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AMD Ryzen 7000シリーズCPUに対応するX670Eチップセット搭載AM5マザーボードとしてASUSからリリースされた、110A対応Dr. MOSで構成される20フェーズの超堅牢VRM電源や2基のUSB4対応Type-Cポートを搭載するゲーマー&OCer向けモデル「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」をレビューします。
製品公式ページ:https://rog.asus.com/jp/motherboards/rog-crosshair/rog-crosshair-x670e-hero-model/
ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO レビュー目次
1.ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROの外観・付属品
2.ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROの基板上コンポーネント詳細
3.ROG PCIE5.0 M.2 CARDについて
3.ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROの検証機材
4.ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROのBIOSについて
5.ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROのOC設定について
・PBOによる低電圧化や電力制限について
・CPUコアクロックのマニュアルOCについて
・メモリのオーバークロックについて
6.ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROの動作検証・OC耐性
7.ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROのレビューまとめ
【注意事項】
同検証は2022年2月上旬に行っておりASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROのBIOSは0805を使用しています。最新BIOSでは修正されている不具合や追加されている機能もあると思うので、最新BIOSのリリースについては公式ページを各自でチェックしてください。
サポート:https://rog.asus.com/jp/motherboards/rog-crosshair/rog-crosshair-x670e-hero-model/helpdesk_bios/
【2023年2月2日:初稿】
レビュー記事初稿を公開、BIOS:0805で検証
【機材協力:ASUS Japan】
ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROの外観・付属品
まず最初にASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROの外観と付属品をチェックしていきます。ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROのパッケージはマザーボードの箱としては独特な上開き化粧箱になっていました。開閉しやすく高級感もあります。
外パッケージの蓋を開くと上段にはマザーボード本体が収められており、下段には各種付属品が収められています。
マニュアルなど冊子類で必要なものが一通り揃っています。その他にもROGロゴバッジシールやステッカーセットなどファングッズが付属します。
注目ポイントとして「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のドライバはCDではなく専用のUSBメモリに収録されていました。光学ドライブを搭載しない環境も増えているので嬉しい配慮です。その他のマザーボード製品でもドライバはUSBメモリに移行して欲しいところ。
組み立て関連の付属品として、SATAケーブル4本、M.2 Q-LATCH、M.2 SSD用スペーサーラバーパッド、交換用サーマルパッド、Q-Connector、RGB対応4PIN LED機器接続ケーブル、アドレッサブルRGB対応VG-D型3PIN LED機器接続ケーブル、WiFiアンテナが付属します。
「Q-Connector」はパワースイッチやストレージLEDなど細かいPINをまとめてマザーボードに接続可能な便利なコネクタです。「Q-Connector」は組み立て時にあると便利ですがASUSマザーボードの中でも付属しないモデルもあるので事前にチェックがおすすめです。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」はASUS AURA Syncによるライティング制御に対応したLEDヘッダーの延長ケーブルとしてRGB対応汎用4PIN LEDヘッダー用とアドレッサブルRGB対応VG-D型汎用3PIN LEDヘッダー用の2種類が付属します。
ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROにはアドレッサブルRGB対応VG-D型汎用3PIN LEDヘッダーがマザーボード上に実装されていますが、それをロック付き3PINコネクタに変換する延長ケーブルが付属します。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」にはROG GRAPHICS CARD HOLDERという独自グラフィックボードサポートホルダーが付属しています。
足の部分にマグネットが内蔵されているのでスチール板金製のPSUシュラウドに簡単固定して、グラフィックボードの垂れ下がりによる基板の反りを防止、PCIEスロットへの負荷も軽減できます。さらにROG GRAPHICS CARD HOLDERはPCIEスロットの固定クリップを外す器具としても使用できます。
詳細については後ほど詳しく解説しますが、「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」には、PCIE5.0x4接続のNVMe M.2 SSDにも対応する、巨大なアルミニウム製ヒートシンクを搭載したM.2スロット増設PCIE拡張ボード「ASUS ROG PCIE5.0 CARD M.2」が標準で付属します。
マザーボード全体像は次のようになっています。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」はATXフォームファクタのマザーボードです。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」にはチップセットカバーとも一体化したM.2 SSDヒートシンクがマザーボード下側の表面を覆っています。
AMD 600世代のROG MAXIMUSは、ROGアイコンロゴなど”ひし形ドット”がアクセントとして採用され、サイバーパンク的な近未来感が漂うデザインです。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」はマザーボード備え付けのLEDイルミネーションやRGB対応汎用4PIN/アドレッサブルRGB対応汎用3PINイルミネーション機器を操作可能なライティング制御機能「ASUS AURA Sync」に対応しています。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のリアI/Oカバー上には”Polimo Lighting”と呼ばれる、PMMA(アクリル)製ネームプレートの微細構造を利用し、2つの異なるパターンを表示できる新たなイルミネーションが搭載されています。この部分の絵柄や文字もひし形ドットで描かれています。
加えて「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のマザーボード上にはライティング制御に対応したRGB対応汎用4PIN LEDヘッダーが1基、ARGB対応VD-G型3PIN LEDヘッダーが3基実装されています。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」にはVRM電源クーラーとしてCPUソケットの上側と左側に大型のアルミニウム製ヒートシンクがあり、隠れていますが、2つはヒートパイプで連結されています。チョークコイルに覆い被さってCPUソケットに迫る勢いの非常に巨大なヒートシンクです。
左側ヒートシンクは、リアI/Oカバー天面を支える側面こそネジ止めの2ピース構造ですが、VRM電源ヒートシンクからリアI/Oカバーの天面まではモノブロック構造で超巨大なVRM電源クーラーとなっています。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」はメインストリーム向けマザーボードながら、20+1フェーズの超堅牢なVRM電源回路が実装されています。
VRM電源回路を構成する素子も、20(18+2)フェーズ全てに定格110Aを処理可能なViSHAY SIC850(所謂、110A対応Dr. MOS)、定格45Aを処理可能な高透磁率合金コアチョーク MicroFine alloy chokes、入出力フィルタリングに高い動作温度で数千時間持続する10K日本製ブラックメタルコンデンサなど厳選された高品質素子です。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」ではEPS電源端子は最大16コアに達するRyzen 7000シリーズのオーバークロックにも対応すべく、8PIN×2が設置されています。700W以下のメインストリーム電源ユニットではEPS端子が1つしかないものもあるので組み合わせて使用する電源ユニットには注意が必要です。
また「ProCool II」と呼ばれる設計のEPS電源コネクタは、低インピーダンスなソリッドピンによってホットスポットの発生を抑制し、金属アーマーはコネクタの補強とともに熱拡散も補助します。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」には一体型リアI/Oバックパネルも採用されています。PCケースにパネルを装着する作業は固くて装着し難かったり、忘れてしまうこともあるのでマザーボードに統合されているのは嬉しい機能です。
以下USB規格に関する説明がありますが『USB3.2 Gen2 = USB3.1 Gen2』、『USB3.2 Gen1 = USB3.1 Gen1 = USB3.0』と考えて基本的に問題ありません。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のリアI/Oに実装された2基のUSB Type-Cポートは帯域40Gbpsの次世代規格USB4に対応しています。DisplayPort Alternate Modeによるビデオ出力に対応しています。(映像ソースはiGPU)
リアI/Oには最新のUSB3.2 Gen2規格に対応した8基のUSB Type-A端子と2基のUSB Type-C端子が設置されています。2基のType-C端子の一方は、20Gbpsの高速通信が可能なUSB3.2Gen2x2にも対応しています。
マウス・キーボードなどの周辺機器を多数繋いでいてもVR HMDに余裕で対応可能です。USB3.Xは無線マウスと電波干渉を起こすことがあるので、追加でUSB2.0を少し離れた場所に設置しておいて欲しかったところ。
有線LANには一般的なギガビットイーサの2.5倍の帯域幅を実現するIntel製LANコントローラー I225-V(Foxville)による2.5Gb LANが搭載されています。
さらに従来の2.4GHz帯と5GHz帯に加えて、グローバルに免許不要で使用可能な6GHz帯もサポートするWiFi 6E&Bluetooth5.2に対応した無線LAN(Intel AX210)も搭載しています。
接続規格としてはWi-Fi 802.11 a/b/g/n/ac/ax、2.4/5GHz/6GHzトライバンド、最大通信速度2400Mbps、Bluetooth 5.2に対応しています。リアI/Oには無線モジュールのアンテナ端子が設置されているので付属のアンテナを接続できます。
なお6GHz帯は今のところ(2023年2月現在)、技適認証の関係で使用できず、WiFi 6相当の無線接続のみ使用できます。
Intel I225-V(Foxville)、Intel AX210など「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」に搭載されているネットワーク機器はWindows11の標準ドライバで動作します。
条件次第では問題になることもあるので詳しくはこちらの記事を参照してください。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」は「USB BIOS FlashBack」に対応しています。所定のUSB端子にBIOSファイルの入ったUSBメモリを接続して、オンボードボタンを押すと「USB BIOS FlashBack」機能によってCPUやメモリなしの状態でもBIOSの修復・アップデートが可能です。
ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROの基板上コンポーネント詳細
続いて「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のマザーボード基板上の各種コンポーネントをチェックしていきます。AMD Ryzen 7000シリーズCPUではCPUソケットが初代Ryzenから続いたAM4からLGAソケットのAM5(LGA1718)に変更されており、X670Eチップセット搭載AM5マザーボードの「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」も当然、AM5ソケットとなっており、Ryzen 5000以前の旧世代CPUとは互換性がありません。
一方でAM5ソケットに標準で装着されているCPUクーラー固定用フックはAM4マウント互換となっており、プラスチック製フックを取り外した下にあるネジ穴位置もAM4マウントと共通です。
ただしAM5マザーボードにおいてCPUクーラー固定用金具(ILM)とCPUクーラー固定用フックは共通の金属製バックプレートで固定されているため、マザーボードからバックプレートを取り外すことはできません。
AM5マザーボードはAM4マウントのCPUクーラーと基本的には互換であるものの、AM4環境で使用する時に標準付属のバックプレートを取り外す必要があったCPUクーラーは使用できないので注意してください。
ちなみに高性能AIO水冷CPUクーラーとして定評の高いAsetek OEMの製品については、AM4マウント用のソケット付きスタンドオフがAM5マザーボードでも問題なく使用できました。AM4用の部品でも使用は可能ですが、スタンドオフの長さなど構造をAM5へ最適化した新しい固定部品もAsetekから発表されており、一部のメーカーからは新部品の無償提供もあるようです。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」はシステムメモリの最新規格DDR5に対応しています。従来規格のDDR4と下方互換はなく使用できないので注意してください。
システムメモリ用のDDR5メモリスロットはCPUソケット右側に4基のスロットが設置されています。固定時のツメはマザーボード上側の片側ラッチとなっています。グラフィックカードを設置するPCIEスロットとは十分な距離があるのでメモリの着脱時に干渉の心配はありません。
グラフィックボードなどを設置するPCIEスロットは上から[N/A、x16、N/A、N/A、N/A、x16、x1]サイズのスロットが設置されています。上段のプライマリグラフィックボードを2段目のスロットに配置することで、大型ハイエンド空冷CPUクーラーとグラフィックボードの干渉を回避しています。
2段目と6段目のx16サイズPCIEスロットはCPU直結PCIE5.0x16レーンを共有しており、[x16, N/A]、[x8, x8]で使用できます。
最下段のx1サイズスロットはチップセット経由のPCIE4.0x1接続で排他利用はありません。
ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROにも最近のトレンドとして2段目と6段目のx16サイズスロットには1kgを超える重量級グラボの重さに耐えるように、従来のプラスチックスロットよりも垂直方向の力に対して1.6倍、水平方向の力に対して1.8倍も強靭になった補強用メタルアーマー搭載スロットが採用されています。
大型空冷CPUクーラーを組み合わせた場合など、グラフィックボードを取り外す際にPCIEスロットの固定ラッチを解除するのが難しい、という場面に遭遇したことのある自作erは多いと思いますが、PCIEスロット固定ラッチの解除を簡単にする新機能「PCIe Slot Q-Release」がASUS製X670Eマザーボードの一部で採用され始めました。
PCIe Slot Q-Releaseに対応しているマザーボードでは、PCIEスロット付近に実装されたボタンを押下するだけで簡単にPCIEスロットのロックを解除できます。
SATAストレージ用の端子はマザーボード右下に6基搭載されています。下写真で右と中央にあるSATA6G_1~4の4基はチップセットのコントローラーによる接続で、RAID0/1/5/10のハードウェアRAID構築にも対応しています。下写真で左側の2基はASMedia製コントローラーによる接続です。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」には高速NVMe接続規格に対応したM.2スロットが、CPUソケット下やPCIEスロットと並んで計3基設置されています。
M2_1とM2_2はCPU直結PCIE5.0x4レーンに接続されており、PCIE5.0x4接続のNVMe接続M.2 SSDに対応しています。
M2_3とM.2_4はチップセット経由PCIEレーンに接続されており、NVMe(PCIE4.0x4)接続のM.2 SSD両方にのみ対応しています。いずれも排他利用はありません。
加えて、「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」では付属の「ROG PCIE5.0 M.2 CARD」によってさらにPCIE5.0x4対応M.2スロットも使用できます。詳しくはこちら。
・PCIE4.0対応NVMe M.2 SSDのレビュー記事一覧へ
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のM.2スロットにはM.2 SSD自体の固定にはネジを使用しない、「M.2 Q-LATCH」という独自の構造が採用されています。クリップを90度回すだけで簡単にM.2 SSDを固定できるので非常に楽です。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」には4基のM.2スロットそれぞれに大型M.2 SSDヒートシンクが設置されています。同ヒートシンクを使用することで、グラフィックボードなど発熱から保護し、M.2 SSDがむき出しの状態よりもサーマルスロットリングを抑制する効果が期待できます。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のM.2 SSDヒートシンクのうち、CPU直結PCIEレーンに接続されているCPUソケット直下のM.2スロットについては、厚みが20mm以上もあり、特に巨大です。高速な反面、発熱の大きいPCIE5.0対応NVMe M.2 SSDを頻繁にアクセスするシステムストレージに使っても安心して運用できます。
一般的なマザーボード備え付けM.2 SSDヒートシンクは表面のみに金属プレートが実装されていますが、同製品では両面ヒートシンク設計を採用しており、背面金属プレートも表面同様にサーマルパッドを介してM.2 SSDと接します。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のマザーボード右側には最新接続規格USB3.2 Gen2x2に対応する内部USB Type-Cヘッダー(正式名称はFront USB Type-E)が実装されています。
内部USB Type-Cヘッダーの隣に実装されているPCIE補助電源6PIN互換形状の端子はPCIEスロットやUSB PD用の補助電源です。
この補助電源が使用されている場合、内部USB Type-CヘッダーQuick Charge 4.0やUSB Power Delivery 3.0の規格互換で60Wの給電が可能となります。なお未接続の場合は最大27Wの給電が可能です。
SATAポートの左右には2基の内部USB3.0ヘッダーがあり、一方は内部USB3.0ヘッダーはマザーボード基板と平行に実装されています。
マザーボード下側には3基の内部USB2.0ヘッダーが設置されています。Corsair iCUEやNZXT CAM対応製品などUSB2.0内部ヘッダーを使用する機器も増えていますが、ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROであればそれらの機器も問題なく使用可能です。内部USB2.0が2基でも不足する場合はUSB2.0ヘッダー増設ハブの「NZXT INTERNAL USB HUB (Gen3)」や「Thermaltake H200 PLUS」がおすすめです。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」はハイエンドなゲーミングマザーボードということで、ALC4082やESS SABRE DAC(SABRE9018Q2C)によって、高音質オンボードサウンド機能を従来機種よりもさらに強化した「SupremeFX」も採用されています。
ALC4082は従来のハイレゾオーディオ(HDA)インターフェイスの代わりにUSBインターフェイスを使用し、192〜384kHzのオーディオ解像度に対応します。ヘッドホンアンプには-115dB THD+Nに達する「ESS製QUAD DAC ES9218)」が採用され、低ノイズで微妙なニュアンスを再現します。
デジタル部とアナログ部の基板分離などヘッドホン・スピーカー出力の高音質化にも注力しており、光学デジタルによるデジタル音声出力もあるので高級なヘッドホンアンプユーザーにも満足のいく構成です。最近のゲーミングマザボはサウンドボード要らずです。
冷却ファンや簡易水冷クーラーのポンプの接続用の端子はマザーボード上の各場所に計8か所設置されています。これだけあれば360サイズなどの大型ラジエーターを複数基積んだハイエンド水冷構成を組んでもマザーボードのファン端子だけで余裕で運用可能です。
W_PUMP+ファン端子は最大36W(12V、3A)の出力にも対応しているので変換ケーブルを噛ませることで本格水冷向けのD5やDDCポンプの電源としても使用できます。
マザーボード上にはDIY水冷PCユーザーに嬉しい外部温度センサーの接続端子が水路IN/OUT用を含めて3基設置されています。ASUSのファンコントロール機能は外部センサーをソースにした水温依存のファンコントロールが可能なので管理人は以前から水冷ユーザーにオススメしています。
加えて、薄緑色の3PINファン端子は水冷の流量検出端子となっており、フローインジケーター&メーターを接続することで流量の検出が可能です。ASUSマザボさえあれば水冷環境の構築は全て大丈夫と言っても過言ではなくなってきています。
マザーボード基板上にはOCerのみならず一般自作erにとっても組み立て中の動作確認に便利なオンボードのスタートスイッチとリセットスイッチが実装されています。POSTエラーのチェックに便利なDebug LEDも設置されています。
リアI/OにはCMOSクリアのハードウェアスイッチも設置されているのでOC設定をミスっても簡単に初期化が可能です。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のマザーボード上でスタートスイッチと並んで実装されているリセットスイッチは「Flexkey」と名付けられており、BIOS上から、「リセット」「AURA オン/オフ」、「DirectKey(起動してBIOSメニューを表示)」「セーフブート(起動して標準設定でBIOSメニューを表示)」など押下時の機能を切り替えることができます。
ROG PCIE5.0 M.2 CARDについて
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」には、次世代規格PCIE5.0x4接続のNVMe M.2 SSDにも対応したPCIE拡張ボード「ROG PCIE5.0 M.2 CARD」が標準で付属します。「ROG PCIE5.0 M.2 CARD」は長さ170mm程度、ミドルクラスグラフィックボードを1スロット厚に収めたようなサイズ感のPCIE拡張ボードです。実際に使用するレーン数はx4レーンだけですが、PCIE端子はx8サイズですが、金属端子もx8サイズ全てが実装されています。
「ROG PCIE5.0 M.2 CARD」は黒色の外装部分全てが一枚、というか一塊のアルミニウム製ヒートシンクになっています。斜め方向のエアスリットが施されていますが、冷却ファンは搭載しておらず、シンプルなパッシブ空冷ヒートシンクです。
「ROG PCIE5.0 M.2 CARD」はボード長は170mm程度とM.2スロット増設PCIE拡張ボードとしては大きめですが、PCIEブラケット自体は1スロットサイズ、ヒートシンクも1スロット厚に収まるので、シンプルに1スロット占有のPCIE拡張ボードです。
「ROG PCIE5.0 M.2 CARD」は巨大なアルミニウム製ヒートシンクを搭載しているので、重量は400g超となっており、ズッシリとした重みを感じます。
基板背面のプラスネジ4つを外すと基板からM.2 SSDヒートシンクを取り外すことができます。
「ROG PCIE5.0 M.2 CARD」のM.2スロットはPCIE端子に対して45度の斜めに実装されています。M.2スロットは現在主流なM.2 2280フォームファクタだけでなく、全長120mmのM.2 22120フォームファクタにも対応しています。
M.2スロットを斜めに実装することで、『1.拡張ボードをPCIEブラケットと同じ高さに』、『2.M.2 22120フォームファクタに対応』、そして『3.PCIE端子とM.2端子を繋ぐ回路の距離を最小限に』という3つの要件をクリアしています。
ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROの検証機材
ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROを使用して検証機材と組み合わせてベンチ機を構築しました。ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO以外の検証機材は次のようになっています。
テストベンチ機の構成 | |
CPU | AMD Ryzen 9 7950X (レビュー) |
CPUクーラー | Corsair H150i PRO RGB (レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM x3 (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill Trident Z5 Neo F5-6000J3038F16GX2-TZ5N DDR5 16GB×2=32GB (レビュー) |
CPUベンチ用 ビデオカード |
MSI GeForce GT 1030 2GH LP OC ファンレス (レビュー) |
システムストレージ |
Samsung SSD 980 PRO 500GB(レビュー) |
OS | Windows 11 Home 64bit |
電源ユニット | Corsair HX1500i 2022 (レビュー) |
ベンチ板 | STREACOM BC1 (レビュー) |
AMD 600シリーズチップセット搭載AM5マザーボードの検証機ではシステムメモリとして、Ryzen 7000用OCメモリのスイートスポットとアピールされているメモリ周波数6000MHz/CL30の低レイテンシなメモリOCに対応した「G.Skill Trident Z5 Neo(型番:F5-6000J3038F16GX2-TZ5N)」を使用しています。
G.Skill Trident Z5 NeoシリーズはAMD EXPOのOCプロファイルに対応した製品なので、AMD Ryzen 7000シリーズCPUで高性能なPCを構築するお供としてオススメのOCメモリです。ARGB LEDイルミネーションを搭載したバリエーションモデル G.Skill Trident Z5 Neo RGBもラインナップされています。
・「G.Skill Trident Z5 Neo」をレビュー。EXPOで6000MHz/CL30のOCを試す!
360サイズや240サイズなど120mmファンを複数搭載できるマルチファンラジエーターの簡易水冷CPUクーラーを使用するのであれば、「Noctua NF-A12x25 PWM」への換装もおすすめです。
「Noctua NF-A12x25 PWM」は、超硬質かつ軽量な新素材「Sterrox LCP」の採用によってフレーム-ブレード間0.5mmの限界を実現させた次世代汎用120mm口径ファンとなっており、1基あたり3500円ほどと高価ですが、標準ファンよりも静音性と冷却性能を向上させることができます。
・Noctua NF-A12x25シリーズのレビュー記事一覧へ
ベンチ機のシステムストレージには「Samsung SSD 980 PRO 500GB」を使用しています。
Samsung SSD 980 PROは、PCIE4.0対応によって連続アクセススピードを最大で2倍に飛躍させただけでなく、ランダム性能の向上によってSSD実用性能においても前世代970 PROから大幅な向上を果たし、PCIE4.0アーリーアダプターなPhison PS5016-E16採用リファレンスSSDよりも高速なので、これからPCIE4.0対応プラットフォームの自作PCを組むなら、システム/データ用ストレージとして非常にオススメな製品です。
・「Samsung SSD 980 PRO 1TB」をレビュー。堂々の最速更新
CPUとCPUクーラー間の熱伝導グリスには当サイト推奨で管理人も愛用しているお馴染みのクマさんグリス(Thermal Grizzly Kryonaut)を塗りました。使い切りの小容量から何度も塗りなおせる大容量までバリエーションも豊富で、性能面でも熱伝導効率が高く、塗布しやすい柔らかいグリスなのでおすすめです。
グリスを塗る量はてきとうでOKです。管理人はヘラとかも使わず中央山盛りで対角線だけ若干伸ばして塗っています。特にThermal Grizzly Kryonautは柔らかいグリスでCPUクーラー固定時の圧着で伸びるので塗り方を気にする必要もありません。
サーマルグリスの代用品として、数年スパンの長期使用においても性能低下が基本的になく再利用も可能、グリスが零れてマザーボードが汚れたり壊れる心配もないので、炭素繊維サーマルシート「Thermal Grizzly Carbonaut」もオススメです。
・「Thermal Grizzly Carbonaut」はCore i9 9900Kを冷やせるか!?
以上で検証機材のセットアップが完了となります。
ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROのBIOSについて
ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROを使用した検証機の構築も完了したので動作検証とOC耐性のチェックの前にBIOSの紹介をします。(OSから日付調整する前にスクショを取っている場合、日付がおかしいですが無視してください。また内容的に差異のないものは過去の同社製マザーボードのBIOSスクリーンショットを流用しています。)
ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROのBIOSにアクセスすると「アドバンスドモード(Advanced Mode)」という従来通りの文字ベースのBIOSメニューが表示されます。
「Main」タブの「System language」-「English」と表記された項目のプルダウンメニューから言語設定が可能で日本語UIを選択できます。ASUSマザーボードは競合他社と比較してもBIOSメニューの日本語ローカライズの充実と正確さが魅力です。
ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROのBIOSにおいて設定の保存とBIOSからの退出はトップメニュータブ最右端の「終了」から行えます。その他の設定を行っていても左右カーソルキーですぐに退出可能です。
特定のブートデバイスを指定してBIOSから退出するBoot Override機能は「起動」タブメニューの最下段「起動デバイス選択」に配置されています。
BIOSのアップデート方法は、まず下から最新のBIOSファイルをダウンロード、解凍してUSBメモリのルートに解凍フォルダを置きます。
サポート:https://rog.asus.com/jp/motherboards/rog-crosshair/rog-crosshair-x670e-hero-model/helpdesk_bios/
USBメモリを挿入したままBIOSを起動し、アドバンスドモードの「ツール-ASUS EZ Flash 3 Utility」でストレージデバイスからのアップデートでBIOSファイルを選択します。あとはガイドに従ってクリックしていけばOKです。
ブートとOSインストール周りについて紹介します。とはいってもASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROのブート回りは下画像のように非常に簡潔にまとめられており初心者でも迷うことはないと思います。
OSのインストールも「Boot Option #1」に「UEFI:〇〇」というOSインストールメディアを設定して保存&退出でOKです。
「Boot Option #1」の下にスクロールしていくとブートデバイスを個別に指定して再起動できる「Boot override」もあるのでこちらから、同様に「UEFI:〇〇」というOSインストールメディアを選択してもOKです。
BIOSのアップデートやWindows OSのインストール方法を紹介したところで、ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROのBIOS機能で管理人が気になったものをいくつかチェックしていきます。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のマザーボード上でスタートスイッチと並んで実装されているスイッチは「Flexkey」と名付けられており、BIOS上から、「リセット」「AURA オン/オフ」、「DirectKey(起動してBIOSメニューを表示)」「セーフブート(起動して標準設定でBIOSメニューを表示)」など押下時の機能を切り替えることができます。
従来のASUS製マザーボードでは「モニタ(Monitor)」のタブページを開くと、温度・電圧モニタリングやファン制御設定が一気に列挙されていたのですが、「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」を含め最新のIntel 500シリーズマザーボードでは、温度モニター、ファン回転数モニター、電圧・電流モニター、Q-Fan設定の4つの小項目に分けられ、より扱いやすくなっています。
マザーボード上のコンポーネント詳細でも紹介した外部温度センサーについてはBIOS上からも温度をモニタリングできます。簡易水冷(AIO水冷)ポンプ専用の項目も用意されており、ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROであれば冷却機能周りは空冷・水冷ともにほぼ全てBIOS上でコントロール可能です。
モニタ - Q-Fan設定の順にアクセスするとファン制御設定ページが表示されます。
BIOS上のファンコントロール機能についてですが、CPUファン端子とCPU OPT端子はCPU温度依存のファンコントロールしかできませんが、その他のケースファン端子については、外部温度センサーなどの各種温度ソースからファンコントロールが可能です。
ファン制御モードはPWM速度調整とDC(電圧)速度調整の2種類が用意されていますが、DC速度調整の場合は制御プロファイルを手動にすると、下限温度以下で冷却ファンを停止させる所謂セミファンレス機能を実現する「ファンの停止許可」の設定が表示されます。
ASUSマザーボードにもグラフィカルUIによるファンコントールの設定機能「Q-Fan Control」があります。機能的には上で紹介したコンソールのファンコンと同じですが、グラフィカルUIでわかりやすく設定できるよという機能になっています。直感的にわかりますし直打ちが苦手な人にはありがたい機能だと思います。
ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROのOC設定について
ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROを使用した場合のオーバークロックの方法を紹介します。なおオーバークロックはメーカー保証外の行為であり製品の破損やデータの消失もすべて自己責任となります。オーバークロック検証時は最小構成(CPU、マザーボード、メモリ、システムストレージ、グラフィックボード)以外は基本的にすべて外し、可能ならOC検証用のシステムストレージを用意するなど細心の注意を払ってください。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のオーバークロック設定は「Extreme Tweaker」というトップメニューのタブページにCPUコアクロック、メモリ、電圧など各種設定項目が集約されています。
「Extreme Tweaker」ページをスクロールしていくとCPUコアクロック、メモリ、電圧などの各種設定項目が表示されるので設定しやすいUIです。設定値を直接入力する項目でデフォルトの「Auto」に戻す場合は「a」キーを入力すればOKです。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のオーバークロック設定項目の最初にある「Ai Overclock Tuner」ではプルダウンメニューから「Auto(自動)/Default」「Manual(手動)」「EXPO (D.O.C.P)」の3つの設定モードが選択できます。
Autoモードは基本的な設定項目に関する自動or手動設定が可能な一般ユーザー向けの設定モードとなっています。
ManualモードはBCLK等の詳細なOC設定項目が解放される上級者向けの設定モードです。
EXPO(D.O.C.P.)モードはManualモードベースですが、OCメモリに収録されたXMPプロファイルを適用できる設定モードになっています。
Ryzen CPUは、CPU温度や電力に関して安定動作可能な相関関係を記したテーブルがCPU内部に用意されており、それに則した形でPure PowerやPrecision Boost 2いったRyzen CPUの独自機能により動作クロックや電力がリアルタイム制御されています。
例えばRyzen 9 7950XではCPUクーラー冷却性能の影響で若干前後しますが、単コア負荷の場合は最大で5.7GHz以上、全コア負荷の場合はTDPの範囲内で変動しますが、PCゲームのような軽いワークロードであればコア毎に5.5GHz程度で動作し、3Dレンダリングや動画のエンコードなどCPUがフルパワーを発揮する重いワークロードでは冷却性能が十分ならベースクロックを上回る平均5.0~5.2GHz程度で動作します。
Ryzen/Threadripper CPUの動作クロックに関する予備知識については下の記事で概要を解説しているので参考にしてください。
PBOによる低電圧化や電力制限について
Precision Boost Overdrive 2によるクロックアップや低電圧化、PPT/EDC/TDCによる電力制限の解除といった近年のRyzen CPUのチューニングにオススメな設定について紹介します。「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」では単コアブーストクロックを維持したまま、電力制限を解除することで全コア最大動作倍率を引き上げることができる「Precision Boost Overdrive」もBIOSから設定が可能で、設定ページが「Extreme Tweaker」のわかりやすい場所に配置されています。
Precision Boost Overdriveを手動設定にすると、電力制限上限値を指定する「PPT Limit (W)」、最大動作クロックの制限値に影響する「TDC Limit / EDC Limit (A)」を設定できます。
その他にも、XFR2によるコアクロックの上昇幅を設定する「Max CPU Boost Clock Override」や、Precision Boost 2やXFR2によるクロックアップが効く温度閾値を引き上げる「Platform Thermal Throttle Limit」などのオプションも調整可能です。
さらに「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」ではASUS独自設定として、単コアや全コアではなく、中間コア数負荷時の性能を向上させる「Medium Load Boostit」という設定も用意されています。
「Max CPU Boost Clock Override」はXFR2による自動OCの上昇幅の設定です。PBOでシングルスレッド性能を向上させたい時に後述のCurve Optimizerと組み合わせます。
例えばRyzen 9 7950Xの単コア最大ブーストクロックの仕様値は5.70GHzですが、定格でもXFR2による100MHzのクロックアップが適用されており、Precision Boost Fmaxは5.80GHzです。(Ryzen MasterでCCX Max Speedとして確認できる)
Max CPU Boost Clock Overrideを有効にすると、標準の100MHzに加えて50MHz、さらに設定値分だけPrecision Boost Fmaxが上昇します。つまり100MHzに設定するとRyzen 9 7950XのPrecision Boost Fmaxは5.95GHzとなります。
電力制限や温度制限が支配的になるので、多スレッド負荷時は効果を実感しにくいのですが、多スレッドも含めて一律で上限が引き上げられるはずです。
Ryzen 7000シリーズCPUは上記の電力制限解除に加えて、V-Fカーブ調整機能 Curve Optimizerによる低電圧化が可能です。
Curve Optimizerでは全コア一律orコア別で電圧オフセット設定ができます。設定単位はmvではなくcountという独自単位(1count = 30~50mV程度とのこと)になっています。Positive(+)とNegative(-)で増減を、countは0~30の範囲内で指定できます。
全コア個別設定もできるので単コアブースト優先率や電圧特性に応じてオフセット値を変えることによって、上で紹介したMax CPU Boost Clock Overrideとの相乗効果で、マルチスレッド性能だけでなくシングルスレッド性能も向上させることが可能です。
ちなみにPrecision Boost Overdriveでクロックアップを行う場合、AMD CBS内の「Global C-State」は無効化しないでください。
特定の動作倍率で固定するマニュアルOCの場合はGlobal C-Stateを無効化した方が良いと言われますが、PBOの時は無効化すると単コア最大ブーストクロックが伸びず、シングルスレッド性能が下がってしまいます。
Ryzen 9 7950XなどRyzen 7000シリーズの上位モデルはPPT等の電力制限値も適用されているものの、実際の動作としてはCPUの臨界温度95度を上限として可能な限りCPUコアクロックを引き上げるような定格動作設定になっています。
高負荷時にCPU温度が95度に達するのが気になる人は、「Platform Thermal Throttle Limit」で定格95度の臨界温度を温度の整数値指定で変更できます。もしくはAMD CBS - SMU Common Option内の「Thermal Control」から。
単純に電力制限だけを変更したいということであれば、Precision Boost Overdriveの「AMD Eco Mode」から代表的な電力制限を選択できます。もしくはAMD CBS - SMU Common Option内の「Package Power Limit(PPT)」から。
Ryzen 9 7900XやRyzen 9 7950Xのような定格TDP170WのメニーコアCPUを95Wなど低い消費電力に制限して運用することができます。
CPUコアクロックのマニュアルOCについて
近年のCPUでは高い単コア最大ブーストクロックを維持できるV-Fカーブの低電圧化が常用チューニングでは主流ですが、ここからはベンチマークスコアを追求するOC競技等に最適なCPUコアクロックを定格動作倍率よりも高く設定するマニュアルOCについて説明します。「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のコアクロックのOC設定方法はベースクロック(BCLK):100MHzに対する倍率指定となっており、0.25倍単位でCPUコアクロックの倍率を設定できます。
「CPUクロック倍率(CPU Core Ratio): 40.00」と設定することでデフォルトのベースクロック100MHzの40倍で4.0GHzで動作します。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」でRyzen 9 7900XやRyzen 9 7950Xを使用している場合、全コア共通の動作倍率設定だけでなく、CCX単位(7900Xの場合は6コア1セット、7950Xの場合は8コア1セット)で個別に動作倍率を設定するPer CCXにも対応しています。
設定は少し面倒になりますが、CCX別にOC耐性には違いがあるので、共通のコア電圧に対して、OC耐性の良いCCXでは44倍に、OC耐性の悪いCCXは42倍に、のように細かく設定できます。Intel製CPUのBy Specific Core設定のようにコア電圧もCCX単位で調整できるとさらにOC設定の幅が広がるのですが、電圧については今のところ非対応です。
「Ai Overclock Tuner」から「Manual」モードもしくは「EXPO (D.O.C.P)」モードを選択するとベースクロック(BCLK)の設定項目が表示されます。
デフォルトのAutoでは100MHzに固定されていますが、設定値を直打ちすることで任意に設定が可能です。CPUコアクロックはBCLKに対する動作倍率で設定されるのでBCLK110MHz、動作倍率45倍の場合はコアクロック4.95GHz動作となります。ただしBCLKを使用したOCはかなり上級者向けなので通常はAutoか100MHzが推奨です。
BCLKの変更と合わせて「eCLK Mode」の変更に対応しているマザーボードの場合、同期モード(Synchronous)と非同期モード(Asynchronous)を選べます。
非同期モード(Asynchronous)ではPCIEコントローラー等、通常はBCLKに同期してしまうものが非同期になるので、CPUベースクロックだけを引き上げることでき、BCLKによるOC範囲が広がります。
続いてコア電圧の調整を行います。
AMD Ryzen CPUのオーバークロックで変更する電圧設定については、CPUコアクロックに影響する「CPUコア電圧」と、メモリクロックやRyzen APUに搭載される統合GPUの動作周波数に影響する「SOC電圧」の2種類のみと非常に簡単化されています。
CPUコアクロックの動作倍率を一律で指定するマニュアルOCを行う場合、ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROではCPUコア電圧(CPU Core Voltage / APU 電圧)の項目を変更します。
CPUコア電圧ではマニュアルの設定値を固定する「マニュアル」モード、CPUに設定された比例値にオフセットかける「オフセット」モードの2種類が使用できます。
ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROでCPUコアクロックのマニュアルOCを行うのであれば、分かりやすいので電圧値を固定するマニュアルモードを推奨します。マニュアルモードの場合は0.005V刻みでコア電圧の設定が可能です。
CPUコア電圧モードについて簡単に説明すると、マザーボードにより対応しているモードは異なりますが、コア電圧モードの概略図は次のようになっています。
負荷に依らず一定電圧をかけ続ける固定モードに対して、オフセットモードやアダプティブモードはCPU毎に異なるV-Fカーブを参照し、負荷に比例して電圧が変化します。
低負荷時は電圧が下がるので省電力に優れますが、マニュアルOCをする場合はマザーボードによって挙動に差があり安定する設定を見極めるのが難しいので、個人的にはオフセットやアダプティブは定格向け、OCには固定値適用の固定モードを推奨しています。
OCでオフセットやアダプティブを使う場合も最初はコアクロックに対して安定する電圧を見極める必要があるので、まずは固定モードを使用します。
またCPUのOCに関連する追加の電力設定としてASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROでは、コアクロックと電圧の設定項目の中間あたりに「Digi+ VRM」が配置されています。
Digi+ VRMの中にはコアクロックを高く設定する時に追加で変更するといい項目として「ロードラインキャリブレーション」があります。
ロードラインキャリブレーションはCPU負荷時の電圧降下を補正してOCを安定させる機能となっており、補正の強度としてLevel 〇で何段階か用意されています。Levelの添え字の数字が大きくなるほど電圧降下の補正は強くなり、OCは安定しやすくなりますが発熱も大きくなります。真ん中あたりから始めて安定する設定値を模索していくのがおすすめです。
Digi+ VRMではその他にも「CPU Current Capability」「CPU VRM スペクトラム拡散」「VDDR CPU VRM 動作モード」「VDDR CPU VRM 可動フェーズ設定」などCPUのオーバークロック時にマザーボードVRMからの電力供給を安定させる設定項目が用意されています。
メモリのオーバークロックについて
メモリのオーバークロックについても簡単に紹介しておきます。メモリの性能について簡単に言うと「動作クロックが高く」「タイミングが小さい」ほど性能は高くなります。
そのためメモリOCを手動で行う手順を簡単にすると「電圧を上げて動作可能なクロックを探し」、「そのクロックにおいて正常に動作する最小のタイミングを探る」という2つの手順を繰り返すことになります。
なお、 メモリOCではPOSTすらクリアできずBIOSに到達できないことも少なくありません。メモリ設定を初期化できるようにCMOSクリアの手順を事前に確認しておいてください。
Intel XMPやAMD EXPOのOCプロファイルによるメモリOCは上の手順によるOC選別をメーカー側がすでに行い動作確認をしているので、メーカーが動作確認を行ったOCプロファイルを適用するだけで簡単にメモリをオーバークロックできます。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」はAMD環境に最適化されたEXPO対応メモリだけでなく、Intel XMP対応メモリのどちらでもOCプロファイルによるメモリOCが可能です。
メモリOCで有名なXMPプロファイルはIntelの策定した規格なのでAMD製CPU&マザーボード環境では厳密にいうと非対応ですが、ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROなどASUSマザーボードでは、メモリに収録されたXMPプロファイルからRyzen環境でも使用可能なメモリOCプロファイルを自動生成する機能 D.O.C.Pがあります。
「Ai Overclock Tuner」から「EXPO (D.O.C.P)」モードを選択することで、自動生成されたOCプロファイルによるメモリOC設定の適用が可能です。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」などASUS製AMD 600マザーボードではメモリOCプロファイルの適用に”EXPO (D.O.C.P) 1”と”EXPO (D.O.C.P) 2”の2つのモードがあります。
EXPO 1では30-38-38-90のような主要タイミングのみが適用され(その他は全てマザーボードによる自動設定を適用)、EXPO 2ではその他のサブタイミングもOCプロファイルの通りに適用されます。
AMD製CPUとAMD EXPO対応メモリ、Intel製CPUとIntel XMP対応メモリのような組み合わせであればサブタイミングまで適用される”EXPO/XMP 2”で問題ありませんが、異なる組み合わせの場合は”D.O.C.P 1”が安定しやすいようです。
メモリ周波数は「DRAM周波数(DRAM Frequency)」という項目のプルダウンメニューから動作クロック(倍率)を任意に設定可能です。メモリ周波数もBCLKに対する倍率で動作周波数が決まります。
EXPO/XMPを使用せず、「DRAM Frequency」の設定値が自動(Auto)になっている場合は、使用するメモリにSPD情報として収録されている動作クロック4800MHz、5200MHzなどのメモリ周波数およびタイミングによる定格動作となります。
メモリタイミングの個別打ち込み設定も可能です。
メモリタイミングを手動で設定する場合、基本的にはOCメモリ製品のスペックとして公表されることの多い、「CAS Latency (tCL)」、「RAS to CAS (tRCD)」、「RAS Precharge (tRP)」、「RAS Active Time (tRAS)」、「Active to Active Command Time (tRC)」の主要な5タイミングと、加えて「Command Rate:1 or 2」の6つ以外はAutoのままでいいと思います。
あとOCプロファイル適用後、メモリストレステストが数分から10分弱でエラーが出てしまう時は、「Write Recovery Time (tWR)」を2~6程度盛ると安定するかもしれません。
DDR5メモリの周波数OCを行う際はメモリ電圧を、メモリ周波数6000MHz以上の場合は1.300V~1.350V程度に上げる必要があります。
厳密に言うと、Ryzen 7000環境におけるメモリ電圧はDRAM VDD Voltage、DRAM VDDQ Voltage、CPU VDDIO/MC Voltageの3種類に分けられるのですが、簡略化して同じ設定値でOKです。
メモリ周波数をOCするとメモリコントローラーやInfinity Fabricの動作周波数も変化するので、DRAM電圧だけでなく「CPU SOC電圧(CPU NB/SOC Voltage)」も昇圧します。
メモリ周波数が6000MHz程度(UCLK 3000MHzとFCLK 2000MHz)であれば、CPU SOC電圧の目安は1.100V程度です。Auto設定だと1.300~1.350Vくらいに昇圧されることがあるので注意。
あとVDDG CCD/IOD Voltageは自動設定のままで試してみて安定しないようであれば、1.000~1.200Vの範囲内を0.050V刻みで試してみてください。
Ryzen 7000シリーズCPUではメモリコントローラー周波数(UCLK)とメモリ周波数の同期として1:1対応と1:2対応の2つの動作モードがあります。CPU個体差(メモコンのOC耐性)にも依りますが、メモリ周波数6000MHzまでなら1:1同期で問題ないはずです。
BIOS:0805ではUCLKの同期設定である「UCLK DIV1 MODE」がExtreme Tweakerのトップページにはなく、メモリタイミング設定の一番下の方に配置されています。よく使う設定なのでトップに表示して欲しいところ。
Ryzen 5000シリーズCPU以前では性能を重視するなら、メモリ周波数とメモコン周波数、そしてInfinity Fabric周波数の3つを1:1:1で同期させるのが最も遅延が小さくので推奨されていました。(もしくは遅延が増えるのを許容して高メモリ周波数重視で、UCLKを1:2同期に下げ、FCLKは非同期モードに)
DDR5メモリに対応するRyzen 7000シリーズCPUではInfinity Fabric周波数(FCLK)をメモリ周波数と1:1同期させるのは難しいので、FCLKはAuto設定の非同期モードとし、メモリ周波数6000MHzでUCLKを1:1同期にするのが性能のスイートスポットとして推奨されています。
Ryzen 7000シリーズCPUのInfinity Fabric周波数(FCLK)はメモリ周波数とは無関係に設定することになります。
CPU個体差(IF周波数のOC耐性)にも依りますが、一般的に2000MHz程度なら安定動作するようです。メモリ周波数6000MHzでメモリOCを行った時にAuto設定になっていると2000MHzが適用されます。
CPUのIF周波数OC耐性に応じて2200MHzなどにOCすること性能向上を狙えます。上で紹介した通り、FCLK周波数に関連する電圧はCPU SOC電圧です。
ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROの動作検証・OC耐性
BIOS周りの管理人的に気になるところやOC設定の基本についての紹介はこのあたりにして「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」を使用した検証機で具体的に動作検証とOC耐性をチェックしていきます。「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」を使用した場合のCPUおよびメモリのオーバークロック耐性をチェックしてみました。
なおオーバークロックはメーカー保証外の行為であり製品の破損やデータの消失もすべて自己責任となります。オーバークロック検証時は最小構成(CPU、マザーボード、メモリ、システムストレージ、グラフィックボード)以外は基本的にすべて外し、可能ならOC検証用のシステムストレージを用意するなど細心の注意を払ってください。
近年のRyzen CPUは非常に高い単コアブーストクロックが適用されていますが、Precision Boost Overdrive 2を使用すれば、シングルスレッド性能を損なうことなく、マルチスレッド性能を向上させられます。
PBOによって定格の電力制限を解除することで、CPUクーラーの冷却性能が許す限り(CPU温度が閾値を超えない限り)、Precision Boost2/XFR2で参照されるテーブルの限界近くまでクロックアップさせることが可能です。
ただし、Ryzen 9 7950Xはアウトボックス時点で性能を限界近くまで追求したチューニングが施されており、360サイズAIO水冷CPUクーラーを組み合わせても、CPU温度がボトルネックになり、CPU消費電力が200~230W程度に収束してしまいます。
従来のRyzen CPU同様に、PBOで電力制限を解除、360サイズAIO水冷CPUクーラーのような高性能なCPUクーラーの冷却性能にまかせて自動OC機能によるクロックアップを狙うというのがベースになりますが、Ryzen 9 7950XなどRyzen 7000シリーズCPUの上位モデルで性能を追求するには、限られた消費電力の中でコアクロックを上昇させる必要があるので、さらにCurve OptimizerによってV-Fカーブの低電圧化を行います。
まずは「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」に16コア32スレッドCPUのRyzen 9 7950Xを組み合わせて長時間負荷をかけ続けた時に、VRM電源周辺温度はどれくらいなのか、サーモグラフィーカメラ搭載スマートフォン CAT S62 PROを使用してチェックします。
CPUを定格で運用もしくはOC設定を適用した際のCPU温度やVRM電源温度を検証するストレステストについては、下記の動画エンコードを使用しています。
FF14ベンチマークの動画(再生時間7分、4K解像度、60FPS、容量5.7GB)をソースとしてHandBrake(x264)を使ってエンコードを行います。Ryzen 9 7950Xは16コア32スレッドのCPUなので、同じ動画のエンコードを4つ並列して実行し、30分程度負荷をかけ続けます。ストレステスト中のファン回転数は一定値に固定しています。
なおAMD Ryzen 7000シリーズCPUの場合、動画エンコードに比べてCinebench R23 30分ストレステストの方が負荷が大きく、CPU消費電力には10~15W程度の差が生じます。
注:CPUのストレステストについてはOCCTなど専用負荷ソフトを使用する検証が多いですが、当サイトではPCゲームや動画のエンコードなど一般的なユースで安定動作すればOKとういう観点から管理人の経験的に上の検証方法をストレステストとして採用しています。
まずは単純に上記の「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」の標準設定のままRyzen 9 7950Xを動作させてみました。
メモリOC設定については検証機材メモリ「G.Skill Trident Z5 Neo F5-6000J3038F16GX2-TZ5N」に収録されたOCプロファイルを適用し、メモリ周波数6000MHz、メモリタイミング30-38-38-96、メモリ電圧1.350Vです。メモリコントローラー周波数UCLKは1:1同期、Infinity Fabric周波数FCLKは2000MHzです。
上記の動作設定においてストレステスト中のCPU温度やCPU使用率のログは次のようになりました。CPUクーラーにはCorsair H150i PRO RGBを使用し、冷却ファンNoctua NF-A12x25 PWのファン回転数は1500RPMで固定しています。
Ryzen 9 7950XはCPUにフル負荷がかかるシーンだと閾値温度95度もしくはPPT:230Wを上限として動作しますが、360サイズAIO水冷CPUクーラーを組み合わせても基本的にCPU温度がボトルネックとなります。
ともあれ、「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のVRM電源温度などマザーボード原因でスロットリングが発生することはなく、Ryzen 9 7950Xを全コア5.0~5.2GHz程度の実動値で安定して動作させることができました。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」の標準設定(そのまま定格)でRyzen 9 7950Xに負荷をかけるとCPU消費電力は200W超に達しますが、VRM電源周りの温度をサーモグラフィーで確認したところ、60度台半ばに収まっていました。
Ryzen 9 7950XはCPU温度が先にボトルネックになって、市販のCPUクーラーでは200~210W程度の消費電力に収束するので、「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」ならAIO水冷クーラーとの組み合わせでVRM電源周りがパッシブ空冷でも全く問題ありません。
続いて、「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のVRM電源温度の検証としてはおそらく差は出ませんが、Ryzen 9 7950Xで実用的に性能を追求するチューニングとして、Curve Optimizerによる低電圧化を紹介します。
Ryzen 9 7950Xの設定については、Precision Boost Overdriveを有効化して「PPT = 250W、TDC = 200A、EDC = 255A」、「Max CPU Boost Clock Overdrive:100Hz」としています。
メモリOC設定については検証機材メモリ「G.Skill Trident Z5 Neo F5-6000J3038F16GX2-TZ5N」に収録されたOCプロファイルを適用し、メモリ周波数6000MHz、メモリタイミング30-38-38-96、メモリ電圧1.350Vです。メモリコントローラー周波数UCLKは1:1同期、Infinity Fabric周波数FCLKは2000MHzです。
またCurve OptimizerはPer Core設定でCCD1の上位2コアを「-5Count」、CCD1の残りは「-15Count」、CCD2は全て「-20Count」としました。
7950XをCurve Optimizerで低電圧化する場合は上の設定をベースに詰めていくのがオススメです。電圧特性の良いCoreはCPU個体毎に異なりますが、Ryzen Masterの星マークや丸マークから確認が可能です。
Max CPU Boost Clock Overdriveで最大動作クロック(主に単コア最大ブーストクロックに影響)を引き上げているので、7950Xの場合はCCD1のベスト1/2コアのマイナスカウントを控えめにしてください。
Ryzen 9 7950XにPrecision Boost Overdrive/Curve OptimizerによるV-Fカーブの低電圧化を施すと、Cinebench R23の定格のマルチスレッドスコア 38300程度から39300程度へマルチスレッド性能が伸びました。
またマニュアルOCとは違って単コア最大ブーストクロックもちゃんと機能しています。
Max CPU Boost Clock Overdriveで最大動作クロックが5.95GHzへ引き上げられており、さらに低電圧化によってブーストの伸びが改善されるので、シングルスレッド性能も定格のシングルスレッドスコア 2050程度から2070程度へ伸びています。
上記設定を適用した場合、ストレステスト中の各種モニタリングログが次のようになっています。
Ryzen 9 7950XをPBO&Curve Optimizerで低電圧化していますが、余力が生まれた分だけクロックアップして全コア5.2~5.3GHz動作となっており、やはりCPU温度がボトルネックで、CPU消費電力は200~210W程度に収束します。
Ryzen 9 7950Xを常用限界近い全コア5.2~5.3GHzにクロックアップさせ、30分以上負荷をかけ続けましたが、簡易水冷CPUクーラーによるCPU冷却でVRM電源周りに直接風の当たらないパッシブ冷却の状態で、VRM電源温度は70度未満に収まっています。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」であればRyzen 9 7950X/7900XのPBOによるクロックアップで200W超のCPU消費電力が発生し、VRM電源に長時間負荷がかかり続けても、VRM電源周りはパッシブ空冷のまま余裕で運用できます。
最後に「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のメモリOC性能についてもチェックしておきます。
ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO(BIOS:0805)のメモリOC検証では検証機材として16GB×2枚組み32GB容量のDDR5メモリキット「G.Skill Trident Z5 Neo(型番:F5-6000J3038F16GX2-TZ5N)」を使用しています。
AMD EXPO Technologyに対応しており、メモリ周波数6000MHz、メモリタイミングCL30というAMD Ryzen 7000シリーズCPUでは高性能を追求する上でスイートスポットとされるスペックです。
同メモリに収録されたOCプロファイルによって、メモリ周波数6000MHz、メモリタイミング30-38-38-96というRyzen 7000対応の初期DDR5メモリでは定番の高性能OC設定が安定動作しました。メモリコントローラー周波数UCLKは1:1同期、Infinity Fabric周波数FCLKは2000MHzです。
加えてIntel XMP対応メモリ「Kingston FURY Renegade DDR5 RGB(型番:KF564C32RSAK2-32)」に収録されたOCプロファイルで、メモリ周波数6000MHz、メモリタイミング32-38-38-80のメモリOCも試してみました。主要タイミング以外は自動設定になる”D.O.C.P. 1”を選び、サブタイミングのうちtRAS:118、tWR:96に手動設定することで、元のOCプロファイルに動作を近づけています。
OS起動までは問題なく、システムの動作もある程度安定しているものの(負荷がかかってもいきなりBSODにはならない)、メモリストレステストを実行するとエラーが発生しました。
エラーの発生までは1~2時間程度持つこともあれば、数分でエラーになったり、また同じメモリキットが2キットあるのですが、もう1つのメモリキットは相性が悪いのか数秒でエラーが検出されます。(いずれもIntel環境で安定動作を確認済みのメモリキットです)
上記のIntel XMP対応メモリについては、OCプロファイルをベースにして、tRAS、tWRなど代表的なサブタイミング、SOC電圧やVDDG CCD/IODの調整も試してみましたが、やはりメモリストレステストをクリアすることができませんでした。
AMD EXPO対応メモリなら6000MHz/CL30がOCプロファイルの適用だけで安定動作しているので、ハードウェアレベルでのメモリOC性能は十分高いと思うのですが、他社マザーボードでは上記と同じIntel XMP対応メモリでもOCプロファイルを適用するだけで安定したので、「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」について今回検証に使用したBIOS:0805はその辺りに最適化不足を感じます。
ASUS ROG CROSSHAIR X670E HEROのレビューまとめ
最後に「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」を検証してみた結果のまとめを行います。簡単に箇条書きで以下、管理人のレビュー後の所感となります。良いところ
- ROG CROSSHAIRシリーズらしいブラック一色のクールなデザイン
- 主要4社では唯一、ATXサイズのハイエンド製品
- 110A対応Dr. MOSで構成された超堅牢な20フェーズVRM電源
- Ryzen 9 7950Xの全コア5.2~5.3GHzクロックアップで安定動作
- 200W超の負荷に対してパッシブ空冷のままVRM電源温度は70度未満
- 16GB×2枚組みでメモリ周波数6000MHz/CL30が安定動作
- 外部センサー搭載で水温ソースのファンコンも可能なので水冷PCにも最適
- 重量級グラボにも耐えるメタルアーマー採用PCIEスロット SAFESLOT
- PCIEスロット固定ラッチの解除を簡単にする新機能「PCIe Slot Q-Release」
- NVMe接続M.2スロットをマザーボード上に4基設置、うち2基はPCIE5.0対応
- 全てのM.2スロットに大型SSDヒートシンクを装備
- PCIE5.0対応M.2スロット増設拡張ボード ROG PCIE5.0 M.2 CARDが付属
- USB4対応Type-C端子×2をリアI/Oに標準搭載(iGPU経由でビデオ出力も可能)
- Intel製2.5Gbイーサ(Intel I225-V)をリアI/Oに標準搭載
- WiFi 6E&Bluetooth5.2対応無線LAN(Intel AX210)を標準搭載
- スタート・リセットスイッチなど動作検証に便利なオンボードスイッチ
- 製品価格が10万円ほどと高価
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」は、主要メーカーの他3社がハイエンドモデルにE-ATXサイズを採用する中、ATXサイズのままでX670Eマザーボードとしてできることを限界まで詰め込んだ隙の無い構成です。
最大16コアのRyzen 9にも対応できる110A対応Dr. MOSで構成された20フェーズVRM電源回路を搭載することに始まり、リアIOに覆い被さる超巨大VRM電源クーラー、PCIE5.0対応を含む4基のNVMe SSD用M.2スロット、2基のUSB4対応USB Type-Cポート、高速な2.5GbイーサやWiFi 6E対応無線LANなど次世代高速NIC、ALC4802&ESS製DACによるハイレゾ対応オンボードサウンドなど、ゲーマーからOCerまで満足すること間違いなしなハイエンドモデルに仕上がっています。
ASUS製マザーボードではお馴染みですがBIOSやマニュアルの日本語ローカライズ品質は主要4社の中でも随一となっており、BIOSのテキストベースUIの使い勝手も良好です。
ゲーマー&OCer向けROGシリーズと言うと高価で上級者向け製品のイメージが強いかもしれませんが、「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」は初心者にも優しいマザーボードだと思います。
「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」を使用した検証機では16コア32スレッドRyzen 9 7950XをPrecision Boost Overdrive 2のCurve Optimizerによって全コア5.2~5.3GHzにクロックアップし、メモリも6000MHz/CL30にオーバークロックして安定動作させることができました。
マザーボードのOC耐性を評価する上で重要なファクターになるVRM電源について、「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」は非常に優秀な性能を発揮しました。「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」であれば市販のAIO水冷クーラーやDIY水冷など環境を選ばず、VRM電源周りは標準装備のままでRyzen 9 7950Xも運用できます。
Ryzen 9 7950Xはアウトボックス時点で性能を限界近くまで追求したチューニングが施されており、標準でEPS電源経由のCPU消費電力が200Wを超えますが、その強烈なVRM電源負荷に対しても、110A対応Dr. MOSなどで構成される20(18+2)フェーズの超堅牢なVRM電源回路が適切に熱を分散します。
リアIOに覆い被さる超大型VRM電源ヒートシンク、CPUソケット上左のアルミニウム塊型ヒートシンクを連結するヒートパイプなどVRM電源クーラーの設計にこそ工夫が見られますが、あくまでパッシブ型という構造のまま、スポットクーラーの増設を必要とせずに、200W超の負荷に対してVRM電源温度を70度未満に収めることができました。
メモリOCについては、「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」がサポートするDDR5メモリが登場したばかりということもあって評価が難しいのですが、検証機材に使用しているG.Skill Trident Z5 Neo(型番:F5-6000J3038F16GX2-TZ5N)のOCプロファイルによって、Ryzen 7000環境の性能重視な定番設定と言えるメモリ周波数6000MHz/メモリタイミングCL30が安定動作しました。
一方で他のAM5マザーボードで動作したIntel XMP対応DDR5メモリを使用するとメモリ周波数6000MHz/メモリタイミングCL32のOCプロファイルを安定させることができませんでした。
AMD EXPOに対応した上記メモリなら6000MHz/CL30に対応しているのでメモリOC回りで不足を感じることはないと思いますが、一部のIntel XMP対応DDR5メモリについては最適化不足も感じるので、「ASUS ROG CROSSHAIR X670E EXTREME」でメモリOCを行うならAMD EXPO対応メモリが推奨です。
以上、「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のレビューでした。
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110A対応Dr. MOSで構成される20フェーズの超堅牢VRM電源や2基のUSB4対応Type-Cポートを搭載するゲーマー&OCer向けモデル「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」をレビューhttps://t.co/Asn4vfnsqO pic.twitter.com/Uuvwo3mIEC
— 自作とゲームと趣味の日々 (@jisakuhibi) February 22, 2023
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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
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「ASUS ROG CROSSHAIR X670E HERO」のBIOS標準設定でCore i9 12900Kを動作させると、PL1:241W制限が無効化されます。BIOSから手動設定を行えばIntel公式仕様値通りに動作させることが可能です
ただし、Intel第12世代CPUのK付きモデルはPL1=PL2=Max Turbo Powerなので、Core i9 12900KやCore i7 12700Kを使用する場合、どちらにせよ発熱は大きく、組み合わせるCPUクーラーは240サイズ以上の簡易水冷CPUクーラーが推奨されます。