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ラジエーターに設置されたファンハブでスマートな配線を実現する360サイズ簡易水冷CPUクーラーのフルブラックモデル「Fractal Design Celsius S36 Blackout(型番:FD-WCU-CELSIUS-S36-BKO)」をレビューします。
Celsius無印の発売から3年、未だに余裕で現役どころか当サイト的に一番冷える簡易水冷として君臨し続けるCelsius S36の冷却性能を、AMD Ryzen 5000やIntel第10世代Coreなど最新CPUを使用して再評価していきます。
代理店公式ページ:https://www.ask-corp.jp/products/fractal-design/cpu-cooler/celsius-s36.html
製品公式ページ:https://www.fractal-design.com/ja/products/water-cooling/celsius-s36/Blackout/
レビュー目次
1.Fractal Design Celsius S36 Blackoutの外観・付属品
2.Fractal Design Celsius S36 Blackoutの水冷ヘッドと水冷チューブ
・【注意】Fractal Design Celsius+のポンプ制御について
3.Fractal Design Celsius S36 Blackoutのラジエーターと冷却ファン
4.Fractal Design Celsius S36 Blackoutの検証機材・セットアップ
5.Fractal Design Celsius S36 Blackoutのファンノイズと冷却性能
6.Fractal Design Celsius S36 Blackoutのレビューまとめ
補足.空冷クーラーと水冷クーラーの違いについて
【機材協力:Fractal Design(国内正規代理店アスク)】
Fractal Design Celsius S36 Blackoutの梱包・付属品
まずはFractal Design Celsius S36 Blackoutの外観や付属品をチェックしていきます。360サイズなど大型ラジエーターを搭載する簡易水冷クーラーのパッケージはかなり大きいものが多いですが、「Fractal Design Celsius S36 Blackout」はパッケージサイズ自体は必要最小限であるものの、長辺方向に開くキャラメル箱型の外パッケージが採用されており、開封スペースは若干広めに要します。
製品パッケージを開くと内容品に合わせた形のパルプモールドをスペーサーとして、CPUクーラー本体や各種付属品が収められていました。
パルプモールド内左側にある小分けのビニール袋にはマウントパーツなど付属品が入っていました。
マウントパーツを詳しく見ていくと、AMDプラットフォーム用のリテンションブラケットとIntel LGA 115X用のバックプレートがあります。Intelプラットフォーム用のリテンションブラケットは水冷ヘッドに装着されています。水冷ヘッド固定用のネジ類については、ローレットナットの他にプラットフォーム別でスタンドオフが2種類付属します。両端の長さとネジ山が同じものがIntel LGA115X用、両端の長さが異なるものがIntel LGA2011-3/2066用となっています。AM4プラットフォームでリテンションブラケットと一緒に使用するフックも付属しています。
LGA115X用のバックプレートはネジ穴部分がスライドするようになっており、旧CPUソケットのLGA1366などを搭載するマザーボードにも対応しています。
両面テープでラジエーターやPCケースに貼り付けてファンケーブルをまとめる結束バンドも2個付属します。
CPUクーラー本体を取り出すと、水冷ヘッドからラジエーターまで全体がビニールに包まれていました。
今回の個体ではラジエーター放熱フィンに大きな凹みがありませんでしたが、ラジエーターの放熱フィンの一部に凹みがあると冷却性能に問題が出るほどではないものの几帳面な人にとっては気になる部分なので、他社製品の梱包ですが、こんな感じに厚紙などでラジエーターは個別に保護しておいて欲しいところ。
Fractal Design Celsius S36 Blackoutの水冷ヘッドと水冷チューブ
続いて「Fractal Design Celsius S36 Blackout」の水冷ヘッド本体をチェックしていきます。Fractal Design Celsius S36の水冷ヘッドは薄型サイズで、上面はFractal Designのブランドロゴである雪の結晶をあしらった光沢のあるブラックパネルになっており、周囲を囲む円形のリングはラバー加工が施されシンプルながらスタイリッシュかつ高級感を感じるデザインになっています。
水冷ヘッドの高さは40mm以下となっておりポンプを搭載していることを考えると非常にスリムです。
「Fractal Design Celsius S36 Blackout」は水冷ヘッド内部の水冷ポンプにAsetek製の第5世代水冷ポンプを採用しています。スリムな水冷ヘッドには最高級の消音素材を採用したセラミック製ベアリングおよびシャフトで平均故障時間(MTTF)が約50,000時間の高静音かつ高寿命な水冷ポンプが内蔵されています。
「Fractal Design Celsius S36 Blackout」の水冷ヘッドには天面ロゴプレートの向きに合わせて、6時の方向に電源取得用4PINファン端子ケーブルが伸びています。
ポンプと冷却ファンの電力を1つのファン端子から供給するので仕様値では電力9Wの出力が要求されており、使用するマザーボードのファン端子出力には注意が必要です。Intel400シリーズやAMD500シリーズなど最近のマザーボードであれば水冷ポンプ用の高出力ファン端子が実装されていると思いますが、少し古いマザーボードを使用しているユーザーは念のため予めマニュアルや仕様書をチェックしておいてください。なお同ファン端子からモニタリング可能な回転数はポンプの回転数です。
Fractal Design CelsiusシリーズはマザーボードのPWM信号によってファン制御を行う「PWMモード」と水冷ブロックの内部ICによって水温ソースのファン制御行う「Autoモード」の2種類のファンコントロールに対応しています。
このモード切替スイッチは水冷ヘッドの外周リングが担っています。外周リングの溝の位置がそのまま現在の動作モードを示しており、リングをも回すことで簡単にモードを切り替えることが可能です。外周リングには前述の通りラバー加工が施されていますが、外観の高級感だけでなくモード切替のリング操作でも手が滑りにくいという恩恵がありました。
【注意】Fractal Design Celsius+のポンプ制御について
「Fractal Design Celsius S36 Blackout」はファンハブによるケーブルマネジメントの容易さが魅力の1つですが、ファンハブに接続されたファンはAutoモードでもPWMモードでも、ポンプと近似したPWMデューティ比で制御されるため、ファンを静音(低速)で動作させた場合、必然的にポンプも低速で動作します。そのため適度な静音性を維持しつつという前提があると、冷却性能を求める場合はこの機能が足かせになってしまいます。
最近のマザーボードはCPUファン端子に水冷ポンプ端子が並んで配置されている製品が多いので、 水冷ヘッドからポンプケーブルとファンケーブルの2本をスリーブでまとめて伸ばし、Autoモードでは自動制御、PWMモードでは各ファン端子からファンとポンプを独立してPWM制御できるようになっていれば、ケーブルマネジメントの容易さと冷却性能を両立できて良かったと思います。
もしくはAutoモードとPWMモードに加えて、ファンハブに接続されたファンだけをPWM制御し、ポンプは常に最大速度になるPerformanceモードのような選択肢を用意して欲しかったです。
Fractal Design Celsius S36 BlackoutのCPUと接触するベース部分は銅製ベースプレートが採用されています。ベースプレートはフィルムではなくプラスチックカバーで保護されていました。標準で熱伝導グリスが均等に塗られているので、こだわりがなければ初回使用時は熱伝導グリスを用意する必要はありません。
銅製ベースは鏡面磨き上げではなく、同心円状の磨き跡があります。指で触っても僅かながらザラザラした感じはなく、しっかり平滑化されています。
リテンションブラケットは歯車状のツメで固定されていて、半時計方向に回すことで水冷ヘッドから取り外し可能です。Intel製CPU用ブラケットがデフォルトで装着されていますが、AMD製CPU用ブラケットに換装することでAMD AM4プラットフォームでも使用できます。
「Fractal Design Celsius S36 Blackout」の水冷チューブは水冷ヘッド天面から垂直に伸びる直出しです。ブランドロゴが刻印された金属製フィッティングカバーもクールです。水冷チューブは見ての通り水冷トップの上面から直出しの構造になっています。
水冷チューブを接続しているフィッティング部分は一見、通常のストレートフィッティングですが、水冷トップ側とラジエーター側はいずれも根本がロータリーになっているので水冷チューブの取り回しは良好です。
「Fractal Design Celsius S36 Blackout」水冷チューブには高耐久な耐熱性ゴムチューブを採用、上から柔軟性に優れ摩耗防止に適したナイロンスリーブが巻かれており取り回しにも優れています。
「Fractal Design Celsius S36 Blackout」の水冷チューブの長さは400mmほどです。十分な長さがあるのでミドルタワー程度のPCケースであればトップやリアだけでなく、フロントのファンマウントスペースにもラジエーターを設置できます。
水冷チューブの径は15mm程と比較的太めなのでチューブ折れや潰れの心配はあまりありませんが、少し曲げにくくなっています。とはいえ大型ラジエーター搭載モデルなのでミドルタワー以上のPCケースに搭載することが前提になっており水冷チューブの取り回しに困ることはないと思います。
Fractal Design Celsius S36 Blackoutのラジエーターと冷却ファン
続いて「Fractal Design Celsius S36 Blackout」のラジエーター部分をチェックしていきます。今回レビューする「Fractal Design Celsius S36 Blackout」は360サイズラジエーターを採用し、ブラックカラーの冷却ファンが付属するモデルですが、Fractal Design Celsiusシリーズには240/360の2サイズのラジエーターと、冷却ファンのカラーリング2色、ホワイト(無印)とブラック(Blackout)で計4モデルがラインナップされています。
ちなみにCelsiusシリーズは2017年発売の製品ですが、同社からは2020年にFractal Design Celsius+シリーズが発売されています。
Celsius+はCelsius無印版の後継モデルではなく、「水冷ヘッドや冷却ファンにLEDイルミネーションを搭載」、「ユーザーから要望の多かった280サイズラジエーター搭載モデルもラインナップ」の2点を主な特徴とした新バリエーションモデルという位置付けであり、今のところCelsius無印版の終売予定はなく、併売されるとのことです。
Fractal Design Celsius+シリーズには240/280/360の3サイズのラジエーターと、LEDイルミネーション搭載ファン付属の有無で計6モデルがラインナップされています。
LEDイルミネーション搭載冷却ファンが付属する製品は「Celsius+ Prisma」、冷却ファンにLEDイルミネーションがない製品は「Celsius+ Dynamic」と名付けられています。LEDイルミネーション冷却ファンなしの360サイズラジエーター搭載モデルは「Fractal Design Celsius+ Dynamic S36」となります。Celsius+ PrismaとCelsius+ Dynamicの両シリーズの違いは付属する冷却ファンだけで、水冷ヘッドやラジエーターの仕様は同じです。
「Fractal Design Celsius S36 Blackout」のラジエーターのデザインは一般的なもので、一部メーカーの製品に採用されているように独自デザインではなく汎用的なものが使用されていました。
「Fractal Design Celsius S36 Blackout」が他社製品と大きく違うところとして、ラジエーターのフィッティングポートの間に冷却ファンを接続するためのファンハブが設置されています。
ファンハブは水冷チューブのスリーブを通して水冷トップとファン用4PIN端子で接続されています。ラジエーター上に冷却ファン電源用ハブがあるので2~3基のファンを搭載するFractal Design Celsiusシリーズでもケーブルマネジメントが容易かつ綺麗になります。
「Fractal Design Celsius S36 Blackout」の放熱フィンのピッチについては水冷ユーザー視点で言うと少し密度が高いと感じました。密度が高い分、放熱フィンの放熱性能は高まりますが、静圧の低いケースファンや低回転数動作の場合、十分なパフォーマンスを発揮できない可能性もあるので注意が必要です。
管理人が本格水冷向けのラジエーターとして推奨している「Alphacool NexXxoS Full Copper ラジエーター」シリーズのフィンピッチと比較すると、「Fractal Design Celsius S36 Blackout」のフィンピッチのほうが細かいのがわかると思います。
ラジエーターの厚さは一般的な30mm厚です。25mm厚の冷却ファンと組みわせることになるので、ファン&ラジエーターマウントスペースのクリアランスは55mmほど必要になります。(写真は定規が5mm程浮いています)
「Fractal Design Celsius S36 Blackout」は360サイズラジエーターを搭載した簡易水冷CPUクーラーなので、同社製の「Fractal Design Dynamic X2 GP-12 PWM」という120mm角冷却ファンが標準で3つ付属します。
Fractal Design Dynamic X2 GP-12 PWMの定格(最大)回転数は2000RPM、PWM速度調整に対応し、500~2000RPMの範囲内で制御可能です。
軸受にはMTBF(平均故障間隔)がトップクラスの100,000時間である高級LLS軸受けを使用し、さらにハブ部分にベアリングの軸圧力を軽減するカウンターバランスマグネットを採用することでベアリングの耐用性を更に強化しています。
固定用の支柱はファンブレードに対して垂直になっており、ファンブレードが支柱を通るときに通常発生するノイズを抑制しています。ファンブレードの付け根部分にある3つの切り込みはファンブレードが固定用の支柱を通るときに発生するノイズを拡散する事で抑制します。
ファンフレームはすり鉢状に面取り拡張されており吸気・排気に優れる構造です。空気力学的に基づき設計された薄板状の支柱(ワイヤ用支柱も含む)により、航空機の翼に一般的にみられるデザインを模倣し、正しい角度で簡単に空気が流れる様にする事でノイズや望ましくない乱流の発生を低減します。
ファンブレードの後縁付近には航空機の翼のデザインによくみられる「トリップワイヤー技術」という構造をしており、マイクロ乱流層を発生させ全体的に効率の良い静かなエアフローを実現するそうです。
Fractal Design Celsius S36 Blackoutには、冷却ファンを固定するための長ネジが4本×3セットで計12本、ラジエーターをPCケースに固定するための短ネジが4本×3セットで計12本、ワッシャーが4個×6セットで計24個が付属します。
冷却ファンのラジエーターへの固定やラジエーターのPCケースへの固定に使用するネジの規格はUNC No.6-32でした。日本国内のユーザーとしてはホームセンターで簡単に入手可能なM3かM4ネジを採用して欲しいところです。
Fractal Design Celsius S36 Blackoutの検証機材・セットアップ
「Fractal Design Celsius S36 Blackout」を検証機材のベンチ機にセットアップします。「Fractal Design Celsius S36 Blackout」の検証機材として、Intel Core i9 10900KやAMD Ryzen 5950Xなどで構成されているベンチ機を使用しました。構成の詳細は下記テーブルの通りです。テストベンチ機の構成 | ||
CPU |
AMD Ryzen 9 5950X (レビュー) | Intel Core i9 10900K(レビュー) |
M/B | MSI MEG X570 ACE (レビュー) |
ASUS ROG MAXIMUS XII EXTREME (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill Trident Z Neo F4-3600C14Q-32GTZN (レビュー) 3600MHz, CL16-16-16-36-CR1 |
G.Skill Ripjaws V F4-4000C15Q-32GVK (レビュー) 3600MHz, CL16-16-16-36-CR2 |
グラフィックボード |
MSI GeForce GT 1030 2GH LP OC ファンレス (レビュー) |
|
システム ストレージ |
Samsung SSD 980 PRO 500GB (レビュー) |
|
OS | Windows10 Home 64bit | |
電源ユニット |
Corsair HX1200i (レビュー) | |
PCケース/ ベンチ板 |
STREACOM BC1 (レビュー) |
ベンチ機のシステムストレージには「Samsung SSD 980 PRO 500GB」を使用しています。Samsung SSD 980 PROは、PCIE4.0対応によって連続アクセススピードを最大で2倍に飛躍させただけでなく、ランダム性能の向上によってSSD実用性能においても前世代970 PROから大幅な向上を果たし、PCIE4.0アーリーアダプターなPhison PS5016-E16採用リファレンスSSDよりも高速なので、これからPCIE4.0対応プラットフォームの自作PCを組むなら、システム/データ用ストレージとして非常にオススメな製品です。
・「Samsung SSD 980 PRO 1TB」をレビュー。堂々の最速更新
CPUクーラーの設置方法について、当サイトの評価基準となるチェックポイントは次の3つです。
- LGA115Xの場合、CPU固定バックプレートが単独でマザーボードに固定できるか
- マウントパーツ設置状態でCPUを交換できるか
- 空冷の場合、ネジ止めの場合はマザーボード側から固定できるか
簡易水冷or水冷ブロックの場合、ハンドスクリューなどツールレス固定ができるか
上の3項目を全て満たす例として本格水冷用のCPU水冷ブロックですが「EK-Supremacy EVO」のマウンタ構造は「バックプレートをM/Bに固定可能」「完全ツールレス」「マウンタ設置状態でCPUの交換が可能」なので本格水冷・簡易水冷クーラーの水冷ブロック固定方式としてはベストだと思っています。水冷クーラーメーカーにはどんどん真似してもらいたい理想的な構造です。
前置きはこのあたりにしてベンチ機へFractal Design Celsius S36 Blackoutをセットアップします。
まずはマザーボードを裏返してバックプレートのネジ穴をマザーボードのCPUソケット四隅の穴に挿入します。最新のIntel第9世代CPUに対応するLGA1151ソケットでバックプレートを装着する場合はネジ穴スライド部分の位置は一番内側でした。
バックプレートが脱落しないように注意してマザーボードを表に向け、スタンドオフと呼ばれる水冷ヘッドを固定するためのスペーサーを使ってマザーボードをバックプレートと挟みます。Intel LGA1151(LGA115X)プラットフォームでは左側にある両側のネジ山が同じ形状のスタンドオフを使用します。
下のようにスタンドオフとバックプレートでマザーボードを挟みます。4か所全てでスタンドオフを固定したらマウントパーツの設置が完了です。
マウントパーツは単独でもマザーボードに固定されているので、CPUクーラーの設置が完了していない状態でもバックプレートなどが脱落することはなく、PCケースに設置した状態でもCPUクーラーの設置が容易な構造です。
Intelのエンスー向けCPUである第9/10世代Core-Xに対応するX299チップセット搭載LGA2066プラットフォームではCPUソケットこそ前世代のLGA2011-3とは異なるもののCPUクーラーのネジ穴レイアウトは共通なので、LGA2066とLGA2011-3の共用スタンドオフをマザーボード備え付けのネジ穴に装着すればマウントパーツの設置完了です。
水冷ヘッドをマザーボードに固定する準備はこれで完了したので熱伝導グリスをCPUのヒートスプレッダに塗布します。熱伝導グリスには当サイト推奨で管理人も愛用しているお馴染みのクマさんグリス(Thermal Grizzly Kryonaut)を塗りました。熱伝導効率も高く、柔らかいグリスで塗布しやすいのでおすすめです。
グリスを塗る量はてきとうでOKです。管理人はヘラとかも使わず中央山盛りで対角線だけ若干伸ばして塗っています。特にThermal Grizzly Kryonautは柔らかいグリスでCPUクーラー固定時の圧着で伸びるので塗り方を気にする必要もありません。
熱伝導グリスを塗ったらバックプレートから延びるネジに水冷ヘッドの足のネジ穴が合うようにしてCPUクーラーを装着します。CPUの上に乗せたらグリスが広がるように力の入れすぎに注意して水冷ヘッドをグリグリと捻りながら押し込んでください。
Fractal Design Celsius S36 Blackoutの水冷ヘッドの固定ネジはツールレスな大型ローレットナットなので固定は容易です。プラスドライバーでも締められますが、そこまで強く締める必要はないので対角順に水冷ヘッドがグラグラ動かない程度に手でネジを締めてください。
Ryzen 5000/3000シリーズに対応するAMD AM4プラットフォームについては、リテンションブラケットとローレットナットとフックの3つを使用します。
AMDプラットフォーム用のリテンションブラケットを水冷ヘッドに装着してから、マザーボードに標準で備え付けられている固定器具へフックを引っかけるだけなので装着は非常に簡単です。(下写真はCelsius+ S36 Prismaの例)
水冷ヘッド側面から水冷チューブの出ている簡易水冷CPUクーラーでは最左端にあるメモリスロットの距離次第で水冷トップ右のチューブエルボーとメモリが干渉してCPUクーラーを設置できない場合がありますが、「Fractal Design Celsius S36 Blackout」は水冷チューブが水冷ブロック上面からの直出しなので、CPUソケット右側にあるメモリとの干渉の心配もありません。
簡易水冷CPUクーラーはラジエーター設置の手間やスペース確保の問題はありますが、マザーボード上のメモリなどのコンポーネントとの干渉は大型のハイエンド空冷CPUクーラーより発生し難く、水冷ヘッドの設置自体も基本的にツールレスで容易なのが長所だと思います。
Fractal Design Celsius S36 Blackoutのファンノイズと冷却性能
本題となるFractal Design Celsius S36 Blackoutの冷却性能と静音性についてチェックしていきます。検証システムをベンチ板に置いた状態で測定を行っているためCPUクーラーが水冷・空冷によらず基本的にCPUクーラーの理想的な性能をチェックすることになります。
まずはサウンドレベルメーター(騒音計)を使用して「Fractal Design Celsius S36 Blackout」のファンノイズをファン回転数別で測定しました。検証機材はベンチ台の上に平置きにしているので、サウンドレベルメーターをスタンドで垂直上方向に50cm程度離して騒音値を測定しています。
この測定方法において電源OFF時の騒音値は30dB未満です。目安として騒音値が35dBを超えたあたりからファンノイズがはっきりと聞こえるようになりますが、35~38dB以下であればPCケースに入れてしまえばファンノイズが気になることはそうそうないと思います。40dB前後になるとベンチ台上で煩く感じ始め、45dBを超えるとヘッドホンをしていてもはっきり聞き取れるくらいになります。
A特性で測定しているのである程度は騒音値にも反映されていますが、同じ騒音値でも周波数(ファン回転数)が高いほど体感としては大きな音に感じやすく、また不快に感じたり感じなかったりは音の性質(細かい乱高下の有無や軸ブレ)にもよるので注意してください。
Fractal Design Celsius S36 Blackoutのラジエーター冷却ファンのファンノイズを測定したところ次のようになりました。Fractal Design Celsius S36 Blackoutはラジエーター冷却ファンを1100~1300RPM前後に収まるようにするとノイズレベル35dB前後となり、静音動作で運用できると思います。
Auto Modeでファン・ポンプ制御を行うと、アイドル時で29.5dB、Ryzen 9 5950XのPBOで長時間負荷をかけても30.0dBとなります。ほぼ無音という極めて高い静音動作ですが、後述する通りAuto Modeではポンプ速度が低くなるので冷却性能とトレードオフになります。
上のグラフの通り、冷却ファンを付属品から「Noctua NF-A12x25 PWM」に交換すれば標準ファンと同じノイズレベルにおいて300PRM~400RPM程度高いファン回転数で運用でき、より高い冷却性能と静音性を実現できます。1台あたり3500円ほどと高価ですが、CPUクーラーのパフォーマンスを追及するのであれば、一押しの冷却ファンです。
またベージュ&ブラウンの独特なカラーリングが苦手という人には、NF-A12x25とほぼ同等品で黒一色なカラーリングの「Thermaltake TOUGHFAN 12」がオススメです。
続いて「Fractal Design Celsius S36 Blackout」の冷却性能をチェックしていきます。
CPUクーラーの冷却性能を検証するためのストレステストについては、FF14ベンチマークの動画(再生時間6分40秒、4K解像度、60FPS、容量5.7GB)を変換ソースとして、Aviutl&x264を使って動画のエンコードを行います。動画エンコードの同時実行数については4~6コアは並列なし、8~14コアは2並列実行、16コア以上は3並列実行としています。テスト中のファン回転数については一定値に固定します。
注:CPUのストレステストについてはOCCTなど専用負荷ソフトを使用する検証が多いですが、当サイトではPCゲームや動画のエンコードなど一般的なユースで安定動作すればOKとういう観点から管理人の経験的に上の検証方法をストレステストとして採用しています。
まずは2020年11月に発売されたばかりのAMD Ryzen 5000シリーズ最上位モデル、16コア32スレッドCPUの「AMD Ryzen 9 5950X」を使用して、AMD Ryzen 5000シリーズ環境における「Fractal Design Celsius S36 Blackout」の冷却性能を検証していきます。
Ryzen 9 5950XのOC設定については、Precision Boost Overdriveを有効化して『PPT = 300W、TDC = 300A、EDC = 300A』に設定しています。メモリのOC設定は「メモリ周波数:3600MHz」「メモリタイミング:16-16-16-36」「Command Rate:GearDownMode」「メモリ電圧:1.350V」としました。
この設定でRyzen 9 5950XをOCするとCinebench R20のスコアは11000ほどとなります。またこの動作設定において上で紹介したストレステストを実行すると、システムの消費電力(マイナス50~60WでRyzen 9 5950Xの消費電力)は250W前後に達します。
「Fractal Design Celsius S36 Blackout」をAuto Modeにしてストレステストを実行したところ、「Fractal Design Celsius S36 Blackout」はRyzen 9 5950XをPBOによって全コア4.2GHz前後にクロックアップすると、CPU温度は最大84.4度、平均81.5度に達しました。
Ryzen 9 5950XでPBOによるクロックアップを施すと360サイズ簡易水冷の場合、最大で4.3~4.4GHzまでコアクロックが伸びるのですが、「Fractal Design Celsius S36 Blackout」ではCPU温度が高くなるので、コアクロックの伸びは控えめです。
上の静音性検証で見たように、「Fractal Design Celsius S36 Blackout」は極めて静音性重視な設定になっており、ポンプ速度が2000PMと低いため、上のようにCPU温度が高くなります。【注意】で解説したように、ポンプとファンと個別に制御できればよかったのですが。
続いて2020年に発売されたIntel第10世代Comet Lake-S最上位モデル、10コア20スレッドCPUの「Intel Core i9 10900K」を使用して、Intel第10世代Core-S環境における、「Fractal Design Celsius S36 Blackout」の冷却性能を検証していきます。
今回検証に使用するCore i9 10900Kは、ROCKIT COOL製殻割りキット「ROCKIT COOL 10th Gen Copper Upgrade kit」で殻割りしてTIMをクマメタル化、さらにオリジナル銅製IHSに換装しています。
・Core i9 10900Kの殻割りクマメタル化&銅製IHSの冷却性能を検証
Core i9 10900KのOC設定は「CPUクロック倍率:51」「キャッシュ倍率:47」「CPUコア電圧:1.300V(固定モード)」「CPU SVIDサポート: Disabled」「ロードラインキャリブレーション: Level7」、メモリのOC設定は「メモリ周波数:3600MHz」「メモリ電圧:1.350V」「メモリタイミング:16-16-16-36-CR2」としています。
Core i9 10900Kを全コア5.1GHzにOCすると、Cinebench R20のスコアは6600ほどとなります。またこの動作設定において上で紹介したストレステストを実行すると、システムの消費電力(マイナス30~40WでCore i9 10900Kの消費電力)は330W前後に達します。
「Fractal Design Celsius S36 Blackout」のファン回転数を1400RPM(ポンプ速度は最大)に固定してストレステストを実行したところ、「Fractal Design Celsius S36 Blackout」はCore i9 10900Kを全コア5.1GHzにOCしてもCPU温度を最大73度、平均69.1度に収めることができました。ファン回転数は定格2200RPMなのでまだまだ余力を残しています。
なおIntel Core-XやAMD Ryzen Threadripperのようなエンスー向けCPUはもとより、Intel Core i9 10900KやAMD Ryzen 9 5950XなどTDP100Wクラスのメインストリーム向け最上位CPUの冷却に「Fractal Design Celsius S36 Blackout」を使用する場合、CPU自体の冷却は上述の通り十分なのですが、これらのCPUはVRM電源への負荷も大きく、マザーボードによってはVRM電源周りが高温になることが予想されます。
マザーボードスペーサーのネジ穴を利用して固定できるフレキシブルファンアーム「サイズ 弥七」や、可変アルミニウム製ファンフレームでVRM電源を狙って設置が容易な「IN WIN MARS」をスポットクーラーに使用することによって、VRM電源が弱めな比較的安価なマザーボードでもメインストリーム向け最上位CPUを運用できるようになるので、「Fractal Design Celsius S36 Blackout」と一緒に使用するのがおすすめです。
・マザーボードVRM電源クーラーのレビュー記事一覧へ
Fractal Design Celsius S36 Blackoutのレビューまとめ
最後に簡易水冷CPUクーラー「Fractal Design Celsius S36 Blackout(型番:FD-WCU-CELSIUS-S36-BKO)」を検証してみた結果のまとめを行います。簡単に箇条書きで以下、管理人のレビュー後の所感となります。良いところ
- Fractal Designらしいシンプル形状な水冷ヘッド
- 水冷チューブはスリーブ付きで丈夫。曲げやすく潰れにくい。
- 水冷ヘッドとラジエーターの両側がストレートロータリー式なのでチューブの取り回しが良い
- 配線を容易にするファンハブをラジエーターに搭載
- PBOによって4.0~4.1GHzにクロックアップしたRyzen 9 5950Xを運用可能な冷却性能
- 全コア5.1GHzに手動OCしたCore i9 10900Kを運用可能な冷却性能
- バックプレートを単独でマザーボードに固定可能
- 水冷ブロックの固定はローレットナットでツールレス固定可能
- 水冷ヘッドのリングで切り替え可能なAutoとPWMの2つのファン・ポンプ制御モード
- 水温ソースのファン・ポンプ制御に対応(Autoの既定プリセットによる自動制御)
- 国内正規代理店アスクを介した5年間の長期保証
- ファンハブ使用時にファンとポンプの個別制御に対応して欲しかった
- ファン・ラジエーターの固定ネジが国内で入手の容易なM3やM4ではなくUNC No.6-32
冷却性能の検証結果からもわかるように「Fractal Design Celsius S36 Blackout」は、OCによって最大200Wクラスの電力負荷になる2020年最新メインストリーム向けCPU最上位のCore i9 10900KやRyzen 9 5950Xに余裕で対応可能な優れた冷却性能を実現しています。
ポンプとファンを別制御にしてポンプ最速かつファンを適切な速度で運用すれば、Intelのエンスー向けCPUで18コア36スレッドの最上位モデル「Intel Core i9 10980XE」をOCした400Wクラスの発熱も冷やしきる性能を備えています。
またベースプレートサイズの関係で当サイトとしては専用モデルを推奨していますが、「Fractal Design Celsius S36 Blackout」はCPU付属互換ブラケットによってRyzen Threadripper環境にも対応でき、360サイズ大型ラジエーターを採用する同製品ならTDP280Wの32コアや64コアの上位CPUにも対応できると思います。
数ある簡易水冷CPUクーラーの中でも「Fractal Design Celsius S36 Blackout」などFractal Design Celsiusシリーズの大きな特徴の1つがラジエーターに設置されたファンハブです。
高出力ファン端子という近年のM/Bのトレンドを活用し、ラジエーター上にファンハブを設置し、水冷ヘッドから伸びるファン端子に電源を集約することによって、マルチファン大型ラジエーターを搭載する上で避けられない問題の1つであるケーブルマネジメントの煩雑さを見事に解消されています。
一方でケーブルハブによってファン・ポンプが一括で制御されるため、静音性と冷却性能のバランスを取るのが難しく、Auto Modeは静音性極振りな設計で冷却性能が低く、PWM Modeはポンプ速度を最大にすると一緒にファンも最大速度になって煩いというふうに具合が悪いところは玉に瑕でした。ファンとポンプを個別に制御できる機能を搭載して欲しかったところ。
以上、「Fractal Design Celsius S36 Blackout」のレビューでした。
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補足:空冷クーラーと水冷クーラーの違いについて
「空冷クーラー」と「水冷クーラー」の2種類ついて同じところと違うところ、また原理的に考えた冷却性能の比較を簡単に補足しておきます。関連記事
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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
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