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GeForce RTX 3080グラフィックボードとしてMSIからリリースされた、3スロット占有3連ファンGPUクーラーTRI-FROZR 2を搭載し、ファクトリーOCが施されたオリジナルファンモデル「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」をレビューしていきます。
NVIDIA Ampere世代のハイエンドモデルGeForce RTX 3080が、前世代同クラスのRTX 2080 SUPERや最上位モデルRTX 2080 Tiをどの程度上回るのか、実ゲームベンチマークでグラフィック性能を徹底比較します。
製品公式ページ:https://jp.msi.com/Graphics-card/GeForce-RTX-3080-GAMING-X-TRIO-10G
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G レビュー目次
1.MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gの外観
2.MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gの分解
3.MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gの検証機材
4.MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gのゲーム性能
・レイトレーシング&DLSSの性能を検証
5.MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gの温度・消費電力・ファンノイズ
6.MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gのレビューまとめ
【機材協力:MSI】
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gの外観
早速、「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を開封していきます。外パッケージの中には黒色段ボールの内パッケージが入っており、マニュアル類の入った紙製ケースとスポンジ蓋を外すと、スポンジスペーサー&静電防止エアパッキン袋という一般的な梱包でグラフィックボード本体が鎮座していました。
マニュアルや保証書等以外の付属品はGPUホルダーです。
下の写真は旧モデルですが、付属GPUホルダーはこんな感じで使用します。
梱包や付属品のチェックは簡単に済ませて、「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」のグラフィックボード本体を見ていきます。
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」のGPUクーラーの外装はプラスチック製ですが、ブラック&ガンメタルカラーのフレームにはスチールのようなマットな塗装が施されており安っぽさは感じない外観です。
MSIのGamingシリーズと言えばブランドロゴにもなっているドラゴンを模した造形が1つの特長でしたが、代を重ねるごとにその要素は薄くなり、RTX30世代では流行に合わせ、かなりシンプルな作りになっています。
グラフィックボード側面のグレーカラーのプレートにはMSIテキストロゴとMSIゲーミングブランドを象徴するドラゴンマークがあり、加えて、中央ファンの2時と7時の方向にあるスリットおよびバックプレート側面のホワイトラインには、アドレッサブルLEDイルミネーションが内蔵されています。専用アプリケーション「MSI Mystic Light Sync」を使用すれば、同社製マザーボードなど対応機器と同期させてライティング制御が可能です。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gは全長323mmとなっています。近年主流なオープンスペースタイプのPCケースなら干渉の心配はありませんが、PCケースフロントにストレージベイがある少し古めのPCケースではグラフィックボード設置スペースのクリアランスに注意が必要です。
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」は基板とGPUクーラーがPCIブラケットから35mmほどはみ出しているのでPCケースとの干渉は十分に注意してください。PCケースとの干渉ではグラフィックボードの背の高さは長さに比べて見落としやすいポイントです。
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」の3連ファンGPUクーラーはTRI-FROZR 2と名付けられており、95mm径の冷却ファンが計3基設置されています。『左と中央』および『右』は2系統で個別に制御が可能です。
TRI-FROZR 2の冷却ファンには4世代目となりさらに改良された新型ファン「TORX FAN 4.0」が採用されています。TORX FAN 4.0では2枚のファンブレードを円弧を描く外周リングで一体化することで、スリムで振動しやすいファンブレードを安定させ、静圧を向上、ブレによるノイズの低減を実現しています。また軸受けには高耐久性なダブルボールベアリングが採用されています。
TORX 4.0 FANは外周リングによって補強されたファンブレードによって、前世代TORX FAN 3.0と比較して20%高い静圧を実現しており、TGP300Wクラスに対応すべくさらに高密度になったGPUクーラーヒートシンク放熱フィンへ十分なエアフローを供給できます。
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」は冷却性能を上げるため、大型放熱フィンを採用したヒートシンクが搭載されており、PCIEスロットを3スロット占有します。
RTX30シリーズの上位モデルではTGPが300W超へと大幅に引き上げられたのでVRM電源部分の発熱問題が再燃しそうですが、「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」は、GPUコア左右に実装されたVRM電源回路とVRAMチップの全てを、GPUコアと同様にGPUクーラーヒートシンク本体で冷やすという、理想的な構造が採用されています。またバックプレートもVRM電源回路とVRAMチップの放熱板としての役割を果たします。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gはリファレンスの動作クロックよりも高い数値で動作するメーカーによるファクトリーOCが施されたOCモデルなのでPCIE補助電源もリファレンスよりも多い8PIN*3となっています。PCIE補助電源を3端子要求するモデルは珍しいので、電源ユニットから接続可能な端子の数に注意が必要です。
補助電源部分のPCB基板は切り込みで引っ込んでいるので補助電源ケーブルを装着しても補助電源端コネクタやケーブルとPCケースの干渉が発生し難い構造になっています。ただ切込みの深さは10mmほどで補助電源コネクタはカバーできていますが、ケーブルがはみ出すのでPCケースサイドパネルの干渉回避を考えると、もう10mmほど切込みは深めの方がよかったと思います。
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」のPCIE端子、各種ビデオ出力には黒色の保護カバーが装着されています。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gのビデオ出力はリファレンス仕様と同じくHDMI2.1×1、DisplayPort1.4×3の4基が実装されています。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10GにはGeForce RTXロゴとドラゴンマークのブランドロゴが白色で刻印されたマットブラックのバックプレートを搭載しています。基板の反りや破損を防止する保護プレートとしての役割に加えて、GPUコアおよびVRAMとの間にはサーマルパッドが貼られているので冷却補助の役割を果たします。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gのバックプレート素材にはグラフェンが採用され、非伝導性かつ優れた放熱性を実現しているところも特徴です。
GeForce RTX 30シリーズではNVIDIA公式のFounders Editionも採用しているように、GPUクーラーからバックプレートに突き抜けるフロースルー構造を採用する製品が多いですが、「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」は意外にも同構造を採用せず、従来の構造を踏襲しています。
一方で大型化(大重量化)していくGPUクーラーに対して、GPUコアと適切な圧力でクーラーベースコアが密接しないというケースも増えつつあるようで、NVIDIA製品でも一部メーカーで取り入れられつつある、リテンションバックプレートが「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」には採用されています。
なおグラフィックボードの重量はMSI GeForce RTX 2080 SUPER GAMING X TRIOが1517g、MSI GeForce RTX 2080 Ti GAMING X TRIOが1571gに対して、MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gは1560gでした。ハイエンドグラフィックボードの大型オリファンモデルだけあってかなりの重量です。
バックプレート等で基板の反りは防止されているものの、グラフィックボードの重量は1kgを超過しているのでPCIEスロットへの負荷が心配ですが、「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」には標準で専用GPUホルダーが付属するので、PCIEスロットへの負荷や垂れ下がりの点でも安心です。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gの分解
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を分解してGPUクーラーやグラフィックボード基板についてチェックしていきます。なお今回はレビュー用サンプル提供先の協力のもと特別に許可を頂いて分解を行っております。GPUクーラーの取り外し(分解行為)はグラフィックボードの正規保証の対象外になる行為です。今回はレビューのために分解しておりますが、繰り返しますが保証対象外になるので基本的には非推奨の行為なのでご注意下さい。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10GのGPUクーラーは基板裏面のコア周辺4カ所と、バックプレート上の青丸7か所の計11個のネジによって厳重に固定されていました。3スロットを占有する大型GPUクーラーでも安心な固定状態です。
青丸と緑丸のネジを全て外すと、バックプレートを取り外すことができます。バックプレートにはVRAMチップとVRM電源の背面に接するようサーマルパッドが貼られており放熱板としての役割も果たしています。
さらにGPUコア周辺の赤丸のネジ4つを外すと、グラフィックボード基板からGPUクーラー本体を取り外すことができます。
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」のグラフィックボード基板右上には、PCIEブラケットの補強のためのフレームが装着されています。右側VRM電源のキャパシタとサーマルパッドで接しており、簡易の放熱板としての役割も果たします。
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」にはMSI独自設計のオリジナル基板が採用されています。
GeForce RTX 3080のGPUコアにはGA102-200-KD-A1が使用されていました。GDDR6Xメモリは今のところ1社しか量産していないのでMicron製。今回入手した「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」にはMicron製の8GbのGDDR6Xメモリチップが10枚搭載されています。
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」のVRM電源回路はGPUコア&VRAMを挟むようにして右側に6フェーズ、左側に10フェーズで計16フェーズが実装されています。16フェーズのうちGPUコアが13フェーズ、VRAMメモリが3フェーズです。
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」のGPUクーラー本体をチェックすると、GPUコアと接する部分はヒートパイプダイレクトタッチ構造が採用され、ベースコアからは7本の銅製ヒートパイプが伸び、アルミニウム製放熱フィンが3スロットスペース内いっぱいに展開されています。
従来、MSI GAMING XシリーズではGPUコアと接する部分には冷却性能の高さで定評のあるニッケルメッキ処理済み銅製ベースプレートが採用されていましたが、「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」ではヒートパイプダイレクトタッチ構造が採用されています。
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」に採用されているヒートパイプダイレクトタッチ構造は一般のそれとは異なり、ヒートパイプのコアを成す部分が四角形に成型されヒートパイプ同士が密接しています。この構造はTRI FROZR 2の高い冷却性能を支える中心的な設計で「Core Pipe」と呼ばれています。
GPUコアと接するベースコアから伸びた7本のヒートパイプによって3スロットを占有する大型放熱フィン全体へ熱を拡散します。
VRAMチップやVRM電源MOS FETなどGPUコアに次いで発熱の大きい各素子は、GPUクーラー放熱フィンにろう付けされたアルミニウム製プレートにサーマルパッドを介して接しており、ヒートシンク本体で直接冷却するという理想的な構造です。
ベースプレートから伸びる7本の銅製ヒートパイプによって3スロットを占有する大型GPUクーラー内部いっぱいに展開された極厚なアルミ製放熱フィンの迫力も圧巻です。
放熱フィンの設計も工夫されており、放熱表面積を拡大し、なおかつ冷却を要する場所へ的確にエアフローを送るデフレクタ構造(deflector、整流装置)、気流を分割して風切り音を低減しノイズを抑える波状に湾曲したフィン構造Wave-curved 2.0などが採用されています。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gの検証機材・GPU概要
外観やハードのチェックはこのあたりにして早速、「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を検証用の機材に組み込みました。テストベンチ機の構成は次のようになっています。テストベンチ機の構成 | ||
ベンチ機1(温度・消費電力) |
ベンチ機2(ゲーム性能) |
|
OS | Windows10 Home 64bit (1909) |
|
CPU |
Intel Core i9 9900K (レビュー) Core/Cache:5.1/4.7GHz |
Intel Core i9 10900K (レビュー) Core/Cache:5.2/4.7GHz |
M/B | ASUS WS Z390 PRO (レビュー) |
ASUS ROG MAXIMUS XII EXTREME (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill Trident Z Black F4-4400C19D-16GTZKK DDR4 8GB*2=16GB (レビュー) 4000MHz, 17-17-17-37-CR2 |
G.Skill Ripjaws V F4-4000C15Q-32GVK DDR4 8GB*4=32GB (レビュー) 4000MHz, 15-16-16-36-CR2 |
システム ストレージ |
Samsung 860 EVO M.2 1TB (レビュー) |
Samsung 860 PRO 256GB (レビュー) |
データ ストレージ |
Samsung 860 QVO 4TB (レビュー) | |
CPUクーラー |
Fractal Design Celsius S36(レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM (レビュー) |
|
電源 ユニット |
Corsair HX1200i (レビュー) |
|
PCケース/ ベンチ板 |
STREACOM BC1 (レビュー) |
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」のGPUクーラー側面、バックプレートと基板の隙間ラインと、MSIロゴ部分にはアドレッサブルLEDイルミネーションが内蔵されています。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10GのGPU概要
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gに搭載されているGPU「GeForce RTX 3080」のスペックについて簡単に確認しておきます。「GeForce RTX 3080」はGA102-200コアが使用されておりCUDAコア数は8704、GPUコアクロックはベース1440MHz、ブースト1710MHzです。VRAMには従来よりも高速な19.0GbpsのGDDR6Xメモリを10GB容量搭載しています。典型的なグラフィックボード消費電力を示すTGPは320Wに設定されており、PCIE補助電源として8PIN×2以上を要求します。
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」については、リファレンス仕様のブーストクロック1710MHzに対して、ブーストクロック1815MHzにファクトリーOCが施されています。パワーリミット(TGP)もリファレンス仕様の320Wを上回る340Wへ引き上げられており、電力制限は+3%で最大350Wまで解除が可能です。
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」にはハードウェア的なBIOS切り替えスイッチは実装されていませんが、Windows上で簡単にBIOSの切り替えが可能な実行ファイルがサポートページで配布されています。
購入時の標準状態であり、静音性重視の「Low Noise BIOS(94.02.26.40.9B)」に加えて、ファン速度を引き上げてGPU温度を下げ、僅かながら性能も向上する「Low Temperature BIOS(94.02.26.40.9A)」の2種類があります。
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」のBIOSを冷却性能重視のLow Temperature BIOSに切り替えると、GPU-Zで確認できるBIOSバージョンが94.02.26.40.9Aに変わっているのが確認できます。
Low Temperature BIOSでもブーストクロックやパワーリミットなどGPU動作に直接関わる項目は標準BIOSと共通で、ファン制御プロファイルだけが変更されています。
NVIDIA GeForce RTX 3090/3080/3070 詳細スペック比較 | ||||
GPU名 | RTX 3090 |
RTX 3080 | RTX 3070 |
RTX 2080 Ti |
GPUダイ | GA102-300 | GA102-200 | GA104-300 | TU102-300 |
製造プロセス | Samsung 8nm |
Samsung 8nm | Samsung 8nm | 12nm FinFET |
CUDAコア数 | 10496 | 8704 | 5888 | 4352 |
TMU/ROP | -/- | -/- | -/- | 272/88 |
ベースクロック | 1395MHz | 1440MHz | 1500MHz | 1350MHz |
ブーストクロック (FE) |
1695MHz | 1710MHz | 1725MHz | 1545MHz (1635MHz) |
メモリ | 24GB GDDR6X | 10GB GDDR6X | 8GB GDDR6 | 11GB GDDR6 |
バス幅 | 384-bit | 320-bit | 256-bit | 352-bit |
メモリクロック | 4875 MHz | 4750 MHz | 3500 MHz | 3500 MHz |
有効メモリクロック | 19500 MHz | 19000 MHz | 14000 MHz | 14000 MHz |
メモリ帯域 | 936 GB/s | 760 GB/s | 448 GB/s | 616 GB/s |
PCIEレーン | PCIE4.0x16 | PCIE4.0x16 | PCIE4.0x16 | PCIE3.0x16 |
マルチGPU |
NVLink SLI | - | - | NVLink SLI |
TGP(TDP) | 350W |
320W | 220W | 250W (FE:260W) |
補助電源 |
8PIN×2~ | 8PIN×2~ | 8PIN×1~ | 8PIN×2~ |
対応ビデオ出力 |
DP1.4 HDMI2.1 |
DP1.4 HDMI2.1 |
DP1.4 HDMI2.1 |
DP1.4 HDMI2.0 USB Type-C |
登場時期 |
20年9月24日 |
20年9月17日 | 20年10月 | 18年9月 |
価格 | 1499ドル~ | 699ドル~ | 499ドル~ | 999ドル~ FE:1199ドル |
今回レビューするGeForce RTX 3090をはじめとして、GeForce RTX 30シリーズに採用されるAmpereアーキテクチャにおいて、前世代Turingと比較してスペック上のCUDAコア数が2倍に激増していることについて簡単に説明しておきます。
まず純粋に事実として、複数のCUDAコアからなるCUDAコア群のストリーミングマルチプロセッサ(Streaming Multiprocessors:SMs)の『FP32スループットがTuring世代と比較してAmpereでは2倍に向上』しています。これは間違いありません。
一度、前世代Turingを振り返ると、TuringアーキテクチャではFP32とINT32を同時に実行できる(データパスが独立に用意されている)ことがアーキテクチャとしての新しい特徴でした。Turingでは1基のSMにFP32とINTが1:1割合で実装されていました。
Turingがこのようなアーキテクチャを採用したのは、PCゲームではFP32だけでなくINT32も実行されるから、というのが理由でしたが、同時に公表されていた統計を思い出すと、ゲームによって多少変動はあるもののFP32に対してINT32はせいぜい2:1の割合でした。
であればAmpereでは2つのデータパスのうち、INT32用のデータパス上にINT32の実行ユニットだけでなくFP32の実行ユニットも乗せれば、FP32とINT32の割合が現実に即した理想的な比率になり、省スペースに実装もできるというのは理にかなった話だと思いました。(下はSMの1/4を抜粋)
従来では『CUDAコア数 = FP32実行ユニットの数』とカウントしていたので、同じく単純にFP32実行ユニットの数をカウントするとAmpereアーキテクチャのGeForce RTX 30シリーズでは、CUDAコア数が2倍に爆増します。確かに1クロックで同時に実行できるFP32の最大数は2倍になったのですが、即ちCUDAコア数が2倍になったとカウントするのかというとやや疑問も残ります。
GTX700からRTX2000まで4世代ほどは、『CUDAコア数の増加による比例』×『コアクロックの上昇やアーキテクチャ改良による性能向上』が次世代GPUの性能指標だったので、GTX10からRTX20でCUDAコア数が2倍であれば実際の性能は2倍以上ですが、RTX20からRTX30ではCUDAコア数が2倍になっても実際の性能は2倍以下なのでどうしても違和感が残ります。
ともあれPCゲームを含め実際のアプリケーションではINT32も使用されるので、実性能を見るとGeForce RTX 30シリーズはCUDAコア数に比例して単純に2倍の性能にはならず、INT32/FP32混合データパスの使用状態に応じて、性能の伸び幅(Performance gains)が変動します。
ただFP32など一般的なシェーダーだけでなく、レイトレーシング用コアやテンサーコアも新世代へアップグレードされているので、レイトレーシング表現やDLSSに対応したPCゲームであればRTX20に対して2倍に迫る性能も発揮できるようです。
またGeForce RTX 30シリーズの諸機能について、前世代RTX 20シリーズとの大きな違いとして、8K/60FPS映像を取り扱えるHDMI2.1に対応し、それに伴ってハードウェアデコーダのNVDecが第5世代にアップデートしています。第5世代NVDecでは、8Kなど超高解像度映像に使用されるAV1コーデックのデコードに対応しています。
ゲーム実況などリアルタイム配信・録画において好評を博したNVEncについてはRTX 20シリーズと同じく第7世代が採用されています。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gのゲーム性能
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」の性能を測るべく各種ベンチマークを実行しました。性能比較には「GeForce RTX 2080 Ti Founders Edition」、「GeForce RTX 2080 SUPER Founders Edition」、「Radeon VII」を使用しています。「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードについて、3DMarkで現在主流なDirectX11のベンチマーク「FireStrike」による比較になります。
FireStrike | Extreme | Ultra | |
RTX 3080 MSI GX TRIO |
43552 | 21711 | 11137 |
RTX 2080 Ti FE |
34955 | 16797 | 8179 |
RTX 2080 SUPER FE |
29145 | 13866 | 6800 |
Radeon VII |
28115 | 13455 | 6863 |
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードについて、3DMarkのDirectX12ベンチマーク「TimeSpy」、およびレイトレーシング対応ベンチマーク「Port Royal」による性能比較となります。
TimeSpy | Extreme | Port Royal |
|
RTX 3080 MSI GX TRIO |
18090 | 9017 | 11741 |
RTX 2080 Ti FE |
14309 | 6813 | 8839 |
RTX 2080 SUPER FE |
11696 | 5412 | 7032 |
Radeon VII |
8974 | 4364 | - |
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードについて、近年普及しつつあるHTC VIVEやOculus RiftなどVR HMDを使用したVRゲームに関する性能を測定する最新ベンチマーク「VRMark」による性能比較となります。
Orange Room |
Cyan Room |
Blue Room |
|
RTX 3080 MSI GX TRIO |
16280 | 16687 | 5488 |
RTX 2080 Ti FE |
15938 | 12955 | 4553 |
RTX 2080 SUPER FE |
15532 | 11080 | 3755 |
Radeon VII |
14256 | 10462 | 2705 |
続いて2020年最新のPCゲームを実際に用いたベンチマークになります。同一のグラフィック設定で同一のシーンについてフルHD(1920×1080)とWQHD(2560×1440)と4K(3840×2160)の3種類の解像度で平均FPSを比較しました。
ベンチマーク測定を行ったゲームタイトルは、Anthem(ウルトラ設定プリセット)、Assassin's Creed Odyssey(最高設定プリセット)、Battlefield V(最高設定プリセット, DirectX12)、CONTROL(高設定プリセット, DirectX12, AMD製GPUはDirectX11)、DEATH STRANDING(最高設定プリセット, TAA)、The Division 2(ウルトラ設定プリセット, DirectX11)、Final Fantasy XV(最高設定プリセット, NVIDIA GameWorksはVXAOを除き有効)、Gears 5(最高設定プリセット)、Ghost Recon Breakpoint(ウルトラ設定プリセット)、Horizon Zero Dawn(最高画質設定プリセット)、Marvel's Avengers(最高設定プリセット, TAA)、Metro Exodus(エクストリーム設定プリセット, DirectX12)、MONSTER HUNTER: WORLD(最高設定プリセット, DirectX12)、Shadow of the Tomb Raider(最高設定プリセット, TAA, DirectX12)、Middle-Earth: Shadow of War(ウルトラ設定プリセット)以上の15タイトルです。
Anthem(ウルトラ設定プリセット)に関する「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Assassin's Creed Odyssey(最高設定プリセット)に関する「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Battlefield V(最高設定プリセット, DirectX12)に関する「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
CONTROL(高設定プリセット, DirectX12, AMD製GPUはDirectX11)に関する「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
DEATH STRANDING(最高設定プリセット, TAA)に関する「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
The Division 2(ウルトラ設定プリセット, DirectX11)に関する「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Final Fantasy XV(最高設定プリセット、NVIDIA GameWorksはVXAOを除き有効)に関する「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Gears 5(最高設定プリセット)に関する「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Ghost Recon Breakpoint(ウルトラ設定プリセット)に関する「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Horizon Zero Dawn(最高設定プリセット)に関する「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Marvel's Avengers(最高画質設定プリセット, TAA)に関する「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Metro Exodus(エクストリーム設定プリセット, DirectX12)に関する「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
MONSTER HUNTER: WORLD(最高設定プリセット, DirectX12)に関する「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Shadow of the Tomb Raider(最高設定プリセット, TAA, DirectX12)に関する「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Middle-Earth: Shadow of War(ウルトラ設定プリセット)に関する「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gなど4種類のGPUについて実ゲーム性能の比率の平均を出してみたところ、MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gは、前世代同クラスのアップデートモデルであるGeForce RTX 2080 SUPERよりも60%以上高い性能を発揮しました。(ファクトリーOCのRTX 3080とほぼリファレンスなRTX 2080/SUPERとの比較なので若干高めに数字が出ています)
ちょうど2年前に発売された無印版GeForce RTX 2080と比較すると70%もの性能向上を果たしており、同ナンバリングの性能の伸び幅としては類を見ない、まさに”飛躍”という表現がピッタリな性能向上です。前世代最上位モデルであるGeForce RTX 2080 Tiと比較しても30%近く上回る性能を実現しており、実際に測定した上のベンチマーク結果であるフレームレートを見ての通り、4K/60FPSゲーミングは当たり前、4K/120FPSにも手が届く4KゲーミングモンスターなGPUです。
レイトレーシング&DLSSの性能を検証
上では一般的なPCゲーミングシーンにおける「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」の性能を比較検証してきましたが、ここからはGeForce RTX 30シリーズの大きな特徴である、前世代GeForce RTX 20シリーズよりも改良された、レイトレーシング表現やDLSSの性能をチェックしていきます。最初に、レイトレーシング表現やDLSSについて簡単に紹介しておきます。
まず、レイトレーシング(Raytracing)表現では、照明や光源(エリアライト)や太陽光(グローバルイルミネーション)の影響を厳密に再現し、光の反射や透過も現実に即して忠実に描写されます。
レイトレーシングを採用したわかりやすい例としては鏡に映る反射など、視覚(視点から見た)の外にある物体もリアルに描画することができます。小さい光源や太陽光などが生み出す影が現実に対して忠実に再現されるので、画面の中に引き込まれるような奥行き、陰影を感じる映像が生まれます。
なお高画質機能「Raytracing(レイトレーシング)」はMicrosoftが提供するAPI「DirectX 12」に内包される「DirectX Raytracing」(DXR)を使用したレンダリング機能となっており、後述のDLSSと違ってNVIDIA独自技術というわけではなく、AMD製グラフィックボード、PS5やXbox Series S/Xといったコンソールゲーム機にも互換性のある機能です。
次に、「NVIDIA DLSS」は”Deep Learning Super Sampling”の頭文字を取った略称となっており、その名の通り、近年流行りのディープラーニングによって高画質化(超解像化)する機能で、AIレンダリングの名前でもアピールされています。
DLSSが具体的にどのように動作するか簡単に説明すると、フルHD~WQHDのリアルタイムレンダリングソースから4K映像を生み出すDLSSの原型があります。このDLSSの原型が作り出した4K映像を、16Kなど現実的にはリアルタイムでのレンダリングが難しい超々高解像度のレンダリング結果を比較し、DLSSの原型の改良版1をNVIDIAの専用サーバーが作ります。
DLSSの原型の改良版1で再び4K映像を生み出し、16Kレンダリング結果と比較して、DLSSの原型の改良版2を生み出す……、というプロセスを何万回も繰り返すことで、ユーザーに提供される汎用の、もしくは個別ゲームタイトルに特化した専用のDLSSプロファイルが出来上がります。
GeForce RTX 30シリーズの登場と共にアップデートされたDLSS2.0では最終出力解像度に対して3種類のオリジナルレンダー解像度が選択でき、4K解像度の場合は、Quality(2560×1440)、Balanced(2240×1260)、Performance(1920×1080)の3種類から選択できます。
オリジナルのレンダー解像度がフルHD~WQHDなので、DLSSによる超解像(SuperSampling)プロセスを挟むとはいえ、ネイティブに4K解像度をレンダリングするよりもフレームレートは大幅に向上します。
現在のDLSSでは16Kレンダリング結果を目標に学習が繰り返されているので、高画質アンチエイリアス技術として一般的なTAAと比較してフレームレートが大幅に向上するだけでなく、画質も改善するという一挙両得な高画質化機能になっています。
以上のレイトレーシング表現やDLSSに対して、GeForce RTX 30シリーズでは通常のレンダリングに使用するCUDAコアとは別に専用コアを搭載しており、アップグレードされた第2世代レイトレーシングコアと第3世代テンサーコアによって、専用コアを搭載しない旧式GPUはもちろん、従来のGeForce RTX 20シリーズと比較してもさらに高い性能を発揮することが可能になっています。
前置きが長くなりましたが、本題のレイトレーシング表現やDLSSの性能をチェックしていきます。
まずはGeForce RTX 2080 TiとGeForce RTX 2080 SUPERを比較対象にして、GeForce RTX 3080のレイトレーシング性能をチェックします。
解像度は4K(3840×2160)とし、検証するゲームはBattlefield V (最高設定プリセット、RTX:ON)、Control(高設定プリセット、RTX:High)、Metro Exodus(エクストリーム設定プリセット、RTX:Ultra)、Shadow of the Tomb Raider(最高設定プリセット、RTX:Max)の4種類です。
上で検証した一般的なゲーミングシーンにおけるRTX 2080 SUPERに対するRTX 3080のパフォーマンスゲインは60%程度でしたが、レイトレーシング表現を有効にすると改良されたレイトレーシングコアのおかげもあって70~80%に引き上がります。RTX 2080無印版と比較すれば、NVIDIAが主張するように2倍近い性能向上です。
続いて上で検証したレイトレーシング対応の4タイトルについて、レイトレーシング表現とDLSS(2.0)を併用した時の性能をチェックします。
解像度は4K(3840×2160)とし、当然ですがDLSS以外のグラフィック設定(DLSS有効で排他になるものを除く)は上の検証と共通です。
DLSSの設定はDLSS2.0に対応していてQuality、Balanced、Performanceの3つのプリセットを選択できる場合、4K出力時のオリジナルのレンダー解像度が2560×1440になるQuality設定を選択しています。
レイトレーシングコアが改良されたGeForce RTX 3080でもレイトレーシング表現を有効にしたネイティブ4K解像度を60FPSで実行するのは流石に難しいですが、テンサーコアを使用した超解像技術DLSSを併用すれば、4K解像度/60FPSをキープできます。
さらにレイトレーシング表現には非対応なゲームについても、DLSSを使用することでどれくらい性能を向上させることができるのかチェックしてみます。
解像度は4K(3840×2160)とし、検証するゲームは、Anthem、DEATH STRANDING、Final Fantasy XV、Marvel's Avengers、MONSTER HUNTER: WORLDの5種類です。DLSS以外のグラフィック設定は上の検証と共通です。
DLSSの設定はDLSS2.0に対応していてQuality、Balanced、Performanceの3つのプリセットを選択できる場合、4K出力時のオリジナルのレンダー解像度が2560×1440になるQuality設定を選択しています。
レイトレーシング表現の対応・非対応を含めた9タイトルについて、DLSSによるGeForce RTX 3080の性能向上比率をまとめると次のグラフのようになります。
Battlefield VやControlのように最適化が優れたタイトルでは60~80%というマルチGPUクラスの性能向上が期待できます。その他のタイトルについても平均的に30~40%前後の性能向上が期待できるので、同世代で1~2ランク上のGPUと同等の性能を発揮します。性能向上に加えてTAAなど一般的なアンチエイリアスよりも高画質になるので、DLSSの普及と最適化には期待したいところです。
テンサーコアによる超解像技術DLSSについては上のようにGPUクラスやコストを超越した性能向上が得られるので今後に期待する機能なのですが、ネガティブな面を挙げておくと、DLSS有効時とDLSS無効時について、RTX 3080とRTX 2080 SUPERで比較した性能向上比率を見ての通り、オリジナルのレンダー解像度がフルHDやWQHDに下がるのでGPU別のゲインは下がる傾向があります。
Controlは上で見たようにDLSSの有効・無効による性能向上幅が大きいだけでなく、DLSSの有効・無効で見た時のGPU別性能比率も下がらないので、やはりこのレベルの最適化を既存タイトルのアップデートや今後の最新タイトルで期待したいところです。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gの温度・消費電力・ファンノイズ
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」の負荷時のGPU温度やファンノイズや消費電力についてチェックしていきます。「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」にはBIOSスイッチで切り替え可能なモードとは別に、専用アプリから選択が可能なコアクロックや電力制限が変化する複数のモードが用意されていますが、標準設定のゲーミングモードで測定しました。
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」のGPU温度とファンノイズの検証負荷としては約20分間に渡たり連続してGPUに100%近い負荷をかける3DMark TimeSpy Stress Testを使用しています。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gは、標準動作で静音性重視のLow Noise BIOSにおいて、テスト終盤におけるGPU温度は最大73度、ファン回転数は最大1300RPM程度に収まっています。
RTX 3090に迫るパワーリミット340WのファクトリーOCを冷やしているにもかかわらず、非常に低いファン回転数に収まっており、静音性も極めて優れています。
冷却性能重視のLow Temperature BIOSに切り替えるとGPU温度は65度に下がりますが、ファン速度は最大1700RPM程度まで上がります。ただしこのファン速度でもファンノイズはかなり小さく、Low Temperature BIOSでも静音性は十分に優秀です。
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」はアイドル時にファンが停止するセミファンレス機能に対応しており、閾値はBIOSによって5度程度前後するのですが、始動閾値は50度前後、停止閾値は40度前後でヒステリシスも採用されています。製品によっては回転数が上下してふらつくことの多い停止直前も、閾値を下回った瞬間にピタッと切り替わっています。
GPUコアクロックについては「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」の仕様値ではブースト1815MHzとなっていましたが、負荷テスト中の実動平均は標準動作のLow Noise BIOSで1938MHz、Low Temperature BIOSではさらに高い1962MHzとなりました。
リファレンス仕様モデルのコアクロックは1800MHz前後なので、パワーリミットの解除も含めて、実際のグラフィック性能で10%弱程度も高い性能を発揮したのも納得なコアクロックです。
また実用条件に近い冷却性能の検証として、実際にPCケースへ「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を組み込み、Time Spy Extreme グラフィックテスト1を1時間に渡ってループさせてGPU温度やファン回転数がどうなるかを確認してみました。
検証機材のPCケースには「Cooler Master MASTERCASE MAKER 5t」を使用しています。CPUクーラーは120サイズ簡易水冷でラジエーターを天面前方に設置、またPCケースのフロントに吸気ファンとして2基とリアに排気ファンとして1基の140mm角ケースファンをそれぞれ設置し、ファン回転数は1000RPMに固定しています。
標準動作のLow Noise BIOSにおいて、PCケースに入れた状態で長時間負荷をかけても「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」のGPUの最大温度は74度前後に収まりました。一方でファン回転数は1500RPMに収まっており、ベンチ板測定と比較してPCケース内でも+200RPM以下という驚きの結果です。
ヒートシンク放熱フィンからの放熱する効率が良いのか多少、外気温が上がっても冷却性能が下がらないというPCケース内での実用シーンでも満点評価なGPUクーラーでした。ファンノイズも煩く感じることはまずあり得ないレベルで静かです。
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」のGPUクーラーは内排気ファンということもありPCケースの吸排気を最適化しないと冷却効率が下がるので、フロントx2/リアx1で140mmファンを設置して1000RPMで回していますが、さすがに300Wを超えるTGPなので、ベンチ板での比較的に理想な環境のままとはいきませんでした。実際にPCケースへ組み込むユーザーはPCケースの吸排気にも注意してみてください。
加えて1時間のストレステスト終盤にスマホで使用できるサーモグラフィカメラ「FLIR ONE Pro」(レビュー)を使用してゲーム負荷時のグラフィックボード上の各所の温度をチェックしました。
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」は、バックプレート表面や、背面や側面の隙間から確認できるPCB基板上のVRM電源回路やPCIE補助電源コネクタ付近の温度は標準設定で静音性重視のLow Noise BIOSでも80度前後に収まりました。これくらい低ければ安心して運用が可能です。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gを含めていくつかのグラフィックボードについてサウンドレベルメーターを利用してゲーム負荷時のノイズレベルを測定・比較しました。
検証機材はベンチ台の上に平置きにしているので、サウンドレベルメーターをスタンドで垂直上方向に50cm程度離して騒音値を測定しています。
この測定方法において電源OFF時の騒音値は30dB未満です。目安として騒音値が35dBを超えたあたりからファンノイズがはっきりと聞こえるようになりますが、35~38dB以下であればPCケースに入れてしまえばファンノイズが気になることはそうそうないと思います。40dB前後になるとベンチ台上で煩く感じ始め、45dBを超えるとヘッドホンをしていてもはっきり聞き取れるくらいになります。
A特性で測定しているのである程度は騒音値にも反映されていますが、同じ騒音値でも周波数(ファン回転数)が高いほど体感としては大きな音に感じやすく、また不快に感じたり感じなかったりは音の性質(細かい乱高下の有無や軸ブレ)にもよるので注意してください。
ノイズレベルの測定結果は次のようになっています。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gのファンノイズは標準動作Low Noise BIOSの1300RPMという低めなファン回転数の通りノイズレベルは33dB以下で抜群の静音性を発揮しています。PCケースに入れた状態をベンチ板上で測定した1500RPMでも33dBちょうどくらいなので、PCケースに入れてしまうとゲーム負荷時でもファンが動いているの?くらいな極めて優れた静音性です。
また冷却性能重視のLow Temperature BIOSではファン回転数が1700RPMまで引き上がりますが、ノイズレベルは35dB以下に収まっており、95mmサイズの大型3連ファンがこの速さで動いていることから考えると非常に低いノイズレベルです。Low Temperature BIOSも静音性を犠牲にしているわけではなく、実用シーンでも十分な静音性が期待できます。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gの消費電力と瞬間的な最大電源負荷を測定しました。
測定負荷には上で行った温度検証と同様に3DMark TimeSpy ストレステストを使用しています。テスト全体から1秒間隔でモニタリングを行い、平均値を”消費電力”、最大値を”瞬間的な最大電源負荷”とします。なお電源ユニットに対する実際の最大瞬間負荷は測定値より50~100W上回る場合があるので、電源ユニットの電源容量選択の参考にする場合は注意してください。
消費電力の測定は電源ユニット「Corsair HX1200i」のCorsair Linkによる電力ログ機能を用いてコンセントからの入力ではなく変換ロスを差し引いたシステムへの出力電力をチェックしています。また電力測定の際は上記の主電源ユニットに加えて、CPUへの電力供給を行うEPS端子へ接続するために別の副電源ユニットを使用しています。
この方法であれば、CPU(後述のiGPUも)に負荷をかけても、CPUによる消費電力の変動はメイン電源ユニットCorsair HX 1200iの測定値には影響しません。しかしながら、測定値にはまだATX24PIN経由で供給されるマザーボードやDDR4メモリの電力が含まれるので、iGPUを使用した時の3DMark TimeSpy ストレステスト中の消費電力と最大電源負荷を同様に測定し、各種グラフィックボード使用時と差分を取る形でグラフィックボード単体の消費電力と最大電源負荷を算出します。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10Gの消費電力は341W、最大瞬間負荷は475Wでした。MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10GのTDP(パワーターゲット)は340Wに設定されているので、概ね仕様値通りの消費電力になっていると思います。
ゲーム性能ベンチマークで見たようにGeForce RTX 3080は性能の伸びも大きいですが、同時にグラフィックボードの消費電力も増大しています。300W越えというと従来ではハイエンドGPUをかなりアグレッシブにOCしたモデルでもないとなかなかお目にかかれない数値なので、リファレンス仕様でここまでの電力を許容してきたのはかなり意外でした。
とはいえGPU消費電力が高くでも、大きくて高性能なGPUクーラーさえ積んでいれば、しっかり冷やせて、なおかつ静かであるということも上の検証で見た通りです。
GeForce RTX 3080を導入するにあたっては、公式仕様で指定されているように電源容量は750W以上の電源ユニットを組み合わせ、PCケースの吸排気も十分に確保する、という2点にさえ注意すれば問題なく運用できるレベルの製品を各社用意していると思います。
MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G レビューまとめ
最後に「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」を検証してみた結果のまとめを行います。簡単に箇条書きで以下、管理人のレビュー後の所感となります。良いところ
- 4K/120FPSゲーミングにも対応可能、4KゲーミングモンスターなGPU
- RTX 2080を実ゲームで60%以上も上回るグラフィック性能
- 前世代最上位モデルRTX 2080 Tiと比較しても30%程度も高速
- 699ドルからなので奮発すれば手を出せるハイエンドGPU
- PL:340WのファクトリーOCでも極めて優れた静音性を発揮するGPUクーラー
- PCケース内に入れた負荷テストでもファン回転数が1500RPM以下に収まる
- 全長323mmと非常に長いのでPCケースとの干渉に注意
- 補助電源も含めてPCIEブラケットよりも35mm背が高いのでサイドパネルとの干渉に注意
GeForce RTX 3080は、前世代同クラスとGeForce RTX 2080と比較して60%以上、前世代最上位GeForce RTX 2080 Tiと比較しても30%程度も上回るグラフィック性能を実現し、前世代から圧倒的な飛躍を遂げています。
2020年最新の超高画質なPCゲームですら素の最高画質設定で4K/60FPSをキープでき、高画質設定のまま4K/120FPSのハイフレームレートで快適なプレイも難しくなく、4Kゲーミングモンスターの登場といっても過言ではありません。
価格面でもGeForce RTX 3080は希望小売価格が699ドルと、前世代同クラスであるRTX 2080/SUPERから据え置きであるところも注目ポイントです。既存のPCゲーム性能ですら60%以上も向上し、レイトレーシングやDLSSに対応したPCゲームではさらなる性能向上も期待できる4Kゲーミングモンスターの提供価格としてはバーゲンプライスだと思います。
4K解像度の60FPS~120FPSに対応可能なGeForce RTX 3080を使用するのであれば、4K/144Hzゲーミング液晶モニタ「LG 27GN950-B」、4K/120Hz有機ELの「Alienware 55 AW5520QF」や「LG OLED TV 48CXPJA」など4K解像度&ハイリフレッシュレートなディスプレイと組み合わせてラグジュアリーなゲーミング環境を構築したいところです。
その他にもバトルロイヤル系ゲームに最適な240Hzオーバーの超高速ゲーミングモニタと組み合わせてガチで勝利を狙うゲーマーにもフルHDで高FPSを稼げるRTX 3080はオススメです。
・240Hz+の超ハイリフレッシュレートなゲーミングモニタのレビュー記事一覧へ
「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」については、ファクトリーOCによってリファレンスを平均5%、ベストケースでは10%近くも上回るグラフィック性能を実現し、同時に電力制限がTGP340W相当に解除されていますが、その発熱に対して今回の検証ではPCケースに入れた状態でもファン回転数1500RPM以下という極めて優れた静音性を発揮しました。
TGP340WのファクトリーOCを静かに難なく冷やしきる高性能なGPUクーラーを搭載しており、GeForce RTX 3080搭載グラフィックボードとして文句なしにオススメできるモデルです。RTX 3080でもやはりMSIのGAMING X TRIOは安定して鉄板モデルだと感心しました。
静音性の高さについては単純なチューニングだけの話ではなく、1700RPMにファン速度が上がっても風切り音が小さく、実際のノイズレベルは35dB未満に収まっていることから、新構造のTORX FAN 4.0や放熱フィン形状の最適化などハードウェアレベルで設計が優れていることが分かります。
またTGP300W超でVRM電源周りが高温化しやすいRTX 3080グラフィックボードながらサーモグラフィーで確認できるホットスポットが概ね70度台、最大でも80度前後に抑え込まれていて安心感があり、総じて隙の無いGPUクーラーでした。
以上、「MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G」のレビューでした。
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— 自作とゲームと趣味の日々 (@jisakuhibi) November 8, 2020
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(注:記事内で参考のため記載された商品価格は記事執筆当時のものとなり変動している場合があります)
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