Intel Arc Graphicの第1弾となるAシリーズのエントリーモデル Arc A3シリーズGPU搭載グラフィックボードとしてSPARKLEから発売中の「SPARKLE Intel Arc A310 ECO」と「SPARKLE Intel Arc A380 GENIE」をレビューします。
補助電源不要でロープロファイルにも対応するエントリー向けグラフィックボードですが、最新の高圧縮規格AV1に対応したハードウェアエンコーダを搭載しているので、PlayStation 5など最新ゲーム機の映像をビデオキャプチャで取り込んで4K/60FPSのゲーム配信を行う支援デバイスとして活用できるのか検証してみます。
代理店公式ページ
A310 ECO:https://www.aiuto-jp.co.jp/products/product_4896.php
A380 GENIE:https://www.aiuto-jp.co.jp/products/product_4898.php
レビュー目次
1.SPARKLE Intel Arc A310 ECOについて
2.SPARKLE Intel Arc A380 GENIEについて
4.AV1エンコード対応で4Kゲーム配信が可能
・4K/60FPSのゲーム映像をリアルタイムエンコードしてみた
5.Intel Arc Aシリーズ HWエンコーダの画質検証方法
5.Intel Arc AシリーズのAV1をH264と画質比較
6.4Kなど高解像度の配信ならAV1はH264の2倍も高画質
7.Intel製GPUはNVEncと比較してどうなのか
8.レビューまとめ
【機材協力:SPARKLE 国内正規代理店 アユート】
SPARKLE Intel Arc A310 ECOについて
まずは「SPARKLE Intel Arc A310 ECO」のグラフィックボード本体を見ていきます。
「SPARKLE Intel Arc A310 ECO」をベンチ機に組み込んでファンノイズや消費電力をチェックしてみました。
3DMark TimeSpyで「SPARKLE Intel Arc A310 ECO」にフル負荷をかけたところ、ファン回転数は4800RPM前後に達しました。ファン速度は一定せず、ピークでは5200RPMになることもあります。
ファンノイズのノイズレベルは45dBを上回っており、単純に音が大きく、なおかつ高周波で耳につきやすいこともあって、PCケースに入れていても煩く感じるレベルです。(ノイズレベル評価の概要については当サイトの他グラボレビューを参照してください)
また上記グラフで1200秒以降はアイドル状態なのですが、「SPARKLE Intel Arc A310 ECO」の冷却ファンは十分に負荷が下がった状態で900RPMから3000RPMの間で波打つように動作します。
3000RPMのノイズレベルは35dB程度なので音の大きさだけ言えば煩く感じるほどではないのですが、アイドル状態で無音の状態と瞬間的なヒューンというファンノイズが小刻みに繰り返されるので音の性質的に耳障りでした。
「SPARKLE Intel Arc A310 ECO」にPCゲーム的な、上記グラフのようなフル負荷がかかることは用途的にあまりないと思うので、今回の検証でも題材になっているOBSでのゲーム配信における負荷でも検証してみました。
具体的には4K/60FPSのゲーム画面をOBS上でプレビュー表示しながら、GPUハードウェアエンコーダによってAV1の20Mbpsで20分程度録画し続けました。
OBSの4Kプレビュー表示&リアルタイム4Kエンコードの負荷において、「SPARKLE Intel Arc A310 ECO」のファン速度は3000~4000RPMの間を細かく波打ちます。3000RPMは35dB以下、4000RPMは40dB超となっており、ファン動作を知覚できる程度のファンノイズと、少し煩く感じる程度のファンノイズの間で乱高下するのでアイドル状態同様に音の性質として耳障りです。
「SPARKLE Intel Arc A310 ECO」のファンノイズについては音の大きさというよりも、ファン速度が小刻みに変動するという耳障りな音の性質が問題です。
専用ソフトウェアのArc Controlにはファン速度の設定があるのですが、残念ながらファン制御を手動で調整してもこの挙動を抑えることはできません。
「SPARKLE Intel Arc A310 ECO」は公式仕様ではTGP 50Wのグラフィックボードとなっていますが、3D負荷をフルにかけてもグラフィックボード全体の消費電力は40W程度でした。OBSの4Kプレビュー&リアルタイムエンコードであれば消費電力は25W程度です。
SPARKLE Intel Arc A380 GENIEについて
続いて「SPARKLE Intel Arc A380 GENIE」のグラフィックボード本体を見ていきます。
「SPARKLE Intel Arc A380 GENIE」をベンチ機に組み込んでファンノイズや消費電力をチェックしてみました。
3DMark TimeSpyで「SPARKLE Intel Arc A380 GENIE」にフル負荷をかけたところ、ファン回転数は3500RPM前後に達しました。ファン速度は一定せず、ピークでは3800RPMになることもあります。
ファンノイズのノイズレベルは35dB程度ですが、高速回転で高周波なのと、ベアリング音が耳につきやすいので体感的にはもう少し大きく感じます。PCケースに入れてもファン動作は認識できますし、デスク上のような近くに配置した場合はファンノイズが煩く感じるかもしれません。(ノイズレベル評価の概要については当サイトの他グラボレビューを参照してください)
また上記グラフで1200秒以降はアイドル状態なのですが、「SPARKLE Intel Arc A380 GENIE」の冷却ファンは十分に負荷が下がった状態で0RPMから2000RPMの間で波打つように動作します。
ただ上で紹介したArc A310 ECOと違って、「SPARKLE Intel Arc A380 GENIE」の方は1800~2000RPMでもノイズレベルは32dB程度となっており、PCケースに入れてしまえば、ファン動作を認識するのも難しいくらいです。小刻みにファン速度が変動しても、そもそも上も下もほぼ聞こえないので問題にならないと思います。
「SPARKLE Intel Arc A380 GENIE」にPCゲーム的な、上記グラフのようなフル負荷がかかることは用途的にあまりないと思うので、今回の検証でも題材になっているOBSでのゲーム配信における負荷でも検証してみました。
具体的には4K/60FPSのゲーム画面をOBS上でプレビュー表示しながら、GPUハードウェアエンコーダによってAV1の20Mbpsで20分程度録画し続けました。
OBSの4Kプレビュー表示&リアルタイム4Kエンコードの負荷において、「SPARKLE Intel Arc A380 GENIE」のファン速度は2000RPM程度で安定しています。ノイズレベルも32dB程度ですし、2000RPM程度なら音の性質的にも高周波感は薄いので煩く感じることはないはずです。
「SPARKLE Intel Arc A380 GENIE」は3D負荷をフルにかけるとグラフィックボード全体の消費電力は58W程度でした。OBSの4Kプレビュー&リアルタイムエンコードであれば消費電力は28W程度です。
検証機材・GPU概要
外観やハードのチェックはこのあたりにして早速、「SPARKLE Intel Arc A310 ECO / A380 GENIE」を検証用の機材に組み込みました。テストベンチ機の構成は次のようになっています。
テストベンチ機の構成 (ゲーム性能検証) |
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OS | Windows11 Home 64bit |
CPU | Intel Core i9 14900K (レビュー) |
CPUクーラー | Fractal Design Celsius S36 (レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill Trident Z5 RGB F5-7200J3445G16GX2-TZ5RK DDR5 16GB*2=32GB (レビュー) 7200MHz, 34-45-45-115 |
マザーボード | ASUS ROG MAXIMUS Z790 HERO (レビュー) |
システムストレージ | Samsung SSD 990 PRO 1TB (レビュー) |
ゲームストレージ | Nextorage NE1N 8TB (レビュー) |
電源ユニット | Corsair HX1500i (レビュー) |
ベンチ板 | STREACOM BC1 (レビュー) |
ベンチ機のCPUには2024年現在ゲーミングシーンで最速CPUである「Intel Core i9 14900K」を使用しています。
近年では4K解像度・高画質設定の60~120FPSでもCPUボトルネックが生じるリッチグラフィックなゲームが増えています。
検証機材に使用しているCore i9 14900Kを始めとして、Intel第13/14世代CoreのK付き倍率アンロックモデルはそういったCPUバウンドな高画質ゲームでも旧世代CPUと比較して高い性能を発揮できるので、グラフィックボードを最新世代に買い替えるならGPUランクに合わせてCPUもアップグレードするのがオススメです。
・ゲームに最適なIntel製CPUはどれか、Core i9 14900Kと徹底比較
ベンチ機のシステムストレージには「Samsung SSD 990 PRO 1TB」を使用しています。
Samsung SSD 990 PROは、PCIE4.0対応SSDで最速クラスの性能を発揮し、なおかつ電力効率は前モデル980 PRO比で最大50%も向上しており、7GB/s超の高速アクセスでも低発熱なところも魅力な高性能SSDです。これからPCIE4.0対応プラットフォームの自作PCを組むなら、システム/データ用ストレージとして非常にオススメな製品です。
・「Samsung SSD 990 PRO 1TB」をレビュー。性能も電力効率もトップクラス!
ベンチ機のゲームインストール用ストレージには「Nextorage NE1N 8TB」を使用しています。
Nextorage Gシリーズ(NE1N)は、PHISON PS5018-E18 コントローラーと最新TLC型3D NANDを採用し、連続読み出しが7300MB/s、連続書き込みも6000MB/s以上というPCIE4.0対応SSDとしてハイエンドクラスの性能を発揮するゲーマー向けNVMe M.2 SSDです。
MTBF 160万時間、保証期間 5年、さらに保証条件の1つである書き込み耐性(TBW)は1TB当たり1200TBとスペック的にも高耐久なSSDであり、Nextorageはソニーのストレージ部門を源流とするのでストレージメーカーとしての信頼性も高いので安心して長く使えるSSDです。
・「Nextorage NE1N 8TB」をレビュー。PS5にも使える超大容量M.2 SSDを徹底検証
ベンチ機のシステムメモリには、Intel第13世代CPU向けメモリとしては4xメモリスロットのマザーボードでも動作可能な最速クラスの製品、メモリ周波数7200MHz/CL34の高メモリクロックかつ低レイテンシなメモリOCに対応した「G.Skill Trident Z5 RGB(型番:F5-7200J3445G16GX2-TZ5RK)」を使用しています。
G.Skill Trident Z5シリーズはIntel XMP3.0のOCプロファイルに対応した製品となっており、6000MHzの定番設定なモデルもあり、Intel第13世代CPUで高性能なPCを構築するお供としてオススメのOCメモリです。
ARGB LEDイルミネーションを搭載したバリエーションモデル G.Skill Trident Z5 Neo RGBもラインナップされています。
・「G.Skill Trident Z5 RGB」をレビュー。XMPで7200MHz OCに対応!
SPARKLE Intel Arc A310 ECOのGPU概要
SPARKLE Intel Arc A310 ECOに搭載されているGPU「Intel Arc A310」のスペックについて簡単に確認しておきます。
Intel Arc A310は6基のXe-Coresを搭載し、AMD/NVIDIA製GPUでシェーダー数として数えられることの多いFP32演算ユニットを768基搭載しています。またIntel製CPUのXe内蔵グラフィックスで言うところのEU数はXMX Enginesに当たり128基です。
GPUコアクロックは2000MHz、グラフィックメモリとして最新のGDDR6メモリを4GB容量搭載しています。メモリ速度は15.5Gbps、バス幅が64-bitなのでメモリ帯域は124GB/sとなります。
グラフィックボード全体の典型的な消費電力を示すTBPは75Wで、PCIE補助電源は必須ではありませんが、PCIE 8PIN/6PINを要求するオリファンモデルもあります。
なおIntel Arc A310はLow Power TBPのコンフィグレーションにも対応しており、TBP 40Wなど低電力設定ではGPUコアクロックは1000MHzとなります。
「SPARKLE Intel Arc A310 ECO」はArc A310でもTBP LPの設定となっており、GPUコアクロックは1000MHzです。
同製品の公式仕様においてグラフィックボード全体の消費電力の仕様値TGPは50Wですが、GPUコア単体の電力制限は31.3Wに設定されていました。
SPARKLE Intel Arc A380 GENIEのGPU概要
SPARKLE Intel Arc A380 GENIEに搭載されているGPU「Intel Arc A380」のスペックについて簡単に確認しておきます。
Intel Arc A380は8基のXe-Coresを搭載し、AMD/NVIDIA製GPUでシェーダー数として数えられることの多いFP32演算ユニットを1024基搭載しています。またIntel製CPUのXe内蔵グラフィックスで言うところのEU数はXMX Enginesに当たり128基です。
GPUコアクロックは2000MHz、グラフィックメモリとして最新のGDDR6メモリを6GB容量搭載しています。メモリ速度は15.5Gbps、バス幅が96-bitなのでメモリ帯域は186GB/sとなります。
グラフィックボード全体の典型的な消費電力を示すTBPは75Wで、PCIE補助電源は必須ではありませんが、PCIE 8PIN/6PINを要求するオリファンモデルもあります。
「ASRock Intel Arc A380 Low Profile 6GB」はIntel公式仕様の通り、コアクロックは2000MHzです。Arc A380 6GBにおいてグラフィックボード全体の消費電力の仕様値TGPは75Wですが、GPUコア単体の電力制限は43Wに設定されています。
AV1エンコード対応で4Kゲーム配信が可能
Intel Arc Aシリーズは大きな特徴として、内蔵ビデオプロセッサ Xe Media Engineを搭載し、現在最も普及しているH.264、圧縮効率に優れた次世代規格として期待されているHEVCとAV1の3種類について全てハードウェアによるエンコードとデコードをサポートしています。
2024年現在、AV1ハードウェアエンコードはNVIDIA GeForce RTX 40やAMD Radeon RX 7000の最新GPUもサポートしていますが、最も安価なGeForce RTX 4060やRadeon RX 7600でも4~5万円を超える高価なGPUとなっており、1万円台の価格帯で対応するIntel Arc A380やIntel Arc A310は貴重な存在です。
後述する検証結果の通り、AV1は同じビットレートならH.264よりも高画質、つまり圧縮効率が高いところがメリットでリアルタイム配信に最適です。
一方、AV1は高度に圧縮されている分、動画編集をする際にはプレビュー表示の負荷が大きく、シークやスキップが遅くなるといったデメリットもあります。
『録画した動画を後から編集してアップロード』のような用途の場合は、H.264やHEVCの高ビットレートで録画するほうが快適に編集できるので3種類の圧縮方式は用途によって使い分けるのがオススメです。
Intel公式ページで配布されているArc GPU用ドライバには、GPU動作設定やゲーム画面の録画・配信が可能な専用コントロールソフトウェア Arc Controlが含まれています。
Arc Controlのスタジオタブ内、ブロードキャストからTwitchやYouTubeへ直接ライブストリーミングが、キャプチャーからPCストレージへプレイ動画の保存が可能です。
いずれもGPUのハードウェアエンコーダを使用するので、NVIDIA ShadowPlayやAMD Radeon ReLiveのように軽量動作となっており、PC1台によるプレイ&録画・配信の用途でもゲームプレイへの影響は最小限です。
サードパーティ製ソフトについてもOBSやHandbrakeはIntel Arc AシリーズGPUによるAV1エンコードに対応しています。
4K/60FPSのゲーム映像をリアルタイムエンコードしてみた
Intel Arc AシリーズGPUについては今回レビューしているArc A310/A380も、上位モデルのA770もGPU HWエンコーダ自体は共通です。
自前の3Dグラフィックを描画するINT/FPシェーダー性能(一般に言うところのゲーム性能とかGPU性能)は大きく異なるのですが、ビデオキャプチャで取得したゲーム映像やウェブカメラの映像を組み合わせて4K/60FPSで出力する程度の負荷であれば、Arc A310/A380も上位モデルのA770も出力結果に差はほとんどありません。
3D性能依存でエンコードが間に合わずコマ落ち(前フレームを複製)することは皆無ではないものの、Arc A310/A380でも全体の1%未満です。
実際にPS5で出力した4K/60FPSのゲーム映像にウェブカメラの映像を重ねたゲーム実況っぽい画面を作り、GPU HWエンコーダによってAV1/15Mbpsの録画を行ってみましたが、Arc A310とArc A380で問題なく録画できました。
なお、OBSはRTX 4090を使用していても4K出力は若干コマ落ちします。上記動画においてもArc A310/A380のGPU性能に依存したコマ落ちは皆無というわけではありませんが、ほぼOBSソフトウェア側の問題です。
上記の動画作成でPS5のゲーム画面の取得にはHDMI2.1搭載で4K/120Hz VRRのパススルーに対応、4K/60FPSで録画が可能なUSB接続ビデオキャプチャ「AVerMedia Live Gamer ULTRA 2.1」を使用しています。
Intel Arc AシリーズのOBS設定について
「SPARKLE Arc A310 ECO / A380 GENIE」などIntel Arc AシリーズGPUをOBSで使う時のOBSの設定について簡単に紹介します。
上でも紹介したようにIntel Arc AシリーズGPUはH.264/HEVC/AV1に対応したハードウェアエンコーダ(NVIDIA製GPUのNVEncが有名)を搭載しており、プレイ動画の録画・配信で定番のフリーソフト OBS Studioで使用できます。
配信や録画の出力結果にはほぼ影響しないのですが、Arc A310やArc A380などエントリークラスGPUで4Kなど高解像度のゲーム映像・ウェブカメラを扱うとOBSのプレビュー画面が頻繁にコマ落ちしてカクつきます。特にArc A310は4Kでプレビュー画面がコマ落ちし易い印象でした。
繰り返しますが、コマ落ちするのはOBSのプレビュー画面です。
Arc A770など同じHWエンコーダ搭載でもGPU性能(一般にゲーム性能と呼ばれるもの)が高性能な上位モデルとArc A310/A380で厳密に比較すると、Arc A310/A380は4K解像度ではGPU性能の影響で1%未満のコマ落ちが生じることがあるものの、上で解説したように適切なエンコード設定ができていれば、基本的には4K/60FPSで安定して出力できます。
OBSのプレビュー画面がコマ落ちするかどうか(60FPSをキープできるかどうか)は、GPUのグラフィック性能に比例するようので、OBSでプレビュー画面をできるだけ安定して表示したい場合は、Arc A770/A750などIntelの上位モデルを選ぶ必要があります。もしくは、GeForce RTX 4070やRadeon RX 7700 XTのような他社のより高性能なGPUを。
ただ、極端な例を出すとGeForce RTX 4090でも4K解像度/60FPSのゲーム画面をOBSにプレビュー表示するとコマ落ちしてカクつくことがあるので、OSBソフトウェア側やWindowsデスクトップ表示側の問題も多分に含まれています。
高性能な上位GPUを用意すれば完全に解消できるかというと、そういうわけでもないので、その点も注意してください。
Intel Arc Aシリーズ HWエンコーダの画質検証方法
上で簡単に紹介したようにArc A310/A380でも4K/60FPSの録画・配信はできることは前提として、ここからは「SPARKLE Arc A310 ECO / A380 GENIE」などIntel Arc AシリーズGPUのハードウェアエンコーダのエンコード品質はどうなのか、H.264とHEVCとAV1の圧縮方式による比較だけでなく、NVIDIA製GPUのNVEncなど他社製エンコーダとも画質を比較します。
GPU HWエンコーダのエンコード品質の比較方法としてゲーム実況・配信を想定するなら、Arc Controlの録画・配信機能やOBS Studioで録画したものを直接比較するのがベストなのですが、
・ビデオキャプチャボードや出力側の問題でフレームスキップが生じる可能性がある
・OBS Studioは4K解像度でフレームスキップが生じやすい(統計機能に反映されず)
・録画のフレーム数やタイミングを揃えるのが困難
などGPUハードウェアエンコーダを比較する上では不都合がいくつかあります。
そこで今回は、事前に作成した動画をソースとして、コマンドラインによるGPU HWエンコーダを使用したエンコードソフトNVEncC(NVIDIA)、VCEEncC(AMD)、QSVEncC(Intel)でエンコードした動画を比較する形を採用しています。
ソース動画としてGeForce RTX 4090でOverwatch2とHorizon Forbidden Westを4K/60FPSでプレイし、NVIDIA ShadowPlayを使用してH.264形式、250Mbpsの設定で録画しました。エンコード画質の定量比較としてSSIMやVMAFを算出する時のリファレンスもこの動画です。
前章のOBSにおける設定で簡単に説明した通り、コマンドラインソフトによるエンコードで1.5~2.0倍以上のエンコード速度があればOBSでもエンコードラグによるコマ落ちは生じないので、100~120FPS以上になるようにエンコードオプションを設定しています。
具体的には下記の通りで、H.264/HEVC/AV1で共通ですが圧縮方式に依らずフレームレートは上記水準をクリアしています。
映像ソースは全て4K/60FPSの動画ファイルなので、フルHD出力の場合はコマンドオプションで、–output-res 1920×1080を追加しています。
- Intel QSV フルHD:-u 1 –profile main -b 3 –cbr [X]
- Intel QSV 4K:-u 3 –profile main -b 3 –cbr [X]
- NVIDIA NVEnc フルHD:–preset P7 –profile main –multipass none -b 2 –cbr [X]
- NVIDIA NVEnc 4K:–preset P4 –profile main –multipass none -b 2 –cbr [X]
- AMC VCE フルHD:-u slow –cbr [X]
- AMC VCE 4K:-u balanced –cbr [X]
(AMDはAV1のみ –screen-content-tools palette-mode=on –aq-mode none)
エンコード品質とエンコード速度のバランスを指定する”–Preset(-u)”については、コマンドソフトとOBSともに7段階で表示されますが前後する設定が実は中身は同じ、ということもあります。
一例としてIntel QSVのHEVCは1/4/7の3段階しかなく、1/2は1:Slowest(最高画質)、3/4/5は4:Balanced.6/7は7:Fastest(最低画質)で動作します。
NVEncについてはOBSでマルチパス、Look-ahead、心理視覚チューニング(–aqや–aq-temporal)のオプションにも対応していますが、定量比較や目視で差があまりない一方、GPU負荷(FPS低下)は上がる傾向だったので今回は省略しています。
Intel Arc AシリーズのAV1をH264と画質比較
Intel Arc AシリーズのHWエンコーダ画質について、まずは分かり易いところから、Intel QSVのH.264とAV1の比較です。
上で説明した通り、圧縮方式以外のエンコードオプション、特に影響の大きいエンコード品質設定とビットレートは揃えていますが、フルHD解像度/6MbpsにおいてOverwatch2のようなFPS系ゲームでも、Horizon Forbidden Westのようなフォトリアルな高画質ゲームのどちらも、ブラインドテストでも余裕で見分けられるくらいにAV1とH.264には差があります。
同じビットレートのAV1とH.264はハッキリと見分けが付きますが、AV1を1.5倍のビットレートのH.264と横並びにするとブラインドでは見分けが難しい感じになるので、配信で一般的なフルHDの6~10Mbpsにおいて”AV1の圧縮性能はH.264比で1.5倍のビットレート”と言ってもいいと思います。
ゲーム実況で定番のTwitchは今回の検証同様に6Mbpsがビットレートの上限ですし、帯域上限の高いYouTubeでもせいぜい9~12MbpsなのでH.264でフルHD映像を綺麗に見せるにはやや不足します。フルHD映像を綺麗に、かつ低ビットレートに圧縮して配信したいならAV1を採用する価値は確実にあります。
Twitchは配信プラットフォームがまだ対応していないのでAV1による配信はできませんが、クローズドベータ(OBS&NVEnc)が実施されていることからも今後の対応はほぼ確実ですし、すでにYouTubeではIntel QSVのAV1による配信が可能です。
4Kなど高解像度の配信ならAV1はH264の2倍も高画質
続いて4K(3840×2160)の高解像度で配信する時の圧縮品質について見ていきます。
フルHDでも最新の圧縮方式 AV1と現在でも最も普及しているH.264には大きな差がありましたが、圧縮品質の差が特に顕著に現れるのは4Kなど高解像度になった時です。
フルHD解像度の6MbpsはH.264でも”視聴に耐える”程度の画質はキープできているものの、4K解像度の10MbpsはH.264ではブロックノイズが酷く、ゲーム実況等のリアルタイム配信で提供するのは厳しい画質です。
最新の圧縮方式であるAV1にすると特に4Kではブロックノイズが大幅に軽減され、細かい文字やディティールの再現性が高まります。
YouTube Liveの公式ガイドにおいて4K/60FPSでライブ配信する時のH.264推奨ビットレートが35Mbpsに対して、今回の検証は10Mbpsなのでかなり強く圧縮していますが、AV1なら視聴に耐える仕上がりです。
フルHDなど標準的な解像度ではビットレートに対する圧縮品質は最大で1.5倍程度、動きの小さいシーンだと体感的に1.2~1.4倍程度の差に縮むこともあるのですが、逆に、4K解像度の配信を10~20Mbps程度の帯域に制限される状況で行う場合、H.264はビットレートを上げても圧縮方式的に限界があってブロックノイズを低減しきれません。H.264では1.5倍の15Mbpsにビットレートを増やしても10MbpsのAV1と動画の目視で見分けがつきます。
そういう条件だとAV1の圧縮品質はH.264を2倍以上も上回る、と言っても過言ではなく、インターネット回線の上り下り速度的に現実的な15~20Mbpsで十分な画質を維持できることを考えると、フルHDなら高画質を実現するオプションであるのに対して、4Kの高解像度で配信するならAV1は必須だと感じました。
少し補足すると、AV1とHEVCはどちらもH.264と横並びで比較してブラインドで見分けられるくらいハッキリとした差があるのですが、正直なところAV1とHEVCの判別は結構難しいです。
AV1は『HEVCとベース部分の圧縮品質はほぼ同じで、HEVCでノイズや破綻が出やすい動きがかなり大きいシーンのワーストケースが良くなった』という感じなので、SSIM・VMAF等の定量比較や抜粋したスクリーンショットでは差が確認できても、動画として等倍速で見てAV1とHEVCを判別できるかと言われると個人的には自信がありません。
ただ配信されている動画で気になった箇所をスローやポーズしてチェックする人もいると思いますし、厳密に比較すればAV1がHEVCの上位互換な画質であることは間違いないので、4Kなど高解像度の配信でどちらがオススメかと言われればやはりAV1です。
Intel製GPUはNVEncと比較してどうなのか
続いてIntel QSVの画質はNVIDIA NVEncやAMD VCEと比較してどうなのか見ていきます。
PCゲーム用グラフィックボードとして国内トップシェアのNVIDIA製GPUは当然、GPUハードウェアエンコーダとしても主流なので、やはりエンコード品質に優劣があるのかは気になるところです。
意外な検証結果になったので最初に箇条書きでまとめておきます。
- GPUメーカーの違いでAV1>HEVC>H.264の序列を下克上するような差はない
- エンコード速度はIntel、NVIDIAがほぼ同じで、AMDは少し遅い
- SSIM/VMAF等の定量比較、目視の抜粋スクショ比較ではIntel QSVが最も圧縮品質が高い
- 圧縮品質とエンコード速度はIntelとNVIDIAはほぼ同じくらいだが、AMDは少し劣る
まず大前提としてIntel/NVIDIA/AMDのGPUメーカー別(それぞれ2024年最新モデル)でGPU HWエンコーダの圧縮品質を比較した時に差はありますが、『AV1>HEVC>H.264』という圧縮方式の差を覆すような差はありませんでした。
またSSIM/VMAF等の定量比較や、動画から抜粋したスクリーンショットの目視比較でGPUメーカー別の差は確認できるものの、圧縮方式とビットレートが同じなら、ちゃんと動きのある動画として見た時にIntel/NVIDIA/AMDをブラインドで見分けるのは困難です。
ここまで見てきたようにAV1 vs H.264や1.5倍のビットレートのような差がGPUメーカー別で存在するわけではありません。
上記のような大前提はあるものの、同じ圧縮方式とビットレートにおいてSSIM/VMAF等の定量比較や、動画から抜粋したスクリーンショットの目視比較を行うと、圧縮品質については『Intel≧NVIDIA>AMD』という結果でした。
上記のような圧縮品質の序列に対して、エンコード速度でもIntel製GPU(Arc A)とNVIDIA製GPU(GeForce RTX40)と比べて遅かったので、3社製品の中ではAMD製GPU(Radeon RX 7000)のGPU HWエンコーダは一段劣るという印象です。
フルHD/60FPSはもちろん、4K/60FPSでリアルタイムにエンコードできる性能はあるのでゲーム配信なら問題ありませんが、『動画データを保管用に高画質・高圧縮でエンコードし直したい』、『動画編集等で細かく出力するのでエンコード速度が必要』のように映像に対するリアルタイム性を求めない用途だと、AMD Radeon RX 7000シリーズGPUよりもIntel Arc AシリーズGPUやNVIDIA GeForce RTX 40シリーズGPUのほうが最適だと思います。
Intel Arc AシリーズGPUとNVIDIA GeForce RTX 40シリーズGPUについては、予算をどれだけ出せるか、動画編集でどれくらい性能を必要とするか、で住み分ける感じになると思います。
コスパ重視なら1~3万円台があるIntel Arc AシリーズGPUが有力ですし、4K動画編集など性能重視ならやはりNVIDIA GeForce RTX 40シリーズGPUが強いです。
レビューまとめ
最後に「SPARKLE Intel Arc A310 ECO」と「SPARKLE Intel Arc A380 GENIE」を検証してみた結果のまとめを行います。簡単に箇条書きで以下、管理人のレビュー後の所感となります。
良いところ
- Intel Arc AシリーズGPUの中で安価なエントリーモデル
- 4K解像度のマルチデスクトップに十分なGPU性能
- ビデオ出力はMiniDP2.1×2、HDMI2.0×1の3系統
- 高圧縮かつ高画質な次世代コーデックAV1のハードウェアエンコードに対応
- 【A310 ECO】 PCIEスロット 1スロットに収まるスリムサイズ
- ロープロファイル対応、TGP75W未満でPCIE補助電源も不要
- 【A380 GENIE】 フル負荷もでノイズレベル40dB以下で十分に静音
- 【A310 ECO】 国内販売価格は税込み1.5万円程度
- 【A380 GENIE】 国内販売価格は税込み1.8万円程度
悪いところor注意点
- 最新3Dグラフィックのゲームをプレイするのには不向き
- 【A310 ECO】 ファン速度が細かく変動するのでファンノイズが耳障り
- 【A380 GENIE】 ロープロよりもGPUクーラーが10mm弱程度だが幅が広い
- ロープロブラケット換装にクーラーの分解が必要(分解しても物損がなければ保証継続)
「SPARKLE Intel Arc A310 ECO」と「SPARKLE Intel Arc A380 GENIE」の最大の魅力はやはり、1万円台で購入できるエントリークラスGPUながら、内蔵ビデオプロセッサとしてXe Media Engineを搭載し、高画質かつ高圧縮な次世代コーデックAV1のハードウェアによるエンコードとデコードをサポートするところです。
2024年現在、AV1ハードウェアエンコードはNVIDIA GeForce RTX 40やAMD Radeon RX 7000の次世代GPUもサポートしていますが、最も安価なGeForce RTX 4060やRadeon RX 7600でも4~5万円を超える高価なGPUとなっており、1万円台の価格帯でAV1に対応するIntel Arc A380やIntel Arc A310は貴重な存在です。
またIntel Arc Aシリーズは価格面で優れているだけでなく、今回の検証結果ではフルHD 6Mbpsや4K 10~20MbpsにおいてHWエンコーダの画質(圧縮品質)でもNVIDIA NVEncを上回りました。筆者も検証前まではNVEncが一番高画質という先入観があったので結構驚きました。
ゲームプレイには不向きですが、Intel Arc A310/A380は、PlayStation 5やXbox Series X|S、最新高性能グラフィックボードを搭載したゲーミングPCのゲーム映像をビデオキャプチャで取得して録画・配信する分には4K/60FPSを扱うのにも十分な性能を備えています。
- ゲーム機の配信にウェブカメラ・デジタル一眼カメラの自撮り等を重ねたい
- PC 1台でプレイ&録画・配信はFPSが下がるので2台環境を構築したい
- ゲーム実況の配信画面をリアルタイムアップロードするだけ
- 録画した動画の編集はプレイ用の高性能ゲーミングPCで行う
こういった条件で録画・配信専用のサブマシンに搭載するグラフィックボードとしては十分かつ高コストパフォーマンスな製品です。
言うまでもないことですが、Intel Arc A310/A380はエントリークラスGPUなので、自前で3Dグラフィックを描画するとなると最新モバイル向けCPUに搭載されるiGPUに多少毛が生えた程度の性能しかありません。
PCゲーミング向けグラフィックボードとしてNVIDIA GeForce RTX 4060やAMD Radeon RX 7600がゲーム制作側にとってもターゲットになりつつある2024年現在に、最新PCゲームをプレイするには不向きです。
また録画した動画の編集もするとなると、やはりGPU性能は不足します。動画編集の快適な動作にはArc A750/770など上位モデルが必要になる点も注意してください。
以上、「SPARKLE Arc A310 ECO / A380 GENIE」のレビューでした。
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「SPARKLE Intel Arc A310 ECO」と「SPARKLE Intel Arc A380 GENIE」をレビュー。
NVEncよりも高画質!? エントリークラスGPUに搭載されるAV1対応ハードウェアエンコーダは4K/60FPSのゲーム配信を行う支援デバイスとして活用できるのか徹底検証https://t.co/AD7DaaDKud— 自作とゲームと趣味の日々 (@jisakuhibi) April 22, 2024
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