GeForce RTX 4070 Ti SUPERグラフィックボードとしてMSIからリリースされた、3スロット占有3連ファンGPUクーラーTRI-FROZR 3を搭載し、大幅なファクトリーOCも施されたゲーミングモデル「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」をレビューしていきます。
RTX40シリーズのアッパーミドルRTX 4070 Ti SUPERが、前モデルRTX 4070 Tiや前世代同クラスRTX 3070 Tiをどの程度上回り、価格帯で競合するRadeon RX 7900 XTにどれくらい迫るのか、実ゲームのベンチマークでグラフィック性能を徹底比較します。
製品公式ページ:https://jp.msi.com/Graphics-Card/GeForce-RTX-4070-Ti-SUPER-16G-GAMING-X-SLIM-WHITE
MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE レビュー目次
1.MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEの外観
2.MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEの分解
3.MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEの検証機材・GPU概要
4.MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEのゲーム性能
5.MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEの温度・消費電力・ファンノイズ
6.MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEのレビューまとめ
【機材協力:MSI Japan】
MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEの外観
早速、「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を開封していきます。
外パッケージの中には黒色段ボールの内パッケージが入っており、マニュアル類の入った紙製ケースとスポンジ蓋を外すと、スポンジスペーサー&静電防止エアパッキン袋という一般的な梱包でグラフィックボード本体が鎮座していました。
マニュアルや保証書等以外の付属品はGPUホルダー、PCIE5.0電源変換ケーブル(12VHPWR to PCIE 8PIN×2)です。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」のグラフィックボード本体を見ていきます。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」のGPUクーラーの外装はプラスチック製ですが、清潔感のあるホワイトをベースにシルバーのプレート部分はスチールのようなマットな塗装が施されており、中央のツメ跡を模したクリスタルラインなど安っぽさは感じない外観です。
MSIのGamingシリーズと言えばブランドロゴにもなっているドラゴンを模した造形が1つの特長でしたが、代を重ねるごとにその要素は薄くなり、RTX40世代では流行に合わせ、かなりシンプルな作りになっています。
グラフィックボード側面のプレートにはMSIテキストロゴとMSIゲーミングブランドを象徴するドラゴンマークがあり、ARGB LEDイルミネーションが内蔵されています。
専用アプリケーション MSI Mystic Light Syncを使用すれば、同社製マザーボードなど対応機器と同期させてライティング制御が可能です。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」は全長307mmです。近年主流なオープンスペースタイプのPCケースなら干渉の心配はありませんが、PCケースフロントにストレージベイがある少し古めのPCケースではグラフィックボード設置スペースのクリアランスに注意が必要です。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」は基板とGPUクーラーがPCIブラケットから20mm弱ほどはみ出しているのでPCケースとの干渉は十分に注意してください。PCケースとの干渉ではグラフィックボードの背の高さは長さに比べて見落としやすいポイントです。
なおPCIE補助電源は基板の端から引っ込んでいるので、PCIE補助電源コネクタや電源ケーブルの干渉については心配ないと思います。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」の3連ファンGPUクーラーはTRI-FROZR 3と名付けられており、95mm径の冷却ファンが計3基設置されています。『左と中央』および『右』は2系統で個別に制御が可能です。
TRI-FROZR 3の冷却ファンには5世代目となりさらに改良された新型ファン TORX FAN 5.0が採用されています。
TORX FAN 5.0では3枚のファンブレードを円弧を描く外周リングで一体化することで、スリムで振動しやすいファンブレードを安定させ、静圧を向上、ブレによるノイズの低減を実現しています。また軸受けには高耐久性なダブルボールベアリングが採用されています。
TORXFAN 5.0は外周リングによって補強されたファンブレードによって、前世代TORX FAN4.0よりも高い性能を実現しており、一般的なリングブレードファン(AxialFan)と比較して、20%以上も高い静圧と風量を実現しており、TGP450Wクラスに対応すべくさらに高密度になったヒートシンク放熱フィンへ十分なエアフローを供給できます。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」は大型放熱フィンを採用したヒートシンクが搭載されており、PCIEスロットを3スロット占有します。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」は補助電源コネクタとして、16PIN(12+4PIN)でPCIE5.0補助電源と呼ばれることの多い、最新電源コネクタ 12VHPWRを1基搭載しています。RTX 4070 Ti SUPERとしては一般的なPCIE補助電源の構成です。
グラフィックボード側12VHPWRコネクタは、挿入不足(による電源コネクタ溶解)を防止するためSENSEピンが短くなったマイナーアップデート”12V-6×2”が採用されていました。
12VHPWRに対応した電源ユニットと組み合わせた場合、電源ケーブル1本だけでスマートに配線が可能です。
12VHPWRに対応する電源ケーブルが付属する自作PC向け電源ユニットは2024年1月現在では数は増えているものの、数年前のグラフィックボードを搭載した既存環境からのアップグレードとなると当時の電源はネイティブ対応できないケースが大半になるはずです。
ただ、「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」には現在主流なPCIE 8PIN補助電源に変換するケーブルが標準で付属しています。
この変換ケーブルを使用することで、従来のPCIE 8PINを2基以上使用できる電源ユニットやPCシステムであれば「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を組み込むことが可能です。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」のPCIE端子と各種ビデオ出力には黒色の保護カバーが装着されています。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」のビデオ出力はリファレンス仕様と同じくHDMI2.1×1、DisplayPort1.4×3の4基が実装されています。
MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEにはGeForce RTXロゴとドラゴンマークのブランドロゴが白色で刻印されたマットシルバーのアルミニウム製バックプレートを搭載しています。
基板の反りや破損を防止する保護プレートとしての役割を果たしますが、金属製ではあるものの基板との間にサーマルパッドがないので冷却補助にはなっていません。
1kg超へと大型化(大重量化)していくGPUクーラーでも、GPUコアとクーラーベースコアが適切な圧力で密接するように、板バネ構造のリテンションバックプレートも「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」には採用されています。
バックプレート右端にはファン1.5基分のエアスリットが設けられており、ファンからヒートシンクを通って背面に直接風が抜けるフロースルー構造も採用されています。
グラフィックボードの重量はMSI GeForce RTX 4070 GAMING X TRIO 12Gが1231g、PINNO3D GeForce RTX 4070 Ti SUPER TWIN X2 OC WHITEが871gに対して、MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEは1095gでした。
バックプレート等で基板の反りは防止されているものの、グラフィックボードの重量は1kgを大きく超過しているのでPCIEスロットへの負荷が心配ですが、「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」には標準で専用GPUホルダーが付属するので、PCIEスロットへの負荷や垂れ下がりの点でも安心です。
下の写真は旧モデルですが、付属GPUホルダーはこんな感じで使用します。
MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEの分解
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を分解してGPUクーラーやグラフィックボード基板についてチェックしていきます。
なお今回は自己責任で(もしくはレビュー用サンプル貸出先の協力のもと特別に許可を頂いて)分解を行っています。GPUクーラーの取り外し(分解行為)は、一部を除く多くのメーカーではグラフィックボードの正規保証の対象外になる行為です。
今回はレビューのために分解していますが、繰り返しますが保証対象外になるので基本的には非推奨の行為なのでご注意下さい。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」のバックプレート上、8個のネジを外すと、バックプレートを取り外すことができます。
バックプレートは金属製ですが、基板との間にはサーマルパッドはなく放熱板としての役割はありません。単純にGPUクーラーの保持や基板の反り防止の役割です。
さらにGPUコア周辺、リテンションバックプレートの4個のネジを解除するとGPUクーラーが取り外せます。
GPUクーラーはア周辺4カ所と、バックプレート上の8か所の計12個のネジによって厳重に固定されていました。3スロットを占有する大型GPUクーラーでも安心な固定状態です。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」にはMSI独自設計のオリジナル基板が採用されています。
RTX 4070 Ti SUPERのGPUコアにはAD103-275-A1が使用されていました。
GDDR6Xメモリは今のところ1社しか量産していないのでMicron製。今回入手した「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」にはMicron製の16GbのGDDR6Xメモリチップが表面に8枚搭載されています。
RTX 4070 Ti SUPERには上位モデルRTX 4080と共通のGPUダイ AD103(そのカット版)が採用されており、RTX 4070 Ti無印や下位モデルRTX 4070、RTX 4070 SUPERのAD104と比較するとGPUダイが巨大になっているのは見ての通りです。
またVRAMも12GBから16GBに増量されているのでチップ枚数も8枚に増えていますが、VRAMのトータル帯域に影響するバス幅が192-bitから256-bitに拡張されています。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」のVRM電源回路はGPUコアの左側にGPUコア向け10フェーズ、VRAM周辺にVRAM向け2フェーズで計12フェーズが実装されています。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」のGPUクーラー本体をチェックすると、GPUコアと接するコアは銅製ベースプレートが採用され、ベースコアからは6本の銅製ヒートパイプが伸び、アルミニウム製放熱フィンが3スロットスペース内いっぱいに展開されています。
GPUコアと接する部分には冷却性能の高さで定評のある銅製ベースプレートが採用され、ニッケルメッキ処理も施されています。完全鏡面というほどではありませんが、接触するくらい近くにあるものなら反射する程度には綺麗に平滑化されています。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」のGPUクーラーでは銅製ベースプレートが採用されていますが、ヒートパイプで形成されるコア部分にも独自の工夫があります。
ヒートパイプのコアを成す部分が四角形に成型されヒートパイプ同士が密接しており、この構造はTRI FROZR 3の高い冷却性能を支える設計で「Core Pipe」と呼ばれています。
またGPUコア周辺のVRAMチップやVRM電源回路はヒートシンクにろう付けされた金属製プレートとサーマルパッドを介してヒートシンク本体で直接冷却するという理想的な構造です。
GPUコアと接するベースコアから伸びた6本のヒートパイプによって3スロットを占有する大型放熱フィン全体へ熱を拡散します。
ベースプレートから伸びる6本の銅製ヒートパイプによって3スロットを占有する大型GPUクーラー内部いっぱいに展開された極厚なアルミ製放熱フィンの迫力も圧巻です。
放熱フィンの設計も工夫されており、放熱表面積を拡大し、なおかつ冷却を要する場所へ的確にエアフローを送るデフレクタ構造(deflector、整流装置)、気流を分割して風切り音を低減しノイズを抑える波状に湾曲したフィン構造Wave-curved 2.0などが採用されています。
MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEの検証機材・GPU概要
外観やハードのチェックはこのあたりにして早速、「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を検証用の機材に組み込みました。テストベンチ機の構成は次のようになっています。
テストベンチ機の構成 (ゲーム性能検証) |
|
OS | Windows11 Home 64bit |
CPU | Intel Core i9 14900K (レビュー) |
CPUクーラー | Fractal Design Celsius S36 (レビュー) Noctua NF-A12x25 PWM (レビュー) |
メインメモリ | G.Skill Trident Z5 RGB F5-7200J3445G16GX2-TZ5RK DDR5 16GB*2=32GB (レビュー) 7200MHz, 34-45-45-115 |
マザーボード | ASUS ROG MAXIMUS Z790 HERO (レビュー) |
システムストレージ | Samsung SSD 990 PRO 1TB (レビュー) |
ゲームストレージ | Samsung SSD 870 QVO 8TB (レビュー) |
電源ユニット | Corsair HX1500i (レビュー) |
ベンチ板 | STREACOM BC1 (レビュー) |
ベンチ機のCPUには2024年現在ゲーミングシーンで最速CPUである「Intel Core i9 14900K」を使用しています。
近年では4K解像度・高画質設定の60~120FPSでもCPUボトルネックが生じるリッチグラフィックなゲームが増えています。
検証機材に使用しているCore i9 14900Kを始めとして、Intel第13/14世代CoreのK付き倍率アンロックモデルはそういったCPUバウンドな高画質ゲームでも旧世代CPUと比較して高い性能を発揮できるので、グラフィックボードを最新世代に買い替えるならGPUランクに合わせてCPUもアップグレードするのがオススメです。
・ゲームに最適なIntel製CPUはどれか、Core i9 14900Kと徹底比較
ベンチ機のシステムストレージには「Samsung SSD 990 PRO 1TB」を使用しています。
Samsung SSD 990 PROは、PCIE4.0対応SSDで最速クラスの性能を発揮し、なおかつ電力効率は前モデル980 PRO比で最大50%も向上しており、7GB/s超の高速アクセスでも低発熱なところも魅力な高性能SSDです。これからPCIE4.0対応プラットフォームの自作PCを組むなら、システム/データ用ストレージとして非常にオススメな製品です。
・「Samsung SSD 990 PRO 1TB」をレビュー。性能も電力効率もトップクラス!
ベンチ機のシステムメモリには、Intel第13世代CPU向けメモリとしては4xメモリスロットのマザーボードでも動作可能な最速クラスの製品、メモリ周波数7200MHz/CL34の高メモリクロックかつ低レイテンシなメモリOCに対応した「G.Skill Trident Z5 RGB(型番:F5-7200J3445G16GX2-TZ5RK)」を使用しています。
G.Skill Trident Z5シリーズはIntel XMP3.0のOCプロファイルに対応した製品となっており、6000MHzの定番設定なモデルもあり、Intel第13世代CPUで高性能なPCを構築するお供としてオススメのOCメモリです。
ARGB LEDイルミネーションを搭載したバリエーションモデル G.Skill Trident Z5 Neo RGBもラインナップされています。
・「G.Skill Trident Z5 RGB」をレビュー。XMPで7200MHz OCに対応!
MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEのGPU概要
MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEに搭載されているGPU「GeForce RTX 4070 Ti SUPER」のスペックについて簡単に確認しておきます。
「GeForce RTX 4070 Ti SUPER」はAD103-275コアが使用されておりCUDAコア数は8448、GPUコアクロックはベース2340MHz、ブースト2610MHzです。VRAMには従来よりも高速な21.0GbpsのGDDR6Xメモリを16GB容量搭載しています。メモリーバス幅は256bitなのでメモリ帯域は672GB/sです。
典型的なグラフィックボード消費電力を示すTGPは285Wに設定されており、PCIE補助電源として最新規格のPCIE5.0補助電源(12VHPWR)を要求します。なお基本的に変換ドングルが付属するので、既存のPCIE補助電源8PIN×2~3にも対応します。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」については、リファレンス仕様値2610MHzに対してブーストクロック2670MHzへファクトリーOCが施されています。パワーリミット(TGP)はリファレンス仕様と同じ285Wですが、手動設定によって+7%で最大305Wまで解除が可能です。
GPUコアの増強、コアクロックの高速化といった3Dグラフィックス関連の強化に加えて、「GeForce RTX 4070 Ti SUPER」などGeForce RTX 40シリーズの新たな特長としてハードウェアエンコーダに最新の第8世代NVEncが実装されています。
第8世代NVEncはAV1コーデックのエンコードに対応したところが、RTX 30シリーズの第7世代NVEncとの大きな違いです。(AV1コンテンツのデコード/再生はRTX 30シリーズですでに対応済み)
映像編集ソフトではDavinci Resolve、ビデオキャプチャソフトではOBS Studioなどが最新バージョンにおいてGeForce RTX 40シリーズによるAV1エンコードに対応しています。
AV1は従来のH.264(x264)よりも40%程度も圧縮効率に優れており、OBS Studioの場合、従来のH.264(x264)形式によってフルHD解像度で作成したコンテンツも、同等のビットレート、同等の映像品質で、AV1形式ならWQHD解像度にできます。
また「GeForce RTX 4070 Ti SUPER」などGeForce RTX 40シリーズの上位モデル(RTX 4070 Ti以上)は従来との大きな違いとしてハードウェアエンコーダNVEncが”2基”実装されているところも大きな注目ポイントです。
2基の最新NVEncが実装されているので、Davinci ResolveなどデュアルNVEncによる書き出しに対応した映像編集ソフトではRTX 30シリーズと比較して2倍以上高速になります。
レイトレーシング&DLSS SR/FGについて
レイトレーシング表現やDLSSについて簡単に紹介しておきます。
レイトレーシング(Raytracing)とは3Dグラフィックスのレンダリング手法の1つであり、現在主流なラスタライズ方式とある種の対になる言葉です。
レイトレーシングだけで3Dグラフィックスを全て描画しきるのはGPU性能的に現実的ではないので、ベースは従来のラスタライズ方式で行い、鏡面反射などエフェクトにレイトレーシング方式を使う、というハイブリッドなレンダリング方式が現在のレイトレーシング対応PCゲームの主流です。
レイトレーシング表現では、照明や光源(エリアライト)や太陽光(グローバルイルミネーション)の影響を厳密に再現し、光の反射や透過も現実に即して忠実に描写されます。
レイトレーシングを採用したわかりやすい例としては鏡に映る反射など、視覚(視点から見た)の外にある物体もリアルに描画することができます。小さい光源や太陽光などが生み出す影、反射によって生まれる光が現実に対して忠実に再現されるので、画面の中に引き込まれるような奥行き、陰影を感じる映像が生まれます。
なお高画質機能 Raytracing(レイトレーシング)はMicrosoftが提供するAPI”DirectX 12”内包されるDirectX Raytracing(DXR)を使用したレンダリング機能となっており、後述のDLSSと違ってNVIDIA独自技術というわけではなく、AMD/Intel製グラフィックボード、PlayStation 5やXbox Series S/Xといったコンソールゲーム機にも互換性のある機能です。
下はPlayStation 5のMarvel’s Spider-Man Remasteredでレイトレーシング表現のオン/オフを比較したものですが、オフでは鏡面になっている窓ガラスにスパイダーマンの身体の鏡像がないだけでなく、風景の反射も反対側と比較してデタラメなのが一目瞭然です。
「NVIDIA DLSS」は”Deep Learning Super Sampling”の頭文字を取った略称となっており、その名の通り、近年流行りのディープラーニングによって高画質化(超解像化)する機能で、AIレンダリングの名前でもアピールされています。
DLSSが具体的にどのように動作するか簡単に説明すると、フルHD~WQHDのリアルタイムレンダリングソースから4K映像を生み出すDLSSの原型があります。このDLSSの原型が作り出した4K映像を、16Kなど現実的にはリアルタイムでのレンダリングが難しい超々高解像度のレンダリング結果を比較し、DLSSの原型の改良版1をNVIDIAの専用サーバーが作ります。
DLSSの原型の改良版1で再び4K映像を生み出し、16Kレンダリング結果と比較して、DLSSの原型の改良版2を生み出す……、というプロセスを何万回も繰り返すことで、ユーザーに提供される汎用の、もしくは個別ゲームタイトルに特化した専用のDLSSプロファイルが出来上がります。
GeForce RTX 30シリーズの登場と共にアップデートされたDLSS2.0では最終出力解像度に対して3種類のオリジナルレンダー解像度が選択でき、4K解像度の場合は、Quality(2560×1440)、Balanced(2240×1260)、Performance(1920×1080)の3種類から選択できます。
オリジナルのレンダー解像度がフルHD~WQHDなので、DLSSによる超解像(SuperSampling)プロセスを挟むとはいえ、ネイティブに4K解像度をレンダリングするよりもフレームレートは大幅に向上します。
現在のDLSSでは16Kレンダリング結果を目標に学習が繰り返されているので、高画質アンチエイリアス技術として一般的なTAAと比較してフレームレートが大幅に向上するだけでなく、画質も改善するという一挙両得な高画質化機能になっています。
フルHDやWQHDのレンダリングソースを高品質な4K解像度に超解像化することから始まったDLSSですが、この超解像機能(DLSS SR:Super Resolution)に加えて、GeForce RTX 40シリーズが対応する最新バージョンの”DLSS 3”ではAI中間フレーム生成機能 Frame Generationが追加されたのが大きなトピックです。
中間フレーム生成というと、倍速補間などと呼ばれることの多いテレビの高画質化機能が有名ですが、テレビの倍速補間は完成した映像フレームを2つ以上(一部のハイエンドテレビだと7つなど)をソースに中間フレームを作成しています。
ソースとなる映像フレーム数が多いほど生成される中間フレームの映像的な破綻はなくなりますが、遅延が大きくなるのでゲーム用途では到底実用できません。逆にソースとなる映像フレーム数を減らすと遅延は減りますが、単純なスクロールのような画面変化しか綺麗に補間できず、映像的な破綻が増えてしまいます。
一方、DLSS 3のAI中間フレーム生成機能 Frame Generationは、3Dオブジェクトの動きを正しく追跡できるMotion Vector(3Dオブジェクトのピクセル単位での位置や向きの履歴)に、影のような光エフェクトを正しく追跡できるOptical Flowを組み合わせることで中間フレームを生成しています。
中間フレームの生成方法が全く異なるので、DLSS 3は2フレーム(現在と1つ前)による補間と同等かそれ以下という低遅延で倍速補間を実行でき、急にポップするオブジェクトや影などの光エフェクトが破綻しにくい、という特徴があります。
現在のビルドではUIやテキストにノイズが生じやすいといった欠点はあるものの、超解像のDLSS SRも徐々に改良されていったのでDLSS FGも対応ゲームが増えるにしたがって補間品質もアップデートされていくはずです。
あとDLSS FGの副次的な効果として、中間フレームはGPUが単独で生成するので、CPUボトルネックで伸び悩むシーンでもフレームレートが向上するという効果もアピールされています。有名どころではMicrosoft Flight Simulatorが該当します。
DLSS Frame GenerationはOptical Flow Acceleratorという専用ハードウェアを使用しているので、現在、この機能を使用できるのはGeForce RTX 40シリーズに限定されています。(Optical Flow Accelerator自体は全く同じものかは不明ですがRTX 30シリーズにも存在するので、今後、対応GPUに加わる可能性があるかも)
また上記の通り、DLSS 3による倍速補間はそれそのものが遅延を生じにくい設計ですが、”DLSS 3対応”ならNVIDIA製GPU環境の低遅延技術 Reflexも含むことになっており、よりゲーム操作にラグを感じない低遅延な表示が可能です。
MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEのゲーム性能
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」の性能を測るべく各種ベンチマークを実行しました。性能比較には「GeForce RTX 4070 Ti」、「GeForce RTX 4070 SUPER」、「Radeon RX 7900 XT」、「GeForce RTX 3090」、「GeForce RTX 3070 Ti」を使用しています。
(特定のモデルや型番を指名していない場合、各GPUメーカーのリファレンスモデルもしくはリファレンス仕様のオリファンモデルです)
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を含めた各グラフィックボードについて、現在も採用ゲームの多いDirectX11のベンチマーク 3DMark FireStrikeによる比較になります。
![]() |
|||
FireStrike | Extreme | Ultra | |
RTX 4070 Ti SUPER MSI GAMING X SLIM |
57170 | 29327 | 14663 |
RTX 4070 Ti | 54095 | 26965 | 13360 |
RTX 4070 SUPER | 50355 | 27048 | 12231 |
RX 7900 XT | 60537 | 33056 | 16800 |
RTX 3090 | 47529 | 23676 | 12156 |
RTX 3080 | 42837 | 20927 | 10621 |
RTX 3070 Ti | 36531 | 18123 | 9163 |
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を含めた各グラフィックボードについて、最新タイトルでは採用が増えつつあるDirectX12ベンチマーク 3DMark TimeSpy、およびレイトレーシング表現に対応したベンチマーク 3DMark Port Royalによる性能比較となります。
![]() |
|||
TimeSpy | Extreme | Port Royal | |
RTX 4070 Ti SUPER MSI GAMING X SLIM |
24507 | 12074 | 15771 |
RTX 4070 Ti | 22883 | 10962 | 14174 |
RTX 4070 SUPER | 20686 | 9915 | 12951 |
RX 7900 XT | 25521 | 12556 | 13457 |
RTX 3090 | 19387 | 9828 | 13062 |
RTX 3080 | 17284 | 8581 | 11338 |
RTX 3070 Ti | 14915 | 7386 | 8945 |
続いて近年の最新PCゲームを実際に用いたベンチマーク比較になります。同一のグラフィック設定で同一のシーンについてフルHD(1920×1080)とWQHD(2560×1440)と4K(3840×2160)の3種類の解像度で平均FPSを比較しました。
最新タイトルでは専用ハードウェアによるレイトレーシング表現や、NVIDIA DLSS/AMD FSR/Intel XeSSといったAIを活用した超解像・倍速補間に対応したものも増えていますが、それらの機能は無効化し、ここでは従来のラスタライズ方式の3Dグラフィックス性能を比較しています。
ベンチマーク測定を行ったゲームタイトルは以下の15タイトルです。
- ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON (アーマード・コア6)
- Assassin’s Creed Mirage (アサシン クリード ミラージュ)
- Baldur’s Gate 3 (バルダーズ・ゲート3)
- Battlefield V
- CONTROL
- Cyberpunk 2077 (サイバーパンク2077)
- Far Cry 6
- FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE
- Forza Horizon 5
- God of War (ゴッド・オブ・ウォー)
- MONSTER HUNTER: WORLD (モンスターハンター:ワールド)
- Shadow of the Tomb Raider
- Tales of Arise (テイルズ オブ アライズ)
- UNCHARTED(アンチャーテッド): Legacy of Thieves Collection
- Watch Dogs Legion (ウォッチドッグス レギオン)
ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON (画質プリセット:最高、モーションブラー:オフ、被写界深度:高)に関する「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
なお、ARMORED CORE VIはゲームプレイ時の最大フレームレートは120FPSですが、独自にFPSアンロックしてベンチマーク測定を行っています。
Assassin’s Creed Mirage(最高設定プリセット、モーションブラー:オフ、適応品質:オフ、TAA:クオリティ)に関する「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Baldur’s Gate 3(ウルトラ設定プリセット)に関する「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Battlefield V(最高設定プリセット, DirectX12, レイトレーシング表現:オフ)に関する「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
なお、Battlefield Vはゲームプレイ時の最大フレームレートは200FPSですが、起動コマンドに”-GameTime.MaxVariableFps 0”を追加し、FPSアンロックしてベンチマーク測定を行っています。
CONTROL(高設定プリセット, DirectX12, レイトレーシング表現:オフ)に関する「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Cyberpunk 2077(ウルトラ設定プリセット, FSR:オフ, レイトレーシング表現:オフ)に関する「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Far Cry 6(最高設定プリセット, 高解像度テクスチャ:オフ, レイトレーシング表現:オフ)に関する「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE(テクスチャ解像度:高設定、シャドウ解像度:高設定、キャラクター表示数:10)に関する「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
なお、FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADEは、標準では最大フレームレートが120FPSですが、アンリアルエンジン4のiniファイルによるカスタム設定を有効にするMODのFFVIIHookを使用して『フレームレート制限なし』、『可変レンダリング解像度:オフ』、『モーションブラー:オフ』の設定を適用しています。垂直同期もGPUドライバから無効化しています。
Forza Horizon 5(エクストリーム設定プリセット, モーションブラー:オフ, レイトレーシング表現:オフ)に関する「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
God of War(ウルトラ設定プリセット, モーションブラー:オフ)に関する「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
MONSTER HUNTER: WORLD(最高設定プリセット, DirectX12)に関する「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Shadow of the Tomb Raider(最高画質設定プリセット, DirectX12, TAA, レイトレーシング表現:オフ)に関する「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Tales of Arise(最高設定, モーションブラー:オフ)に関する「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
なお、Tales of Ariseは、標準ではPlayStation 5やXbox Series Xのコンソールゲーム機版よりもオブジェクトや影の遠景描画が省略されているので、アンリアルエンジン4のiniファイルによるカスタム設定を有効にするMODのArise-SDKを使用して高画質化する設定を適用しています。
UNCHARTED: Legacy of Thieves Collection(ウルトラ設定プリセット, モーションブラー:オフ)に関する「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
Watch Dogs Legion(最大設定プリセット, DirectX12, レイトレーシング表現:オフ)に関する「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を含めた各グラフィックボードのベンチマーク結果です。
MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEなど6種類のGPUについて実ゲーム性能の比率の平均を出してみたところ、MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEは、前世代同クラスのRTX 3070 Tiを平均50%以上、前世代最上位のRTX 3090と比較しても平均20%近くも上回りました。
アッパーミドルクラスのナンバリングながら2024年最新ハイエンドGPUと考えても違和感のない優れた性能を発揮しています。
GeForce RTX 4070 Ti SUPERは前モデルRTX 4070 Tiと比較してCUDAコア数が10%程度増量された上位モデル(アップグレードモデル)なので、RTX 40シリーズの70番台が好適とするWQHD解像度において10%弱の性能向上となっています。
GeForce RTX 4070 Ti SUPERは上位モデルRTX 4080と同じGPUダイが採用されています。VRAM容量が16GBに増えたことに注目されがちですが、PCゲーミングなら4K解像度でも12GBで不足することは滅多にありません。
むしろ重要なのはメモリバス幅が192bitから256bitへ拡張され、VRAM帯域が大幅に増えているところです。RTX 4070 Ti無印ではVRAM帯域が4K高解像度ではボトルネックになっていたので、GeForce RTX 4070 Ti SUPERは平均10%程度、ベストケースでは15%以上の性能向上が期待できます。
RTX 4070 Ti無印と比較するとVRAM帯域(バス幅)の増強で4K解像度におけるスケーリングが強くなっていますが、RTX 3080、RTX 3090などバス幅が384bitの前世代ハイエンドが比較対象になるとやはり4K解像度でのスケーリングは鈍ってしまいます。
4K解像度にも強くなったとはいえ、やはり前世代からの買い替えで次世代相応の4Kゲーミング性能を期待するなら、超解像やAI中間フレーム生成のDLSS 3に頼る必要があると思います。
ちなみに競合AMDの最新GPUで同価格帯のRX 7900 XTと比較した結果が次のようになっています。
なお、AMD vs NVIDIAのGPU性能比較はスケーリングがやや複雑になり、比較に使用する検証タイトルの抜粋次第なので注意してください。
今回検証した15タイトルの4K解像度で言うと、RTX 4070 Ti SUPERとRX 7900 XTの優劣は±15%程度でタイトルによって入れ替わり、GeForce RTX 4070 Ti SUPERが平均して数%程度上回る結果になりました。
筆者の個人的な趣味(プレイするゲーム)に合わせてFF7R、テイルズアライズ、アーマードコア6などGeForceに有利なタイトルが混じっているため、優劣傾向が少しRTX 4070 Ti SUPERに寄っている感はあります。
Alan Wake 2、Hogwarts Legacy、Starfieldとかメジャーな高画質洋ゲータイトルを加えて比較データを増やした場合、『RX 7900 XTのほうがRTX 4070 Ti SUPERよりも数%程度は高速という評価』に落ち着くと思います。
前世代だと4K高解像度では広帯域なVRAMメモリでRTX 3080/3090が強く、WQHD以下の低解像度では実行帯域が広い大容量キャッシュでRX 6800/6900XTが強いという傾向でしたが、RX 7900 XT/XTXがVRAM帯域を増強したのに対して、逆にGeForce RTX 40シリーズは前世代比で最大16倍にキャッシュ容量を増強しています。RTX 4070 Ti SUPERの場合は48MBのL2キャッシュが実装されています。
大容量キャッシュによるアドバンテージがなくなったので、ハイフレームレートなフルHDではRTX 40が若干優位で、WQHD解像度ではイーブンくらいになり、VRAMのバス幅が狭いので4K解像度になるとRX 7000が盛り返していく、というのが最新ハイエンド帯の競合モデル同士で比較した時の傾向でした。
しかし、RTX 4070 Ti SUPER(48MB cache, VRAM 672GB/s, 256bit)とRX 7900 XT(80MB cache, VRAM 800GB/s, 320bit)の比較では、フルHDはほぼイーブン、WQHDでRX 7900 XTが優位、4KではRTX 4070 Ti SUPERが盛り返す(傾向としては逆転までいかないものの)という逆の傾向になったのは意外でした。
ともあれ、抜粋タイトル次第なのでこれくらいの性能差なら『性能は同等』と言っても良いと思います。
すると2024年2月現在の国内実売価格ベースで評価すると、RTX 4070 Ti SUPERは15万円前後から、RX 7900 XTは安価なモデルだと12万円台のものもあるので、799ドルと899ドルというMSRPに反して、RTX 4070 Ti SUPERのほうがコスパで劣るという状態です。
MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEの温度・消費電力・ファンノイズ
MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEの負荷時のGPU温度やファンノイズや消費電力についてチェックしていきます。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」のGPU温度とファンノイズの検証負荷としては約20分間に渡たり連続してGPUに100%近い負荷をかける3DMark TimeSpy(Extreme) Stress Testを使用しています。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」のテスト終盤におけるGPU温度は最大65度と十分に低く、ファン速度も最大1400RPMと低速です。
GeForce RTX 4070 Ti SUPERはTGP285Wで消費電力の大きいGPUですが、「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」のクーラーは3スロット占有の厚みがあり、高静圧な冷却ファンや銅製ベースプレートを採用する大型ヒートシンクによって、十分過ぎる冷却性能と静音性を実現しています。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」はアイドル時にファンが停止するセミファンレス機能に対応しており、GPU温度48度前後が始動閾値、GPU温度40度前後が停止閾値でヒステリシスも採用されています。製品によっては回転数が上下してふらつくことの多い始動や停止の直前も、閾値を上下した瞬間にピタッと切り替わります。
GPUコアクロックについて、今回入手した「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」の負荷テスト中の実動平均は2781MHzでした。
【補足】
コアクロック比較グラフはAIBモデル別の優劣を決めるための比較ではなく、特定のGPUがだいたいどの程度のコアクロックで動作するのか確認するために掲載しています。
AMD、NVIDIAともに最新GPUでは実動コアクロックはGPUコア個体毎に異なる内部設定のV-Fカーブが最も支配的なファクターです。加えて負荷中のGPU温度も5~10度刻みでブーストクロックの制御に影響します。
そのため、ファクトリーOCが施されたオリファンモデルの公式仕様値として公表されているブーストクロックは各メーカー内におけるOC耐性選別という意味で1つの指標にはなると思いますが、実動コアクロックの優劣にはあまり当てになりません。
今回検証している個体Aが他社AIBと比較して実動コアクロックが低くても、市場製品の個体Bは高い、個体Cは同程度…のように、本当に御神籤状態です。
GeForce RTX4090/4080など2022年以降のウルトラハイエンドGPUは4K解像度の高画質3Dグラフィックスをレンダリングする3DMark TimeSpy ExtremeでもMaxTGPにGPU消費電力が張り付かないので、レイトレーシング表現に対応した3DMark Speed Way(もしくはPort Royal)の4K解像度カスタム設定を負荷として20分間ループ再生する負荷テストも実行しました。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」の場合、TimeSpy Extremeと比較してSpeed Way 4Kでもグラフィックボード全体の消費電力は10W弱程度しか増加しません。そのためテスト終盤におけるGPU温度はやはり最大65度と十分に低く、ファン速度も最大1400RPMと低速です。
285Wのパワーリミットに対してTGP制御のソースになるGPU Powerは平均277W程度で推移しているので、今回の検証結果よりも大幅にGPU温度やファン速度が高くなることはないはずです。
また実用条件に近い冷却性能の検証として、実際にPCケースへ「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を組み込み、1時間に渡って負荷をかけた時にGPU温度やファン回転数がどうなるかを確認してみました。
検証するGPUランクによって負荷を変えており、通常は3DMark Time Spy(Extreme) グラフィックテスト1、一部のウルトラハイエンドGPUには3DMark Speed Way 4K(もしくはPort Royal 4K)をループ再生させ、各GPUがMaxTGPに張り付く状態を検証しています。
検証機材のPCケースには「Cooler Master MASTERCASE MAKER 5t」を使用しています。
CPUクーラーは120サイズ簡易水冷でラジエーターを天面前方に設置、またPCケースのフロントに吸気ファンとして3基とリアに排気ファンとして1基の140mm角ケースファンをそれぞれ設置し、ファン回転数は1000RPMに固定しています。
PCケースのエアフローファンには空冷ヒートシンク、水冷ラジエーター、PCケースエアフローの全ての用途で一般的な140mmサイズファンを上回る性能を発揮する「Thermaltake TOUGHFAN 14」を使用しています。140mmサイズファン選びに迷ったらこれを買っておけば問題ない、高性能かつ高静音性なファンです。
・「Thermaltake TOUGHFAN 14」をレビュー。最強140mmファンの登場か!?
PCケースに入れた状態で長時間負荷をかけると、「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」のGPUの最大温度は64度、ファン回転数は1500RPM程度でベンチ板上で測定した時と大差ありません。非常に優秀と評価していい冷却性能です。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」のGPUクーラーは内排気ファンということもありPCケースの吸排気を最適化しないと冷却効率が下がるので、フロントx3/リアx1で140mmファンを設置して1000RPMで回しています。実際にPCケースへ組み込むユーザーはPCケースの吸排気にも注意してみてください。
加えて1時間のストレステスト終盤にサーモグラフィカメラ搭載スマートフォン「CAT S62 PRO」を使用してゲーム負荷時のグラフィックボード上の各所の温度をチェックしました。
TGP300W超のグラフィックボードではVRM電源回路やPCIE補助電源付近がかなり高温になるモデルも散見されるのですが、「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」はホットスポットでも70~80度に収まっているので、運用上、特に心配する必要はありません。
MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEを含めていくつかのグラフィックボードについてサウンドレベルメーターを利用してゲーム負荷時のノイズレベルを測定・比較しました。
検証機材はベンチ台の上に平置きにしているので、サウンドレベルメーターをスタンドで垂直上方向に50cm程度離して騒音値を測定しています。
この測定方法において電源OFF時の騒音値は30dB未満です。目安として騒音値が35dBを超えたあたりからファンノイズがはっきりと聞こえるようになりますが、35~38dB以下であればPCケースに入れてしまえばファンノイズが気になることはそうそうないと思います。40dB前後になるとベンチ台上で煩く感じ始め、45dBを超えるとヘッドホンをしていてもはっきり聞き取れるくらいになります。
A特性で測定しているのである程度は騒音値にも反映されていますが、同じ騒音値でも周波数(ファン回転数)が高いほど体感としては大きな音に感じやすく、また不快に感じたり感じなかったりは音の性質(細かい乱高下の有無や軸ブレ)にもよるので注意してください。
ノイズレベルの測定結果は次のようになっています。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」は、3スロット占有というTGP300W超にも対応可能な大型GPUクーラーを搭載しているだけあって、TGP285WのGPUを冷やしていながらPCケース組み込み時でも1500RPM程度とファン速度が低速であり、ファンノイズは33dB以下という非常に優秀な数値を叩き出しています。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」に採用されているTORX FAN 5.0はノイズレベルだけでなく体感的にもファンノイズを煩く感じにくい特長があり、1500RPM程度でも、PCケースに組み込んでしまえば、ファンが動作音を聞き分けるのも難しいくらいの静音性です。
MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITEの消費電力と瞬間的な最大電源負荷を測定しました。
グラフィックボードの消費電力測定には、当サイトの検証に使用するためワンオフで特注した測定ツール「GPU Power Tester」を使用しています。GPU Power TesterはPCIEスロット経由とPCIE補助電源の消費電力を直接に測定しているので、シンプルにグラフィックボードそのものの消費電力をしることができます。
消費電力の測定にあたって検証するGPUランクによって負荷を変えており、通常はTime Spy(Extreme) グラフィックテスト1、一部のウルトラハイエンドGPUにはPort Royal 4KもしくはSpeed Way 4K(GPU名に*マークを併記)をループ再生させ、各GPUがMaxTGPに張り付く状態を検証しています。
テスト全体から1ms間隔でモニタリングを行い、平均値を”消費電力”、最大値を”瞬間的な最大電源負荷”とします。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」の消費電力は291W、最大瞬間負荷は327Wでした。TGP(パワーターゲット)は285Wに設定されているので、設定値よりも若干高めの消費電力です。
RTX 4070 Ti SUPERのリファレンス仕様と同じTGP 285Wの動作設定ですが、グラフィックボード全体の消費電力は10W前後、一般的なリファレンス仕様のRTX 4070 Ti SUPERよりも大きいようでした。
パワーリミットの285Wに対して制御ソースのGPU Powerは平均277W前後で推移し、最大値は285Wに達していたので、実際にこれを大幅に上回る消費電力が発生することはないと思います。
とはいえ「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」はグラフィックボード単体で300W近い消費電力を要求するので、安定した電力供給のためにも、電源容量750W以上、可能なら電源容量850Wくらいの電源ユニットを組み合わせる必要があると思います。
MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE レビューまとめ
最後に「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」を検証してみた結果のまとめを行います。簡単に箇条書きで以下、管理人のレビュー後の所感となります。
良いところ
- WQHD・ハイフレームレートに好適、4K/DLSSで60~120FPSに対応可能なGPU
- RTX 3090と比較して平均20%、ベストケースでは30%も高速
- RTX 4070 Tiと同じ価格(MSRP)で、WQHD/4Kの高解像度で性能が10%増
- GeForce RTX 40の最新機能であるAI中間フレーム生成 DLSS 3に対応
- 高圧縮かつ高画質な次世代コーデックAV1のハードウェアエンコードに対応
- TGP285WのRTX 4070 Ti SUPERをノイズレベル33dB以下で十分冷やせるGPUクーラー
- GPUクーラー&バックプレートが近年流行りのフルホワイトカラー
- 付属12VHPWR変換ドングルでPCIE 8PIN×2で運用できる
悪いところor注意点
- 全長307mm、全高がPCIEスロット+20mmと巨大なのでPCケースとの干渉に注意
- PCIEスロットを3スロット占有
- 12VHPWR電源コネクタは取り扱いに注意が必要 【解説記事へ】
- RTX 4070 Ti SUPER 一般に価格が税込み15万円から (2024年2月現在)
GeForce RTX 4070 Ti SUPERは、前世代同クラスのRTX 3070 Tiを平均50%以上、前世代最上位のRTX 3090と比較しても平均20%近くも上回ります。アッパーミドルクラスのナンバリングながら2024年最新ハイエンドGPUと考えても違和感のない優れた性能を発揮します。
最新アーキテクチャによる高い動作クロックと大容量キャッシュメモリのおかげでハイフレームレートに対するボトルネックが解消されているので、ハイエンド級のGPU性能と相まって、特にWQHD解像度のハイフレームレートなPCゲーミングに好適なGPUです。
GeForce RTX 4070 Ti SUPERは最新のDLSS 3に対応しているので、フルHD/WQHDをソースにアップスケールするDLSS SRやAI中間フレーム生成機能 DLSS FGを併用すれば、4Kゲーミングでも大幅な性能向上が期待できます。
RTX 4070 Ti SUPERの登場と同時に終売(在庫限り)となった前モデル RTX 4070 Tiと比較すると、価格(北米希望小売価格)は据え置きのまま、性能は10%程度向上しています。
16GBnに増えたVRAM容量に目が行きがちですが、VRAM帯域(バス幅)の増強によって4K解像度ネイティブレンダリングで性能が鈍らなくなり、最大15%の性能向上が期待できるところも注目ポイントです。
PCIE補助電源として最新規格の12VHPWRが実装されていますが、付属の変換ドングルを使用すればPCIE 8PIN×2でも運用できますし、一部メーカーからは全長250mm以下かつ厚みが2スロットピッタリのモデルも販売されているので、NVIDIAの80番台など過去のハイエンドGPUを搭載している既存システムならハード面でアップグレードの障害はないと思います。
そう言う具合なので、RTX 4070 Ti SUPERは既存のハイエンドゲーミングPCのアップグレードに最適と言っていいGPUだと思うのですが、やはりというか現状でのネガティブポイントは”価格(実売価格)”です。
MSRPは据え置きですが、15万円台半ばからという2024年2月現在の実売価格ベースで見ると、在庫限りで終売になるRTX 4070無印と上位モデル RTX 4080 SUPERの間を、性能に比例して埋めるような価格設定になっています。
2023年末頃にRTX 4070 Ti無印が12~13万円前後、安価なモデルなら11万円台で購入できたことを考えると、北米希望小売価格が据え置きのRTX 4070 Ti SUPERもそれと同等の実売価格まで落ち着くのを期待したいところです。
「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」のGPUクーラーについては、TGP285WのRTX 4070 Ti SUPERにフル負荷をかけ続けても、GPU温度は60度台に収まり、なおかつ同測定環境においてノイズレベル33dB以下という非常に優れた静音性を発揮しました。
PCケースに組み込んでしまえばファン動作の聞き分けも難しい、ほぼ無音な動作が可能なので、静音性や冷却性能で選ぶならRTX 4070 Ti SUPER搭載グラフィックボードの中でもオススメの1台です。
以上、「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」のレビューでした。
記事が参考になったと思ったら、ツイートの共有(リツイートやいいね)をお願いします。
フルホワイトの高性能GPUクーラー TRI-FROZR 3を搭載したゲーミングモデル「MSI GeForce RTX 4070 Ti SUPER 16G GAMING X SLIM WHITE」をレビュー。
前モデル RTX 4070 Tiや競合のRX 7900 XTをどの程度上回るのか、実ゲームベンチマークで徹底比較https://t.co/jWz5tVrS2l— 自作とゲームと趣味の日々 (@jisakuhibi) February 14, 2024
・RTX 4070 Ti SUPER搭載のおすすめゲーミングBTO PCを徹底比較!
関連記事
・Intel Arc A770/A750のレビュー記事一覧へ
・おすすめグラボまとめ。予算・性能別で比較。各社AIBモデルの選び方
・グラフィックボードのレビュー記事一覧へ
・予算と性能で選ぶオススメのゲーミングモニタを解説
・PCモニタ・ディスプレイのレビュー記事一覧へ
・RTX 4060搭載のおすすめゲーミングBTO PCを徹底比較!
・RTX 4060 Ti搭載のおすすめゲーミングBTO PCを徹底比較!
・RTX 4070搭載のおすすめゲーミングBTO PCを徹底比較!
・RTX 4070 SUPER搭載のおすすめゲーミングBTO PCを徹底比較!
・RTX 4070 Ti SUPER搭載のおすすめゲーミングBTO PCを徹底比較!
・RTX 4080 SUPER搭載のおすすめゲーミングBTO PCを徹底比較!
コメント