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AMD Ryzen 9000シリーズCPUに対応するX870Eチップセット搭載AM5マザーボードとしてGIGABYTEからリリースされた、110A対応SPSで構成される20フェーズの超堅牢VRM電源、2基のUSB4対応Type-Cポートを搭載するハイエンドゲーミングモデル「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」をレビューします。

GIGABYTE X870E AORUS MASTER レビュー目次
1.GIGABYTE X870E AORUS MASTERの外観・付属品
2.GIGABYTE X870E AORUS MASTERの基板上コンポーネント詳細
・AMD 800/600シリーズ マザーボードの違いについて
3.GIGABYTE X870E AORUS MASTERの検証機材
4.GIGABYTE X870E AORUS MASTERのBIOSについて
5.GIGABYTE X870E AORUS MASTERのOC設定について
・PBOによる低電圧化や電力制限について
・CPUコアクロックのマニュアルOCについて
・メモリのオーバークロックについて
6.GIGABYTE X870E AORUS MASTERの動作検証・OC耐性
7.GIGABYTE X870E AORUS MASTERのレビューまとめ
【2024年11月30日:初稿】
レビュー記事初稿を公開、BIOS:F4gで検証
製品公式ページ:https://www.gigabyte.com/jp/Motherboard/X670E-AORUS-MASTER-rev-10
【機材協力:日本ギガバイト】
GIGABYTE X870E AORUS MASTERの外観・付属品
まず最初にGIGABYTE X870E AORUS MASTERの外観と付属品をチェックしていきます。
パッケージを開くと上段にはマザーボード本体が静電防止ビニールに入った状態でスペーサーの中央に収められていました。マザーボードを取り出すと2重底になっており下段には各種付属品が入っています。

マニュアル冊子とドライバメディアは付属しておらず、いずれも公式サポートページからダウンロードする形です。ファングッズとしてシール、バッジ、ケーブルタイが付属しています。

組み立てに関連する付属品としては、SATAケーブル 2本、DDR Wind Blade(メモリ冷却用ファン)、DDR Wind Blade用ファン延長ケーブル、サーモセンサー2本、ノイズセンサー、G-Connector、Wi-Fiアンテナとなっています。


GIGABYTEの一部のマザーボードではフロントパネルコネクタのマザーボードへの装着を簡単にする独自パーツ G-Connectorが付属します。
今回は検証用スイッチ&LEDで試してみましたが次のように「G-Connector」へ各種コネクタを装着します。あとはこのままG-Connectorをマザーボードのフロントパネルヘッダーに挿せばOKという非常に便利な独自機能です。

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」にはOC対応DDR5メモリを冷却するためのオプションパーツとしてDDR Wind Bladeが付属しています。

7000~8000MHz対応の超高速OCメモリではメモリ電圧を1.4V以上に昇圧する必要があり、発熱も相応に大きくなります。DDR Wind Bladeで冷やすことによってそういった超高速OCメモリに負荷がかかった時の安定性が向上します。


マザーボード全体像は次のようになっています。
「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」はATXフォームファクタのマザーボードです。

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」のマザーボード下側はチップセットクーラーとM.2 SSDヒートシンクが一体化して見えるアルミニウム製アーマーのような外観です。グレーとブラックでツートンカラーをなしており、両者を隔てる斜めラインがスピード感を演出します。

リアI/OカバーはLEDイルミネーションが内蔵された艶のあるアクリルプレートを中央に配置し、全体デザインとの統一感を残しつつ、遊び感じさせる意匠です。

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」はマザーボード備え付けのLEDイルミネーションやRGB対応汎用4PIN/ARGB対応汎用3PINイルミネーション機器を操作可能なライティング制御機能 GIGABYTE_RGB_Fusionに対応しています。
「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」にはマザーボード備えつけのLEDイルミネーションとして、リアI/OカバーとチップセットクーラーにアドレッサブルLEDイルミネーションが内蔵されています。




加えてGIGABYTE_RGB_Fusionから制御可能な汎用LEDヘッダーとして、1基のRGB対応汎用4PIN LEDヘッダーと4基のARGB対応VD-G型3PIN LEDヘッダーも実装されています。

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」のVRM電源クーラーはCPUソケットの左に配置されたフィンアレイ型ヒートシンク、上に配置されたアルミニウムアロイ型ヒートシンクの2つで構成され、2つのヒートシンクはヒートパイプで連結されています。CPUソケット左側ヒートシンクはリアIOカバーと一体化した超巨大クーラーです。


フィンアレイ型ヒートシンクにはフィン1枚当たりの表面積が一般的なヒートシンクの10倍、同社前世代比2倍に拡大された最新設計のFins-Array IIIが採用されています。
さらに放熱フィン1枚1枚は厚み200μmのナノカーボン膜が静電接着によってコーティングされています。ナノカーボンコーティングは放熱性能を高め、コーティングなしと比較して10%も温度を低下させるとのこと。


CPUソケットの上側と左側のフィンアレイ型ヒートシンクを連結する銅製ヒートパイプは、一般的な6mm径よりも太い8mm径を採用し、ヒートシンクとの連結部分のギャップ狭める新たな製造プロセスが採用されています。発熱の大きいMOS-FETとの接触部分には12W/mKのハイエンド高性能サーマルパッドを使用し、さらにヒートパイプダイレクトタッチ構造も採用されています。

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」にはメインストリーム向けマザーボードながら、20フェーズ(16+2+2)の超堅牢なVRM電源回路が実装されています。
VRM電源回路にハイサイド/ローサイドMOS-FETとドライバICをワンパッケージし、低発熱で定評のあるSmart Power Stage(Dr. MOSの名前で有名)を採用するのはハイエンドマザーボードでは定番ですが、「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」にはCPUコア用16フェーズに110A対応SPS(Infineon PMC41430)が使用されています。


「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」ではEPS電源端子は最大16コアに達するRyzen 7000シリーズのオーバークロックにも対応すべく、8PIN×2が設置されています。EPS電源コネクタに装着された金属アーマーはコネクタの補強とともに熱拡散も補助します。
なおEPS電源端子については電源容量800W以下の電源ユニットでは1つしか端子がない場合があるので、EPS端子が足りているか事前に注意して確認してください。

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」には一体型リアI/Oバックパネルも採用されています。PCケースにパネルを装着する作業は固くて装着し難かったり、忘れてしまうこともあるのでマザーボードに統合されているのは嬉しい機能です。

以下USB規格に関する説明がありますが『USB3.2 Gen2 = USB3.1 Gen2』、『USB3.2 Gen1 = USB3.1 Gen1 = USB3.0』と考えて基本的に問題ありません。
「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」のリアI/Oに実装された2基のUSB Type-Cポートは帯域40Gbpsの次世代規格USB4に対応しています。2基のUSB4ポートはいずれもDisplayPort 1.4相当の帯域でDisplayPort Alternate Modeによるビデオ出力に対応しています。(映像ソースはiGPU)

リアI/Oには最新のUSB3.2 Gen2規格に対応した4基のType-A端子(赤色)が設置されています。そのほかのUSB端子については4基のUSB3.0端子と2基のUSB2.0端子が搭載されています。
ただUSB3.Xは無線マウスと電波干渉を起こすことがあるので、USB2.0は少し離れた場所に配置して欲しかったです。

Ryzen 9000/7000シリーズCPUのRadeonグラフィックス向けにHDMI2.1×1、USB Type-C(DisplayPort1.4 Alternate Mode)×2の3つのビデオ出力端子が搭載されています。HDMIのバージョンはver2.1なので4K解像度で60~120FPSの出力に対応しています。
ちなみに一般的なビデオ出力としては使用できませんが、「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」ののマザーボード上にはMOD PCで人気が出始めているPCケースサイドパネルやケース内部に設置するディスプレイ用にHDMIビデオ出力も実装されています。

有線LANとして近年ではエントリー~ミドルクラスのMBでも普及しつつある2.5Gb LANよりもさらに2倍高速なRealtek製LANコントローラー(RTL8126)による5Gb LANを搭載されています。
さらにWi-Fi 7に対応したQualcomm NCM865コントローラーによる無線LANも搭載しています。
接続規格としてはWi-Fi 802.11 a/b/g/n/ac/ax/be、2.4/5GHz/6GHzトライバンド、最大通信速度5.8Gbps(6GHz帯の320MHz幅接続時)、Bluetooth 5.4に対応しています。リアI/Oには無線モジュールのアンテナ端子が設置されているので付属のアンテナを接続できます。

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」のWi-FiアンテナにはWIFI EZ-Plugと呼ばれるワンタッチ装着機能も採用されています。従来のようなネジ巻き作業が必要なくなりました。
「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」に搭載されているネットワーク機器のうち、有線LAN(Realtek RTL8126)はWindows 11 24H2の標準ドライバで動作しますが、無線LAN(Qualcomm NCM865)は動作しません。

条件次第では問題になることもあるので詳しくはこちらの記事を参照してください。
なお、Realtek製LANコントローラー(RTL8126)による5Gb LANを最大スペックの5Gbpsで使用するにはドライバの手動インストールが必要です。 Windows11(24H2 クリーンインストール)の標準ドライバでも有線LANとして動作しますが、2.5Gb LANのRTL8125扱いとなってしまうため、最大通信速度が2.5Gbpsに制限されます。
「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」のリアI/OにはQ-FLASH PLUSボタンが設置されています。
BIOSファイル(サポートページからダウンロードして、”gigabyte.bin”に改名)の入ったUSBメモリを所定のUSB端子に接続してボタンを押すとQ-FLASH PLUS機能によってCPUやメモリなしの状態でもBIOSの修復・アップデートが可能です。

GIGABYTE X870E AORUS MASTERの基板上コンポーネント詳細
続いて「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」のマザーボード基板上の各種コンポーネントをチェックしていきます。AMD Ryzen 9000シリーズCPUではCPUソケットとして前世代のRyzen 7000シリーズと同じLGAソケットのAM5(LGA1718)が採用されています。


「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」はRyzen 9000シリーズCPUをネイティブサポートするマザーボードですが、AMD 600シリーズマザーボードがBIOSアップデートでRyzen 9000シリーズCPUをサポートするように、同製品も前世代 Ryzen 7000シリーズCPUで使用できます。
Ryzen 9000とRyzen 7000はCPUから伸びるPCIEレーン数や世代、USB、オーディオ機能などIO関連についてはほぼ共通仕様です。IO的にはフルスペックで活用できるのでM.2スロット等のIOを増強したい時に、CPUはRyzen 7000のままでB650やA620などエントリー~ミドルクラスのMBを最新のX870E/X870へ買い替えるというのも選択肢としてあり得ます。
AM5ソケットのCPUクーラーマウントについても簡単におさらいしておきます。
一方でAM5ソケットに標準で装着されているCPUクーラー固定用フックはAM4マウント互換となっており、プラスチック製フックを取り外した下にあるネジ穴位置もAM4マウントと共通です。
ただしAM5マザーボードにおいてCPUクーラー固定用金具(ILM)とCPUクーラー固定用フックは共通の金属製バックプレートで固定されているため、マザーボードからバックプレートを取り外すことはできません。
AM5マザーボードはAM4マウントのCPUクーラーと基本的には互換であるものの、AM4環境で使用する時に標準付属のバックプレートを取り外す必要があったCPUクーラーは使用できないので注意してください。

ちなみに高性能AIO水冷CPUクーラーとして定評の高いAsetek OEMの製品については、AM4マウント用のソケット付きスタンドオフがAM5マザーボードでも問題なく使用できました。AM4用の部品でも使用は可能ですが、スタンドオフの長さなど構造をAM5へ最適化した新しい固定部品もAsetekから発表されており、一部のメーカーからは新部品の無償提供もあるようです。(Ryzen 7000登場時なので無償提供はすでに終了しているかも)

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」はシステムメモリの最新規格DDR5に対応しています。従来規格のDDR4と下方互換はなく使用できないので注意してください。
システムメモリ用のDDR5メモリスロットはCPUソケット右側に4基のスロットが設置されています。固定時のツメは両側ラッチとなっています。片側ラッチよりも固定が少し面倒ですが、しっかりとDDR5メモリを固定できるので信頼性は高い構造です。

DDR5メモリスロットには外部ノイズEMIから保護して安定したメモリOC環境を実現し、またメモリモジュールの挿抜によるPCB基板の歪みや破損を防止する金属シールド Ultra Durable SMD DDR5 Memory Armorが実装されています。


グラフィックボードなどを設置するPCIEスロットは上から[N/A、x16、N/A、N/A、N/A、x16、x16]サイズのスロットが設置されています。上段のプライマリグラフィックボードを2段目のスロットに配置することで、大型ハイエンド空冷CPUクーラーとグラフィックボードの干渉を回避しています。
2段目のx16サイズPCIEスロットはCPU直結のPCIE5.0x16レーン、6段目と7段目はPCH経由のPCIEレーンに接続されており、帯域はPCIE4.0x4とPCIE3.0x4です。


「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」のグラフィックボード用x16サイズスロットにはPCIEスロット補強に亜鉛合金製アーマー Ultra Durable SMD PCIe 5.0 Armorが採用されています。
メタルアーマー自体から伸びるマルチポイント固定ピン SMD Iron Crawと、PCIEスロット左右端の固定を補強するGIGABYTE特許取得済 Double Locking Bracket による2重の保護で、PCIEスロットはマザーボードへ強固に固定されています。
1kgを超える重量級グラボの重さに耐えるためのこれらの対策により垂直方向に2.2倍、水平方向に1.7倍と両方向の負荷に対する強度は大幅に向上しています。

大型空冷CPUクーラーを組み合わせた場合など、グラフィックボードを取り外す際にPCIEスロットの固定ラッチを解除するのが難しい、という場面に遭遇したことのある自作erは多いと思いますが、PCIEスロット固定ラッチの解除を簡単にする新機能「EZ-Latch Plus」がGIGABYTE製マザーボードの一部で採用され始めました。

EZ-Latch Plusに対応しているマザーボードでは、PCIEスロット付近に実装されたボタンを押下するだけで簡単にPCIEスロットのロックを解除できます。
GIGABYTE X870E AORUS MASTERにはSATAストレージ用の端子はマザーボード右下に4基搭載されています。いずれもチップセットのコントローラーによる接続で、RAID0/1/5/10のハードウェアRAID構築にも対応しています。

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」には高速NVMe接続規格に対応したM.2スロットが、CPUソケット下やPCIEスロットと並んで計4基設置されています。
M2_1はCPU直結PCIE5.0x4レーンに接続されており、PCIE5.0x4接続のNVMe接続M.2 SSDに対応しています。
M2_2はチップセット経由PCIEレーンに接続されており、NVMe(PCIE4.0x4)接続のM.2 SSDに対応しています。排他利用はありません。
M2_3とM.2_4はCPU直結PCIE5.0x16レーンを共有する形でPCIE5.0x4のNVMe接続M.2 SSDに対応しています。M2_3とM.2_4を使用する場合、2段目のx16サイズPCIEスロットの帯域は制限されるのでグラフィックボードの性能を重視する場合は注意が必要です。

PCIE5.0x4接続に対応した3基のM.2スロットにはメタルアーマー搭載M.2端子 Ultra Durable SMD PCIe 5.0 x4 M.2が採用されています。外部ノイズEMIから保護して安定した高速通信を実現し、またSSDの挿抜によるM.2スロットの歪みや破損を防止します。

・PCIE4.0/5.0対応NVMe M.2 SSDのレビュー記事一覧へ

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」のM.2スロットにはM.2 SSD自体の固定にはネジを使用しない、M2 EZ-Latch Plusという独自の構造が採用されています。バネ仕掛けのクリップなので装着時はM.2 SSDを押し込むだけで簡単にM.2 SSDを固定できるので非常に楽です。
(個体差があり上手くクリップが回らないこともあるようです。軽く押して上手くいかない時は、手動でクリップを回して下さい)

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」には4基のM.2スロットそれぞれに大型M.2 SSDヒートシンク M.2 Thermal Guard XLとM.2 Thermal Guard Extが設置されています。
同ヒートシンクを使用することで、グラフィックボードなど発熱から保護し、M.2 SSDがむき出しの状態よりもサーマルスロットリングを抑制する効果が期待できます。

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」のM.2スロットのうちPCIE5.0x4に対応するCPUソケット直下のM.2スロットには M.2 Thermal Guard XLと呼ばれる、厚みが20mm以上もある特に巨大なヒートシンクが搭載されています。
高速な反面、発熱の大きいPCIE5.0対応NVMe M.2 SSDを頻繁にアクセスするシステムストレージに使っても安心して運用できます。

一般的なマザーボード備え付けM.2 SSDヒートシンクは表面のみに金属プレートが実装されていますが、同製品ではすべてのM.2スロットで両面ヒートシンク設計を採用しており、背面金属プレートも表面同様にサーマルパッドを介してM.2 SSDと接します。

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」のM.2 SSDヒートシンクにはM.2 EZ-Latch Clickと呼ばれる回転式レバーが搭載されています。レバーはバネ仕掛けになっていて、M.2 SSDヒートシンクを装着する時は上から押さえるだけ、外す時も90度くらい回転させるだけでロックを解除できます。

M.2 SSD自体も上で紹介したようにクリップによるツールレス固定なので、頻繁にM.2 SSDを交換する必要がある人には便利な構造です。
PCIEスロット間にある幅広なM.2 SSDヒートシンク M.2 Thermal Guard Extには、M.2 EZ-Latch Clickに加えて、マグネットによる位置合わせ機能 M.2 EZ-Matchも搭載されています。だいたいの位置でヒートシンクをマザーボード上の固定具側に挿入すればパチッと自動で位置が合います。

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」のマザーボード右側には最新接続規格USB3.2 Gen2x2に対応する内部USB Type-Cヘッダー(正式名称はFront USB Type-E)が実装されています。内部USB3.0ヘッダーはマザーボードの下端にあり、2基が設置されています。


マザーボードの下端には2基の内部USB2.0ヘッダーが設置されています。Corsair iCUEやNZXT CAM対応製品などUSB2.0内部ヘッダーを使用する機器も増えていますが、「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」であればそれらの機器も問題なく使用可能です。内部USB2.0が2基でも不足する場合はUSB2.0ヘッダー増設ハブの「NZXT INTERNAL USB HUB (Gen3)」や「Thermaltake H200 PLUS」がおすすめです。

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」はオンボードサウンドに7.1チャンネルや32Bit/192kHzのハイレゾ音源に対応するRealtek ALC1220-SBコーデックを使用した高音質ソリューションが採用されています。デジタル出力もオーディオ用の外部アンプ等との接続に最適な光デジタル端子が設置されています。

マザーボード基板上にはOCerのみならず一般自作erにとっても組み立て中の動作確認に便利なオンボードのスタートスイッチとリセットスイッチが実装されています。POSTエラーのチェックに便利なDebug LEDも設置されています。
リアパネルにはCMOSクリアのハードウェアスイッチも設置されているのでオーバークロック設定を失敗しても簡単に初期化が可能です。

冷却ファンや簡易水冷クーラーのポンプの接続用の端子はマザーボード上の各場所に計8か所設置されています。

加えて「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」には、DIY水冷PCユーザーには嬉しい外部温度センサーの接続端子が2基設置されています。GIGABYTEのファンコントロール機能は外部センサーをソースにした水温依存のファンコントロールが可能なので水冷ユーザーにもお勧めです。
さらに「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」では付属のノイズセンサーを使用することで、静音性もソースにしてファン制御を最適化することが可能です。

AMD 800/600シリーズ マザーボードの違いについて
Ryzen 9000シリーズCPUをネイティブサポートするAMD 800シリーズのうちX870EチップセットとX870チップセットについては個人的に思うところもあるので少し補足しておきます。簡単にまとめると次の2点です。- X870EにはPCIE5.0x4対応M.2スロットが実質1基しかない
- X870の拡張性はB650E相当なので、誤解を生むネーミング
AMD公式が指定するAM5チップセットファミリーのスペックとしてX870EはUSB4.0対応が必須となっており、AMD X870Eマザーボードでは一般的に(主要4社のほぼ全ての製品で)、CPUから伸びる2つのPCIE5.0x4レーンのうち一方を使用してUSB4コントローラーを接続しています。
そのためグラフィックボード用x16レーンを分割せずに使用できる、PCIE5.0x4接続のNVMe M.2スロットはAMD X870Eマザーボードには1基しか実装できず、されていません。
もう1点、AMD 600シリーズチップセットでは末尾”E”付きは同ナンバリングにおけるグラフィックボード用x16レーンのPCIE5.0対応の有無(非E付きでもメーカー判断のオプションで対応可)でしたが、AMD X870マザーボードは実質的に”USB4.0対応が必須になったB650Eマザーボード”です。前世代のAMD 670マザーボードよりも拡張性が低くなっているので注意してください。

X870マザーボードで主に使用されているASMedia ASM4242はPCIE4.0x4帯域によるUSB4コントローラーなので、単純に帯域だけ言えばPCIE5.0x4のレーンを下げて接続する意味はありません。
一応、合理的な理由を挙げるとすれば、CPU-PCH間の帯域はPCIE4.0x4しかなく、チップセットにはUSB4コントローラー以外に色々なコンポーネントがぶら下がっているので、それらとの兼ね合いでUSB4ポートがフルスペックを発揮できない状況が発生するのを避けるためだと思います。
AMD X670Eマザーボードでも各社ハイエンドモデルではUSB4.0に対応しているものはありましたが、基本的にチップセットから伸びるPCIE4.0x4レーンを使用していたので、AMD X670EマザーボードにはPCIE5.0x4接続のNVMe M.2スロットが2基実装されていました。
上のテーブルを見ての通り、X870EとX670Eの拡張性はほぼ同じで、X670Eの中にはUSB4対応マザーボードも存在するため、正規の新品を購入できるならRyzen 9000シリーズCPU用にX670Eマザーボードなど600シリーズを検討するのもアリだと思います。
GIGABYTE X870E AORUS MASTERの検証機材
GIGABYTE X870E AORUS MASTERを使用して検証機材と組み合わせてベンチ機を構築しました。GIGABYTE X870E AORUS MASTER以外の検証機材は次のようになっています。
テストベンチ機の構成 | |
CPU | AMD Ryzen 7 9800X3D (レビュー) AMD Ryzen 9 7950X (レビュー) |
CPUクーラー | Corsair H150i PRO RGB (レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM x3 (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill Trident Z5 Neo F5-6000J3038F16GX2-TZ5N DDR5 16GB×2=32GB (レビュー) |
CPUベンチ用 ビデオカード |
MSI GeForce GT 1030 2GH LP OC ファンレス (レビュー) |
システムストレージ |
Samsung SSD 990 PRO 1TB (レビュー) |
OS | Windows 11 Home 64bit |
電源ユニット | Corsair HX1500i 2022 (レビュー) |
ベンチ板 | STREACOM BC1 (レビュー) |
AMD 800シリーズチップセット搭載AM5マザーボードの検証機ではシステムメモリとして、Ryzen 9000シリーズでも引き続きOCメモリのスイートスポットとアピールされている、メモリ周波数6000MHz/CL30の低レイテンシなメモリOCに対応した「G.Skill Trident Z5 Neo(型番:F5-6000J3038F16GX2-TZ5N)」を使用しています。
G.Skill Trident Z5 NeoシリーズはAMD EXPOのOCプロファイルに対応した製品なので、AMD Ryzen 9000/7000シリーズCPUで高性能なPCを構築するお供としてオススメのOCメモリです。ARGB LEDイルミネーションを搭載したバリエーションモデル G.Skill Trident Z5 Neo RGBもラインナップされています。
・「G.Skill Trident Z5 Neo」をレビュー。EXPOで6000MHz/CL30のOCを試す!

360サイズや240サイズなど120mmファンを複数搭載できるマルチファンラジエーターの簡易水冷CPUクーラーを使用するのであれば、「Noctua NF-A12x25 PWM」への換装もおすすめです。
「Noctua NF-A12x25 PWM」は、超硬質かつ軽量な新素材 Sterrox LCPの採用によってフレーム-ブレード間0.5mmの限界を実現させた次世代汎用120mm口径ファンとなっており、1基あたり3500円ほどと高価ですが、標準ファンよりも静音性と冷却性能を向上させることができます。
・Noctua NF-A12x25シリーズのレビュー記事一覧へ

ベンチ機のシステムストレージには「Samsung SSD 990 PRO 1TB」を使用しています。
Samsung SSD 990 PROは、PCIE4.0対応SSDで最速クラスの性能を発揮し、なおかつ電力効率は前モデル980 PRO比で最大50%も向上しており、7GB/s超の高速アクセスでも低発熱なところも魅力な高性能SSDです。 これからPCIE4.0対応プラットフォームの自作PCを組むなら、システム/データ用ストレージとして非常にオススメな製品です。
・「Samsung SSD 990 PRO 1TB」をレビュー。性能も電力効率もトップクラス!

CPUとCPUクーラー間の熱伝導グリスには当サイト推奨で筆者も愛用しているお馴染みのクマさんグリス(Thermal Grizzly Kryonaut)を塗りました。使い切りの小容量から何度も塗りなおせる大容量までバリエーションも豊富で、性能面でも熱伝導効率が高く、塗布しやすい柔らかいグリスなのでおすすめです。
グリスを塗る量はてきとうでOKです。筆者はヘラとかも使わず中央山盛りで対角線だけ若干伸ばして塗っています。特にThermal Grizzly Kryonautは柔らかいグリスでCPUクーラー固定時の圧着で伸びるので塗り方を気にする必要もありません。

あと独特な形状をしているAM5ヒートスプレッダの隙間から零れたグリスが基板や素子に付着するのが気になる人にはElecGearから発売されているサーマルグリスガード(正確には反り防止フレームは付属品)がオススメです。

以上で検証機材のセットアップが完了となります。

GIGABYTE X870E AORUS MASTERのBIOSについて
GIGABYTE X870E AORUS MASTERを使用した検証機の構築も完了したので動作検証とOC耐性のチェックの前にBIOSの紹介をします。(OSから日付調整する前にスクショを取っている場合、日付が変になっている場合がありますが無視してください。また内容的に差異がなければ過去のスクリーンショットを流用しています)
BIOSにアクセスすると最初はイージーモードというグラフィカルな画面が表示されます。
パッと見の見栄えは良いのですが詳細モードでないと詳細設定ができないので「F2」キーを押してサクッと「アドバンスドモード(Advanced Mode)」へ移るのがおすすめです。

アドバンスドモードという従来通りの文字ベースBIOSメニューが表示されました。
トップに表示されるシステムタブのシステム言語から日本語を選択可能です。トップメニューのタブは左右カーソルキーで簡単に移動できます。

GIGABYTE製マザーボードのBIOSの翻訳は一部誤訳もあるものの比較的まともなので日本語UIとしては使いやすいと評価していいと思います。未だに一部の漢字に違和感のあるフォントですが、フォントサイズが調整されて見切れることがないように最新の製品では修正が加えられています。
G定の保存とBIOSからの退出はトップメニュータブ最右端の「保存して終了(save and exit)」から行えます。特定のブートデバイスを指定してBIOSから退出するBoot Override機能もあります。

BIOSのアップデート方法は、まず公式サポートページから最新のBIOSファイルをダウンロード、解凍してUSBメモリのルートに解凍フォルダを置きます。
サポート:https://www.gigabyte.com/jp/Motherboard/X870E-AORUS-MASTER/support#support-dl-bios
USBメモリを挿入したままBIOSを起動し、BIOSメニューのSystem Infoタブの最下段に表示される「Q-FLASH」を選択するか、「F8」キーのショートカットキーでQ-FLASHを起動します。
Q-Flashの画面に移動したら、Update BIOSを選択し、USBメモリからアップデートファイルを選択します。


ブートとOSインストール周りについて紹介します。
ブート回りは下画像のようにトップメニュータブ「BIOS」の中で非常に簡潔にまとめられており初心者でも迷うことはないと思います。OSのインストールも「起動オプション #1」に「UEFI 〇〇」というOSインストールメディアを設定して保存&退出でOKです。

GIGABYTEのBIOSではブートデバイスの指定が可能なので起動オプションで設定せずに、「保存して終了(save and exit)」のタブメニューから「UEFI 〇〇」というOSインストールメディアを選択してもOKです。

BIOSのアップデートやWindows OSのインストール方法を紹介したところで、GIGABYTE X870E AORUS MASTERのBIOS機能で筆者が気になったものをいくつかチェックしていきます。
よく使うBIOS設定をお気に入りリストに登録するFavorite機能もあります。
他設定同様に左右カーソルキーでお気に入りタブに切り替えるか、F11キーのショートカットで開くことができます。
お気に入りリストへの登録も簡単です。BIOSメニューの個別設定にカーソルを合わせた状態でInsertキーを押下すると選択中の項目をお気に入りリストに追加できます。

GIGABYTE X870E AORUS MASTERのリセットスイッチは「MULTIKEY」という機能に対応しており、BIOS上から、「リセット」、「LED オン/オフ」、「起動してBIOSメニューを表示」、「セーフモードでOSを起動」など押下時の機能を切り替えることができます。

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」などGIGABYTE製マザーボードに採用されるファンコントロール機能 Smart Fan 6について紹介していきます。外部温度センサー対応など多機能かつ、ユーザービリティーにも優れたUIでかなり使いやすい機能です。
「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」のファンコントロール機能 Smart Fan 6には、「F6」のショートカットキーか、SettingsタブのSmart Fan 6を選択することでアクセスできます。
「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」のファンコントロール機能は下のスクリーンショットのようにグラフィカルUIでマウスを使って簡単にできる機能なのですが、マウスレスでも全て設定可能となっており、ASUSやASRockのBIOSのようなテキストボックス直打ちUIが好きな筆者でも使いやすいと感じる良いファンコンでした。

Smart Fan 6ではファンカーブグラフの下に頂点座標を設定するテキストボックスがあり、ファンカーブの設定値を直打ち設定することが可能です。

同ファンコントロール機能でユーザーが主に触る部分は下のスクリーンショットで囲った、「設定を行うファン端子」「速度設定プリセットの選択」「手動設定時のファンカーブ」「ファン制御ソース温度」「複数ファン端子への設定の適用」の5つになると思います。

設定を行うファン端子は画面左側に列挙されたファン端子名から選択します。
選択したファン端子について「〇〇ファン速度制御」の項目から、「通常」「静音」「フルスピード((定格)」の3つのプリセットに加えて、ユーザーが各自でファンカーブをカスタマイズできる「手動」の4種類を選択できます。

また選択しているファン端子の操作を行う温度ソースは「Fan Control Use Temperature input」から選択可能です。
マザーボード備え付けの温度センサーに加えて、対応マザーボードであれば増設可能な外部温度センサーを温度ソースに指定できます。ただしCPUファンについてはCPU温度ソース固定となります。
水温センサーを外部温度センサー端子に接続すれば水温ソースにしたラジエーターファンのファンコンにも対応可能なので水冷PC用のマザーボードとしても最適なファンコン機能です。

「〇〇ファン速度制御」の項目で「手動」を選択した場合はファンカーブのグラフにおいて、ファンストップ温度と、フルスピード温度に加えて、グラフ内で任意の6点についてファンカーブを設定できます。
「Monitor」と「〇〇ファン速度制御」の項目間で上下カーソルキーを使うことで各ファンカーブ頂点を指定することができます。Shiftキーを押したままでカーソルキーを操作することによってマウスレスでファンカーブの頂点を格子上で移動可能です。冒頭で紹介したようにSmart Fan 6ではテキストボックスを使用した頂点設定値の直打ちにも対応しています。

〇〇_Fan Stopという項目でソース温度が一定以下の時にファンを停止させるセミファンレス機能も用意されています。
「0」と書かれたファンカーブの頂点はファンストップ温度となっており、指定した温度ソースがファンストップ温度以下の場合、設定を行ったファン端子に接続されたファンを停止させる、所謂セミファンレス機能が使用できます。

「Tune Alll」のボタンをクリックするとマザーボードに設置されたファン端子が全て列挙され、ファン端子名の左にあるチェックボックスのチェックを入れるもしくは外すことで、現在設定を行っているファン端子と同じ設定を他のファン端子にも一斉に適用することが可能です。
ファン設定の同期適用機能があるというのはユーザービリティーに優れ非常に好印象です。

その他にも急激な温度変化へファンコンが過敏に反応しないようファン速度変化に1~3秒の猶予を設ける「Temperature Interval」、ファン操作モードを「DC/PWM/自動検出」から設定する「〇〇ファン Control Mode」などのファンコン設定項目があります。
またマザーボードにブザーユニットが接続されている場合は、特定温度ソースが一定温度を超えた場合にエラーを知らせる「Temperature Warning」や接続されているファンに不具合が発生した(回転数の検出ができない)場合に警告を行う「〇〇ファン異常警告」といった設定も可能です。

また画面左下にある「Save Fan Profile」、「Load Fan Profile」でファン制御設定を保存できます。
外部ストレージだけでなく、BIOSメモリにも1つのプロファイルを保存しておくことが可能で、このプロファイルはBIOSをアップデートしても引き継がれます。

GIGABYTE X870E AORUS MASTERのOC設定について
「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」を使用した場合のオーバークロックの方法を紹介します。なおオーバークロックはメーカー保証外の行為であり製品の破損やデータの消失もすべて自己責任となります。
オーバークロック検証時は最小構成(CPU、マザーボード、メモリ、システムストレージ、グラフィックボード)以外は基本的にすべて外し、可能ならOC検証用のシステムストレージを用意するなど細心の注意を払ってください。
オーバークロック関連の設定項目はトップメニュータブ「Tweaker」に各種設定がまとめられています。下にスクロールしていくと概ね「コアクロック→メモリ→電圧」の順番で並んでいます。設定値を直接入力する項目でデフォルトの「Auto」に戻す場合は「a」キーを入力すればOKです。

Ryzen CPUは、CPU温度や電力に関して安定動作可能な相関関係を記したテーブルがCPU内部に用意されており、それに則した形でPure PowerやPrecision Boost 2といったRyzen CPUの独自機能により動作クロックや電力がリアルタイム制御されています。

例えばRyzen 9 7950XではCPUクーラー冷却性能の影響で若干前後しますが、単コア負荷の場合は最大で5.7GHz以上、全コア負荷の場合はTDPの範囲内で変動しますが、PCゲームのような軽いワークロードであればコア毎に5.5GHz程度で動作し、3Dレンダリングや動画のエンコードなどCPUがフルパワーを発揮する重いワークロードでは冷却性能が十分ならベースクロックを上回る平均5.0~5.2GHz程度で動作します。

Ryzen/Threadripper CPUの動作クロックに関する予備知識については下の記事で概要を解説しているので参考にしてください。
「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」にはゲーム性能を引き上げる機能としてX3D Turbo Modeに対応しています。
X3D Gaming Modeを有効にすると、マルチスレッディングが無効化され、2xCCDモデルは低クロックコアや非X3Dコアを無効化するので、一部のゲームでは性能(フレームレート)が上がります。ただ逆に性能が下がるゲームもありますし、コアスレッド数を減らすのでCinebenchのような多コア高負荷なクリエイティブタスクは大きく性能が低下します。

PBOによる低電圧化や電力制限について
Precision Boost Overdrive 2によるクロックアップや低電圧化、PPT/EDC/TDCによる電力制限の解除といった近年のRyzen CPUのチューニングにオススメな設定について紹介します。「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」では単コアブーストクロックを維持したまま、電力制限を解除することで全コア最大動作倍率を引き上げることができる「Precision Boost Overdrive」もBIOSから設定が可能です。
CPUコアクロック手動設定のすぐ下にある「Advanced CPU Settings」からアクセスできます。



Precision Boost Overdriveを手動設定にすると、Ryzen 9000シリーズCPUにおいても前世代と同様に、電力制限上限値を指定する「PPT Limit (W)」、最大動作クロックの制限値に影響する「TDC Limit / EDC Limit (A)」を設定できます。
その他にも、XFR2によるコアクロックの上昇幅を設定する「Max CPU Boost Clock Override」や、Precision Boost 2やXFR2によるクロックアップが効く温度閾値を引き上げる「Platform Thermal Throttle Limit」などのオプションも調整可能です。

「Max CPU Boost Clock Override」はXFR2による自動OCの上昇幅の設定です。
PBOでシングルスレッド性能、軽負荷で全コアが稼働するゲーム性能を向上させたい時に後述のCurve OptimizerやCurve Shaperと組み合わせます。

例えばRyzen 7 9800X3Dの単コア最大ブーストクロックの公称仕様値は5.20GHzですが、定格でもXFR2による50MHzのクロックアップが適用されており、Precision Boost Fmaxは5.25GHzです。(Ryzen MasterでMax CPU Speedとして確認できる)
Max CPU Boost Clock Overrideを有効にすると、さらに設定値分だけPrecision Boost Fmaxが上昇します。
つまり200MHzに設定するとRyzen 7 9800X3DのPrecision Boost Fmaxは5.45GHzとなります。 電力制限や温度制限が支配的になるので、多スレッド負荷時は効果を実感しにくいのですが、多スレッドも含めて一律で上限が引き上げられるはずです。

Ryzen 9000/7000シリーズCPUは上記の電力制限解除に加えて、V-Fカーブ調整機能 Curve Optimizerによる低電圧化が可能です。

Curve Optimizerでは全コア一律orコア別で電圧オフセット設定ができます。設定単位はmvではなくcountという独自単位(1count = 30~50mV程度とのこと)になっています。Positive(+)とNegative(-)で増減を、countは0~30の範囲内で指定できます。

全コア個別設定もできるので単コアブースト優先率や電圧特性に応じてオフセット値を変えることによって、上で紹介したMax CPU Boost Clock Overrideとの相乗効果で、マルチスレッド性能だけでなくシングルスレッド性能も向上させることが可能です。

GIGABYTE製マザーボード独自の項目としてCCD別の設定が可能です。Ryzen 9 9950Xなど2xCCDのCPUはCCD毎に明確に電圧特性の優劣があるので、コア別は面倒だけど、CCD別で設定を分けたいというニーズはあると思います。シンプルに便利で良い機能です。

AMD Ryzen 9000シリーズCPUと同時に、Curve Optimizerをさらに発展させた新機能「Curve Shaper」も導入されています。


Curve Optimizerはコアクロック帯やCPU温度帯に依らず一律で同じ補正を適用するので、単純なオフセットモード電圧制御に近い降圧・昇圧になりますが、新たなCurve Shaperでは『5種類のコアクロック帯(ワークロード)×3種類の温度帯』で計15種類に分けて”magnitude(countとほぼ同じ整数値)”という補正値を設定できます。
ちなみにCurve OptimizerとCurve Shaperは同時に設定でき、効果は重ね掛けされます。複雑になるのでどちらか片方だけで設定するのが推奨ですが。

Curve ShaperではMin Frequency、Low Frequency、Med Frequency、High Frequency、Max Frequencyの5種類のコアクロック帯を選択できます。使用するCPUモデルによって具体的な周波数レンジは異なりますが、Med Frequencyなら4200MHz~5000MHzのように一定のコアクロック範囲に対してmagnitudeによる降圧・昇圧が適用されます。
簡単にワークロードとして言い換えると次のようになります。
- Min Frequency: アイドル状態
- Low Frequency: バックグラウンドタスク
- Med Frequency: Cinebenchのような全コア稼働の高負荷
- High Frequency: ゲームのような全コア稼働の低~中負荷
- Max Frequency: 1~2スレッドのような少スレッドタスク
- Low temperature: 50度以下
- Medium temperature: 50~90度
- High temperature: 90度以上

ちなみにPrecision Boost Overdriveでクロックアップを行う場合、AMD CBS内の「Global C-State」は無効化しないでください。
特定の動作倍率で固定するマニュアルOCの場合はGlobal C-Stateを無効化した方が良いと言われますが、PBOの時は無効化すると単コア最大ブーストクロックが伸びず、シングルスレッド性能が下がってしまいます。

Ryzen 9 9950XなどRyzen 9000シリーズの上位モデルはPPT等の電力制限値も適用されているものの、実際の動作としてはCPUの臨界温度95度を上限として可能な限りCPUコアクロックを引き上げるような定格動作設定になっています。
高負荷時にCPU温度が95度に達するのが気になる人は、「Platform Thermal Throttle Limit」で定格95度の臨界温度を温度の整数値指定で変更できます。

もしくはトップメニュータブ SettingsのAMD CBS - SMU Common Option内に配置されている「Thermal Control」から。



単純に電力制限だけを変更したいということであれば、Tweakerのトップメニュー内にある「ECO Mode」から代表的な電力制限を選択できます。

PBOを使用せず任意の設定値を指定したい場合は、Settingsのトップメニュー内にあるAMD CBS - SMU Common Option内の「Package Power Limit(PPT)」から。
Ryzen 9 9900XやRyzen 9 9950Xのような定格TDP170WのメニーコアCPUを95Wなど低い消費電力に制限して運用することができます。

CPUコアクロックのマニュアルOCについて
近年のCPUでは高い単コア最大ブーストクロックを維持できるV-Fカーブの低電圧化が常用チューニングでは主流ですが、ここからはベンチマークスコアを追求するOC競技等に最適なCPUコアクロックを定格動作倍率よりも高く設定するマニュアルOCについて説明します。GIGABYTE X870E AORUS MASTERのコアクロックのOC設定方法はコアクロック(MHz)の動作倍率を指定する形になっています。
「CPU Ratio」の項目を「40.25」と設定するとベースクロック(BCLK):100MHzに対して4025MHzで動作するように設定されます。動作倍率は0.25刻みで指定可能です。

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」でRyzen 9 9900X/9950Xを使用している場合、全コア共通の動作倍率設定だけでなく、CCX単位(7900Xの場合は6コア1セット、9950Xの場合は8コア1セット)で個別に動作倍率を設定するPer CCXにも対応しています。
設定は少し面倒になりますが、CCX別にOC耐性には違いがあるので、共通のコア電圧に対して、OC耐性の良いCCXでは44倍に、OC耐性の悪いCCXは42倍に、のように細かく設定できます。Intel製CPUのBy Specific Core設定のようにコア電圧もCCX単位で調整できるとさらにOC設定の幅が広がるのですが、電圧については今のところ非対応です。

「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」はベースクロック(BCLK)の調整にも対応しています。
CPUコアクロックはBCLKに対する動作倍率で設定されるのでBCLK110MHz、動作倍率40倍の場合はコアクロック4.40GHz動作となります。ただしBCLKを使用したOCはかなり上級者向けなので通常は100MHz固定が推奨です。

続いてコア電圧の調整を行います。
AMD Ryzen CPUのオーバークロックで変更する電圧設定については、CPUコアクロックに影響する「CPUコア電圧」と、メモリクロックやCPU内蔵グラフィックス(iGPU)の動作周波数に影響する「SOC電圧」の2種類のみと非常に簡単化されています。

CPUコアクロックの動作倍率を一律で指定するマニュアルOCを行う場合、GIGABYTE X870E AORUS MASTERではCPUコア電圧(BIOS上ではCPU Vコアと表記されています)の項目を変更します。
オフセット等の電圧モードに関する設定はなく、シンプルに固定値を指定するOverride Modeにだけ対応しているので、コアクロックに応じて適切な電圧値を指定します。

CPUコア電圧モードについて簡単に説明すると、マザーボードにより対応しているモードは異なりますが、コア電圧モードの概略図は次のようになっています。
負荷に依らず一定電圧をかけ続ける固定モードに対して、オフセットモードやアダプティブモードはCPU毎に異なるV-Fカーブを参照し、負荷に比例して電圧が変化します。
低負荷時は電圧が下がるので省電力に優れますが、マニュアルOCをする場合はマザーボードによって挙動に差があり安定する設定を見極めるのが難しいので、個人的にはオフセットやアダプティブは定格向け、OCには固定値適用の固定モードを推奨しています。
OCでオフセットやアダプティブを使う場合も最初はコアクロックに対して安定する電圧を見極める必要があるので、まずは固定モードを使用します。

またマニュアルOCでコアクロックを高く設定する時に追加で変更するといい電圧設定項目として「CPU/VRM設定」がTweakerトップメニューの一番下に配置されています。

CPU/VRM設定内で特に調整した方がよい項目として「CPUロードラインキャリブレーション」があります。CPUロードラインキャリブレーションはCPU負荷時の電圧降下を補正してOCを安定させる機能です。
補正の強度としてLow、Medium、High、Turbo、Extremeなど複数段階で設定値が用意されており、設定値名の通り補正に強弱があります。補正を強くするほどOCの安定性は増しますがCPUの発熱も大きくなるので、Mediumあたりを最初に使っておいて、ストレステストのCPU温度をチェックしながら補正を調整するのがおすすめです。

メモリのオーバークロックについて
メモリのオーバークロックについても簡単に紹介しておきます。メモリの性能について簡単に言うと「動作クロックが高く」「タイミングが小さい」ほど性能は高くなります。
そのためメモリOCを手動で行う手順を簡単にすると「電圧を上げて動作可能なクロックを探し」、「そのクロックにおいて正常に動作する最小のタイミングを探る」という2つの手順を繰り返すことになります。
なお、 メモリOCではPOSTすらクリアできずBIOSに到達できないことも少なくありません。メモリ設定を初期化できるようにCMOSクリアの手順を事前に確認しておいてください。
Intel XMPやAMD EXPOのOCプロファイルによるメモリOCは上の手順によるOC選別をメーカー側がすでに行い動作確認をしているので、メーカーが動作確認を行ったOCプロファイルを適用するだけで簡単にメモリをオーバークロックできます。
「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」はAMD環境に最適化されたEXPO対応メモリだけでなく、Intel XMP対応メモリのどちらでもOCプロファイルによるメモリOCが可能です。
メモリOCで有名なXMPプロファイルはIntelの策定した規格なのでAMD製CPU&マザーボード環境では厳密にいうと非対応ですが、GIGABYTE X870E AORUS MASTERなどGIGABYTEマザーボードでは、メモリに収録されたXMPプロファイルからRyzen環境でも使用可能なメモリOCプロファイルを自動生成する機能があります。


メモリ周波数は「DRAM周波数(システムメモリマルチプライヤ)」という項目のプルダウンメニューから動作クロック(倍率)を任意に設定可能です。メモリ周波数もBCLKに対する倍率で動作周波数が決まります。
EXPO/XMPを使用せず、「DRAM Speed」の設定値が自動(Auto)になっている場合は、使用するメモリにSPD情報として収録されている動作クロック4800MHz、5200MHzなどのメモリ周波数およびタイミングによる定格動作となります。

Tweakerのトップメニューにある「高度なメモリ設定」から「Memory Subtimings」を順番に開いていくと、メモリタイミングの個別打ち込み設定も可能です。


メモリタイミングを手動で設定する場合、基本的にはOCメモリ製品のスペックとして公表されることの多い、「CAS Latency (tCL)」、「RAS to CAS (tRCD)」、「RAS Precharge (tRP)」、「RAS Active Time (tRAS)」、「Active to Active Command Time (tRC)」の主要な5タイミングと、加えて「Command Rate:1 or 2」の6つ以外はAutoのままでいいと思います。
あとOCプロファイル適用後、メモリストレステストが数分から10分弱でエラーが出てしまう時は、「Write Recovery Time (tWR)」を2~6程度盛ると安定するかもしれません。

DDR5メモリの周波数OCを行う際はメモリ電圧を、メモリ周波数6000MHz以上の場合は1.300V~1.350V程度に上げる必要があります。
厳密に言うと、Ryzen 9000/7000シリーズCPU環境におけるメモリ電圧はDRAM Voltage、DRAM VDDQ Voltage、CPU VDDIO Voltage(DRAMターミネーション)の3種類に分けられるのですが、簡略化して同じ設定値でOKです。

メモリ周波数をOCするとメモリコントローラーやInfinity Fabricの動作周波数も変化するので、DRAM電圧だけでなく「CPU SOC電圧(内蔵グラフィックス電圧 VAXG)」も昇圧します。
メモリ周波数が6000MHz程度(UCLK 3000MHzとFCLK 2000MHz)であれば、CPU SOC電圧の目安は1.100~1.200V程度です。Auto設定だと1.300~1.350Vくらいに昇圧されることがあるので注意。

あとTweakerの一番下にある高度な電圧設定の中に配置されているVDDG CCD/IOD Voltageは自動設定のままで試してみて安定しないようであれば、1.000~1.200Vの範囲内を0.050V刻みで試してみてください。


Ryzen 9000/7000シリーズCPUではメモリコントローラー周波数(UCLK)とメモリ周波数の同期として1:1対応と1:2対応の2つの動作モードがあります。CPU個体差(メモコンのOC耐性)にも依りますが、メモリ周波数6000MHzまでなら1:1同期で問題ないはずです。

Ryzen 5000シリーズCPU以前では性能を重視するなら、メモリ周波数とメモコン周波数、そしてInfinity Fabric周波数の3つを1:1:1で同期させるのが最も遅延が小さくので推奨されていました。(もしくは遅延が増えるのを許容して高メモリ周波数重視で、UCLKを1:2同期に下げ、FCLKは非同期モードに)
DDR5メモリに対応するRyzen 9000/7000シリーズCPUではInfinity Fabric周波数(FCLK)をメモリ周波数と1:1同期させるのは難しいので、FCLKはAuto設定の非同期モードとし、メモリ周波数6000MHzでUCLKを1:1同期にするのが性能のスイートスポットとして推奨されています。

Ryzen 9000/7000シリーズCPUのInfinity Fabric周波数(FCLK)はメモリ周波数とは無関係に設定することになります。
CPU個体差(IF周波数のOC耐性)にも依りますが、一般的に2000MHz程度なら安定動作するようです。メモリ周波数6000MHzでメモリOCを行った時にAuto設定になっていると2000MHzが適用されます。
CPUのIF周波数OC耐性に応じて2200MHzなどにOCすること性能向上を狙えます。上で紹介した通り、FCLK周波数に関連する電圧はCPU SOC電圧です。

GIGABYTE X870E AORUS MASTERの動作検証・OC耐性
BIOS周りの気になるところやOC設定の基本についての紹介はこのあたりにして「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」を使用した検証機で具体的に動作検証とOC耐性をチェックしていきます。「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」を使用した場合のCPUおよびメモリのオーバークロック耐性をチェックしてみました。
なおオーバークロックはメーカー保証外の行為であり製品の破損やデータの消失もすべて自己責任となります。オーバークロック検証時は最小構成(CPU、マザーボード、メモリ、システムストレージ、グラフィックボード)以外は基本的にすべて外し、可能ならOC検証用のシステムストレージを用意するなど細心の注意を払ってください。
近年のRyzen CPUは非常に高い単コアブーストクロックが適用されていますが、Precision Boost Overdrive 2を使用すれば、シングルスレッド性能を損なうことなく、マルチスレッド性能を向上させられます。
PBOによって定格の電力制限を解除することで、CPUクーラーの冷却性能が許す限り(CPU温度が閾値を超えない限り)、Precision Boost2/XFR2で参照されるテーブルの限界近くまでクロックアップさせることが可能です。

Ryzen 9000シリーズCPUでも従来のRyzen CPU同様に、PBOで電力制限を解除、360サイズAIO水冷CPUクーラーのような高性能なCPUクーラーの冷却性能にまかせて自動OC機能によるクロックアップを狙うというのがベースになりますが、Ryzen 9 9950Xなど上位モデルで性能を追求するには、CPUの冷却的に限られた消費電力の中でコアクロックを上昇させる必要があるのでV-Fカーブの低電圧化が必要です。
V-Fカーブの低電圧化に役立つ機能として、AMD Ryzen 9000シリーズCPUと同時に、Curve Optimizerを発展させた新機能「Curve Shaper」も導入されています。
Curve Optimizerはコアクロック帯やCPU温度帯に依らず一律で同じ補正を適用するので、単純なオフセットモード電圧制御に近い低電圧化になりますが、新たなCurve Shaperでは『5種類のコアクロック帯(ワークロード)×3種類の温度帯』で計15種類に分けて”magnitude(countとほぼ同じ整数値)”という補正値を設定できます。

Curve ShaperではMin Frequency、Low Frequency、Med Frequency、High Frequency、Max Frequencyの5種類のコアクロック帯を選択できます。使用するCPUモデルによって具体的な周波数レンジは異なりますが、Med Frequencyなら4200MHz~5000MHzのように一定のコアクロック範囲に対してmagnitudeによる降圧・昇圧が適用されます。
簡単にワークロードとして言い換えると次のようになります。
- Min Frequency: アイドル状態
- Low Frequency: バックグラウンドタスク
- Med Frequency: Cinebenchのような全コア稼働の高負荷
- High Frequency: ゲームのような全コア稼働の低~中負荷
- Max Frequency: 1~2スレッドのような少スレッドタスク
- Low temperature: 50度以下
- Medium temperature: 50~90度
- High temperature: 90度以上

まずは「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」に16コア32スレッドCPUのRyzen 9 7950Xを組み合わせて長時間負荷をかけ続けた時に、VRM電源周辺温度はどれくらいなのか、サーモグラフィーカメラ搭載スマートフォン CAT S62 PROを使用してチェックします。
VRM電源の安定性やマザーボード備え付けクーラーの冷却性能に関するテスト機材のCPUには1世代前のRyzen 9 7950Xを使用しています。
多くのレビューで解説されているように定格ではRyzen 9 9950XよりもRyzen 9 7950Xの方がCPU消費電力は高いので、VRM電源に対する負荷もRyzen 9 7950Xの方が大きいです。Ryzen 9 7950Xが安定して運用できるマザーボードなら、Ryzen 9000シリーズCPUにも余裕で対応できます。
CPUを定格で運用もしくはOC設定を適用した際のCPU温度やVRM電源温度を検証するストレステストについては、下記の動画エンコードを使用しています。
4K動画ファイル(4K解像度、60FPS、5.7GB)をソースとしてHandBrake(x264)を使ってエンコードを行います。Ryzen 9 7950Xは16コア32スレッドのCPUなので、同じ動画のエンコードを4つ並列して実行し、30分程度負荷をかけ続けます。ストレステスト中のファン回転数は一定値に固定しています。

注:CPUのストレステストについてはOCCTなど専用負荷ソフトを使用する検証が多いですが、当サイトではPCゲームや動画のエンコードなど一般的なユースで安定動作すればOKとういう観点から筆者の経験的に上の検証方法をストレステストとして採用しています。
「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」の標準設定のままRyzen 9 7950Xを動作させています。
メモリOC設定については検証機材メモリ「G.Skill Trident Z5 Neo F5-6000J3038F16GX2-TZ5N」に収録されたOCプロファイルを適用し、メモリ周波数6000MHz、メモリタイミング30-38-38-96、メモリ電圧1.350Vです。メモリコントローラー周波数UCLKは1:1同期、Infinity Fabric周波数FCLKは2000MHzです。

上記の動作設定においてストレステスト中のCPU温度やCPU使用率のログは次のようになりました。CPUクーラーにはCorsair H150i PRO RGBを使用し、冷却ファンNoctua NF-A12x25 PWのファン回転数は1500RPMで固定しています。
Ryzen 9 7950XはCPUにフル負荷がかかるシーンだと閾値温度95度もしくはPPT:230Wを上限として動作しますが、360サイズAIO水冷CPUクーラーを組み合わせても基本的にCPU温度がボトルネックとなります。
ともあれ、「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」のVRM電源温度などマザーボード原因でスロットリングが発生することはなく、Ryzen 9 7950Xを全コア5.0~5.1GHz程度の実動値で安定して動作させることができました。


この時にEPS電源経由の消費電力は230~240Wに達します。

少し補足すると、Ryzen 9000はダイ設計に加えてCPUヒートスプレッダの素材や設計も改良することで熱抵抗を15%改善し、AMD公式によると同TDPにおいてCPU温度を7度下げています。
Ryzen 7000シリーズでは市販のCPUクーラーを使用する限り、温度制御によって上記を超えるようなCPU消費電力が発生することはありませんが、より低温になっているRyzen 9 9950Xでは低電圧化・クロックアップと共に電力制限を解除するとRyzen 9 7950Xの定格よりもさらに大きい消費電力が発生することがあります。ただ、上記の数値に加えて、せいぜい+20~30W程度です。
「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」の標準設定(そのまま定格)でRyzen 9 7950Xに負荷をかけるとCPU消費電力は200W超に達しますが、VRM電源周りの温度をサーモグラフィーで確認したところ、70度前後に収まりました。
Ryzen 9 7950Xにフル負荷をかけ続けてVRM電源温度がこの程度に収まっているので、「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」なら、Ryzen 9000シリーズCPU各種で低電圧化・クロックアップを伴う電力制限解除を行っても、AIO水冷クーラーとの組み合わせでVRM電源周りがパッシブ空冷で全く問題ありません。



最後に「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」のメモリOC性能についてもチェックしておきます。
VRM電源の検証では定格に置いてRyzen 9 9950Xよりも負荷(消費電力)が大きくなるRyzen 9 7950Xを使用しましたが、メモリOCの検証については最新のRyzen 9000シリーズで高性能なゲーミングPCを組む時に本命視されることの多いRyzen 7 9800X3Dを使用しています。

GIGABYTE X870E AORUS MASTER(BIOS:F4g)のメモリOC検証では検証機材として、AMD EXPOのOCプロファイルに対応する16GB×2枚組み32GB容量のDDR5メモリキット「G.Skill Trident Z5 Neo(型番:F5-6000J3038F16GX2-TZ5N)」を使用しています。
AMD Ryzen 7000シリーズCPUの時に発売されたモデルですが、メモリ周波数 6000MHz、メモリタイミング CL30というAMD Ryzen 9000シリーズCPUでも引き続き、高性能を追求する上でスイートスポットとされるスペックです。
同メモリに収録されたOCプロファイルによって、メモリ周波数6000MHz、メモリタイミング30-38-38-96というRyzen 9000シリーズでも引き続き、高性能を求める上でスイートスポットなOC設定が安定動作しました。
OCプロファイルを適用しただけの自動設定ですが、メモリコントローラー周波数UCLKは1:1同期、Infinity Fabric周波数FCLKは2000MHzです。


「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」にはDDR Wind BladeというOC対応DDR5メモリを冷却するためのスポットクーラーがオプションパーツとして付属しているのでその冷却効果も試してみました。

6000MHz/CL30、1.350VのG.Skill Trident Z5 Neoにメモリストレステストをかけると、パッシブ空冷の状態ではメモリヒートシンクが最大温度で50度以上、平均46~47度になりますが、DDR Wind Bladeで冷やすことによって、最大温度は40度以下、平均32度と10度以上も温度が低下しました。
ファン速度は3500RPMですが、50mm径の小さいファンなのでPCケースに組み込めば聞こえないくらいのファンノイズです。

Crucial DDR5 Pro Overclocking UDIMMシリーズの16GB×2枚組みで6400MHz OC対応モデル(型番:CP16G64C38U5B)についても検証してみました。
高性能OCメモリというとG.Skillがやはり有名で、筆者も自分のPCや各種検証機材として愛用していますが、Crucial DDR5 Pro Overclocking UDIMMシリーズはMicron純正メモリモジュール確定で高信頼性、入手性も高く、安価なので検討する人も多い製品だと思います。

GIGABYTE X870E AORUS MASTER(BIOS:F4g)とRyzen 7 9800X3Dの環境はメモリ周波数6400MHz、メモリタイミング38-40-40-81でワンランク上のOC設定についてもメモリストレステストを問題なくクリアできました。
メモリコントローラー周波数UCLKは1:1同期、Infinity Fabric周波数FCLKは2000MHzです。


UCLK 3200MHzの1:1同期ではCPU SoC電圧を1.300V程度に盛る必要があるようです。
1.200~1.300V程度であれば問題はないと思いますが、Ryzen 7000X3DシリーズでSoC電圧の過剰昇圧による焼損問題もあったので、気になる人はSoC電圧が1.200V程度でも十分に安定する3000MHzの1:1同期に留める方がいいかも。

なおGIGABYTE X870E AORUS MASTERはBIOS:F4gにおいてメモリ周波数を6400MHzにすると、上記のEXPO OCプロファイル適用も含めて、メモリ周波数とメモリコントローラー周波数(UCLK)が2:1同期へ自動的に切り替わります。
今回はBIOS設定からOCプロファイルの適用に加えて、MCLK/UCLK同期モードを1:1に指定し、SoC電圧が自動設定のままだと1.200V程度になってメモリストレステストでエラーになったので、手動設定で1.300Vに昇圧しています。その他は自動設定のままです。

Crucial DDR5 Pro OC 6400MHz対応モデルには、最大OC周波数の6400MHzに加えて、Ryzen 9000シリーズCPUに最適な6000MHz/CL36の低レイテンシOCプロファイルも収録されています。
BIOS設定からOCプロファイルを適用するだけで、メモリ周波数6000MHz、メモリタイミング36-38-38-80というRyzen 9000シリーズでも引き続き、高性能を求める上でスイートスポットなOC設定が安定動作しました。
OCプロファイルを適用しただけの自動設定ですが、メモリコントローラー周波数UCLKは1:1同期、Infinity Fabric周波数FCLKは2000MHzです。


ゲーム性能を重視すると6400MHzでもUCLKの1:1同期が理想的はCPU側のメモコン特性(OC耐性の個体差)も影響します。
仮にCPUのOC耐性が悪く、6400MHzが上手く動作しなくても、Crucial DDR5 Pro OC 6400MHz対応モデルには6000MHz/CL36の定番かつ高性能なOCプロファイルも収録されているので安心です。将来性も確保しつつ、現行環境でもほぼ確実に動くOCプロファイルが収録されている嬉しいOCメモリです。

GIGABYTE X870E AORUS MASTERのレビューまとめ
最後に「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」を検証してみた結果のまとめを行います。簡単に箇条書きで以下、レビュー後の所感となります。良いところ
- ブラック&グレーのカラーリングとシャープなデザイン
- 110A対応SPSで構成された超堅牢な20フェーズVRM電源
- 200W超の負荷に対してパッシブ空冷のままVRM電源温度は80度以下
- 16GB×2枚組みでメモリ周波数6000MHz/CL30が安定動作
- 16GB×2枚組みでメモリ周波数6400MHz/CL38が安定動作(UCLK 1:1)
- OCメモリ用スポットクーラー DDR Wind Bladeが付属
- 重量級グラボにも耐えるメタルアーマー採用PCIEスロット
- PCIEスロットのロック解除が簡単な EZ-Latch Plus
- NVMe接続M.2スロットをマザーボード上に4基設置、うち3基はPCIE5.0対応 (*注1)
- 全てのM.2スロットに大型SSDヒートシンクを装備
- USB4対応Type-Cポート 2基を標準搭載(iGPU経由でビデオ出力も可能)
- Realtek製5.0Gb有線LANを標準搭載
- Wi-Fi 7&Bluetooth5.4対応無線LAN(Qualcomm NCM865)を標準搭載
- Realtek ALC1220の高性能オンボードオーディオ
- 外部温度センサー対応で多機能はファンコントロール機能
- CPU・RAMなしでBIOSのアップデート・修復が可能な「Q-FLASH PLUS」に対応
- NICのうち無線LANはWindows 11 24H2の標準ドライバに非対応
- PCIE5.0x4対応M.2スロットのうち2基はGPU用のx16レーンと帯域共有 (*注1)
- x16レーンの分割でないPCIE5.0x4対応M.2スロットが1基のみ(X870Eマザーボード一般に)
- GPU用レーンの帯域分割をしない場合、使用できるM.2スロットは2基だけ
「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」は、最大で16コア32スレッドとなるRyzen 9シリーズも対応できる高耐久・低発熱な20フェーズVRM電源回路を搭載することに始まり、PCIE5.0対応を含む4基のM.2スロット、2基のUSB4対応USB Type-Cポート、高速な5.0GbイーサやWi-Fi 7対応無線LANなど次世代高速NIC、ALC1220によるハイレゾ対応オンボードサウンドなど、ハイエンド指向なゲーマーを満足させる機能が詰め込まれたモデルです。
あとX670EのAORUS MASTERは横幅が20~30mm大きいE-ATXサイズのマザーボードでしたが、「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」は通常のATXサイズなので、PCケースの縛りも緩和され一般的なミドルタワーPCケースで導入しやすくなったところも地味に注目ポイントです。
帯域40GbpsのUSB4を始めとして、Ryzen 9000&AMD X870EでCPU&MBメーカーが普及を目指す最新機能をほぼ網羅しているので、Ryzen 7 9800X3Dなどアッパーミドル以上のCPUで最新環境を構築したい人に最適です。
(X870Eマザーボード一般の話としてCPU直結PCIE5.0x4帯域の使い方(USB4関連)には個人的にモヤッとする部分があるものの)
GIGABYTE製マザーボードではカーソルキー操作を基本としたクラシカルなUIが採用されており管理人的に好みでした。
ただグラフィカルUI好きにとっては物足りないかもしれません。日本語ローカライズの精度とフォントに若干の難は残るものの、メモリ周波数やLLCのメニューが選択式に改善されたことやフォントサイズが調整されたことで使いやすさも向上しています。
マザーボードのOC耐性を評価する上で重要なファクターになるVRM電源について、「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」は非常に優秀な性能を発揮しました。
「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」であれば市販のAIO水冷クーラーやDIY水冷など環境を選ばず、VRM電源周りは標準装備のまま、Ryzen 9 9950Xも低電圧化・クロックアップ・電力制限解除で運用できます。
Ryzen 9 9950Xはアウトボックス時点で性能を限界近くまで追求したチューニングが施されており、標準でEPS電源経由のCPU消費電力が200Wを超えますが、その強烈なVRM電源負荷に対しても、110A対応SPSなどで構成される20(16+2+2)フェーズの超堅牢なVRM電源回路が適切に熱を分散します。
「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」のVRM電源クーラーは表面積の大きいフィンアレイ型と重厚なアルミニウム塊型を組み合わせたヒートシンクが備え付けてあり、CPUソケットの上側/左側のヒートシンクをヒートパイプで連結するという構造です。
高性能サーマルパッドやダイレクトタッチヒートパイプの採用などVRM電源クーラーの設計にこそ工夫が見られますが、あくまでパッシブ型という構造のまま、スポットクーラーの増設を必要とせずに、200W超の負荷に対してVRM電源温度を70度前後に収めることができました。
メモリOCについては、検証機材に使用しているG.Skill Trident Z5 Neo(型番:F5-6000J3038F16GX2-TZ5N)のOCプロファイルによって、Ryzen 9000環境でも引き続き性能重視な定番設定と言えるメモリ周波数6000MHz/メモリタイミングCL30が安定動作しました。
その他にも入手性が高く、コストパフォーマンスにも優れるCrucial DDR5 Pro Overclocking UDIMMシリーズでも6000MHz以上のOCが安定動作しています。
メモリ周波数6000MHzでCLが30~36というスペックは前世代Ryzen 7000でも性能重視な定番設定だったこともあり、同スペックでAMD EXPOのOCプロファイルに対応したOCメモリも入手性が高いので、現状、メモリOC回りで「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」に不足を感じることはないはずです。
以上、「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」のレビューでした。

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110A対応SPSで構成される20フェーズの超堅牢VRM電源やUSB4対応Type-Cポートを搭載するハイエンドゲーミングモデル「GIGABYTE X870E AORUS MASTER」をレビュー。
— 自作とゲームと趣味の日々 (@jisakuhibi) November 30, 2024
200W超CPU負荷や6000MHz+の低遅延メモリで徹底検証。https://t.co/w5lGpTEPc5 pic.twitter.com/y7dRzQSXTY
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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
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