PS5/Xbox Series X|Sなどコンソールゲーム機やPCゲームにおいてHDRは必要なのか、SDRと比べて見え方はどう変わるのか、HDRの正しい効果とメリット・デメリットを解説します。
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PS5/Xbox Series X|Sなどコンソールゲーム機やPCゲームにおいてHDRは必要なのか、現実のHDRコンテンツをベースにして具体的かつ定量的に、SDRと比べて見え方はどう変わるのか、HDRの効果やメリット・デメリットを解説します。
1.ゲームにおけるHDR映像の正しいメリット・デメリット
・HDR映像の理想(幻想)と現実
予備知識.RGB値から現実の色はどう決まるのか
2.SDRの規格の限界や運用上の問題点
・SDRとHDRのEOTFの違い
・SDRではRGB 255値がUIのペーパーホワイトとして使用される
・HDRならSDR運用上の問題を解消してダイナミックレンジを拡張できる
3.SDRもHDRも黒色そのものは同じ、違いは暗い階調の分解能
・分解能が高いことは定量的な事実だけど体感に影響するかは微妙
4.HDRは薄暗いと感じる人が多く、逆に明る過ぎると言う人もいる理由
・SDRとHDRでペーパーホワイトの運用はどう違うのか
5.輝度性能 400nitsではHDRには不十分は本当?
・有機ELで高輝度を体感できるかは普段のディスプレイ輝度次第
・普段使いが300~400nitsならFALD対応液晶モニタで一択
6.HDRなら彩度の過飽和による不自然な色味を解消できる
・実はHDR対応ゲームが広色域カラーをあまり使用していない
・色薄感のあるHDR映像で彩度を強調する方法
SDRでもRGB値が0なら0nits、1で10の-4乗の低輝度なので黒の沈み込み云々については絶対値としてHDRと大差ありませんし、暗い色の再現性についてもFALD対応液晶や有機ELならSDR・HDR問わず暗い階調の表現は向上します。
これらHDRでしばしば言及されるアピールポイントは完全な間違いかというと微妙ですが、ハードウェア性能に依存する部分が大きく、HDR規格そのものから生じるメリットの説明として不正確・不十分というのが個人的な感想です。
『別にHDRでなくても高輝度や広色域に対応したモニタ・テレビを購入すればゲーム映像は綺麗になる』よねと。ではHDRを導入するメリットとはなんでしょうか?
ゲームにおいてSDR表示ではなくHDR表示を使用するメリットは次の3つであり、特に影響が大きいのは1つ目だと思います。
HDRそのものはSDRという既存規格の拡張なのでデメリットは本来ありませんが、強いて挙げるなら、上手く扱うハードルの高さです。
未だに周辺環境が未成熟なので、色温度しかり、色薄感しかり、上手く扱うにはユーザー側にもある程度の知識が要求されます。
HDRコンテンツ側がペーパーホワイトを調整できないとか、ディスプレイ表示機器(特にPCモニタ)がホワイトバランスや彩度をユーザーの好みに調整できないとか、知識があってもどうしようもない問題もあります。
HDRの高画質をアピールする時に『最大10,000nitsの高輝度』、『深く沈み込む黒色』、『広色域カラーによる高彩度』がよく挙げられます。
そういったアピール通りの理想のHDR映像が存在するならSDR映像と比較した時のイメージは下の比較画像のような、ピーク輝度が高く、黒浮きがなく、高彩度になるはずです。HDRに関する説明ではよく見かける感じの比較画像です。
しかし、すでに多くのHDR映像ユーザーが知っている通り、こういう素晴らしいHDR映像は幻想に過ぎません。
モニタによる彩度過飽和を無視して彩度低下、黒浮きするようにブラックレベルを引き上げる低コントラスト化など比較対象のSDRが変に劣化させられているところも現実的でありませんし、率直に言ってこの手の説明や比較イメージは大嘘です。
『最大10,000nitsの高輝度と深い黒色表示、広色域カラーによる高彩度』などとアピールされることが多いHDRですが、ピュアオーディオ的な若干オカルト気味になっているというか、現実のHDRとは乖離しています。
HDRだからSDRよりも綺麗(でなければならない)というバイアスがかかって、ディスプレイ機器メーカー側も視聴者が満足するようにという配慮から変に彩度強調や暗所強調のチューニングを施していて、それをHDRの綺麗さであると一般ユーザーだけでなくテック系メディアやレビュアーすらも勘違する、という傾向がどんどんと強まっているような。
現実のHDR映像は上の比較画像のような、SDR映像よりも圧倒的に魅力的な見え方にはなりません。現実のHDR映像でHDRの高性能アピール通りになるのはせいぜいピーク部分の高輝度性能(高輝度表示)くらいです。
広色域モニタの性能のまま彩度が過飽和になるSDR映像に比べてsRGBカラーがsRGBカラーとして表示されるHDRはSDRよりも色が薄く感じるのは当然です。大抵の人は高彩度であるほどパッと見で綺麗に感じるので、彩度過飽和なSDRよりHDRが綺麗と思う方が稀です。
色味については加えて、寒色寄りの色を好む日本人ユーザーがHDRモードでD65のホワイトポイントを強制されれば全体的に黄色く濁って感じます。
UI・メニューなどペーパーホワイトが最大輝度になるSDR表示の場合、リビングなど明るい部屋で見やすいように300~400nitsの明るさに設定していれば、100~250nits程度がリファレンスのペーパーホワイトであるHDRはそのまま使えば全体的に薄暗くなります。
HDRが薄暗い、または真逆に明る過ぎるという評価はそういうペーパーホワイトの扱いの違いが原因です。
予備知識:RGB値から色はどう決まるのか
SDRもHDRも映像データ自体は0~255/1023のRGB値セットを解像度の分だけ抱えたデータ集合に過ぎません。
それを現実の色に置き換えるのがプライマリとホワイトポイント、そしてEOTF(ガンマ)の組み合わせ、つまりsRGBやRec.2020などの色規格です。
ただし、PC・ゲーム機など出力機器とモニタ・テレビなどディスプレイ機器は色規格が何なのか相互に確認しあうことはなく、SDRだからsRGB、HDRだからRec.2020のように相手の表示特性や映像データのカラーマネジメントを各々が勝手に想定して動作します。(HDRの場合、メタデータはあるが基本的に使用されない)
そういったアンマッチを解消するためWindows PCの場合、カラーキャリブレータによるiccプロファイル作成を行います。
sRGBやRec.2020など色規格が想定されるときに各RGB値から現実に存在する色(色度、色座標)がどのように決定されるのか計算方法について簡単に説明しておきます。
定性的な端折った説明だけでもHDRの効果・メリットについてなんとなく雰囲気は伝わっているはずですが、RGB値がどのように現実の色に紐付けされているのか理解することで、HDRの効果をより具体的に理解することに繋がると思います。
SDR 8bitの場合、白色の最大輝度 Wbmax、ガンマγによって0~255の8bit値 CVに対する黒から白までのグレー階調の明るさは『Wb = Wbmax * (CV / 255)^γ』となります。
これは赤・緑・青の単色にも当てはまり、赤色に限定すれば[CVr, 0, 0]を[0, 0, 0]から[255, 0, 0]に変化させる場合の輝度は『Rb = Rbmax * (CVr / 255)^γ』になります。
PCモニタやテレビのSDR設定においてディスプレイ輝度の設定値はWbmaxに当たります。
SDR表示では上記のようなγ値によってEOTF(輝度カーブ)が規定され、sRGBカーブのような独自の関数でも単純なγの指数関数に近似して扱われるため、EOTFのことを指して”ガンマ”と呼ぶことがあります。
一方でHDR表示のEOTFは一般的なHDR10規格の場合、SMPTE ST 2084のPQカーブです。詳しくはウィキペディアを参照してください。
HDRのPQカーブはSDRの固定値ガンマやsRGBカーブよりも複雑な数式になっていますが、単純な直線比例ではなく、下に凸なカーブにすることで、人間の視覚的に変化に敏感な低輝度域からSDR輝度域(0~250nits程度)のRGB値の割り当てを増やして、分解能を高めるという基本的な設計思想は同じで、それをより発展させたものです。
10,000nitsの高輝度を表示できる製品は存在しないので、実際に表示されるEOTFはディスプレイ製品固有の最大輝度に達した時点でクリップされたり、高輝度階調を維持するためPQカーブのリファレンスから途中で離れたり、ディスプレイ製品独自のチューニングが施されていますが、そういったモニタ製品によって異なる挙動は300~400nitsを超えるような高輝度領域に限定される話であり、100~250nitsのペーパーホワイト、SDR輝度域については基本的にPQカーブのリファレンス通りになります。
SDRではRGB 255値がUIのペーパーホワイトとして使用される
映像作品、ゲームなどコンテンツにも依るのですが、デスクトップPCのエクスプローラーやWebブラウザ背景を見ての通り、sRGB想定のSDR表示ではRGB値 255の最大輝度やそれ近い、輝度の絶対値で90%以上の白色が標準白色、ペーパーホワイトとして使用されています。
PS5/Xbox/Switchなどコンソールゲーム機でもPCゲームでもゲームのUI、3Dグラフィックスに重ねて表示される体力ゲージ等のUIやメニュー画面で普通にRGB値 255の白色が使用されます。同時に太陽やフラッシュ等の3Dグラフィックス的に高輝度な色もRGB値 255が使用されます。
SDR 8bitではメニューUIにRGB値 255のような高輝度白色が普通に使用されているので、それが見やすくなるようにユーザーはディスプレイ輝度=Wbmaxを調整し、同時に最大輝度が決定されます。
結果的に太陽や攻撃時のフラッシュのような高輝度表現がUIの見やすい明るさで制限され、SDR表示のダイナミックレンジが狭くなります。
SDRという規格そのものにも限界がありますが、コンテンツクリエイターの設計や、デファクトスタンダードなユーザーの運用が原因でダイナミックレンジがさらに狭まったということも事実です。
SDRでもRGB値 200などより低い輝度のRGB値をペーパーホワイトとしてゲームUIを設計していればダイナミックレンジを広げることはできます。それでも8bitやSDRガンマの分解能的に言ってUI基準でせいぜい2倍程度が限度なので4倍以上のHDRには及びませんが。
しかしRGB値 255を使用する設計のゲームがデファクトスタンダードになってしまっているというのが現状なので、逆にそういった設計は画面全体が暗いとユーザーから不評を買うことになります。
SDR規格のままペーパーホワイトを適切な運用に戻すという方針転換は事ここに至っては現実的に不可能です。
加えて補足すると、SDR to HDR変換が似非HDRにしかなり得ないのは、ゲームにおいてSDRではそういった配色(輝度の割り当て)がされているからです。
Windowsの自動HDRやNVIDIA製GPUのRTX HDRのように概ね静的なトーンマップで変換を行います。つまりUIや太陽、フラッシュ効果等を判別しないSDR to HDR変換はUIを無差別に高輝度化する目潰しにしかなりません。
説明の都合で画像をわざと暗くしていますが、下画像左側の120nitsのSDR映像でUIがちょうどいい明るさであると考えてください。
右側のようにディスプレイ輝度を200nitsに引き上げると太陽やフラッシュ効果の輝度は上がりますが、UI含めて画面全体が明るくなるので、ちょうどいい明るさから外れ(明る過ぎる)、また目はUIの明るさに慣れるのでダイナミックレンジの改善という意味でも限定的です。
一方、HDR表示にするとUIのペーパーホワイトは100nits程度のまま、太陽やフラッシュ効果の高輝度ホワイトが分離されます。
普段、100nits程度のSDR映像でゲームをプレイしている場合、最大輝度がせいぜい400nits程度のモニタであってもUIが見やすい明るさを基準にすればHDRでは2~4倍もダイナミックレンジが拡張されることになります。
まずSDRでもHDRでもRGB値が[0,0,0]なら想定される明るさは0nitsです。黒色そのものの表現には映像データとして差はありません。
RGB値が1の時の明るさはSDR 8bit(sRGB)では10の-4乗、HDR 10bitでは10の-5乗なので1桁程度の差はありますが、ディスプレイ表示機器がそこまで暗い色を正確に表示できるかという問題もあるので現状では無視してもいい数字です。
暗い色におけるSDRとHDRの違いは、映像規格による違いとディスプレイ機器などハードウェア性能の違いの2種類があります。
例えばSDR 8bitのEOTFを白色が100nitsで固定値2.2のガンマ、HDR 10bitをSMPTE ST 2084のPQカーブとして暗い色の分解能を考えてみます。
上記のような条件でSDRのRGB値が0なら0nits、40なら2nits程度、80なら10nits程度となります。下の画像の通り、暗そうに思える2nitsでも0とは容易に判別できグレーに感じる明るさです。
SDRにおいてグレー階調の明るさは『Wb = Wbmax * (CV / 255)^γ』なので、0nits~10nitsまでの暗い色を表現するRGB値の数、つまり分解能は80程度です。
一方、SMPTE ST 2084のPQカーブと10bitカラーでグレー階調の明るさが規定されるHDRの場合、0nits~10nitsまでの暗い色には300程度の分解能があり、SDRよりも3倍以上も細分化して暗い階調を表現できます。
0nits~2nitsまでのかなり暗い色を表現するRGB値の数になると分解能の差は4倍以上になります。
上のグラフを見ての通り、SDRであっても分解能が低いだけ、つまり暗い階調のグラデーションを作ったらバンディングが生じやすいだけで、絶対値として暗い色が表示できないわけではありません。
SDRであっても適切なRGB値を選べば暗い色の絶対値は同じである以上、『HDRは暗い色の沈み込みが綺麗』などのHDRに対するアピール表現が胡散臭いことはグラフから分かります。
またSDRとHDRの比較として、黒浮きさせたイメージ映像を使うのもかなり怪しいです。こういう黒レベルそのものの低さはFALD対応液晶や有機ELといったハードウェア性能の特長に過ぎません。
加えて前節で説明した通り、SDR表示においてはゲームUIと3Dグラフィックスの明るさが完全に連動しています。現実的にそういう実装が大半です。
PCモニタやテレビではディスプレイ輝度(Wbmax)を調整することでメニュー画面やUIが見やすい明るさに調整するというのがSDR映像の現状の使われ方です。
前節で説明した通り、SDR表示の明るさは『Wb = Wbmax * (CV / 255)^γ』というEOTFで決まるので、Wbmaxが100nitsの時に0nits~10nitsまでの暗い色を表現する分解能は80程度ですが、メニューUIを見やすくするためにWbmaxを240nitsに引き上げた場合、SDRの分解能は60程度に減ってしまいます。
SDRではメニューUIを見やすくする、見やすい明るさに引き上げると3Dグラフィックスの暗所の分解能は下がるということです。(黒浮きするというのが正しい表現ですが)
分解能が高いことは定量的な事実だけど体感に影響するかは微妙
暗い階調の表現力についてHDRではPQカーブと10bitカラーなので分解能が高いこと自体は定量的な事実ではあるものの、実際のHDR映像において既存のSDR規格と比較してHDRだと暗い階調がより綺麗に見えるのかというと実は微妙です。
SDRの例を見ると、こういうシンプルなグラデーション画像であれば標準的な8bit(256分割)から7bit(128分割)や6bit(64分割)に下げると如実にバンディングが生じます。分解能の差が表現力に影響するという分かり易い例と言えます。
一方で実際のゲーム映像でも上のような違いを体感できるかというと微妙です。
ゲーム映像のスクリーンショットで同じように7bit(128分割)や6bit(64分割)に下げてみてもパッと見では違いが分からないというのが正直なところです。
6bitだと流石によく見るとバンディングが分かりますが、8bitと7bitですら実際のゲーム映像だと見分けるのはかなり難しい感じなので、HDRで10bitカラーになって暗所の分解能が4倍に増えたとしても、体感に影響するレベルで暗所の表現力が上がるのかというと、プラセボ感は否定できません。
広域なグラデーションだと分かり易く差が出ますが、実際のゲーム映像だと適用されるシーンが限定的なのかなと思います。
SDR表示とHDR表示でUIなどペーパーホワイトの運用に齟齬が生じているというか、SDR的な運用がデファクトスタンダードになってしまっている現状において、HDRの導入でアップデートもしくは修正された運用がまだ一般ユーザーには浸透していないという状態です。
上記のような齟齬が理由で、普段、SDR表示を150nitsで運用している人がペーパーホワイト 100nitsのゲームをプレイしたら薄暗く感じます。逆に250nitsのゲームであれば明る過ぎると感じます。
リビングルームに置くテレビの場合、室内照明が明るいのでおそらくSDR表示におけるディスプレイ輝度は300~400nits以上です。
HDRリファレンス通りならペーパーホワイトが300nits以上になることはないので、そういった、普段、400nits以上で表示されるUI(ペーパーホワイト)で見慣れている人にとって、HDRコンテンツが薄暗く感じるのは当然です。
SDR表示の明るさはユーザーによって異なり、HDRのペーパーホワイトもコンテンツによって異なるので、ユーザー・環境・ゲームの組み合わせ次第で齟齬が生じ、結果としてHDRは薄暗いと感じる人が多い一方で、明る過ぎると言う人もいたり、様々な評価がごちゃ混ぜになります。
つまりSDRでは映像データではなくディスプレイの表示特性を弄って明るさを調整します。
一方でHDR表示ではEOTFはSMPTE ST 2084のPQカーブで規定され、UIの明るさ、ペーパーホワイトは100~250nitsの範囲内になります。ペーパーホワイトが100nitsなのか、200nitsなのかはPS5メニューや各種ゲームなどコンテンツによって異なります。
実質的に規格としての最大輝度が規定されていないSDRと違って、HDR表示においてはモニタの輝度設定を最大にした時のEOTFはHDRリファレンス(PQカーブ)に一致するというのが、モニタ設計としては正しいと考えられます。
つまりディスプレイ輝度設定を下げることで最大輝度と同時にペーパーホワイトを下げることはできても、100~250nitsというリファレンスのペーパーホワイトより、ディスプレイ機器自体の表示特性を明るくすることは輝度設定では通常できません。
HDR表示においてテレビやモニタの設定でペーパーホワイトをHDRリファレンスよりも明るく調整するには、コントラスト設定(EOTFの左右オフセット)を調整します。モニタ・テレビ製品によって該当する設定が異なる可能性もありますが、多分、コントラストが一般的です。
SDR表示ではモニタ側のコントラスト設定を触ることは基本的にないので(ゲーム内の明るさ設定を使うことが多い)、特に分かり難いポイントだと思います。
もしくはディスプレイ機器がSDR輝度域などペーパーホワイトの中間輝度を調整できる機能に対応していればそれを使用します。
ディスプレイ輝度でペーパーホワイト(=最大輝度)を調整する運用が一般化しているSDRと異なり、コンテンツ側でペーパーホワイトを変更することでUI等の明るさを調整するのがHDRの適切な運用です。
モニタ・テレビで調整できる機能があって選択肢が増えるのは悪くはありませんが、HDR10のPQカーブのように絶対値としての輝度がRGB値に対して規定されているならコンテンツ側で調整してしまうのがベストです。
Windows設定における「SDRコンテンツの明るさ」の設定スライダーは、HDR表示においてコンテンツ側でのペーパーホワイトを調整する設定の1つとして分かり易い例です。
ラチェット&クランク パラレルトラブル PC版のようにペーパーホワイトの調整に対応しているタイトルもありますが、HDR対応ゲームでもPS5メニューがそうであるようにUI輝度(ペーパーホワイト)を調整できるコンテンツの方が少なかったりします。
輝度性能 400nitsではHDRには不十分は本当?
最大輝度が400nits程度のVESA DisplayHDR 400認証の液晶モニタや、全白が250~300nits程度の有機ELモニタはHDR表示には不十分と言われることがあります。
これも一部正しいですが、一部は誤りというのが筆者の私見です。
高輝度であるほど良い、それ自体は間違いではありませんが、『HDRには最大400nitsでは不十分なのか』というと、これまで説明してきたUIのペーパーホワイトと太陽・フラッシュ効果の高輝度ホワイトの分離によるダイナミックレンジ拡張の話を前提によく考える必要があります。
そういう意味においてFALD対応液晶モニタのような最大1000nitsを超える高輝度は必ずしも必須ではなく、400nits程度であってもダイナミックレンジの拡張は体感できます。
輝度性能が低いと言われる有機ELモニタでも100~200nits程度のペーパーホワイトを表示できる性能はあるので、普段使用しているディスプレイ輝度設定が100~200nits程度であれば、HDR表示によって2~4倍もダイナミックレンジが拡張されます。
一般的なPC向け液晶モニタのSDR表示における最大輝度は300~400nitsなので、輝度設定 70%~100%で普段運用している人でなければだいたいはこれに当てはまります。
1000nits以上を表示できる液晶モニタと比較して高輝度性能が低いことは事実であり、筆者としてもHDRの高輝度表現を十分に体感するには600nits以上の高輝度性能が必要というのが正直なところですが、有機ELモニタでも『普段使用しているディスプレイ輝度設定が100~200nits程度』という条件を満たせばHDR対応ゲームにおいて高輝度やダイナミックレンジ拡張の恩恵はあります。
私室に置いているゲーミングモニタならそれくらいの輝度だと思いますが、普段ディスプレイ輝度 100~200nitsでSDRゲームをプレイしているのであれば、個人的には有機ELゲーミングモニタがオススメです。
個人差や製品毎の違いもありますがFALDバックライト制御による違和感等もありませんし、有機ELゲーミングモニタのほうが画質向上が分かり易いと思います。
有機ELモニタの輝度性能は全白で250~300nits程度しかないので、SDRでもHDRでも現在の環境よりも薄暗い表示にしかなりません。
また液晶モニタの場合、VESA DisplayHDR 400/600認証の製品の多くはローカルディミングが短冊状で8~16分割程度の1D型です。高輝度性能そのものではなく、1D型であることやローカルディミングの分割数の少なさによってハローが生じやすいところがネックなので個人的にオススメしません。
液晶モニタでHDRコンテンツを楽しみたいのであれば、輝度性能だけでなく『フルアレイ型ローカルディミングに対応しているかどうか』に注意し、最低でもSONY INZONE M9のような100分割程度のフルアレイ型ローカルディミング(FALD)に対応した製品を選んでください。
HDRコンテンツのクリエイターがRec.2020やDCI-P3の広色域対応機器で表示されることを想定して、RGB値を選んでいるだけです。
ディスプレイ機器が広色域に対応しており、sRGBエミュレートのように色域を制限していないのであれば、より広いネイティブ色域に対して、ガンマカーブ(EOTF)に応じて均等に色は配分されるので、SDR映像もRec.2020やDCI-P3の広色域カラーで表示されます。
つまり彩度の強調であり、彩度の過飽和と呼ばれる現象です。
近年のスマートフォンもPCモニタもsRGBの色域を大幅に上回る、Rec.2020やDCI-P3の広色域ディスプレイ機器であり、sRGBを想定して作成されるSDRコンテンツは常に彩度が強調されています。
常に彩度が強調されるSDR映像に対して、HDR映像内のSDRカラー(sRGB色域内の色)はSDRカラーのままで表示されるので、HDR映像は相対的に色が薄いと感じることになります。
SDR映像を広色域ディスプレイで表示した時のデメリットについて一例を挙げると人肌の色味があります。
人肌は血色が影響する以上、基本的に赤色系統の色が使用されます。ゲーム内でオレンジがかった暖色照明下の場合、広色域ディスプレイによって過飽和で彩度が強調されると不自然に人肌の色味が赤味を帯びます。
理想的に作成されたHDR映像であればsRGB範囲内にある低彩度な人肌の色味をリアルに表現しつつ、衣装やインテリア等の高彩度の赤色を広色域カラーで表現できます。
実はHDR対応ゲームが広色域カラーをあまり使用していない
HDRにおける色薄感は彩度強調が当たり前になっているSDRコンテンツに対する相対的な現象ではあるものの、HDRコンテンツ側にも問題がないわけではありません。
実はHDR映像を解析してみるとsRGB範囲内の色しかほとんど使用されていないことがあります。
PS5のHDR対応ゲームはゲーマーが触れるHDRコンテンツとしては最も主流だと思いますが、ファイナルファンタジー VII REBIRTH、ラチェット&クランク パラレルトラブル、スパイダーマン2など有名所のゲームも当てはまります。
DCI-P3やRec.2020の広色域カラーも全くの0というわけではありませんが、HDR表示に対する一般ユーザーの期待やテレビのデモンストレーションで使用されるデモ動画と現実のゲーム映像の色使いはかなり乖離しています。
Rec.2020やDCI-P3に該当するRGB値もないわけではないものの、色域的に言えばSDR映像をモニタのsRGBエミュレートで表示しているのと大差ないわけで、PS5やPCのHDR対応ゲームについては絶対的に見ても色が薄く感じるのは当然です。
一方でLGやSONYなどHDR対応テレビのマーケティングで使用されるデモ動画を解析するとRec.2020やDCI-P3に該当する高彩度な広色域カラーが大胆に使用されています。
こういったデモ映像で『HDRの高彩度・高色域はスゴイ!』と感じても、実際のゲーム映像になるといまいち見栄えしないのはそういう理由です。
ここまで説明した通り、HDR表示にすることで『UIと太陽・フラッシュなどを分離することで運用上のダイナミックレンジが拡張される』、『暗い色の分解能が向上する(体感としてはプラセボ感)』というメリットはあるものの、HDRによる広色域については映像データ的に何らかの方法で彩度を強調することでしか体感できないというのが実状です。
色薄感のあるHDR映像で彩度を強調する方法
HDR映像の彩度を強調する方法はいくつかあります。
モニタ・テレビがHDR表示でも彩度強調など画質調整に対応しているなら、それを使って好みの彩度に調整するのが一番手っ取り早いです。
一方、27~32インチのPCモニタを私室のゲーミングモニタとして使用する場合、テレビと違ってPCモニタはHDR表示においてSDRのように画質調整できない製品が多いので注意が必要です。
モニタ側でHDR表示を調整できない場合も、PCゲームであればNVIDIA製GPU環境ならGeForce Experience/NVIDIA APPのオーバーレイからFreeStyle カラーフィルター機能で彩度を調整できます。
PS5/Xbox Series X|Sなどコンソールゲーム機とHDR調整に非対応なPCモニタの組み合わせで彩度を調整したい時の最終手段は、独自AIによる超解像&高画質化機能を搭載したUSB外付け機器型ビデオキャプチャ NEXiCONN AI Pixel-Plus CaptureX NV501/NV601です。
NEXiCONN NV501/NV601はUSBビデオキャプチャですが、ゲーム機とモニタの間に挿入することでHDR映像の彩度調整に使用できます。
現在はカスタム設定の作成に対応した専用ソフトウェア NEXiCONNectorも配布されているので、NEXiCONN NV501/NV601を使用すればHDR調整に非対応なPCモニタでもPS5/Xbox Series X|SのHDR映像をお好みの彩度に強調できます。
以上、『HDRはゲームに必要か?SDRとの違いやメリット・デメリットを解説』でした。
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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
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PS5/Xbox Series X|Sなどコンソールゲーム機やPCゲームにおいてHDRは必要なのか、現実のHDRコンテンツをベースにして具体的かつ定量的に、SDRと比べて見え方はどう変わるのか、HDRの効果やメリット・デメリットを解説します。
目次
1.ゲームにおけるHDR映像の正しいメリット・デメリット
・HDR映像の理想(幻想)と現実
予備知識.RGB値から現実の色はどう決まるのか
2.SDRの規格の限界や運用上の問題点
・SDRとHDRのEOTFの違い
・SDRではRGB 255値がUIのペーパーホワイトとして使用される
・HDRならSDR運用上の問題を解消してダイナミックレンジを拡張できる
3.SDRもHDRも黒色そのものは同じ、違いは暗い階調の分解能
・分解能が高いことは定量的な事実だけど体感に影響するかは微妙
4.HDRは薄暗いと感じる人が多く、逆に明る過ぎると言う人もいる理由
・SDRとHDRでペーパーホワイトの運用はどう違うのか
5.輝度性能 400nitsではHDRには不十分は本当?
・有機ELで高輝度を体感できるかは普段のディスプレイ輝度次第
・普段使いが300~400nitsならFALD対応液晶モニタで一択
6.HDRなら彩度の過飽和による不自然な色味を解消できる
・実はHDR対応ゲームが広色域カラーをあまり使用していない
・色薄感のあるHDR映像で彩度を強調する方法
ゲームにおけるHDR映像の正しいメリット・デメリット
最大10,000nitsの高輝度対応やRec.2020色規格による広色域がHDRのメリットとしてアピールされますが、単純なHDR変換や彩度過飽和によってSDRコンテンツであっても高輝度・高彩度の表示は可能です。SDRでもRGB値が0なら0nits、1で10の-4乗の低輝度なので黒の沈み込み云々については絶対値としてHDRと大差ありませんし、暗い色の再現性についてもFALD対応液晶や有機ELならSDR・HDR問わず暗い階調の表現は向上します。
これらHDRでしばしば言及されるアピールポイントは完全な間違いかというと微妙ですが、ハードウェア性能に依存する部分が大きく、HDR規格そのものから生じるメリットの説明として不正確・不十分というのが個人的な感想です。
『別にHDRでなくても高輝度や広色域に対応したモニタ・テレビを購入すればゲーム映像は綺麗になる』よねと。ではHDRを導入するメリットとはなんでしょうか?
ゲームにおいてSDR表示ではなくHDR表示を使用するメリットは次の3つであり、特に影響が大きいのは1つ目だと思います。
- UIなどペーパーホワイトと、太陽・フラッシュ効果など高輝度ホワイトの分離
→ SDRの運用上の問題を解消することがダイナミックレンジ拡張に繋がる
→ 加えてハードウェア性能に応じて1000nits以上の高輝度表現にも対応
HDRそのものはSDRという既存規格の拡張なのでデメリットは本来ありませんが、強いて挙げるなら、上手く扱うハードルの高さです。
未だに周辺環境が未成熟なので、色温度しかり、色薄感しかり、上手く扱うにはユーザー側にもある程度の知識が要求されます。
HDRコンテンツ側がペーパーホワイトを調整できないとか、ディスプレイ表示機器(特にPCモニタ)がホワイトバランスや彩度をユーザーの好みに調整できないとか、知識があってもどうしようもない問題もあります。
HDR映像の理想(幻想)と現実
HDRに関する間違った通説(高性能アピール)について指摘しておきます。HDRの高画質をアピールする時に『最大10,000nitsの高輝度』、『深く沈み込む黒色』、『広色域カラーによる高彩度』がよく挙げられます。
そういったアピール通りの理想のHDR映像が存在するならSDR映像と比較した時のイメージは下の比較画像のような、ピーク輝度が高く、黒浮きがなく、高彩度になるはずです。HDRに関する説明ではよく見かける感じの比較画像です。
しかし、すでに多くのHDR映像ユーザーが知っている通り、こういう素晴らしいHDR映像は幻想に過ぎません。
モニタによる彩度過飽和を無視して彩度低下、黒浮きするようにブラックレベルを引き上げる低コントラスト化など比較対象のSDRが変に劣化させられているところも現実的でありませんし、率直に言ってこの手の説明や比較イメージは大嘘です。
『最大10,000nitsの高輝度と深い黒色表示、広色域カラーによる高彩度』などとアピールされることが多いHDRですが、ピュアオーディオ的な若干オカルト気味になっているというか、現実のHDRとは乖離しています。
HDRだからSDRよりも綺麗(でなければならない)というバイアスがかかって、ディスプレイ機器メーカー側も視聴者が満足するようにという配慮から変に彩度強調や暗所強調のチューニングを施していて、それをHDRの綺麗さであると一般ユーザーだけでなくテック系メディアやレビュアーすらも勘違する、という傾向がどんどんと強まっているような。
現実のHDR映像は上の比較画像のような、SDR映像よりも圧倒的に魅力的な見え方にはなりません。現実のHDR映像でHDRの高性能アピール通りになるのはせいぜいピーク部分の高輝度性能(高輝度表示)くらいです。
- SDRよりも色が薄くなる ← sRGBカラーがそのまま表示されるため
- 黄色がかる(黄色く濁って見える) ← 暖色寄りなD65のホワイトポイント
- しばしば薄暗い(逆に明る過ぎることも) ← ペーパーホワイトの運用が原因
広色域モニタの性能のまま彩度が過飽和になるSDR映像に比べてsRGBカラーがsRGBカラーとして表示されるHDRはSDRよりも色が薄く感じるのは当然です。大抵の人は高彩度であるほどパッと見で綺麗に感じるので、彩度過飽和なSDRよりHDRが綺麗と思う方が稀です。
色味については加えて、寒色寄りの色を好む日本人ユーザーがHDRモードでD65のホワイトポイントを強制されれば全体的に黄色く濁って感じます。
UI・メニューなどペーパーホワイトが最大輝度になるSDR表示の場合、リビングなど明るい部屋で見やすいように300~400nitsの明るさに設定していれば、100~250nits程度がリファレンスのペーパーホワイトであるHDRはそのまま使えば全体的に薄暗くなります。
HDRが薄暗い、または真逆に明る過ぎるという評価はそういうペーパーホワイトの扱いの違いが原因です。
予備知識:RGB値から色はどう決まるのか
SDRもHDRも映像データ自体は0~255/1023のRGB値セットを解像度の分だけ抱えたデータ集合に過ぎません。それを現実の色に置き換えるのがプライマリとホワイトポイント、そしてEOTF(ガンマ)の組み合わせ、つまりsRGBやRec.2020などの色規格です。
ただし、PC・ゲーム機など出力機器とモニタ・テレビなどディスプレイ機器は色規格が何なのか相互に確認しあうことはなく、SDRだからsRGB、HDRだからRec.2020のように相手の表示特性や映像データのカラーマネジメントを各々が勝手に想定して動作します。(HDRの場合、メタデータはあるが基本的に使用されない)
そういったアンマッチを解消するためWindows PCの場合、カラーキャリブレータによるiccプロファイル作成を行います。
sRGBやRec.2020など色規格が想定されるときに各RGB値から現実に存在する色(色度、色座標)がどのように決定されるのか計算方法について簡単に説明しておきます。
定性的な端折った説明だけでもHDRの効果・メリットについてなんとなく雰囲気は伝わっているはずですが、RGB値がどのように現実の色に紐付けされているのか理解することで、HDRの効果をより具体的に理解することに繋がると思います。
SDRの規格の限界や運用上の問題点
SDRでは規格そのものの限界だけでなく、今日まで続けられてきた運用上の問題がごちゃ混ぜになっています。- SDR規格そのものが最大100nits程度の輝度・EOTFしか想定していない
実際の運用としては輝度絶対値は指定されず、最大輝度に対する比率でしかない - SDRで最大輝度の白色をUIなどペーパーホワイトとして使用する運用の一般化
→ UIに最大輝度を使用するので、太陽やフラッシュ効果など高輝度表現に制限
→ 最大輝度を明るさ調整に使用するので連動して暗い階調が低分解能になる - ディスプレイ発色性能の向上による彩度の過飽和
→ SDR映像は常に彩度が強調され、それに見慣れる
→ SDR色域内の色がそのまま表示されるHDRは色が薄く感じる
SDRとHDRのEOTFの違い
EOTFとはElectro-Optical Transfer Functionの略で、映像データのRGB値(コードバリュー)とディスプレイ機器が表示する明るさの関係を表します。SDR 8bitの場合、白色の最大輝度 Wbmax、ガンマγによって0~255の8bit値 CVに対する黒から白までのグレー階調の明るさは『Wb = Wbmax * (CV / 255)^γ』となります。
これは赤・緑・青の単色にも当てはまり、赤色に限定すれば[CVr, 0, 0]を[0, 0, 0]から[255, 0, 0]に変化させる場合の輝度は『Rb = Rbmax * (CVr / 255)^γ』になります。
PCモニタやテレビのSDR設定においてディスプレイ輝度の設定値はWbmaxに当たります。
SDR表示では上記のようなγ値によってEOTF(輝度カーブ)が規定され、sRGBカーブのような独自の関数でも単純なγの指数関数に近似して扱われるため、EOTFのことを指して”ガンマ”と呼ぶことがあります。
一方でHDR表示のEOTFは一般的なHDR10規格の場合、SMPTE ST 2084のPQカーブです。詳しくはウィキペディアを参照してください。
HDRのPQカーブはSDRの固定値ガンマやsRGBカーブよりも複雑な数式になっていますが、単純な直線比例ではなく、下に凸なカーブにすることで、人間の視覚的に変化に敏感な低輝度域からSDR輝度域(0~250nits程度)のRGB値の割り当てを増やして、分解能を高めるという基本的な設計思想は同じで、それをより発展させたものです。
10,000nitsの高輝度を表示できる製品は存在しないので、実際に表示されるEOTFはディスプレイ製品固有の最大輝度に達した時点でクリップされたり、高輝度階調を維持するためPQカーブのリファレンスから途中で離れたり、ディスプレイ製品独自のチューニングが施されていますが、そういったモニタ製品によって異なる挙動は300~400nitsを超えるような高輝度領域に限定される話であり、100~250nitsのペーパーホワイト、SDR輝度域については基本的にPQカーブのリファレンス通りになります。
SDRではRGB 255値がUIのペーパーホワイトとして使用される
映像作品、ゲームなどコンテンツにも依るのですが、デスクトップPCのエクスプローラーやWebブラウザ背景を見ての通り、sRGB想定のSDR表示ではRGB値 255の最大輝度やそれ近い、輝度の絶対値で90%以上の白色が標準白色、ペーパーホワイトとして使用されています。PS5/Xbox/Switchなどコンソールゲーム機でもPCゲームでもゲームのUI、3Dグラフィックスに重ねて表示される体力ゲージ等のUIやメニュー画面で普通にRGB値 255の白色が使用されます。同時に太陽やフラッシュ等の3Dグラフィックス的に高輝度な色もRGB値 255が使用されます。
SDR 8bitではメニューUIにRGB値 255のような高輝度白色が普通に使用されているので、それが見やすくなるようにユーザーはディスプレイ輝度=Wbmaxを調整し、同時に最大輝度が決定されます。
結果的に太陽や攻撃時のフラッシュのような高輝度表現がUIの見やすい明るさで制限され、SDR表示のダイナミックレンジが狭くなります。
SDRという規格そのものにも限界がありますが、コンテンツクリエイターの設計や、デファクトスタンダードなユーザーの運用が原因でダイナミックレンジがさらに狭まったということも事実です。
SDRでもRGB値 200などより低い輝度のRGB値をペーパーホワイトとしてゲームUIを設計していればダイナミックレンジを広げることはできます。それでも8bitやSDRガンマの分解能的に言ってUI基準でせいぜい2倍程度が限度なので4倍以上のHDRには及びませんが。
しかしRGB値 255を使用する設計のゲームがデファクトスタンダードになってしまっているというのが現状なので、逆にそういった設計は画面全体が暗いとユーザーから不評を買うことになります。
SDR規格のままペーパーホワイトを適切な運用に戻すという方針転換は事ここに至っては現実的に不可能です。
加えて補足すると、SDR to HDR変換が似非HDRにしかなり得ないのは、ゲームにおいてSDRではそういった配色(輝度の割り当て)がされているからです。
Windowsの自動HDRやNVIDIA製GPUのRTX HDRのように概ね静的なトーンマップで変換を行います。つまりUIや太陽、フラッシュ効果等を判別しないSDR to HDR変換はUIを無差別に高輝度化する目潰しにしかなりません。
HDRならSDR運用上の問題を解消してダイナミックレンジを拡張できる
UIも太陽やフラッシュ効果も同じような白色がRGB値として割り当てられているので、SDR表示の高輝度表現はUIを見やすいように設定したディスプレイの明るさに制限されてしまいます。説明の都合で画像をわざと暗くしていますが、下画像左側の120nitsのSDR映像でUIがちょうどいい明るさであると考えてください。
右側のようにディスプレイ輝度を200nitsに引き上げると太陽やフラッシュ効果の輝度は上がりますが、UI含めて画面全体が明るくなるので、ちょうどいい明るさから外れ(明る過ぎる)、また目はUIの明るさに慣れるのでダイナミックレンジの改善という意味でも限定的です。
一方、HDR表示にするとUIのペーパーホワイトは100nits程度のまま、太陽やフラッシュ効果の高輝度ホワイトが分離されます。
普段、100nits程度のSDR映像でゲームをプレイしている場合、最大輝度がせいぜい400nits程度のモニタであってもUIが見やすい明るさを基準にすればHDRでは2~4倍もダイナミックレンジが拡張されることになります。
SDRもHDRも黒色そのものは同じ、違いは暗い階調の分解能
HDRを暗いシーンをよりリアルに表現できる、黒がより黒く沈み込む、などと説明されることがありますが、これは一部正しく、一部は誤りです。というか多くは定量的な説明があまりされておらず、オカルト感があります。まずSDRでもHDRでもRGB値が[0,0,0]なら想定される明るさは0nitsです。黒色そのものの表現には映像データとして差はありません。
RGB値が1の時の明るさはSDR 8bit(sRGB)では10の-4乗、HDR 10bitでは10の-5乗なので1桁程度の差はありますが、ディスプレイ表示機器がそこまで暗い色を正確に表示できるかという問題もあるので現状では無視してもいい数字です。
暗い色におけるSDRとHDRの違いは、映像規格による違いとディスプレイ機器などハードウェア性能の違いの2種類があります。
- PQカーブと10bitカラーなので暗い色のRGB値割り当てが多い → 分解能が高い
- FALD液晶や有機ELによって黒色や暗い色の表現力が高い
例えばSDR 8bitのEOTFを白色が100nitsで固定値2.2のガンマ、HDR 10bitをSMPTE ST 2084のPQカーブとして暗い色の分解能を考えてみます。
上記のような条件でSDRのRGB値が0なら0nits、40なら2nits程度、80なら10nits程度となります。下の画像の通り、暗そうに思える2nitsでも0とは容易に判別できグレーに感じる明るさです。
SDRにおいてグレー階調の明るさは『Wb = Wbmax * (CV / 255)^γ』なので、0nits~10nitsまでの暗い色を表現するRGB値の数、つまり分解能は80程度です。
一方、SMPTE ST 2084のPQカーブと10bitカラーでグレー階調の明るさが規定されるHDRの場合、0nits~10nitsまでの暗い色には300程度の分解能があり、SDRよりも3倍以上も細分化して暗い階調を表現できます。
0nits~2nitsまでのかなり暗い色を表現するRGB値の数になると分解能の差は4倍以上になります。
上のグラフを見ての通り、SDRであっても分解能が低いだけ、つまり暗い階調のグラデーションを作ったらバンディングが生じやすいだけで、絶対値として暗い色が表示できないわけではありません。
SDRであっても適切なRGB値を選べば暗い色の絶対値は同じである以上、『HDRは暗い色の沈み込みが綺麗』などのHDRに対するアピール表現が胡散臭いことはグラフから分かります。
またSDRとHDRの比較として、黒浮きさせたイメージ映像を使うのもかなり怪しいです。こういう黒レベルそのものの低さはFALD対応液晶や有機ELといったハードウェア性能の特長に過ぎません。
加えて前節で説明した通り、SDR表示においてはゲームUIと3Dグラフィックスの明るさが完全に連動しています。現実的にそういう実装が大半です。
PCモニタやテレビではディスプレイ輝度(Wbmax)を調整することでメニュー画面やUIが見やすい明るさに調整するというのがSDR映像の現状の使われ方です。
前節で説明した通り、SDR表示の明るさは『Wb = Wbmax * (CV / 255)^γ』というEOTFで決まるので、Wbmaxが100nitsの時に0nits~10nitsまでの暗い色を表現する分解能は80程度ですが、メニューUIを見やすくするためにWbmaxを240nitsに引き上げた場合、SDRの分解能は60程度に減ってしまいます。
SDRではメニューUIを見やすくする、見やすい明るさに引き上げると3Dグラフィックスの暗所の分解能は下がるということです。(黒浮きするというのが正しい表現ですが)
分解能が高いことは定量的な事実だけど体感に影響するかは微妙
暗い階調の表現力についてHDRではPQカーブと10bitカラーなので分解能が高いこと自体は定量的な事実ではあるものの、実際のHDR映像において既存のSDR規格と比較してHDRだと暗い階調がより綺麗に見えるのかというと実は微妙です。SDRの例を見ると、こういうシンプルなグラデーション画像であれば標準的な8bit(256分割)から7bit(128分割)や6bit(64分割)に下げると如実にバンディングが生じます。分解能の差が表現力に影響するという分かり易い例と言えます。
一方で実際のゲーム映像でも上のような違いを体感できるかというと微妙です。
ゲーム映像のスクリーンショットで同じように7bit(128分割)や6bit(64分割)に下げてみてもパッと見では違いが分からないというのが正直なところです。
6bitだと流石によく見るとバンディングが分かりますが、8bitと7bitですら実際のゲーム映像だと見分けるのはかなり難しい感じなので、HDRで10bitカラーになって暗所の分解能が4倍に増えたとしても、体感に影響するレベルで暗所の表現力が上がるのかというと、プラセボ感は否定できません。
広域なグラデーションだと分かり易く差が出ますが、実際のゲーム映像だと適用されるシーンが限定的なのかなと思います。
HDRは薄暗いと感じる人が多く、逆に明る過ぎると言う人もいる理由
HDR表示がSDR表示と比べて薄暗いと感じる人が多く、逆に明る過ぎると言う人もいる理由は、ペーパーホワイトの運用の違いが原因です。SDR表示とHDR表示でUIなどペーパーホワイトの運用に齟齬が生じているというか、SDR的な運用がデファクトスタンダードになってしまっている現状において、HDRの導入でアップデートもしくは修正された運用がまだ一般ユーザーには浸透していないという状態です。
- SDRではUIなどペーパーホワイトの輝度をディスプレイ輝度の設定で調整している
ユーザーの設定や環境次第で100nits~400nitsの幅がある - HDRではディスプレイ自体はリファレンス仕様を再現するものとし、
ペーパーホワイトの明るさはコンテンツ側で制御する
→ しかし、ゲーム次第で100~250nitsの幅があり、制御できないコンテンツも多い
上記のような齟齬が理由で、普段、SDR表示を150nitsで運用している人がペーパーホワイト 100nitsのゲームをプレイしたら薄暗く感じます。逆に250nitsのゲームであれば明る過ぎると感じます。
リビングルームに置くテレビの場合、室内照明が明るいのでおそらくSDR表示におけるディスプレイ輝度は300~400nits以上です。
HDRリファレンス通りならペーパーホワイトが300nits以上になることはないので、そういった、普段、400nits以上で表示されるUI(ペーパーホワイト)で見慣れている人にとって、HDRコンテンツが薄暗く感じるのは当然です。
SDR表示の明るさはユーザーによって異なり、HDRのペーパーホワイトもコンテンツによって異なるので、ユーザー・環境・ゲームの組み合わせ次第で齟齬が生じ、結果としてHDRは薄暗いと感じる人が多い一方で、明る過ぎると言う人もいたり、様々な評価がごちゃ混ぜになります。
SDRとHDRでペーパーホワイトの運用はどう違うのか
SDR 8bitの場合、白から黒までのグレー階調の明るさは『Wb = Wbmax * (CV / 255)^γ』となり、UIにもRGB 255の白色が普通に使用されるので、画面の明るさはPCモニタやテレビのディスプレイ輝度つまりWbmaxで調整するというのがユーザーによるSDRの一般的な運用(デファクトスタンダード)になっています。つまりSDRでは映像データではなくディスプレイの表示特性を弄って明るさを調整します。
一方でHDR表示ではEOTFはSMPTE ST 2084のPQカーブで規定され、UIの明るさ、ペーパーホワイトは100~250nitsの範囲内になります。ペーパーホワイトが100nitsなのか、200nitsなのかはPS5メニューや各種ゲームなどコンテンツによって異なります。
実質的に規格としての最大輝度が規定されていないSDRと違って、HDR表示においてはモニタの輝度設定を最大にした時のEOTFはHDRリファレンス(PQカーブ)に一致するというのが、モニタ設計としては正しいと考えられます。
つまりディスプレイ輝度設定を下げることで最大輝度と同時にペーパーホワイトを下げることはできても、100~250nitsというリファレンスのペーパーホワイトより、ディスプレイ機器自体の表示特性を明るくすることは輝度設定では通常できません。
HDR表示においてテレビやモニタの設定でペーパーホワイトをHDRリファレンスよりも明るく調整するには、コントラスト設定(EOTFの左右オフセット)を調整します。モニタ・テレビ製品によって該当する設定が異なる可能性もありますが、多分、コントラストが一般的です。
SDR表示ではモニタ側のコントラスト設定を触ることは基本的にないので(ゲーム内の明るさ設定を使うことが多い)、特に分かり難いポイントだと思います。
もしくはディスプレイ機器がSDR輝度域などペーパーホワイトの中間輝度を調整できる機能に対応していればそれを使用します。
ディスプレイ輝度でペーパーホワイト(=最大輝度)を調整する運用が一般化しているSDRと異なり、コンテンツ側でペーパーホワイトを変更することでUI等の明るさを調整するのがHDRの適切な運用です。
モニタ・テレビで調整できる機能があって選択肢が増えるのは悪くはありませんが、HDR10のPQカーブのように絶対値としての輝度がRGB値に対して規定されているならコンテンツ側で調整してしまうのがベストです。
Windows設定における「SDRコンテンツの明るさ」の設定スライダーは、HDR表示においてコンテンツ側でのペーパーホワイトを調整する設定の1つとして分かり易い例です。
ラチェット&クランク パラレルトラブル PC版のようにペーパーホワイトの調整に対応しているタイトルもありますが、HDR対応ゲームでもPS5メニューがそうであるようにUI輝度(ペーパーホワイト)を調整できるコンテンツの方が少なかったりします。
輝度性能 400nitsではHDRには不十分は本当?
最大輝度が400nits程度のVESA DisplayHDR 400認証の液晶モニタや、全白が250~300nits程度の有機ELモニタはHDR表示には不十分と言われることがあります。これも一部正しいですが、一部は誤りというのが筆者の私見です。
高輝度であるほど良い、それ自体は間違いではありませんが、『HDRには最大400nitsでは不十分なのか』というと、これまで説明してきたUIのペーパーホワイトと太陽・フラッシュ効果の高輝度ホワイトの分離によるダイナミックレンジ拡張の話を前提によく考える必要があります。
有機ELで高輝度を体感できるかは普段のディスプレイ輝度次第
ゲームシーンのHDRについては、すでに説明した通り、UIのペーパーホワイトと太陽やフラッシュ効果のような高輝度ホワイトの分離という、SDRの運用上の問題を解消することでダイナミックレンジを拡張できます。そういう意味においてFALD対応液晶モニタのような最大1000nitsを超える高輝度は必ずしも必須ではなく、400nits程度であってもダイナミックレンジの拡張は体感できます。
輝度性能が低いと言われる有機ELモニタでも100~200nits程度のペーパーホワイトを表示できる性能はあるので、普段使用しているディスプレイ輝度設定が100~200nits程度であれば、HDR表示によって2~4倍もダイナミックレンジが拡張されます。
一般的なPC向け液晶モニタのSDR表示における最大輝度は300~400nitsなので、輝度設定 70%~100%で普段運用している人でなければだいたいはこれに当てはまります。
1000nits以上を表示できる液晶モニタと比較して高輝度性能が低いことは事実であり、筆者としてもHDRの高輝度表現を十分に体感するには600nits以上の高輝度性能が必要というのが正直なところですが、有機ELモニタでも『普段使用しているディスプレイ輝度設定が100~200nits程度』という条件を満たせばHDR対応ゲームにおいて高輝度やダイナミックレンジ拡張の恩恵はあります。
私室に置いているゲーミングモニタならそれくらいの輝度だと思いますが、普段ディスプレイ輝度 100~200nitsでSDRゲームをプレイしているのであれば、個人的には有機ELゲーミングモニタがオススメです。
個人差や製品毎の違いもありますがFALDバックライト制御による違和感等もありませんし、有機ELゲーミングモニタのほうが画質向上が分かり易いと思います。
普段使いが300~400nitsならFALD対応液晶モニタで一択
一方で、明るいリビングに置いているテレビなど(私室のPCモニタであっても)、RGB 255の白色が300~400nitsになるような高輝度のディスプレイ設定で普段SDRコンテンツを表示している場合は、有機ELモニタを購入するのは避けてください。有機ELモニタの輝度性能は全白で250~300nits程度しかないので、SDRでもHDRでも現在の環境よりも薄暗い表示にしかなりません。
また液晶モニタの場合、VESA DisplayHDR 400/600認証の製品の多くはローカルディミングが短冊状で8~16分割程度の1D型です。高輝度性能そのものではなく、1D型であることやローカルディミングの分割数の少なさによってハローが生じやすいところがネックなので個人的にオススメしません。
液晶モニタでHDRコンテンツを楽しみたいのであれば、輝度性能だけでなく『フルアレイ型ローカルディミングに対応しているかどうか』に注意し、最低でもSONY INZONE M9のような100分割程度のフルアレイ型ローカルディミング(FALD)に対応した製品を選んでください。
HDRなら彩度の過飽和による不自然な色味を解消できる
HDRをアピールする時にRec.2020やDCI-P3の広色域対応による高彩度な表示が挙げられることがありますが、SDRもHDRも映像データそのものは8bitもしくは10bitのRGB値の集合に過ぎず広色域カラーを指定していません。HDRコンテンツのクリエイターがRec.2020やDCI-P3の広色域対応機器で表示されることを想定して、RGB値を選んでいるだけです。
ディスプレイ機器が広色域に対応しており、sRGBエミュレートのように色域を制限していないのであれば、より広いネイティブ色域に対して、ガンマカーブ(EOTF)に応じて均等に色は配分されるので、SDR映像もRec.2020やDCI-P3の広色域カラーで表示されます。
つまり彩度の強調であり、彩度の過飽和と呼ばれる現象です。
近年のスマートフォンもPCモニタもsRGBの色域を大幅に上回る、Rec.2020やDCI-P3の広色域ディスプレイ機器であり、sRGBを想定して作成されるSDRコンテンツは常に彩度が強調されています。
常に彩度が強調されるSDR映像に対して、HDR映像内のSDRカラー(sRGB色域内の色)はSDRカラーのままで表示されるので、HDR映像は相対的に色が薄いと感じることになります。
SDR映像を広色域ディスプレイで表示した時のデメリットについて一例を挙げると人肌の色味があります。
人肌は血色が影響する以上、基本的に赤色系統の色が使用されます。ゲーム内でオレンジがかった暖色照明下の場合、広色域ディスプレイによって過飽和で彩度が強調されると不自然に人肌の色味が赤味を帯びます。
理想的に作成されたHDR映像であればsRGB範囲内にある低彩度な人肌の色味をリアルに表現しつつ、衣装やインテリア等の高彩度の赤色を広色域カラーで表現できます。
実はHDR対応ゲームが広色域カラーをあまり使用していない
HDRにおける色薄感は彩度強調が当たり前になっているSDRコンテンツに対する相対的な現象ではあるものの、HDRコンテンツ側にも問題がないわけではありません。実はHDR映像を解析してみるとsRGB範囲内の色しかほとんど使用されていないことがあります。
PS5のHDR対応ゲームはゲーマーが触れるHDRコンテンツとしては最も主流だと思いますが、ファイナルファンタジー VII REBIRTH、ラチェット&クランク パラレルトラブル、スパイダーマン2など有名所のゲームも当てはまります。
DCI-P3やRec.2020の広色域カラーも全くの0というわけではありませんが、HDR表示に対する一般ユーザーの期待やテレビのデモンストレーションで使用されるデモ動画と現実のゲーム映像の色使いはかなり乖離しています。
Rec.2020やDCI-P3に該当するRGB値もないわけではないものの、色域的に言えばSDR映像をモニタのsRGBエミュレートで表示しているのと大差ないわけで、PS5やPCのHDR対応ゲームについては絶対的に見ても色が薄く感じるのは当然です。
一方でLGやSONYなどHDR対応テレビのマーケティングで使用されるデモ動画を解析するとRec.2020やDCI-P3に該当する高彩度な広色域カラーが大胆に使用されています。
こういったデモ映像で『HDRの高彩度・高色域はスゴイ!』と感じても、実際のゲーム映像になるといまいち見栄えしないのはそういう理由です。
ここまで説明した通り、HDR表示にすることで『UIと太陽・フラッシュなどを分離することで運用上のダイナミックレンジが拡張される』、『暗い色の分解能が向上する(体感としてはプラセボ感)』というメリットはあるものの、HDRによる広色域については映像データ的に何らかの方法で彩度を強調することでしか体感できないというのが実状です。
色薄感のあるHDR映像で彩度を強調する方法
HDR映像の彩度を強調する方法はいくつかあります。- モニタ・テレビの機能(HDRの調整に対応しているPCモニタは少ない)
- PCゲームの場合はNVIDIA製GPU環境ならFreeStyle カラーフィルター機能
- NEXiCONN NV501/NV601による画質調整
モニタ・テレビがHDR表示でも彩度強調など画質調整に対応しているなら、それを使って好みの彩度に調整するのが一番手っ取り早いです。
一方、27~32インチのPCモニタを私室のゲーミングモニタとして使用する場合、テレビと違ってPCモニタはHDR表示においてSDRのように画質調整できない製品が多いので注意が必要です。
モニタ側でHDR表示を調整できない場合も、PCゲームであればNVIDIA製GPU環境ならGeForce Experience/NVIDIA APPのオーバーレイからFreeStyle カラーフィルター機能で彩度を調整できます。
PS5/Xbox Series X|Sなどコンソールゲーム機とHDR調整に非対応なPCモニタの組み合わせで彩度を調整したい時の最終手段は、独自AIによる超解像&高画質化機能を搭載したUSB外付け機器型ビデオキャプチャ NEXiCONN AI Pixel-Plus CaptureX NV501/NV601です。
NEXiCONN NV501/NV601はUSBビデオキャプチャですが、ゲーム機とモニタの間に挿入することでHDR映像の彩度調整に使用できます。
現在はカスタム設定の作成に対応した専用ソフトウェア NEXiCONNectorも配布されているので、NEXiCONN NV501/NV601を使用すればHDR調整に非対応なPCモニタでもPS5/Xbox Series X|SのHDR映像をお好みの彩度に強調できます。
以上、『HDRはゲームに必要か?SDRとの違いやメリット・デメリットを解説』でした。
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PS5/Xbox Series X|Sなどコンソールゲーム機やPCゲームにおいてHDRは必要なのか、SDRと比べて見え方はどう変わるのか、HDRの正しい効果とメリット・デメリットを解説https://t.co/XBk47Y5YvT pic.twitter.com/rztmOPXkmy
— 自作とゲームと趣味の日々 (@jisakuhibi) September 15, 2024
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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
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