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Core Ultra 9 285KなどIntel Core Ultra 200シリーズCPUに対応するZ890チップセット搭載マザーボードとしてASUSからリリースされた、Mini-ITXサイズながら110A対応SPSで構成される14フェーズの堅牢VRM電源、Thunderbolt4対応USB Type-Cポートを搭載する小型ゲーミングマザーボード「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」をレビューします。

ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI レビュー目次
1.ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIの外観・付属品
2.ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIの基板上コンポーネント詳細
・ROG STRIX HIVE IIについて
3.ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIの検証機材
4.ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIのBIOSについて
5.ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIのOC設定について
・By Core Usage倍率によるOCについて
・VFカーブOC電圧設定や電力制限について
・メモリのオーバークロックについて
・その他のOC設定やTipsについて
6.ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIの動作検証・OC耐性
7.ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIのレビューまとめ
【2025年1月14日:初稿】
レビュー記事初稿を公開、BIOS:1501で検証
製品公式ページ:https://rog.asus.com/jp/motherboards/rog-strix/rog-strix-z890-i-gaming-wifi/
【機材協力:ASUS】
ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIの外観・付属品
まず最初にASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIの外観と付属品をチェックしていきます。
パッケージを開くと上段にはマザーボード本体が静電防止ビニールに入った状態でスペーサーの中央に収められていました。マザーボードを取り出すと2重底になっており下段には各種付属品が入っています。

マニュアルなど冊子類で必要なものが一通り揃っています。その他にもステッカーセットやキーチェーンなどファングッズが付属します。
ASUS製マザーボードというと詳細かつ上手く翻訳された日本語マニュアル冊子が付属しているところが特徴でしたが、最近のSDGsの流れで、冊子類はクイックスタートガイドのみで、詳細マニュアルはQRコードを読み込んで、公式サイトからダウンロードする形になっています。

組み立てに関連する付属品としては、SATAケーブル 2本、M.2 Q-LATCH、M.2 SSDスペーサーパッド、フロントI/Oケーブル、ROG USB2.0スプリッターケーブル、Wi-Fiアンテナ、ROG FPSカードとなっています。


ASUSマザーボードの一部に付属するQ-ConnectorはパワースイッチやパワーLEDなどフロントI/Oの細かい端子を丸ごとマザーボードに装着できるので組み立て時にあると便利な付属品ですが、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」にはフロントパネルケーブルという名前の機能的には同等品が付属します。

マザーボード全体像は次のようになっています。
「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はMini-ITXフォームファクタのマザーボードです。

「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」は黒を基調にして、ヒートシンクやカバーにはモザイクパターンでロゴやイラストが描かれたメタリックプレートが装着されています。同時期に発売されたAMD X870モデルはかわいいとかユニークに振った感じでしたが、こちらはカッコよさを重視したデザインです。
Mini-ITXマザーボードは基板上スペースが限られているのでリアI/Oカバーを搭載しない製品も多いですが、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」にはVRM電源クーラーヒートシンクも兼ねたカバーが搭載されています。


マザーボード下側にはチップセット用ヒートシンクの上に、俵型M.2 SSDヒートシンクを統合した、2基のM.2スロットを増設できる独自ライザーカード M.2 Q-RELEASE DUOが設置されています。
ヒートシンクはリアI/Oカバーと同じくらい高く、高さは50mm程度もあるので、トップフロー型空冷CPUクーラーを使用する人は干渉に注意してください。


「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」にはデュアルM.2スロットやメモリスロット用に設計された30mmまたは40mmの冷却ファンを設置できるファンブラケットもあります。

DDR5メモリのクーラーとして使用する場合、メモリヒートシンクがメモリ基板よりも13mm以上大きいとファンブラケットが干渉するので注意してください。ヒートシンク付きOCメモリとして定番のG.Skill Trident Z5はギリギリで設置可能でした。

すぐ近くに増設したファンを接続するための4PINファン端子も実装してあります。

このファン端子はBIOS上のファンコン機能で”追加フローファン Q-Fan制御”として登録されています。
メモリスロット付近に実装された温度センサーを制御ソースとでき、手動ファンカーブ設定、セミファンレス動作など、通常のケースファン同様にファン制御が可能です。


「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はライティング制御機能 ASUS AURA Syncに対応しています。
マザーボード備えつけのLEDイルミネーションはありませんが、マザーボード上にはライティング制御に対応した1基のRGB対応4PIN LEDヘッダーと2基のARGB対応VD-G型3PIN LEDヘッダーが実装されています。


「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はMini-ITXマザーボードながら、アルミニウム製でVRM電源クーラーヒートシンクも兼ねる大型リアI/Oカバーが装着されています。VRM電源ヒートシンクからリアI/Oカバーの天面まではモノブロック構造で超巨大なVRM電源クーラーとなっています。またCPUソケットの上側と左側のヒートシンクはヒートパイプによって連結されています。


「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」のリアI/Oカバーには、VRM電源ヒートシンクの放熱を補助する冷却ファンが内蔵されており、リアI/Oカバー天面の通気口から吸気するアクティブ冷却が採用されています。

「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」のVRM電源冷却ファンはBIOSメニュー上で”VRMヒートシンクファン Q-Fan制御”として登録されており、VRM電源温度をソースにしたファン制御カーブの設定が可能です。
手動ファンカーブ設定、セミファンレス動作など、通常のケースファン同様にファン制御が可能です。

マザーボード裏面左側には頑丈な金属製バックプレートが装着されています。
ただ、PCケースへ組み込む時に指で触れやすい、正面から見て右端側(メモリスロットの裏側)にはバックプレートはないので、各種素子のハンダの出っ張りで指を切るのを防止する役割には不十分です。
バックプレートとVRM電源回路背面との間にはサーマルパッドもなく、放熱プレートとしての役割もありません。単純に装飾と背面保護用のバックプレートです。


「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はスペースの限られるMini-ITXサイズながら、最大24コアのCore Ultra 200SシリーズCPU上位モデルにも対応できるよう、110A対応Dr. MOSで構成される14フェーズ(10+1+2+1)のVRM電源回路が実装されています。


VRM電源回路にハイサイド/ローサイドMOS-FETとドライバICをワンパッケージし、低発熱で定評のあるSmart Power Stage(Dr. MOSの名前で有名)を採用するのはハイエンドマザーボードでは定番ですが、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」にはCPUコア向けを含む計12フェーズに110A対応SPS(Monolithic Power Systems MP87610)が使用されています。
PWMコントローラーは低発熱かつ安定した電力供給ができるようにASUSが独自にチューニングし、OCでは挙動をユーザーが細かく設定できるDIGI+ VRMに対応するASP2432です。
その他のVRM電源回路を構成する素子についても、定格45Aを処理可能な高透磁率合金コアチョーク MicroFine alloy chokesなど厳選された高品質素子です。


最大で24コアとなるIntel Core Ultra 200SシリーズCPU上位モデルに対応するATXサイズZ890マザーボードではCPU電源としてEPS 8PIN+4PINや8PIN×2を要求するものが多いですが、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はMini-ITXフォームファクタということもあり要求されるのはEPSコネクタは8PINが1つです。
またProCool IIと呼ばれる設計のEPS電源コネクタは、低インピーダンスなソリッドピンによってホットスポットの発生を抑制し、金属アーマーはコネクタの補強とともに熱拡散も補助します。

「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」には一体型リアI/Oバックパネルも採用されています。PCケースにパネルを装着する作業は固くて装着し難かったり、忘れてしまうこともあるのでマザーボードに統合されているのは嬉しい機能です。

以下USB規格に関する説明がありますが『USB 10Gbps = USB3.2 Gen2 = USB3.1 Gen2』、『USB 5Gbps = USB3.2 Gen1 = USB3.1 Gen1 = USB3.0』と考えて基本的に問題ありません。
「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」のリアI/Oに実装された2基のUSB Type-Cポートは帯域40Gbpsの最新規格 Thunderbolt4に対応しています。
DisplayPort Alternate Modeによるビデオ出力に対応し(映像ソースはiGPU)、USB Power Delivery規格によって15W(5V/3A)の電力供給も可能です。

リアI/Oには帯域10GbpsのUSB3.2 Gen2規格に対応した3基のType-A端子(赤色)と1基のType-C端子が設置されています。Type-Cは20Gbpsの高速通信が可能なUSB3.2Gen2x2にも対応しています。また、このType-Cポートは通常、ROG STRIX HIVE IIの接続ポートとして使用します。
そのほかのUSB端子については1基のUSB3.0端子と2基のUSB2.0端子が搭載されています。

Ryzen 9000/7000シリーズCPUのRadeonグラフィックス向けにHDMI2.1×1、USB Type-C(DisplayPort1.4 Alternate Mode)×2で、計3系統のビデオ出力端子が搭載されています。HDMIのバージョンはver2.1なので4K解像度で60~120FPSの出力に対応しています。
「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はオンボードサウンドを搭載しておらず、見ての通り、リアIOにもオーディオ出力・入力がありません。
代わりにESS製DACによるヘッドホン出力&マイク入力を搭載したUSB Type-Cドック ROG STRIX HIVE IIを使用します。ROG STRIX HIVE IIの詳細は後述します。

有線LANには近年ではWi-Fi 6E/7の無線LANルーターにも搭載が増えている2.5Gb LAN(Intel I226-V)が搭載されています。
さらにWi-Fi 7に対応したIntel BE200コントローラーによる無線LANも搭載しています。
接続規格としてはWi-Fi 802.11 a/b/g/n/ac/ax/be、2.4/5GHz/6GHzトライバンド、最大通信速度5.8Gbps(6GHz帯の320MHz幅接続時)、Bluetooth 5.4に対応しています。リアI/Oには無線モジュールのアンテナ端子が設置されているので付属のアンテナを接続できます。

「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」のWi-FiアンテナにはQ-Antennaと呼ばれるワンタッチ装着機能も採用されています。従来のようなネジ巻き作業が必要なくなりました。

「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」に搭載されているネットワーク機器はいずれもWindows 11 24H2の標準ドライバで動作しません。

条件次第では問題になることもあるので詳しくはこちらの記事を参照してください。
「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はUSB BIOS FlashBackに対応しています。
所定のUSB端子にBIOSファイルの入ったUSBメモリを接続して、オンボードボタンを押すとUSB BIOS FlashBack機能によってCPUやメモリなしの状態でもBIOSの修復・アップデートが可能です。

ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIの基板上コンポーネント詳細
続いて「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」のマザーボード基板上の各種コンポーネントをチェックしていきます。「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はIntel Core Ultra 200SシリーズCPUに対応するマザーボードなのでCPUソケットは当然、Intel LGA1851です。
CPUソケットが異なるので第12~14世代Coreの旧CPUは使用できませんが、LGA1851とLGA1700のCPUクーラーマウントは共通なので、LGA1700対応CPUクーラーなら問題なく使用できます。
LGA1700登場から3年も経っているので、新しいCPUクーラーを購入する分には互換性が問題になることはないはずです。

なお、ASUSのIntel 600/700マザーボードではIntel LGA1700標準のCPUクーラーマウントホールに加えて、旧世代LGA1200/115X互換のマウントホールも併設されており、LGA1700対応マウント部品がないCPUクーラーも使用できましたが、最新のIntel 800シリーズマザーボードにはその機能はありません。
同互換機能を利用してASUS製Intel 600/700マザーボードで第12~14世代Coreにアップグレードした人は、今回はCPUクーラーも新たに用意する必要があるので注意してください。
LGA1851と同時にCPU固定用金具には”RL-ILM (Reduced Load-Independent Loading Mechanism)”、その名の通り、リテンション圧を軽減した新たなリテンションブラケットが導入されており、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」にもRL-ILMが採用されています。

所謂、”CPU反り問題”については実害が存在するかというとエビデンスは怪しいです。せいぜい、ヒートスプレッダと接するコールドプレートが中央凸形状でないCPUクーラーで5度程度の差で冷却性能が下がるくらい、というのが筆者の私見です。Asetek OEMのAIO水冷などここ5年くらいの製品でちゃんと設計されたCPUクーラーなら中央凸なコールドプレートになっているはずです。
とはいえCPU形状が縦長になったことで従来よりも第12~14世代Core CPUに反りが生じやすいこと自体は事実なので、ワッシャーMODとかコンタクトフレームなどによるMBの保証が失効するような処置(逆に接触不良による動作不安定、メモリOCエラーといった悪影響も)をユーザーが自己責任でとる必要がなくなったのは素直に喜んでいいと思います。
「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はシステムメモリの最新規格DDR5に対応しています。従来規格のDDR4と下方互換はなく使用できないので注意してください。
システムメモリ用のDDR5メモリスロットはCPUソケット右側に2基のスロットが設置されています。固定時のツメはマザーボード上側の片側ラッチとなっています。グラフィックカードのあるPCIEスロット側はラッチがないので干渉の心配もありません。

Intel Core Ultra 200SシリーズCPUとIntel Z890などIntel 800シリーズマザーボードの環境は、従来のUDIMM(Unbuffered DIMM)規格のDDR5メモリに加えて、新規格 CUDIMM(Clocked Unbuffered)にも対応しています。
当然、今回レビューする「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」もCUDIMM対応です。
CUDIMMはクロック信号を補正するClocked Driverが追加されており、高速動作の安定性を向上させた新規格です。1.100Vの低電圧でも6400MHzの高速メモリ周波数が安定し、JEDEC準拠のスペックを満たすだけでなく、8000~9000MHz以上のメモリOCで従来のUDIMMよりも安定性を増しています。

「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はMini-ITXマザーボードなので、PCIEスロットはグラフィックボードなどを設置するためのx16サイズスロットが1基のみ実装されています。

Intel Core Ultra 200SシリーズCPUの環境はCPU直結x16レーンの分割についてx8/x8やx8/x4/x4には対応していますが、4基のx4レーンに分割する動作には非対応のようです。
PCIE帯域分割でM.2 SSDを4基増設するタイプのPCIE拡張カードには非対応なので注意してください。

Mini-ITXマザーボードでは珍しいのですが、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はM.2スロットの片方(M.2_2)がx16サイズスロットとCPU直結のPCIE5.0x16レーンを共有しており、このM.2スロットでSSDを使用するとグラフィックボード用のPCIE帯域がPCIE5.0x8レーンに制限されます。
PCIE5.0対応SSDに対応したM.2スロットを2つ搭載するためとはいえ、Core Ultra 200SシリーズCPUにはSSD用のPCIEレーンとしてPCIE5.0x4とPCIE4.0x4が1つずつあるので、それを直接使用しないのは少々解せない仕様です。

「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」にも最近のトレンドとしてx16サイズスロットには1kgを超える重量級グラボの重さに耐えるように、従来のプラスチックスロットよりも垂直方向の力に対して1.6倍、水平方向の力に対して1.8倍も強靭になった補強用メタルアーマー搭載スロットが採用されています。

大型空冷CPUクーラーを組み合わせた場合など、グラフィックボードを取り外す際にPCIEスロットの固定ラッチを解除するのが難しい、という場面に遭遇したことのある自作erは多いと思いますが、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」にはPCIEスロット固定ラッチの解除を簡単にする機能の最新版 PCIe Slot Q-Release Slimが搭載されています。

PCIe Slot Q-Releaseシリーズは今回のアップデートで3代目になります。見た目には外部スイッチもなく、普通のPCIEスロットに戻ったように見えますが、実は左端付近にロック解除機構が内蔵されています。
最新版のPCIe Slot Q-Release Slimではついにロック解除においてスイッチ等の手動操作が無くなり、グラフィックボードなどPCIEカードを外す流れでラッチ方向に傾けるだけで、自動的にロックが解除されるようになりました。
「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」ではUSB Type-C型インターフェースによってフロントパネルやSATAポートを増設する独自のライザーカード ROG FPSカードが採用されています。


電源スイッチなどフロントパネルヘッダーは「ROG STRIX フロントパネル SATAカード」に実装されていますが、同ライザーカードを使用しなくても電源はオン/オフできるよう、電源ボタン用ヘッダーはマザーボード上にも実装されています。

ROG FPSカード自体も装着するだけで全高はDDR5メモリよりも数mm高くなり、垂直方向に挿すフロントIOケーブルや内部USB2.0ケーブルを繋いだ場合は19~24mm程度もメモリより高くなります。
ATX 24PIN電源ケーブルや内部UBS3.0ケーブルよりも垂直方向のクリアランスが要求されるかもしれないので、メモリ方向へヒートシンクが伸びる空冷クーラーを組み合わせる場合は注意が必要です。

「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」には、SATAストレージ用の端子はマザーボード右下の専用ライザーカード上に2基搭載されています。いずれもチップセットのコントローラーによる接続で、RAID0/1/5/10のハードウェアRAID構築にも対応しています。

「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」のM.2スロットはマザーボード表面、チップセットクーラーに重ねて、下側(PCIEスロット寄り)のM2_1と、上側(CPUソケット寄り)のM2_2の2か所に設置されています。
M2_1はCPU直結PCIE5.0x4レーンに接続されており、PCIE5.0x4接続のNVMe接続M.2 SSDに対応しています。
M2_2はCPU直結PCIE5.0x16レーンを共有する形でPCIE5.0x4のNVMe接続M.2 SSDに対応しています。
M2_2を使用する場合、x16サイズPCIEスロットの帯域は制限されるのでグラフィックボードの性能を重視する場合は注意が必要です。

・PCIE4.0/5.0対応NVMe M.2 SSDのレビュー記事一覧へ

外観の章で簡単に触れたように、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はPCHヒートシンクの上に、独自設計のライザーカード M.2 Q-RELEASE DUOによってM.2スロットを2基実装し、さらにM.2 SSDを挟み込む構造の大きな俵型M.2 SSDヒートシンクを統合しています。

初見だと迷うかもですがM.2ライザーカードの着脱は非常に簡単です。
STRIXロゴプレート手前の隙間に指を入れて上に引っ張ると蓋のようにしてパカッと天面が開きます。これさえ分かれば、ライザーカードを固定しているネジはカバー下左端とファンプレートを固定しているものの2つけです。


ライザーカードのベース部分とSSDを挟み込む前後の蓋はそれぞれアルミニウム製なので2つのSSDに対して両面ヒートシンクの役割を果たします。

10GB/s超のアクセススピードを実現可能な反面、アーリーアダプター製品は発熱が大きいPCIE5.0接続のNVMe M.2 SSDに対応しているので、それを十分に冷やせるよう、アクティブ冷却ファンも採用されています。

「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」のM.2 SSD/PCH冷却ファンはBIOSメニュー上で”チップセットファン Q-Fan制御”として登録されており、VRM電源温度をソースにしたファン制御カーブの設定が可能です。
手動ファンカーブ設定、セミファンレス動作など、通常のケースファン同様にファン制御が可能です。

「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」のマザーボード右側には接続帯域20GbpsのUSB3.2 Gen2x2に対応する内部USB Type-Cヘッダー(正式名称はFront USB Type-E)が実装されています。内部USB3.0ヘッダーも1基実装されています。

専用ライザーカード上には内部USB2.0ヘッダーも2基実装されています。
Corsair iCUEやNZXT CAM対応製品などUSB2.0内部ヘッダーを使用する機器も増えていますが、ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIであればそれらの機器も問題なく使用可能です。内部USB2.0が2基でも不足する場合はUSB2.0ヘッダー増設ハブの「NZXT INTERNAL USB HUB (Gen3)」や「Thermaltake H200 PLUS」がおすすめです。

「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」にはROG USB2.0スプリッターケーブルという内部USB2.0の分岐ケーブルが付属します。

ROG USB2.0スプリッターケーブルを使用すれば2基の内部USB2.0ヘッダーが使用できるように思えますが、「NZXT INTERNAL USB HUB (Gen3)」や「Thermaltake H200 PLUS」とは異なり、ROG USB2.0スプリッターケーブルは下の図のようにピンを延長分岐しているだけなので、実際には使い勝手の悪い分岐ケーブルです。ユーザーに対して誤解を招くという意味で、ない方がマシな付属品というのが正直なところ。

冷却ファンを接続するためのコネクタについてはPWM対応4PINファンコネクタがマザーボード上に3基設置されています。さらに増設ファン用、備え付けのM.2 SSD用やVRM電源クーラー用の冷却ファンで使用済みのファン端子も含めると6基です。

マザーボード上にはDIY水冷PCユーザーに嬉しい外部温度センサーの接続端子が設置されています。ASUSのファンコントロール機能は外部センサーをソースにした水温依存のファンコントロールが可能なので以前から水冷ユーザーにオススメしています。

「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」にはCMOSクリアのためのオンボードボタンは実装されておらず、マザーボード右下のジャンパーピンを使用してCMOSクリアを行います。
短絡用ジャンパは付属しておらず、グラフィックボードやメモリを組み込んでしまうと、短絡するのがかなり難しい位置になっているので、ケーブルの長い2PINスイッチをあらかじめ装着しておいた方がよさそうです。リアI/OにCMOSクリア用スイッチを設置して欲しかったです。

ROG STRIX HIVE IIについて
「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」にはASUSが主にMini-ITXマザーボード向けに専用で開発したUSB Type-Cドック ROG STRIX HIVE IIが付属しています。

ROG STRIX HIVE IIはType-Cケーブルで伸ばしてUSB DACのように卓上で手元に置いても良いですが、底面にはマグネットが内蔵されているので、スチール製PCケースの側面に貼り付けて設置することも可能です。

ROG STRIX HIVE IIはType-Cケーブルで接続することによって一般的なUSB Type-Cドック的に使用できますが、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」のような対応マザーボードの場合、リアIOにROG STRIX HIVE対応ポートという、アイコン付きのType-Cポートがあります。

このROG STRIX HIVE対応ポートに接続した場合、ROG STRIX HIVE IIの正面に実装されたPOWERスイッチやFLEX KEYスイッチをマザーボード備え付けスイッチのように電源ボタンや機能ボタンとして使用できます。
さらに正面に4つ実装されたLEDは、CPU/RAM/VGA/BOOTの4種類で起動時(POST)のエラーを判別できるDebug LEDとして機能します。


ROG STRIX HIVE IIのUSB Type-Cドックとしての一般的な機能を説明すると、マザーボードとは帯域10GbpsのUSB3.2 Gen2で接続し、同じくUSB3.2 Gen2のType-AとType-Cを1つずつハブポートとして増設できます。


さらにROG STRIX HIVE IIはESS製DAC(SABRE9260Q)によるヘッドホン&マイク用4極3.5mmジャックを内蔵していて、高音質なUSB DACとして使用できます。天面にはデジタル式の音量調整ダイヤルも付いています。



ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIの検証機材
ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIを使用して検証機材と組み合わせてベンチ機を構築しました。ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI以外の検証機材は次のようになっています。テストベンチ機の構成 | |
CPU | Intel Core Ultra 9 285K (レビュー) |
CPUクーラー | Fractal Design Celsius S36 (レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM x3 (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill Trident Z5 CK F5-8400C4052G24GX2-TZ5CK (レビュー) DDR5 CUDIMM 24GB×2=48GB 8400MHz, CL40-52-52-134 G.Skill Trident Z5 RGB F5-7200J3646F24GX2-TZ5RK (レビュー) DDR5 UDIMM 24GB×2=48GB 7200MHz, CL36-46-46-115 |
ビデオカード | MSI GeForce GT 1030 2GH LP OC ファンレス (レビュー) |
システムストレージ |
Samsung SSD 990 PRO 1TB (レビュー) |
OS | Windows 11 Home 64bit |
電源ユニット | Corsair HX1500i 2022 (レビュー) |
ベンチ板 | STREACOM BC1 (レビュー) |
360サイズや240サイズなど120mmファンを複数搭載できるマルチファンラジエーターの簡易水冷CPUクーラーを使用するのであれば、「Noctua NF-A12x25 PWM」への換装もおすすめです。
「Noctua NF-A12x25 PWM」は、超硬質かつ軽量な新素材 Sterrox LCPの採用によってフレーム-ブレード間0.5mmの限界を実現させた次世代汎用120mm口径ファンとなっており、1基あたり3500円ほどと高価ですが、標準ファンよりも静音性と冷却性能を向上させることができます。
・Noctua NF-A12x25シリーズのレビュー記事一覧へ

ベンチ機のシステムストレージには「Samsung SSD 990 PRO 1TB」を使用しています。
Samsung SSD 990 PROは、PCIE4.0対応SSDで最速クラスの性能を発揮し、なおかつ電力効率は前モデル980 PRO比で最大50%も向上しており、7GB/s超の高速アクセスでも低発熱なところも魅力な高性能SSDです。 これからPCIE4.0対応プラットフォームの自作PCを組むなら、システム/データ用ストレージとして非常にオススメな製品です。
・「Samsung SSD 990 PRO 1TB」をレビュー。性能も電力効率もトップクラス!

CPUとCPUクーラー間の熱伝導グリスには当サイト推奨で筆者も愛用しているお馴染みのクマさんグリス(Thermal Grizzly Kryonaut)を塗りました。使い切りの小容量から何度も塗りなおせる大容量までバリエーションも豊富で、性能面でも熱伝導効率が高く、塗布しやすい柔らかいグリスなのでおすすめです。
グリスを塗る量はてきとうでOKです。筆者はヘラとかも使わず中央山盛りで対角線だけ若干伸ばして塗っています。特にThermal Grizzly Kryonautは柔らかいグリスでCPUクーラー固定時の圧着で伸びるので塗り方を気にする必要もありません。

以上で検証機材のセットアップが完了となります。

ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIのBIOSについて
ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIを使用した検証機の構築も完了したので動作検証とOC耐性のチェックの前にBIOSの紹介をします。(OSから日付調整する前にスクショを取っている場合、日付がおかしいですが無視してください。また内容的に差異のないものは過去の同社製マザーボードのBIOSスクリーンショットを流用しています。)
「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」のBIOSに最初にアクセスするとEZモードというグラフィカルな画面が表示されます。パッと見の見栄えは良いのですが詳細モードでないと詳細設定ができないのでF7キーを押してサクッとアドバンスドモード(Advanced Mode)へ移るのがおすすめです。

F7キーを押すとアドバンスドモードという従来通りの文字ベースのBIOSメニューが表示されます。
「Main」タブの「System language」-「English」と表記された項目のプルダウンメニューから言語設定が可能で日本語UIを選択できます。ASUSマザーボードは競合他社と比較してもBIOSメニューの日本語ローカライズの充実と正確さが魅力です。


あと「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」のBIOSメニューは従来製品で一般的だった1024x768解像度に加えて、フルHDの高解像度UIにも対応しています。フルHDにすると文字がクッキリするので、各自のお好みで選んでください。


設定の保存とBIOSからの退出はトップメニュータブ最右端の「終了」から行います。その他のタブメニュー内で設定を行っていても左右カーソルキーですぐにタブを切り替えて退出可能です。

特定のブートデバイスを指定してBIOSから退出するBoot Override機能は「起動」タブメニューの最下段「起動デバイス選択」に配置されています。

BIOSのアップデート方法は、まず下から最新のBIOSファイルをダウンロード、解凍してUSBメモリのルートに解凍フォルダを置きます。
サポート:https://rog.asus.com/jp/motherboards/rog-strix/rog-strix-z890-i-gaming-wifi/helpdesk_bios/
USBメモリを挿入したままBIOSを起動し、アドバンスドモードの「ツール-ASUS EZ Flash 3 Utility」でストレージデバイスからのアップデートでBIOSファイルを選択します。あとはガイドに従ってクリックしていけばOKです。

最新のASUS製マザーボードではBIOSアップデートファイルとしてZIP圧縮形式をそのまま使用でき、読み込むファイル形式がZIPに固定されています。
マザーボード公式ページではZIP圧縮で配付されているのでそのままUSBメモリにコピーして読み込めばいいのですが、従来通り、各自で解凍済みCAPファイルを読み込む場合は、BIOS設定のドロップダウンメニューから読み込むファイル形式をCAPに変更してください。

ブートとOSインストール周りについて紹介します。とはいってもASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIのブート回りは下画像のように非常に簡潔にまとめられており初心者でも迷うことはないと思います。
OSのインストールも「Boot Option #1」に「UEFI:〇〇」というOSインストールメディアを設定して保存&退出でOKです。
「Boot Option #1」の下にスクロールしていくとブートデバイスを個別に指定して再起動できる「Boot override」もあるのでこちらから、同様に「UEFI:〇〇」というOSインストールメディアを選択してもOKです。

BIOSのアップデートやWindows OSのインストール方法を紹介したところで、ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIのBIOS機能で筆者が気になったものをいくつかチェックしていきます。
「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」のリセットスイッチはFlexkeyという機能に対応しています。 BIOS上から、「リセット」「AURA オン/オフ」、「DirectKey(起動してBIOSメニューを表示)」など押下時の機能を切り替えることができます。

Intel Core Ultra 200SシリーズCPUはThread Directorと呼ばれるスケジューラーによってCPUコアに適切なタスク分けを行いますが、一部のゲームに対しては適切にスケジューリングができないことがあります。
それによる性能低下をWindows上ソフトウェアによって解決するため、第14世代CPUと同時に導入された「Intel APO(Application Optimization)」があり、通常、Intel Core Ultra 200SシリーズCPU環境では標準で有効化されています。

このIntel APOを利用する前提条件として、BIOS設定においてDTT(Dynamic Tuning Technology)と呼ばれる機能を有効にしておく必要があります。
「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」などASUS製Intel 800シリーズ マザーボードでは、詳細タブ内のThermal Configuration - Intel Innovation Platform Framework Configurationに”Intel Innovation Platform Framework”という設定項目として配置されています。
Intel APOの使用要件としては”DTT”のほうが呼称として有名ですが、ASUS製マザーボード内ではIPF(Intel Innovation Platform Framework)の名前で配置されています。



よく使うBIOS設定をお気に入りリストに登録する機能もあります。他設定同様に左右カーソルキーでお気に入りタブに切り替えます。
F3キーのショートカットで開くことができる設定ツリーマップからお気に入りリストに登録する設定を選択したり、登録した設定を削除できます。


最近、各社マザーボードに搭載されているOS起動後のドライバ自動ダウンロード機能についてはASUS製マザーボードではこれまでArmoury Crateという名前で設定が配置されていましたが、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」ではより直感的に分かる”DriverHub”という名前に変わっています。


「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」を含め最新のASUS製マザーボードでは、「モニタ(Monitor)」のタブページを開くと温度モニター、ファン回転数モニター、電圧・電流モニター、Q-Fan設定の4つの小項目に分けて表示されます。

マザーボード上のコンポーネント詳細でも紹介した外部温度センサーについてはBIOS上からも温度をモニタリングできます。簡易水冷(AIO水冷)ポンプ専用の項目も用意されており、ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIであれば冷却機能周りは空冷・水冷ともにほぼ全てBIOS上でコントロール可能です。



モニタ - Q-Fan設定の順にアクセスするとファン制御設定ページが表示されます。

BIOS上のファンコントロール機能についてですが、CPUファン端子とCPU OPT端子はCPU温度依存のファンコントロールしかできませんが、その他のケースファン端子については、VRM電源温度などの各種温度ソースからファンコントロールが可能です。

ファン制御プロファイルを手動にするとファンカーブの制御ポイントを複数しているすることが可能です。
下限温度以下で冷却ファンを停止させる所謂セミファンレス機能を実現する「ファンの停止許可」の設定も用意されています。


ASUSマザーボードにもグラフィカルUIによるファンコントールの設定機能「Q-Fan Control」があります。
機能的には上で紹介したコンソールのファンコンと同じですが、グラフィカルUIでわかりやすく設定できるよという機能になっています。
2024年後半に発売されたAMD 800シリーズやIntel 800シリーズの最新マザーボードでは、温度・ファン速度デューティ比の一覧ボックスや、制御ソース温度も一緒に表示されるようになり、かなり使い易くアップデートされています。

「ASUS ROG STRIX X870-I GAMING WIFI」はVRM電源クーラー用とM.2 SSDヒートシンク用の2カ所にアクティブ冷却ファンを標準搭載しており、BIOS上のファンコン機能ではそれぞれ、”VRMヒートシンクファン Q-Fan制御”、”チップセットファン Q-Fan制御”として登録されています。
いずれも手動ファンカーブ設定、セミファンレス動作など、通常のケースファン同様にファン制御が可能です。


またM.2 SSDヒートシンク上に追加で設置できる冷却ファン用のファン端子は”追加フローファン Q-Fan制御”として登録されています。これも手動ファンカーブ設定、セミファンレス動作など、通常のケースファン同様にファン制御が可能です。


「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」など最新のASUS製マザーボードには”BIOS Q-Dashboard”というマザーボード上に実装された各種ポートの名前と位置を確認できる機能もあります。
ファン端子の添え字の数字を見てもマザーボード上の位置が分からず、マニュアルと見比べることも多いので、マザーボード内で完結できるのは地味に嬉しいです。



ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIのOC設定について
ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIを使用した場合のオーバークロックの方法を紹介します。なおオーバークロックはメーカー保証外の行為であり製品の破損やデータの消失もすべて自己責任となります。オーバークロック検証時は最小構成(CPU、マザーボード、メモリ、システムストレージ、グラフィックボード)以外は基本的にすべて外し、可能ならOC検証用のシステムストレージを用意するなど細心の注意を払ってください。
「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」のオーバークロック設定は「Ai Tweaker」というトップメニューのタブページにCPUコアクロック、メモリ、電圧など各種設定項目が集約されています。
「Ai Tweaker」ページをスクロールしていくとCPUコアクロック、メモリ、電圧などの各種設定項目が表示されるので設定しやすいUIです。設定値を直接入力する項目でデフォルトの「Auto」に戻す場合は「a」キーを入力すればOKです。

ASUS製のIntel 800シリーズ マザーボードでは「Performance Preferences」、「Intel Default Settings」からIntel公式仕様通りの動作プロファイル(電力制限、電流制限)を適用するかどうか設定できます。



Intel第13/14世代CPUで話題になった”Baseline”プロファイルとかに関連する設定です。
当サイトではCore-X登場当時、かれこれ7年ほど前からMBの初期設定は公式仕様通りにすべきと主張していたので、やっと時代が追いついた気がして感慨深く、そうなったのは嬉しい変化です。
旧世代のマザーボードにおいて、MB自動のOCを無効化し、Intel公式仕様通りの電力制限を適用するのに使用していたASUS Multicore Enhancementについても設定が残っています。(単コア最大動作倍率を全コア最大動作倍率に適用、というのが元々の機能)
Performance PreferencesやIntel Default Settingsの設定が優先されるので、ASUS Multicore Enhancementは”Auto - Lets BIOS Optimize”のままでもOKです。

また従来製品と同じく、Ai Overclock Tunerのプルダウンメニューから「Auto(自動)/Default」「Manual(手動)」「XMP (D.O.C.P)」の3つの設定モードが選択できます。
Autoモードは基本的な設定項目に関する自動or手動設定が可能な一般ユーザー向けの設定モードとなっています。
ManualモードはBCLK等の詳細なOC設定項目が解放される上級者向けの設定モードです。
XMP(D.O.C.P.)モードはManualモードベースですが、OCメモリに収録されたXMPプロファイルを適用できる設定モードになっています。

Intel Core Ultra 200SシリーズCPUはFoverosと呼ばれる3Dパッケージング技術を応用し、ベースダイ上にCompute Tile、SoC Tileなど複数のシリコンタイルを積層する構造が採用されています。
iGPUが実装されているGraphic Tileだけでなく、SoCタイルのD2DやNGUといったインターコネクト(fabric)類もOCの対象になっていて、設定できることも増えてやや複雑になっていますが、とはいえ、メインはやはりCompute Tileです。


Intel Core Ultra 200SシリーズCPUでもOCや電力制限の主な対象となるCompute Tileには前世代同様に高性能コアP-Coreと高効率コアE-Coreがあり、2種類の混成でCPUが構成されています。
またIntel Core Ultra 200SシリーズCPUには省電力性能を高める新機能としてDLVR(Digital Linear Voltage Regulator; デジタルリニア電圧レギュレータ)呼ばれるCPU内蔵VRが搭載されています。
P-CoreとE-Coreには個別に動作倍率を設定するところは従来同様ですが、DLVRが追加されたIntel Core Ultra 200SシリーズCPUでは各P-Coreや各E-Core Clusterに対して個別に電圧、V-Fカーブを設定できるようになっており、より柔軟に低電圧化や、昇圧による単コアブースト引き上げなどOCが可能です。

By Core Usage倍率によるOCについて
By Core Usage倍率によるオーバークロック、V-Fカーブによる低電圧化といった近年のIntel Core CPUのチューニングにオススメな設定について紹介します。近年のIntel製CPUはアクティブコア数(大きい負荷のかかっているコア数)に応じて最大動作倍率が変化するBy Core Usage倍率により、例えばCore Ultra 9 285Kなら最大5.7GHzのような単コア最大動作倍率で動作が可能になっており、高いシングルスレッド性能を発揮します。
優良コアが電圧を盛れば6GHzに迫るような高コアクロックで動作できる一方、同じコアクロックで全コアを稼働させることは相対的な不良コアの電圧特性的にも、CPUパッケージ全体での発熱的にも難しいので、シングルスレッド性能を損なう全コア一律のコアクロックを適用するマニュアルOCはベンチマークスコアを重視したOC競技的な設定となっており、現在の常用OCにおける主流はBy Core Usage倍率とV-Fカーブを組み合わせた手法です。
まずはBy Core Usage倍率によるコアクロックの設定について説明します。
By Core Usage倍率関連の基本的な話は共通なので、旧世代のCore i9 13900Kを例にしますが、13900KのPコアは1~8コアのアクティブコア数に応じて[58, 58, 55, 55, 55, 55, 55, 55]というBy Core Usage倍率が適用されています。(コアクロックはベースクロックBCLK、通常100MHzに対する倍率で決まる)
アクティブコア数が2コアまでであれば、そのアクティブコアは最大5.8GHzで動作します。所謂、単コア最大ブーストクロックのことです。(1コアではなく2コアまでなどの時もありますが、便宜上、単コアと呼びます)

一方、Cinebench R23のマルチスレッドテストやx264動画エンコードのように全コアへ大きな負荷がかかるシーンでは全コアが最大5.5GHzで動作できます。
なぜ”最大”と注釈つくかというと、特にCPU全体の発熱が大きくなる全コア負荷時については、長期間電力制限(Long Duration Package Power Limit; PL1)や臨界温度(Tj Max)、Thermal Velocity Boostによるコアクロック制限が適用されることがあるからです。

ゲーム性能に対しては全コア最大動作倍率が重要であり、逆に電力や温度といったCPU負荷自体は軽いという特長があります。
ゲームシーンで高い性能を実現しつつ、CPU負荷の大きいクリエイティブタスクではCPU Package PowerやCPU温度を制御ソースとして各自冷却環境(CPUクーラー)で冷やせる範囲内で最大の性能を発揮できるようにする、というパフォーマンスデザインです。

By Core Usage倍率とV-Fカーブ、Thermal Velocity Boost等のOC機能を組み合わせると、Cinebench R23のような高負荷なマルチスレッド性能はそのままに低電圧化で消費電力やCPU温度は大幅に下げ、同時にP-Coreの単コア最大ブーストクロックをOCしてシングルスレッド性能を伸ばすことができます。

さらにPCゲームのような軽い負荷であれば、P-Core Allの動作倍率を引き上げることでゲーム性能も向上も狙えます。
例えばBy Core Usage倍率による全コア最大動作倍率を57倍に引き上げ、Thermal Velocity Boostによって8コア負荷時にCPU温度 80度以上でコア倍率 -2倍の制限をかけるとCinebench R23のような高負荷ではP-Core All 5.5GHz動作となりますが、ゲーム中はP-Core All 5.7GHzにするような運用が可能です。

なぜBy Core Usage倍率を使用するのか前置きの説明が長くなりましたが、Core Ultra 200SシリーズCPUとZ890マザーボードにおけるOC設定に話を戻します。
「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」の場合は、Performance Core Ratioという項目のプルダウンメニューから、P-Core動作倍率の設定としてBy Core Usageを選択できます。
By Core Usage倍率の設定値は[58, 58, 57, 56, 56, 56, 55, 55]のようにバラけさせることも可能ですが後ほど電圧設定が面倒になります。
[58, 58, 56, 56, 56, 56, 56, 56]のように後述のTBM3.0で優先可能な2コアだけ単コア最大ブーストクロックを引き上げ、残りは同じ倍率に揃えるのがオススメです。


Intel Core Ultra 200Sシリーズのうち、Core Ultra 9/7のP-Coreは「Intel Turbo Boost Max 3.0 Technology (TBM3.0)」に対応しています。
TBM3.0は、CPUダイ上で最も電圧特性の良いコア(CPU個体ごとに異なる)を自動で選別し、非常に高い単コア最大ブーストクロックで動作させ、アクティブタスクへ優先的に割り当ててくれる機能です。

電圧特性が優良なコアは、Windows上で使用できるIntel公式のOCツール Extreme Tuning Utility (XTU)から確認が可能です。優良コアには星マーク(☆)が付いています。

P-Core別の最大動作倍率(Performance Core Specific Ratio Limit)は定格では上のXTUのスクリーンショットのように優良コアとその他で分けて設定されています。
TBM3.0によるタスク割り当てに非対応の場合、1~2コアを使用する少アクティブコアなタスクが最大5.8GHzの優良コアに割り当てられるか、最大5.5GHzのその他に割り当てられるかは完全にランダムとなり、性能にブレが生じます。
Intel Core Ultra 200SシリーズのうちCore Ultra 9/7はTBM3.0により少アクティブコアなタスクは優良コアが優先されるので、非優良コアの最大動作倍率(電圧特性)に引っ張られることなく、優良コアへより高い単コア最大ブーストクロックが適用することで、安定して性能を向上させることができます。
また、手動OCによってBy Core Usage倍率で設定する単コア最大ブーストクロックを定格よりも引き上げると、一般的にマザーボードBIOSの多くは全てのP-Coreの最大動作倍率をその値へ一律に引き上げます。
当然、優良コアとその他では安定動作できる最大動作倍率は異なるので、By Core Usage倍率を定格よりも引き上げる場合は、P-Core別の最大動作倍率も適切に設定する必要があります。
P-Core別の最大動作倍率を設定するには、Performance Core Ratioの下にあるSpecific Performance Coreの項目を開きます。
優良コアの最大動作倍率(Performance Core〇 Specific Ratio Limit)だけ単コア最大ブーストクロックに一致させます。
優良コアはWindows OS上のアプリケーション XTUを使用すれば確実に確認できますし、マザーボードメーカーにも依りますが、ASUS製の場合は”*”マークが付いているコアが優良コアです
その他のコアはBy Core Usage倍率のAll Core倍率に一致させればOKです。面倒でなければ、CPU個別のOC耐性に合わせて各自で個別に設定してください。

実のところ、By Core Usage倍率やSpecific Ratio Limitに関する設定は第13/14世代CPUと同じですが、Intel Core Ultra 200Sシリーズで新たに導入された機能「Granular Ratio」があります。
従来のIntel製CPUはベースクロック 100MHzに対して整数倍で、つまり100MHz単位で動作クロックが制御されていましたが、Intel Core Ultra 200Sシリーズでは16.67MHz単位というより細かな制御に対応しています。

16.67MHz単位でコアクロックを制御するGranular Ratioはそれだけ細かい制御を可能とする電力制御による省電力性能の向上だけでなく、性能面やOCにおいてもCPU電圧特性の限界まで高クロックを追求し、CPUのポテンシャルを最大限に発揮できるというメリットがあります。
By Core Usage倍率は従来通り、ベースクロックに対する整数倍率を設定しますが、実はSpecific Ratio LimitはGranular Ratioの16.67MHz単位で設定できます。

1つ注意点として、Granular Ratioによる端数を含む(100MHz単位でない)最大動作倍率を設定すると、Specific Ratio Limit自体は端数切り上げの設定値になります。
例えば、Granular Ratioで58.17GHzに最大動作倍率を設定した場合、Specific Ratio Limit自体は端数切り上げの59倍となり、コアクロック制限で最大58.17GHz動作になります。
Granular Ratioの端数込みで最大動作倍率を設定する場合、実際に58.17GHzで動作させるにはBy Core Usage倍率も端数切り上げ数値の59倍に設定する必要があります。また後述のAdditional Turbo Mode Voltageの参照値となる最大動作倍率も端数切り上げ数値になるので注意してください。
以上が高性能P-Coreの動作倍率設定ですが、高効率E-Coreも動作倍率の設定フォーマット自体は同じです。
Windows OSと協調するIntel Thread Directorで優先すべきタスクはP-Coreに割り当てられ、E-Coreの主な役割は、マルチスレッド性能を引き上げる補助コア、もしくは優先度の低いタスクのバックグラウンド処理用コアです。
E-Coreもアクティブコア数に応じたBy Core Usage倍率は設定が可能ですが、少ないアクティブコア数の時にブーストさせる意味があまりないので、OC設定を簡略化させる意味で、E-CoreはSync All Coreで一律に動作倍率を設定してしまうのがオススメです。

前述の通り、Sync All Coreで一律に設定するのがオススメですが、E-Coreは4コア1組のクラスターとして個別に動作倍率や動作電圧を設定することも可能です。P-Core同様に16.67MHz単位のGranular Ratioにも対応しています。

VFカーブOC電圧設定や電力制限について
続いて電圧設定について説明していきます。CPUには個体差がありますが、電圧特性に応じたCPUコア電圧とコアクロック(周波数)の比例関係を指定するV-Fカーブがそれぞれ収録されています。
CPUコア電圧モードを分類すると、まず定格モードがあり、定格のV-Fカーブに対して、周波数に依らず一定の昇圧or降圧を行うオフセットモード、さらに周波数に依らず一定の電圧を適用するオーバーライド(マニュアル)モードがあります。
Intel Core Ultra 200SシリーズCPUをBy Core Usage倍率でオーバークロックする時に使用するのがアダプティブモードです。
一例としてCore Ultra 9 285Kでは最小動作倍率800MHzから最大動作倍率5700MHz(a頂点)までのV-Fカーブが定格モードとして収録されています。
最大動作倍率を6000MHzにOCした時にV-Fカーブがどうなるかというと、5700MHz~6000MHzの間にはV-Fカーブがないので、Additional Turbo Mode Voltage(Adaptive Voltage Override)という電圧値を設定することで、OC最大倍率に対するb頂点が決まります。a頂点とb頂点の間は自動的に補間されます。

Intel第13/14世代CPUにおいてCPUコア(P-CoreとE-Coreの両方)とキャッシュ(Ring、L3キャッシュ)は全てGlobal Core SVID Voltageによって電力供給され、単一のV-Fカーブで動作していました。
Intel第13/14世代CPUにもSpecific Performance/Efficient Coreの項目から個別に電圧を設定できたので紛らわしかったのですが、この個別コア電圧設定で動作するのは、そのコアだけがアクティブな状態の時に限定されます。

第13/14世代CPUと大きく異なる点として、Intel Core Ultra 200SシリーズCPUにはDLVR(Digital Linear Voltage Regulator; デジタルリニア電圧レギュレータ)呼ばれるCPU内蔵VRが搭載されています。個別P-Core 、個別E-Core Cluster、iGPU、SoCにはそれぞれ専用のDLVRがあります。
Core i9 Ultra 285Kの場合、8個のP-Coreと4個のE-Core Clusterにはそれぞれ専用のDLVRがあり、マザーボードVRMから供給されるVccIA電圧を共通のソースとして、SVIDプロトコルによってリクエストされた電圧を各DLVRが対応するコアへ供給します。

Intel Core Ultra 200SシリーズCPUと800シリーズ マザーボード環境では、DLVR介して各コンポーネントに電圧を供給するRegulation Modeが既定設定です。
DLVRを素通ししてMB VRMから直接電圧供給するPower Gate Modeもありますが、LN2極冷OCのような特殊なOC用なので無視してOKです。
ASUS製マザーボードにおいてActual VRM Core Input VoltageはMB VRMからDLVRに供給される電圧なので、基本的にここも触る必要はありません。

「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」ではPerformance Core DLVR VoltageからAdaptive Modeを選択することで、P-CoreのAdditional Turbo Mode Voltageを設定できます。
Efficient Core、Ringなど各コンポーネントに対してDLVR Voltageの設定項目があり、Intel Core Ultra 200SシリーズCPUでは全てを個別に設定できます。

上のようにPerformance Core DLVR Voltageの項目からAdditional Turbo Mode Voltageを設定すると、全てのP-Coreに対して一律で同じAdditional Turbo Mode Voltageが適用されますが、CPU動作倍率の設定で紹介したSpecific Performance Coreからであれば、各P-Coreに対して、異なるAdditional Turbo Mode Voltageを設定することも可能です。

以上で基準となるV-Fカーブが決まったので、続いてV-Fカーブによる低電圧化を行います。
Intel Core Ultra 200SシリーズCPUではV-Fカーブ(動作周波数と動作電圧の関係)を細かく調整できます。P-Coreだけでなく、E-CoreについてもVFカーブの設定が追加されています。
「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」ではV/F Point Offsetの名前で同設定が配置されています。


V/F Point Present ModeをAll Core Modeに切り替えると全てのP-Coreに対して一律で設定を適用します。
CPU個体毎に異なる各周波数のストック電圧に対して+/-のオフセット電圧を設定できます。
Core Ultra 9 285Kの場合は800MHz、2000MHz、3000MHz、4800MHz、5300MHz、5500MHz、5600MHz、5700MHzに対してmV単位でコア電圧オフセット値を指定できます。
8番と同じく5700MHzになっている9番のV-Fポイントについては標準では使用せず、Specific Performance Core Ratio Limitで既定最大値(58倍)より大きく設定した場合にOC最大倍率のV-Fポイントになります。

V/F Point Present ModeをPer Core Modeにすると結構面倒なことになりますが、個別P-Coreに対して、異なるV-Fカーブオフセットの設定も可能です。


ASUS製マザーボードでは電力制限や電流制限に関する設定はInternal CPU Power Managementの中に配置されています。

By Core Usage倍率でオーバークロックを行う場合は、IccMaxを定格設定値よりも引き上げてください。電力制限や臨界温度と同様、高負荷時にコアクロック低下の原因になります。
MB初期設定でIccMaxもCPU定格値を適用する理由にもなった第13/14世代CPUにおける動作不安定性問題はCPUマイクロコードバグによる過剰電圧が原因だったので、Intel Core Ultra 200SシリーズCPUでOCする場合はUnlimited ICCMAXの設定から無制限にしても特に問題ないと思います。
とはいえ無制限にするのが気になる人は、CPU Core/Cache Current Limit Maxで特定値を指定できるので、定格設定値と見比べてIccMaxがマルチスレッド負荷時のボトルネックにならない数値を設定してください。

By Core Usage倍率によるオーバークロックで全コア最大動作倍率も引き上げている場合は、電力制限や臨界温度を使用して、高負荷時のCPUコアクロックに制限をかけ、CPU温度や消費電力を下げます。
CPU電力詳細設定には「瞬間許容電力制限値(Short Duration Power Limit、PL2)」、「許容電力上限値(Long Duration Power Limit、PL1)」という2つの電力制限機能があり、電力制限がかかる閾値(単位はW)と電力制限がかかるまでの時間を設定できます。
電力制限がかかるとCPU Package Powerがその指定電力内に収まるようにコアクロックに制限がかかります。


CPU温度が一定以上(臨界温度, Tj Max)に達した時にCPUコアクロックを下げる、所謂、サーマルスロットリングが発生する閾値を指定するのがMaximum CPU Core Temperatureです。
Tj MaxはIntel Core Ultra 200SシリーズCPUでは一般的に105度に設定されています。基本的には上記のPL1/PL2の電力制限でCPUクーラーの性能に応じたコアクロック制限をかけ、Tj MaxはCPUクーラーに故障が発生した時のセーフティ的な使い方オススメです。

「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はThermal Velocity Boostの設定に対応しています。
Thermal Velocity Boostはコアクロックを上昇させる機能のような名前ですが、実際には、By Core Usage倍率に対して、TVB Ratio Clippingという設定によってCPU温度が閾値以上の時に動作倍率を-1倍など設定値に応じて引き下げます。
一定温度以下であれば非常に高い単コア最大ブーストクロックが動作するコアがある、ゲーム(低温)とクリエイティブタスク(高温)で全コア最大動作倍率をそもそも切り替えたい、という時に使用する機能です。


Overclocking TVBをEnabledに変更することで、OC TVB Configuration Limitという項目が表示され、Thermal Velocity Boostの設定値を任意に変更できるようになります。
Thermal Velocity Boostによる動作倍率制御方法として、アクティブコア数に対して設定するPer P-Core Groupに加えて、Intel Core Ultra 200SシリーズCPUでは新たに、P-Core個別に設定するPer CPP Moduleが追加されています。Bothを選択すれば両方とも設定できます。

Per P-Core GroupとPer CPP ModuleのどちらのTVB制御モードもアクティブコア数/各P-Coreに対して閾値温度/ネガティブオフセット倍率のセットを2種類ずつ設定できます。
Intel Core Ultra 200SシリーズCPU特有の注意点として閾値温度は設定値よりも5度高い温度になるようです。55度で設定した場合、60度以上で設定したネガティブオフセット倍率が適用されます。
なお閾値温度が参照する温度はCPU Package全体の温度ではなく、Per P-Core GroupとPer CPP ModuleのどちらでもP-Core個別の温度とのこと。


Pコア毎、アクティブコア毎に個別に設定するのが面倒であれば、OC TVB Ratio Item ModeをAll Core Modeにすることで一律で同じ設定を適用できます。

Intel Core Ultra 200SシリーズCPUは高効率コアE-Coreがアーキテクチャ上、AVX-512に対応していないので、P-Coreも含めたCPU全体としてもAVX-512に非対応です。
元々は発熱が非常に大きいAVX-512に対応するために用意されていた設定ですが、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」でもAVX2実行時の発熱を低減する方法として、従来の倍率動作オフセットに加えて、Voltage Guardband Scaleと呼ばれる電力制限に近い機能を使用できます。


Digi+ VRMという項目の中にロードラインキャリブレーションの設定も配置されています。
Intel Core Ultra 200SシリーズCPUはMB VRMとCPUコアの間にDLVRがありますし、最近のCPUはストック状態で限界近くまでチューニングされているので、LN2極冷等の極端なOCでもない限り、Auto設定のまま放置で良いと思います。

一応少し補足すると、ロードラインキャリブレーションはCPU負荷時の電圧降下を補正してOCを安定させる機能です。
補正の強度としてLevel 〇で何段階か用意されています。Levelの添え字の数字が大きくなるほど電圧降下の補正は強くなり、OCは安定しやすくなりますが発熱も大きくなります。また強い補正では瞬間的に電圧のスパイクも生じるのでCPUにダメージが蓄積しやすいです。手動で設定する場合は真ん中あたりから始めて安定する設定値を模索していくのがおすすめです。

メモリのオーバークロックについて
メモリのオーバークロックについても簡単に紹介しておきます。メモリの性能について簡単に言うと「動作クロックが高く」「タイミングが小さい」ほど性能は高くなります。
そのためメモリOCを手動で行う手順を簡単にすると「電圧を上げて動作可能なクロックを探し」、「そのクロックにおいて正常に動作する最小のタイミングを探る」という2つの手順を繰り返すことになります。
なお、 メモリOCではPOSTすらクリアできずBIOSに到達できないことも少なくありません。メモリ設定を初期化できるようにCMOSクリアの手順を事前に確認しておいてください。
Intel XMPやAMD EXPOのOCプロファイルによるメモリOCは上の手順によるOC選別をメーカー側がすでに行い動作確認をしているので、メーカーが動作確認を行ったOCプロファイルを適用するだけで簡単にメモリをオーバークロックできます。
「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はIntel環境に最適化されたXMP対応メモリだけでなく、AMD EXPO対応メモリのどちらでもOCプロファイルによるメモリOCが可能です。
ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIなどASUSマザーボードでは、メモリに収録されたAMD EXPOプロファイルからIntel製CPU環境でも使用可能なメモリOCプロファイルを自動生成する機能 D.O.C.Pがあります。
「Ai Overclock Tuner」から「XMP (D.O.C.P)」モードを選択することで、自動生成されたOCプロファイルによるメモリOC設定の適用が可能です。

「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」などASUS製Z890マザーボードではメモリOCプロファイルの適用に”XMP (D.O.C.P) 1”と”XMP (D.O.C.P) 2”の2つのモードがあります。
XMP 1では30-38-38-90のような主要タイミングのみが適用され(その他は全てマザーボードによる自動設定を適用)、XMP 2ではその他のサブタイミングもOCプロファイルの通りに適用されます。
Intel製CPUとIntel XMP対応メモリのような組み合わせであればサブタイミングまで適用される”XMP 2”で問題ありませんが、異なる組み合わせの場合は”D.O.C.P 1”が安定しやすいようです。

メモリ周波数は「DRAM周波数(DRAM Frequency)」という項目のプルダウンメニューから動作クロック(倍率)を任意に設定可能です。メモリ周波数もBCLKに対する倍率で動作周波数が決まります。
XMP/EXPOを使用せず、「DRAM Frequency」の設定値が自動(Auto)になっている場合は、使用するメモリにSPD情報として収録されている動作クロック4800MHz、5600MHzなどのメモリ周波数およびタイミングによる定格動作となります。

Intel Core Ultra 200SシリーズCPUは動作周波数が高速なDDR5メモリだけをサポートするので、そのメモリコントローラー周波数(IMC周波数)は、メモリ周波数に対して1:2同期のGear2(メモリ周波数が6400MHzならメモコンは3200MHz)、1:4同期のGear4(メモコンが1600MHz)という2つの動作モードがあります。
Intel Core Ultra 200SシリーズCPUはIMCのOC耐性個体差にも依りますが、メモリ周波数 8400MHzくらいまでは1:2同期でも動作するようです。

メモリタイミングの個別打ち込み設定も可能です。

メモリタイミングを手動で設定する場合、基本的にはOCメモリ製品のスペックとして公表されることの多い、「CAS Latency (tCL)」、「RAS to CAS Read/Write (tRCD)」、「RAS Precharge (tRP)」、「RAS Active Time (tRAS)」の主要な4タイミングと、加えて「Command Rate:1 or 2」と「Refresh Cycle Time (tRFC)」の6つ以外はAutoのままでいいと思います。

高メモリクロックのOC時にWindowsの起動や軽い動作までは安定するものの、メモリストレステストでエラーが出る程度の状態であれば、「Write Recovery Time (tWR)」や「CAS Write Latency (tCWL)」をいくつか引き上げることで安定する可能性があります。

メモリOCで調整するサブタイミングにおいて「Refresh Interval (tREFi)」だけは数字が大きいほどメモリ動作が高速・低遅延になります。またtREFiはメモリ温度によるメモリエラー発生にも影響の大きい設定値です。
tREFiの設定値は『256×整数値 - 1』がよく使用されます。例えば256*128-1=32767は低遅延な反面、メモリ温度にシビアです。256*32-1=8191は速度はそこそこですが、温度に対して耐性が高い設定という感じです。
OCプロファイル適用時の自動設定についても、ベンチマークスコア重視で25000~32000程度だったり、安定性重視で6000~8000程度だったり、MBメーカーやモデルによってまちまちです。

メモリ電圧が1.300~1.400V程度の一般的な常用メモリOCであれば60~80mm径のファンで風を当ててやるだけでメモリ温度を50度前半かそれ以下に抑えることが可能です。
メモリ温度が60~70度を超えて発生する温度原因のメモリエラーについてはメモリ設定を調整するよりもスポットクーラーを増設して温度を下げる対策のほうが手っ取り早く楽なのでオススメです。
ただ8000MHz超のハイクロックかつ1.450V以上の高電圧の場合はファンを使っても十分に冷やすのが難しく、55度~60度に冷やしても温度原因でエラーが生じる可能性があります。その場合は、tREFiをAuto設定の設定値から引き下げる形で微調整をしてみてください。

メモリの周波数OCを行う際は「DRAM電圧(DRAM VDD Voltage)」の項目を昇圧します。
DDR5メモリに対応したマザーボードでメモリ周波数を6000MHz以上にOCする場合はメモリ電圧を1.300~1.400Vに盛ってください。メモリをOCする場合は最初から1.350V以上にDRAM電圧を盛っておくのがおすすめです。

加えてメモリ周波数やIMC周波数をOCする時に調整した方がいい電圧設定として、DDR5メモリ対応マザーボードの場合は「VCCSA(CPU System Agent Voltage)」、「DRAM VDDQ(DRAM VDDQ Voltage)」、「CPU VDD2(Memory Controller Voltage)」の3つを調整すると良いようです。
DRAM VDDQとCPU VDD2は簡単にDRAM VDDと揃えればOKです。

その他のOC設定やTipsについて
Intel Core Ultra 200SシリーズCPUやZ890マザーボード環境における、その他のOC設定やTipsについていくつか紹介しておきます。Windows OS上でCPUのOC設定が正常に適用されているか確認する方法として、Intel純正アプリケーション Extreme Tuning Utility (XTU)を使用する人は多いと思います。

Intel Core Ultra 200SシリーズCPUとWindows 11 24H2など最新Windows環境ではVBS(Virtualization Based Security;仮想化ベースのセキュリティ)が標準で有効になるようで、特定の条件を満たさないとXTUがそもそも起動できません。
なおよく言及される設定として、Windows設定のデバイス セキュリティ内にある、コア分離、メモリの整合性をオフにしても、VBSそのものは無効にならず、下の状態ではXTUを起動できません。

『Windowsアップデートを最新にする』、『BIOSを最新バージョンにアップデートする』は分かり易いのですが、最後の『Undervolt Protectionを有効にする』が不慣れなユーザーには難しいと思います。
ASUS製マザーボードの場合、Ai Tweaker(もしくはExtreme Tweaker)タブ内のTweaker's Paradiseという項目内にUndervolt Protectionが配置されています。


「Performance Preferences」、「Intel Default Settings」で定格動作プロファイルが適用されていれば、通常、Undervolt Protectionは有効になっていると思いますが、XMPのメモリOC等で勝手に無効化されることもあるので、XTUを使用する人はAutoから手動で有効に切り替えておいてください。
もしくは個人がゲーム用等でPCを使う分には仮想化ベースのセキュリティが必要かというと微妙です。
詳細タブのCPU設定に配置されている「Intel (VMX) Virtualization Technology」を無効に切り替えるとVBSそのものを無効化できるので、自己責任にはなりますが、XTU上で低電圧設定を行いたい場合(Undervolt Protectionを無効にする必要がある)には検討してみてください。

帯域ベンチ等で効果は確認できるものの、P-Core/E-CoreのOCに比べて実用性能への影響があるかというと微妙ですが、Intel Core Ultra 200SシリーズCPUではRing(キャッシュ)、SoCタイルのD2DやNGUといったインターコネクト(fabric)類もOCの対象になっています。
キャッシュ動作倍率は「CPUキャッシュ最大動作倍率(Max CPU Cache Ratio)」から変更可能です。CPUコアクロック同様にベースクロックに対する動作倍率でキャッシュの動作周波数を設定できます。

Intel Core Ultra 200SシリーズCPUではキャッシュ用のDLVRがあるので、Ring DLVR Voltageから個別に電圧を設定できます。

Intel第13/14世代CPUでは、CPUコアとキャッシュの電圧は共有されていたので、省電力化のため、Ring動作倍率がP-Core/E-Core動作倍率を上回らないようにRing Down Binという設定があり、Intel Core Ultra 200SシリーズCPUでも同設定は引き継がれています。
またOC時は同機能の無効化が推奨されており、Intel Core Ultra 200SシリーズCPUでも同じヘルプガイドがありますが、固有のDLVRがあるのでどちらでもいい気がします。

Intel Core Ultra 200SシリーズCPUではSoCタイルのD2DやNGUといったインターコネクト(fabric)類もOCが可能です。
OCするとAIDA64のメモリ・キャッシュベンチマークで帯域幅の向上、遅延の低減は確認されていますが、 やはりP-Core/E-CoreやメモリそのもののOCに比べると実用的な効果はよく分からないというのが正直なところです。


Intel Core Ultra 200SシリーズCPUではD2DとNGUにも専用のDLVRがあるので、VNNAON Voltageから個別に電圧を設定できます。

「Ai Overclock Tuner」から「Manual」モードもしくは「XMP (D.O.C.P)」モードを選択するとベースクロック(BCLK)の設定項目が表示されます。
デフォルトのAutoでは100MHzに固定されていますが、設定値を直打ちすることで任意に設定が可能です。CPUコアクロックはBCLKに対する動作倍率で設定されるのでBCLK110MHz、動作倍率45倍の場合はコアクロック4.95GHz動作となります。ただしBCLKを使用したOCはかなり上級者向けなので通常はAutoか100MHzが推奨です。

メモリ、NGU、D2Dには別にSOC BCLK Frequencyという設定項目があり、CPUやキャッシュとは独立して異なるベースクロックを設定できます。

ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIの動作検証・OC耐性
BIOS周りの筆者的に気になるところの紹介はこのあたりにしてASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIを使用した検証機で具体的に動作検証とOC耐性をチェックしていきます。「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」にCore Ultra 9 285Kを組み込んだ場合のBIOS標準設定における動作についてですが、P-Coreは最大57倍、全8コアで54倍の動作倍率になっており、CPUコア動作倍率は仕様値通りです。
電力制限についても、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」の初期設定でPL1/PL2:253W、短期間電力制限時間Tau:56s、IccMAX:357Aなので、Power Delivery Profile:Performanceの定格設定通りです。



電力制限以外にもCPU動作に大きく影響する項目についてまとめました。
Turbo Boost Max 3.0はアクティブなタスクに対して単コア最大動作倍率など最も高速に動作している(電圧特性に優れた)コアを割り当てる機能です。
Thermal Velocity Boostは閾値温度以下においてブーストクロックを引き上げる機能と説明されていますが、機能の実装としてはBy Core Usage倍率に対してTVB Ratio Clippingという設定によってCPU温度が閾値以上の時に動作倍率を-1倍に(正確にはCPU毎に設定された倍率に)引き下げるという形になっています。
AVX Voltage Guardband Scaleは該当するAVX命令実行時のコア電圧を調整する機能です。0.00~2.00の範囲内で設定し、定格設定は1.00です。1.00以下では低電圧化、1.00以上では高電圧化します。(マザーボードに依っては128を基準に0~255の整数値で設定)
低電圧化というよりもAVX実行時の電力制限(AVX限定のPL1)に近い動作なので、Scale=0.01など極端な設定でもクラッシュすることはありませんが、性能は低下するものと思われます。
ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI (BIOS:1051) Core Ultra 9 285Kの標準動作設定 |
||
標準設定 | 定格 | |
Power Delivery Profile |
Performance | Performance |
単コア最大倍率 | 57 | 57 |
全コア最大倍率 | 54 | 54 |
Turbo Boost Max 3.0 | On | On |
TVB Ratio Clipping | 1C: NA 2C~8C: 70℃ -1x |
1C: NA 2C~8C: 70℃ -1x |
PL1, PL2, Tau | 250, 250, 56s |
250, 250, 56s |
IccMAX | 347A |
347A |
AVX Offset | 0 | 0 |
AVX Voltage Guardband | 1.00 |
1.00 |
備考 |
特になし |
続いてASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIを使用した場合のCPUとメモリのオーバークロック耐性をチェックしてみました。
なおオーバークロックはメーカー保証外の行為であり製品の破損やデータの消失もすべて自己責任となります。オーバークロック検証時は最小構成(CPU、マザーボード、メモリ、システムストレージ、グラフィックボード)以外は基本的にすべて外し、可能ならOC検証用のシステムストレージを用意するなど細心の注意を払ってください。
まずは「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」に24コア32スレッドCPUのCore Ultra 9 285Kを組み合わせて長時間負荷をかけ続けた時に、VRM電源周辺温度はどれくらいなのか、サーモグラフィーカメラ搭載スマートフォン CAT S62 PROを使用してチェックします。
CPUを定格で運用もしくはOC設定を適用した際のCPU温度やVRM電源温度を検証するストレステストについては、下記の動画エンコードを使用しています。
4K動画ファイル(4K解像度、60FPS、5.7GB)をソースとしてHandBrake(x264)を使ってエンコードを行います。
Core Ultra 9 285Kは24コア24スレッドのCPUなので、同じ動画のエンコードを4つ並列して実行し、30分程度負荷をかけ続けます。ストレステスト中のファン回転数は一定値に固定しています。

注:CPUのストレステストについてはOCCTなど専用負荷ソフトを使用する検証が多いですが、当サイトではPCゲームや動画のエンコードなど一般的なユースで安定動作すればOKとういう観点から筆者の経験的に上の検証方法をストレステストとして採用しています。
まずは単純に「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」でIntel Default SettingsをPerformanceとして、Core Ultra 9 285Kを定格で動作させてみました。
メモリOC設定については検証機材メモリ「G.Skill Trident Z5 CK F5-8400C4052G24GX2-TZ5CK」に収録されたOCプロファイルを適用し、メモリ周波数 8400MHz、メモリタイミング 40-52-52-134、メモリ電圧1.350Vです。

上記の動作設定においてストレステスト中のCPU温度やCPU使用率のログは次のようになりました。
CPUクーラーにはFractal Design Celsius S36を使用し、冷却ファンNoctua NF-A12x25 PWのファン回転数は1500RPMで固定しています。
Core Ultra 9 285KはPower Delivery Profile:PerformanceでIntel公式仕様の通りに動作させた場合、電力制限はPL1/PL2:250Wですが、IccMAX:347Aの電力制限も効いてくるので、動画エンコードやCinebenchのような非常に重いマルチスレッド負荷に対してはPL1を少し下回るCPU消費電力で変化しながら推移していきます。
360サイズAIO水冷CPUクーラーのように十分に冷却性能の高いCPUクーラーを組み合わせれば、CPU定格の
電力/電流制限の範囲内なら臨界温度 105度以下で運用可能です。

電力/電流制限が効くので動画エンコードなどのフル負荷においてCPUコアクロックが全コア最大動作倍率に張り付くことはありませんが、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」のVRM電源温度などマザーボード原因でスロットリングが発生することはなく、Core Ultra 9 285KをP-Core All 5.1GHz、E-Core All 4.5GHz程度の実動値で安定して動作させることができました。

上記の動作設定で動画エンコードを行った時のEPS電源経由のCPU消費電力は250~280W程度です。

Core Ultra 9 285Kの定格動作で負荷をかけるとEPS電源経由のCPU消費電力は250W以上に達しますが、ソフトウェアモニタリングやサーモグラフィーでVRM電源周りの温度を確認したところ、70度台以下に収まっていました。
Ryzen 9 7950Xにフル負荷をかけ続けてVRM電源温度がこの程度に収まっているので、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」なら、最上位のCore Ultra 9 285Kを含めCore Ultra 200SシリーズCPU各種をAIO水冷クーラーとの組み合わせでVRM電源周りがパッシブ空冷で全く問題ありません。

VRM電源回路自体やクーラーの実装面積が限られるMini-ITXの場合、200W超のCPU消費電力、つまりVRM電源回路への負荷になると流石に厳しく、160Wくらいに抑えて追加検証もするのですが、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はその必要もありません。非常に優秀と言っていい冷え具合です。
「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はリアIOカバー側のVRM電源ヒートシンクにアクティブ水冷ファンを搭載していますが、200W超の負荷をかけ続けても、標準設定のファン動作において、ファン速度は5000RPM程度でした。
ファン回転数の数字は非常に大きいですが、直径数cmの非常に小さいファンなので、ノイズレベルは40dB以下に収まっており、高周波としても耳障りな感じではありません。PCケースに組み込めば、なおさら気にならないレベルだと思います。

最後に「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」のメモリOC性能についてもチェックしておきます。
マザーボードのメモリOC検証についてはスポットクーラーによってメモリを冷却した状態でメモリストレステストを実行しています。
DDR5メモリにおいて6000MHz台の低レイテンシ設定や、7000~8000MHzのハイクロック設定は温度影響によるメモリエラーが結構シビアですが、温度原因のエラー対策はサブタイミングや電圧を微調整するよりもファンを1台増設するほうが手っ取り早く簡単に解消できます。さらに詳しくはメモリOCに関する解説のtREFI関連の部分で。

ゲーム用途でメモリOCを行う場合は実用的に高温になることがないので、あまり気にする必要はありませんが、動画エンコードなどシステムメモリを大量に使用するクリエイティブタスクについてはメモリ温度がメモリストレステスト的に上昇するので実用的にも対策が必要になります。
ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIの環境(BIOS:1051)のOC検証では検証機材メモリとして24GB×2枚組み48GB容量のCUDIMM DDR5メモリキット「G.Skill Trident Z5 CK (型番:F5-8400C4052G24GX2-TZ5CK)」を使用しています。

同メモリに収録されたOCプロファイルを適用するだけで、メモリ周波数 8400MHz、メモリタイミング 36-46-46-115が安定動作しました。メモリコントローラー周波数UCLKも1:2同期です。
Intel Core Ultra 200SシリーズCPUと一般的なx4メモリスロットのZ890マザーボードにおいて、CUDIMM DDR5メモリでは常用最速クラスのOC設定です。

上は新たにサポートされたCUDIMMのメモリOCですが、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はDDR5メモリで一般的なUDIMMにも対応しているので、UDIMMのメモリOC結果についてもいくつかチェックしていきます。
24GB×2枚組み48GB容量のDDR5メモリキット「G.Skill Trident Z5 RGB(型番:F5-7600J3848F24GX2-TZ5RK)」に収録されたOCプロファイルによって、メモリ周波数 7600MHz、メモリタイミング 38-48-48-121が安定動作しました。
前世代Z790マザーボードではメモリスロット 2基のOC特化マザーボードでないと安定動作が難しかったスペックです。

Crucial DDR5 Pro Overclocking UDIMMシリーズの16GB×2枚組みで6400MHz OC対応モデル(型番:CP16G64C38U5B)についても検証してみました。
高性能OCメモリというとG.Skillがやはり有名で、筆者も自分のPCや各種検証機材として愛用していますが、Crucial DDR5 Pro Overclocking UDIMMシリーズはMicron純正メモリモジュール確定で高信頼性、入手性も高く、安価なので検討する人も多い製品だと思います。

16GB×2枚組み48GB容量のDDR5メモリキット「Crucial DDR5 Pro Overclocking(型番:CP16G64C38U5B)」に収録されたOCプロファイルによって、メモリ周波数 6400MHz、メモリタイミング 38-40-40-81が安定動作しました。

「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はメモリスロットが2つしかありませんが、2025年に入ってから発売された1枚で64GB容量のDDR5メモリを使用すれば、Mini-ITXマザーボードでも128GBの大容量システムメモリを構築できます。
ネイティブ5600MHzに対応する64GB容量メモリモジュール2枚組みキット「Crucial CT2K64G56C46U5」は正常動作を確認済みです。


ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFIのレビューまとめ
最後に「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」を検証してみた結果のまとめを行います。簡単に箇条書きで以下、レビュー後の所感となります。良いところ
- ROG STRIXシリーズのゲーミングデザイン
- 110A対応Dr. MOSで構成された堅牢な14フェーズVRM電源
- 285K定格の200W超のCPU消費電力でもVRM電源温度は70度以下に収まる
- 24GB×2枚組みDDR5 CUDIMMでメモリ周波数8400MHz/CL40が安定動作
- 24GB×2枚組みDDR5 UDIMMでメモリ周波数7600MHz/CL38が安定動作
- 外部センサー搭載で水温ソースのファンコンも可能なので水冷PCにも最適
- 重量級グラボにも耐えるメタルアーマー採用PCIEスロット SAFESLOT
- PCIEスロット固定ラッチの解除を簡単にする新機能 PCIe Slot Q-Release Slim
- NVMe接続M.2スロットをマザーボード上に2基設置、両方ともPCIE5.0対応 (注*1)
- PCIE5.0対応M.2スロットにファン付き大型SSDヒートシンクを装備
- TB4対応Type-Cポート×2を標準搭載(iGPU経由でビデオ出力も可能)
- 2.5Gb有線LAを標準搭載(Intel I226-V)
- Wi-Fi 7&Bluetooth5.4対応無線LANを標準搭載(Intel BE200)
- 独自USB Type-Cドック ROG STRIX HIVE IIが付属
ESS製DAC(SABRE9260Q)による4極3.5mmジャック搭載 - CPU・RAMなしでBIOSのアップデート・修復が可能なUSB BIOS FlashBackに対応
- NICが全てWindows 11 24H2の標準ドライバに非対応 (I225/226搭載MBで一般に)
- M.2スロットの片方はGPU用PCIE5.0x16レーンと帯域共有 (注*1)
- CMOSクリアのハードウェアスイッチを非搭載
「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」は、Mini-ITXサイズながら110A対応SPSで構成された14フェーズVRM電源回路を搭載しているので、CPU消費電力が200W超に達する24コア32スレッド Core Ultra 9 285Kでも性能を十分に引き出すことが可能です。
その他にPCIE5.0対応を含む2基のNVMe M.2スロット、帯域40GbpsのThunderbolt4対応Type-Cポート 2基、2.5Gb有線LAN、Wi-Fi 7対応無線LAN、ESS製DACによるUSB DAC機能も搭載するType-Cドック ROG STRIX HIVE IIが付属など、周辺コンポーネントも充実しており、GeForce RTX 50やRadeon RX 9000など最新高性能GPUを搭載したコンパクトゲーミングPCを組むのに最適なマザーボードです。
ASUS製マザーボードではお馴染みですがBIOSやマニュアルの日本語ローカライズ品質は主要4社の中でも随一となっており、BIOSのテキストベースUIの使い勝手も良好です。
ROGシリーズと言うとゲーマー&OCerに特化した高価で上級者向け製品のイメージが強いかもしれませんが、実は製品価格を除けば、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」はハードウェア設計やソフトの使い勝手において初心者にも優しいマザーボードです。
マザーボードのOC耐性を評価する上で重要なファクターになるVRM電源について、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」は非常に優秀な性能を発揮しました。
「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」であれば市販のAIO水冷クーラーやDIY水冷など環境を選ばず、VRM電源周りは標準装備のまま、Core Ultra 9 285Kの定格設定を運用できます。
市販クーラーで最高クラスの360サイズAIO水冷でもCore Ultra 9 285KはCPU温度的に定格PL:250Wよりも電力を増やすのが難しく、OCの伸びしろはそれほど大きくありませんし、OC・電力制限解除しないならこれで十分です。
VRM電源回路、クーラーヒートシンクの実装スペースが限られるMini-ITXだと200W超は厳しく、CPUクーラー性能も含めて現実的な160W~180Wに対応できれば十分ではあるものの、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」は200W超の負荷でもVRM電源温度は70度以下に収まります。Mini-ITXのLGA1851マザーボードとしてはトップクラスの冷え具合です。
メモリOCについては、検証機材に使用しているCUDIMMのG.Skill Trident Z5 CK(F5-8400C4052G24GX2-TZ5CK)でメモリ周波数 8400MHz、一般的なUDIMMのG.Skill Trident Z5 RGB(F5-7600J3848F24GX2-TZ5RK)でメモリ周波数 7600MHzがOCプロファイルを適用するだけで安定動作しました。
入手性の高いCrucial DDR5 Pro Overclockingの6400MHz/CL38の低レイテンシOC等も安定動作しているので、現状、メモリOC回りで「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」に不足を感じることはないはずです。
以上、「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」のレビューでした。

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Mini-ITXサイズながら14フェーズVRM電源、Thunderbolt4を搭載するゲーミングマザーボード「ASUS ROG STRIX Z890-I GAMING WIFI」をレビュー。
— 自作とゲームと趣味の日々 (@jisakuhibi) April 7, 2025
Core Ultra 9 285Kや8400MHz OCメモリも安定して運用できるのか徹底検証https://t.co/95mKahB0Xr pic.twitter.com/SgllG1nRQF
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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
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