準ファンよりも静音性と冷却性能を向上させることができます。
・「Noctua NF-A12x25 PWM」を360サイズ簡易水冷に組み込む
ベンチ機のシステムストレージにはSamsung製MLCタイプ64層V-NANDのメモリチップを採用する18年最速のプロフェッショナル向け2.5インチSATA SSD「Samsung SSD 860 PRO 256GB」を使用しています。Samsung SSD 860 PROシリーズは容量単価が高価ではあるものの、システムストレージに最適な256GBや512GBモデルは製品価格としては手を伸ばしやすい範囲に収まっており、Intel Core-XやAMD Ryzen TRのようなハイエンドデスクトップ環境はもちろん、メインストリーム向けでもハイパフォーマンスな環境を目指すのであれば、システムストレージ用に一押しのSSDです。
・「Samsung SSD 860 PRO 256GB」をレビュー
Rockit Cool 9th Gen Direct to Die frame
今回、液体金属グリスの比較にあたって日本国内で「Coollaboratory Liquid Extreme」の販売ショップも務めるRockit Cool JapanからCore i9 9900KなどIntel第9世代Core-Sで使用できるダイ直フレーム「Rockit Cool 9th Gen Direct to Die frame」を提供していただきました。製品販売ページ:https://rockitcool.thebase.in/items/18306581
「Rockit Cool 9th Gen Direct to Die frame」の内容品はダイ直フレーム本体、固定ネジ、トルクスドライバーです。CPUクーラーマウントを微調整するためのプラスチック製スペーサー&ワッシャーも付属します。
ダイ直フレーム本体は液体金属で侵食される可能性のあるアルミニウム製ですが、黒色の塗装によって保護されているので、表面が傷ついてアルミニウム面が露出しない限り、液体金属グリスによって浸食されることはありません。
Direct to Die frameのインストール手順
「Rockit Cool 9th Gen Direct to Die frame」のインストール手順を簡単に紹介します。第9世代Core-Sを殻割りしてSTIMを除去する手順についてはこちらの記事を参考にしてください。
・Rockit 89でCore i9 9900Kを殻割りクマメタル化する手順を徹底解説
最初にマザーボードを裏向けてソケットのバックプレートを養生テープで固定しておきます。バックプレートはダイ直フレームのネジ止め固定でも流用するので。
付属のトルクスドライバーを使用して3か所のネジを緩め、標準のCPU固定器具を取り外します。
標準の固定器具を取り外したら、ピンに落とさないように十分注意して、CPUをソケットに乗せます。
CPUの上からダイ直フレーム本体を乗せます。
最後に付属のトルクスネジとトルクスドライバーでダイ直フレームを固定したら、「Rockit Cool 9th Gen Direct to Die frame」のインストールは完了です。
Direct to Die frameで使用可能なCPUクーラーについて
「Rockit Cool 9th Gen Direct to Die frame」を使用してCPUダイ直の環境にすると、CPUヒートスプレッダの厚み分だけCPUクーラーベースプレートとの接触面が下がるので、基本的に市販のCPUクーラーはそのままでは使用できない可能性が高くなります。今回はEKWB製水冷ブロックのマウントパーツである「EK-Supremacy EVO PreciseMount」と「EK-Supremacy EVO Backplate」を使用して市販の簡易水冷CPUクーラーをダイ直環境で固定しました。これらのマウントパーツはEKWB製水冷ブロックに付属するほか、EKWBの公式通販から2つ合わせて送料込み4000~5000円程度で購入できます。国内であればオリオスペックやCoolinglabsに依頼すれば取り寄せできるはずです。
ダイ直フレームをインストールしたマザーボードにEKWB製水冷ブロックのマウントパーツを装着します。
EKWB製水冷ブロックのマウントパーツによって市販の360サイズ簡易水冷CPUクーラー「Fractal Design Celsius S36」を正常に固定できました。Asetek OEMの簡易水冷CPUクーラーであれば大体はEKWB製水冷ブロックのマウントパーツによって固定できると思います。
その他にも「Corsair H100i RGB Platinum」や「Corsair H15i RGB Platinum」がEKWB製水冷ブロックのマウントパーツによって固定できました。
液体金属グリスを綿棒でCPUダイに塗り広げるのはお馴染みの作業ですが、そのままCPUクーラーを被せると液体金属グリスがCPUクーラーベースプレートに上手く馴染まなず、液体金属を弾いてしまう可能性があります。CPUダイへ塗り広げる際に綿棒に付着した液体金属を使って、CPUダイの形状に合わせてベースプレートに液体金属グリスを馴染ませておくのがオススメです。
液体金属頂上決戦! リキエクス VS クマメタル VS シルバーキング
「Coollaboratory Liquid Extreme」「Thermal Grizzly Conductonaut」「Thermalright SILVER KING」、以上3種類の液体金属グリスの冷却性能の比較検証結果をチェックしていきます。今回、3種類の液体金属グリスの冷却性能を検証するために、Core i9 9900KFの同じCPU個体について負荷テストを行いCPU温度を比較しました。
CPU温度は環境温度にも影響されるため測定時は室温(ベンチ機付近の温度)が温度計で22度程度となるよう空調の調整にも可能な限り注意しました。CPUクーラーには「Fractal Design Celsius S36」&「Noctua NF-A12x25 PWM x3」を使用していますがファン回転数は1500RPMに固定しています。
冷却性能を比較するための負荷テストについては、FF14ベンチマークの動画(再生時間7分、4K解像度、60FPS、容量5.7GB)でAviutl+x264を使って動画エンコードを行いました。エンコード時間はCore i9 9900KFの場合20分ほどなので同じ動画のエンコードを2つ並列して1周実行しています。
注:CPUのストレステストについてはOCCTなど専用負荷ソフトを使用する検証が多いですが、当サイトではPCゲームや動画のエンコードなど一般的なユースで安定動作すればOKとういう観点から管理人の経験的に上の検証方法をストレステストとして採用しています。
Core i9 9900KFを全コア5.0GHzにOCした時について検証を行いました。「Core i9 9900KF」の具体的なOC設定については「CPUコアクロック全コア:5.0GHz」、「CPUキャッシュクロック:4.7GHz」、「コア電圧:1.350V固定」、「ロードラインキャリブレーション:Level 7」、「SVID:Disable」と設定しました。メモリのOC設定は「メモリ周波数:3600MHz」、「メモリタイミング:16-16-16-36-CR2」、「メモリ電圧:1.350V」です。
このOC設定を行った場合、ストレステスト時のシステム全体の消費電力は270~290W程度となり、CPU単体の消費電力が240W前後に達します。今回のCPU個体はハズレの中のハズレ的なヤツなので全コア5.0GHzが限界でしたが、上位数%の当たり石であれば同程度の消費電力で全コア5.2GHz、上位コンマ%クラスの神石なら全コア5.3GHzで常用できる消費電力です。
Core i9 9900Kの全コア5.0GHz OC時について「Coollaboratory Liquid Extreme」「Thermal Grizzly Conductonaut」「Thermalright SILVER KING」の3種類の液体金属グリスで、負荷テスト中のCPU温度の推移を比較したグラフは次のようになっています。
標準IHS&STIMでヒートスプレッダ-ベースプレート間にシリコングリス「Thermal Grizzly Kryonaut」を使用したケースでは最大温度95度、平均温度89度に対して、ダイ直&液体金属グリスは最大温度80~81度、平均温度75~76度に収まっています。ダイ直&液体金属グリスによって10度以上と大きく温度を下げていますが、3種類の液体金属グリスの性能についてはほぼ測定誤差の範囲内で横並びになりました。
CPUコア別の平均温度も出してみましたが、いずれもワーストコアがコア5となっており、ハズレ値的なコア温度もなく均等な数値になっています。
CPUコア別の平均温度 | |||
Thermal Grizzly Conductonaut |
Coollaboratory Liquid Extreme |
Thermalright SILVER KING |
|
コア1 | 72.77 | 73.33 | 73.66 |
コア2 | 72.18 | 72.99 | 73.09 |
コア3 | 73.95 | 74.38 | 74.58 |
コア4 | 72.71 | 73.19 | 73.04 |
コア5 | 75.29 | 75.32 | 75.17 |
コア6 | 70.29 | 70.28 | 70.41 |
コア7 | 74.33 | 74.10 | 73.49 |
コア8 | 70.78 | 71.24 | 70.36 |
CPU | 75.67 | 75.69 | 75.73 |
今回室温や空調にはかなり気を配り、時間差で温度が変わらないように数時間以内で測定を完了させたので、これ以上の精度は恒温室でも用意しないと困難なレベルだと思います。差を出せる要素があるとしたら、DIY水冷ブロックを使用するとか(おそらく結果は変わらないと思う)、あと一番可能性があるとすれば、今回はCore i9 9900KFで250Wクラスの負荷だったので、Core i9 7980XEのダイ直で500Wクラスの負荷をかけると温度差を確認できるかもしれませんが。
もう少しは差が出るかと思ったのですが、2019年において三つ巴な液体金属グリス「Coollaboratory Liquid Extreme」「Thermal Grizzly Conductonaut」「Thermalright SILVER KING」、3製品の冷却性能は横並びという結果でした。冒頭の早見表で簡単に比較したように塗りやすさ、容量単価、入手性など冷却性能以外の細かい部分には各製品で違いはあるので、その辺りの違いやブランドに対する各自の好みで選べばOKかと思います。
以上、『液体金属頂上決戦! リキエクスVSクマメタルVSシルバーキング』でした。
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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
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