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ゲーミングモニタを選ぶうえで重要な予備知識を紹介する、その名の通り『ゲーミングモニタの選び方』シリーズ第2弾では、ゲーミング液晶モニタで採用の増えている「モーションブラーリダクション機能」について解説していきます。モニタの残像知覚という意味において、第1弾で紹介した「応答速度とオーバードライブ」とも関連の深い題材です。
液晶モニタにおいて視聴者が残像を認識する原因には、『1.モニタの応答速度が原因で物理的に前のフレームが見えている』場合に加えて、”ホールドボケ”と呼ばれる『2.バックライトが常時点灯する液晶モニタの構造を原因として錯覚で見える』場合の2つが存在します。
目次
1.錯覚によって知覚されるホールドボケについて
2.モーションブラーリダクション機能とは?
3.MBR機能のメリット、3~4倍も高明瞭に
4.MBR機能のデメリット、輝度低下に注意
【注目のMBR機能】
5.ZOWIEシリーズのDyAc2について
6.ASUSのELMB Syncについて
7.NVIDIAのG-Sync Pulserについて
錯覚によって知覚されるホールドボケについて
液晶モニタにおいてユーザーが残像を知覚する2つ目の原因としてホールドボケ(=モーションブラー)が挙げられます。ホールドボケの発生要因は人間の目に関する「視覚の残像効果」と「追従視」の2つです。まず大前提に定性的な話として、人間の視覚(網膜)には「残像効果」があり、数ms単位であっても同じものを見続けると、次の瞬間に目に入った映像と平均化されて認識されます。
例えば黒い物体を注視して白に変わると、その瞬間は黒と白が混ざって(平均化されて)灰色に認識されます。
下の動画のようにUFOアイコンが左から右に流れていく「UFO Test: Ghosting」を例に、視覚の残像効果からホールドボケが発生する過程について解説していきます。
モニタ上ではなく現実にUFOアイコンがあって左から右に流れていく場合、どの瞬間を切り取っても下写真左列のように時間に対して均等にUFOは移動していきます。左から右に流れていくUFOを目で追うと、正確に目が追従できていれば視界の中心には動かずにUFOがあるはずです。
上のように現実世界では視覚の中心に常にUFOがあるので、視覚の残像効果によって過去のフレームが加算されたとしても、UFOが明瞭に見えます。
一方で現実世界ではなく、液晶モニタのようにバックライトが常に点灯状態にあるモニタをホールド型といいますが、ホールド型のモニタでは1フレーム(60Hzなら16.6ms、120Hzなら8.3ms、240Hzなら4.2ms)の間、同じ画像が表示され続けます。(厳密には過渡応答で次のフレームへが徐々に切り替わりますが)
1フレームの間は静止し続ける画面内の物体に対して、視聴者の脳はそれまでのフレームの動きから、その物体が現実世界同様に連続して動いていると判断し、物体の進行方向へ視線が不随意に移動します。これを「追従視」といいます。
非連続な液晶モニタ上のUFOの動きに対して、これまでのUFOの動きから視線が追従してしまうので、視覚の中心に映る像は次のようになっていまいます。
フレーム更新による画面内での物体の非連続的な移動、および「追従視」による視線の不随意な移動によって、網膜に映る映像が安定しなくなり、これに「残像効果」が組み合わさることで、『ホールドボケ = モーションブラー』と呼ばれる残像が視覚に認識(錯覚)されます。
上のGifアニメーションの各フレームを加算合成すると、モーションブラーによってボヤけた視界が仮想的に再現できます。
液晶モニタの動作に焦点を当ててホールドボケ(=モーションブラー)が発生する原因を簡単化して切り分けると、ホールド型であること(視覚の残像効果)、リフレッシュレートが低く非連続に見えること(追従視)の2つに分類できます。
追従視については単純にリフレッシュレート(とフレームレート)を上げるのが解決策となります。上で解説したのと同様に120Hzと60Hzの1フレーム間を加算合成した写真を比較すると、リフレッシュレートの引き上げによってボヤけが軽減しているのが分かると思います。
モーションブラーリダクション機能とは?
液晶モニタ(正確にはホールド型モニタなので有機ELモニタも含む)で見える残像には、物理的同時に2つ以上のフレームが混ざって映る残像とは別に、目の錯覚によって認識される”ホールドボケ”と呼ばれる残像(ボヤケ)があり、その原因は「視覚の残像効果」と「追従視」の2つ(の相乗効果)で、前者はMotion Blur Reduction(モーションブラーリダクション)機能つまり『フレーム更新間の黒挿入』によって、後者はリフレッシュレートの増加によって解消・改善されます。Motion Blur(モーションブラー)は日本語では”ボケ(ボヤケ)”、”ブレ”、”残像”などと表現されます。
Motion Blur Reduction機能についてはメーカーや製品によって呼び方が異なっており、NVIDIA G-Sync対応モニタの一部ではUltra Low Motion Blur (ULMB)、ASUS製モニタではExtreme Low Motion Blur (ELMB)、BenQ製モニタではBlur ReductionやDyAc(Dynamic Accuracy)、LG製モニタでは1ms Motion Blur Reductionなど様々に呼ばれています。
呼び名が多岐にわたるMBR機能ですが、若干の違いこそあれ基本的な動作原理はいずれも『モニタ更新間の黒挿入(バックライトの消灯)』となっています。
通常はnフレーム目からn+1フレーム目にモニタ表示を更新する間もバックライトが点灯しますが、Motion Blur Reduction機能ではその更新の合間にバックライトを消灯して黒画面を挿入することで残像を抑制します。
視覚の残像効果によるボヤケを生むのはホールド型であることが主な原因です。
液晶のホールド型に対して、CRT(ブラウン管)のインパルス型は一般に残像を感じにくいことが知られており、その動作は『1フレームを描くために画面を走査している帯状部分のみが瞬間的に発光し、それ以外は暗転した状態のまま』となります。
簡単化して説明すると、nフレーム目において過渡応答が完了したnフレームのベストタイミングそのものでなく、nフレームからn-1フレームまでの過渡応答を含めた全てを平均化し、それを毎回視覚として認識してしまうのがホールドボケなので、平均化される対象(過渡応答)が毎回、黒画面であれば残像効果を疑似的に打ち消すことができます。
暗転している時間は暗転を暗転として視覚に認識する時間より十分小さいので、インパルス型では一瞬暗転した(繰り返し明滅している)と感じることなく、残像効果のみが解消・低減されます。このインパルス型の動作をホールド型の液晶モニタで模倣するのが『モニタ更新間の黒挿入』です。
黒挿入を行うと追従視と視覚の残像効果によって、加算される中間フレームがなくなるので、モーションブラーのボヤけが解消されます。ただし黒挿入の間は画面が暗転するので画面輝度が低く見えるようになります。
MBR機能のメリット、3~4倍も高明瞭に
一般論としてMBR機能に関する調整は主にパルス幅(Pulse Width)、パルス振幅(Pulse Amplitude)、パルス位相(Pulse Phase)の3種類があります。分かり易く言い換えると、明転時間の長さ、明転時のバックライト輝度、1リフレッシュ中の明転タイミングです。
1リフレッシュの時間(60Hzなら約16ms)でパルス幅を割った数値をデューティ比(Duty Cycle)と呼び、その逆数とリフレッシュレートを掛けた数字がMBR機能を使用しない時の明瞭さに概ね一致します。NVIDIAの解説ポストではEffective Motion Clarityと呼ばれています。
例えば、リフレッシュ時間8msに対して明転時間が2msの場合、デューティ比は0.25なので、MBR有効な120Hzの画面表示は、MBR無効な480Hzの画面表示と同程度の明瞭さを発揮します。
つまりMBR機能では『パルス幅が小さいほど明瞭さが増す』ということです。ただし、パルス幅が小さくなると時間平均のディスプレイ輝度が下がります。
MBR機能は、人の目の錯覚が引き起こす残像やボヤケを解消する機能なので、写真や動画を見せて残像が減っている様子を実際に見せるというような解説は実のところ難しいです。
今回は体感する明瞭さを疑似的に再現する手法、スライダー撮影を高精度かつ高再現性で行うことが可能な機械式カメラスライダー「MPRT Camera Slider」によって比較素材を作成してみました。
MBR機能を使用すれば、たかだか120Hzリフレッシュレートでも有機ELの360Hzよりも明瞭になります。勝ち負けを競うe-Sportsシーン、勝利最優先なゲーマーにとって、どちらがベストな選択肢かは論じるまでもありません。
理想スイッチ的な応答を発揮する有機ELは液晶よりも高明瞭と言われ、当サイトの検証でも有機ELは液晶に対してリフレッシュレート比で1.5倍明瞭という結果ですが、ZOWIEのDyAc2など適切なデューティ比で動作するMBR機能は4倍以上も明瞭になるので、4.5倍としても『MBR機能を使えば液晶は有機ELよりも3倍も明瞭』ということになります。
240Hz以上を比較に出す必要もなく、動くターゲットの見え方の明瞭さではMBR機能を使用した液晶の圧勝です。
その他に実用的な話としては、e-Sport向けゲーミングモニタブランドZOWIEを展開するBenQによると、FPSゲームにおいて銃を連射した時にリコイル(反動)によって着弾位置がバラつく「スプレー(Splay)」という現象に対して、マウス操作で制動しやすくなるそうです。
MBR機能のデメリット、輝度低下に注意
まずMBR機能のデメリットとして分かり易いものは、視覚として認識されるわけではありませんが、画面が高速に明転・暗転を繰り返す、つまり点滅するのでPWM調光のフリッカー同様にMBR機能は目が疲れやすくなる可能性があります。フリッカー同様に個人差もありますが。練習や軽く流す程度の対戦ならMBR機能をオフにするのが最も目が疲れにくく、もしくは、相対的に目が疲れにくいデューティ比が大きい設定を使う、絶対に負けられない対戦は小さいデューティ比でより高明瞭な設定を使う、という感じで使い分けがオススメです。
その点、ZOWIE製品は有線コントローラーからワンタッチでMBR機能のON・OFFや設定の変更が可能なので便利です。
もう1点見落としやすいポイントとして、モーションブラーリダクション機能では、残像感を低減させる効果が期待できる反面、バックライトを消灯するので時間平均の輝度が下がって画面が暗くなるというデメリットが指摘されます。
MBR機能を使用した時に発揮できるディスプレイ輝度や、MBR機能使用時の輝度調整機能の有無はモニタ製品によって大きく異なるので注意が必要です。
競技ゲーマー向けモニタとして有名なZOWIEシリーズのDyAc2 (DyAc+)が通常時と同じように50~300+cd/m^2の輝度を発揮でき、0~100%で輝度調整できるのに対して、MBR機能を使用すると輝度が決め打ちになったり、ステップ状に数段階しか輝度を調整できないモニタも数多く存在します。
同じメーカーの同ランク製品、同じ機能名称でも製品別にMBR機能の調整方法が異なる(全く調整できない)ということもあります。
ZOWIEシリーズのDyAc2 (DyAc+)については実装は概ね統一されているのですが、他メーカーでMBR機能を目的に購入を検討する場合は、MBR設定やMBR使用時の輝度についてちゃんと解説しているレビューを確認してください。
BenQ ZOWIEのDyAc2について
モーションブラーリダクション機能を有効にすると多くのPCモニタでは輝度を調整できなくなりますが、ZOWIEの最新MBR機能 DyAc2や従来モデルのDyAc+では、通常表示と同様に0~100の範囲内でディスプレイ輝度を調整できます。パルス幅への影響はなく、単純に明転時のバックライト輝度だけを変更しています。またZOWIEゲーミングモニタの多くでは輝度設定に対する実際の明るさがDyAc2有効でも無効でもほぼ一致するようにチューニングされています。
オフの時は〇%、オンの時は△%のようにいちいち異なる輝度設定を覚えておいたり、都度調整したりする必要がなくシームレスにDyAc2のオン/オフを切り替えることができます。
従来のZOWIEシリーズに搭載されていたDyAc/DyAc+を含め一般的なMBR機能は画面全体で一斉にバックライトを点灯・消灯します。
5760FPSスーパースローモーションから作った下のGIFアニメーションの通り、「ZOWIE XL2566X+」のDyAc2はCRT(ブラウン管)のように上から下へ走査するようにバックライトが点灯・消灯します。
縦12分割程度に分けられたバックライトが上から下へ2~3msの間に順番に点灯・消灯していきます。KSFpではないのでバックライト消灯時に赤色の残光もなくRGB全ての色が綺麗に消灯します。
上のように、CRT的に上から下へバックライトを走査する『DyAc2の最大の特長はストロボクロストークの軽減(ほぼ解消)』です。
液晶(有機ELでも)は上から下へ1列ずつ、フルHDであれば左から右に1920ピクセルを1ピクセルずつ更新したら、次(直下)の列の1920ピクセルをというのを1080回繰り返すことで画面表示を更新します。
当然ながら同じ時間軸に並べると、画面の上端、中央、下端では液晶素子の応答状態にズレがあります。
液晶素子の応答状態には上下位置に応じてズレがあるのに対して、一般的なMBR機能ではバックライトの点灯は画面全体で同時なので、画面中央のベストタイミングでバックライトを点灯した場合、画面上端では次のフレームへの移行状態、画面下端では前のフレームからの移行状態が映ることになります。
MBR機能を使用した時に画面の上下位置によって過渡応答の残像やオーバーシュートによる逆像の映り具合が変わることをストロボクロストークと言います。
下写真は画面全体が一斉に明転・暗転するDyAc+など従来のMBR機能の例です。上端・中央・下端で映りが大きく異なっており、ストロボクロストークが発生しているのが分かります。
DyAc2では上下位置で完全に同じというわけではありませんが、上端・中央・下端でストロボクロストークによる見え方の違いが軽減されているのが分かると思います。
画面全体が一斉に点灯する従来のDyAc(+)対応製品と比較して、DyAc2は中央から上下端まで、より多くの列で残像やオーバーシュートによる逆像の薄い、良い状態で表示できています。
ASUSのELMB Syncについて
ASUS製ゲーミングモニタの一部には独自のモーションブラーリダクション機能 Extreme Low Motion Blur (ELMB)」が実装され、さらに可変リフレッシュレート同期機能と併用可能であればELMB Syncとしてアピールされています。ELMB Syncの魅力は、その名前の通りでもあるのですが、G-Sync Compatibleなど可変リフレッシュレート同期機能 VRRと併用が可能なところです。
実際にELMB Syncの動作を確認してみたところ、フレームレートに合わせて変動するリフレッシュレートに対し、適切に黒フレームが挿入されています。
VRRも正常に動作しているので、ELMBのみ(垂直同期無効)でテアリングが頻発するのに対して、ELMB Syncではテアリングのない綺麗な表示になっています。
ELMB SyncがMBRによる黒挿入とVRRの両方をどのように実現しているのか調べてみました。
まず基本として、240Hzや120Hzなど現在の表示設定における最大リフレッシュレートを基準に動作します。
下は3600FPSのスーパースローモーションで最大180Hzでゲーム映像が180FPSの時の画面を撮影し、動画の各フレームを抜粋したものですが、デューティ比0.4程度となっており、1リフレッシュ=20フレームのうち、8~9フレームが点灯し、残りは暗転しています。
フレームレートが最大リフレッシュレートを下回る場合、VRRによってリフレッシュレートが下がるので、画面更新時間が伸び、黒挿入動作も調整する必要があります。
ELMB Syncでは最大リフレッシュレート時の明転・暗転動作を基準として、VRRによってリフレッシュレートが下がり、画面更新時間が伸びた分は暗転状態を2分割して、その間に通常の明転よりも少し暗い明転を挿入します。上のELMB Syncのスーパースロー動画で細かく2回点滅しているように見えるのはそれが理由です。
なぜこのような操作をしているのかというと、明暗比率が8/20でデューティ比は0.4ですが、更新時間が2伸びてそのまま明転を2加算すると、10/22でデューティは0.45となり、明瞭度の低下はともかくとして、画面が明るくなってしまうからです。
VRRによってリフレッシュレートが低下し、画面の更新時間が伸びてもディスプレイ輝度を一定に保つため、暗転の中間に少し暗い点灯を挿入しています。
非MBRに比べれば高明瞭になるのは間違いありませんが、こういう実装になっているので、ELMB Syncはテアリングやスタッターを解消できる代わりに、二重像的にボケが生じ(体感目視では二重像ではなくシンプルにホールドボケが強くなる)、純粋なMBR機能と比較すると明瞭さは少し劣ります。
NVIDIAのG-Sync Pulserについて
2024年11月現在、対応製品は未発売ですが、従来特殊なG-Syncモジュールの搭載が必要だったReflex AnalyzerやULMB(MBR機能)が、今後発売されるMediaTek製コントローラー採用の新モニタでは利用できるようになるとNVIDIAから発表されています。このG-Syncの各種機能に対応するMediaTek製コントローラー採用モニタでは、ULMBとVRRを併用できる新機能G-Sync Pulserにも対応するようです。
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ゲーミングモニタで採用の増えている「モーションブラーリダクション機能」についての解説記事を更新しました。
— 自作とゲームと趣味の日々 (@jisakuhibi) March 1, 2020
黒挿入でなぜボヤけがなくなるのか、かなり分かりやすくなったと思います。https://t.co/cdQkynIe4T
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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
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質問なんですがゲーム中にモーションブラーリダクションをオンにすると、ゲームとバックライト消灯合わせて240FPSなんですか?
それともゲームのフレームレート240FPSとは別にバックライト消灯をを挿入するんですか?
どちらなのでしょうか?